本家保管庫の更新再開までの暫定保管庫です。18歳未満立ち入り禁止。2013/2/15開設

「人間界では、このように新年を祝うのだな」
「何だ、魔界ではちげーのか?」
「まあな。……しかしこれだけの人間が一箇所に集まるとは……皆暇なのだな」
「今のお前が言える立場じゃねえ」

男鹿家のリビングに出されたコタツにぬくぬくと半身を埋めながら、ヒルダと男鹿はぼんやりテレビを眺めていた。
年末の特番が放送され、画面には去年の初詣の様子が映されている。
母親と姉は夕飯の買出しのために家を出ていた。

「買出しならば、私がお請けすると言ったのだ」
「でもあの二人が良いからっつって出てったんだろ?珍しいよな。お袋はともかく姉貴まで」
「うむ。……コタツとはいいものだな……」

TV画面を観ながらヒルダが呟いたのを男鹿は聞き逃さなかった。
初めて会った時は冷酷な目をした悪魔のような(実際にそうなのだが)女が、こうして目の前でコタツに入り、眠そうな目をしている。
あのころでは考えられないような光景が、今目の前で現実に起こっている。
フ、と口角が自然に上がってしまう。

「……ダ?」

何となく、そんな男鹿の変化に気づいたベル坊は隣に座る彼の表情を良く見ようと顔を上げた。

「どうしたベル坊?」
「アー」
「坊ちゃまどうかなさったのですか?」

ベル坊に向けた男鹿の表情は、もういつもの表情だ。
しかし、僅かに違う空気を察したのかご機嫌に両手を伸ばし、男鹿の膝へ乗る。

「坊ちゃまは男鹿がお気に入りですね」
「アイ!」

大人しく膝に乗っているベル坊を見て、ヒルダも嬉しそうに笑顔になる。
ご満悦のベル坊は、片手をぽんぽんと叩き、こっちへ来いのポーズをした。

「え?……私も隣に……いえ、坊ちゃまのお隣なんて滅相も無い!」
「アイッ!アイッ!」
「そんな……ですがそこまで仰るのでしたら……」

苦しゅうない、ちこうよれ……そんな時代劇のようなやり取りをしつつ、ヒルダはおずおずとコタツから出る。

「おい、狭いんだからこっちくんなよ」
「ぼっちゃまのお願いなのだ。貴様は極力端に寄れ」

もぞもぞとコタツの中で攻防戦が行われ、観念した男鹿はヒルダの脚に蹴られるまま大人しく隅のスペースに寄る。
しかし、一般家庭のコタツでは二人が一辺に納まるわけもなく、ヒルダは脚だけをコタツに入れてちょこんと男鹿の隣に正座した。

「これでよろしいですか?ぼっちゃま」
「アー……ウー!」
「そんな……これ以上は無理ですッ!」
「何やってんだお前らは」

どうやらベル坊は、ヒルダにもコタツの中に入って貰いたいらしい。
しかし、それはどう頑張っても無理な話だった。

「ぼっちゃま、ヒルダは此処にちゃんと居ますから」
「ウー!」
「我がまま言ってんじゃねーぞベル坊」

しかし、ベル坊は涙目で訴える。
このままでは電撃必須……なんとかして機嫌を直して貰おうと、二人が躍起になっていると、テレビの画面で一際大きな歓声が流れた。

『こちら石夜魔動物園の猿一家の様子です!三匹仲良く、体をぴったり寄せ合って寒さをしのいでいますね――……』
「アーイ!」
「……まさか……」
「これをやれと言うのですか……?」
「アー!」

TVの画面には、寒さの為か体を寄せ合う猿の姿。
大きい雄猿が、雌猿と小猿を抱えるようにして三匹が座っている。
ベル坊はその画面を指差してはしゃいだ。
横にこれないのなら、あれをやれと言わんばかりの視線をふたりに投げかける。

「……確かに並ぶよりゃ良いかもしれねーけどよ……」
「…………」



*******

「ただいまー」
「はー寒かった!」

夕刻になり、姉と母親が帰ってくる。
その声に、元気良く返事を返したのはベル坊だった。

「アー!」
「あ、ベル坊ご機嫌だね。どうしたの……」

リビングの扉を開けた美咲の動きが止まる。

「……何やってるの、辰巳」
「うるせー」
「おかえりなさいませ……」

まず目に飛び込んだ光景。
それは、男鹿の上にヒルダが乗り、そしてヒルダに抱かれているベル坊。
強引に三人でコタツに入っているだけならばまだしも、それは未だテレビで特集を組まれている猿の親子と同じ様子だったのだ。

「なんだ、ちゃんといちゃつけるのね。あんたたち」
「「いちゃついてません!(ねーよ!)」」

ヒルダは、どうにかしてその場から逃げ出したかったが、幼い王の命令であるがゆえ、身動きをとることが出来ない。
そして、そんなヒルダが乗っているので動くことも出来ない男鹿。
必死に否定しながら、離れることをしない義両親を眺めながら、ベル坊だけが上機嫌に声をあげた。

「夫婦仲が良いと、子供にもいいもんね」
「……」
「…………」
「よかったね、ベル坊」

よしよしと、ベル坊の頭を撫でてから美咲と母親はキッチンへと消えていく。
残された男鹿家の三匹の猿は、このままどうすることも無く、ただながれるTV画面を眺めていることしか出来なかった。


「……夫婦じゃねーよ……」


さりげなく呟いた男鹿の一言が、また気まずい空気を生んだのは言うまでも無い。



END

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