多人数で神話を創る試み『ゆらぎの神話』の、徹底した用語解説を主眼に置いて作成します。蒐集に於いて一番えげつないサイトです。

キュトスの姉妹
結界の六十二妹


5-51グリムポーカー Grimmpoker

「街喰い」「魂喰らい」「芯抜神罰」「Hokus Pokus」


アヴロニアの一部が分離した後精月となって昇った後、残ったアヴロノたちは西の辺境に散り、少数が人と交わり西北人となった。
この際に新中原アヴロニア語と現地の言葉であったエストア祖語が混交し、現在の西方諸語の基礎となったのであるが、西北人とアヴロノが再び分かたれ、一時の住み分けをするに至りアヴロノ語派とエストア語派で再び分離した。
語彙の寄与のみならず、文法や抽象概念までもアヴロノから影響を受けるに至ったエストア語派はその後幾つかの地域で独自に変化していった。
この際、多くの西方諸語の大本となったミラ=エストア語で起こった発音、子音の変化を第二次子音推移と呼ぶ。
この子音推移には第一次は存在せず、その前段階で新中原アヴロニア語とエストア祖語が混交した際に発生した極端な言語的変質に包括されるものとして、第一次言音変質と呼ぶ。

この様な子音、発音の変化はあらゆる場所で起こっている事である。世代の移り変わりと共に少しずつ変化していく言語は短いスパンで世代交代する人間にとっては問題にはならないのだが(せいぜい祖父母と孫の意思疎通がやや不確かになる程度)長い年月を行き続けるキュトスの姉妹たちにとって、これは由々しき問題であった。
つまるところ、彼女たちが言葉を覚えた当時のまま正確に発音し表記すればするほど、人間たちにとっては理解しがたく、彼女たちの言葉はまるで大昔の老婆がわけのわからないことを喋っているようにしか聞こえないのである。
これに対応するため、姉妹たちの一部は定期的に人里を訪れ、言語の変遷の様子をつぶさに記録し、その度に姉妹間で微調整を行っているのである。無論意に介さぬ者もいるし、自らの言語を容易く変質させる事ができる姉妹もいるが。

モルンエルバ亡き後、西北人の両親に拾われ育てられたヨケルはヘリステラの迎えが来た時、人間の言語などという
些細な問題に地道な作業を続ける姉妹たちを見て、激しい憤りを感じた。
彼女はヘリステラが迎えに来た時、自分は選ばれたのだと感じた。
家業でも学業でも、いつも人並み以下の結果しか残せない。美しくも無く、動くのも苦手な肥満体。
そんな灰色の自分の人生が、やっと開けたと思ったのに、だ。
期待して分け入った魔女たちの城は、つまらぬ雑事と下らない騒ぎに満ちた、彼女の理想とはかけ離れた場所だった。憤慨した彼女は、自らが姉妹全体を変えて見せると豪語し、手始めに人よりも強大な存在である魔女が言葉を人間に合わせる必要は無いとして、小規模な共同体に現れては言葉の原型のままの維持を強制した。
しかし人の巨大な営みの中ではヨケルの威嚇行為など大海に小石を投じるようなものであり、言葉は地方ごとに訛り、省略され、混ざり合っていった。
怒り狂ったヨケルは師事していた魔女【毒花】に教わった魔術を使って一つの街の住人を虐殺した。
ヨケルは無数の魂を禁じられていた秘法を用いて自らの内に取り込み、より強大な魔女となった。
そしてヨケルはこう考えた。人間の言葉が変遷して言ったのは自分が昔のまま、弱いままだったからだ。だから自分を舐め、侮った人間たちは簡単に言葉を変化させてしまったに違いない。
ならば、自分がもっと強く恐ろしくなれば、人間は言葉を変えなくなるに違いない。
そうしてヨケルは人間の言葉が変化するたびに街を滅ぼし、人の魂を奪っていった。
次第に彼女は人の魂を奪うのが得意になり、死体からだけでなく生きたまま魂を抜き取る方法や、一度に大勢の魂を抜き取る方法を会得した。これを彼女は「芯を抜く」行為であると称しており、「何物かの本質を抜き取る」能力にまで発展したその力はあらゆるものの「芯」を抜き取り自壊させるにまで至った。

ヨケルはそうして人々から恐れられていたが、しかし言語が変化し続けるのはどうしてもとめられなかった。一時期落ち着いたかと思えば、どこから変化してどこから漏れたのか、ヨケルが少し目を放した隙にすぐに変質してしまうのである。
ヨケルは考えた。今のままでは到底言葉を統一する事は出来ない。
ならば、自分が完璧な言語を作り、その使用を強制してみてはどうだろうか。
ヨケルは小規模な街を支配し、そこでヨケル語の使用を強制した。
だが、その中でも時の流れと共に語形や発音が変化していった。ヨケルは人々を虐殺し、別の街で試行錯誤を重ねた。それを何度も繰り返すうち、彼女はその変化や推移に一定の法則があることに気がついた。
ヨケルはより広い地域に視野を広げた。彼女はヨケル語をベースとして、変化する事を前提とした言語を作り、それが予測どおりに変化するかどうかを実験したのである。
結果は七割がた的中した。ヨケルは、変化が予測できるのなら、その変化を見越した語と文法を作り、変化させ続ける事で最終的には不変の言語を作り出せるのではないかと考えた。
つまり、同じ変化を循環させる言語が作れないかと考えたのである。
一定のスパンで同じ変化を繰り返すこの言語ならば、時期によって発音や語形、些細な文法を調整した【時期変化】を習得する事で姉妹たちの言語習得の労力を最小限に出来るのではないかと考えたのだ。

しかし人々の世代間、共同体間での言語の変化を完全に予測するのは困難を極めた。ほとんど不可能だった。
それでもヨケルは諦めず、時には人口を調整し、時には教育に介入し、辛抱強く待ち続けた。
結果は、全て失敗に終わった。

打ちひしがれたヨケルは最後の手段に出た。自分自身が「言語」となることで、逆に言語の変遷を調整しようとしたのである。
秘法によって言語化したヨケルは、しかし自らが人々に使われる内にどんどん変化していくのを感じ、必死に抵抗した。だがその力、その混沌とした情報の渦は抗いようも無く、ヨケルの意思は混濁して意思の群に埋没した。


【毒花】は一言語となったヨケルを眺め、その芯をするりと抜き取った。
するとその中心に詰まっていた魂が一気に溢れ出し、ヨケルへの怨念を爆発させた。怨念に塗れた言語は呪われ、呪詛まみれになった。全ての語彙が呪詛で構成された呪われた言語は【毒花】がヨケルの芯を再び戻した事で中心を取り戻し、全身を呪いの言葉で塗れさせた悪霊を生み出したのである。
呪詛言語は一気に伝播し、大陸に広まった。
奇しくも、それは時期によって一定の変化を繰り返す、ヨケルが作ろうとして適わなかった言語であった。
【毒花】は悪霊を抱き寄せるとその新たな名前をささやいた。
その名はグリムポーカー。
ひたすら役を組み替え続ける、言の葉の配列者。


【完成】したグリムポーカーにもはや自我は無かった。完全な【毒花】の手足となったグリムポーカーは、一定周期で変化し感染し続ける細菌の様な言語と共に人々を呪い、また牙を剥く愚かな者に魂の消失という裁きを与えていくのである。

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