775 :名無しさん@ビンキー:2010/03/18(木) 14:43:17 0
バルジャギ前提のトキ+ジャギを書かせて頂きました。
初経験で到らない点もあるかもしれませんがご容赦を…
内容はほのぼのです。

お兄ちゃんに言い負かされるジャギ様がミタカッタダケー



!バルジャギ前提で話が進みます。
!でもバルさん出てきません。
!ほのぼのな北斗。
!原作とキャラが違うが、なに、構うことはない。
!MUGEN故致し方なし。

以上を確認の上でご覧下さい。



半ば珍しくもなったその丸まった背中を視界の端に見て、トキは僅かに目を見開いた。
彼の視線の先――東向きの縁側では、どこか亡羊としたようなジャギが差し込む朝日を眩しげな目で眺めて縁に足を投げ出していたのだ。

他の兄弟程ではないにしろ、ジャギの朝は意外にも早い。馬鹿のように寝起きの良い同居人に合わせてということもあるが、一端の拳法家であるジャギは朝独特の雰囲気が苦手であった。深夜の静寂から生命が動き出す清清しい喧騒に包まれてなお、眠っていられるほどには彼もまだ腐っていない。
しかし彼も、自身の兄弟が暮らす実家においては、その習慣がまるで初めから無かったかのように全てを放棄し出来得る限りの惰眠を貪っていた。
ゆえに、トキは瞠目したのだ。ここに帰れば太陽が中空を過ぎても起きて来ないことさえままあるというのに、どうして日の出も間もないこの時間に起きようと想像できるだろうか。

「早いな。どうしたジャギ」
ふと、かけられた声に顔を向けた。といっても、こんな時間から活動を始めているのはトキくらいであるので特に驚きがあるわけでもないが。
「兄者こそ、水汲みか?」
毎朝ご苦労なこった。
厚い仮面の下、口の端を歪めて笑う義弟の横へ腰を下ろすと、苦笑の漏れる唇を改めて開く。
「で、今回は何があったんだ?」
「それがよォ…」
促されるままに、不器用ながらも言葉を紡ぎ始めた義弟に、トキも柔らかな笑みが浮かぶのを感じる。荒廃した元の世界ではとても考えられないその表情は確かに、彼らが平穏を得た証だった。
恐らくあの独占欲の強い恋人のことであろう。トキに言わせればジャギも相当なものであるが、こうして素直に頼られるということが彼にはこの上なく『家族』としての幸福であった。

「―――ってぇワケなんだが…兄者?」
だが、その幸せの余韻に浸る間も無く、トキはその首を項垂れさせて悔恨の念に苛まれることとなった。両膝に肘をつくような体勢の、両手で覆った顔が熱い。
『痴情の縺れ』とは言ったもので、ジャギの口から飛び出す言葉は性的な事情に免疫のないトキに対するには余りに過激でそして隠し立てがない。正直と言えば聞こえは良いが無神経であるということも否めないもので、だがしかし本人に悪気があるか?といえばそうでないのもまた事実だった。
「おい?おい兄者、聞いてンのか?」
「あ、ああ…すまん。聞いている…」
つまるところトキ自身が慣れるしかないのだと悟り、彼は腹を括るため、激流に身を任せ同化する。と小さく口の中で呟いた。
「…つまり、しょっ…初夜…を迎えたが、最…中に素顔を見られ、しかし翌朝になっても彼の態度は変わらないので、居たたまれずに飛び出してきた、と…」
「おうよ」
しれっと答えて見せたジャギに、それならばあれほどまで詳細な説明などいらなかっただろう…と、先刻のジャギの話を思い出しトキは再び項垂れた。
だが兄のそんな想いなど露も知らぬとばかりに、ジャギは一人話を続ける。
「幻滅しただろっつたらよ、あの野郎、笑いながら『もっとよく見せろ』なんて言いやがってよォ…やめろっつても聞きもしねえで…」
呟くようにトーンの下がった声に徐々に震えが混じり、その声音にトキは姿勢を正すと向き直った。ギリリ、と音がしそうなほどに心臓の上を押さえつけたジャギの目は困惑に泳ぎ、やがて俯くと陽光の影にまぎれてしまう。
「アンタみてぇな目しやがるから…」
「…私のような?」

そう、その目だ。とジャギは半ば忌々しげに呟いた。
あの傍若無人で唯我独尊なバルバトスがだ。乱暴に組み敷き、この醜い顔を『もっと見せろ』と言いながらまるで宥めるように、或いは癒そうとしているかのように傷痕へ何度も口付けたのだ。その時の表情が、目がなぜか自分たちに接するトキのそれに重なったように見え、己のその考えに衝撃さえ受けて暫く動けなかった。

「内臓を鷲掴みされたみてぇになってよ…頭の中がカァッと熱くなったと思ったら、な、涙まで出てきやがる…」
「…」
この歳になって泣いたことが相当居心地悪いのだろう。幾度か座りなおすよう身じろぐと、ダラリ。体の脇に腕を投げ出し脱力させた。
「その上心臓までバクバクいいやがって、あの野郎のこと見てられなくてよォ…」
もうワケが解らねぇ。
途方に暮れたようにヘルメットの上から頭を抱え、ジャギは腹の底からせり上がる呻きを漏らした。苦しくて堪らないのだ。苦しみの元凶を思い浮かべると同時にあの目も連想されて、その度に彼は理解を超えた疼きに身悶えている。
ささくれた手で臓腑を握られるような、体の芯を貫く痛み。これを治せるのは、トキしかいないと、思った。
「兄者!俺ぁ死んじ……兄者?」
しかし、その頼みの綱といえば、訝る弟を放りくつくつと肩を揺らすばかりで最早こちらを見ようともしない。
元来気の長い方ではないジャギが憤慨すると、ようやくトキは口元を手で覆いながらも顔を上げた。しかし目には涙を溜め、紅潮した顔は羞恥にではないだろう。
彼が話の最中に笑っていたことは確かだった。
「そりゃねえぜ兄者ァ…」
「す、すまない…ぶふっ…」
謝りつつも込み上げる笑いを堪えている姿に説得力はなく、ため息を零したジャギにトキは慌ててコホン、と咳払いを一つ。なんとか取り繕う。

「――ジャギ、彼のことは好きか?」
「と、突然なんだァ?そりゃまぁ、ヤっちまったけど…わかんねぇよ!」
微笑を浮かべたトキの問いは、なんら脈絡のないもののように思えた。
世紀末の世を、修行と弟への嫌がらせにかけて生きてきたジャギは、その問いに答えるだけのものを持ってはいなかった。
「だが、彼を想うと胸が苦しく、彼を見ていることもできない」
「おう」
それと何の関係があるってんだ!
苛立ち、興奮して身振りを交え始めたジャギに、なおも穏やかな笑みを向けると、トキは幼子をあやすようにそのヘルメットに包まれた頭をなでた。

「それはなジャギ…恋だ。彼に焦がれているのだ」

「――はァ?」
唐突な話が雪崩込み、ジャギの頭がそれに追いつかない。
だが言葉を咀嚼し、理解するや否や彼は顔を赤くしたり青くしたりと百面相を繰り広げ、ぶんぶんと手を顔の前で振り全力で否定した。
「お、おおお俺が恋だァ!?冗談はよしてくれ!!」
「なぜだ?恋焦がれるも執着するも、同じことだろう」
「で、でもよ…俺なんかが…」
仮面越しにでもはっきりと判るほど、首まで色付くまでに顔を赤く染め、段々と小さくなっていく語気に思わず失笑してしまう。これでは普段と立場が逆ではないか。
「彼がお前を嫌ってなお、素顔を見ようとは思うまい」
だから大丈夫だと。彼もお前の全てを求めているのだと。
そう諭し緩やかに背を撫でれば、深く俯きながらも「…おう」と囁きほどの小さな返事が返ってくる。
それに満足げに頷くと、トキは静かに立ち上がってジャギを促した。

「何も言わずに来たのだろう?彼も心配しているはずだ」
「……その、世話ンなった…」
「家族…だからな」
当然だ。ともう一つ頭を撫でれば擽ったそうにジャギが笑う。

遠ざかっていくその背中を見送り、トキはヘルメットの硬い感触が残る
手を握り締めた。じわりと手から広がる温かさが、先ほど別れた弟の無邪気な笑みが、幸福だった。

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