タイトルなし197
最終更新：ID:A2Zde352XA 2012年01月22日(日) 22:54:07履歴
882 ：実況しちゃダメ流浪の民＠ピンキー：2012/01/22(日) 01:24:50.74 0
こiろiうiばのメルブラ密度の高さと影二つが自分得過ぎてカッとなって書いた。反省はしているが後悔なんて、あるわけない。
ザトー様が大人しく甘やかされてくれNEEEEEEE！！！
……ザトワラ？……ワラザト？……受攻よく考えずに書くから自分でも分からなくなった。
URL：ttp://www1.axfc.net/uploader/Sc/so/311684
タイトル：無題
PASS：mugen
ネタ元＆設定等：こiろiうiば
カップリング（登場キャラ）：ワラキアの夜×ザトー×ワラキアの夜、、エディ、ヴェノム、ネロ・カオス、ロア、デュオロン、リーゼロッテ、アリス、ナlイlア、桜、カlンlフlーlマlン、天l子lさlん（雷＆閑丸）
性描写の有無：全年齢
内容注意： 女子登場注意
エディが居なくて不自由するザトー様を深窓の令嬢にするように甘やかし倒すワラキーを書こうと思っていたのにザトー様のプライドが邪魔をするでござるの巻。
※このSSには男性同士の恋愛的(?)描写が含まれます。
※キャラクターの性格や口調が違う場合があります。
※どっちが攻なんだか書いてて自分でも分からない。
※ワラキーとロアの仲が悪い。
※エディとヴェノムの仲が悪い。
嫌な予感がした方は、何も見なかったことにしてファイルを削除していただけるとお互い幸せになれると思います。
強いライトの光に照らし出されたコロシアムの中央で、背の高い青年と影を操る少女が戦いを繰り広げていた。
チームベンチで観戦するワラキアの夜の傍らで、金髪と銀髪、二人の人形遣いの少女が同じようにじっと戦いの行く末を見詰めている。
リングの中央、瀑布のように次から繰られる影の合間を、鋭い蹴りが貫いた。影を繰る事に集中している少女の足元を、背後からの衝撃が打ち払う。姿勢を崩した少女の腹に、重い膝が叩き込まれる。身体をくの字に曲げ、少女が吹き飛び倒れ伏して動かなくなった。
「Bravo！流石は我が一座の長！」
どっと客席から沸き上がる歓声に混ざって、勢い良く立ち上がったワラキアの夜が喝采を上げる。傍らの少女二人も嬉しそうに目を合わせ頷き合っている。
運営スタッフのカlンlフlーlマlンの手により担架に乗せられ、リングの外へ運ばれて行く少女を一瞥し、デュオロンが踵を返す。
チーム『劇団「死期」』の面々は、勝者にして大将であり団長であるデュオロンを出迎える。
「勝ったわね、団長」
「いやはや美事な試合だったよ」
「……おかえり」
三様の労いの言葉に、ああ。と冷淡な返答を返し、デュオロンは客席スタンドの上方に設置された巨大なモニターを振り仰ぐ。
「さて、勝者お楽しみの殺奪タイミングね」
口の端をにっと持ち上げる笑みでアリスが呟く。
ランダムセレクトが軽い音を立てて回り、敗者チームの犠牲者を選出する。副将の肩書きと共に画面に映し出されたのは、ベルトを模した眼帯を巻いた金髪の男性のポートレート。
「おや」
ワラキアの夜が呟きを零す間にもランセレは回り、勝者チームである彼らの間から、アイテム取得者を選び出す。
「……あ」
リーゼロッテが小さく口を開いた。赤い血を湛えた眼窩を見開いた金髪の男性のポートレート。『劇団「死期」』から選ばれたのは先鋒・ワラキアの夜だった。
「彼の初期アイテムは確か……」
デュオロンが独り言ちる。
不意に、ワラキアの夜の足元に、彼の繰る具現化した悪性情報によるものとは性質の異なる、一つの生物としての気配を持つ黒い影が、とぷんと湧いた。
「ネンガンノ 禁獣ヲ テニイレタ、カ？」
「殺してでも うばいとってしまったよ」
影から顔を覗かせた禁獣に、苦笑交じりにお約束の台詞を返す。
対戦チーム『天の杯』所属のザトー＝ONEの初期アイテムであった禁獣・エディはくつくつと愉快そうに笑いながら、影の身体を起こした。
「……意外とかちかちね……ブログに書いとこ」
ぺたぺたとエディの身体に触っていたリーゼロッテが、トランクから取り出したパソコンを広げ始めた。
「あら、これは模造品じゃないのね」
赤い瞳を形成した禁獣を眺めながらアリスが言う。
一言アイテムと言っても種類は千差万別で、肩書きのような概念的な物から試合に欠かせない主武装まで様々で、その中でも問題の起こり得る、例えば女性の着用していた衣装などは倫理的問題の他、物理的にサイズが合わない等の理由で代用品で賄われる。各種サイズのスクール水着やニーソックスを用意している運営は、熱意を向ける方向を間違えているともっぱらの評判だった。
「正真正銘ノ「えでぃ」ダ。トリアエズ、ざとーノ試合ノ時ダケアチラニ戻ル事ニナッタ」
アイテムが試合進行に弊害の出る武装の類で有る場合は、エディの言葉通り、初期所有者の試合の時のみ返却され、それ以外は殺奪者の所持と言う手筈だった。試合に支障は出ないと言っても、自身の武器を奪われると言うのは戦いをその身の一部とする者に取って大いにプライドを傷付けられる事である。が、彼の場合はそれ以外にも……
「……ザトーの方はどうなっているのだね？」
「知ランナ」
尋ねられた禁獣は然も興味が無さそうに、影の身体の肩を模した部分を竦めている。ワラキアの夜はふむ、と自身の顎に指を添えて思案する。
「それ位にして置け。次の試合が始まるぞ」
パソコンを持ったままのリーゼロッテを抱え上げたデュオロンに促され、一座はチームベンチを後にする。ワラキアの夜が入退場口から肩越しに見やった相手チームのベンチには、既に人気は無かった。
部屋に帰るなり、人形遣いの二人は自分の人形の手入れをし始めた。そんなチームメイトの為に、デュオロンは黙々と紅茶を淹れている。
チーム『劇団「死期」』の控え室は基本的に静かである。
大将のデュオロンや次鋒のリーゼロッテは言うまでもなく、幻想郷出身の少女達に多く見られるマイペースさで沈黙を気に止めないアリス。更には饒舌に数えられるワラキアの夜であるが、彼が一人舞台に飽きてしまえば、結果として全員が揃っていても控え室に沈黙が降りる事も珍しくはない。
そんな中、言葉を発したのは本来はこの部屋の所属ではない禁獣だった。
「負荷ハ大丈夫カ？わらきあ」
椅子に座るでもなく、ドアの近くで宙に浮いたままのワラキアの夜の顔を足元から覗き込み、エディが問い掛ける。
寄生体として、意図しての事では無いにせよ、終には衰弱死に追いやってしまった宿主であるザトーとワラキアの夜を重ね、本来の適合者では無いワラキアの夜の消耗を慮っての言葉だった。
「何、音に聞くサーヴァントの現界よりは魔力の消費も少ない。それに、私はこれでも死徒だからね。見てくれよりは頑強だ。案ずる程の事は無いとも」
ごつごつとした造形の影の頭を撫でてやりながらワラキアの夜は答え、エディを眺め、その向こうに想起される男の姿を想う。
少しの間そうしていて、それからワラキアの夜はチームメイトへ顔を向ける。
「すまないが、少し出てくるよ。今日はもう試合も入らないだろうしね」
「ランセレの気まぐれは分からないわ。アナウンスだけはチェックして置きなさいよ」
「無論だとも」
人形から顔も上げずに返すアリスの言葉に答える。他の二人も了解したようで、デュオロンが頷いたのを確認すると、ワラキアの夜はエディを伴って控え室を後にした。
目的の部屋をノックすると、色素の抜けた長い髪を持つ少女が応答した。
先の戦いでの負傷の具合を尋ねると、彼女は控え目な調子で問題が無いと言う事と、心遣いに対する礼を述べた。次いで目的の人物の居場所を尋ねると、申し訳なさそうに、試合が終わってから何処かへ言ってしまったので分からないと答えた。
少女に礼を述べ、その奥、室内からシスターの形をした混沌が向ける愉しそうな、呪に満ち満ちた赤い視線を遮るようにマントを翻し、その場を後にする。
目的の姿を求め、会場入口から見て裏手、選手控え室の入る一角のロビーに通りかかると、喧しい声が響いた。
「全く旦那ったらさ！あんな飲血ヤローフルボッコにしちまえば良いってのに！」
並べられた長椅子の一つに並んで腰掛けた死徒の一方が、大げさな身振りと共に言葉を吐く。
「あれも祖の一角だ。そう易々と下せるものでは無い」
もう一人の死徒は片方の目を閉じたまま、淡々とした口調でそれを窘めている。
「あの女も女だぜ！大将張ってる上に、聖杯の力を持って置きながらあのザマじゃねえか！」
「力があるとて所詮は人の身で、戦いを業とする者でもない。致し方あるまい。それ以前に優位を取れなかった我々の敗北だ」
二人のやり取りを眺めて、ワラキアの夜が形の良い眉を顰める。もっとも、嫌悪の対象は二人の会話の内容ではなく、全面的に長く波打つ髪を持つ人物の方へと向けられていた。存在を黙殺しようにも位置が悪い。
「げっ！飲血ヤロー！？」
似たような嫌悪感も露わに、ワラキアの夜に気付いたロアが吠える。
「舞台の終わった道化は楽屋へどうぞ！とっととすっこめ！」
「……相も変わらず粗野で不快だな、蛇。輪廻の底辺へ沈みたいのなら、直ぐにでも送ってやろう…………」
早速睨み合う二人の死徒を、ネロが諫める。
「落ち着け。祖がこのような場所で戦闘を行う積もりか」
「―――と言うかお前は今試合の真っ最中で本来一級天人の足元にも及ばない貧弱一般人その一般人がわたしの試合も応援せずにダベって挙句に自分のターンが来ていることも気づかないとか私の怒りが有頂天になったこの怒りはしばらくおさまる事を知らない！！」
「ぐはぁっ！？」
ワラキアの夜が思わず感心する程の長台詞を一息で言い切りつつ、ｶｶッと駆け込んで来た天人の少女が炎を纏ったアッパーカットをロアに炸裂させる。
自身の試合を終えた直後、次の選手であるロアの不在に気付いて治療も受けずに飛び出して来たのだろう。美しい銀髪を煤けさせたままの姿でロア襟首を掴み、事のついでにネロを睨む。
「友人なら大事な予定は教えてやるべきそうすべき」
「すまないな。失念していた」
ネロの言葉に居丈高にふんぞり返った天l子lさlんは
「分かればいい。CV.ジョージに免じて許してやろう」
余程急いでいるのだろう。彼女にしては短い言葉で会話を切り上げ、ロアに文句を述べさせる隙も見せずに成人男性一人を易々と引きずってｶｶッとロビーを後にした。
「……やれやれ」
溜息とともに呟いて、ワラキアの夜は自分のペースを取り戻す。この際本当に「やれやれ」と言いたかったのは誰だろうかと言う事は問わない。
「騒がしくしてすまなかったね、ザトー」
ロビーの隅、目立たない位置に据えられた長椅子に腰掛けていた人物に向かって告げる。
指を組み、ゆったりと椅子に腰掛けている様子は、表面的には眠っているようにもただ寛いでいるだけのようにも見えた。
ザトーはゆっくりと顔を上げると、ワラキアの夜の方を向いて答える。
「何、この程度の騒がしさ、珍しくも無い事だ」
小さく笑み、ワラキアはロアが試合を行っているモニターに視線を向けるネロに優雅に会釈をして、ザトーの椅子の前に移動する。
「調子はどうだね？ザトー」
「寄生虫が居なくなったおかげですこぶる良い。肩が軽いぞ」
軽いやり取りをしてお互いの様子を窺う。
「控え室に居ないから探してしまったよ。部屋に戻るのも手間かね？」
「何処に居ようと私の自由だろう」
短く切り捨てるようなザトーの対応すら楽しみながら、ワラキアの夜は言葉を紡ぐ。エディが足下から興味深げに二人の様子を覗いている。
「そうかね。あそこは君には手狭か……それとも危険か……？」
「……妙に絡むな？」
妙に挑発的な態度を訝しむように、ザトーは削り取られた五感を用いて死徒の内心を推し量る。
「随分と、緊張しているように見えたものだからね」
「………………」
晴れやかとさえ言える愉しげな声色に、ザトーは不機嫌な色を滲ませた沈黙で応じる。じっとりとした害意。禁獣がザトーの下にあれば、影の爪がワラキアの夜に向けられていかもしれない。
「君は日頃、大分エディの感覚に頼っているだろう？不便が無いか、これでも心懸かりだったのだよ」
すっかり低下してしまったザトーの機嫌を取り繕うように、しおらしさを装って彼の様子を伺う。
「視力は戻っていないようだね」
痛ましな声色とともに眼帯の上からそっと指を這わせると、ザトーは不機嫌さを放棄して諦めたように溜息を吐く。
「全く。対価だけ私に押し付けるなど。人を食った真似をしてくれる」
吹っ切れた分さばさばと、冗談混じりの嫌味の棘を投げ付ける。
「何しろ私には捧げる眼球が無いからね」
悪戯っぽく答え、ワラキアの夜はウインクをするように片方の眼を開く。目玉の代わりに眼窩に満ちた血液が流れ落ちる前に、瞼で再び封をする。
「―――しかしそうなると、やはり不都合が生じるだろう？」
チーム内に頼りにできる人物が居ればそれで良いが、一見して大人しく献身的に見える間桐の少女は精神汚染により錯乱気味で有害である。存在として全人類に止め処無い悪意を抱く這い寄る混沌は論外だ。唯一、話が通じるという意味で真っ当なカデゴリに分類できるネロ・カオスではあるが、彼の主食が人間で有る事を考えると、同郷で有るが故に逆に不安を覚える。
「……彷徨海の鬼子ならば、みすみすチームと言う総体の力を削る真似はしないだろうが……」
今度は含みの無い憂慮の言葉に、ザトーは頭を振る。
「多少の事はこれでも出来る。それにヴェノムを―――部下を呼んである」
げ、とエディが呻いた。彼とは余り相性の良い人物では無いらしい。
「風の噂程度には聞いていたが、彼と直接顔を合わせた事は無かったね」
「あちらも試合が有る。直ぐには来ないだろうよ」
肩を竦めてザトーは言ったが、しかしその言葉を否定する酷く切羽詰まった声が、廊下に反響しながら近付いて来る。
「―――様っ！……ザトー様！ザトー様ァッ！！」
ズザァッ！と廊下を見事なドリフト走行で駆け抜けて来た人物を真っ当な視力を持つ者が見やれば、最初に目に付くのは頭部に描かれた青い瞳の図案だろうか。
偶々観客として会場を訪れ、『それ』が疾駆する光景を目撃していた爆皇雷は、友人の閑丸にこう語ったと言う―――「白い目玉オバケが廊下を超ダッシュしてた」
頭痛を堪えるようにザトーが額を押さえる。余りの勢いに軽く危機感を覚えたワラキアの夜がマントを翻し、エディごと空間を飛んで少し遠くに退避する。
ワラキアが退いて開いた空間に、ヴェノムが砂煙を上げる勢いで、床を蹴る足音も高らかに駆け込む。
「ご無事ですか！？ザトー様！！」
「……自分の試合はどうした。騒ぎを起こすなとも言って置いた筈だが？」
「ですがザトー様にもしもの事が有ったら……！」
悲痛な声色で訴えながらも、ヴェノムはザトーの姿に目立った負傷も消耗も無い事に安堵する。
「とにかく。私の試合が有るにせよ無いにせよ、今日のランセレは見届けなければならんんぞ」
「はい。お供いたします、ザトー様」
溜息を吐くザトーの言葉に恭しく礼を返し、それから抱いた疑問に付いて訊ねる。
「ところでザトー様、トラブルと言うのは一体……」
ザトーが架空の視線でワラキアの夜を示す。ヴェノムが主によって『トラブル』と示された相手を睨む。
「どう言う事だ……吸血鬼」
顔を隠す為に長く伸ばされた白い髪の間から覗く強い視線を、ワラキアの夜は楽しそうに受ける。
「簡単に説明すると、こう言う事態でね―――エディ」
呼ばれて、ワラキアの夜の影に潜っていたエディが煩わしげに顔を出す。
「！？」
驚愕にヴェノムが息を呑む。敬服するべき主、ザトーの最大の武器にして癌細胞である禁獣。在りし世界ではザトーを取り殺し、その亡き骸すら引き回し辱めたあの憎き獣が。ヴェノムにはどうやっても引き離す事の出来なかった獣が今、ザトーから引き剥がされている。
「この大会のルールで、敗者は所有アイテムを奪われる事が有る。ザトーの場合はこのエディだ……そして先程、私のチームと彼のチームが試合をしてね」
説明を聞くヴェノムは、一言で表すならば『きらきら』していた。頭髪のベールに隠れて見えない筈の顔が何よりも雄弁に物語っていた。タタリGJ、と。
「ザトー様！最早このような獣を使うまでもございません！このままこの獣を縊り殺してしまいましょう！！」
「黙ッテ聞イテイレバ好キ勝手言イヤガッテコノ狗メガ！！」
現宿主であるワラキアの夜ごと突き殺しかねない勢いで、自身の武器であるビリヤードのキューを構えるヴェノムと、それに吼えかかるエディを眺めながらワラキアの夜は愉快そうに笑う。
「君の部下は……とても面白いね」
「……褒めてないだろう、それ」
隠す必要のなくなった何度目かの溜息を吐きながら、ザトーは呻くように指摘した。
おまけ�．競函射�Side
その瞬間、ぷつりと何かが切り離された。
五感の一つと数えて遜色無いその感覚の喪失。
意識を送れど足下から立ち上る影は無い。ザッと脳から血が失せる様な感覚。喪失感。
恐怖と分類されるであろう感情を誤魔化すように舌打ち一つ。動作に不便がない事を証明するように、淀み無くベンチから立ち上がる。
「ごめんなさい、負けちゃいました」
「勝敗は一時の夢のようなもの。いずれ全てを奪い取って差し上げましょう」
少女のものと妙齢のもの、女性二人の声がする。二人の位置を手掛かりにベンチの長さを思い出し、そこから出入り口の位置を推測する。常と変わらない速度を意識して歩き出し、さりげなく上げた指の端が壁面に振れると、今度はそれを頼り足を進める。
「大丈夫ですか？ザトーさん」
間桐と言う名の少女が背後から問いを投げかける。余計な事を。ザトーは内心で舌打ちして少女を振り返る。
「この程度、支障は無い」
端的に言葉を切って、再び歩き出す。この場に留まる訳には行かない。チームメイトは、弱みを見せれば命すら危うくなるようなメンツだった。
無数の獣を押し固めたような異様な気配。ネロ・カオスが背後に続く。牙の気配にぞくりとしながら、ザトーは今度は足早になりかける歩調を抑制する。怯えている素振りを見せてはいけない。竦めば獣は噛み付いて来るものだ。
扉を開き、どうにか目立ったミス無く廊下に出ると、人気の多い方へと足を進める。控え室に戻る気にはなれない。
待ち合わせ等の人がまばらに屯するロビーの端の壁に寄りかかり、ようやく人心地付く。獣の気配もロビーに留まっているが、流石に人目の有る所で襲いかかっては来ないだろう。
ロビーを行き交う気配を探り、半ば当てずっぽうで声を発する。
「そこの」
「―――あ、はい？」
TRPGであれば幸運判定に成功したと言った所だろう。人の良さそうな返答が返る。声質から、相手が運営のカlンlフlーlマlンであると判断し、内心胸を撫で下ろしながらザトーは言葉を繋げる。
「連絡を取りたい。私の部下のヴェノムなのだが、伝言を頼めるか？」
「はい。出来ますよ」
何かと多忙であちこち飛び回る選手のサポートの一環として、カlンlフlーlマlン達はメッセンジャーの役割を請け負っている。異なる文化が入り乱れ、連絡手段の画一化も出来ない世界で、実は最も確実な連絡手段は彼ら舞台裏の人間を利用した伝言である。
ザトーも携帯は持っているが、まさかこんな事になるとは思わず、エディの中に放り込みっぱなしだったのだ。
「では。『こちらの試合で少々トラブルが発生した。試合が終了し次第こiろiうiばの会場へ来るように。なお、そちらの試合を優先させる事、不要な騒ぎを起こさない事。』以上だ」
「はい……えぇと……」
メモにペンを走らせる音がして、カlンlフlーlマlンがザトーの言葉を復唱する。
「ああ。それで。頼んだぞ」
「確かに請け負いました」
ぺこりと一礼して、カlンlフlーlマlンが足早に立ち去る。
ミッションコンプリートとは言わないが、まぁ、これでどうにかなるだろう。息を吐く動作が表に出てしまった。直ぐに平静を取り繕い、壁から離れてロビーに並ぶ長椅子の中で、最も死角になる場所を選んで腰を下ろす。
指を組み、そっと辺りに神経を這わせる。とかく何が起こるか分からない世界だ。今の状態では回避の遅れが死に直結しかねない。リラックスしている体を装いながら、暗殺の仕事の前のように精神を研ぎ澄まし、辺りを警戒しながら部下の到着を待つ事にした。
おまけ�△修慮�
ワラキアの夜がその繊細な造りの手を自身の前に差し出したのを、ザトーは布擦れの音や気配の動き方から察した。
「何の積もりだ」
問うザトーには見えていないと知りつつも、ワラキアの夜は優雅な笑みを浮かべる。
「奪った者の責務として、私が君の『眼』になってやらねばなるまい」
「『眼球』の無い奴が良く言えたものだ」
「無くとも、観劇にもダンスにも不自由した事は無いがね」
「今はどちらもお断りだ。下らない事をしている暇があるなら、劇団に戻ったらどうだ？」
差し出された手を軽く払い除けるザトーの皮肉にも尚、ワラキアの夜は楽しげに誦する。
「何しろ盲目の姫君のエスコートだ。騎士の身ならば至上の誉れとする所だが―――」
「あまり私を安く見るなよ、タタリ」
ザトーが伸ばした指先は、的確にワラキアの夜の眉間に突きつけられていた。もしザトーにその気が、ワラキアの夜に眼球が、それぞれ有ったならば、一瞬の間に眼球を抉り取ってしまう事も可能であろう動きだった。
「これは手厳しい」
くつくつと笑いながら一歩分の空間、身を引いたワラキアの夜は、ふと自分に向けられた殺気とも呪詛とも付かない気配を見やる。
青い瞳が睨んでいた。白い髪の上に描かれた瞳と、下に象眼された青い瞳が、光を発していると錯覚する程の強い視線を叩き付けていた。
現金と言うか割り切っていると言うか、禁獣の排除の手柄とは別の次元で、主に馴れ馴れしく振る舞う吸血鬼は彼のジャプニカ暗殺帳に登録されたらしい。
「……暗殺者に目を付けられてしまったかな？」
「タタリが暗殺を恐れる必要が有るのか？」
「君の家族に嫌われるのは悲しいからね」
「……言って置け」
ワラキアの夜から顔の向きを逸らしながら、ザトーは部下の悋気をどうやって宥めるか検討し始めた。
こiろiうiばのメルブラ密度の高さと影二つが自分得過ぎてカッとなって書いた。反省はしているが後悔なんて、あるわけない。
ザトー様が大人しく甘やかされてくれNEEEEEEE！！！
……ザトワラ？……ワラザト？……受攻よく考えずに書くから自分でも分からなくなった。
URL：ttp://www1.axfc.net/uploader/Sc/so/311684
タイトル：無題
PASS：mugen
ネタ元＆設定等：こiろiうiば
カップリング（登場キャラ）：ワラキアの夜×ザトー×ワラキアの夜、、エディ、ヴェノム、ネロ・カオス、ロア、デュオロン、リーゼロッテ、アリス、ナlイlア、桜、カlンlフlーlマlン、天l子lさlん（雷＆閑丸）
性描写の有無：全年齢
内容注意： 女子登場注意
エディが居なくて不自由するザトー様を深窓の令嬢にするように甘やかし倒すワラキーを書こうと思っていたのにザトー様のプライドが邪魔をするでござるの巻。
※このSSには男性同士の恋愛的(?)描写が含まれます。
※キャラクターの性格や口調が違う場合があります。
※どっちが攻なんだか書いてて自分でも分からない。
※ワラキーとロアの仲が悪い。
※エディとヴェノムの仲が悪い。
嫌な予感がした方は、何も見なかったことにしてファイルを削除していただけるとお互い幸せになれると思います。
強いライトの光に照らし出されたコロシアムの中央で、背の高い青年と影を操る少女が戦いを繰り広げていた。
チームベンチで観戦するワラキアの夜の傍らで、金髪と銀髪、二人の人形遣いの少女が同じようにじっと戦いの行く末を見詰めている。
リングの中央、瀑布のように次から繰られる影の合間を、鋭い蹴りが貫いた。影を繰る事に集中している少女の足元を、背後からの衝撃が打ち払う。姿勢を崩した少女の腹に、重い膝が叩き込まれる。身体をくの字に曲げ、少女が吹き飛び倒れ伏して動かなくなった。
「Bravo！流石は我が一座の長！」
どっと客席から沸き上がる歓声に混ざって、勢い良く立ち上がったワラキアの夜が喝采を上げる。傍らの少女二人も嬉しそうに目を合わせ頷き合っている。
運営スタッフのカlンlフlーlマlンの手により担架に乗せられ、リングの外へ運ばれて行く少女を一瞥し、デュオロンが踵を返す。
チーム『劇団「死期」』の面々は、勝者にして大将であり団長であるデュオロンを出迎える。
「勝ったわね、団長」
「いやはや美事な試合だったよ」
「……おかえり」
三様の労いの言葉に、ああ。と冷淡な返答を返し、デュオロンは客席スタンドの上方に設置された巨大なモニターを振り仰ぐ。
「さて、勝者お楽しみの殺奪タイミングね」
口の端をにっと持ち上げる笑みでアリスが呟く。
ランダムセレクトが軽い音を立てて回り、敗者チームの犠牲者を選出する。副将の肩書きと共に画面に映し出されたのは、ベルトを模した眼帯を巻いた金髪の男性のポートレート。
「おや」
ワラキアの夜が呟きを零す間にもランセレは回り、勝者チームである彼らの間から、アイテム取得者を選び出す。
「……あ」
リーゼロッテが小さく口を開いた。赤い血を湛えた眼窩を見開いた金髪の男性のポートレート。『劇団「死期」』から選ばれたのは先鋒・ワラキアの夜だった。
「彼の初期アイテムは確か……」
デュオロンが独り言ちる。
不意に、ワラキアの夜の足元に、彼の繰る具現化した悪性情報によるものとは性質の異なる、一つの生物としての気配を持つ黒い影が、とぷんと湧いた。
「ネンガンノ 禁獣ヲ テニイレタ、カ？」
「殺してでも うばいとってしまったよ」
影から顔を覗かせた禁獣に、苦笑交じりにお約束の台詞を返す。
対戦チーム『天の杯』所属のザトー＝ONEの初期アイテムであった禁獣・エディはくつくつと愉快そうに笑いながら、影の身体を起こした。
「……意外とかちかちね……ブログに書いとこ」
ぺたぺたとエディの身体に触っていたリーゼロッテが、トランクから取り出したパソコンを広げ始めた。
「あら、これは模造品じゃないのね」
赤い瞳を形成した禁獣を眺めながらアリスが言う。
一言アイテムと言っても種類は千差万別で、肩書きのような概念的な物から試合に欠かせない主武装まで様々で、その中でも問題の起こり得る、例えば女性の着用していた衣装などは倫理的問題の他、物理的にサイズが合わない等の理由で代用品で賄われる。各種サイズのスクール水着やニーソックスを用意している運営は、熱意を向ける方向を間違えているともっぱらの評判だった。
「正真正銘ノ「えでぃ」ダ。トリアエズ、ざとーノ試合ノ時ダケアチラニ戻ル事ニナッタ」
アイテムが試合進行に弊害の出る武装の類で有る場合は、エディの言葉通り、初期所有者の試合の時のみ返却され、それ以外は殺奪者の所持と言う手筈だった。試合に支障は出ないと言っても、自身の武器を奪われると言うのは戦いをその身の一部とする者に取って大いにプライドを傷付けられる事である。が、彼の場合はそれ以外にも……
「……ザトーの方はどうなっているのだね？」
「知ランナ」
尋ねられた禁獣は然も興味が無さそうに、影の身体の肩を模した部分を竦めている。ワラキアの夜はふむ、と自身の顎に指を添えて思案する。
「それ位にして置け。次の試合が始まるぞ」
パソコンを持ったままのリーゼロッテを抱え上げたデュオロンに促され、一座はチームベンチを後にする。ワラキアの夜が入退場口から肩越しに見やった相手チームのベンチには、既に人気は無かった。
部屋に帰るなり、人形遣いの二人は自分の人形の手入れをし始めた。そんなチームメイトの為に、デュオロンは黙々と紅茶を淹れている。
チーム『劇団「死期」』の控え室は基本的に静かである。
大将のデュオロンや次鋒のリーゼロッテは言うまでもなく、幻想郷出身の少女達に多く見られるマイペースさで沈黙を気に止めないアリス。更には饒舌に数えられるワラキアの夜であるが、彼が一人舞台に飽きてしまえば、結果として全員が揃っていても控え室に沈黙が降りる事も珍しくはない。
そんな中、言葉を発したのは本来はこの部屋の所属ではない禁獣だった。
「負荷ハ大丈夫カ？わらきあ」
椅子に座るでもなく、ドアの近くで宙に浮いたままのワラキアの夜の顔を足元から覗き込み、エディが問い掛ける。
寄生体として、意図しての事では無いにせよ、終には衰弱死に追いやってしまった宿主であるザトーとワラキアの夜を重ね、本来の適合者では無いワラキアの夜の消耗を慮っての言葉だった。
「何、音に聞くサーヴァントの現界よりは魔力の消費も少ない。それに、私はこれでも死徒だからね。見てくれよりは頑強だ。案ずる程の事は無いとも」
ごつごつとした造形の影の頭を撫でてやりながらワラキアの夜は答え、エディを眺め、その向こうに想起される男の姿を想う。
少しの間そうしていて、それからワラキアの夜はチームメイトへ顔を向ける。
「すまないが、少し出てくるよ。今日はもう試合も入らないだろうしね」
「ランセレの気まぐれは分からないわ。アナウンスだけはチェックして置きなさいよ」
「無論だとも」
人形から顔も上げずに返すアリスの言葉に答える。他の二人も了解したようで、デュオロンが頷いたのを確認すると、ワラキアの夜はエディを伴って控え室を後にした。
目的の部屋をノックすると、色素の抜けた長い髪を持つ少女が応答した。
先の戦いでの負傷の具合を尋ねると、彼女は控え目な調子で問題が無いと言う事と、心遣いに対する礼を述べた。次いで目的の人物の居場所を尋ねると、申し訳なさそうに、試合が終わってから何処かへ言ってしまったので分からないと答えた。
少女に礼を述べ、その奥、室内からシスターの形をした混沌が向ける愉しそうな、呪に満ち満ちた赤い視線を遮るようにマントを翻し、その場を後にする。
目的の姿を求め、会場入口から見て裏手、選手控え室の入る一角のロビーに通りかかると、喧しい声が響いた。
「全く旦那ったらさ！あんな飲血ヤローフルボッコにしちまえば良いってのに！」
並べられた長椅子の一つに並んで腰掛けた死徒の一方が、大げさな身振りと共に言葉を吐く。
「あれも祖の一角だ。そう易々と下せるものでは無い」
もう一人の死徒は片方の目を閉じたまま、淡々とした口調でそれを窘めている。
「あの女も女だぜ！大将張ってる上に、聖杯の力を持って置きながらあのザマじゃねえか！」
「力があるとて所詮は人の身で、戦いを業とする者でもない。致し方あるまい。それ以前に優位を取れなかった我々の敗北だ」
二人のやり取りを眺めて、ワラキアの夜が形の良い眉を顰める。もっとも、嫌悪の対象は二人の会話の内容ではなく、全面的に長く波打つ髪を持つ人物の方へと向けられていた。存在を黙殺しようにも位置が悪い。
「げっ！飲血ヤロー！？」
似たような嫌悪感も露わに、ワラキアの夜に気付いたロアが吠える。
「舞台の終わった道化は楽屋へどうぞ！とっととすっこめ！」
「……相も変わらず粗野で不快だな、蛇。輪廻の底辺へ沈みたいのなら、直ぐにでも送ってやろう…………」
早速睨み合う二人の死徒を、ネロが諫める。
「落ち着け。祖がこのような場所で戦闘を行う積もりか」
「―――と言うかお前は今試合の真っ最中で本来一級天人の足元にも及ばない貧弱一般人その一般人がわたしの試合も応援せずにダベって挙句に自分のターンが来ていることも気づかないとか私の怒りが有頂天になったこの怒りはしばらくおさまる事を知らない！！」
「ぐはぁっ！？」
ワラキアの夜が思わず感心する程の長台詞を一息で言い切りつつ、ｶｶッと駆け込んで来た天人の少女が炎を纏ったアッパーカットをロアに炸裂させる。
自身の試合を終えた直後、次の選手であるロアの不在に気付いて治療も受けずに飛び出して来たのだろう。美しい銀髪を煤けさせたままの姿でロア襟首を掴み、事のついでにネロを睨む。
「友人なら大事な予定は教えてやるべきそうすべき」
「すまないな。失念していた」
ネロの言葉に居丈高にふんぞり返った天l子lさlんは
「分かればいい。CV.ジョージに免じて許してやろう」
余程急いでいるのだろう。彼女にしては短い言葉で会話を切り上げ、ロアに文句を述べさせる隙も見せずに成人男性一人を易々と引きずってｶｶッとロビーを後にした。
「……やれやれ」
溜息とともに呟いて、ワラキアの夜は自分のペースを取り戻す。この際本当に「やれやれ」と言いたかったのは誰だろうかと言う事は問わない。
「騒がしくしてすまなかったね、ザトー」
ロビーの隅、目立たない位置に据えられた長椅子に腰掛けていた人物に向かって告げる。
指を組み、ゆったりと椅子に腰掛けている様子は、表面的には眠っているようにもただ寛いでいるだけのようにも見えた。
ザトーはゆっくりと顔を上げると、ワラキアの夜の方を向いて答える。
「何、この程度の騒がしさ、珍しくも無い事だ」
小さく笑み、ワラキアはロアが試合を行っているモニターに視線を向けるネロに優雅に会釈をして、ザトーの椅子の前に移動する。
「調子はどうだね？ザトー」
「寄生虫が居なくなったおかげですこぶる良い。肩が軽いぞ」
軽いやり取りをしてお互いの様子を窺う。
「控え室に居ないから探してしまったよ。部屋に戻るのも手間かね？」
「何処に居ようと私の自由だろう」
短く切り捨てるようなザトーの対応すら楽しみながら、ワラキアの夜は言葉を紡ぐ。エディが足下から興味深げに二人の様子を覗いている。
「そうかね。あそこは君には手狭か……それとも危険か……？」
「……妙に絡むな？」
妙に挑発的な態度を訝しむように、ザトーは削り取られた五感を用いて死徒の内心を推し量る。
「随分と、緊張しているように見えたものだからね」
「………………」
晴れやかとさえ言える愉しげな声色に、ザトーは不機嫌な色を滲ませた沈黙で応じる。じっとりとした害意。禁獣がザトーの下にあれば、影の爪がワラキアの夜に向けられていかもしれない。
「君は日頃、大分エディの感覚に頼っているだろう？不便が無いか、これでも心懸かりだったのだよ」
すっかり低下してしまったザトーの機嫌を取り繕うように、しおらしさを装って彼の様子を伺う。
「視力は戻っていないようだね」
痛ましな声色とともに眼帯の上からそっと指を這わせると、ザトーは不機嫌さを放棄して諦めたように溜息を吐く。
「全く。対価だけ私に押し付けるなど。人を食った真似をしてくれる」
吹っ切れた分さばさばと、冗談混じりの嫌味の棘を投げ付ける。
「何しろ私には捧げる眼球が無いからね」
悪戯っぽく答え、ワラキアの夜はウインクをするように片方の眼を開く。目玉の代わりに眼窩に満ちた血液が流れ落ちる前に、瞼で再び封をする。
「―――しかしそうなると、やはり不都合が生じるだろう？」
チーム内に頼りにできる人物が居ればそれで良いが、一見して大人しく献身的に見える間桐の少女は精神汚染により錯乱気味で有害である。存在として全人類に止め処無い悪意を抱く這い寄る混沌は論外だ。唯一、話が通じるという意味で真っ当なカデゴリに分類できるネロ・カオスではあるが、彼の主食が人間で有る事を考えると、同郷で有るが故に逆に不安を覚える。
「……彷徨海の鬼子ならば、みすみすチームと言う総体の力を削る真似はしないだろうが……」
今度は含みの無い憂慮の言葉に、ザトーは頭を振る。
「多少の事はこれでも出来る。それにヴェノムを―――部下を呼んである」
げ、とエディが呻いた。彼とは余り相性の良い人物では無いらしい。
「風の噂程度には聞いていたが、彼と直接顔を合わせた事は無かったね」
「あちらも試合が有る。直ぐには来ないだろうよ」
肩を竦めてザトーは言ったが、しかしその言葉を否定する酷く切羽詰まった声が、廊下に反響しながら近付いて来る。
「―――様っ！……ザトー様！ザトー様ァッ！！」
ズザァッ！と廊下を見事なドリフト走行で駆け抜けて来た人物を真っ当な視力を持つ者が見やれば、最初に目に付くのは頭部に描かれた青い瞳の図案だろうか。
偶々観客として会場を訪れ、『それ』が疾駆する光景を目撃していた爆皇雷は、友人の閑丸にこう語ったと言う―――「白い目玉オバケが廊下を超ダッシュしてた」
頭痛を堪えるようにザトーが額を押さえる。余りの勢いに軽く危機感を覚えたワラキアの夜がマントを翻し、エディごと空間を飛んで少し遠くに退避する。
ワラキアが退いて開いた空間に、ヴェノムが砂煙を上げる勢いで、床を蹴る足音も高らかに駆け込む。
「ご無事ですか！？ザトー様！！」
「……自分の試合はどうした。騒ぎを起こすなとも言って置いた筈だが？」
「ですがザトー様にもしもの事が有ったら……！」
悲痛な声色で訴えながらも、ヴェノムはザトーの姿に目立った負傷も消耗も無い事に安堵する。
「とにかく。私の試合が有るにせよ無いにせよ、今日のランセレは見届けなければならんんぞ」
「はい。お供いたします、ザトー様」
溜息を吐くザトーの言葉に恭しく礼を返し、それから抱いた疑問に付いて訊ねる。
「ところでザトー様、トラブルと言うのは一体……」
ザトーが架空の視線でワラキアの夜を示す。ヴェノムが主によって『トラブル』と示された相手を睨む。
「どう言う事だ……吸血鬼」
顔を隠す為に長く伸ばされた白い髪の間から覗く強い視線を、ワラキアの夜は楽しそうに受ける。
「簡単に説明すると、こう言う事態でね―――エディ」
呼ばれて、ワラキアの夜の影に潜っていたエディが煩わしげに顔を出す。
「！？」
驚愕にヴェノムが息を呑む。敬服するべき主、ザトーの最大の武器にして癌細胞である禁獣。在りし世界ではザトーを取り殺し、その亡き骸すら引き回し辱めたあの憎き獣が。ヴェノムにはどうやっても引き離す事の出来なかった獣が今、ザトーから引き剥がされている。
「この大会のルールで、敗者は所有アイテムを奪われる事が有る。ザトーの場合はこのエディだ……そして先程、私のチームと彼のチームが試合をしてね」
説明を聞くヴェノムは、一言で表すならば『きらきら』していた。頭髪のベールに隠れて見えない筈の顔が何よりも雄弁に物語っていた。タタリGJ、と。
「ザトー様！最早このような獣を使うまでもございません！このままこの獣を縊り殺してしまいましょう！！」
「黙ッテ聞イテイレバ好キ勝手言イヤガッテコノ狗メガ！！」
現宿主であるワラキアの夜ごと突き殺しかねない勢いで、自身の武器であるビリヤードのキューを構えるヴェノムと、それに吼えかかるエディを眺めながらワラキアの夜は愉快そうに笑う。
「君の部下は……とても面白いね」
「……褒めてないだろう、それ」
隠す必要のなくなった何度目かの溜息を吐きながら、ザトーは呻くように指摘した。
おまけ�．競函射�Side
その瞬間、ぷつりと何かが切り離された。
五感の一つと数えて遜色無いその感覚の喪失。
意識を送れど足下から立ち上る影は無い。ザッと脳から血が失せる様な感覚。喪失感。
恐怖と分類されるであろう感情を誤魔化すように舌打ち一つ。動作に不便がない事を証明するように、淀み無くベンチから立ち上がる。
「ごめんなさい、負けちゃいました」
「勝敗は一時の夢のようなもの。いずれ全てを奪い取って差し上げましょう」
少女のものと妙齢のもの、女性二人の声がする。二人の位置を手掛かりにベンチの長さを思い出し、そこから出入り口の位置を推測する。常と変わらない速度を意識して歩き出し、さりげなく上げた指の端が壁面に振れると、今度はそれを頼り足を進める。
「大丈夫ですか？ザトーさん」
間桐と言う名の少女が背後から問いを投げかける。余計な事を。ザトーは内心で舌打ちして少女を振り返る。
「この程度、支障は無い」
端的に言葉を切って、再び歩き出す。この場に留まる訳には行かない。チームメイトは、弱みを見せれば命すら危うくなるようなメンツだった。
無数の獣を押し固めたような異様な気配。ネロ・カオスが背後に続く。牙の気配にぞくりとしながら、ザトーは今度は足早になりかける歩調を抑制する。怯えている素振りを見せてはいけない。竦めば獣は噛み付いて来るものだ。
扉を開き、どうにか目立ったミス無く廊下に出ると、人気の多い方へと足を進める。控え室に戻る気にはなれない。
待ち合わせ等の人がまばらに屯するロビーの端の壁に寄りかかり、ようやく人心地付く。獣の気配もロビーに留まっているが、流石に人目の有る所で襲いかかっては来ないだろう。
ロビーを行き交う気配を探り、半ば当てずっぽうで声を発する。
「そこの」
「―――あ、はい？」
TRPGであれば幸運判定に成功したと言った所だろう。人の良さそうな返答が返る。声質から、相手が運営のカlンlフlーlマlンであると判断し、内心胸を撫で下ろしながらザトーは言葉を繋げる。
「連絡を取りたい。私の部下のヴェノムなのだが、伝言を頼めるか？」
「はい。出来ますよ」
何かと多忙であちこち飛び回る選手のサポートの一環として、カlンlフlーlマlン達はメッセンジャーの役割を請け負っている。異なる文化が入り乱れ、連絡手段の画一化も出来ない世界で、実は最も確実な連絡手段は彼ら舞台裏の人間を利用した伝言である。
ザトーも携帯は持っているが、まさかこんな事になるとは思わず、エディの中に放り込みっぱなしだったのだ。
「では。『こちらの試合で少々トラブルが発生した。試合が終了し次第こiろiうiばの会場へ来るように。なお、そちらの試合を優先させる事、不要な騒ぎを起こさない事。』以上だ」
「はい……えぇと……」
メモにペンを走らせる音がして、カlンlフlーlマlンがザトーの言葉を復唱する。
「ああ。それで。頼んだぞ」
「確かに請け負いました」
ぺこりと一礼して、カlンlフlーlマlンが足早に立ち去る。
ミッションコンプリートとは言わないが、まぁ、これでどうにかなるだろう。息を吐く動作が表に出てしまった。直ぐに平静を取り繕い、壁から離れてロビーに並ぶ長椅子の中で、最も死角になる場所を選んで腰を下ろす。
指を組み、そっと辺りに神経を這わせる。とかく何が起こるか分からない世界だ。今の状態では回避の遅れが死に直結しかねない。リラックスしている体を装いながら、暗殺の仕事の前のように精神を研ぎ澄まし、辺りを警戒しながら部下の到着を待つ事にした。
おまけ�△修慮�
ワラキアの夜がその繊細な造りの手を自身の前に差し出したのを、ザトーは布擦れの音や気配の動き方から察した。
「何の積もりだ」
問うザトーには見えていないと知りつつも、ワラキアの夜は優雅な笑みを浮かべる。
「奪った者の責務として、私が君の『眼』になってやらねばなるまい」
「『眼球』の無い奴が良く言えたものだ」
「無くとも、観劇にもダンスにも不自由した事は無いがね」
「今はどちらもお断りだ。下らない事をしている暇があるなら、劇団に戻ったらどうだ？」
差し出された手を軽く払い除けるザトーの皮肉にも尚、ワラキアの夜は楽しげに誦する。
「何しろ盲目の姫君のエスコートだ。騎士の身ならば至上の誉れとする所だが―――」
「あまり私を安く見るなよ、タタリ」
ザトーが伸ばした指先は、的確にワラキアの夜の眉間に突きつけられていた。もしザトーにその気が、ワラキアの夜に眼球が、それぞれ有ったならば、一瞬の間に眼球を抉り取ってしまう事も可能であろう動きだった。
「これは手厳しい」
くつくつと笑いながら一歩分の空間、身を引いたワラキアの夜は、ふと自分に向けられた殺気とも呪詛とも付かない気配を見やる。
青い瞳が睨んでいた。白い髪の上に描かれた瞳と、下に象眼された青い瞳が、光を発していると錯覚する程の強い視線を叩き付けていた。
現金と言うか割り切っていると言うか、禁獣の排除の手柄とは別の次元で、主に馴れ馴れしく振る舞う吸血鬼は彼のジャプニカ暗殺帳に登録されたらしい。
「……暗殺者に目を付けられてしまったかな？」
「タタリが暗殺を恐れる必要が有るのか？」
「君の家族に嫌われるのは悲しいからね」
「……言って置け」
ワラキアの夜から顔の向きを逸らしながら、ザトーは部下の悋気をどうやって宥めるか検討し始めた。
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