白き異界の魔王11話

マンション:フェイト・T・ハラオウン
「そういや、探しているステラってロストロギアはどんな物なんだ?」
湯飲みを片付けながら柊蓮司が聞いてきた。
そういえば、まだ伝えていない。
「こういう物です」
手のひらに乗せたバルディッシュにインテリジェンスデバイス・オッドの映像が浮かぶ。
オッドは杖状のデバイスである。
杖の右に付けられているのがステラ、左にはデバイス本体の球体という構造になっている。
「これがステラです」
フェイトが指し示すステラは瞳孔のような独特の模様が付いている。
柊蓮司がステラを睨む様子はにらめっこしているようにも見えた。
「それで、フェイトはこれからどう動くか決めているのか?」
「いいえ。手がかりがないんです」
「みんなと合流はできないんですか?」
困惑するフェイトにエリオが目を向ける。
「それはだめ。私たち、襲撃受けたでしょ?だから、あの場所には戻れない」
フェイトもはやて同様に再度の襲撃を警戒している。
「念話も通じないし、ここからは私たちだけで捜査をするのが一番いいと思う」
六課のみんなは心配だが今はステラの法を優先すべきだ。
「だったら、俺に心当たりがあるんだ。そっちに行ってみないか?」
「え?」
ステラをたどる糸がぷっつり切れてしまっている今、柊蓮司の心当たりには暗闇の光のようにも思えた。
「お願いします」
「決まりだな」
フェイト達は立ち上がり、ちゃぶ台を片付ける柊を待った。

石段:柊蓮司
マンションから歩いて30秒。
赤羽神社に続く石段を歩いている。
この時間にもなるとそろそろ空腹を感じるようになってくる。
近くの自動販売機でおでん缶を買って食べることにした。
「これ、昔テレビで見たことあるんですけど・・・初めてです」
「きゃ、熱い」
「キャロ、気をつけて」
地球の通貨を持っていないという3人に奢ることになってしまったが、これほどに喜ぶとは思ってなかった。
「テレビでって、あんた達の世界にもおでん缶あるのか?」
「そうじゃないんです。私、昔この世界に住んでいたんです。ときどき、ここに来たりもしてて、その時に」
「初めてじゃなかったのか。でも、ウィザードのことは知らなかったんだな」
「はい・・・」
フェイトがうつむいてしまった。
気まずくなったので話を変えてみることにする。
「あー、それで、あんた達はどこから来たんだ」
「ミッドチルダです」
「あ、あー、あそこか」
柊蓮司はその単語を聞いたことがあった・・・と確信した。

石段:フェイト・T・ハラオウン
「知ってるんですか?」
意外だった。
この世界には次元航行技術はないはずなのに。
「ああ、俺も昔ミッドガルドに行ったことあるんだ。無理矢理召喚された上に観光なんかする暇もなく戻ってきたんだけどな」
あり得ない話ではない。
召喚は次元世界を移動する方法の1つだ。
ただし、非常に珍しい方法ではある。
柊蓮司が世界の名前がなまって言っている所を見ると首都ではなく田舎の方に召喚されたのかも知れない。
「たしか・・・すげーでかい建物があったよな」
フェイトは管理局地上本局やミッドチルダの高い建物を思い浮かべた。
建築技術の違いから第97管理外世界にある物より高いビルも多い。
一方、柊蓮司は階層都市バルトロマイを思い浮かべていた。
「それから・・・空飛ぶ船もあったよな」
フェイトは次元航行船を思い浮かべた。
あまりない事だが、地上に降りてくるときもある。
一方、柊蓮司は虚無の翼九世号や戦艦・レーヴァテインを思い浮かべていた。
「だったら、今度ミッドチルダを案内してあげますよ」
エリオとキャロが柊蓮司を見上げる。
「そうだよね。シャーリーさんにいろいろお店教えてもらったし」
柊蓮司が立ち止まる。
二人を交互に見て、涙を流し袖で拭いている。
「どうしたんですか?」
あわててフェイトが駆け寄る。
「俺、異世界に呼び出せれると決まって無理矢理やっかいごとに巻き込まれてたんだよ。そいつら、いつも俺の都合なんか無視して。それなのに、それなのに、今度はこんなふうにしてもらえて・・・・なんか思わず」
なにかいろいろあったようだ。
フェイトはこの時、ミッドチルダ観光案内のために休みを取ることを決めた。

赤羽神社:柊蓮司
長い長い石段を登ったその先には赤羽神社がある。
常人でもわかるほど神妙にして清浄な空気がそこには立ちこめていた。
「フェイトさん、ここって」
「ええ。普通の場所じゃない」
「すごく澄み切ってる」
フェイト達にもこの場所が特殊性はわかるようだ。
柊蓮司は三人をつれて神社と同じ敷地内にある屋敷の玄関に行き扉を叩く。
「ごめんくださーい」
「はーい」
鍵を開ける音がして玄関が開かれる。
中から現れたのは柊蓮司の幼馴染みの赤羽くれは。
彼女もいろいろ複雑な運命を背負ったウィザードだ。
「お、くれはかちょうどいい。あのな・・・」
顔を出したくれはは柊がつれて来たフェイト達をすぐさま発見する。
「はわっ!!ちょっと待ってね」
「あ?ああ」
玄関を力いっぱい閉めたくれはの凶暴な足音が小さくなっていく。
すぐに今度は凶悪な足音が大きくなってきた。
恐ろしい速度で玄関が開かれると同時に、柊の脳天めがけて刃が降ってきた。
「のわあああああっ」
真剣白刃取り。
くれはが振り落とした薙刀の刃はかろうじて薄皮一枚を切ったのみで止まる。
「何するんだよ!!」
「この、け・だ・も・の・が」
「なんだそりゃ!!」
「なんの用事かと思ったら、子供ができちゃったからその相談?それとも結婚式?」
「なんでそうなるんだよ!!」
「よかったわね!美人で金髪の年上のお姉さんで。しかも子供は女の子が二人?」
「やめて下さい」
エリオが間にはいる。
「ぼくは男です!」
「訂正するのはそっちか!!」
刃がさらに薄皮一枚分迫る。
血がにじんできた。
「待って下さい。私、柊さんとそういう関係じゃないです。柊さんにお仕事を手伝ってもらってるんです」
あわててフェイトが間に入る。
「はわわわっ?そっかー、そうなの?」
「あのな・・・第一あの二人が子供だとしたらどう考えても年があわねーだろうがよ」
「それはまー・・・その、あんたの柊力を使ってどーにかこーにか」
「そんな便利な物なら苦労しねえよ!!」
なにかどっと疲れが出てきた。

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2007年08月01日(水) 08:51:52 Modified by beast0916




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