144 :名無しさん@ビンキー:2010/09/07(火) 11:16:34 0
片倉シンへの愛がバーストしっぱなしで止まらなくなったのでこんなものを書いてしまいました
真昼間にこっそり投下させて下さい


URL: ttp://www1.axfc.net/uploader/File/so/50633
タイトル: 無題
PASS: mugen
ネタ元&設定等: 一応、想iいiがiテiーiレiッiテiー大会前提です
カップリング(登場キャラ): 片倉シン、雰囲気のみカイ伊達。話に少しジャギ様
性描写の有無: 全年齢
内容注意: 暑い中のんびり書いていたら九月に…思い切り真夏の話です
特に何もせずに二人で縁側にてぐだぐだしてるだけ
キャラが結構違うと思うので注意





夏に二人でやって欲しいことを詰め込んだらこんなことに…
しかもとっくに八月は終わってしまった
二人が縁側でダベっていれば幸せ、そんな人向けです



















「おい、片倉!来たぞ!」

郊外のある和風屋敷にその声が響いたのは、ひどく暑い日の午後だった。その声の他には蝉がうるさく鳴く声しか聞こえず静かなもので、だからこそそれだけははっきりと響いた。
開け放たれた門の前に佇む金色の長い髪の男は、首筋に汗を垂らしながら人が出てくるのを待った。しかしすぐに痺れを切らして無遠慮に屋敷内に侵入して行く。

「片倉!いないのか!」
「あーもう聞こえてるから騒ぐな!」

屋敷の奥から縁側へと慌てて出てきたのは黒髪を後ろに撫で付けた男だった。縁側からは門から庭まで全て一望出来る。
片倉小十郎が戸に回らず応対したのは、相手が直接庭を通り縁側へ来るのが分かっていたからだ。男はいつもそうだった。そして今日もやはり小十郎の姿を確認すると縁側へ何も言わずに腰を掛けた。

「また来たのか、シン」
「ふん、悪いか?」
「そういう訳じゃねえが」

我が物顔で堂々と座っているシンを呆れた顔で見下ろす小十郎は、心の中でこいつも暇な奴だと呟いていた。
この屋敷はMUGEN界に佇む片倉小十郎の主人、伊達政宗の物であり小十郎の住んでいる家でもあった。ある試合でタッグを組んでから懐かれたのか何なのか、シンはよくこの家にやって来るようになったのだ。屋敷の主人もそれを歓迎していて、少しずつ彼はこの屋敷に溶け込み始めているよう気すらする。

「そういえば伊達は今日はいないのか?」

何となく庭を眺めていたシンがその光に透けるような金色を軽く払い小十郎を振り返った。

「政宗様ならジャギ殿のところだ」
「ああ、アイツの…」

それを聞いてシンはすぐに大会での二人の姿を思い浮かべた。あの二人も同じ大会でタッグを組んでおり、どうやらかなり馬が合ったらしく、やれ酒だ今日はバイクだなら明日は馬だとよく遊んでいるらしい。
しかし小十郎は主人の手前言えないが、あまりそれをよく思ってはいないらしい。眉間にしわを寄せて少しムスッとした表情は「息子が悪い友達と遊んでいるのを止められない母」のようである。そんな小十郎を見て小さくシンが笑ったのも仕方ないことだろう。
その小さな笑いに気付きシンに目を向けた小十郎は、そこでやっとシンにこの暑い中一杯の水も出していないことに気が付いた。水を持ってくると言い残して家の奥へ戻って行った彼をちらりと一瞥してシンはまた庭の方へ視線を戻す。

小十郎がいなくなると急にその場所が静かになってしまった。シンはどちらかと言うと静寂を好む方である。自らが此処、特にこの縁側と庭を気に入っているのもそのせいだ。小十郎と此処に腰掛けて他愛ない話をする、それは遠い昔を思い出させるようでシンはそうするのが好きだった。
庭にポツリポツリと立っている木からは蝉の鳴き声が聞こえる。しばらくして小十郎が盆に水と小さな小皿を乗せて戻ってきた。置かれた小皿を覗き見るとそれは小十郎手製の漬物で、シンはすぐさまその中の一つを摘んだ。

「旨い」
「だろ?今回のは特に自信作だからな」

シンのもう一つ好きな物はこの漬物だ。おそらく誰が食べても懐かしいと感じる不思議な魅力の漬物。ぱくぱくと口に放るシンを見て、小十郎は思わず笑ってしまった。自らもシンの隣に腰掛けてから、氷の揺れる水を口に含んだ。

「しかし本当に暑いな…」
「んっ…そうか?」

漬物を飲み込み、楊子を持ったまま答えたシンに小十郎はまたしても笑ってしまう。シンは少し顔をしかめたが特にそれに対しては何も言わなかった。

「ふん、俺の元いた世界ではこのくらいの暑さは当然だったからな。まあ汗はかくがそれほど暑くは感じない」
「ほう、そうか…そういえばその格好でも平気そうだな」

シンは今日もいつも通り、光が反射して目が痛いほど白い服を着ていた。首までキッチリと釦を閉めたその格好をしていてもシンは平然としている。だが何というか見ている方が暑くなってきそうなその服装だ。するりと落ちた長い髪を耳にかけるとうっすら汗をかいていた。

「ああ、そうだ。ちょっと動くなよ?」
「何だ?」

突然背後に回り込まれて肩を強ばらせたシンの柔らかい髪を優しく触りそっと手で梳く。突然髪に触れられたシンは思わず息を詰まらせた。
小十郎の堅いが暖かい手が剥き出しになったシンの耳を掠め、そこに一気に血が集まり熱くなってゆく。小十郎に髪を触られている、たったそれだけのことがシンをこんなにも動揺させていた。
いつの間にか蝉の声も聞こえなくなっている。シンの耳には小十郎が自らの髪を梳くスルスルという音しか聞こえなかった。そしてしばらくして、ようやく聞こえた他の音は背後の小十郎本人の声だった。

「ほら、これならどうだ」
「…」

いつもは首に感じる髪の感覚がなく、後ろに軽く引っ張られるような感じがした。シンの髪は小十郎によって高い位置で一つに結わえられた、いわゆるポニーテールという形である。自らの手でそれを確認してから後ろを振り向くと、そこにはいつもの笑顔を浮かべる小十郎がいた。
太陽は相変わらずジリジリと庭を焼いている。目を背けていた期間に比べるとそれを受け入れるのはほんの一瞬だ。ある時火がつけばあっという間に広がってしまう。シンにとってその瞬間は今だった。
振り向いた姿勢のままでじっと見つめるシンに小十郎は困り顔で気に入らないか?と問い掛けた。

「いや…気に入ったぞ」
「ならその紐やるよ。というか前からお前の髪が気になっていてな、お前にやろうと思って用意したんだがな」

シンはようやく小十郎から目をそらし、傍らの水を一気に煽った。隣に気配が戻ったのを感じながら氷を口に含んでかじる。小十郎のその言葉にこんなにも心が踊るなど思いもせず、氷をかじってでもいないと声を上げて笑いだしてしまいそうだったのだ。




**




それから数日経ってもまだまだ夏は続いていた。門のすぐ前で、乾ききった地面を蹴る馬を御しながら小十郎の主君は口を開いた。

「小十郎!今日アイツは来んのか?」
「アイツ…とは?」
「とぼけんなよ、シンのことだよ!」

今まさに門から出かけようとする政宗が急にそんなことを言いだす意図が全く掴めない小十郎は、政宗に指を指されたまま首を傾げた。

「さあ…?」
「ったく何だよ!その気の抜けた返事は!」

気の抜けた、などと言われてももちろん小十郎は普通に返事をしただけのつもりだ。しかしシンはいつも自らの都合で突然やってくるので、小十郎は彼がいつ来るのかなど分からないのである。
ちなみに、政宗が今異常に気合いが入っているのはこれから恋人に会いに行くからである。
しばらく悪友とつるんでばかりで相手にされなかった恋人から送られた「会いたい」という旨の手紙を読みながら政宗は、にやけたり申し訳なさそうな表情をしていた。そうしてそれを何回か読み直してから綺麗に畳み直し懐に入れ、急いで出かける準備を始めたのだった。

「まあお前も自分のそういうことには鈍いんだよな」
「あの、そういうこととは…」
「小十郎、アイツも横から見てて分かりやすい奴だ。そろそろ察してやれ!」

恋人からの手紙に気を良くしている政宗は、小十郎を焚き付けてやろうとしているのだが全く伝わってはいない。政宗の跨った馬が暑そうに首を振る。そいつを軽く二度ほど叩いて政宗はさっさと出発してしまった。恋人との逢瀬にまではさすがに着いて行く気になれずに留守番を選んだ小十郎は、首を傾げながら砂ぼこりの立った道を眺めていた。





こういうことをタイミングが良いと言うのか悪いと言うのか分からないが、それから数時間の後シンはいつもと同じ調子でやって来た。

「片倉ぁ!」
「だから大声だすな!近所迷惑だろ!」

近所と言われても政宗邸は大きすぎて到底シンの声など隣には届きそうにないのだが。水桶と柄杓を手に持って袖を捲り上げている小十郎は、暑さを和らげるために打ち水を始めようとしたところだった。

「土産だ。有り難く受け取れ」

シンがぐいと小十郎に押しつけるように差し出したのは随分と大きなスイカで、今まで土産など持ってくることなど無かったシンがそんなものを持参して、小十郎は少し不信がっている。その様子を伺ってからシンはいつも通りに縁側へ勝手に乗り込んで行った。

「まあ、じゃあ有り難く貰っとくが…いきなりどうした?」
「ふん」

そっぽを向いたままのシンは鼻を鳴らしただけで答えようとはしない。そのせいで余計に小十郎の頭は混乱し、政宗の言葉が繰り返し響いた。

「じゃあ打ち水終わったら切ってくるから一緒に食おうか?」
「当たり前だ、最初からそのつもりで持ってきた」

とりあえず先に打ち水を済ませたいと、スイカは一旦縁側に置いておくことにした。シンは片足を縁側に乗せている。一度怒ったのでしっかり靴は脱いであった。そういう所は妙に真面目な男だ。
軽く風が吹くと金色の長い髪が僅かにひらめき、チリンと涼しい音がする。その音のする方を見て小さく、本当に小さく笑ったシンを小十郎は思わずじっと見つめてしまっていて、戸惑いながら桶の中に突っ込んだままだった柄杓を取り出した。

「あー…そういえばこの前やった紐はどうした?」
「ここだ」

ぐいとシンが袖を捲ると、そこには一本の赤い紐が巻かれている。もう捨てられているだろうと予想していただけにシンのその行為が嬉しくもあり、意外でもあった。

「髪を結んでおこうと思ったのだが俺では上手く出きんのだ」
「なら後で結んでやるよ」

ちなみに、シンの住む屋敷には部下も大量に住んでいる。別にそのうちの誰かに命ずればいいだけのことだが、小十郎はあいにくそんなことには気付いてはいない。
水の弾ける音がするたびに僅かに涼しくなるような気がする。その音に混ざって聞こえる風鈴も涼しさを増してくれるのだが、それらを打ち消すように響く蝉の声が再び暑さを引き戻すようだ。昨日も畑の中にこと切れた蝉を見つけたのを思い出す。彼らも最後の瞬間を迎えようとしている、その前にと必死でもがいているのだ。そう思うと耳に響く鳴き声も憎く思えなくなってしまった。
先ほど交わした会話以降全く口を開いていないシンはどうしたのかと見てみると、彼がだらりと寝そべりスイカを転がしていた。やはり小十郎にはシンが何をしに来ているのかが全くわからない。スイカに合わせて動く腕からチラチラと覗く赤い紐が小十郎の頭を麻痺させているような気がしたが、単に暑さのせいでぼうっとしているだけなのかもしれない。

「なあシン、」
「…何だ」

寝転がっているせいでシンの声はくぐもっていた。桶に残る水を撒きながら小十郎は言葉を続ける。

「お前此処にいて楽しいのか?」
「………何だと?」
「いや、俺自身一緒に居て楽しい人間でもねえ。しかも此処に来てやる事なんて縁側でゴロゴロするだけだろ?…ああ、もしかして政宗様に」

滑るように小十郎の口からこぼれていた言葉は、床を叩く鈍い音に遮られた。突然のことに振り返ってシンを見ると彼は身体を起こしてその手を握りこんでいたため、思わず小十郎は息を詰まらせてしまう。

「片倉、貴様は本当に鈍いな」
「は?」
「俺はお前に会いに来ている。此処でお前と話してお前の漬物を食べるために来ている!」
「俺と?」
「そうだ!お前がいなければ此処に来る意味などないわ!」

シンが縁側に立ち上がってまでそんなことを言うもので、小十郎は柄杓から水がこぼれ落ちてすっかり空になっているのにも気付いていなかった。正直あまり格好はついていなかったがシンがかなり苛立っているのは分かる。そして彼がそれほど苛立っているという事実が嬉しいと思う自分がいるというのも分かっていた。
「いや悪かった。まさかそこまで慕ってもらってるとは思わなかったからな…」
「ふん、慕うだと?俺の想いがそんなものだと思っているのか?」

彼の苛立ちはおさまったが、その視線はきつく小十郎を射ぬいている。さすがに鈍いと本日二度言われている小十郎も、僅かな異変を感じ取っていた。縁側の上から動くなよ!と釘を刺されて小十郎が立ち尽くしていると、シンは足が汚れるのも気にせず靴も履かずに此方へと近づいてくる。

「これからは一切遠慮はしない」
「え…なっ!」

襟を思い切り引かれ、鼻のぶつかりそうな距離にまで顔が近づく。桶が地面に落ちて足に水が掛かったのが少し気持ちよかった。

「俺はお前を愛している、お前を手に入れるためなら何でもしよう」
「は…?」

一瞬、口付けでもされるかと思ったが彼はただじっと此方を見つめるだけだ。そういえばこいつは変なところで真面目な奴だと、小十郎は思い出すが今はそれどころではない。小十郎が返事も出来ずに固まっていると、真剣だったシンの青い瞳にふと笑みが見え顔がゆっくりと離れていった。

「お、おいシン」
「覚悟しておけ!小十郎」

シンがMUGEN界に来るまでの話などは何となく噂で聞いていた。しかしその愛がまさか自らに向くことなど全く思ってもみなかったことだ。なぜか楽しそうな笑顔を浮かべているシンを見るとため息が漏れてしまうが、同時に顔に熱が集まってくるのはこの暑さのせいだけではないかもしれない。
蝉の最後の求愛が響いている中で、小十郎はこちらに背を向けた金色を追い掛けた。














以下おまけの後日談



それからさらに数日、まあ多少シンからのアプローチはうるさくなったものの、あまり二人の関係は変わってはいなかった。ただ、二人の距離が拳一つ分近づいたくらいだ。

「そうだ小十郎、見ていろ!自分で髪を結えるようになったぞ!」

得意気に赤い紐を取り出したシンを見ていると政宗がまだ幼かった頃を思い出す小十郎であった。そのような心持ちで髪を手で纏めるシンを見ていると確かに以前手伝ったときよりも上手くなっていた。

「ん…っ」
「おい、ほらここ…」

後れ毛を纏めてやろうと手を伸ばした小十郎は思わず固まってしまった。
シンは口に紐をくわえて長い髪を上げている。いつもは見えないうなじが顕になり、一生懸命な表情はどこか悩ましげだ。

「…どこを見ている」
「は、いや!」

思わず貴方のうなじです、と答えようとしてしまった自分がいることに恥ずかしくなった小十郎は頭を抱えてしまう。シンに好きだと言われるまでは彼の髪を結うことも全く平気だったはずなのに、一度意識してしまうと質が悪い。

「まさかこの年でこんな青臭い…」
「おい、小十郎!出来たぞ!」

とたんに先ほどまでの色気のようなものを引っ込めたシンだが、これはこれで可愛らしい。小十郎はため息を大きく吐いて上手く出来た彼の頭を撫でて後れ毛を整えてやった。

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

どなたでも編集できます