最終更新:ID:O/WJw4W3Dg 2010年04月29日(木) 21:39:50履歴
908 :名無しさん@ビンキー:2010/04/27(火) 12:43:46 0
マイナーな萌えに寛大な姐さん達の優しさはMUGEN大。嬉しくて涙出ちゃう
というわけで懲りずにアッシュ+アカツキで短いですが一本投下させていただきます
進展はあんまりしてない気がする
アッシュとアカツキでほのぼの(?)アシュアカなんだかアカアシュなんだかちょっと怪しい
なんだかアッシュが青臭いです。余裕たっぷりで嫌味なアンチヒーローがお好きな方にはごめんなさい
この世のあらゆる動画と無関係!
苦手な方はお手数ですがファイル削除をお願いします。
上記が平気な方はスクロールをどうぞ
―――――
夕暮れ時の大会控え室。
今日の日程が終了し、参加者たちは三々五々解散して、室内に残っているのはもう二人だけ。
その片割れであるアカツキは、背筋を伸ばしソファに腰かけて無言のまま、つけっぱなしのテレビの画面を注視していた。
本日のグッドバウトと銘打って、各地で開催されている大会から選りすぐられた名勝負、迷勝負のVTRが流れている。参考になることも多いから視聴するのはけして無駄ではないのだが、その他にやることがないというのが実際のところだった。
なぜかと言えば、その理由はこの場に居るもう1人に起因する。アカツキはテレビ画面から視線をはずし、その当人へ目を向けた。
「…アッシュ」
「ん、どうかした?」
「まだ終わらないか?」
「うん。もうちょっと我慢してよ」
呼びかけを受けて、アッシュは一瞬だけ目線を上げたが、また顔を伏せてしまう。
アッシュが熱中しているのはネイルアートだ。一人掛けのソファに座らせたアカツキの前にスツールを置いて腰掛け、手袋を外したその手を取って熱心に爪へ色を乗せている。
試合を終えて帰ろうとするアカツキを引き留め、予定が無いことを確認するなり半ば強引に事を運んだ次第だ。やすりで形を整え、ベースコートを塗り、その上で本番を迎えてもう30分ほどになるだろうか。
武骨な手の先を染め上げていくその色は、鮮やかな紅。つやつやとエナメルの輝きに塗り潰されていく自分の爪を改めてまじまじと見つめ、アカツキは複雑そうな表情を浮かべた。
「俺の爪を染めても、気色が悪いだけだと思うのだが」
「そんな事無いよ。こうすることで爪を保護する効果もあるしね」
塗り終えた薬指にふ、と息を吹きかけながらアッシュは笑う。
ネイルアートは彼の趣味だが、誰彼構わず施そうとするわけではない。アカツキに対する、餌付け以外の新しい構い方を考えた結果だ。理由はともかく、彼と居ると楽しいという感情はアッシュの中で既に確立されている。
アカツキはどう思っているだろうか、と考えなくも無かったが、自分勝手な面の強いアッシュは相手に強く拒絶されない限りは好き勝手にしようと決めていた。
「さあ、次は左手貸して」
「む。終わったのではないのか?」
「まだだよ。トップコートも塗らなくちゃ」
そういうものか、と呟きながらもアカツキは素直に左手を差し出した。解放された右手は、塗られたばかりの爪をどこかへ擦らないように気をつけながら、慎重にアームレストへと置く。手袋とは違う、爪先に薄皮一枚被せられたような、不思議な感覚がする。マニキュアが乾くまでじっと動かずに待たされるのは精神修練にも似ているが、今の状況では修行の足しにはならなそうだった。
そもそも、爪を塗らせてくれない? と唐突に頼まれた時、どうして断らなかったのかアカツキ自身にも良く解っていなかった。
自分のことすら不可解なのに、何時の間にやらしょっちゅう一緒に居る様になった少年の真意など余計に解らない。ただ、共に過ごす時間は悪くなかった。アッシュの考え方も行動も、アカツキにとっては新鮮だ。お互い似ているところが少ないのが、逆に良いのかもしれない。
アカツキは仏頂面の下でそんなことをつらつらと考えていたが、ふとその表情が僅かに強張った。
「アッシュ。緊急事態だ」
「どうかした?」
「……腹が減ってきた」
「ああ……」
至極真面目な表情でなされた訴えに、アッシュは苦笑いを浮かべて頷いた。
確かに、大地震の余震に似た不穏な音が響き始めている。丁度左右ともにトップコートまで塗り終えたところだが、乾くまでにはまだ時間を置かねばならない。
「まだ手を使っちゃダメだからね。折角キレイに塗ったのがよれちゃうから」
「しかし……」
「ちょっと待ってて」
食い下がるアカツキの頭の上に、しゅんと力なく伏せる犬の耳を幻視して、可愛いなあ撫でたいな、と極自然に湧き上がってきた欲求を寸でのところでいなし、何食わぬ顔で立ち上がったアッシュは控室に備え付けられた流し台へと向かった。
その隅の冷蔵庫から長方形のケーキボックスを取り出す。午後の空き時間に買っておいたそれはアッシュの好物であるザッハトルテだ。
ケーキを皿の上に乗せ、銀のフォークを添えてアカツキの元へ戻る。漂う甘い匂いにぴくりと表情を動かしたアカツキに微笑みかけて、フォークで切り取った一欠けを差し出す。
「はい、あーん♪」
差し出されたフォークの先と微笑むアッシュとの間を、口を真一文字に引き結んだままのアカツキの視線が数回往復する。子供を通り越して幼児じみた扱いは流石に座りが悪い。
それでも結局は食欲に負けて、躊躇いがちに唇を開くとすぐに舌の上までザッハトルテが押し込まれる。とろりととろけるチョコレートの甘さが広がって、アカツキの表情が無意識に緩んだ。
「美味しい?」
「ああ。かたじけない」
「爪を弄らせてくれるお礼代わりだよ。さ、もう一口」
「ん」
アッシュの手から与える分、普段のアカツキの食事スピードよりかなりゆっくりだが、この分なら食べ終える頃にはネイルも乾いているだろう。
開き直ったのか素直に食べさせられているアカツキの、咀嚼の度に動く頬のラインや喉の動きをじっと観察しているうちにドキドキと鼓動が煩くなっているのを自覚して、アッシュは表に出さないように苦笑した。かなり末期だ。
可愛い、ずっと見ていたい、という今までにもあった欲求の下から湧きあがって来るのは何だろう。本当はもう知っているけれど、目をそらし続けている。
(だってそんなのボクらしくないじゃないか)
言い訳を続けて、ポーカーフェイスを装っている。
「……雛鳥にでもなった気分だ」
皿の上のザッハトルテが殆ど消えた頃、もぐもぐと口を動かす合間にぽつりとアカツキが呟いた。
アッシュはフォークで最後の一欠けを掬い上げながら、そうかもねと相槌を打つ。そうしてからふと思い出した話を、何の気なしに口に出した。
「小鳥は雛のうちから餌をやってると人に慣れて、手乗りになるんだってね」
「乗られたいのか?」
「物理的に無理でしょ」
アッシュはアカツキの口から出たその言葉の響きに内心ドキリとしたが、彼の言うことは概ね額面通りに受け取るべきだということを、それなりの交流を経て既に悟っている。含んだ意味や意図など無い、言いたいことがあるならストレートに表現するだろうから。だから笑いながら否定して、最後の一口分のザッハトルテを差し出そうとする。
ああ、でもデフォルメサイズのアカツキさんを飼えたら楽しいかも、何処かで事故ってそういうロマン技が炸裂しないかなあ、と他愛も無い空想を巡らせるアッシュは、その為に手元が少し狂ったのだ。
甘いケーキを招き入れて閉じた唇の端に残ったチョコレート。
フォークを引きながらそれに眼を惹かれたアッシュは、気付いた時には顔を寄せていた。
ちゅっ、と軽いリップ音。
唇を掠めるようにして舐めとった、自分好みのチョコレートの味が舌の上で広がった次の瞬間、驚きに丸くなった瞳と至近距離で視線がぶつかった。
「……あ、」
我に帰ってぱっと顔を離したアッシュの脳内を混乱が満たす。ああついやっちゃったこんなつもりは無かったのにどうしよう?
アカツキはきょとんとした表情のまま固まって、無言でアッシュを見上げている。説明を求める視線に射抜かれて、何とか言い訳を搾り出す他ない。
「…………こ、好物なんだよね。ボクの」
「ああ、そうだったのか」
ほう、と納得されてしまって良いのか悪いのか、アッシュは内心頭を抱えたくなった。全く行間読まないってそれ、日本人としてどうなの?
「俺一人で平らげてしまって悪かったな。……もう手を動かしても構わないか?」
「あ、うん。もう乾いたと思うから」
直ぐさまいつも通りの調子に戻ってしまったアカツキに一抹の淋しさと安堵を同時に感じて、アッシュはひそかにため息をついた。
そんなアッシュをよそに、アカツキは目の前に翳した自分の手の爪をまじまじと眺めている。
鮮烈なクリムゾン・レッド。武骨な手に似合わない艶めきにはやはり違和感が付き纏うけれど、不思議と不愉快ではない。
「アカツキさん、この後暇でしょ? 濤羅さん達と行ったっていう屋台、連れてってよ」
「ウム、そうしよう」
気を取り直したアッシュに促され、その手を手袋に納め立ち上がる。
並んで控室を出、何かれと喋り続けるアッシュの声に耳を傾け時折相槌を打ちながら、アカツキはふと己の鼓動が速まっていることに気がついた。
(これは何だ?)
心臓の上に手を当ててみる。そうなる心当たりはないのに、間違いなくリズムが速い。
「…アカツキさん? どうかしたの」
「―――」
相談をしてみようとして開きかけた口から、しかし言葉は出てこなかった。
「……いや、何でもない」
頭を振って、手を下ろす。
子供ではないのだから体調管理は自分ですることだ、と思い直して。
「またお腹減ってきたんでしょう。ちょっと急ごうか」
からかい混じりのアッシュの言葉に、多分そうなのだろうと頷くアカツキが正解を得るまで、後どれ程か。
アッシュが己の感情を直視するのとどちらが早いかは、まだ誰にも解らない。
すっかり暗くなった空にぼんやりと浮かぶ月だけが、二人を見ていた。
おしまい。
マイナーな萌えに寛大な姐さん達の優しさはMUGEN大。嬉しくて涙出ちゃう
というわけで懲りずにアッシュ+アカツキで短いですが一本投下させていただきます
進展はあんまりしてない気がする
アッシュとアカツキでほのぼの(?)アシュアカなんだかアカアシュなんだかちょっと怪しい
なんだかアッシュが青臭いです。余裕たっぷりで嫌味なアンチヒーローがお好きな方にはごめんなさい
この世のあらゆる動画と無関係!
苦手な方はお手数ですがファイル削除をお願いします。
上記が平気な方はスクロールをどうぞ
―――――
夕暮れ時の大会控え室。
今日の日程が終了し、参加者たちは三々五々解散して、室内に残っているのはもう二人だけ。
その片割れであるアカツキは、背筋を伸ばしソファに腰かけて無言のまま、つけっぱなしのテレビの画面を注視していた。
本日のグッドバウトと銘打って、各地で開催されている大会から選りすぐられた名勝負、迷勝負のVTRが流れている。参考になることも多いから視聴するのはけして無駄ではないのだが、その他にやることがないというのが実際のところだった。
なぜかと言えば、その理由はこの場に居るもう1人に起因する。アカツキはテレビ画面から視線をはずし、その当人へ目を向けた。
「…アッシュ」
「ん、どうかした?」
「まだ終わらないか?」
「うん。もうちょっと我慢してよ」
呼びかけを受けて、アッシュは一瞬だけ目線を上げたが、また顔を伏せてしまう。
アッシュが熱中しているのはネイルアートだ。一人掛けのソファに座らせたアカツキの前にスツールを置いて腰掛け、手袋を外したその手を取って熱心に爪へ色を乗せている。
試合を終えて帰ろうとするアカツキを引き留め、予定が無いことを確認するなり半ば強引に事を運んだ次第だ。やすりで形を整え、ベースコートを塗り、その上で本番を迎えてもう30分ほどになるだろうか。
武骨な手の先を染め上げていくその色は、鮮やかな紅。つやつやとエナメルの輝きに塗り潰されていく自分の爪を改めてまじまじと見つめ、アカツキは複雑そうな表情を浮かべた。
「俺の爪を染めても、気色が悪いだけだと思うのだが」
「そんな事無いよ。こうすることで爪を保護する効果もあるしね」
塗り終えた薬指にふ、と息を吹きかけながらアッシュは笑う。
ネイルアートは彼の趣味だが、誰彼構わず施そうとするわけではない。アカツキに対する、餌付け以外の新しい構い方を考えた結果だ。理由はともかく、彼と居ると楽しいという感情はアッシュの中で既に確立されている。
アカツキはどう思っているだろうか、と考えなくも無かったが、自分勝手な面の強いアッシュは相手に強く拒絶されない限りは好き勝手にしようと決めていた。
「さあ、次は左手貸して」
「む。終わったのではないのか?」
「まだだよ。トップコートも塗らなくちゃ」
そういうものか、と呟きながらもアカツキは素直に左手を差し出した。解放された右手は、塗られたばかりの爪をどこかへ擦らないように気をつけながら、慎重にアームレストへと置く。手袋とは違う、爪先に薄皮一枚被せられたような、不思議な感覚がする。マニキュアが乾くまでじっと動かずに待たされるのは精神修練にも似ているが、今の状況では修行の足しにはならなそうだった。
そもそも、爪を塗らせてくれない? と唐突に頼まれた時、どうして断らなかったのかアカツキ自身にも良く解っていなかった。
自分のことすら不可解なのに、何時の間にやらしょっちゅう一緒に居る様になった少年の真意など余計に解らない。ただ、共に過ごす時間は悪くなかった。アッシュの考え方も行動も、アカツキにとっては新鮮だ。お互い似ているところが少ないのが、逆に良いのかもしれない。
アカツキは仏頂面の下でそんなことをつらつらと考えていたが、ふとその表情が僅かに強張った。
「アッシュ。緊急事態だ」
「どうかした?」
「……腹が減ってきた」
「ああ……」
至極真面目な表情でなされた訴えに、アッシュは苦笑いを浮かべて頷いた。
確かに、大地震の余震に似た不穏な音が響き始めている。丁度左右ともにトップコートまで塗り終えたところだが、乾くまでにはまだ時間を置かねばならない。
「まだ手を使っちゃダメだからね。折角キレイに塗ったのがよれちゃうから」
「しかし……」
「ちょっと待ってて」
食い下がるアカツキの頭の上に、しゅんと力なく伏せる犬の耳を幻視して、可愛いなあ撫でたいな、と極自然に湧き上がってきた欲求を寸でのところでいなし、何食わぬ顔で立ち上がったアッシュは控室に備え付けられた流し台へと向かった。
その隅の冷蔵庫から長方形のケーキボックスを取り出す。午後の空き時間に買っておいたそれはアッシュの好物であるザッハトルテだ。
ケーキを皿の上に乗せ、銀のフォークを添えてアカツキの元へ戻る。漂う甘い匂いにぴくりと表情を動かしたアカツキに微笑みかけて、フォークで切り取った一欠けを差し出す。
「はい、あーん♪」
差し出されたフォークの先と微笑むアッシュとの間を、口を真一文字に引き結んだままのアカツキの視線が数回往復する。子供を通り越して幼児じみた扱いは流石に座りが悪い。
それでも結局は食欲に負けて、躊躇いがちに唇を開くとすぐに舌の上までザッハトルテが押し込まれる。とろりととろけるチョコレートの甘さが広がって、アカツキの表情が無意識に緩んだ。
「美味しい?」
「ああ。かたじけない」
「爪を弄らせてくれるお礼代わりだよ。さ、もう一口」
「ん」
アッシュの手から与える分、普段のアカツキの食事スピードよりかなりゆっくりだが、この分なら食べ終える頃にはネイルも乾いているだろう。
開き直ったのか素直に食べさせられているアカツキの、咀嚼の度に動く頬のラインや喉の動きをじっと観察しているうちにドキドキと鼓動が煩くなっているのを自覚して、アッシュは表に出さないように苦笑した。かなり末期だ。
可愛い、ずっと見ていたい、という今までにもあった欲求の下から湧きあがって来るのは何だろう。本当はもう知っているけれど、目をそらし続けている。
(だってそんなのボクらしくないじゃないか)
言い訳を続けて、ポーカーフェイスを装っている。
「……雛鳥にでもなった気分だ」
皿の上のザッハトルテが殆ど消えた頃、もぐもぐと口を動かす合間にぽつりとアカツキが呟いた。
アッシュはフォークで最後の一欠けを掬い上げながら、そうかもねと相槌を打つ。そうしてからふと思い出した話を、何の気なしに口に出した。
「小鳥は雛のうちから餌をやってると人に慣れて、手乗りになるんだってね」
「乗られたいのか?」
「物理的に無理でしょ」
アッシュはアカツキの口から出たその言葉の響きに内心ドキリとしたが、彼の言うことは概ね額面通りに受け取るべきだということを、それなりの交流を経て既に悟っている。含んだ意味や意図など無い、言いたいことがあるならストレートに表現するだろうから。だから笑いながら否定して、最後の一口分のザッハトルテを差し出そうとする。
ああ、でもデフォルメサイズのアカツキさんを飼えたら楽しいかも、何処かで事故ってそういうロマン技が炸裂しないかなあ、と他愛も無い空想を巡らせるアッシュは、その為に手元が少し狂ったのだ。
甘いケーキを招き入れて閉じた唇の端に残ったチョコレート。
フォークを引きながらそれに眼を惹かれたアッシュは、気付いた時には顔を寄せていた。
ちゅっ、と軽いリップ音。
唇を掠めるようにして舐めとった、自分好みのチョコレートの味が舌の上で広がった次の瞬間、驚きに丸くなった瞳と至近距離で視線がぶつかった。
「……あ、」
我に帰ってぱっと顔を離したアッシュの脳内を混乱が満たす。ああついやっちゃったこんなつもりは無かったのにどうしよう?
アカツキはきょとんとした表情のまま固まって、無言でアッシュを見上げている。説明を求める視線に射抜かれて、何とか言い訳を搾り出す他ない。
「…………こ、好物なんだよね。ボクの」
「ああ、そうだったのか」
ほう、と納得されてしまって良いのか悪いのか、アッシュは内心頭を抱えたくなった。全く行間読まないってそれ、日本人としてどうなの?
「俺一人で平らげてしまって悪かったな。……もう手を動かしても構わないか?」
「あ、うん。もう乾いたと思うから」
直ぐさまいつも通りの調子に戻ってしまったアカツキに一抹の淋しさと安堵を同時に感じて、アッシュはひそかにため息をついた。
そんなアッシュをよそに、アカツキは目の前に翳した自分の手の爪をまじまじと眺めている。
鮮烈なクリムゾン・レッド。武骨な手に似合わない艶めきにはやはり違和感が付き纏うけれど、不思議と不愉快ではない。
「アカツキさん、この後暇でしょ? 濤羅さん達と行ったっていう屋台、連れてってよ」
「ウム、そうしよう」
気を取り直したアッシュに促され、その手を手袋に納め立ち上がる。
並んで控室を出、何かれと喋り続けるアッシュの声に耳を傾け時折相槌を打ちながら、アカツキはふと己の鼓動が速まっていることに気がついた。
(これは何だ?)
心臓の上に手を当ててみる。そうなる心当たりはないのに、間違いなくリズムが速い。
「…アカツキさん? どうかしたの」
「―――」
相談をしてみようとして開きかけた口から、しかし言葉は出てこなかった。
「……いや、何でもない」
頭を振って、手を下ろす。
子供ではないのだから体調管理は自分ですることだ、と思い直して。
「またお腹減ってきたんでしょう。ちょっと急ごうか」
からかい混じりのアッシュの言葉に、多分そうなのだろうと頷くアカツキが正解を得るまで、後どれ程か。
アッシュが己の感情を直視するのとどちらが早いかは、まだ誰にも解らない。
すっかり暗くなった空にぼんやりと浮かぶ月だけが、二人を見ていた。
おしまい。
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