320 :名無しさん@ビンキー:2010/05/30(日) 05:10:56 0
ワラキアの誕生日と聞いては書かずにいられなかった。今は反省している
というわけで流れを断ち切って申し訳ありません、エディ×ワラキアの夜、ゲストにシオンさんなssを投下させて頂きます
がっかり一晩クオリティ。
誕生日だから砂糖大盛りでも良いよね!という気分で書いた結果、うんなんていうかそんな感じ…
盛大にキャラが壊れてます。ぬるエロもありR18。ご注意
吸血鬼ころしとかスレのネタを使わせて頂きました。何か拙いところがありましたら削除します…!










*エディ×ワラキアの夜で誕生日ネタ
*ゲストにシオンさんをお招き
*狼牙バースデーもほんのり引用
*ぬるく性描写を含みます(R18)

上記にNGの無い方はスクロールをどうぞ↓
広い心で御読みくださいorz














***


 風の強い夜だった。
 硝子一枚隔てた窓の外ではびゅうびゅうと風が鳴り、遥か上空では満月にかかる雲を押し流し長くたなびかせている。
 その風鳴きに邪魔をされているわけではないけれど、エディは未だ眠りに落ちずにいる。
 傍らでは、ワラキアが静かに眠っていた。殆ど寝息も立てずにいるから、死んだような眠りと呼ぶに相応しい。
 その剥き出しの肩が冷たくなっているのに気がついて、シーツを引っ張り上げた。ついでに何となく、白皙を通り越して蒼白い額の生え際にキスをする。
 それがこそばゆいのか僅かに身動いだワラキアを起こさないようそれ以上の手出しは切り上げて、天井を仰ぐ。
 温度の低い身体には適度な疲労感がある。無為に夜を明かす必要はないのだけれど、心に引っ掛かりが残っているものだから眠気が訪れてこないのだ。ならばそれに意識を向けて解消しようにも、そうしようとすればするほど思考は散漫になり、逆に集中力を欠いていることは自覚していた。
 昨日、既に日を跨いだから一昨日か。ずっとそのような状態であったから、ワラキアには悟られていただろうに、敢えて触れてこなかった彼の気遣いには感謝している。エキセントリックに過ぎる性分でも時には驚く程的確だ。寧ろ普段の、気取り澄まして芝居がかった振る舞いや、その逆、解剖医の振るうメスの様に鋭く分析的過ぎて遠慮のない物言いのほうが多分わざとなんだろう、と思っている。時折見せる狂態も、それはそれで歪んでしまった本性なのだろうけれど。
 そんなことをとりとめもなく考えるエディの脳裏に、その瞬間にも浮かんで消えないのは、耳に挟んだ他愛のない言葉たち。試合会場の廊下で漏れ聞いた喧騒だ。

 ハッピー・バースデー。
 生まれてきてくれて、ありがとう。

 人は生まれた日を記念にして、歳を重ねる毎に祝うのだという。
 これまでのエディにとって、経た年月などは死に至るまでのカウントダウンに過ぎなかったけれど。

 ハッピー・バースデー。
 巡り逢えたことに感謝を。

 そう。
 どんな形であれ、例え誰に望まれなくとも、生まれてきたからからこそ無二の存在に出逢えたのだとしたら。否、そうに違いないのだから。
 誕生日とは、祝うに値する日なのだろう。

 ハッピー・バースデー。
 今日からの君も幸せであるように。

 傍らで眠るワラキアが身動いだ。
 指先が幾度かシーツを掻き、その合間にエディの腕を見付けるとそれに指を絡めてまた大人しくなる。

 ハッピー・バースデー。
 愛しき人よ。

 そう、恐らく自分は祝ってやりたいのだ。己の生まれの謂れを知らぬ分も、この男を。
 死徒と化そうがかつて人であったからには訪れるだろう、誕生日というものを。


***


「…………それで何故、私の所へ来るのですか」

 意外な客のこれまた意外な用件を聞いて、シオンは痛みを訴えるこめかみに指を当て、非常に微妙そうな表情を浮かべた。
 その珍客であるところのエディは、全く悪気のない態度の巨きさで用件を繰り返す。

「ワラキアの誕生日を一番知っていそうなのがお前だと思ったから聞きに来たに決まっているだろう」
「本人に聞けば良いでしょう、本人に」
「うん? 祝う相手には秘密にしておくものじゃないのか」
「まあ……そういうサプライズもありますが。もう一度聞きますが、貴方は本当に知らないのですか?」
「くどい。知らないものは知らん、そもそも今まで興味が無かったのだ」
「そう、ですか」

 シオンはふ、とため息を一つ吐いて、気の長い方ではなさそうな相手に答えを示すことにした。

「明日ですよ」
「……何?」
「5月30日。このタイミングで尋ねられたら、冗談も疑うというものです」

 貴方にとって幸運だったのかそれとも不運だったのかは解りかねますが、と続けるシオンを前に、エディはそうか明日かと独りごちた。
 確かにシオンの言う通り、図ったようなタイミングだ。

「何、間に合ったからには幸運だ。急に訪ねてきて悪かったな、助かったぞ」
「は、」
「……何だ、その意外そうな態度は」
「いえ……礼を言われるとは思っていなかったもので」

 シオンはばつが悪そうに視線を逸らし咳払いをしてから、少し待っていて下さいと言い残し奥へと引っ込んだ。そうしてすぐに戻ってきた彼女の手には一枚の封筒が摘まれている。
 シンプルながらも上品な箔押しのされたそれは、バースデーカードか何か、ともかく贈り物の類いなのだろうとエディにも察しがついた。

「折角なので、これを。明日のお祝いのついでに、ワラキアに渡して下さい。……私はどうにも訪ねにくくなってしまったので」

 あの男をよろしくお願いしますと言い結んで、シオンはまた引っ込んでしまった。
 どうも照れているらしい彼女とワラキアに血縁を感じた気がして、エディは愉快そうに笑った。しかし何時までも足を止めているわけにはいかない。踵を返し、早速プレゼントの目処をつけるべく足早にその場を立ち去った。


***


 そして、深夜。
 あれこれと迷ううち、随分と時間をかけてしまった。もう日付が変わる直前だったが、言いかえれば丁度良いタイミングなのだと前向きな思考を巡らせながら、片手にはラッピングの施された化粧箱、もう一方には赤い薔薇の花束を抱えてエントランスをくぐる。ふと、壁の飾り棚に置かれた花瓶に挿された白百合が萎びかけていることに気づいた。ふちが僅かに茶色く変色しかけた花弁を指先で小突くと、思いの外抵抗もなくそのまま落ちてしまった。つられるように、同じがくに納まっていた他の花びらもぽろぽろと散っていく。一瞬ぎくりとしたものの、替え時だったのだからひと思いに引導を渡してやったのだと思い直してそのまま室内へと歩を進める。
 リビングにワラキアの姿は無かった。キッチンにも気配はない。それを確認したエディはさらに奥へ向かい、寝室のひとつ手前の扉に手を掛けた。間取りとして明らかに奇妙な場所に位置するそのドアは、ワラキアの書斎、兼研究室に繋がっている。どのように空間・時間を歪めているのかはエディには知るべくもないが、ともかく何時の間にやら勝手に増改築されていたうちの一部であるこの部屋は、主に招かれざる者が立ち入ることは叶わない。たいした来客の当ても無いのに神経質過ぎるのではないか、と出入りが自由なエディは暢気に考えている。
 はたしてワラキアはその部屋の中に居た。高い天井に届くまで伸びた本棚が三方を埋める、窓の無い部屋。無数の書物がぎっしりと本棚を埋め、それでも到底収まりきらずそこかしこに積まれている。ワラキアはその部屋の中央、ローテーブルを挟んで向かい合わせのソファの一方に深く腰掛け、分厚い書物を広げながら何やら手元でメモを書き付けていた。

「御帰り、エディ。……うん? 薔薇の匂いがするな。珍しいこともあるものだ」

 同居人の気安さから、ワラキアは顔も上げずに御決まりの挨拶だけを寄越したが、途中で花の芳香に気づいたらしい、ゆるりと首を巡らせる。
 エディは無言で、その鼻先に薔薇の花束を押し付けた。堪らずけほりと噎せる気配が振動で伝わってくる。

「全く、何の嫌がらせかね。……ああ、これはブルグンド'81か。天鵞絨の様な美しい深紅だ」

 不愉快そうに眉を顰めたワラキアだったが、押し付けられた花束を抱えて検分するうちに機嫌を直したらしい。オーソドックスな品種だがそれ故に美しい、その名前の由来は……等々早速蘊蓄を語り始めたその肩を、トントンと叩く。何か用かと再び顔を上げた隙をついて、唇を塞いだ。少しは黙れと言葉にするより、ずっと簡単だ。
 喉も潤さず此処に籠って本を読んでいたのか、少し乾いた唇を軽く啄んでから少しだけ距離を置く。良く回る舌が再び言葉の洪水を生み出す前に、先手を打った。

「―――誕生日、おめでとう」

 アンティークの置時計が、日付を越えた証の鐘を鳴らす。
 その音色がきっかり十二回を数え終える頃、ワラキアは呆けたように表情を抜け落としたまま、ことりと首を傾げた。

「……誕生日?」
「5月30日、だ。ズェピア・エルトナム・オべローン、貴様の生まれた日なのだろう?」

 かつての名を呼ばれて、ワラキアの表情に色が戻る。戸惑いと驚き、そして―――喜び。

「どうして、君が? 私自身ですら、永い時の果てに置き去りにしてしまっていたというのに」
「誕生日を祝うという行為をしてみたかった、それだけだ。貴様の娘は物識りだぞ、ズェピア」

 愉快そうなエディの言葉で筋書きを察したのか、ワラキアの唇が言い様の無い微笑の形に歪んだ。くつくつと喉を鳴らして笑い、堪らぬと言いたげに天井を仰ぐ。

「吸血鬼と化し、タタリと化し……月の満ち欠けを幾千と数えた果てに、人の子の如くに誕生を祝われるとは不意打ちにも程がある。年寄りをあまり驚かさないでくれ給え」
「驚かすのも目的の一つだ。先程の様に呆けた貴様は中々珍しい」
「意地が悪いな、エディ。……ああ、いや、怒っている訳ではないのだよ? とても嬉しいとも、……ありがとう」
「解っている。俺の察しが悪いような口振りは止せ」

 怒ったような言葉とは裏腹に、エディも笑みを堪え切れぬ様子でキスの返礼を頬に受けた。そこで預かり物の存在を思い出して、白い封筒をワラキアへと手渡す。

「こっちはシオンからの届け物だ。……どうにも貴様を訪ねにくいとか何とか言っていたが、喧嘩でもしでかしたのか?」
「はて。此方へ来てからは大分友好的にしている心算だし、いつでも遊びにおいでと伝えてあるのだがね」

 ワラキアは首を傾げながら封を切り、中から一枚のカードを取り出した。
 その文面を無言で読む横顔がかすかに微笑んでいるから、エディは彼らのいびつな父娘関係を案じることを止めた。
 自分を含めて、全く何もかもが歪んでいるけれど、微温湯と苛酷さが隣り合わせになったようなこの世界は悪くない。

「こっちも開けてみろ」
「おや。まだとっておきがあるのか」
「半分は俺が頂くがな」

 読み終えたカードを元通り仕舞い込むのに合わせ、もう一つのプレゼントをワラキアへと押しやった。
 その包装を丁寧に剥いで、成程とワラキアは笑う。中身はワインが一瓶だ。

「ふむ、知らない文字だ。ルーンに似ているが……」
「異界の酒だそうだ。詳しくは知らんが、吸血鬼の口に良く合うらしいぞ」

 ワラキアの指が、くさびに似た文字の並んだラベルを興味深げになぞる。
 今にも学術的好奇心を発揮しそうな様子だったが、流石に本棚に飛びついて文献に当たる様な真似はしない。代わりに膝の上に置いていた花束をバースデーカードとともに傍らへ置き、立ち上がってマントを一振り。その軌跡が表面を軽く撫でただけで、ローテーブルの上に乱雑に積まれた書物やメモやインクが一瞬で消え、代わりにワイングラスがふたつとソムリエナイフが現れた。

「有り難く頂くよ。さあ、乾杯といこう」
「ああ。……開けてやる、こっちに寄越せ」

 エディはワラキアが手に取ったナイフとワインボトルをさっと取り上げ、向いのソファに腰を掛けてからその口を切る。
 小気味よい音とともにコルクが抜けたと同時に香るのは、特に目立って変わったことは無い赤ワインの芳香だ。グラスに注いだその色も、濃厚な深紅。動脈血に似ていなくもないが、エディが密かに想像していた血の味はしなさそうだった。
 兎に角も互いにグラスを手に取った。

「ズェピア、貴様の生まれた日に」
「エディ、君が私にもたらしてくれる全てのものに」

 乾杯、とグラスのふちを合わせ、凛と澄んだ音を鳴らす。
 マナーにうるさいワラキアも、今夜ばかりは微笑んだまま、ワインに口をつけた。

「……ほう。確かに、舌触りの良い味だ。香りもそそる、これならつまみの心配は要らないようだ」
「そうか?」

 感嘆の声はすぐに上がった。しかしエディには特にこれといった特徴の知れない凡庸な赤ワインの味としか感じられなかったので、首を捻る。これならいつであったか、ワラキアが引っ張り出してきた年代物の一瓶のほうが有難味がある気がする。
 まあプレゼントの受取り手が喜んでくれたのなら良いかと納得して、上機嫌にも早速一杯目を乾したワラキアのグラスに次を注いでやる。
 いつもよりペースが大分早いが、彼も多少はしゃいでいるのだろうと解釈した。珍しいし、その方が可愛い。

 そんな調子でボトルの半分、その殆どをワラキアが飲み終えた頃。エディは己の見通しの甘さを痛感することになるのだった。

「エディ、エディ。いつのまにそんな精緻な分身を、みっつも出したのかね? どれが本物か見分けがつかないよ」

 蒼白い顔をほんのりと桜色に染めて、何が楽しいのか満面の笑顔で指さしてくるワラキアを前に、エディは痛むこめかみを押さえていた。このポーズつい半日前に見たな、とかどうでもいいこともちょっと考えている。

「しっかりしろ。俺は何もしてない、貴様何故いきなりそんなに酔っぱらってるんだ」
「酔ってない、酔ってなどいないとも。たかがボトル半分でわたしが酔うなどと、あるはずがないだりょ?」
「いや、思いっきり噛んでるぞ。呂律が怪しすぎるだろう」

 奇声と血飛沫がセットの狂態とはまた方向性を別にする様変わりを果たしたワラキアは、エディの突っ込みもなんのその、あははと何時になく朗らかな笑い声を立てた。
 その手がなおもボトルに伸びるのを察知して、寸前で取り上げる。どう考えてもこの酒で悪酔いしているのだ。否、それだけなら良いけれど妙な薬物の影響だったとしたらより性質が悪い。勧められるままに由来の知れぬものを買って来たのは拙かったかとエディが後悔しているうちに、美酒をお預けされたことで手持ち無沙汰になったか、重力を無視した動きでワラキアの身体がふわりとテーブルを乗り越え、そのままぎゅうと抱きつき圧し掛かってきた。
 ぐえ、と肺から押し出された空気で震える喉の辺りに、猫が甘える仕草で頬を擦り寄せてくる。

「おい、重……」
「エディ。好きだよ、エディ」
「……ズェピア?」

 鈴を転がすような笑い声が、次第にトーンを落としてしっとりと艶を帯びる。
 明け透けな言葉を繰り返す幼稚な口調と重なって、妙な色気を醸し出す。その唇が、首筋から頬へ、唇や鼻先へと次々に落ちてくる。

「ずっと傍にいておくれ。君がいるから、私はズェピアで居たいんだ。エディ、きみがいるからだ」

 すきだ。あいしてる。だきしめて。そばにいて。
 きみのそばに。わたしのそばに。きみとふたりで。

 言葉が、キスが、雨のように降る。
 その慈雨に打たれながら殆ど息を詰め、両眼を覆う拘束具の下の眉間にぎゅうと皺を寄せていたエディは、やがて強張る全身に込めていた力をゆるゆると抜いた。

「エディ、わたしのエディ。だいすきだよ、すごく好き、だ」
「ああ、もう。解ったから、少し、黙れ……おかしくなる」

 抱きついてきたワラキアと取り上げたワインとの距離を置くため目一杯伸ばしていた腕を引き戻し、腰の砕けた猫のような彼から顔をそらして、ちゃぷんと揺れるボトルの中身を一気に呷る。
 この酒がいけない。吸血鬼に効果覿面で、こんなにも彼を酔わせてしまう酒が。
 多分、後々ワラキアは怒るだろう。もしかしたら、記憶にも残らないかもしれない。
 だから、これきりにするために、ワインは乾してしまわなければいけない。これ一度きり、だ。
 胸中でそう繰り返し、ボトルに残った殆どを飲み干して、最後の一口を口移しで、ワラキアに与えた。

「おかしくなるんだ、……ズェピア」

 その一瞬、驚くほど芳醇なワインの酒精が口腔を満たした。それがきっと、ワラキアを狂わせる味なのだろうと、思った。


***


 すっかりくたりとして力を失くした身体を抱きあげて、寝室に移動するくらいの理性はエディにも残されていた。すなわち、書斎で事を為すと確実に後でワラキアが怒るだろうなと予想するに等しい。
 横抱きに抱き上げたワラキアは内側から火照っているようで、まるで人のような体温を帯びている。衣服越しにも感じられる温もりに奇妙な感慨を抱いた。
 暗い寝室に、しかし灯りは必要無い。レースのカーテンだけが引かれた窓から差し込む月明りだけがほんのりと、部屋とその主たちを照らしている。

「エディ、」

 ベッドの上に横たえられたワラキアは、甘える幼児の様にゆるりと両腕を伸ばし、そんなところまですっかり温まっている指先で己の上に覆い被さるエディの頬を撫でた。

「おかしくなろう、エディ。君と二人なら、恐ろしいことなどなにもないよ」

 返答は、酒精の残る口付けで。そう、キスは何時だって、言葉より容易い。
 エディはずっとそう思っていたけれど、子供の様な無邪気さで饒舌な今夜のワラキアに今だけは感化されてしまおうと、温い舌で相手のそれを絡み取るうちに考え直す。
 ぬるりと互いの間で唾液を滑らせ唇を離せば、不満げにもっとと強請る素直な表情に向かって、落とす。絞り出すような愛の言葉を。

「……愛している。誰よりも、他の誰でもなく、ズェピア……おまえだけを」

 途端に、ワラキアがあまりに幸せそうに微笑むから、エディは何故だか泣きたくなる。
 その理由も解らぬ激情が伝染してしまえばいいと願って、今度こそキスに想いを込めた。

「ん、……っ、……ぁ」

 組み敷き押さえつけた身体が身じろぐ度に、整えられたシーツに波が立つ。
 ただでさえアルコールで温まっていた身体はあっという間にどこもかしこも熱を帯びて、ワラキアの色づいた額に汗が滲む。
 汗を吸って張り付いた金髪に気がついて、エディは右手でその髪を払った。そうして剥き出しになった額に唇を落とす。額ばかりで無い、頬にも、耳にも、また唇にも。お返しとばかりにキスを繰り返すエディに縋るワラキアの両手が、はずみでその顔から拘束具を奪い取る。それを咎めることもせず、口付けは徐々に首筋から下へと降りていく。

「あ、……エディ、っ」

 差し入れた掌で脇腹から腰へとそのほそりとしたラインをなぞるだけで、ワラキアは面白いように反応を返してきた。その高く引き攣った声音がエディを煽る。
 熱いのはワラキアの膚か、己の掌かも解らない。その性急さに内心苦笑して、早々に狙いを下肢へと定めた。

「ひ、……っ!」

 中心をやんわりと握り込めば、既に硬さを帯び始めたそこを起点にワラキアの背筋がしなった。すっかり乱した衣装と裸の背中との間に空隙が空く。
 エディはその過敏な反応を楽しみながら、剥き出しにしたそれへ躊躇なく舌を伸ばした。
 透明な雫でぬめる先端から、根元へ至る幹を。途中、反り返った段差を殊更丁寧に愛撫すれば、更に雫が滴った。
 ワラキアは苦しそうな程に息が上がっている。拠り所を求め髪に絡む指に力が込められて引き攣る様な痛みが走ったが、それで安心するなら好きすればいいとエディは思う。
 根元を支える手まですっかり濡れて、その親指で後ろの奥まった場所をぐるりと辿ればやはり敏感な反応が返される。幾度か入口を解すようになぞり、いよいよ人差し指を挿し入れると、その中は表皮にも増して、熱い。
 そうして後ろをあやしながら、すっかり勃ち上がった屹立を幾度か喉の奥まで招くうち、ワラキアがどうやら必死に耐えているようだと察しがついた。抗いがたい快楽と、このまま達してしまうことへの後ろめたさに板挟みとなって。訴える声色は、もう涙声だ。

「あぁ、エディ、苦しいんだ……もうっ」
「達ってしまえば良い。お前の精も、俺のものにしてやる」
「っ、や、あぁ……ッ!」

 一緒におかしくなるのだろうと囁いて、先端の窪みを舌先で抉る。後ろへ忍ばせた指も、一等好いところを。その瞬間に、びくりと大きな震えが走って、白い熱が迸った。
 言葉通りにその精を受け止め飲み下し、指も引き抜いてゆるりと顔を上げたエディは最早何ともつかぬ粘液でぬめる唇を舌で拭う。
 は、は、と肩で荒い息を繰り返すワラキアはシーツの上、脱ぎ捨てた己の衣装の上にくたりと四肢を投げ出して動けない。

「ズェピア」

 宥める様にその髪を撫でると、力を失っていた両腕がゆっくりと持ち上がり、エディの背中へ回された。同じように、膝を立てた脚が腰へと絡みつく。

「エディ、……すべてを」

 甘く強請る掠れた声に、薄く笑って頷き返す。

「お前のすべては、俺のものだ。俺のすべても、ズェピア、お前にくれてやる」

 火照る膚を重ね合わせ抱き締めて、その身の内へと割り入った。
 ワラキアの声に成らない悲鳴とも歓喜ともつかぬ吐息とともに、その爪先までがぴんと引き攣って伸びる。その痛みを支払わせることで侵入を果たしたぬめる粘膜は、やはり何時にも増して熱い。

「はぁっ、あ、……ッ、エディ……うごい、て」

 淫蕩に求めるワラキアの声は、今度こそはっきりと歓びに震えている。

「ぜんぶ、私におくれ。私の、なかに……ッぅあ、あ、っ!」

 ぎしりと鳴ったのは寝台のばねか、爪で引き攣れた背中の皮膚か、潤いの足りない繋がった場所か。
 確かめもせずに、ただ貪り合う獣の様に互いを求めた。

「んっ、う、はぁッ、あ……エディ……!」
「ズェピア、俺は、おまえを」

 睦言を何度でも繰り返して、音の無い夜を満たすまで。


***


 ―――俺のすべても、くれてやる。

 そう、多分一番贈りたかったのがそれなのだと、微睡みの中でエディは思う。
 花も酒も、刹那的だ。形の残るものは贈らなくていい。縛るのも、繋ぐのも、自分の存在だけで良い、と。

 満足感はあれど適度どころではない、今すぐにでも泥のように眠ってしまいたい疲労感に包まれながらも、意識を手放してしまうのが勿体無くて、エディは現のふちにしがみついている。
 傍らでは、ワラキアが静かに眠っていた。殆ど寝息も立てずにいるから、まさに死んだような眠りと呼ぶに相応しい。
 その剥き出しの肩が冷たくなっているのに気がついて、シーツを引っ張り上げた。ついでとばかりに、己の腕の中に招き入れる。疲れきっているのだろう、少々強引な位置替えにも目を覚ます気配はない。互いに体温はすっかり落ち着いてひんやりと冷えていたが、いつも通りの温度も悪くは無い。
 ふと、ワラキアが身じろいだ。指先が、エディの膚の上をさまよっている。何となくその左手を掴んで引っ張り上げてみて、エディはささやかな悪戯を思いついた。
 白い指を一本口に含んで、その根元に歯を立てる。ん、とワラキアの眉間に皺が寄ったが、やはり起きる様子はない。
 暫時後顎の力を抜いて、舌先で探ってみる。歯の食い込んだ場所は確かに皮膚がその形に窪んでいた。エディはそれに満足して、指を吐き出す。

 その薬指にくっきり残った噛み痕は、まるでいばらで編んだ指輪のようだった。















Fin.


(後日談?)

 目を覚ましたワラキアが、半狂乱のていで書斎に逃げこみ鍵を掛けて引き籠って、暫く出てこなくなったとかどうとか。
 中からは絶えずごろごろ転がって身悶える音がしてたとか、どうとか。
 事実を知るのは当の本人たちだけである。


(吸血鬼的な意味での父娘関係における、娘の微妙な葛藤)

「ええ、だから嫌なんですよ。あの家を訪ねたりしたらどう考えたって私、お邪魔虫ではないですか。だから極力話をする時は外にしようと決めているんです。同居? それこそ死んでもお断りですよ」

 気の利く娘がかわいそうだからちょっと自重しなさいとか、そういうアドバイスをしてくれる人材がいまのところ皆無であるのが、シオンの不幸なところかもしれない。

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