556 :名無しさん@ビンキー:2010/03/31(水) 23:54:30 0
バルジャギSSが出来たので投下させて頂きます。
シリアス・暗め?な話で、ジャギ様が「弱い」です。
エイプリルフール前日の話なので、何とか間に合って良かった…






−注意−

・妄想、捏造要素が多くキャラが別人状態である
・ジャギ様とバルさんが同棲中、バルジャギである
・男性同士の恋愛描写を含む
・話が暗め、死にネタに近い要素有り
・原作の展開と異なっている箇所有り
・その他おかしい部分がある



以上の点を踏まえ、バッチ来い!と言う方はスクロールをどうぞ。












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 四月も迫ったある日。春だと言うのに、未だに冬だと錯覚してしまう冷たい風が吹いていたある日のこと。昼時だと言うのに手が悴む寒さの所為か、人気はほとんど無い。そんな中、桜がようやく咲き始めた並木道を歩く影が二つ。

「…そしたらアイツ、いきなり殴ってきやがってよ!」
「いつもそんな話ばかりだな、お前達は」

 二人の男、トキとジャギが話をしながら道を歩いている。話と言っても、ジャギが相方であるバルバトスから殴られただの何だのと愚痴を零しているのだが。
 バルバトスは試合で家におらず、折角出来た時間と言う事もあってジャギは久々に実家へ帰っていた。そして家に居たトキから散歩にでも行かないかと誘われ、近況報告と言う名の愚痴を吐き出している。
 かれこれ散歩を始めて十分ほどだが、その間バルバトスへの不満を飽きる事無くジャギはぼやき続けている。だが、トキは嫌がりもせずジャギのそんな話をのんびりと聞いていた。

「ったく、俺の迷惑も考えねェでアレコレ好き勝手やりやがって…」

 ブツブツと文句を連ねるジャギの表情はメットを被っているため良くは分からない。しかし、その姿は気になる相手の悪口を言い続ける子供その物だ。これもある種の惚気なのかと思うと微笑ましく感じ、トキは軽く吹き出してしまった。

「何だ兄者、急に笑って…」
「ハハ、すまない。随分彼の事を気にしていると思ってな」
「な、んな事ねェ!アイツの乱暴なトコは迷惑してんだよ!」
「全く、その点に関してはお前が言える立場では無いだろう?」
「う…」

 自覚はあったのだろうか、トキの指摘に言葉が詰まるジャギ。その間にトキはすらすらと二の句を継いでいく。

「愚痴ばかり言うのも、彼の事をよく見ているからだろう?」
「………」
「それだけ文句が出るのに、何だかんだと言って関係が続いているのもお互い仲が良い証拠だな」
「別に、んな事…」
「否定しなくてもいい。…いや、照れなくてもいい、だな」

 トキは真っ直ぐにジャギを見て表情を緩めた。見透かされてしまう様なその視線に耐えられなかったのか、ジャギはバツが悪そうに顔を逸らす。二人は宛ら、勘の良い父親とヘソを曲げてしまった息子と言った所だろうか。

「相変わらず素直じゃ無いな」
「うるせェ、俺は元々こんなんだ」
「…いいや、ジャギも変わった所はあるさ」

 それまでとは違う、感慨深い声音でそう言いトキは立ち止まる。その視線の先には蕾が咲ききっていない桜。急に雰囲気が変わった兄の声に、ジャギは足を止めて振り返る。

「?何だ兄者、突然」
「いや、な」

 桜を見上げるトキの瞳は、何かを思い返すように遠い目をしている。柔らかな表情の中には、何処かやりきれない感情が潜んでいた。

「…"あの頃"のジャギからすると、随分穏やかになったものだ」
「………」
「私は、それはきっと彼のお陰でもあると思っている」
「昔よりも、今のお前の方が…私は良い方向に向かっていると思う。だから…彼と幸せになって欲しい」
「兄者…」

 言い終わるとトキはジャギに向き直る。その瞳に、悲しみの色を宿したまま。それは、兄として純粋に弟を思いやる気持ちなのか。それとも、それまでの記憶から来る物なのか。ジャギはただ黙ってトキの話を聞いていた。その言葉を一つ一つ、噛み締めるように。

「今度、彼を連れて家に来ると良い。ケンシロウや兄者と共に食事でもしよう」
「………」
「もうしがらみなど、私達には…無いのだから」
「……ありがとよ、兄者」

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「おう、ようやく帰って来たか」
「…コラ。服着ろ、服」

 ジャギが自宅に戻ってくると、バルバトスが全裸で出迎えた。
 風呂から上がったばかりなのかまだ体から水が滴り落ちており、股間を隠そうともせず堂々とバスタオルで体を拭いている。筋肉質な体に褐色の健康的な肌、仄かに残る水滴。それだけで様になる辺り、やっぱ美形だなとジャギはしみじみ思う。彼の股間にぶら下がる立派なモノは何度見ても色々な意味で"凄い"としか言いようが無いが。

「試合はもう終わったのか?随分早かったじゃねェか」
「フン、一発殴り飛ばしたら即座に終わりだとよ。歯ごたえの無い奴だ」
「…テメェが強すぎるだけだっつーの」

 ジャギはそう呟き、タンスから替えの服を引っ張り出しバルバトスに向かって放り投げる。体を拭きつつ服を器用に片手で掴み、タオルをそのまま机に投げ捨てて着替え始めた。流れ作業の様にジャギはタオルを脱衣所に運び、再び部屋へと戻る。

「で、貴様は今まで何処に行ってた」
「実家だ実家。兄者と話をしてきてな」
「何の話だ?」
「あー、まー、色々だ」
「……あん?」

 トキの言葉を思い出し、ジャギは照れながら話を誤魔化す。だが、その誤魔化し方が気に障ったのか。ジャギにはバルバトスの周辺が苛ついてピリピリしたように見えた。その空気に、慌ててジャギは言葉を繋ぐ。

「そ、そういや兄者が今度テメェを連れて一緒に食事行こうって言ってたぞ」
「…食事だあ?」
「良く考えたら全員でどっか行くとかしてねェだろ。まあ考えておいてくれや」

 緊張した空気は解け、落ち着きを取り戻すバルバトス。何とか誤魔化せたと安堵するジャギ。だが、話を聞いていたバルバトスはあまり気乗りしない様子だった。

「ん?もしかして、嫌だったりすんのか?」
「いや、違う。俺としては貴様と二人で食事をしている方が良いと思ってな」
「は?」
「それなら食事が終わってから色々出来るだろ?やっぱソッチの方が面白え」
「コラ!そっちに話を持っていくんじゃねェ!」

 バルバトスは玩具を弄って遊ぶ猫の様に笑う。ジャギは下の話をされても別に気にしない方ではある、むしろ話に乗っかっていく方だ。だが、バルバトスから言われるとどうにも気恥ずかしかった。あられもない姿も含めて、全てを知られているから。

「フン、まあ良い。具体的な日程が決まったら教えろ。行ってやらん事も無い」
「…へいへい。んじゃ俺、ちょっと一眠りするから後で起こし…」
「寝る?だったらこっちに来い」
「うォッ!?ちょ、引っ張んな!オイ!!」

 ジャギが話し終わる前に、自分の部屋まで有無を言わさず力ずくで引っ張っていくバルバトス。そのままベッドにジャギを放り投げ、自らもベッドに入ろうとする。ジャギは取り乱した様子でバルバトスに向かって遮る様に手を突き出し、抵抗する姿勢になる。

「いや、ちょっと待て!今日はヤらねェぞ!」
「阿呆が、一緒に寝るぞ」
「あ?」
「俺も一眠りする。どうせなら一緒の方が良いだろう?」
「あ、ああ…何だ、そう言うことか…」
「貴様の方がすっかり"ソッチ"の発想になってるじゃねえか」
「う、うるせェ!」

 ジャギは照れ隠しに怒声を上げながらメットを外し、ベッドに二人並んで寝転ぶ。完全に、押し倒されていつも通りの展開になると考えていたジャギは、その思考回路に戸惑い赤面する。バルバトスはジャギの頭を軽く撫で、朱に染まった顔を眺め意地悪く笑った。

「俺より貴様の方が完全に染まってんじゃねえか、まさかそこまでとはな」
「テメェの普段の行動のせいだろうが!俺は、別に…」
「とか何とか言って、また押し倒されて激しくされたかったたんだろう?」

 図星を突かれ、何か言い返そうとしたがジャギはそっぽを向いてしまう。その態度が面白かったのか、バルバトスは喉で笑い言葉を続ける。

「じゃあ今日は、おやすみのキスでもしてやろうか。寂しいだろ?」
「………」
「何も無いんじゃ、スッキリしないんだろ?」
「………ん」

 おちょくる様な態度でバルバトスが声を掛け続けると、ジャギから唇を重ねてきた。バルバトスは、そのまま照れて潜り込んでしまうだろうと考えていたのだが、その行動に軽く驚く。珍しく自分から口付けたジャギは、顔を隠すように抱き付いた。

「………どうした、今日は素直じゃねえか」
「…たまには、してやっても良いって…思ったんだよ」
「フン…いつもそうなら可愛げがあるんだがな」

 バルバトスは優しくジャギの背中を撫でる。その優しく大きな手の感触に、ジャギはトキの言葉を思い出す。

−それはきっと彼のお陰でもあると思っている−

 抱かれている安堵感に、そうなのかもしれねェなと笑うジャギ。コレが幸せって奴なのかもしれないと、そう思いながらジャギは瞳を閉じた。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 体にチクリと痛みが走り、意識が覚醒した。何が起きたのかと思い目を開くと、鉛色の空が視界に入ってくる。淀んだ汚い空気。土と砂、そして鉄の香りがする。

 違う、鉄じゃない。血の香りだ。そう気が付いた途端、思い出したかのように激痛が走る。先ほどの比ではない、焼け付くような痛みが全身から伝わってくる。ただ、痛覚はあるのに体は全く動かない。喉が熱く、息も苦しい。深く息を吸い込んでも、微かに呼吸出来るだけだ。何もかもが突然すぎて、意味が分からない。

(どうなっている?どうして俺はこんな所に居るんだ?俺は、確か、眠って…)

 いや、それは有り得ない。ここはどう見ても別の場所だ。俺は、北斗神拳伝承者、ジャギ。記憶は確かだ、意識が混濁している訳ではない。何で俺はこんな所に____________

(…ああ、そうか)

 記憶を探って思い出した。俺は、ケンシロウに負けたんじゃねェか。北斗神拳伝承者の座を奪おうと行動して、結局敗北した。あれだけの技を受けてよく今生きているなと、他人事の様に思ってしまう。

(つっても、もうすぐ死んじまうか)

 ハハと自嘲ぎみに笑った、つもりだった。だが口から熱い何か零れ落ちただけで、笑い声は出なかった。口内から伝わるのは鉄の味。…喉がずっと熱いのは、俺の血が溢れているせいか。ここまでずたぼろだと_____

(生き延びられる訳がねェ、か。当然だな)

 こんな事になってるのに、俺は今まで何を見ていたんだ?あの「世界」は、一体何だったんだ。

 ______夢。きっと、夢を見ていたのだろう。兄弟の争いも無い、俺を心から受け入れてくれる存在の居る世界。そんな有るはずもない理想が詰まった空間。
 まるで水溜まりに映っていた月だ。綺麗だと思って眺めていたら、乾いてあっと言う間に消えちまったって事か。

(………バカバカしい…)

 本物の月は、現実はどうだ。兄弟との戦いに敗れた自分。支えてくれた人すら救えなかった自分。ここで死ぬのは何も残らない、ただの敗北者。

(ハハ)

 俺なんて、所詮その程度のモンだったって事か。北斗神拳伝承者になれなかった時点で、この結末は決まってたんじゃねェのか?

(ハハハ)

 何時だったか、お前に言ったよなアンナ。北斗七星になりてェってさ。意味は違うけどよ、本当になっちまうんだな。自分が死んで、やっと理想に届くってのは皮肉なモンだ。死んだら、お前に会えたり…すんのか?…そりゃねェ、か。俺は死んだら確実に地獄行きだ。

(……………)

 ___もう一度瞳を閉じたら、眠りについたら俺はあの世界に行けるのだろうか。また、有るはずの無かった安らかな日々を手に入れられるのだろうか。もしかすると、あの夢の中に…アンナも居るのだろうか。

(そうなら、嬉しいんだけどよ)

 空が、景色がぐにゃりと歪む。一瞬何が起きたか分からなかったが、目の熱さに気が付く。俺は、泣いているのか。…まさかこんな時にまで泣いちまうなんて思わなかった。でもよ、もう泣いたっていいんだよな。誰も、見てやしねェんだから。
 俺だけ、だから。俺を抱き留めてくれる腕なんて、何処にも無ェから。だから_________

(もういい…か…)

 そのまま、俺の意識は真っ暗になった。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−

「…ギ!おい、ジャギ!」

 聞き覚えのある声が響く。いつも俺を怒鳴ってばかりのあの声。恐る恐る目を開けると、飛び込んできたのは心配そうなバルバトスの顔。

「バル、バトス…」
「…おい、どうした。俺が目を覚ましてから、ずっと魘されてたぞ」

 体を起こしてみると、見覚えのある部屋だった。並んで寝た、あの場所。濁った空も、淀んだ空気も在りはしない。これは、どういう事なんだ。アレは、夢だったのか?

「…いや、何でもねェよ」
「何でもねえ訳があるか、そんな顔で」

 バルバトスの指が俺の目尻をなぞると、涙が付いていた。その事に動揺したが、それ以上に頭の中が混乱する。____分からない。あの俺は、ここで寝ていた俺が見た夢だったのか。それとも、死の間際に______あの俺が、この夢を見ているのか。

「だから、何でも…」
「……ジャギ、ちゃんと言え」

 バルバトスの声が変わる。普段は見ることの無い、不安そうな目。俺を、きっと心から心配しているのだろう。柔らかく包むように強く、俺の手を握りしめてくる。話せ、受け入れてやるとその手から感情が伝わる。
 だから俺は。嘘を付いた。

「………いや、それが…テメェと一日中闘うハメになった夢を見てよ」
「…あぁぁ?」
「もう終わらせてくれ、助けてくれーって所で目ェ覚めた」
「…馬鹿野郎が!」

 バルバトスに頭をゴツンと殴られる。普段よりは加減していると分かるが、それでも痛い。…この痛みも、夢かもしれないのだろうか。この、想いすらも。

「折角、人が心配してやったって言うのに…そんな夢なんぞ見てんじゃねえ!」
「…しょうがねェだろうが、ある意味トラウマになってんだぞ!」
「貴様…本当に一日中付き合わせてやろうか…?」

 出来る限り、何時も通りに見えるよう喋る。俺は嘘が嫌いだが、コレだけは言えなかった。話したら、話してしまったら。全てが壊れるようなそんな気が、した。
 …もうすぐエイプリルフールだ。嘘を前借りしたって、問題無ェだろ?

「…バルバトス」
「なんだ、ジャ…」

 俺はバルバトスの胸板に顔を埋める。このまま話していたら、もう堪え切れそうも無かった。いきなり俺の態度が変わったからだろう、アイツの戸惑う様子が伝わる。手が、体の震えが止まらない。抱き付いているのだから、この震えも全部バレてしまっているだろう。
 でも。それでも、本当の事は話せそうにも無かった。もし俺が夢でしか無いとしたら、バルバトスの側に居られないとしたら。…その先は、考えたく、無かった。

「バルバトス」
「……何だ」
「ちょっと、このままで、いさせてくれよ」
「………ああ」

 バルバトスはそのまま俺の背中に手を回し、力を込めて抱きしめてくれる。ただ、その力強さでも俺の震えを止まりそうに無い。どうしようも無い程の不安が、心の中に満ちていく。

「…気が済むまで、居ろ」
「…………………すまねェ」

 思わず出てしまった謝罪の言葉は、何も聞かないでくれた事に対してか。それとも、俺が付いてしまった嘘に対してなのか。

「謝るな。……謝るな、ジャギ」

 それ以上は何も聞かず、俺を抱きしめる。耳に響くのは、バルバトスの鼓動。その体温に、涙が滲み出す。これが現実なのか、あの俺が見ている夢なのか。それは今の俺には分かりそうにもない。
 でも。夢なら、永遠に覚めないで欲しいと願った。

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