本家保管庫の更新再開までの暫定保管庫です。18歳未満立ち入り禁止。2013/2/15開設

日曜日。
初夏の日差しが軽やかにきらめいている。
待ち合わせの間、ラミアは近くのビルに組み込まれた華やかなからくり時計を眺めていた。
もう少しすれば午前十時の鐘がメロディーを奏で、着飾った人形が古い物語の場面を楽しげに踊り
出す。
普段はタイミングが合わないそれがどうしても見たいから、待ち合わせの場所をここにした。
なのに、いつもは絶対時間よりも遅くやって来る古市が今日に限って早めに来てしまった。相変わ
らずの能天気なバカ面を惜しげもなく晒しながら。
「よう、ラミア!」
「…なんだもう来たの」
「なんだとは何だよ、せっかく来てやったのに」
「私あの時計の人形が動くの見たいの」
時刻は午前九時時五十分。鐘の音と人形が見られるまでにはまだ少し間がある。
なのに古市と一緒では見る前にきっとここから離れるしかないと、諦めモードになってしまう。
「あ、そーいうコトね、んじゃちっとここで待ってな」
古市は別に怒った様子もなく、ラミアを置いて近くのドーナツショップに入って行った。
「何してんのアイツ…」
あの男が訳の分からないことをするのはいつものことだ。気にするのも損だと時計に目を移して
いると、すぐに店から戻って来た古市の手には一つの包み。
「あともうちょっとだから、これでも食って待ってな」
「え、何これ」
「見りゃ分かるじゃん」
ドーナツショップで買い物をしたのだから、中身は十中八九ドーナツに決まってる。それよりも何で
いきなりこうなったのかが分からない。
クエスチョンマークだらけの頭の中を整理することも出来ずに、ラミアは渡された包みを抱えたまま
立ち尽くしていた。
「ほれ、もう十時になるからちゃんと見てな」
「えっ?」
「あの時計の人形が見たかったんだろ?」
さした指の先では、まさに今午前十時の鐘がメロディーを奏で始めたところだった。次々と時計の
中から現れる人形たちがくるくると動き回って、思わず目を奪われてしまう。

「うわあ…」
時間にしておよそ五分ほど。
見たかったものをやっと見終えてから、どこか放心したようになっているラミアの肩を古市は軽く
揺すった。しばらくぼうっとしていたのがつい恥ずかしくなって、照れ隠しに包みの中に入っていた
オールドファッションのドーナツを一つ取ってぱくんと齧る。
「見れて丁度良かったじゃん」
「…まあね。でも」
わざとぶっきらぼうに言い放つラミアの隣で、古市は相変わらず可愛い女の子を見かける度にちら
ちらと視線を送っていた。それが気にならない訳でもないが、今日は見逃しておくことにする。
「何でドーナツなの?」
「あ、別に意味ない。でも気分的に食べたくなったから」
「何それ、いい加減なアンタらしい理由ね」
「それよかさ、そろそろ遊び行こうぜ」
今日の本来の目的は二人で遊園地に行くことだった。ドーナツを一つ食べ終わった後、ラミアは
浮かれながら先を歩こうとする古市の腕に強引に掴まる。
そして呟いた。
「…もう、しょうがないわね…」




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