第６０章
ミコノスタウンを少し離れて、郊外にあるビーチへ行ってみようと思った。
バスもチラホラ出てるらしいが、時間もたっぷりあるし、
何よりこの島を十二分に親しみたかったので、歩くことにした。
田舎道を歩きながら、ときどき追い越していく車やバイクが
「どこいくんだーい？乗っていくかー？？」
と陽気に声をかけてくれた。郊外ほど人情味を感じて、なんだか嬉しい。
「歩きたいんだ！ありがとう！！」
１台だけでなく、何台も何台も声をかけてくれる。
ビーチでしばらくウトウトしたのち、また同じ道を歩いて引き返した。
追い越そうとした車が側で止まった。おばあちゃんだ。
「どこいくの？」
「ミコノスタウン！」
「のっていきなさい！」
乗せてもらうことにした。
聞くと、このおばあちゃん、なんと英国人で、昔ミコノス島を旅して以来、この島に惚れ込んでしまったらしく、定年後にやってきて今は定住しているという。
「島にはどれくらい滞在するの？」
「いや、今日来たんだけど、もう今日帰るんだ」
「もったいないわねー！もっといればいいのに」
おばあちゃんは少し残念がっていた。もうしばらくいたかったんだけど、時間が許してくれない。
友人にミコノスを冠した名前の子がいるんです、って話をしたらおばあちゃんはビックリして喜んでいた。
ミコノスタウンに到着。
僕は御礼を言って、車が離れていくのを見送った。
何ともフシギな時間。
全く別々の人生を歩んでいる２人が、わずかながら車内という小さい空間の中で、お互いの身の上話を交わす。とても面白くて楽しい時間。遠い日本にミコノスの名の女の子がいる、って話を聞いた彼女にとっても何ともフシギな経験だったに違いない。
僕は彼女の話を聞いて、いつかこの島で暮らそうと思った。
それはいつ叶うことになるか、遠い遠い将来、第二の人生を歩むときになるかもしれないけど、そんな素敵な夢をいつまでも持ち続けたい。
空港へと向かう道の上で、後ろを振り返ると夕陽があたりをオレンジ色に染めた。
風車が夕暮れに輝いた。
いかなくちゃ、自分の道を。
帰らなくちゃ、自分の生活に。
心の隅で翳る寂しさを噛み締めながら、これから再開する日々に少しワクワクした。少しだけ笑顔になって、軽快な足取りになって、ミコノスに別れを告げた。
ヨーロッパ紀行、完。
つづく。
2006年05月26日(金) 11:25:26 Modified by c037022g
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