217 :名無しさん@ビンキー:2010/01/15(金) 01:34:57 0
このスレの無限の可能性を見て萌えあがり
師匠トキ&バルジャギSSを書いてしまいましたので投下します。
師匠トキはちょいエロありなんで注意。

北斗兄弟が可愛すぎていきるのがつらい。





注意書き
・スレの流れにヒャッハー!してしまって出来た産物です。
・師匠トキ&バルジャギでなんか全員乙女くさいです。
・師匠トキはちょいエロが入るので背後に注意。
・原作は投げ捨てるものっ

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珍しく、実家へと戻ったジャギは、以前使っていた部屋のベッドに崩れ落ちていた。

「――――………はぁ〜……」

仮面の下で、小さいけれど重々しい溜息が零れた。
バイクを飛ばしてきたせいか、指先が悴み少しばかり痛い。
その上、冷気に晒されたシーツに問答無用に残った体温を奪われ、正直堪えれないくらい寒い。
しかし、身体のあちこちが無駄に熱を持ち痛む身体には丁度良かった。
 
「……怒ってた、よなぁ……」

自分の零した言葉に、ずしり、と内臓に負荷が掛かった。
現在、一人暮らしを満喫しているジャギが実家へと出戻っているのは、何のことは無い、同居人との諍いがあったからだ。
諍いの原因は禄に覚えてないが、とりあえず弁明する暇さえなくぶちのめされたのだから、覚えて無くても関係ないだろう。

「…………」

諍いはコレが初めてではない。自分も結構短気だが、相手は更にその五倍…いや、十倍は短気だった。
そのせいか、数えるのが億劫になるほど頻繁にこういったこと起こるが、その都度、嫌な考えが過ぎってしまう。

(本当は嫌われてるんじゃねぇのか?)

そんなことはねぇ、断じて違うと、いくら自分に言い聞かせても、その考えが消えることはなく、とうとう家を飛び出して実家へと出戻ってきてしまった。
同居人はこの家の場所を知らないはずだというのが理由の一つだが、此処を選んだ決め手は別にある。
ジャギはベッドからのろのろと起き上がると、ダルそうに緩慢な動作で扉へと向かった。

「……情けねぇなぁ……」

目的地は二階の角部屋。幼い頃から自身を知っている兄にしか、相談事が出来ない自分を蔑むように息を吐いた。
数え忘れるほどの溜息が更に加算されて、ジャギの足取りは非常に重かった。




***




「兄者。少しいいか?」
「……ん?あぁ、ジャギか。開いているから、入るといい」

ノックと共に声を掛ければ、穏やかな声が応じた。病魔に侵されている――が決して弱くはない――兄の声が珍しく弾んでいるように聞こえて、ジャギは幾らか胸を撫で下ろした。
もしも兄の具合が悪かったのなら、とてもではないが相談事など打ち明けられない。
厳しくも優しい兄は、きっと自分がどれほど苦しくてもジャギの悩みを放ることはないと理解しているだけに、必要以上の心労を掛けたくなかった。
ジャギは一度頭を振ってドアノブに手を掛け、ジャギにしては珍しくそっと音を立てないようにドアを開ける。
静かに扉が開くにつれ、陽光が薄いカーテン越しに差し込む室内がよく見えた。
ジャギの眼が、寝台に腰掛け、穏やかに微笑む兄の姿を映し、その顔色の良さに肩の力を抜きかける。


が。


「お前から尋ねてくるとは珍しいな。どうかしたか?」
「……色々言いたいことはあるが、とりあえず膝の上に乗せてる物体はなんだ」

心からジャギの来訪を喜んでくれている兄には悪いが、無視することが出来ない一点へ鋭角的に切り込んだ。
トキは首を僅かに傾げると、はて。と視線を上下に動かし、ジャギへと視線を戻す。

「ん?東方不敗だが…面識がなかったか?」
「いや、あるけど…よぉ…」

無論、面識はある。兄者のチームメイトで、なおかつ兄者の想い人だ。知らないわけがない。
いい年して結ったおさげ髪が特徴の後頭部だけでも、東方不敗マスターアジアその人と分かる。
だが、いくら面識があろうと、トキの膝に頭を預け、無防備に寝息を立てているという男に何も違和感を覚えないわけではない。
しかし、トキの病的に白い手が寝入る男の額に触れ、流れるように頬を撫でているのを見ていると、確かにジャギが感じていた違和感は瞬く間に霧散した。
慈しむように動く指が心地良いのか、東方不敗は何の不安も不快も示さず、されるがままになっている。
差し込む陽光に彩られて、兄の声が弾むのも分かるくらい、とても穏やかな風景。

二人を見て、極自然に浮かんだ感情は、間違いなく羨望だった。

「……ジャギ?」
「――――ッ!」

名を呼ばれ、ジャギは傍目にも分かるほど狼狽を露わにした。
けれど、トキにして見れば、急に黙り込んだジャギが、名を呼ばれただけで示したその反応の方が意外だった。
長年、ジャギの面倒を見てきたという経験と実績のあるトキは、極自然に笑みを仕舞い込むと立ち竦んだジャギに問いかけた。

「ジャギ。どうしたのだ?」
「……別にぃ…何でもねぇ」

ふい、と顔ごと逸らされ、トキは困ったように眦を下げた。
膝の上に東方不敗を乗せている手前、立ち上がることすら出来ない現状で、ジャギを捕まえることは困難だ。
と、なれば、言葉で何とか留まって貰わなければ、不器用な弟はこのまま何も打ち明けずに帰りかねない。
トキは視線を僅かに彷徨わせたあと、言葉を選びながら慎重に口を開いた。

「――そのような顔で言われても、説得力がないのだが…」
「ハッ!仮面してるのに顔なんてわかるのかよ」
「分かるさ。大事な弟のことならばな」
「………」

掛け値なしの真実を伝えれば、ジャギは沈黙する。
こういった言葉に慣れていないジャギは、なんと答えたらいいのか分からないのだろうと、トキには想像がついた。
トキはそのまま手招きをしてジャギを寝台の空いているスペースに誘導する。
どうやら、酷く悩んでいるらしいジャギは、素直に応じてトキの隣に腰掛けると、トキの視線から逃げるように俯いた。
何時もより下がった位置にある頭を撫でてやれば、反抗することなく受け入れる。
これは、本格的になにかあったのだとトキが心中で呟くと同時に、ジャギが控えめに口を開いた。

「………兄者は良いな。仲良くて」
「――――」

言葉の意味を図りかねて、トキは続きを促すようにジャギの頭を撫でた。
その手に絆されたのか、ジャギはますます俯いて、掠れた声を漏らす。

「……俺にはそういうの、似合わねぇよ」

呟かれた言葉に、トキの脳裏に一人の人物が浮かびあがる。
バルバトス・ゲーティア。恐ろしく――それこそ武神ほどに――強い、ジャギの連れ合い。

「何か、あったのか?」

そう問いかけつつも、トキには思い当たる節があった。
バルバトスという男は、器は大きいのだが、些か言葉足らずで手が早い。
コンプレックスの塊のようなジャギを包み込むほど器が大きい反面、ジャギが己以外のものに意識を向けるのさえ許せないほどに心が狭いのだ。
ジャギも似たような性格をしているが、そのジャギの方が幾らか幼く、不安定だった。
トキから見れば完全に悋気を起こしているようにしか見えないが、妙なところで世慣れしていない弟からして見れば、何か気に障ることをしただろうかと考えたのだろう。
それこそ、トキを訪ねるほどに、思い悩んで。
あの、ジャギが。と思えば、自然と胸の内側に温かいものが拡がるように感じた。


「……あいつが何考えてんのか、分かんねぇ」

トキの問いに答えたジャギが、酷く寂しそうに見えた。
不器用すぎて、誰かに頼ることすら出来ない弟がようやく自分から動いてくれたのだ。
その行動を無意味なものにしたくはない。トキは、頭を撫でる手をそのままに、弟が好む穏やかな声音で続けた。

「それを、彼に言ったのか?」
「……」

沈黙は肯定。言えるはずがない、と、態度で示してくるジャギに、トキは僅かに苦笑した。
基本的に北斗の男は皆、不器用なようだ。と眼を細めながら再び口を開く。

「ジャギ。言葉にしなければ伝わらないのだ。お前が伝えねば、相手はどうやってそれを知れば良い? 相手に己の感情を理解して欲しければ、理解される努力をしなければ。拳でなければ伝わらないことがあるように、言葉でなくては伝わらないこともある」
「すぐには、無理だ。出来ねぇ」

トキの言葉に、間髪要れず小さな反論が上がった。反応があれば上出来だ。静かに言葉を聞くだけなど、この弟らしくない。
噛み付いて、憤り、叫んで、もがいて、懸命にあれば良いのだ。

「では、行動で示しなさい。何も言わず、何もせず、ただ相手に意を汲んで欲しい。では、彼を選んだ理由にならない」
「………」
「理解したいのだろう? そして、理解して欲しいのだろう?他の誰でもない、彼だから」

ジャギが小さく頷く。俯いたまま、顔を逸らされ、トキは小さく微笑んだ。
弟がこうやって照れることさえ、彼と出会っていなければ見ることもなかったのだと思うと何処か微笑ましい。

「大丈夫、お前が想っている以上に、彼はお前を好いているよ」
「…………どうだかな」

ようやく何時もの調子が戻ってきたのか、ジャギが顔を上げて唇を歪ませる。
その笑みに、トキは一層笑みを深めると、もう一度ジャギの頭を撫でた。




***





来訪と同じく、静かに部屋を出て行ったジャギを見送っていると、下から伸びてきた腕に後頭部を掴まれて視線を合わせられる。
抵抗無く視線を合わせると、膝の上で眠っていたはずの東方不敗の眼が開き、しっかりとトキを見据えてきた。

「……起きてたのか」
「寝られると思うほうがどうかしておる」

一体いつから起きていたのか。寝起きとは到底思えない確りとした声音に、トキは目元を緩ませた。

「すまない。………感謝している」

気配に聡いこの人のこと。きっと弟が来訪したときから起きていたのだろう。
それでも寝入ったふりをしていたのは、彼が弟を気遣ってくれてたからに他ならない。
もしもこの人が起きていたら、きっと弟は何も言わずに帰っていただろうと簡単に想像がついた。
トキは東方不敗の上に影を落とし、羽が触れるように微かで軽い口付けを露わな耳に落とした。
そして、ふと東方不敗と視線が重なる。まっすぐな瞳の中に映る自分と目が合い、東方不敗もまた、己の瞳に映る自身を見ているのだと理解すれば、喉の奥の方が微かに疼く。
沈黙を以って、目と目で通じ合い、お互いの心の底まで見透かしてしまうような沈黙が流れる。
光を通す白髪が眩しいのか、瞳を細める東方不敗に顔を近づけ、未だ膝に懐く東方不敗に囁いた。

「貴方は、私を好いてくれているか?」
「………お主は理解しているだろう」

問いかけてくるトキへ東方不敗は不敵な笑みを作り、後頭部に掛けた腕に力を込めて顔を引き寄せる。
東方不敗も頭を持ち上げ、距離を削ると唇を触れ合わせ、吐息を重ねたまま上体を起こしきると今度は身体を傾けて、自然な形でトキをベッドに押し倒す。
重ねただけの唇から熱が伝わり、トキは上がる己の体温を自覚してゆっくりと瞼を下ろした。

「………」

キュ、と唇を固く結び、眦に込み上げてくる熱を意識の外に追い出そうとする。
唇が触れただけで、なにやら疚しい感情に支配されてしまうのは酷く後ろめたい。
そんな内心を悟ったのか、重ねていた唇が円弧を描くように変化する。

「なにもせんわ、馬鹿者が」

年齢を感じさせる穏やかさを孕む声に鼓膜を震わされ、ベッドが小さく揺れる。
トキが重たい瞼を起こすと、片手をトキの隣に付いて見下ろす東方不敗の姿が視界に入った。
優しくも大きな存在感に一度は四散を試みたはずの熱が戻ってくる。
冷たいシーツに頬を擦り付け、再び目を閉じるとトキは小さく呟くように白旗を揚げた。

「いや、………なにかして欲しいのだ」

語尾はトキ自身が聞いても可笑しなほど揺れた。柔らかく、しかし有無を言わせぬ強さで重ねられた唇の所為だ。
トキの方から薄く唇を開けば熱い舌が滑り込み、差し出した舌も舐られる。
小さく詰めた息を浚うように口腔を舌で掻き混ぜられて、閉じた瞼の裏側に熱い液体が篭りだす。

「………ん…ぅ……」

鼻から抜ける掠れた呻き声に、トキはこめかみが痛むほどの羞恥を覚えた。
ドクドクと心臓が激しく脈打ち縋るものを求めてシーツを握り込む。
それに気づいたのか、東方不敗の手が宥めるようにトキの白髪を梳いた。
角度を変えながら繰り返される口づけと、労わるように髪を梳く手に、トキの心音が加速する。

「―――お主は本当に慣れんな…」

軽い音を立てながら唇が離されると、東方不敗は揶揄を帯びた声で呟いた。
その言葉にトキは眦をさらに朱色に染めて視線を泳がせる。
眼下に陽光を反射する首筋が晒され、東方不敗は眩しそうに目を細めた。

「……すまない…」

生真面目に謝罪を口にするトキに、東方不敗は笑みを隠さず喉を震わせた。
先ほどまで、弟を導いていた兄は何処へ行ったのやら。
朱色に染まった耳に柔らかく歯を立てれば、組み敷いた身体が分かりやすく跳ねた。
何度肌を重ねても、反応は変わらずに初々しい。

「何を謝る。お主はそのままで在れば良いのだ」

耳に直接叩き込むように囁けば、息を詰める気配が伝わってきた。
東方不敗は緊張が過ぎて僅かに震える指先を拾い上げ、自らの背中へと導く。
白い手が衣服を掴んでいるのを確認すると、無防備な首筋へと顔を埋める。
舌で舐め、吸いつけば、肌にくっきりと朱色の痕が残る。
怯えさせないように髪を梳きながら、丁寧に衣服を乱すと、背中を掴む手に力が篭った。
僅かに顔を上げて、トキを伺う。見られていることに気づいていないのか、眦に涙を浮かべて必死に瞼を閉じるトキの表情に、東方不敗の手が鈍る。

「……止めるか?」

その言葉に、閉じられていた瞼が開かれる。
涙に濡れて色を深める瞳に、東方不敗の心臓が跳ねた。
このまま続けたいという欲求はあるが、昼間からの行為は、トキにとって刺激が強すぎるだろう。
正直、止めれるのは今しかない。
闇夜の中に浮かぶように白い肌も体温を上昇させるが、陽光の中で乱されるトキも東方不敗の理性に皹を入れてくる。
けれど、傷つけたくも、怯えさせたくもない。嫌がることは出来ればしたくない。

「――――……」

トキは僅かに息を弾ませながら、東方不敗の視線を受け損ねたように、うろうろと視線を彷徨わせる。
何度も唇が形を変えては、熱い呼気だけが吐き出され、東方不敗の神経をジリジリと灼いていく。
僅かな逡巡ののち、トキは再び瞼を閉じると背中へと回した腕に力を込めた。
互いの身体が密着し、布越しに鼓動が伝わる。東方不敗からも近づき、抱き合うと、トキの熱が足へとぶつかった。
口付けと僅かな愛撫だけで、トキの中心には熱が集まっていた。
思わずトキの顔へと視線を投げかけるが、耳どころか全身を朱色に染めるトキにそれは酷だろうと微苦笑を漏らす。

「―――…すまんな、止まれん」
「………ッ」

大きな掌をトキの下肢に向け、熱源を包み込むようにすれば布越しにも確かな滾りを感じて如何しても口角が上がってしまう。
声を殺そうとするトキは細く長い息を唇より吐き出して、時折奥歯をかみ締める。
唇を噛み切ってしまいそうなトキの口元に頭を撫でていた手を運び、太い指先で唇を無理やり抉じ開けた。
驚いて瞳を見開くトキの隙を付き、捻じ込んだ指の腹で濡れている舌に触れる。

「我慢できなくば、噛み切れ」
「……! ……っ、……ん」

指を閃かせ、上顎を嬲ると口腔さえも過敏になっているのか、小さな声が漏れた。
その声に唆されるように指でトキの熱を揉みこむと、明らかなほど硬度と質量が増す。
本当は歯を立ててでも止めたいだろう声は、指が邪魔して溢れ、室内に零れていく。

「……ん…、…ぅ…は、ぁ…っ」

トキの胸板が上下し、身体の中を巡る血と熱が東方不敗の指先に導かれ、下肢に溜まる。
咥えさせた指を幾度も歯列が掠めるものの、歯を立てることは出来ないのか、まるで戯れるような感触ばかりが腕を伝わった。
無意識に煽ってくるトキの所作に、暴力的になりそうな自らを叱咤すべく顔を振る。
しかし、もっと直接的な刺激を与えるように、東方不敗は下衣をずり下げ、直にトキの熱に指を絡ませた。
動揺にかトキの肩が確かに震えるのを見とめるも、指を強く歯列に押し付け、熱を扱き出す。
手の中で脈打つ熱を摩擦すれば、先端より先走りが滲み、棹を濡らすように零れた。
何度も東方不敗の皮膚を噛み切りそうな圧を指に掛け、トキの両腕が東方不敗を手繰り寄せる。

「―――…ふ…ッ」

瞬間的に息を詰めるとトキは東方不敗の手の中に白い欲を吐き出した。
思わず東方不敗の背中に爪を立ててしまい、その上、強く噛んでしまった指からは僅かに鉄錆の味が広がる。
激しい羞恥といたたまれぬ感情に苛まれる寸前で、再び東方不敗の手が動き出す。
まるで余計なことを考えさせないようとするようで、トキは眦がチリチリと痛むのを感じた。
指に出来た傷口に舌を押し付け、丁寧に舐め上げるとトキは濡れた眼差しを向ける。
震える唇よりも雄弁に、己の唾液が絡んだ東方不敗の血を音を立てて飲み込んだ。

何時までも慣れないと言われるが、それは何時までも優しく身体を開く東方不敗に甘えているのだ。
壊れそうなほど熱くなった身体で、自らも欲するように強く強く、広い背中を抱き寄せながらそんなことを考えた。




***




ジャギが自宅へ帰ると、玄関の前に見慣れた長身が不機嫌さを隠しもせずに立っていた。
思わず腰が引けたジャギを目敏く見つけ、元来鋭い目付きが更に鋭利になる。
射抜かれるような視線に晒されて、冷気が冷たさを増したように感じた。

「――――どこへ行っていた」

立ち尽くすジャギとの距離を長い足で素早く消化すると、虚言を許さぬ眼光で問いかけてくる。
バルバトスの視線の鋭さにたじろくように、ジャギは僅かに俯いた。
しかし、バルバトスはそれすら許さず、顎を掬うと無理にでも視線を繋げてくる。
触れられた指先が酷く冷えていて、ジャギは喉を引きつらせた。

「兄者んとこだ。文句あるかよ」

ジャギは上がった体温を誤魔化すように、目に力を込めた。
トキに相談しに行くくらい、嫌われたくないのは事実だ。
けれど、それを簡単に表に出せるようならそもそも恥を忍んで相談になんぞ行きはしない。
結果、ジャギはいつものように減らず口を叩いて、バルバトスを睨み付けた。
けれど、その反応が余計癪に障ったのか、バルバトスからの威圧感がはっきりと増す。
背中に冷たい汗が伝い、悪寒が体を駆け抜ける。

「………良い度胸だ………」

まるで地の底から響くような声は、単純な怒声よりも冷たく重い。
心音が駆け出し、不規則に脈打つ鼓動がジャギ自身を追い詰めていく。
呼吸すら憚れるほどの気配に、ジャギの冷や汗は止まらない。
バルバトスの力はジャギの遥か上を行く。それを知っているだけに、殺意すら滲ませる怒気に当てられて迂闊に声も出せない。

「……余程、俺を怒らせたいらしいな」

疑問系ですらない言葉が、ジャギの言葉を何一つ望んでいないのだと悟らせる。
とてもではないがバルバトスがジャギの言葉を聞くとは思えず、ジャギは吐き出しかけたため息を飲み込んだ。
またいつものように殴られるのだろうか、それとも何の弁明もないまま寝台に引きずり込まれ良いように貪れるのか。
どちらにしても何時もの流れだが、怒気を孕んだままの普段以上にバルバトスは容赦がない。
壊されるのではないかと危惧するほどに強いられる自分を容易く想像できて、ジャギは疲れたように肩の力を抜いた。
その反応にバルバトスの眉間に皺がより、顎を捕らえる手に力が込もり、ギリッと骨が軋む音が聞こえた。

「っ」

硬い、無骨な手が信じられないくらいの強さを持って顎を捉えて正直痛い。
その手を退かそうとバルバトスの手首を掴んだジャギは、ふとある事に気づく。

氷のような冷たさの手は一体どうしたことだろう、と。

バルバトスの手は何時も暖かいとは言わないが、それでもこの冷たさは異常だ。
怒気に当てられて鈍っていた脳が慌てたように思考を巡らせ導きだした答えに、ジャギはいっそ呆然としながら呟く。

「外で待ってたのか?」
「―――貴様が行き先も言わずに出るからだろうが!!!」

ジャギの言葉にバルバトスの怒声が応じた。鼓膜が破れるのではないかという大音量にジャギの体温が冷気を忘れたように上昇する。
一体いつから待っていたのか。指先の冷たさがその答えのような気がして、怒気を身に受けながらもジャギの心中に暖かいものが落ちていく。

『大丈夫、お前が想っている以上に、彼はお前を好いているよ』

バルバトスは待っていてくれた。行き先も言わず、飛び出したジャギをこの寒い中、何処にも行かず。
不整脈を刻む鼓動の意味が摩り替わり、仮面の下で頬に熱が集まる。

「……悪ぃ」
「――――――フンッ!!」

謝罪はごく自然に出た。珍しく簡単に折れたジャギに、バルバトスは捉えていた顎を開放する。
何とも言えない気まずい空気が流れるが、その空気を払拭するようにバルバトスに手を取られた。
バルバトスはジャギの手の冷たさに舌打ちすると、そのまま家の中へと引きずり込む。
抵抗出来ず、されるがままのジャギはそのままリビングへと連行され、突き飛ばすようにソファへと座らされた。
唐突な行動に、ジャギが意味を理解するより早く、バルバトスはキッチンへと消える。
困惑したままソファに座っていると、湯気の立つマグカップを持ってバルバトスが戻ってきた。

「こんな寒い中、バイク飛ばしたら冷えるだろうが!」
「あ、ああ」

ジャギがマグカップを受け取ると、当然のように隣に腰掛けてくる。
未だ視線があらぬ方向を見ていることから考えると、まだ怒りが解けたわけではないらしい。
けれど、ジャギを置いて何処かへ行く気はないらしく、ジャギがマグカップに口をつけている間、何も言わずにただ隣に腰掛けていた。
ジャギは半分ほど飲んだマグカップをテーブルに置き、静かに息を吸った。
バルバトスは待っていてくれた。
行き先も言わず、飛び出したジャギをこの寒い中、何処にも行かず。それが酷く嬉しかった。

『理解して欲しければ、理解される努力をしなければ』

思い出すのは、兄の部屋。
あの二人のように、穏やかな時間を過ごしてみたい。
ジャギはその感情を吐露するように、隣に腰掛けるバルバトスの腕を力任せに引っ張った。

「――――ッ!?」

急な動きに、バルバトスの巨躯がバランスを崩し倒れ込む。
ちょうど、ジャギの膝あたりへと。

「―――おい、何を……っ」
「い、今だけだ!」

起き上がろうとするバルバトスの視界を遮るように手を添えて、半ば叫ぶように反論を塞ぐ。
ジャギは何度も心中で兄の言葉を思い出し、込み上げてくる羞恥を無理にでも押さえ込む。
目元を隠しても分かる、精悍な相貌に心音が加速する。
バルバトスは触れる手の温度が上がっているのに気づくと、憮然とした表情で体から力を抜いて、ジャギの膝へ頭を預けた。
膝に重みが増したのを感じたのか、ジャギの手が微かに震える。


「……今だけだ」


まるで負け惜しみのように呟くと、ジャギの頬が微かに綻んだような気がして、バルバトスは小さく舌打ちを漏らした。



<END>

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