本家保管庫の更新再開までの暫定保管庫です。18歳未満立ち入り禁止。2013/2/15開設

つんと横を向いて窓の外を眺めたまま、ケーキ皿の上に最後まで残っていたイチゴを頬張っている
ラミアの視線が一瞬泳いだ。
「…不愉快だわ」
次の瞬間、鋭い言葉が投げられる。
「そ?」
思わず頬が緩んだままテーブルの上で頬杖をついて、空々しく古市は返した。
穴が開いてもおかしくないほど眺めているせいで居心地の悪さを感じているのだろう。ずっと無視
しているつもりだったのだろうが、それも限界のようだ。
「言いたいことがあるんなら言いなさいよ、古市」
「うん、可愛いなあって思ってる」
「……アンタの言うことなんて」
空になったケーキ皿を横にどけると、急に間が持てなくなったのかラミアの視線が動揺するように
揺れ動いた。唇の端に生クリームがついていて、誰も近くにいなければもちろん近寄って舐めていた
のになあ、と不届きなことを考えてしまう。
GWに入って一日目の午後、日差しは真夏かと思えるほどに強い。

「そろそろ出ようか」
すっかり黙り込んでしまったラミアの手を引いて店を出ると、急に暑さを感じた。女の子に日焼けを
させる訳にもいかないからと適当な理由をつけて、日陰を探すのも男として当然のようなものだ。
「ちょっと、どこ行くのよ」
いつものパターンに陥りそうだと危機感を持ったラミアが、歩きながら文句を言う。
「んー、別にぃ」
どのみち気楽な休みの日がこれから続く。
今日だって無駄に家の中でゴロゴロしながら過ごすつもりだった。男鹿とどこかに遊びに行こうかとも
思ったが、生憎ベル坊が癇癪を起こしたとかでかかりきりになっていて相手にされなかった。
だからという訳ではないが、こんな時にラミアと過ごすのは嬉しい。
憎まれ口を叩かれようが、むくれていようが、どんな反応をされても可愛い少女を眺めているのは
きっと有意義な時間の遣い方に違いないと思っている。
「ねえラミア」
表通りから一歩路地に入ると、涼しい日陰が浮きかけていた汗を引かせる。人の流れが途絶えたの
を見計らって、まだラミアの唇の端に残っていたクリームを舐め取る。

「ばっ…か」
こんなところで何を、と一瞬固まったラミアだったが、いつものキツい睨み顔を必死に作って見上げて
きた。
「うん、甘いね」
「信じられない!」
真っ赤な顔で怒っているラミアの髪をぐしゃぐしゃと乱暴に撫で、もう一度と顔を近付ける。ふいっと
逸らした視線の揺れは弱い。
これはいけるかも、と図に乗ってしまうのは古市のいつもの癖だ。
「キス、してもいいかなあラミア」
びくりと肩が震えた。
「勝手に、すればいいでしょ…」
真っ赤な顔をしたまま、まだ怒っている筈なのにどんな表情をしたらいいのか分からないように瞼が
伏せられた。
「んじゃ、しちゃおっと」
イチゴの味がする甘くて可愛い唇をまた味わっている間、せめてもの抵抗のように小さな手が拳を
作ってとんとんと胸を叩いてきた。




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