135 :名無しさん@ビンキー:2010/02/11(木) 16:04:06 0
すいません我慢できなくてやってしまった
背中で風呂で師匠トキです
トキが乙女すぎた…

舐めたりナニまでいかなかったよ



注意

・師匠×トキは熟年新婚夫婦
・単に風呂でいちゃついてるだけです
・別人注意
・特にトキが乙女化してるのが大丈夫な方だけどうぞ














 今日も東方不敗の道場にて、鋭い打ち合いの音が響く。
 片やマスターアジアその人であり、片や北斗の次兄トキ。ふたりは常人にはついていくことすら危ういスピードと精緻さで拳を合わせていた。
 もう始めてからずいぶん経っているが、時間が過ぎるのを忘れるほどの高揚感にふたりは身を任せている。
 だが、ふいに。
 つう、と、その白い首筋を汗が滑り落ちるのを、東方不敗はうっかり見てしまった。
 つい、見てしまったのだ。

「えっ?」
「ぐっ」

 運悪くその一瞬の隙に、トキの拳骨が脇腹に刺さった。
 それだけのことであるが、トキはぎょっと目をむいて、東方不敗は内心でしまった、と舌打ちする。それまでのテンポよく心地よくさえあった打ち合いにノイズが混じって、真剣勝負であれば間違いなく必殺の一撃を決められていたであろう空白に、トキは動揺からか一歩退いてしまった。

「…あ、あの、マスター…?」
「……何だ」
「失礼ですが、ご加減がよろしくないのでは」

 自分で言ってその推測が恐ろしくなったのか、トキが怯えたような目をする。
 いや、そうではなく。思わず本当の理由を言おうとして東方不敗は思いとどまった。
 どこの誰がお前の色香にやられた、と言えようか。

「…いや、そんなことはない。すこし油断していたようだ。水を挟んですまんな」
「いえ、」

 と、トキはひとつ息を呑んで、首をふるふると振る。

「マスターのお体に何の障りもないならばいいのです」

 そうして、常にない強さで言うものだから始末が悪い。
 そうか、と笑うとトキも薄く口元に笑みを刷いた。そうしてふとその白い手のひらが首もとに伸びる。そのまま襟ぐりを引くとため息を短く吐いて、すこし疲れましたね、とごく自然に鍛錬の中止を申し出た。

「…」

 …そこではじめて、東方不敗は気がついた。
 驚くほどの集中のために気がついていなかっただけで、トキの身体は珍しくぜんたいに汗をかいていた。彼は普段あまり汗をかかない。それが衣服の一部が薄く透けるほどに汗ばんで、よくよく見れば胸も上下している。
 暑いのか、トキが長い横髪をかきあげ、耳にかける。削げてはいるがすこし火照った頬は色づいてそれとなく暗示するものが…
 …まずい。これはまずい。

「………あの、マスター…?」
「………、そうだな、ここらで今日は止めにするとしよう」

 トキは怪訝な顔をしつつも、頷いた。





「…あの、マスター。よかったら、でいいのですが…」

 何もあの程度でそこらの若造のように盛るわけはない。
 だからトキがおずおずと、汗を流すために湯を貸して欲しい、と言い出したときも、東方不敗はごく普通に首肯した。
 この顔の赤さはおそらく、本当は泊まりを請うつもりだったのだが言い出せず、せめてもの頑張りで風呂を、ということだろう。まったく、いつになっても奥手が治らない。
 ―――それがこれのいいところでもあるのだがな。
 思いながらも羞恥にどんどん赤くなっていく頬に手を伸ばした。触れるとひくりと震え、うろたえたように視線がさ迷う。

「…ならば共に入るか?」

 からかうように聞いてみれば、青い目が見開かれて東方不敗を見つめ、爆ぜるように赤面し、あ、だとかう、だとかのうめき声だけが唇から漏れる。

「どうだ?」

 念押しに、唇に親指の腹を押し当てる。ひゅっ、と喉が鳴って、トキは目を泳がせた。
 そのまま沈黙が続き、焦らされている心地で苦笑しながら薄い唇を撫でると、瞳を伏せたままトキが小さく小さく、「お願いします」と言うのが聞こえた。





「マスター、お背中を流しますよ」

 髪をまとめあげ、紐で簡単に括るとトキは言った。

「ああ、頼もう」

 頷くと嬉しそうな微笑が返る。
 東方不敗邸の風呂は広い。ひとり住まいにどうしてこれほどというくらいに広い。だからかなり大柄と言えるふたりが入ってもまだ余裕がある。
 トキの洗い方は丁寧で心地がいい。時折交わす会話も今日の稽古はどうだとか最近の強敵の話だとかで、これといった内容はないのだが疲れを癒すように感じる。
 互いに汗を流すと、すこし熱めに入れてある湯船に身体を沈めた。三つ編みは湯につかないよう、とトキがとめてくれた。本当によく気がつく。
 隣においてこれほどまでに心が穏やかになるものは今までにいなかった。本当に得がたい者と出会ったものだ。そう思いつつ、遅れて湯に入ったトキが一息つくのに視線を向けた。
 はっとするような青さの瞳とかち合う。そこに笑みが浮かんで、どうした、と問うとゆるやかに首を振った。

「いえ…ただ、ありがとう、ございます」
「なにがだ」
「…何、ということは。ただ、すべてが…」

 トキは曖昧に語尾を溶かした。熱気だけでないだろう目元の赤味が微笑ましいのと同時に、ひどく東方不敗の男を煽る。
 しかしながら、風呂場での行為など今のトキにはまだ無理だろうということもわかっていた。
 ほとんどお互い裸の状態で向き合ってなお、青い目にはそういった色はない。わざと褥を暗示させるような場所以外で事に及ぼうとすれば、怯えさせるというだけではなくトキの繊細な心を徒に傷つける。

「トキ、こちらに来い」
「…?」

 手招きをして、筋肉質ながら痩せた体を抱きこむ。さすがにこうまですれば鈍いトキでも気がついたのか、皮膚と皮膚の接触にびくりと強張った身体、目前の耳が紅に燃えた。
 動揺にぱしゃり、と湯が波を立てた。

「あの、マスター…?」
「そう緊張するな。何もせん」
「は、はい……」

 声の震えに笑みながら、さわりのいい赤い頬を撫でる。そのまま今だけ晒されたうなじを辿ると、無意識にかトキがほっと息をついた。

「儂も感謝せねばなるまいな」
「は?」
「お主に出会えてよかったと、心からそう思っておる。ありがとう」

 そう囁くと、トキははたと動きを止めた。そのまま何度も瞬きをして、どうやら息を呑んだらしい。
 どんどん体中を朱に染めるトキはいまだに言葉の接ぎ穂を探している。あ、え、と吐息のようなものを零し続けているだけのトキに、思いついたように東方不敗はうなじに乗せていた掌を滑らせた。
 こちらに身体を傾かせようとした動作だったが、ふいにしっとりとした皮膚を楽しんでいた指の腹が、がさついた表皮に触れた。
 前に聞いた、ケンシロウというトキの義弟を流木から救ったさいにできた古傷だ。傷のふちの辺りが盛り上がって、そこからざらざらとした跡が続く。滑らかな皮膚との落差に東方不敗は眉を顰めた。

「…マスター?」
「……いや」

 武人である以上、このくらいの傷でいちいち何というわけではない。だが白い膚に残った深い傷跡は闘いではなく自己犠牲で出来たものだ。弟を護るために自らの身体を、ひいては命を犠牲にするその意志が東方不敗には案ぜられた。
 一歩間違えば脊髄を損傷してもおかしくなかったろう。広範囲に広がるざらつきはうなじの下からくびれの始まりあたりまで、横は肩甲骨までに届いている。

「…この傷は、私の誇りです」

 ふいに低く静かな声が落ちた。冷えてしまった肩に湯をかけてやりながら、東方不敗は耳を傾ける。
 リラックスしきったトキは本当にあまり喋らない。ぽつぽつと、思考の切れ端をそのままに口にする。普段の角のない言葉で彩られた優しい語りも悪くはないが、そういう綺麗さを取り払ったこの不器用なトキも東方不敗は好きだった。

「兄として、私がケンにしてやれたことの、数少ない…」

 互いに裸で抱き合っているくせに、妙に安らいでいる。先ほどまで欲との狭間で躊躇っていたのが嘘のように、今はただこの安穏とぬくもりを手放したくない。
 だが先ほどの発言はいただけないな、と東方不敗は忍び笑うと、軽くざらつきに爪をかける。跳ねるように背中の筋肉に緊張が走るのがわかった。

「して『やれた』、とは、聞き逃せんな」
「…っ、マス、」
「ならば儂には何をしてくれるのだ?」

 逃げようとする頬を包んで、お互いに向き合う。それでも視線が逃れようとするので、こら、と笑った。

「……狡い、」

 珍しい、ほんの少し拗ねたような声でトキが言う。片方の眉を上げて東方不敗が続きを促すと、目じりに朱を散らして応えが返った。

「わかって…いるのでしょうに。……あなたは、ずるい」

 抱きついてくる重みも、身体の温かさもすべてその腕に閉じ込めながら、東方不敗は喉で笑う。
 甘え方すら不器用なのに、驚くほど捕まれる。いつのまにかそこにいるのが当たり前のようになってしまった。
 とらえられているのはこっちのほうだ。狡いのはいったいどちらだかわからない。

「今夜は泊まって行くのだろう?」

 返事は背中に回った腕の力だけだった。それで、十分だった。





おわり

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