630 名前:穢翼のユースティア ◆l1l6Ur354A [sage] 投稿日:2011/09/16(金) 02:46:19.87 ID:7855gFCQ0
「プロローグ」
かつて大地を混沌が覆いつくした時代、聖女の祈りによって唯一救われた浮遊都市ノーヴァス・アイテル。
何でも屋を営む主人公カイムはかつてこの都市を襲った大崩落によって家族を失い
生き残るため都市最下層「牢獄」で暗殺者として生きた過去を持つ青年である。
彼はある日、親友であり牢獄を支配する犯罪組織「不蝕金鎖」の頭目であるジークから
到着予定の密輸馬車が現われない事に対する調査を引き受ける。
さっそく馬車の足取りを追うカイムだったが到着した時には馬車は「積荷」である娼婦ごと皆殺しにされた後だった。
カイムは事件の真相を探るため唯一の生存者である羽つきの少女ティアを保護することにした。
羽つきは伝染性があるとされる奇病で人々からは忌み嫌われる存在。
しかしカイムはティアと出会った際に放たれた光があの大崩落の際に見たとものと同じだった事から
自分の人生を狂わせた事件の真相に迫れるかもしれないと考えリスクを負って彼女を匿うことにする。
情報を引き出すため偽りの優しさでティアを懐柔しようとするカイム。
情報が引き出されれば羽つきである自分が処分される事が分かっているために黙秘と嘘を続けるティア。
しかし打算で始まったはずの関係はいつしか本物の暖かさを帯び始めていた。
これまで奴隷同然の生活をしてきたティアにとってカイムがくれた優しさは生まれて始めて自分が触れるものだったのだ。
羽つきの自分を匿っていてはカイムに迷惑をかける。そう考えたティアは自分の知る情報を全てカイムに告げた後、家から飛び出す。
一方のカイムはティアがいなくなった事実に呆然としていた。必要なことは聞きだした。もはやカイムにとって用済みであるはずの少女。
しかしどんな苦境にあっても明るさを失わない彼女と過ごす日常がどれほど大切なものだったか、今さらに気づいてしまう。
雨のなかティアを探し駆け抜けるカイム。だが既にティアは何者かに襲われ死体となっていた。
彼女を抱きしめ絶叫するカイム。その時、奇跡が起きた。光が放たれ次の瞬間、死んだはずのティアは傷一つなく蘇生していた。

631 名前:穢翼のユースティア ◆l1l6Ur354A [sage] 投稿日:2011/09/16(金) 02:49:15.92 ID:7855gFCQ0
「フィオネルート」
目の前で起きた二度目の奇跡。
カイムはいよいよティアが通常の羽つきとは違う事を確信するがそれ以上に死んだはずの彼女ともう一度出会えた事実に喜ぶ。
暗殺者時代に貯めた金を全てはたいてティアを身請けしようとするカイムだったが手持ちの金では若干足りない。
そこでジークはティアの身請け代と引き換えにカイムに対して新たな依頼をする。
内容は最近牢獄を荒らしまわっているという正体不明の怪物「黒羽」の捕獲。
これを羽つきを強引に捕獲し治癒院へと送り込む国の実働部隊「羽狩り」と共同で行って欲しいというのだ。
羽つきのティアを匿うカイムにとって羽狩りと関係を持つのは気が進まなかったが
あの日ティアを襲ったのが「黒羽」である可能性が高いこともあり依頼を承諾。羽狩りを束ねる女隊長フィオネと共に事件の調査を始める。
法と正義を重んずる家に生まれたフィオネは融通が利かず、牢獄の現実より自身の正論を押し通すとする事から
当初はまともに調査すら出来ない有様だったがカイムと関ることでて徐々に柔軟な考え方が出来るようになる。
名コンビとなった二人は地道な探索によって遂に黒羽を発見するが人間離れした運動能力によって叩きせられ
遂には不蝕金鎖と羽狩りからも犠牲者が出てしまう。報復を決意するジークは黒羽を捕獲でなく殺害することを指示した。

632 名前:穢翼のユースティア ◆l1l6Ur354A [sage] 投稿日:2011/09/16(金) 02:50:08.27 ID:7855gFCQ0
最悪な展開は続く。ふとしたアクシデントからティアが羽つきであることがフィオネにバレてしまったのだ。
羽狩りの隊長である彼女がティアを見逃すはずがない。もうダメなのかと思うカイムだったがフィオネは予想外の行動に出る。
フィオネを見逃す事を条件に裏取引を申し出たのだ。それは彼女の信念を、人生を否定する決断。
黒羽はかつての羽狩り隊長であり、失踪したフィオネの兄だったのだ。敬愛する兄を助けたい。
そのために彼女は自身が積み重ねてきた誇りを捨てカイムに懇願する。羽狩りと不蝕金鎖に殺される前に兄を保護したいと。
カイムはティアを助けるため、そして何よりフィオネの願いを叶えるために取引を受諾。
黒羽に対し兄妹にだけ通じるメッセージを残して待ち構えることにする。伝言通りに現われた黒羽。
だが知性を削り取られた彼に言葉は通じず二人に襲い掛かる。必死の説得も通じず追い詰められるカイムとフィオネ。
諦めかけるカイムだったがフィオネの家に伝わる恩賜の剣が黒羽の心に僅かな理性を取り戻させた。
最後の力を振り絞り黒羽は言葉を投げかける。羽狩りとして生き方に疑問を持ち、誰一人戻らない治癒院の調査を開始したこと。
治癒院では治療は一切行われず羽つきは実験の後、全員殺されていること。真相を知ったことで捕らえられ、自らも実験の材料にされたこと。
全てを語り終えた黒羽は自分を殺してくれることを願い、再び自我を失った。
激闘の末にカイムは遂に黒羽を倒す。黒羽は最後にもう一度だけ意識を取り戻し泣きじゃくるフィオネに対し笑いかけ、死んだ。
数日後、フィオネは羽狩りを辞めカイムと共にジークの依頼を受ける女用心棒になっていた。
真実を知った今、羽狩りを続けることは殺人と何ら変わらない。それが彼女の出した答えだった。
信念を砕かれ、誇りを失い、それでもフィオネは生き続ける。倒れて全てを諦めようとした自分を立ち上がらせてくれたカイムと共に。
半年後、二人は馴染みの酒場で仲間達に囲まれ幸せな結婚式を挙げた。


635 名前:穢翼のユースティア ◆l1l6Ur354A [sage] 投稿日:2011/09/16(金) 02:57:05.73 ID:7855gFCQ0
「エリスルート」
黒羽事件から数ヶ月が経過した。
牢獄は仮初の平穏を取り戻しつつあったがカイムは公私に二つの問題を抱えていた。
一つは牢獄の勢力争い。不蝕金鎖の裏切者たちによる犯罪組織「風錆」が本格的に攻撃を仕掛けてきたのだ。
カイムは既に組織の一員ではないが親友であるジークのために古巣の支援に立ち回ることになる。
だがそうした行動の障害となったのがエリスだった。牢獄で唯一の女医者。
かつてティアと同じように娼婦として売り飛ばされたところをカイムが身請けして救った女。
以前からカイムを慕い、カイムの為だけに生きようとしていたエリスは今の状況が我慢ならなかった。
同じようにカイムに救われたティアとエリス。しかしカイムはティアだけを家に置き
自分が必要以上にカイムと関るのを避けようとする。その事実はエリスの心を狂わせ情緒不安定にする。
カイムの女になりたがるエリス。だがそれはカイムにとって絶対に受け入れることのないものだった。
その理由を説明し、エリスに本当の意味で自由に生きてもらうためにカイムは昔のようにエリスと二人で同居生活を始める。
ティアを馴染みの酒場に預け、再び呼び戻してくれたことでエリスはカイムが自分を選んでくれた喜ぶ。
だがそれが「エリスに本当の別れを告げる」ためだと分かり彼女は絶望し壊れた。
どうして自分を受け入れてくれないのか。カイムは答える。これまで隠してきた真実を。
俺がお前の両親を殺したのだと。お前が娼婦として売り飛ばされた原因は俺なのだと。
だがエリスはそれをカイムが自分と別れるための嘘だと笑い飛ばす。
本当のことだと叫ぶカイム。エリスは答える。それが真実だとしてもどうでもいいと。
カイムは何も分かっていない。私のことも、自分自身のことも。
そう言い放ったエリスはあろうことか風錆へと寝返りジークを殺させようとする。
カイムに殺されるために。必要とされず、愛してもくれないならせめてカイムによって殺されたい。それが彼女の願い。

636 名前:穢翼のユースティア ◆l1l6Ur354A [sage] 投稿日:2011/09/16(金) 03:01:32.59 ID:7855gFCQ0
カイムは自問自答する。俺はエリスに自由に生きて欲しいだけだと。その願いに何の間違いがあるのかと。
だかその問いかけに過去の傷が疼く。全てを失った大崩落。あの時死んだ兄アイトとの約束を。
「立派な人間になれ」兄の最後の願いはしかし果たされなかった。
牢獄に落とされ殺し屋として幾多の命を奪い続けた自分。
エリスを引き取り、医者として育て上げたのは自分の身代わりにするためだったのではないか。
自分がなれなかった「立派な人間」をエリスにやらせることで自分が救われようとした。
人形のようなエリスを人間扱いしてるフリをして、自分こそが彼女を道具のように扱っていた。
それに気づいたカイムは必死にエリスを探す。しかし遂に風錆の総攻撃が始まってしまう。
不蝕金鎖が禁じる麻薬売買を行い強力な資金力を持った風錆に追い詰められていくジーク。
遂にはカイムも囚われエリスを目の前で犯されそうになる。絶望的な状況。
そこに飛び込んできたのは羽狩りの長であるフィオネだった。彼女は風錆が羽つきを売買していた容疑で逮捕することを宣言した。
これこそがここまで反撃に出なかったジーク暖めていた秘策。
彼はフィオネの上官で最近勢力を伸ばしている有力若手貴族ルキウスと手を組み、この逆転の舞台を整えていたのだ。
これにより風錆は壊滅。だがカイムにはまだ問題が残っていた。
雨の中佇むエリス。カイムは彼女に告げる。これからは一緒に歩いていこう。人形ではなく人間として。
変われる訳がないとエリス。彼女は子供の頃から両親に虐待され人間ではなく人形として生かされていた。
カイムへの極度の依存もそれが原因。だがカイムは笑う。「変われるさ」彼女を抱きしめながら。「変わるんだ」と。
カイムはエリスが不蝕金鎖を裏切った罰を自らが引き受け、エリスと共に新たな生活をスタートさせる。
主人と人形という関係ではなく、対等な夫婦として。過去の妄執によって壊れた少女の人生が今再び動き始めた。

637 名前:穢翼のユースティア ◆l1l6Ur354A [sage] 投稿日:2011/09/16(金) 03:07:08.33 ID:7855gFCQ0
「コレット・ラヴィリアルート」
風錆との戦争が終結してからしばらく経った頃、カイムとティアの元に聖女からの使者を名乗る少女ラヴィリアが現われる。
彼女は聖女の命令で「夢の少女」を探していたと語り、ティアこそがその少女なのだと言う。
カイムは荒唐無稽な話だと思ったが、自分の正体を知りたがるティアのために二人で聖女のいる大聖堂へと向かう。
待っていたのは今代の聖女コレット。彼女はティアこそが夢に現われた天使の御子であると語り聖殿に滞在しい欲しいと願う。
断ろうとするカイム。彼は多くの牢獄民と同様、聖女が嫌いだった。
先代の聖女がしっかりしてさえいれば大崩落は起きず、自分の人生は狂わなかったのだから。
だがカイムはコレットの「あなたは先代の聖女様に救われている」という意味深な言葉に何かを感じ渋々ながら滞在することした。
大聖堂で生活するうちカイムは教会内部の歪な権力構造に気がつく。聖女は都市を浮遊させる最高位の存在。
にも関らず神官長をはじめとした神父達は彼女に対し表面上敬意を払いながらも彼女の語る「天使様のお告げ」を全く信じない。
お前は余計なことはせず都市を浮かせていればいいのだという態度。
そのことにコレットは怒り、コレットの従者として聖女と神官長の板挟みになっているラヴィリアは苦悩する。
折りしも地震が頻発し人々は不安のあまり暴動を起こしかねないようになっていた。
カイムもまた神官長達の意見が正論だと考えていた。都市を浮かせる力を見せてこその聖女信仰。
その責務が全う出来ないのであれば先代聖女のように処刑されるのも当然だと。
そんなカイムにコレットは衝撃的な事実を告げる「私は都市を浮かせていません」
呆然とするカイム。聖女の祈りによって浮遊しているからこそ人々は不安を抱えながらも生きていける。
なぜ浮いているかも分からず、いつ墜落するかも分からない。それが浮遊都市ノーヴァス・アイテルの真実だった。
コレットは言う。それでも私は聖女として人々を救わなければならない。
そして祈り続けた結果、辿り着いたのが天使様からのお告げでありティアなのだと。

638 名前:穢翼のユースティア ◆l1l6Ur354A [sage] 投稿日:2011/09/16(金) 03:21:50.33 ID:7855gFCQ0
しかしその声は神官達には届かない。彼らにとって聖女は都市を浮遊させるためのパーツでありそれ以外の要素はいらないのだ。
だがティアが神官達の前で起こした奇跡によって事態は一変する。怪我を癒し、羽つきの羽を浄化する能力。
純然たる事実としてその権能を見せ付けられたことで彼らはコレットの言葉に従わざるを得なかった。
地震によって不安の満ちる牢獄。そこで「天使の御子」であるティアのお披露目が行われることになった。
絶望に苛まれた人々に少しでも希望を見せることが出来ればとティアは平穏の生活を捨てる覚悟でコレットからの要請を引き受ける。
だがお披露目の直前、最悪のタイミングで崩落が発生。群集はパニックとなり牢獄は地獄へと変わった。
不蝕金鎖も4割以上の人間が死に、カイムは初恋の相手であり大切な友人である酒場の女主人メルトを失った。
人々の嘆きは怒りへと変わり、ノーヴァス・アイテル中を呪詛が支配する。「都市を崩落させた聖女を殺せ!!」
コレットは聖職者としての地位を剥奪され明日処刑されることになる。
彼女には何の罪はなく、殺したところで都市の崩落は止まらない。だが聖女は殺される。都市の怒りと不安を抑えるために。
大切なものが失われれば人々は憎しみの対象を探さずにはいられない。そのための生贄が聖女。
カイムはそれが痛いほどに分かった。かつて自分が立ち上がれたのも先代の聖女を憎むことが出来たからなのだ。
だが真実を知ったカイムはコレットを憎むことは出来なかった。彼女は何も悪くないのだから。
そんな時、ラヴィリアはカイムの下を訪れ全財産を差し出して依頼を行う。「コレットを逃がして欲しい」
逃がすことは出来ても、すぐさま追っ手がかかり殺されるとカイム。
だがラヴィリアはその心配はないという。「私が聖女の身代わりとなり殺されます」

639 名前:穢翼のユースティア ◆l1l6Ur354A [sage] 投稿日:2011/09/16(金) 03:25:08.47 ID:7855gFCQ0
聖女の従者が過去を語り始める。本当は自分こそが今代の聖女になるはずだったのだと。
だが親友であり妹のような存在だったコレットのために身を引き自分は従者として仕えてきた。そう思い込んでいた。
本当は怖かったのだ。都市の命運を背負わされ崩落が起これば殺される生贄になることが。
でも、もう逃げることはしない。だって私はコレットのお姉さんなんだから。
彼女の真摯な思いに打たれたカイムは依頼を引き受けコレットを眠らせ、逃がした。
激怒するコレット。自分は命を捨てる覚悟は出来ている。何よりラヴィリアを殺して自分だけが生き残ることなんて出来ない。
処刑場へと向かったコレットは衛兵の制止を振り切り飛び降りたラヴィリアを抱きしめ二人で下界へと落ちていく。
目を覚ました時、二人は牢獄にいた。目の前にはカイムの姿。カイムはコレットもラヴィリアも死なせるつもりはなかった。
ジークに頼んで処刑場の下にネットを作り二人を回収したのだ。お互いの無事を喜ぶコレットとラヴィリア。
そこへ厳しい表情のジークがやってくる。彼はこの件を納得していなかった。
殺されるはずの聖女が「自分は都市を浮かせていない」と語る。都合の良い命乞いだと言われても仕方がない話だ。
それでも頼みを引き受けたのはカイムとの長年の友情と信頼ゆえ。
ジークは真っ直ぐな視線でカイムを射抜く。お前はこんな与太話を信じるのかと。
カイムは頷く。俺は二人を信じる。ジークは金貨を投げつけ今日中に牢獄から出て行き二度と顔を出すなと告げる。
それは牢獄の王であるジークに出来るカイムへの最大限の譲歩であり好意。
カイムは二人を連れ下層へと移り住んだ。決して豊かとはいえない暮らし。
だがそこには聖女とその従者という役割から開放され仲の良い姉妹へと戻った二人の少女の幸せそうな笑顔があった。

645 名前:穢翼のユースティア ◆l1l6Ur354A [sage] 投稿日:2011/09/16(金) 03:39:05.64 ID:7855gFCQ0
「リシアルート」
聖女との出会いによりカイムは都市の秘密の一端を知ってしまった。
聖女は都市を浮かせていない。では一体何が都市を支えているのか。それを知るためには上層へ行くしかない。
カイムはコレットとラヴィリアを人質としてジークに預け、以前の事件で面識を得た青年貴族ルキウスの補佐官となった。
彼の護衛となったカイムは王城を散策中、一人の召使の少女に軽口を叩く。
だが彼女は召使いなどではなくノーヴァス王家の姫であるリシアだった。
彼女は歯に衣着せぬカイムの言動を気に入り、会話の相手として側に仕えさせる。
聡明で父王を尊敬するリシア。だが彼女は宰相ギルバルトの操り人形として現実を知らぬまま生きてきた。
カイムは彼女の目を覚まさせるために牢獄へと案内し、彼女が考えてもいなかったスラムの現状を直視させる。
これまで盲目的に信頼してきたギルバルトの報告とは全く違う惨状。
リシアはこれを打破するために自分なりに努力を始めるが強大な権力を持つギルバルトに簡単に叩き潰され無力を噛み締める。
一方カイムはルキウスから武力蜂起によるクーデター計画を聞かされる。
あまりに性急な行動だと諌めるカイム。だがルキウスの言葉はそんな言葉を打ち消すほどに重いものだった。
「このままだと近い将来ノーヴァス・アイテルは墜落する」
ギルバルトの目的。それはかつてルキウスの義父であるネヴィル卿の実験によって死んだ恋人の復活だった。
羽狩りも、福音と呼ばれる麻薬も、都市のエネルギーすらもそのための生贄。
今立ち上がらなければ全ては手遅れになってしまう。ルキウスはカイムに協力を要請しリシアの説得を頼む。

651 名前:穢翼のユースティア ◆l1l6Ur354A [sage] 投稿日:2011/09/16(金) 04:13:25.11 ID:7855gFCQ0
カイムは引き受ける前にルキウスに聞き返す。なぜ俺をそこまで信頼すると。
素性も知れない牢獄出身の暗殺者。ルキウスの地位ならば有能な護衛などいくらでも雇えるはずだ。
「まだ分からないのか?」と笑うルキウス。その声にカイムの視界が歪む。「アイトなのか?」
大崩落によって死んだはずの優秀すぎる兄。だが彼は生きていた。
カイムが牢獄へと落ちたのとは逆にアイトは上層の貴族に拾われ養子として育てられていたのだ。
動揺を抑えカイムはやるべきことを為す。ルキウスの行動が最善だとは思わない。
しかし彼に協力する以外にティアの正体も都市の秘密も知ることは出来ないのだ。
ギルバルトはいよいよルキウスの反乱に気がつき彼を追い詰め始める。もはや武力蜂起を遅らせることは出来ない。
カイムはルシウスの伝言を伝えるべくリシアに会う。
だが短期間に様々な真実と挫折をぶつけられた彼女は自分の判断が正しいのかどうか信じることが出来なくなっていた。
「もう何を信じればいいか分からない」「好きで王女に生まれた訳ではない」
カイムは答える。「好きで牢獄に生まれるヤツなんていない」「それでも自分が出来ることをやるしかないんだ」
「王女であるリシアの代わりになれる人間はどこにもいない」「だけど王女であるお前を支えてやることなら出来る」
カイムの言葉でリシアは王族としての責任を果たすべく立ち上がり、ルキウスの武力蜂起に参加する。
王族であるリシアの参戦によってクーデターは成功。ギルバルトは討伐された。
内乱から数日後。国王崩御によって王女から国王となったリシア。カイムは彼女を支えるために貴族となった。
女王の腰巾着という批判に晒されながらもカイムはリシアの元を離れない。
全ての国民の父として時に非情な決断をしなければならない彼女が唯一安らげる場所で在り続けるために。

652 名前:穢翼のユースティア ◆l1l6Ur354A [sage] 投稿日:2011/09/16(金) 04:19:23.95 ID:7855gFCQ0
「ティアルート」
クーデターは成功しリシアとルキウスを中心にした新体制が発足した。
ギルバルトの研究施設は接収され大急ぎで都市機能の解明が始まる。
そんな時カイムとティアはルキウスに連れられて厳重に管理されていた塔の最上階へと案内される。
そこにいたのは磔にされた天使の残骸。これこそがノーヴァス・アイテルを浮かべていた動力源だった。
だがその力はもはや尽きる寸前で新しい天使が必要なのだとルキウスは語る。
激昂するカイム。それはティアを新たな生贄にして都市の存続を行うということに他ならない。
だがティアはルキウスの言葉に従い実験に協力する。
天使への覚醒を進める実験は苦しいし怖い。でも自分が逃げることで大好きなカイムや牢獄のみんなが死ぬのは絶対に嫌だ。
歯噛みするカイム。彼の理性はルキウスの言葉に屈するしかなかった。
ティアを助けようとすれば都市の全てが死に絶える。全滅か、一人の犠牲か。考えるまでもないではないか。
だがそんなカイムをジークは「お前は自分の足で立ってない。殺す価値もない」と侮蔑した。
徐々に崩壊を始める空中都市。牢獄は遠からず消滅する。
それを悟ったジークは民衆を纏め上げ反乱軍を結成。牢獄の王として上層への侵攻移住を開始する。
戦争が始まった。ジークは民衆にとっては死んだはずのコレットを祭り上げることで「奇跡」を演出。
国王軍側の戦力も吸収しながら上層へと迫る。ルキウスはそれに対し意図的に都市を崩落させて進軍を停止させる。
完全な虐殺行為を行うルキウスに激怒するカイム。だがルキウスは哀れみの目で弟を見据える。
「私はお前がどんな選択をしても納得しただろう。だがお前は何も選択しなかった」
あらゆる犠牲を払ってでも都市を存続させようとするルキウスのようにも生きられず
それが破滅へと至る道であっても自分の信じる信念のために戦うジークのようにも生きられない。
ルキウスの指摘にカイムは言い返すことも出来ずに項垂れる。

653 名前:穢翼のユースティア ◆l1l6Ur354A [sage] 投稿日:2011/09/16(金) 04:37:51.81 ID:7855gFCQ0
そんなカイムの前に現われたのは軍医として従軍してきたエリスだった。
彼女はカイムに金貨の入った袋を渡す。それはカイムがエリスを買い取った彼女の人生の値段。
こんな時にすることかと呟くカイム。エリスは言う。こんな時だからこそ自分が本当にやりたいことをするんだと。
最後だから、私はカイムに自分が自分として生きていけることを伝えたかったのだと。
その言葉でカイムは自分の本当の気持ちに気がつく。あまりに愚かしい、だが本物の答えを。
たとえ世界が滅んでしまうとしても。俺はティアを助けたい。
カイムは幾多の敵を屍に変え、ティアのいる塔最上階へと向かった。
待ち受けるはルキウス。かつて一度として勝つことが出来なかった兄にして都市と人類を救う正義の体現。
激しい戦いが始まる。だがルキウスは対立しながらも弟の決断を喜んでいた。
自分とは違う道。だがそれは紛れもなく弟が自分の意思によって選んだ道だから。
自ら選択し歩む。それこそが人間の人間たる姿。かつて大崩落の際に弟に願った生き様。カイムは辿り着いたのだ。
刃がルキウスの肉体を抉り勝敗は決した。しかし時は遅く天使は覚醒してしまう。
それも都市の存続を支える存在としてではなく、人類を滅ぼす終末のラッパの奏者として。

654 名前:穢翼のユースティア ◆l1l6Ur354A [sage] 投稿日:2011/09/16(金) 05:02:05.05 ID:7855gFCQ0
傷ついた身体を引きずりティアに呼びかけを続けるカイム。だがティアはそれを幻として攻撃する。
彼女の心は暗黒に支配されていた。全てを捧げてカイムを助けても彼はティアを忘れて他の女を好きになる。
自分以外の女に笑いかけるカイム。カイムに抱かれる自分ではない女。そんなのは嫌だ。全て滅んでしまえ。
幻が消えない。何度攻撃しても、腕が潰れても、足が無くなっても私の名前を呼び続ける。
ティア。ティア。ティア。暗黒の声を振り払う。目の前にいるのは最愛の人。抱き合う二人。
しかし残された時間はもう僅かしかなかった。都市は落下を続け下界の混沌はノーヴァス・アイテルを飲み込もうとしている。
ティアはカイムから離れ翼を展開する。大切な人を守るために。制止するカイム。微笑むティア。光が世界を包んだ。
気がつくと浮遊都市は大地に着地していた。混沌は消え去り大地には見渡す限りの草原が広がる。
もはや人は崩落に怯えることはない。だがそこにティアはいない。
絶望するカイム。そんなことはないですよ。ティアの声が聞こえる。
もう私に身体はないけれど。風に大地に私の力は宿ります。だからカイムさん。私達はどこにいてもずっと一緒です。
風が吹き、ティアの声は消えた。カイムはゆっくりと立ち上がる。
ノーヴァス・アイテルを支え続けた天使はもういない。これからも多くの危機がこの都市を襲うだろう。
だから自分は何でも屋として戦い続けるのだ。ティアが残してくれたこの世界を守るために。
彼女が笑ってこの世界を見守れるように。

661 名前:穢翼のユースティア ◆l1l6Ur354A [sage] 投稿日:2011/09/16(金) 05:15:04.28 ID:7855gFCQ0
補足事項

ノーヴァス・アイテルの真実の歴史。
500年前、人類はその傲慢さから神の怒りを買う。天使は地上を去り、人類はその加護を失った。
本来この時点で人類は滅亡するはずだったが敬虔な修道女だったイレーヌはもう一度人類に機会を与えてくれるよう神に祈り続ける。
神はならば貴様が天使となり人類を救ってみせろとイレーヌを天使に変える。
イレーヌはその力で人々を導こうとするが裏切られ、都市の動力源を得るための奴隷にされる(本編の朽ちた天使)
裏切りの首謀者は歴史を改竄することで自らが王となる。ノーヴァス王家の始まり。
都市の浮力等の管理は王家が行うことになるがこれが民衆に知られると崩落のたびに王家は責められ内乱の危機に陥る。
そのため王家は都市の浮遊は王家ではなく聖女の力によって為されていると喧伝。
聖教会を設立し崩落の責任を聖女に取らせる生贄システムを構築する。
なお聖女はかつて人類を救済した天使である「イレーヌ」の名を冠するものとする。
(なのでコレットは聖女の資格を失うまでイレーヌと呼ばれている。ただし分かり易さを優先するため本文ではコレットで統一)
これ以後ノーヴァス・アイテルは天使の力を使い発展していくがイレーヌは人類の愚かさに絶望し憎悪の塊となる。
彼女は自分に代わり人類を滅ぼす天使を作り出す。それがティア。
ティアが幼い頃から聞いていた「貴方には生まれてきた使命がある」という声はイレーヌのもので使命とは人類抹殺。
またティアルート終盤で彼女の心を惑わした暗黒の声もイレーヌのものである可能性が高い。


663 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2011/09/16(金) 08:26:01.64 ID:ehM51XGI0
と、そいや疑問だったんだけど、
結局聖女の人って目見えるの?
盲目設定らしいんだけど、目開いてチェスしてるCGが公開されてて、はて? と疑問が
その辺言及無かったんでよければプリーズ 

664 名前:穢翼のユースティア ◆l1l6Ur354A [sage] 投稿日:2011/09/16(金) 09:09:58.16 ID:7855gFCQ0
>>663
聖女コレットは熱病によって盲目になったが敬虔な祈りによって
聖殿と呼ばれる聖域内でだけは目が見えるという奇跡を授かった。
チェスのシーンは聖殿内のコレットの部屋で行っている。
最終的には奇跡により完全に視力を取り戻す。
なお歴代の聖女および聖職者は何の能力も持っていないが
絶対的な信仰心を持つコレットだけは天使となった初代聖女イレーヌと同じく
天使の言葉を聞き、遠見や夢見といった奇跡を起こすことが出来る。
ただし高位の聖職者は聖女がお飾りの生贄だと知ってるので
「奇跡なんて起こせる訳ねーだろ」とコレットの言葉を誰も信じていない。

このページへのコメント

これを厨二病ゲームと呼んでしまえば、ほぼすべての神話が厨二病物語になってしまうよ

3
Posted by 名無し 2015年11月04日(水) 17:03:35 返信

絶対的な信仰心を持つコレットだけは天使となった初代聖女イレーヌと同じく
天使の言葉を聞き、遠見や夢見といった奇跡を起こすことが出来る。

これはちょっと違う
コレットの姓はアナスタシア、イレーヌの姓もアナスタシア、どこかで血のつながりがあるのだろうと作品内で示唆されている。

3
Posted by 名無し 2015年05月07日(木) 01:40:20 返信

厨ニ病ゲームww

だがありえない話がまた面白い!

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Posted by サンディエゴ 2011年11月21日(月) 19:48:14 返信

カイムの兄貴は「アイム」やろ…………

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Posted by 名無し 2011年09月20日(火) 23:36:41 返信

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