879 :名無しさん@ビンキー:2010/04/06(火) 21:21:08 0
話の流れを切ってしまってすみません。
>792からの流れに萌え萌えして自レス>>809をセルフss化してみた。
影二つで死兆星ネタ、暗いのとキャラ崩壊にご注意。
「時/に/愛/は」を聞きながら書いたせいかいつにもましてお耽美です。







*エディ×ワラキアの夜で死兆星ネタ
*盛大なキャラブレイクに注意
*この世のあらゆるものと無関係です

NG項目のある方はすみませんがファイルを削除して下さい










***


 新月の夜。
 眼下に深紅の薔薇が咲き誇る庭園を望む白いテラスに、寄り添い立つ影が二つ。
 それぞれ色味の異なる金の髪は、星明かりの下で銀色に輝いて見える。星の燐粉を塗したようなその髪を靡かせ、くるりとその場で一度回ってみせたワラキアは、満天の星空を仰ぎながら歌うような調子で言った。

「静かな良い夜だ。月が無いから、星が良く見える」

「ああ、そうだな」

 常と変わらぬ調子で相槌を打つエディは、足元にうずくまる分身を通した視界で北天に七つ連なる星座を探す。ほどなく見つかった極点を中心に廻るその輝きに添えられた不吉な光が、その目にはっきりと映った。
 ―――初めてそれを見た夜から変わらず、死の兆しを告げる星は輝き続けている。
 その星の下にあっても絶望に飲まれてしまわないのは、自分が独りではないからだろう。

「隣には貴様が居る。……死ぬには悪くない夜だ」

 傍らに立つワラキアに手を伸ばす。その白い頬にそっと触れれば伝わってくる、己の宿主の身体に、屍体に似た冷たい温度に笑みを浮かべた。

「死して猶生きる術はただ一つ、誰かの記憶に遺ることだけ」

 それは自分が得ることは不可能だとばかり思っていた、死後の生。
 闇の中に現れた、目映いばかりの希望。


「すまんな、ズェピア。俺は貴様に消えない傷を残して逝きたい」


 ―――そう、生きたい。
 愛する者を傷つけてでも。


「……君は君が考えるほど残酷ではないよ、エディ」

 添えられた手に己のそれを重ねて、ワラキアは微笑む。酷く幸せそうに。

「私が、私こそが、君の居た証をこの胸に刻んで欲しいと願っているのだから」


 死徒タタリに残された道行は後どれほどか。
 紅い月が昇るまで、千夜一夜を千度数えようかという旅に、誰より愛した者を―――その記憶を連れてゆく。
 それはどれほど幸福な旅路になるだろう。


「さあ、ワルツを踊ってくれないか。最後の夜に、最後の想い出を」


 重ねた手を引き、気取った仕種で腰を折れば、繋いだ場所から戸惑いの気配が伝わってくる。顔を上げると案の定、エディは困ったような、呆れたような表情を浮かべていた。

「生憎だが、俺はお上品な踊り方など知らん」

「それは奇遇だ、私も女性のステップを踏むのは初めてでね。何、初心者同士恥ずかしがることもないだろう」

 ワラキアの答は明らかに論点をぼかしていたけれど、エディもそれ以上食い下がることはせず、腕を引かれ促されるままにテラスの中央へと歩み出た。
 開け放たれた窓の、揺れるカーテンの向こう、部屋の内側。まだ温もりを残すベッドの傍らに置かれた蓄音機が、何の力によってかひとりでに廻りだす。


 新月の夜。
 奏でられるワルツの三拍子に合わせ、白い舞台の上を二つの影がくるくると廻る。
 満天の星々が舞台照明だ。翻るマントは豪奢なドレスの裾にも似て、その髪と同じように銀色の光を孕む。
 拙い足運びはしばしば互いの邪魔をして、その度にリズムが乱れるけれど、くすくすと楽しげな笑い声が不格好さを補って余りある。
 そのまま、踊りながら大理石の階段を薔薇の庭へと降りてゆく。最後の一段で足が縺れ、二人一緒に薔薇の植え込みへ倒れ込んだ。鋭い棘も不思議と肌を傷つけることはなく、その感触はむしろ極上の寝心地だ。


「はは―――あぁ、転んでしまった。やはり練習不足だったか。大丈夫かね?」

 薔薇の寝台に寝そべったまま夜空を仰ぎ、エディの肩に頬を擦り寄せるワラキア。その頭を片腕で抱き、エディも抑揚に愉快さを滲ませたままの声色で言葉を返す。

「ああ、貴様の戯れに付き合うのも悪くない。もう少し早く気付けば良かったな」

「構わないとも、それも君らしさだ」

 ワラキアは一度言葉を切って、紅い血に蓋をする瞼の裏で繰り返す。愛しい記憶を。


「……楽しかったよ、エディ」


「そうだな、ズェピア……楽しかったぞ」


 言葉が、途切れる。
 髪を撫ぜていた指から、ゆっくりと力が抜けてゆく。
 ワラキアはゆるりと身を起こし、横たわったままのエディを覗き込んだ。

 その瞬間、生温い風が逆巻いて、薔薇の花を散らし舞い上げた。
 ざあ、と潮騒に似た音すら立てて、次々と深紅の花弁が天へと昇る。
 その色は舞台の終劇を告げる緞帳にも似ていた。

 強い風はほんの一瞬でひたりと止み、再び静寂が訪れる。
 舞い上がった紅い花弁が、再び重力に引かれ雨のように降りそそぐ狂おしい景色の中で、冷たく甘い最後の口づけを贈った。


「おやすみ、エディ」


 遥か夜空で、星が音も無く流れ消えていった。










***










「―――という夢を見たんだ」

「ほう。俺の寝入りばなを叩き起こした揚句ベッドを血まみれにした理由がそれか」

「……恥ずかしながら」

「やれやれ……」

「そう呆れないでくれ給え。私自身も驚いているのだ、自分がこれほど動揺するとは。一月後か、一年後か、三日も無いのか、あるいは十年百年先であれ―――いずれ必ず訪れる日であることは理解しているのに……」

「ああ、全くだ……おいもう泣くんじゃない、無駄に腹が空くぞ」

「カット。……君は本当に情緒を解さないな、エディ。ここで洒落た慰めの台詞一つも言えないのかね」

「俺にそんな芝居を求めるな」

「つれないことだ」

「そんなことより、今のうちに俺にワルツを教えろ。貴様を残して逝く夜にそんなザマでは格好がつかん」

「! ―――ああ、それはいい。練習しようか、……二人でね」


 二人微笑みながら手を取り合い、血に染まったベッドを降りる。
 それは夢に見た風景のリプレイにも似ていた。

 しかしその夜の空に、七星の添え星はまだ、―――見えない。















fin.

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