本家保管庫の更新再開までの暫定保管庫です。18歳未満立ち入り禁止。2013/2/15開設

「すまねぇ、負けちまった」
隣を歩く彼が謝ってくる。

私は彼の方を見上げる。
あちこち傷だらけだ。
わざわざクリスマスに会いにきてくれたのに、いきなり巻き込んでしまった。
文句の一つや二つ言ってきてもおかしくない。でも彼はそうしなかった。
ただ、負けたことを申し訳なく思っているようだった。

「いいの」
むしろ謝らないといけないのは私の方。
この人のことだから多分、今日は色々計画を立ててくれてたんじゃないだろうか。

私は男鹿&ヒルダさんに負けた。そうして二人はベストカップルとなった。
完敗だった。いや、そもそも男鹿を誘えなかった時点で負けていたのかもしれない。
でもこれですっきりした。はっきりとヒルダさんとの差を思い知らされたのだから。

「元気出せよ」
あくまで私を気遣ってくれる。
沖縄で会った時は、きっと本気じゃないんだろうと思ってたのに。
まっすぐに私を見つめるそのまなざし。
本当にありがとう。
私も覚悟を決めようと思う。

「今日はあなたに付き合うわ。何したい?」
「いいのか?」
「うん」
「……ひょっとして今日の詫びのつもりか? それなら気にすんな。またあらためて会いに行くし」
相変わらず前向きだ。くすりと笑ってしまう。
「違うわ。私があなたと過ごしたいだけよ」
「本当か!?」
「ええ」
「ようし、それじゃ……」


「ここって……」
繁華街近くの大きな建物の前に来た。
派手なネオン、時折カップルらしき男女が側を通り過ぎていく。

「ほら、行くぞ」
「え……」
ちょっと待ってちょっと待って、ここってアレよね?
表の看板には、休憩とかフリータイムとかいう文字が躍っている。

土手の上でした会話を思い返す。
「それじゃ、一晩オレと一緒にいてくれ」
「!? ひ、一晩っ!?」
「……イヤか?」
「えっ、だって一晩って……そんな……」
「大丈夫、紳士だって言ったろ? 何もしねーよ。ただ……クリスマスくらい好きな女と一緒にいてぇんだ」
一瞬男鹿の顔が頭に浮かぶ。が、すぐにそのイメージを振り払う。
さっき覚悟を決めたじゃない。もう彼は関係ない。
私は私のことを思ってくれる人に応えたい。
「……いいわ。行きましょう」

「あにじゃ、よかったね」
「おうっ」
哀場くんが千夜ちゃんを抱き上げ、肩車する。
「それじゃ葵、オレはちぃを家に置いてこねーといけねーから、お前も帰って着替えて来いよ。待ち合わせしようぜ」
「わかったわ」
私たちはいったん別れた後、カフェで待ち合わせた。
そうして哀場くんの「行きたいところ」についてきたのだ。

確かに一晩付き合うことを了承したけれど、まさかそれが、ら、ラブホテルなんて……。
てっきりファミレスかカラオケボックス辺りを想像してたのに。
棒立ちになっていると、一組のカップルがホテルから出てきた。
女の子とまともに目が合ってしまう。
私と年がかわらないくらいのその子は、気まずく思う私とは対照的に、こちらを一瞥した後堂々と彼と腕を組んで歩いていく。
気が付くと一人でホテル前に突っ立っている私は、周りを行き交うカップルに見られているのがわかる。
恥ずかしくてうつむいてしまう。

「そんなところで立ち止まってると余計目立つぜ」
はっと彼を見上げる。
「早く来いよ」
手を引かれ、慌ててホテルの中へ入る。

中へ入ると、パネルが一面に並んでいた。
哀場くんはその中の一つを選ぶと、再び私の手を引いてエレベーターの方へ引っ張っていく。
エレベーターに乗り込んで階数ボタンを押すと、声を掛けてきた。

「こういうとこ来るの初めてか?」
「……あなたはどうなの?」
「さぁ、どうだろうな?」
はぐらかされる。

エレベーターが目的の階に到着した。
開いたドアから降りて彼の後について歩いていくと、一つの部屋の前で止まった。
「ここだな」
彼はガチャリとドアを開けると、私にも入るよう促す。
彼に倣って部屋に足を踏み入れる。

「わぁ」
淡いピンクを基調としたかわいらしい部屋だった。
部屋の端には座り心地の良さそうなソファーがあり、ハートのクッションが置いてある。
そしてその側には大きなベッドがあった。
映画とかで見たことがある。天蓋付ベッド……だったと思う。

「すごい……」
「気に入ったか?」
いつの間にか隣に哀場くんが立っていた。
「こんな可愛い部屋があるのね」
「色んなコンセプトの部屋があるんだが、葵が気に入ると思ってよ。ここにした」
「……ホテルに詳しいのね」
「そうでもねぇよ」

「とりあえず座ろうぜ」
彼はソファーに座ると、隣をぽんぽんと叩いて座るよう促した。
言われるまま横に腰掛ける。

「しっかし良かったぜ。クリスマスに突撃した甲斐があったもんだ」
隣に座る男子は本当に嬉しそうに笑う。
一緒にいるってだけで、こんなに喜んでくれるなんて。
男鹿じゃ絶対こんなことはないんだろうな……と、いけない。
忘れなきゃ。もうあいつのことはなんとも思ってないんだから。

「でもなんで……えーと、ココなの? ほかにあったんじゃない? ファミレスとか」
「ファミレスじゃうるせーし、万一知り合いに見られたらお前困んだろ? ここなら人目につかないしな」
私の為……。
「まずは飯でも食べるか」
哀場くんは私の希望を聞きながらルームサービスを頼む。
届いたそれらを食べながら、私たちは色んな話をした。

「……でね。本当石矢魔のやつらってば喧嘩のことしか眼中にないのよ」
「ハハハ! まあウチの奴らも似たようなもんだけどな」
イテテと頬の傷を抑えながら哀場くんが笑う。

「……」
その傷にそっと指を触れる。
「……葵?」
どうしたのかという表情だ。
「痛いわよね……。ここだけじゃない、ほかも……」
「……なんてことねぇよ。お前の為だったら何度でもやってやるぜ」
この人は……。
思い切ってぽすっと彼に抱きつく。彼の身体からはわずかに香水の香りがする。
そのしっかりした胸に頬をくっつける。

「私、覚悟して来たから……」
「そんなつもりじゃねぇって言ったろ? オレが弱みにつけこむ男に見えんのか?」
「わかってる……」
「……いったん始めたら、途中でやめるとか出来ねーぜ?」
「わかってる……」
そう言うと、強く抱き返された。不思議と彼の腕の中は安心する。
緊張しているはずなのに、徐々に気持ちが落ち着いてくる気がする。

「……シャワー浴びてくるね」
「おぅ」
彼から身体を離し、バスルームへ向かう。
ここも部屋と同じくかわいらしい内装だったのだが、今の自分にはそれらをじっくり見る余裕がない。
シャワーを浴びながら、これから起こるであろうことを考える。
「…………」
自分から言い出したことではあるけど、いざとなると決心が揺らぎそうになる。
これでいいんだろうかと逡巡するが、彼の笑顔を思い出す。
哀場くんは多分私のことを本当に好きでいてくれて、この先も大切にしてくれると思う。
きっと大丈夫。そう言い聞かせると、シャワーを止めた。

「お待たせ……」
バスタオルを身体に巻いて、彼の前に立つ。
「それじゃオレも浴びてくるかな」
立ち上がって私の脇を通り過ぎる時、耳元に顔を寄せてきた。
「……ベッドで待ってろ」
私は顔が熱くなるのを感じた。

言われた通りベッドの中に入っていると、軽く照明が落とされた。
上半身裸の彼が、ベッドの中に滑り込んでくる。
「葵」
呼びかけられて、彼の顔を見つめる。
「いいんだな?」
うなずくと、彼の顔が近づいてくる。
私は目を閉じる。柔らかいものが唇に触れ、軽くついばんでくる。
されるままになっていると、彼の温かい舌が入り込んできた。
私の舌を絡めとろうとする。
彼の動きに合わせるよう、私も必死でついていく。

やがて彼が離れると掛け布団を剥がし、私のバスタオルをはだける。
「……綺麗だな」
「恥ずかしいから見ないで……」
本当に恥ずかしい。思わず胸元を手で覆う。

「好きな女の裸を見られるなんて、男にとってこれ以上の幸せはないんだぜ?」
そう言いながら私に覆いかぶさると、首筋に唇を這わせる。
――ビクン。思わず身体が反応する。
胸を優しく揉まれ、硬くなった乳首を甘噛みされる。
「あっ」
自然に声が出てしまい、そんな自分にびっくりする。

彼は乳頭を優しく吸い、転がすように舐めてくる。
なんとなく手馴れた感じを受ける。今まで何人の女の子と付き合ってきたんだろう……。
だけど次第にそんなことは考えられなくなるくらいに、彼の愛撫に夢中になっていた。
胸だけなのにすごく気持ちがいい。おかしくなる……。

「ひゃんっ」
彼の指が私の敏感なところに達していた。
恥ずかしいくらいとろとろと溢れ出る愛液を指にまといながら、蕾を優しく捏ね回して来る。
「あああ、だめぇ、やめて、おかしくなっちゃう……っ」
彼の手を押さえつけようとするが、止まらない。
「いいぜ、おかしくなっても」
ちゅ、と頬にキスされる。
「かわいいな、葵」

そう言うと、哀場くんは身体をずらし、愛液に濡れたあそこに口付ける。
「ああっ!いやぁっ!!」
身体が意志とは無関係にびくびくと痙攣する。
舌で繰り返し蕾を愛撫される。指とは違う感覚に私はのめりこんでいく。
「あんっ、だめ、激しくしたら私……あぁ……」
快感が強くなってきた。いや、くる……!
「哀場く……いっちゃう……あ、あ、あああっ!!」
あっという間に絶頂に達してしまった。

はぁはぁと息を切らす私に、哀場くんが声を掛けてくる。
「良かったか? 葵。……今度はオレも良くしてくれよ」
足を開かされると、彼がその間に割って入ってくる。
「力抜いてな」
そう言うと、ずぷりと大きな物が入ってきた。

「んん……っ!」
唇を強く噛み締める。痛い。めりめりと音がしてもおかしくないくらい、大きな物が押し入ってくる。
「やあっ……!」
気がつくと、哀場くんの肩に爪を立ててしまっていた。
きっと私の爪跡がくっきりと残っているに違いない。

「……入ったぜ。大丈夫か?」
「う……」
全然大丈夫じゃない。返事をする余裕もなかった。
「やっぱりお前初めてだったんだな。初めての相手にオレを選んでくれてありがとな」
「哀場くん……」
優しい瞳で見つめられる。胸が締め付けられるように苦しい。
はっきりと分かる。私、彼に恋してる。

「動いていいか?」
「うん……」
彼がゆっくりと動き出す。やっぱり痛い。必死に堪える。
でも……。痛いけれど幸せを感じる。
今、彼と一つになって感覚を共有していることが、この上なく幸せだった。
彼の為なら多少の痛みも我慢できる。そんな風に思える。


「はっ、あ……あん……」
気持ちいい……。突かれる度に、快感が湧き上がってくる。
さっきまであんなに痛かったのに。私の身体、どうしちゃったの……。

哀場くんが私を抱き締めたと思うと、ぐっと引き寄せられる。
「えっ?」
気が付くと、私が哀場くんの上に乗る格好になっていた。
「えっ、ええっ!?」
「自分のいいように動いてみろよ」
「そんな……無理よ……」
「いいから」
「……」
うながされて、おずおずと腰を前後に動かしていく。
「んんっ……」
動くとあそこが擦れるのがわかる。
気持ちいい……徐々に行為に没頭していく。

「はぁ、あんっ……」
「いいぜ……葵……」
哀場くんの手が私の胸に伸びてくる。
「やぁ、だめぇ」
快感が増す。おかしくなる、やめて。
「そんなに締めんなよ。耐えられなくなんだろ」
腰を掴むと突き上げられる。

「あああっ! そんな奥……だめえっ……!」
ガクガクと腰がくだけそうになるのを抑えて、必死に身体を支える。
「あーダメだ、ガマンできねぇ」
再びベッドに倒されると、両足を抱えられ貫かれる。
「ひあっ!」
身体が強く揺さぶられる。手を伸ばして彼の身体にしがみつく。
「あ、あ、あっ!」
何も考えられない。白い光に包まれる。
「葵……イク!!」
一際強く腰を打ち付けると、私の上にぐったりと覆いかぶさる。
しばらくは荒い息遣いだけが部屋に満ちていった。
やがて彼が身を起こすと、私の脇に移動して再び寝ころぶ。

「なぁ、どうだった?」
「…………」
そんなこと答えられるわけない。
でも、正直……気持ちよかった。
初めてなのにこんなに感じてしまった私って一体……恥ずかしさのあまり、ばふっと枕に顔をうずめる。
「ん? どうした?」
「なんでもない……」

その後シャワーを(別々に!)浴び直すと、ホテルをチェックアウトした。
送っていくと言うので、それに甘える。
「雪降ってたのね」
外に出ると、ちらちらと雪が舞っていた。
街はイルミネーションでキラキラしている。
私の希望で、大通りを抜けて帰ることにする。
「きれいね」
「そうだなぁ」
手をつないで歩く。
誰かに見られたら……と心配してくれたけど、大丈夫だからと押し切った。

歩きながらなにげなくショーウィンドウに目を移すと、大きなクマのぬいぐるみがディスプレイされていた。
「わぁ、見て、かわいい」
「葵、ぬいぐるみ好きなのか? ちぃも好きなんだぜ」
「千夜ちゃんも?」
彼のかわいらしい妹を思い出して、笑みがこぼれる。
考えてみると、兄妹水入らずのクリスマスの邪魔をしてしまったとも取れる。
「そうだ、千夜ちゃんに何かプレゼントしましょ」
「千夜に? 気使わなくていいんだぜ」
「ダメよ、こういうことはちゃんとしないと」

彼の腕を引っ張ってお店に入ると、二人であーでもないと相談しながらプレゼントを選ぶ。
ふと、目の前のガラスを見ると、後ろで私を優しく見つめる哀場くんの姿が映っていた。
「ふふっ」
「? どーした?」
「なんでもない。行きましょ!」
選んだ物を手に取ると、哀場くんの手を引っ張って私はレジに向かった。



(終)
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