白き異界の魔王7話

秋葉原のマンション:柊京子
マンションに激震が走った。
住人達は何事とかと飛び起き電灯をつけていく。
外に居れば一斉にマンション中の窓が光っていくのが見えただろう。
だが、住人達はその発信源が柊さん家であることを知ると、
「ああ、また柊蓮司か」
と興味をなくし思い思いにある者は活動したり、ある者は寝たりするのだった。
その中で1人だけ収まりのつかない人物がいた。
柊蓮司の姉、京子である。
至福のあんにゅいな一時を邪魔された柊京子は足音を弟の部屋まで鳴り響かせながら突き進み、ノブを回すと同時に遠心力をたっぷりつけた回し蹴りをドアに浴びせかけた。
「れぇええんじぃいいいっ、なにしてんのよっ」
怒鳴り声と共に弟の部屋に飛び込んだ柊京子は想像を超える物を発見した。
割れた窓、引き裂かれたカーテン、剥がれまくっている壁紙、焦げているフローリング、へしゃげているタンスに木っ端微塵の机。
これらは想定の範囲内である。
だが、そこに見た物はいくら何でも想像していなかった。
はっきり言ってばつが悪い。
だがまあ、一言行っておくべきだろう。
「あのね・・・若いんだから激しいのはわかるけどさぁ・・・もうちょっと、近所のことを考えた方がいいと思うよ。お姉ちゃんは」
弟がなにかを文句を言っているようだがとりあえず気にしないことにした。
「まあ・・・その・・・なんだ。後はごゆっくりね。あたし、これから出かけてくるから」
さらに弟がなにやら言っているが無視。
弟の部屋を出た柊京子は自分の部屋に戻り、サイフと小物入れを持って外に出た。
このまま家にいるのは野暮という物だろう。
かといって、こんな時間に友達の部屋に行くとか電話をかけるとさすがに怒られそうだ。
と言うわけで柊京子は行きつけのインターネット喫茶に足を向けた。
「そうそう、あたしの出番ここだけなんでサヨナラ〜」

秋葉原のマンション:柊蓮司
姉がなにか不穏なことを言って出ていったが柊蓮司はそれどころではなかった。
寝付いたところに轟音、激震。
さらには何者かがいきなりボディプレスを仕掛けてきたのだ。
苦しいことこの上ない。
ようやく、顔を押しつぶしていた物を横にどけるとそれが金髪で黒い服を着た女性だとわかった。
ここで一般人なら着ている服に疑問を感じるのだが秋葉原ではこれが普通である(大嘘)。
とにかく行動の自由を取り戻した柊蓮司は自分の部屋を見回すとため息をつくしかなくなってしまった。
こういう事態に慣れている身としてはここであわててもしょうがないのは経験則でわかる。
とりあえず、ちゃぶ台を組み立てて台所からお茶を持ってくる。
あとは、この女性だ。
起こす事にした。
こういう非常識な訪問の仕方をするのはウィザードしか居ない。
ウィザードなら落下の衝撃で重傷という事は絶対にないなら、起こしてもかまわないだろう。

秋葉原のマンション:フェイト・T・ハラオウン
ほどけていた意識が頬を軽く叩かれる衝撃でまとまっていった。
「おい、おい」
知らない声がする。
目を開けた。
まず、目に入ったのは知らない少年。
自分よりは年下だろう。
スバルかティアナくらいの年に見える。
次に目に入ったのはめちゃくちゃになっている部屋。
割れた窓、引き裂かれたカーテン、剥がれまくっている壁紙、焦げているフローリング、へしゃげているタンスに木っ端微塵の机。
そして、自分が座っているベッドだった物は真っ二つになっている。
ベール・ゼファーの攻撃魔法を受けた後の事は覚えていないが、この部屋の惨状から判断すると、ここにつっこんだのだという事は簡単に想像できた。
「あ・・・あの・・・」
目の前の少年にまずは謝罪をしなければならない。
「まあ、そこに座れ」
少年はフェイトの言葉を遮り、ちゃぶ台の端を指さす。
緑茶が注がれた湯飲みがフェイトの前に出される。
少年も自分の湯飲みに緑茶をついで、ぐいと一飲みした。
フェイトは砂糖が欲しかったが、とても少年に砂糖を頼める雰囲気ではない。
「あのな」
少年がちゃぶ台に湯飲みを置く。
「おれも、人が丸くなったと思うよ。リムジンでさらわれたり、檻に閉じこめられてヘリにつるされながらさらわれたり、下駄箱に引っ張り込まれたりして、よろしくお願いしますね、なんて頼まれたらそりゃー、人も丸くなるだろうよ」
「は、はぁ・・・」
なんの事かわからないが、かなり壮絶だという事はわかった。
「だから、あんたがどんな事を言っても手伝ってやってもいい。が・・・これはないだろこれは」
少年の声のトーンが上がる。
フェイトは怒られたアルフみたいに体をびくつかせた。
「どうせアンゼロットに言われたんだろ?俺のとこに行くんなら、こうやれって。だからって、それを真に受けることはないだろ?」
「あ、アンゼロット?」
「ああ、そうだよ。アンゼロットだよ。で、今度はなにをすれば良いんだ?隕石を壊しに行くのか?魔王を倒しに行くのか?異世界にでも行ってやるぞ」
轟音
「うごぁあああああああああああ」
エキサイトしている少年が叫び声を上げて目の前から消える。
今まで少年のいた場所にはキャロとエリオを乗せたフリードが居る。
「ど、どうしよう」
キャロはふっとんだ少年をみて、うろたえてる。
「大丈夫ですか?」
「いたた・・・」
かなり勢いよくぶつかったにもかかわらず少年はけっこう平気そうだった。
フェイトが少年に手を貸そうとすると音が聞こえてきた。
耳障りな羽音。
「フェイトさん、あれ!」
エリオが窓の外を見た。
そこには数えられないほどの虫がいた。
バッタ・・・いや、イナゴだ。
その向こうにはイナゴに覆い尽くされようとしている赤い月があった。

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2007年07月20日(金) 20:16:50 Modified by beast0916




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