432 名前：天使憑きの少女[sage] 投稿日：2009/07/19(日) 19:42:08 ID:OmVa5g9q0 ?2BP(0)
■第一章 滅び
浦上 真理愛（まりあ）は、聖母マリア光ヶ丘学院３年生。
母親を医療ミスで亡くし、その執刀医である幹原（みきはら）医師に復讐として殺したいという願いを、
保険医の秋山先生に相談したところ、明日の放課後また保健室へ来るように言われる。
その日の下校途中、天使に遇う。天使は、秋山に憑依した聖天使（ガブリエル）は時々、依頼者を優先してしまうから、
真理愛に神が嘆くような行いは避けるように言い、聖天使に内緒で真理愛の様子を見させてもらうと告げて消える。
翌日、秋山先生に憑依していた聖天使は、真理愛の願いを『奇跡』として認定すると語る。
幼くして母親を亡くした子供には神様が一つの『奇跡』を与えるらしい。
『奇跡』は人々の思いを変換したもの。より思いが強く量が大きいほど『奇跡』は創りやすいらしいが、
贅沢は言ってられないと、幹原医師に復讐できる力としてコルト・パイソン ３５７マグナムを真理愛に与える。
神様からいただいた貴い『奇跡』で未来を切り開きなさいと教唆する聖天使。
聖天使のお膳立てで、夜の病院の敷地内で幹原医師と対面する。真理愛はコルト・パイソンを幹原医師に突きつけ、
自分の幸せが奪われたこと、だから自分も、命も含めてあなたの全てを奪ってやる、それがあなたの償いだと喝破するが、
幹原医師は静かに死を受け入れようとし、自分の死を引きずらず、手渡した通帳の金で幸せになってくださいと告げる。
その様子に焦燥し、醜く命乞いをしろ、悟ったつもりか、それが死を前にした人間の顔かと苛立つ真理愛。
そんな真理愛の頭に、銃を下ろせという、以前遇った天使の声が、割れるように響く。
真理愛は一瞬躊躇し、硬直していたが、聖天使の煽り立てる言葉で決意し、引き金をひく。
しかしその弾丸は、聖天使とは別の天使、死天使の大鎌によって弾かれる。
死天使は、聖天使に、中止命令があり彼女の願った『奇跡』は無効になったと告げる。
真理愛は、母を奪ったその男に復讐して何が悪いと激昂し、神はそいつを許すのか、
怠惰なる神に代わって裁きの鉄槌をと、幹原医師を殺すことを諦められずにいたが、
死天使のうしろを見るんだという言葉に従って振り向くと、そこには幼い少女の澄香がいた。
その無垢な瞳には、見たことのない化け物の姿が映っていた。鬼がいた。悪魔がいた。
433 名前：天使憑きの少女[sage] 投稿日：2009/07/19(日) 19:44:39 ID:OmVa5g9q0 ?2BP(0)
死天使は、死んだ者のために君まで人間をやめることはない、その無念は別の方向で未来に生かすべきだと諭す。
聖天使は、医療ミスをしたのは幹原医師でなく、とある女性看護師だと真実を告げる。
聖天使が、その拳銃に残った最後の弾丸で今度は元看護師を殺しにいくかと、真理愛に問うと、
絶望した真理愛は、最後の弾丸を受けるのはこの私だと、こめかみに拳銃を突きつけ引き金をひくが、
澄香が真理愛の腕にしがみついたので、弾丸は虚空にそれる。
澄香は幹原医師の患者で生まれつき胸を患っている。幹原医師は、事件以来死の誘惑にかられもしたが、
澄香の生きる意志が、医師としての義務を果たすべく自分を生かしてくれたと語る。
幹原医師は、真理愛にも生を選んで欲しいと、そのためには財産や技術など、自分の全てを捧げようと言う。
それでもあなたを恨み続けると感情を吐露する真理愛と、それを受け入れる幹原医師。
全て私の計算どおりだと嘯く聖天使。呆れる死天使。
真理愛は幹原医師の指導を受け、医学部を目指す。
■幕間Ａ
十数年後、真理愛は外科医として光ヶ丘聖礼病院に勤めていた。
幹原医師は急逝したので、その仕事は真理愛が引き継いだ。もちろん相葉澄香という患者も。
そんな真理愛のもとを、十数年ぶりに聖天使と死天使（サマエル）が訪れる。
彼女たちは、真理愛にお願いがあってここに来たと言う。
彼女たちは、順を追って話そうと、今から七年前、光ヶ丘市内で起きた交通事故について語る。
死者は二名。一人は運転手の男性。一人は歩道を歩いていた少女。少女とともにいた少年は重傷。助手席にいた別の少女は重体。
事故からもうすぐ七年で、死亡した少女の昇天期限がせまっていると死天使は言う。
これは僕の仕事だから、真理愛とは関係ないが、事故に関連して聖天使が『奇跡』を起こすことについてが本題らしい。
要するに、とある『奇跡』の手伝いを真理愛にしてほしいようだ。真理愛が引き受けると、二人は音も無く消える。
434 名前：天使憑きの少女[sage] 投稿日：2009/07/19(日) 19:46:38 ID:OmVa5g9q0 ?2BP(0)
■第二章 忘却
死天使は、浮遊霊になってる七年前の事故で死んだ少女・江藤睦美（むつみ）のもとへ赴き、昇天期限が迫っていることを告げる。
死後七年経つまでに魂の浄化を受けないと、死ぬ間際の一つの感情にのみ支配され魂が汚れてしまい、
天国にひきあげることはできなくなり、輪廻転生して新たな生を得ることも不可能になるとのこと。
睦美は昇天をしてもいいが、どうしてもやりたいことがあるので協力してほしいと死天使に言う。
睦美の幼馴染であり、事故で重傷を受けた少年の日高健助（けんすけ）は、睦美の死をいつまでもひきずっていた。
だから、睦美は健助に恋をさせて過去の事件に縛られている健助を解放して、幸せになってもらおうと考えた。
ちょうど最近健助に告白して玉砕した橋本紗雪（さゆき）という少女と結びつけちゃえと安易に考える睦美だったが、
もともと女子に人気が高いが何人も振ってきた健助に、控えめでおとなしい紗雪が告白したので、
アイツ生意気だと紗雪は周囲からのいじめにあう。
控えめで友達らしい友達がおらず、失恋で傷心してる上、虐めにもあっている紗雪は、
このままじゃ生きる希望をなくしちゃうかも、紗雪のほうをこそなんとかしなきゃと決意する睦美だった。
もし健助が告白を受けていたら、周囲の『嫉妬』で紗雪へのいじめは更にエスカレートしてただろうと推測を述べる死天使。
誰かの許しを得なきゃ恋をしちゃいけないの！？ 好きな人と付き合うのに不幸になるなんてと、
不条理さにやり場のない憤りを感じる睦美。紗雪を取り巻く環境は、期限までの残り僅かな時間ではどうしようもなさそうだった。
悩んだ結果、二人が付き合えば紗雪には支えができるし、一人でなければ嫌がらせに負けないくらい強く生きられるからと
睦美は、二人をくっつけることを決意する。
その日の放課後、健助は紗雪を待ちうけ二人で話をする。
健助は、部活の後輩から紗雪の境遇を聞いており、同情はするが、どうして俺に告白したのか
自分をいじめていた連中を見返して自慢してやろうとでも思っていたのかと、詰め寄る。
弱弱しく否定する紗雪だが、健助は結果的にそうなれば意図的にやったのと同じだと詰る。
そして俺を利用するのはやめてくれ、いい迷惑だ、という言葉で話を締める。
彼の怒号も、彼女の恋も、全ては終わりを告げた。
436 名前：天使憑きの少女[sage] 投稿日：2009/07/19(日) 19:54:40 ID:OmVa5g9q0 ?2BP(0)
どうして健助は紗雪にあんなことを言ったんだろうという睦美の疑問に、死天使は答える。
彼は怖れている。彼女の好意で睦美を忘れてしまうことを。彼女と交際するために、睦美の思い出を捨てなければならないのだろうか、
そして愛情まで発展したとしても、睦美のように、紗雪もまた消えてしまうのではないだろうか、と。
己が二人を不幸にしていることに呵責の念を覚え、自分はどうしたらいいのだろうと悩む睦美に、
死天使は一つだけ方法があると答える。それは健助の記憶を操作し、睦美に関する情報を全て消去することだと言う。
睦美は覚悟を決め、タイムリミットに達しても健助がうだうだ言っていたら、遠慮なく記憶を消すように言う。
次の日、死天使のはからいで、二人が話し合えるよう、放課後、屋上に呼び出すが、
睦美と死天使が屋上へ向かうと、紗雪は飛び降り自殺しようとしており、騒ぎになっていた。
健助もやってきて紗雪を止めようとするが、紗雪は身を投げる。
睦美は、物にも触れられないが無理を承知で彼女を受け止めるべく飛び出し、神に『奇跡』を強く願う。
その時、睦美の手が空を切った瞬間、死天使は紗雪を受け止めていた。実体化した死天使を目にし愕然とする周囲。
死天使は、健助に、紗雪の生を願うか死を願うか選択肢を与える。
この女は江藤睦美を忘れさせる者。汝の望みを打ち捨てる者。汝には邪魔なのだろうという、死天使の言葉に動揺する健助。
ならばこの女の命を刈り取ってくれようと言う死天使に対し、健助は代わりに俺を殺せと言う。
睦美のことを忘れるくらいなら、死んだほうがマシだと心情を吐露する健助。そんな健助に、紗雪は忘れなくてもいいと言う。
「先輩がそこまで大切に思うのなら、とても素敵な人だったと思うから、睦美さんのことは、忘れないでください」
「そして、私にも紹介してください。私、睦美さんのお友達になりたいです」
「私も、睦美さんのことを好きになって、いいですか？」
それが紗雪の言葉だった。それだけで十分だった。それ以上は、必要なかった。健助にも、睦美にも。
健助は紗雪の手を握り返し、謝罪の言葉と、感謝の言葉を述べた。
思い残すことのなくなった睦美は昇天していく。
■幕間Ｂ
健助と紗雪は恋人同士なのですることする。本筋に関係なし。
437 名前：天使憑きの少女[sage] 投稿日：2009/07/19(日) 19:58:54 ID:OmVa5g9q0 ?2BP(0)
■幕間Ｃ
真理愛は七年前の事故を調べていたが、助手席にいた重体の少女の記録が残っていないことに不審をいだく。
澄香と交流を深めるが、澄香は真理愛なら自分の病を治す『奇跡』を起こしてくれると信じているようだった。
■第三章 凍結
城心学園の学生会は、完璧超人学生会長・相葉絵里香（あいば えりか）のもと、文化祭で大成功を収めたが、
任期終了にともなう、次期会長選出には問題があった。
自分の意志で立候補しそうなのは、成績ほそれほどでもなく推薦入学を取りやすくするのが目的のエリート君と、
自己主張はできるけど、部の利権目的の茶道部ちゃんの二人だった。しかし両者とも絵里香の後任としては役者不足で、
学生会役員の緒方輝明は、会長のお眼鏡にかなう奴は誰かいないかとぼやくのだった。
輝明はふとしたきっかけで、会長がドナーカードを持ち、脳死後、全ての臓器を提供する意思があるのを知り、感心するのだった。
死後自分の関与できないところで何かされるのは不安だから、
『臓器を提供しない』意思表示ができるのならドナーカードを持ってもいいかなと言う輝明に対し、
絵里香は、自分の死後臓器が誰かに提供され、その人が末永く生きられるよう祈っていると、自分の『願い』を語る。
もしこの世に本当に神様がいるのなら、この願いを早く叶えてほしいと。
輝明は、次期会長候補について片っ端から尋ねてみたが、
絵里香に匹敵する奴を見つけようなんて無理だろという答えばかりが返ってくる。
友人の健助とその恋人の紗雪と一緒に昼食をとっていると、絵里香の妹の澄香の話になり、
会長の妹が立候補すればと、澄香の紹介を頼む。そして輝明は、澄香と待ち合わせして話をする。
澄香は、会長という役目を前に慎重で、不安そうだったり、姉に相談してもよいかとたずねる。
輝明は絵里香と同じでなく自分なりに頑張ってくれればいいから考えてみてくれと、今週中に返事を出すよう約束する。
438 名前：天使憑きの少女[sage] 投稿日：2009/07/19(日) 20:00:57 ID:OmVa5g9q0 ?2BP(0)
翌日、絵里香は、怒りと悲しみを湛えた様子で輝明を平手打ちし、
あの子にそんなことできるわけないじゃない……心臓病なんだから……と、憂悶する。
澄香は真にうけてその気になってるが、絵里香は反対であり、輝明を連れて真理愛のもとへ訪れ、
輝明を言い聞かせるよう、澄香がそのようなことを言い出したら指導してもらえるようにと、真理愛に相談する。
真理愛は、澄香についての所感を述べ、澄香が会長に立候補することは好ましくないと結論づける。
澄香は、日常からわずかでもはみ出して心拍数が上がると危険であり、多忙な会長職では通院もままならない。
絵里香は、輝明が理解したことを悟ると、真理愛に、自分が脳死したら心臓を澄香に移植してくださいとお願いする。
真理愛は、『その時』になったら考えようと、かすれた声でそう言うのが精一杯だった。
病院からの帰りに、絵里香は輝明に、まだ間に合うから澄香のことは全て忘れるようにと、悲愴な願いを口にする。
それでも輝明は尋ねずにはいられなかった。澄香はもう長くなく治る見込みも……学園を卒業することも……
あのドナーカードは、元々そういう意味だったのかと。輝明は、激した絵里香に叩かれる。
輝明は、絵里香の本気を悟りつつも、移植はドナーの死が前提なので、絵里香が生きているうちから『死ぬ』ことを考えるのは、
やっぱり何かが違う気がしてならないのだった。澄香を会長に立候補させるのは、絵里香の頼みでやめようと思うが、
澄香に近付かないようにするのは、せっかく『いい友達』になれたのだからと断る輝明だった。
その翌日の金曜日、返事の期限なので、輝明と澄香は二人で話し、澄香に変な期待させてごめんと謝る。
沈んだ澄香の表情を見て励まそうとした結果、明日一緒に演劇部の公演会に行くことになる。
澄香の仕掛けで絵里香と三人で演劇を見に行く。公演会の後、澄香はやはり会長をやってみたいとお願いするが、
絵里香は駄目とすげなく拒否する。興奮する絵里香たちに、演劇を見に来ていた真理愛たちが声をかけてくる。
丁度よく通りかかったことに疑問を浮かべると、妙に世俗的な『天使』の導きとでも言っておこうと真理愛は答える。
真理愛は、澄香に会長の立候補をやらせてはどうかと言う。絵里香は迷いながらも結局それを認める。
440 名前：天使憑きの少女[sage] 投稿日：2009/07/19(日) 20:03:35 ID:OmVa5g9q0 ?2BP(0)
そして、絵里香と輝明と健助と紗雪は、協力して澄香の選挙運動をすすめるのだった。
エリート君は、澄香を当選させないために、澄香は出席日数が少なくクラスにも理由を明かさないことに目をつけ、
選管に流すことを考えたが、茶道部ちゃんこと松永明菜は澄香と友達になっていたので、それをやめさせようと口論になり、
そこへ澄香たちも通りがかる。妹を不適合者と罵られ我慢のならなかった絵里香はエリート君を何度もひっぱたく。
それを見て心を乱した澄香は、発作を起こし、病院に運ばれる。
死天使は、『凍結』の『奇跡』を願う。
輝明は病院で真理愛に澄香を助けてやってくれと頼むが、
真理愛は、澄香が今生きているのは『奇跡』のためで、『目的』のために生かされていると言う。
絵里香は母親と話をしていたが、治療に専念させるために澄香を退学させると聞いて、花瓶を割り破片を持って外に飛び出す。
真理愛は、そこに誰かがいるかのように虚空に向けて言葉を交わし、頼んだぞと締める。
輝明は、絵里香を追いかけることを真理愛に頼まれる。死天使の鈴の音が輝明を導く。
輝明が絵里香のもとへ追いつくと、絵里香は雨の中、破片で手首を切っていた。
虚ろな目で、「心臓……、用意……、しないと……」と呟く絵里香は、輝明の声にも無反応だった。
傷はそれほど深くなかったので、ハンカチで応急処置するが、死天使は、『死』に魅入られた絵里香は危険であり、
些細な傷でも、絵里香が死の方向へ歩みだしてしまえば、それは一瞬にして魂が喰らい尽くすと、輝明に予言する。
輝明は、『生』を取り戻すために絵里香に口付けする。絵里香は虚ろな状態から意識を回復するが、
それでも、あの子が生きるためには私に心臓が必要で、あの子のためなら死にたいと、『死』に魅入られたまま。
輝明は一喝し、どうして澄香が城心学園に行きたがったか、澄香にとって何が一番つらいのか、
それを考えれば死ぬなんて言えない筈だと、絵里香を説得する。
441 名前：天使憑きの少女[sage] 投稿日：2009/07/19(日) 20:06:31 ID:OmVa5g9q0 ?2BP(0)
週明けの月曜日、その日は放課後、立会演説会が行われる日だった。
しかし澄香は学園を欠席していて、絵里香もまだ姿を現さなかった。
他の二人の演説が終わり、澄香の番になり、輝明が応援演説をしようとすると観衆から相葉姉妹が出ないことに不満の声があがる。
その時、絵里香が現れて、応援演説を交代する。
絵里香は、妹のために生きていたいと、願わくば皆さんも澄香のことを愛してあげてくださいと語る。
澄香も現れて演説する。どんな境遇でも恨むことなく、人を愛せる喜びを皆さんに伝えたいと。
演説の後発作を起こした澄香に、真理愛が駆け寄り、手際よく病院へ運ぶ。
夜、病室の澄香のもとに聖天使が『奇跡』を届けに訪れる。
『奇跡』の障害となるものは、全て除去されたから、あとは『思い』を『現象』に変換するだけと言う。
これであなたは『未来』を作れるようになるけれど、今から言うことを、決して忘れないでと言う。
世界には『奇跡』の起こらない子供たちがたくさんいる。『明日』のことすら考えられず、自分が生まれたことにも意味を見出せず。
その様子に神様もお嘆きになられているけど、いくら天使たちでも何もないところから『奇跡』は起こせない。
『思い』を作るのは、あなたたち。たとえ小さな『奇跡』でも、それらを束ねれば大きな『奇跡』の原料となる。
人間とは、そんな不思議な存在。だから、少しでもいいから、『奇跡』の起こらない子供たちのことを思ってあげて。
それがきっと、子供たちの『未来』に繋がっていくから。
肯く澄香の返事に満足し、聖天使は『未来』という名の『奇跡』を起こす。
そして聖天使が消えて、夢だったのかと疑問を浮かべる澄香のもとに、真理愛が訪れ『奇跡』を執行すると告げる。
□澄香√
分岐によって、輝明は絵里香ではなく澄香と恋人になる。本筋は変わらない。
442 名前：天使憑きの少女[sage] 投稿日：2009/07/19(日) 20:08:37 ID:OmVa5g9q0 ?2BP(0)
■第四章 共心
物語の時系列は、三章終了時から巻き戻る。幹原医師は宿直をしていた。
死天使が幹原医師のもとを訪れ、『彼女』を早くかいほうしてほしいと私見を述べる。
あれから七年近くが経過し、魂の腐敗が始まっているので、立場上見過すことはできないと。
天界は『脳死』を『死』と認めるのかという幹原医師の言葉を、君達の法律に任せると受け流し、
死天使は言う。心はすでに止まっている。動かない魂は腐敗し、『闇』の格好のエサとなる、と。
『彼女』を手放すわけにはいかないという幹原医師に対し、幹原医師のやろうとすることを批判する気はないが、
現実性はかなり低いのだから、それなら『彼女』だけでも救ったほうがいいと言う死天使。
幹原医師の、あの子ならやってくれるという願望に、死天使は、技術はともかく『覚悟』させるには時間が必要ではないか、
さらに言えば、かつてキミを殺したいほど憎んでいたから、素直に頷く保証もないが、どうすると問いかける。
幹原医師の計画は、昇天期限までに間に合いそうになく、魂が腐敗すれば『来世』にも影響を及ぼすだろうから、
ならば『彼女』の幸せな『来世』を祈ってあげることこそが、生者の務めというものだと、死天使は説く。
幹原医師が食い下がると、死天使は方法がないわけでなく、半年程度なら『奇跡』の力でなんとかなるだろうと言う。
死天使は述べる。『奇跡』の起こし方には三つあり、天使の元々に能力を使い無条件に起こせるが規模と効果は小さい『自然奇跡』。
『思い』を集めるのに手間と時間がかかり奇跡執行官の力も必要とする、人間の『思い』を束ねて『現象』に変換する『集束奇跡』。
そして、人間の『生命力』を使って『現象』を生み出す『代償奇跡』。
死天使は、幹原医師の望む通り、彼に一週間分の生命力を残して、あとは『奇跡』に喰らわせ、
『彼女』の時間を凍結し、その魂の腐敗を半年間は防ぐ『代償奇跡』を執行する。『凍結』という名の『奇跡』を。
444 名前：天使憑きの少女[sage] 投稿日：2009/07/19(日) 20:10:20 ID:OmVa5g9q0 ?2BP(0)
時は、聖天使が『奇跡』の手伝いを真理愛にお願いして、すぐ後ぐらい。真理愛のもとを訪れた聖天使は、
もし澄香の病を治す方法が見つかって、今すぐ実行可能なことだとしたら、試してみるかと問いかける。
真理愛は、慎重に考えたほうが良いと思うと答える。
真理愛が、疑問に抱いていた七年前の事故の重体者について訊ねると、聖天使は、明日、死天使に説明させると言って、消えていく。
死天使は、ここ数日間の仕事がそれに関係していたと語る。
睦美の昇天によって、健助が心に抱いていた『負』の感情が消え去り、『奇跡』の障害となるものの一つが除去された、
すなわち人間の感情に左右されやすい『集束奇跡』の成功率が大幅に高まったと。
そして、あの事故に興味をもった真理愛には、『彼女』の存在も受け入れやすいだろうと、
病院でも一部の者しか入れない、『彼女』のもとへ案内する。
その途中の廊下で死天使は、幹原医師は澄香を救う方法に気付いていたこと、それゆえに天界で問題視されていたことを語る。
その方法は、心臓移植。そしてドナーはすでに現れていると言う。
幹原医師は、その高度な移植技術を真理愛に遺し、事務的な面でも周到な準備を怠らなかった。そして、心臓はここにある、と。
廊下の片隅にある扉の向こうには、生命維持装置につながれた『眠り姫』がいた。
部屋に誰かがいることに気付きやってきた同僚の医師・倉橋は、真理愛に『彼女』のことを語る。
『彼女』は七年前の事故から『臨床的脳死』のまま。
どうやら運転手の隠し子らしく、母親が死んだので引き取った帰りに事故が起こり父親も死んだので、
ほかの血縁者も身元も手掛かりすら掴めなかった。
ただ、ドナーカードが発見された。ＤＮＡ鑑定から彼女のものと証明されており、両親も死んでいるから家族の了承は必要なし、
彼女の意思はオールオーケーなので、法律的には彼女の臓器を誰かに移植しても何の問題もない。
幹原医師は、澄香が当時の彼女と同じくらいの年齢になるまで、彼女を延命させることにした。
ドナーにするために何年も生かし続けることなど許されるのかと、真理愛は激昂する。
倉橋医師も、怖いことだと思うと同意しつつも、安楽死させることはドナーカードに反することであり、何の意味があるかと問う。
そして、全ては真理愛の決断次第で動くと告げる。
446 名前：天使憑きの少女[sage] 投稿日：2009/07/19(日) 20:12:08 ID:OmVa5g9q0 ?2BP(0)
診療室に戻ると、聖天使と死天使は普段と変わらぬ様子で、真理愛を待っていた。
聖天使と死天使は、全ての真相を語り、真理愛が移植手術を決断することを望んでいると言う。
『眠り姫』の命を奪うことに真理愛は葛藤する。
そんな真理愛のところに、絵里香がやってきて自分が脳死したら心臓を澄香に移植してと頼む。詳しくは三章参照。
未だに移植に悩む真理愛に、聖天使は悪戯めいた様子で『奇跡』について語る。
絶望的な未来しか残されてない患者に、ある日突然移植の話が舞い込んできたら彼は大喜びし、
神に感謝し、ドナーに感謝し、�爐海谿幣紊覆ぞ个澂瓩鯢發�べるだろう。
ドナーの『死に方』がどうであれ、レシピエントにはかけがえのない『奇跡』。
その言葉に対して真理愛は、レシピエントにとっては『奇跡』でも、ドナーの家族にとってはただの『災難』だ。
『奇跡』とは人の死の上に成り立つものなのか、そんなものが『奇跡』と呼べるのかと問い詰める。
聖天使は、それは間違ってはいないと述べ、『代償奇跡』には人間の生命力が必要とするし、
『集束奇跡』はそれ以上の『思い』と『祈り』を必要とする。しかし人間は『奇跡』の裏を理解してないのに、
安易に『奇跡』を望み、『奇跡』にすがろうとする。だから、死天使を責めないでやってと言う。
澄香の話題になって、会長立候補を認めさせようということになる。そしていつものように消える二人。
真理愛は、同僚で脳死判定医の経験も豊富な近藤医師と話をした時に、判定をする時つらくないかと質問すると、
「本当につらいのは、ドナーもレシピエントも見殺しにしてしまうこと」という答えが返ってくる。
しばらくは平凡な日々だったが、澄香が選挙運動の最中、他の候補者との口論で倒れたという報告が入る。
死天使が澄香の時間を『凍結』したので、病院に運ばれるまでは大丈夫だが、聖天使は真理愛に『心の準備を』と言う。
447 名前：天使憑きの少女[sage] 投稿日：2009/07/19(日) 20:13:35 ID:OmVa5g9q0 ?2BP(0)
三章の物語の結果、絵里香の、澄香のためなら死んでもいいという負の感情が消失して、『奇跡』の障害に一つが除去される。
障害は全て除去され『集束奇跡』の確率は１００％近くまで高まる。『奇跡』は免疫反応が起こらないようにするのに起こすらしい。
幹原医師が自分の手で片付けなかったのは、真理愛の母の医療ミス以来、メスを握れなくなったため。
真理愛は、未だに『彼女』を殺すことに抵抗があり悩んでいたが、
死天使が『共心』という名の『奇跡』で真理愛を『彼女』の心に触れさせる。
真理愛は『眠り姫』を前にして、自らの悩みを懺悔する。
ほとんど言葉を発せない『眠り姫』だったが、白いカーネーションを差し出し、その口が小さく動く。
「花…、言葉……。私の愛は…、生きている……」
これ以上は『彼女』の心に負担がかかるということで、邂逅は終わる。
死天使曰く、幼くして母親を失った『彼女』が与えられた『奇跡』で願ったのは、『誰かを愛すること』。
そして聖天使は、『彼女』の願いを叶えるべく『集束奇跡』を計画した。
不幸な境遇の中、人を憎み命を奪おうとした真理愛。人を愛し命を生かそうとした『眠り姫』。
真理愛は、絶望の中にあっても自分の愛を生かし続けることを望んだ、『彼女』の願いを受け入れる。
澄香は、移植の話を聞かされた時、その人を見捨てちゃうなんて嫌ですと断ったが、
『彼女』の願いを伝え、『彼女』の『思い』に応えてあげられるのは澄香だけだ、
だから、『彼女』の愛を証明するために、この心臓を受け取ってほしいと、真理愛は澄香を説得する。
449 名前：天使憑きの少女[sage] 投稿日：2009/07/19(日) 20:15:43 ID:OmVa5g9q0 ?2BP(0)
■最終章
臓器コーディネートは順調で、心臓を真理愛の執刀で澄香に移植することも決まった。幹原医師はそれだけの影響力を残していた。
手術予定日の前日、真理愛は半年近くも来ることのなかった、幹原医師の墓前を訪れていた。
真理愛は、移植という結論に至るまで、様々な葛藤をあったが、今はこれが正解だと思うと陳述する。
聖天使は、真理愛に祈りを捧げる。真理愛の心からは不安も気負いもなくなり、手術当日を迎える。
手術から一年後、澄香は元気に学園に通えるようになっていた。
真理愛は病院の中庭で春の空を見上げながら、思いを馳せる。
あの手術から一年以上の月日が経ち、あれ以外にも何度か移植手術を執刀した。
…その度に思う。ドナーは、私に最後の願いを託すのだと。
『奇跡』は、人の死の上に成り立つのではなく、その『思い』が、『奇跡』を生んでいるのだと。
…無論、今もなお世界には、臓器移植に反対する声が多くあり、それらも尊重しなければならないのだが、
ドナーの愛を、無駄にはしない。彼らの愛が生き続けることを、証明したい。それが、『奇跡』を授かった私の務め。
…死してなお『奇跡』を望むイエス・キリストたちのために、
私は、その『奇跡』を最初に目撃する、マグダラのマリアとなろう。
人が起こすことのできる、唯一の『奇跡』を──
■第一章 滅び
浦上 真理愛（まりあ）は、聖母マリア光ヶ丘学院３年生。
母親を医療ミスで亡くし、その執刀医である幹原（みきはら）医師に復讐として殺したいという願いを、
保険医の秋山先生に相談したところ、明日の放課後また保健室へ来るように言われる。
その日の下校途中、天使に遇う。天使は、秋山に憑依した聖天使（ガブリエル）は時々、依頼者を優先してしまうから、
真理愛に神が嘆くような行いは避けるように言い、聖天使に内緒で真理愛の様子を見させてもらうと告げて消える。
翌日、秋山先生に憑依していた聖天使は、真理愛の願いを『奇跡』として認定すると語る。
幼くして母親を亡くした子供には神様が一つの『奇跡』を与えるらしい。
『奇跡』は人々の思いを変換したもの。より思いが強く量が大きいほど『奇跡』は創りやすいらしいが、
贅沢は言ってられないと、幹原医師に復讐できる力としてコルト・パイソン ３５７マグナムを真理愛に与える。
神様からいただいた貴い『奇跡』で未来を切り開きなさいと教唆する聖天使。
聖天使のお膳立てで、夜の病院の敷地内で幹原医師と対面する。真理愛はコルト・パイソンを幹原医師に突きつけ、
自分の幸せが奪われたこと、だから自分も、命も含めてあなたの全てを奪ってやる、それがあなたの償いだと喝破するが、
幹原医師は静かに死を受け入れようとし、自分の死を引きずらず、手渡した通帳の金で幸せになってくださいと告げる。
その様子に焦燥し、醜く命乞いをしろ、悟ったつもりか、それが死を前にした人間の顔かと苛立つ真理愛。
そんな真理愛の頭に、銃を下ろせという、以前遇った天使の声が、割れるように響く。
真理愛は一瞬躊躇し、硬直していたが、聖天使の煽り立てる言葉で決意し、引き金をひく。
しかしその弾丸は、聖天使とは別の天使、死天使の大鎌によって弾かれる。
死天使は、聖天使に、中止命令があり彼女の願った『奇跡』は無効になったと告げる。
真理愛は、母を奪ったその男に復讐して何が悪いと激昂し、神はそいつを許すのか、
怠惰なる神に代わって裁きの鉄槌をと、幹原医師を殺すことを諦められずにいたが、
死天使のうしろを見るんだという言葉に従って振り向くと、そこには幼い少女の澄香がいた。
その無垢な瞳には、見たことのない化け物の姿が映っていた。鬼がいた。悪魔がいた。
433 名前：天使憑きの少女[sage] 投稿日：2009/07/19(日) 19:44:39 ID:OmVa5g9q0 ?2BP(0)
死天使は、死んだ者のために君まで人間をやめることはない、その無念は別の方向で未来に生かすべきだと諭す。
聖天使は、医療ミスをしたのは幹原医師でなく、とある女性看護師だと真実を告げる。
聖天使が、その拳銃に残った最後の弾丸で今度は元看護師を殺しにいくかと、真理愛に問うと、
絶望した真理愛は、最後の弾丸を受けるのはこの私だと、こめかみに拳銃を突きつけ引き金をひくが、
澄香が真理愛の腕にしがみついたので、弾丸は虚空にそれる。
澄香は幹原医師の患者で生まれつき胸を患っている。幹原医師は、事件以来死の誘惑にかられもしたが、
澄香の生きる意志が、医師としての義務を果たすべく自分を生かしてくれたと語る。
幹原医師は、真理愛にも生を選んで欲しいと、そのためには財産や技術など、自分の全てを捧げようと言う。
それでもあなたを恨み続けると感情を吐露する真理愛と、それを受け入れる幹原医師。
全て私の計算どおりだと嘯く聖天使。呆れる死天使。
真理愛は幹原医師の指導を受け、医学部を目指す。
■幕間Ａ
十数年後、真理愛は外科医として光ヶ丘聖礼病院に勤めていた。
幹原医師は急逝したので、その仕事は真理愛が引き継いだ。もちろん相葉澄香という患者も。
そんな真理愛のもとを、十数年ぶりに聖天使と死天使（サマエル）が訪れる。
彼女たちは、真理愛にお願いがあってここに来たと言う。
彼女たちは、順を追って話そうと、今から七年前、光ヶ丘市内で起きた交通事故について語る。
死者は二名。一人は運転手の男性。一人は歩道を歩いていた少女。少女とともにいた少年は重傷。助手席にいた別の少女は重体。
事故からもうすぐ七年で、死亡した少女の昇天期限がせまっていると死天使は言う。
これは僕の仕事だから、真理愛とは関係ないが、事故に関連して聖天使が『奇跡』を起こすことについてが本題らしい。
要するに、とある『奇跡』の手伝いを真理愛にしてほしいようだ。真理愛が引き受けると、二人は音も無く消える。
434 名前：天使憑きの少女[sage] 投稿日：2009/07/19(日) 19:46:38 ID:OmVa5g9q0 ?2BP(0)
■第二章 忘却
死天使は、浮遊霊になってる七年前の事故で死んだ少女・江藤睦美（むつみ）のもとへ赴き、昇天期限が迫っていることを告げる。
死後七年経つまでに魂の浄化を受けないと、死ぬ間際の一つの感情にのみ支配され魂が汚れてしまい、
天国にひきあげることはできなくなり、輪廻転生して新たな生を得ることも不可能になるとのこと。
睦美は昇天をしてもいいが、どうしてもやりたいことがあるので協力してほしいと死天使に言う。
睦美の幼馴染であり、事故で重傷を受けた少年の日高健助（けんすけ）は、睦美の死をいつまでもひきずっていた。
だから、睦美は健助に恋をさせて過去の事件に縛られている健助を解放して、幸せになってもらおうと考えた。
ちょうど最近健助に告白して玉砕した橋本紗雪（さゆき）という少女と結びつけちゃえと安易に考える睦美だったが、
もともと女子に人気が高いが何人も振ってきた健助に、控えめでおとなしい紗雪が告白したので、
アイツ生意気だと紗雪は周囲からのいじめにあう。
控えめで友達らしい友達がおらず、失恋で傷心してる上、虐めにもあっている紗雪は、
このままじゃ生きる希望をなくしちゃうかも、紗雪のほうをこそなんとかしなきゃと決意する睦美だった。
もし健助が告白を受けていたら、周囲の『嫉妬』で紗雪へのいじめは更にエスカレートしてただろうと推測を述べる死天使。
誰かの許しを得なきゃ恋をしちゃいけないの！？ 好きな人と付き合うのに不幸になるなんてと、
不条理さにやり場のない憤りを感じる睦美。紗雪を取り巻く環境は、期限までの残り僅かな時間ではどうしようもなさそうだった。
悩んだ結果、二人が付き合えば紗雪には支えができるし、一人でなければ嫌がらせに負けないくらい強く生きられるからと
睦美は、二人をくっつけることを決意する。
その日の放課後、健助は紗雪を待ちうけ二人で話をする。
健助は、部活の後輩から紗雪の境遇を聞いており、同情はするが、どうして俺に告白したのか
自分をいじめていた連中を見返して自慢してやろうとでも思っていたのかと、詰め寄る。
弱弱しく否定する紗雪だが、健助は結果的にそうなれば意図的にやったのと同じだと詰る。
そして俺を利用するのはやめてくれ、いい迷惑だ、という言葉で話を締める。
彼の怒号も、彼女の恋も、全ては終わりを告げた。
436 名前：天使憑きの少女[sage] 投稿日：2009/07/19(日) 19:54:40 ID:OmVa5g9q0 ?2BP(0)
どうして健助は紗雪にあんなことを言ったんだろうという睦美の疑問に、死天使は答える。
彼は怖れている。彼女の好意で睦美を忘れてしまうことを。彼女と交際するために、睦美の思い出を捨てなければならないのだろうか、
そして愛情まで発展したとしても、睦美のように、紗雪もまた消えてしまうのではないだろうか、と。
己が二人を不幸にしていることに呵責の念を覚え、自分はどうしたらいいのだろうと悩む睦美に、
死天使は一つだけ方法があると答える。それは健助の記憶を操作し、睦美に関する情報を全て消去することだと言う。
睦美は覚悟を決め、タイムリミットに達しても健助がうだうだ言っていたら、遠慮なく記憶を消すように言う。
次の日、死天使のはからいで、二人が話し合えるよう、放課後、屋上に呼び出すが、
睦美と死天使が屋上へ向かうと、紗雪は飛び降り自殺しようとしており、騒ぎになっていた。
健助もやってきて紗雪を止めようとするが、紗雪は身を投げる。
睦美は、物にも触れられないが無理を承知で彼女を受け止めるべく飛び出し、神に『奇跡』を強く願う。
その時、睦美の手が空を切った瞬間、死天使は紗雪を受け止めていた。実体化した死天使を目にし愕然とする周囲。
死天使は、健助に、紗雪の生を願うか死を願うか選択肢を与える。
この女は江藤睦美を忘れさせる者。汝の望みを打ち捨てる者。汝には邪魔なのだろうという、死天使の言葉に動揺する健助。
ならばこの女の命を刈り取ってくれようと言う死天使に対し、健助は代わりに俺を殺せと言う。
睦美のことを忘れるくらいなら、死んだほうがマシだと心情を吐露する健助。そんな健助に、紗雪は忘れなくてもいいと言う。
「先輩がそこまで大切に思うのなら、とても素敵な人だったと思うから、睦美さんのことは、忘れないでください」
「そして、私にも紹介してください。私、睦美さんのお友達になりたいです」
「私も、睦美さんのことを好きになって、いいですか？」
それが紗雪の言葉だった。それだけで十分だった。それ以上は、必要なかった。健助にも、睦美にも。
健助は紗雪の手を握り返し、謝罪の言葉と、感謝の言葉を述べた。
思い残すことのなくなった睦美は昇天していく。
■幕間Ｂ
健助と紗雪は恋人同士なのですることする。本筋に関係なし。
437 名前：天使憑きの少女[sage] 投稿日：2009/07/19(日) 19:58:54 ID:OmVa5g9q0 ?2BP(0)
■幕間Ｃ
真理愛は七年前の事故を調べていたが、助手席にいた重体の少女の記録が残っていないことに不審をいだく。
澄香と交流を深めるが、澄香は真理愛なら自分の病を治す『奇跡』を起こしてくれると信じているようだった。
■第三章 凍結
城心学園の学生会は、完璧超人学生会長・相葉絵里香（あいば えりか）のもと、文化祭で大成功を収めたが、
任期終了にともなう、次期会長選出には問題があった。
自分の意志で立候補しそうなのは、成績ほそれほどでもなく推薦入学を取りやすくするのが目的のエリート君と、
自己主張はできるけど、部の利権目的の茶道部ちゃんの二人だった。しかし両者とも絵里香の後任としては役者不足で、
学生会役員の緒方輝明は、会長のお眼鏡にかなう奴は誰かいないかとぼやくのだった。
輝明はふとしたきっかけで、会長がドナーカードを持ち、脳死後、全ての臓器を提供する意思があるのを知り、感心するのだった。
死後自分の関与できないところで何かされるのは不安だから、
『臓器を提供しない』意思表示ができるのならドナーカードを持ってもいいかなと言う輝明に対し、
絵里香は、自分の死後臓器が誰かに提供され、その人が末永く生きられるよう祈っていると、自分の『願い』を語る。
もしこの世に本当に神様がいるのなら、この願いを早く叶えてほしいと。
輝明は、次期会長候補について片っ端から尋ねてみたが、
絵里香に匹敵する奴を見つけようなんて無理だろという答えばかりが返ってくる。
友人の健助とその恋人の紗雪と一緒に昼食をとっていると、絵里香の妹の澄香の話になり、
会長の妹が立候補すればと、澄香の紹介を頼む。そして輝明は、澄香と待ち合わせして話をする。
澄香は、会長という役目を前に慎重で、不安そうだったり、姉に相談してもよいかとたずねる。
輝明は絵里香と同じでなく自分なりに頑張ってくれればいいから考えてみてくれと、今週中に返事を出すよう約束する。
438 名前：天使憑きの少女[sage] 投稿日：2009/07/19(日) 20:00:57 ID:OmVa5g9q0 ?2BP(0)
翌日、絵里香は、怒りと悲しみを湛えた様子で輝明を平手打ちし、
あの子にそんなことできるわけないじゃない……心臓病なんだから……と、憂悶する。
澄香は真にうけてその気になってるが、絵里香は反対であり、輝明を連れて真理愛のもとへ訪れ、
輝明を言い聞かせるよう、澄香がそのようなことを言い出したら指導してもらえるようにと、真理愛に相談する。
真理愛は、澄香についての所感を述べ、澄香が会長に立候補することは好ましくないと結論づける。
澄香は、日常からわずかでもはみ出して心拍数が上がると危険であり、多忙な会長職では通院もままならない。
絵里香は、輝明が理解したことを悟ると、真理愛に、自分が脳死したら心臓を澄香に移植してくださいとお願いする。
真理愛は、『その時』になったら考えようと、かすれた声でそう言うのが精一杯だった。
病院からの帰りに、絵里香は輝明に、まだ間に合うから澄香のことは全て忘れるようにと、悲愴な願いを口にする。
それでも輝明は尋ねずにはいられなかった。澄香はもう長くなく治る見込みも……学園を卒業することも……
あのドナーカードは、元々そういう意味だったのかと。輝明は、激した絵里香に叩かれる。
輝明は、絵里香の本気を悟りつつも、移植はドナーの死が前提なので、絵里香が生きているうちから『死ぬ』ことを考えるのは、
やっぱり何かが違う気がしてならないのだった。澄香を会長に立候補させるのは、絵里香の頼みでやめようと思うが、
澄香に近付かないようにするのは、せっかく『いい友達』になれたのだからと断る輝明だった。
その翌日の金曜日、返事の期限なので、輝明と澄香は二人で話し、澄香に変な期待させてごめんと謝る。
沈んだ澄香の表情を見て励まそうとした結果、明日一緒に演劇部の公演会に行くことになる。
澄香の仕掛けで絵里香と三人で演劇を見に行く。公演会の後、澄香はやはり会長をやってみたいとお願いするが、
絵里香は駄目とすげなく拒否する。興奮する絵里香たちに、演劇を見に来ていた真理愛たちが声をかけてくる。
丁度よく通りかかったことに疑問を浮かべると、妙に世俗的な『天使』の導きとでも言っておこうと真理愛は答える。
真理愛は、澄香に会長の立候補をやらせてはどうかと言う。絵里香は迷いながらも結局それを認める。
440 名前：天使憑きの少女[sage] 投稿日：2009/07/19(日) 20:03:35 ID:OmVa5g9q0 ?2BP(0)
そして、絵里香と輝明と健助と紗雪は、協力して澄香の選挙運動をすすめるのだった。
エリート君は、澄香を当選させないために、澄香は出席日数が少なくクラスにも理由を明かさないことに目をつけ、
選管に流すことを考えたが、茶道部ちゃんこと松永明菜は澄香と友達になっていたので、それをやめさせようと口論になり、
そこへ澄香たちも通りがかる。妹を不適合者と罵られ我慢のならなかった絵里香はエリート君を何度もひっぱたく。
それを見て心を乱した澄香は、発作を起こし、病院に運ばれる。
死天使は、『凍結』の『奇跡』を願う。
輝明は病院で真理愛に澄香を助けてやってくれと頼むが、
真理愛は、澄香が今生きているのは『奇跡』のためで、『目的』のために生かされていると言う。
絵里香は母親と話をしていたが、治療に専念させるために澄香を退学させると聞いて、花瓶を割り破片を持って外に飛び出す。
真理愛は、そこに誰かがいるかのように虚空に向けて言葉を交わし、頼んだぞと締める。
輝明は、絵里香を追いかけることを真理愛に頼まれる。死天使の鈴の音が輝明を導く。
輝明が絵里香のもとへ追いつくと、絵里香は雨の中、破片で手首を切っていた。
虚ろな目で、「心臓……、用意……、しないと……」と呟く絵里香は、輝明の声にも無反応だった。
傷はそれほど深くなかったので、ハンカチで応急処置するが、死天使は、『死』に魅入られた絵里香は危険であり、
些細な傷でも、絵里香が死の方向へ歩みだしてしまえば、それは一瞬にして魂が喰らい尽くすと、輝明に予言する。
輝明は、『生』を取り戻すために絵里香に口付けする。絵里香は虚ろな状態から意識を回復するが、
それでも、あの子が生きるためには私に心臓が必要で、あの子のためなら死にたいと、『死』に魅入られたまま。
輝明は一喝し、どうして澄香が城心学園に行きたがったか、澄香にとって何が一番つらいのか、
それを考えれば死ぬなんて言えない筈だと、絵里香を説得する。
441 名前：天使憑きの少女[sage] 投稿日：2009/07/19(日) 20:06:31 ID:OmVa5g9q0 ?2BP(0)
週明けの月曜日、その日は放課後、立会演説会が行われる日だった。
しかし澄香は学園を欠席していて、絵里香もまだ姿を現さなかった。
他の二人の演説が終わり、澄香の番になり、輝明が応援演説をしようとすると観衆から相葉姉妹が出ないことに不満の声があがる。
その時、絵里香が現れて、応援演説を交代する。
絵里香は、妹のために生きていたいと、願わくば皆さんも澄香のことを愛してあげてくださいと語る。
澄香も現れて演説する。どんな境遇でも恨むことなく、人を愛せる喜びを皆さんに伝えたいと。
演説の後発作を起こした澄香に、真理愛が駆け寄り、手際よく病院へ運ぶ。
夜、病室の澄香のもとに聖天使が『奇跡』を届けに訪れる。
『奇跡』の障害となるものは、全て除去されたから、あとは『思い』を『現象』に変換するだけと言う。
これであなたは『未来』を作れるようになるけれど、今から言うことを、決して忘れないでと言う。
世界には『奇跡』の起こらない子供たちがたくさんいる。『明日』のことすら考えられず、自分が生まれたことにも意味を見出せず。
その様子に神様もお嘆きになられているけど、いくら天使たちでも何もないところから『奇跡』は起こせない。
『思い』を作るのは、あなたたち。たとえ小さな『奇跡』でも、それらを束ねれば大きな『奇跡』の原料となる。
人間とは、そんな不思議な存在。だから、少しでもいいから、『奇跡』の起こらない子供たちのことを思ってあげて。
それがきっと、子供たちの『未来』に繋がっていくから。
肯く澄香の返事に満足し、聖天使は『未来』という名の『奇跡』を起こす。
そして聖天使が消えて、夢だったのかと疑問を浮かべる澄香のもとに、真理愛が訪れ『奇跡』を執行すると告げる。
□澄香√
分岐によって、輝明は絵里香ではなく澄香と恋人になる。本筋は変わらない。
442 名前：天使憑きの少女[sage] 投稿日：2009/07/19(日) 20:08:37 ID:OmVa5g9q0 ?2BP(0)
■第四章 共心
物語の時系列は、三章終了時から巻き戻る。幹原医師は宿直をしていた。
死天使が幹原医師のもとを訪れ、『彼女』を早くかいほうしてほしいと私見を述べる。
あれから七年近くが経過し、魂の腐敗が始まっているので、立場上見過すことはできないと。
天界は『脳死』を『死』と認めるのかという幹原医師の言葉を、君達の法律に任せると受け流し、
死天使は言う。心はすでに止まっている。動かない魂は腐敗し、『闇』の格好のエサとなる、と。
『彼女』を手放すわけにはいかないという幹原医師に対し、幹原医師のやろうとすることを批判する気はないが、
現実性はかなり低いのだから、それなら『彼女』だけでも救ったほうがいいと言う死天使。
幹原医師の、あの子ならやってくれるという願望に、死天使は、技術はともかく『覚悟』させるには時間が必要ではないか、
さらに言えば、かつてキミを殺したいほど憎んでいたから、素直に頷く保証もないが、どうすると問いかける。
幹原医師の計画は、昇天期限までに間に合いそうになく、魂が腐敗すれば『来世』にも影響を及ぼすだろうから、
ならば『彼女』の幸せな『来世』を祈ってあげることこそが、生者の務めというものだと、死天使は説く。
幹原医師が食い下がると、死天使は方法がないわけでなく、半年程度なら『奇跡』の力でなんとかなるだろうと言う。
死天使は述べる。『奇跡』の起こし方には三つあり、天使の元々に能力を使い無条件に起こせるが規模と効果は小さい『自然奇跡』。
『思い』を集めるのに手間と時間がかかり奇跡執行官の力も必要とする、人間の『思い』を束ねて『現象』に変換する『集束奇跡』。
そして、人間の『生命力』を使って『現象』を生み出す『代償奇跡』。
死天使は、幹原医師の望む通り、彼に一週間分の生命力を残して、あとは『奇跡』に喰らわせ、
『彼女』の時間を凍結し、その魂の腐敗を半年間は防ぐ『代償奇跡』を執行する。『凍結』という名の『奇跡』を。
444 名前：天使憑きの少女[sage] 投稿日：2009/07/19(日) 20:10:20 ID:OmVa5g9q0 ?2BP(0)
時は、聖天使が『奇跡』の手伝いを真理愛にお願いして、すぐ後ぐらい。真理愛のもとを訪れた聖天使は、
もし澄香の病を治す方法が見つかって、今すぐ実行可能なことだとしたら、試してみるかと問いかける。
真理愛は、慎重に考えたほうが良いと思うと答える。
真理愛が、疑問に抱いていた七年前の事故の重体者について訊ねると、聖天使は、明日、死天使に説明させると言って、消えていく。
死天使は、ここ数日間の仕事がそれに関係していたと語る。
睦美の昇天によって、健助が心に抱いていた『負』の感情が消え去り、『奇跡』の障害となるものの一つが除去された、
すなわち人間の感情に左右されやすい『集束奇跡』の成功率が大幅に高まったと。
そして、あの事故に興味をもった真理愛には、『彼女』の存在も受け入れやすいだろうと、
病院でも一部の者しか入れない、『彼女』のもとへ案内する。
その途中の廊下で死天使は、幹原医師は澄香を救う方法に気付いていたこと、それゆえに天界で問題視されていたことを語る。
その方法は、心臓移植。そしてドナーはすでに現れていると言う。
幹原医師は、その高度な移植技術を真理愛に遺し、事務的な面でも周到な準備を怠らなかった。そして、心臓はここにある、と。
廊下の片隅にある扉の向こうには、生命維持装置につながれた『眠り姫』がいた。
部屋に誰かがいることに気付きやってきた同僚の医師・倉橋は、真理愛に『彼女』のことを語る。
『彼女』は七年前の事故から『臨床的脳死』のまま。
どうやら運転手の隠し子らしく、母親が死んだので引き取った帰りに事故が起こり父親も死んだので、
ほかの血縁者も身元も手掛かりすら掴めなかった。
ただ、ドナーカードが発見された。ＤＮＡ鑑定から彼女のものと証明されており、両親も死んでいるから家族の了承は必要なし、
彼女の意思はオールオーケーなので、法律的には彼女の臓器を誰かに移植しても何の問題もない。
幹原医師は、澄香が当時の彼女と同じくらいの年齢になるまで、彼女を延命させることにした。
ドナーにするために何年も生かし続けることなど許されるのかと、真理愛は激昂する。
倉橋医師も、怖いことだと思うと同意しつつも、安楽死させることはドナーカードに反することであり、何の意味があるかと問う。
そして、全ては真理愛の決断次第で動くと告げる。
446 名前：天使憑きの少女[sage] 投稿日：2009/07/19(日) 20:12:08 ID:OmVa5g9q0 ?2BP(0)
診療室に戻ると、聖天使と死天使は普段と変わらぬ様子で、真理愛を待っていた。
聖天使と死天使は、全ての真相を語り、真理愛が移植手術を決断することを望んでいると言う。
『眠り姫』の命を奪うことに真理愛は葛藤する。
そんな真理愛のところに、絵里香がやってきて自分が脳死したら心臓を澄香に移植してと頼む。詳しくは三章参照。
未だに移植に悩む真理愛に、聖天使は悪戯めいた様子で『奇跡』について語る。
絶望的な未来しか残されてない患者に、ある日突然移植の話が舞い込んできたら彼は大喜びし、
神に感謝し、ドナーに感謝し、�爐海谿幣紊覆ぞ个澂瓩鯢發�べるだろう。
ドナーの『死に方』がどうであれ、レシピエントにはかけがえのない『奇跡』。
その言葉に対して真理愛は、レシピエントにとっては『奇跡』でも、ドナーの家族にとってはただの『災難』だ。
『奇跡』とは人の死の上に成り立つものなのか、そんなものが『奇跡』と呼べるのかと問い詰める。
聖天使は、それは間違ってはいないと述べ、『代償奇跡』には人間の生命力が必要とするし、
『集束奇跡』はそれ以上の『思い』と『祈り』を必要とする。しかし人間は『奇跡』の裏を理解してないのに、
安易に『奇跡』を望み、『奇跡』にすがろうとする。だから、死天使を責めないでやってと言う。
澄香の話題になって、会長立候補を認めさせようということになる。そしていつものように消える二人。
真理愛は、同僚で脳死判定医の経験も豊富な近藤医師と話をした時に、判定をする時つらくないかと質問すると、
「本当につらいのは、ドナーもレシピエントも見殺しにしてしまうこと」という答えが返ってくる。
しばらくは平凡な日々だったが、澄香が選挙運動の最中、他の候補者との口論で倒れたという報告が入る。
死天使が澄香の時間を『凍結』したので、病院に運ばれるまでは大丈夫だが、聖天使は真理愛に『心の準備を』と言う。
447 名前：天使憑きの少女[sage] 投稿日：2009/07/19(日) 20:13:35 ID:OmVa5g9q0 ?2BP(0)
三章の物語の結果、絵里香の、澄香のためなら死んでもいいという負の感情が消失して、『奇跡』の障害に一つが除去される。
障害は全て除去され『集束奇跡』の確率は１００％近くまで高まる。『奇跡』は免疫反応が起こらないようにするのに起こすらしい。
幹原医師が自分の手で片付けなかったのは、真理愛の母の医療ミス以来、メスを握れなくなったため。
真理愛は、未だに『彼女』を殺すことに抵抗があり悩んでいたが、
死天使が『共心』という名の『奇跡』で真理愛を『彼女』の心に触れさせる。
真理愛は『眠り姫』を前にして、自らの悩みを懺悔する。
ほとんど言葉を発せない『眠り姫』だったが、白いカーネーションを差し出し、その口が小さく動く。
「花…、言葉……。私の愛は…、生きている……」
これ以上は『彼女』の心に負担がかかるということで、邂逅は終わる。
死天使曰く、幼くして母親を失った『彼女』が与えられた『奇跡』で願ったのは、『誰かを愛すること』。
そして聖天使は、『彼女』の願いを叶えるべく『集束奇跡』を計画した。
不幸な境遇の中、人を憎み命を奪おうとした真理愛。人を愛し命を生かそうとした『眠り姫』。
真理愛は、絶望の中にあっても自分の愛を生かし続けることを望んだ、『彼女』の願いを受け入れる。
澄香は、移植の話を聞かされた時、その人を見捨てちゃうなんて嫌ですと断ったが、
『彼女』の願いを伝え、『彼女』の『思い』に応えてあげられるのは澄香だけだ、
だから、『彼女』の愛を証明するために、この心臓を受け取ってほしいと、真理愛は澄香を説得する。
449 名前：天使憑きの少女[sage] 投稿日：2009/07/19(日) 20:15:43 ID:OmVa5g9q0 ?2BP(0)
■最終章
臓器コーディネートは順調で、心臓を真理愛の執刀で澄香に移植することも決まった。幹原医師はそれだけの影響力を残していた。
手術予定日の前日、真理愛は半年近くも来ることのなかった、幹原医師の墓前を訪れていた。
真理愛は、移植という結論に至るまで、様々な葛藤をあったが、今はこれが正解だと思うと陳述する。
聖天使は、真理愛に祈りを捧げる。真理愛の心からは不安も気負いもなくなり、手術当日を迎える。
手術から一年後、澄香は元気に学園に通えるようになっていた。
真理愛は病院の中庭で春の空を見上げながら、思いを馳せる。
あの手術から一年以上の月日が経ち、あれ以外にも何度か移植手術を執刀した。
…その度に思う。ドナーは、私に最後の願いを託すのだと。
『奇跡』は、人の死の上に成り立つのではなく、その『思い』が、『奇跡』を生んでいるのだと。
…無論、今もなお世界には、臓器移植に反対する声が多くあり、それらも尊重しなければならないのだが、
ドナーの愛を、無駄にはしない。彼らの愛が生き続けることを、証明したい。それが、『奇跡』を授かった私の務め。
…死してなお『奇跡』を望むイエス・キリストたちのために、
私は、その『奇跡』を最初に目撃する、マグダラのマリアとなろう。
人が起こすことのできる、唯一の『奇跡』を──
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