523 :名無しさん@ビンキー:2010/02/18(木) 19:09:37 0
流れをぶったぎっちゃってすみませんが…
以前ここで「もしゲニが寒さに弱かったりしたら…」的なネタを見て
つい萌えが滾ったのでうっかり何か書いてしまいました
大l闘l領ベースで、ゲニヨハ(エロあり)です

>>522
社長凄いなさすが社長すごい
ゲニはテクと度胸と戦闘力以外、残念そうだw





■注意

・大l闘l領ベースですが元動画とは一切関係ないよ!
・ゲニヨハでエロあり
・捏造設定やらキャラ崩壊やらが酷い。特にゲーニッツの鬼畜成分がマイルド調整受けてます
・ほのぼの、微ギャグ風味?

 
以上の注意を見た上で「問題なし」という方はスクロールしていってね


























ぞくぞくと身を侵す悪寒に引きずられるようにして、ヨハンは眠りから覚めた。
捕苦離苦地方の冷たい夜気が、重ねられた毛布とシーツの守りを突破して、肌をじわりと撫でている。
染み入るような寒さに身震いしつつ、ヨハンは緩慢に背を丸めた。
まだ覚醒しきらぬ意識の中、手探りでブランケットを引き寄せ、じっと自分を包む空気が暖かくなるのを待つ。
しかしヨハンの期待に反し、快適に整えられた筈の寝台はいつまで経っても寒気を孕んだまま、彼を苛み続けた。

(寒い……)

そうしている内に眠気も吹き飛び、微睡みに浸っていたはずの意識が明瞭さを取り戻す。
それでもヨハンは根気強く、ベッドの上で身を固くしていたが、一旦去った睡魔が戻ってくる気配はなく、ただ時間だけが過ぎていった。
やはり原因をどうにかしない限り、寝付けそうにもない。
覚悟を決め、ヨハンはのそりと起きあがった。途端、身も凍るような寒さが全身を襲い、ヨハンは大きく体を震わせる。
さっと肌が粟立っていくのが、自分でも分かった。すぐにでもベッドの中に戻りたいと、無理矢理奮い立たせた気力が萎えていく。
だがその誘惑に負けてしまえば、もう二度と立ち上がれないような気がしたので、ヨハンは再度、己を励まし、寝台から降り立った。

(うぅ……こんなに寒くなるなんて、聞いてないぞ……)

泣きたくなる程の寒さの中、室内用スリッパに足を突っ込み、よろよろと歩き出す。
たとえ眠る時であっても、真っ暗闇だと落ち着かないという理由で、ヨハンはいつも一番弱い照明を点けたまま床に就くようにしている。
そのため夜闇に視界を奪われることがないのは幸いだった。
震える足が迷い無く向かった先は、まだ真新しいクローゼット。その中にはずらりと、試合で燃やすおなじみのコートが並んでいる。
これを毛布代わりにして寒さを凌ごうというのがヨハンの目論見だった。
本来なら予備の寝具を使うべきなのだろうが、それが収められている場所は、ヨハンが自室として利用しているこの部屋から遠く、取りに行くのも面倒だ。
それに、この急な冷え込みに参っているのが、自分だけとも限らない。
予備があるといっても、全員に行き渡る程の量ではなかったはずだから、最悪、無駄足に終わることも考えられた。
そういった事情があるのだから、これはただ不精をしているわけではないのだ。
誰に対してかそんな風に言い訳しつつ、コートを羽織る。
慣れた毛皮の感触に、これなら凍えることなく夜を過ごせそうだ、と安堵した、その矢先のことだった。

コンコン。

「……」

扉を叩く、軽やかな音が、薄暗い室内に響く。
瞬間、外気の冷たさとは全く種類の違う怖気が、全身を貫いた。
ぎぎ、と音がしそうな風情で、ヨハンは恐る恐る、音の聞こえた方へ視線を向ける。だがそうするだけが精一杯で、ヨハンはそれ以上動くことができなかった。
嫌な予感がする。その直感にヨハンは戦き、怯えるように身を強張らせた。
数秒ほど経って、またノックが繰り返される。その音は決して乱暴なものではなかったが、言い様のない不安感はやはり消えない。
とはいえ、このまま部屋の隅で硬直しているわけにもいかず、ヨハンは躊躇うように、視線を彷徨わせた。
取り得る選択は二つ。ノックに応じるか、聞こえなかったフリをしてベッドに潜り込むか。
ヨハンの本能は断然後者を支持して止まなかったが、ノックの主が、万が一、ルガールやフェルナンデスであったらと思うと、思い切った行動に出られない。

コンコン、とまた遠慮がちな音が響いた。逡巡の後、ヨハンは足音を殺して、扉の方へ近寄っていった。
出来れば、自分の嫌な予感が的中しませんようにと祈りながら。
しかし大抵の場合において、嫌な予感の方がよく当たるように、彼の儚い期待はあっさりと裏切られた。

「ヨハン? ……起きていますか?」

扉の外からかけられた声は、周囲を慮ってか、低く潜められている。それでもヨハンには、そこに立つ人物が誰であるか容易に判別できた。
嫌というほど聞き覚えのあるその声は、明らかに、ヨハンにとっての天敵──ゲーニッツのものだった。

悲鳴を抑えられたのは、僥倖であったとしか言い様がない。ヨハンは恐怖に目を剥いて、無意識の内にそろりと後ずさっていた。

「ヨハン。……ヨハン?」

ノックと、それに重なる穏やかな声が、静まり返った部屋に響く。それらの音を聞きながら、ヨハンは半ば現実逃避気味に、
こんなタイミングに目を覚ましてしまった自分と、自分を叩き起こしてくれた夜の寒さを深く恨んだ。
しかし何かを呪ったところで、この状況は変わらない。
ヨハンは涙目で扉の方を見遣った。
結局のところ、自分が取り得る行動は変わっていない。扉を開けるか、寝たふりをするか。
関わり合いになりたくない。だが無視すればもっと酷い目に遭わされるような気もする。
どちらにしろ悪い結末しか浮かばないのは、染みついたトラウマ故か。しかしそんなヨハンの煩悶は、結局は総て無駄に終わった。

ひゅう、と室内に一陣の風が吹いた──その刹那。
ドン、という重いものがぶつかる衝撃をまともに受け、ヨハンは押し倒されるようにしてその場に倒れ込んだ。

「うわっ!?」
「あ」

反射的に受け身を取ったものの、背を強かにぶつけ、思わずヨハンは声を漏らす。
不可思議だったのは、そうしてヨハンにぶつかってきた相手もまた驚いたような声を上げ、衝撃に耐えかねたように、ヨハンの上に頽れてきたことだった。
──ああ、ひょうがで無理矢理室内にワープしたところ、移動先に自分がいて派手に激突したんだな、と、痛みに霞む頭の中、理解する。
しかし経緯を把握したところで何かが好転する筈もなく。痛みと恐怖と怒りで混乱したまま、ヨハンは相手を睨み付けた。

「な、何するんだゲーニッツ!」
「……それはこちらの台詞です。何だってそんな所に突っ立っていたんですか」

だがヨハンの抗議が、この男に通用するわけがない。ゲーニッツは全く悪びれた様子を見せることなく、
逆に、そんなところに立っていたヨハンが悪いとばかりにそう呟いた。

「ここは私の部屋だっ! 私の部屋で私がどこに居ようと自由だろう! ……だ、大体、お前が、
よりにもよってこんな時間に、人の部屋に断りもなく入ってくるのが悪……」
「おや。起きていたくせに居留守を決め込んでいたのは、どこの誰ですか?」
「う……、そ、それは……、で、でもお前だって、どうせ私が寝ていたって入ってきたんだろう」
「まあ、そうですがね」
「開き直るなよ!?」

あまりの言い草に思わず突っ込んでしまうが、今が真夜中であることを思い出し、慌てて口元を覆う。
そうして少しばかり冷静さを取り戻したところで、ヨハンはふと奇妙なことに気付いた。
ゲーニッツは基本的に、ヨハンの話を聞かない。自分の欲求を、力に任せて問答無用で押し通してくるのが普段の彼のやり方だ。
そしてこれまでのやり取りを思い返すに、とっくに手が出ても良い頃合いである。なのに、今夜の彼は不思議とそうした気配を見せなかった。
一体、どうしたのだろう。何かの気紛れなのだろうか。
そのことが少し気に掛かったが、とりあえずその疑問を解消するよりも先に、ヨハンには成すべきことがあった。

「……というか、そろそろ退いてくれないか」

未だヨハンの上にのし掛かったままのゲーニッツを見上げ、少々頼りない声音で懇願する。
思わぬ事故の発生からそれなりの時間が経っているというのに、彼は一向にそこから動こうとしないのだ。
むしろ、より擦り寄ってきているような気さえする。暴力に対する怯えとはまた違った危機感を覚えつつ、ヨハンは力無く身動きした。

しかしそんな控えめなヨハンの要求に対し、ゲーニッツの答えは、これまた普段の彼とは違った傾向でヨハンを驚かせるものだった。

「嫌ですよ。離れたら寒いじゃないですか」
「寒いんだったら、自分の部屋に戻って寝てればいいだろ!」

子供じみた、訳の分からない我が儘を言うゲーニッツに、つい恐怖も忘れ叫ぶ。
しかしゲーニッツは相変わらずにやにやとした笑みを顔に張り付けたまま、ヨハンの尤もな主張にこう返した。

「ですから、その私のベッドが寒いので、こうして貴方の部屋に伺ったわけですよ」
「……え?」
「寒いのは苦手なんです。……というわけで、使わせてもらいますね」
「って、おい、何勝手に私のベッドに潜り込んでるんだ!?」

これまで執拗なまでに纏わりついていたのが嘘のように、ゲーニッツはあっさりとヨハンから離れていった。
代わりに、ごく自然な動作でヨハンの寝台へ身を滑らせ、のびのびと体を横たえる。
あまりに傍若無人な振る舞いに、空いた口が塞がらない。中途半端に身を起こしたまま呆然としているヨハンに、
ゲーニッツはにこやかな笑みを浮かべ、ベッドの空いたスペースをぽんぽんと叩いた。

「どうしたんです? 寝ないのですか?」
「………………言いたいことが色々ありすぎて、何から突っ込んでいいのか分からん」
「そんな細かいこと、気にする必要はありませんよ」
「いや全然細かいことじゃないから!」

たとえば、そのベッドは私のものだ、とか、何で当然のようにお前がそこに入ってるんだ、とか。
そもそも真夜中の不法侵入を咎めたい気持ちも残っていたが、そうした正論をぶつけたところでゲーニッツが聞き入れてくれるとも思えなかったので、止めた。
ヨハンは深々と溜息を吐いて、一つだけ、こう訊ねた。

「……つまりお前も、寒くて目が覚めてしまったんだな?」
「ええ。寝付けなくて困っていたもので」
「だったら、予備の毛布を取りに行けばいいじゃないか」
「嫌ですよ、あそこまで行くのも寒いです」
「なら、私のコートを貸してやるから、それで」
「ヨハン」

ゲーニッツの声音に、覚えのある剣呑な色が混じる。反射的にヨハンはひゅっと息を呑んだ。忘れていた恐怖があっという間に蘇り、ヨハンを支配する。

「……いちいち五月蠅いですよ。いいですか。私としては別に、貴方を再起不能にして、暖かい寝床を強奪しても構わないのですよ」

さらりと酷いことを言われ、ヨハンはうぅ、と言葉を詰まらせた。
ゲーニッツがそう言うのなら、はったりなどではないのだろう。やると言ったことはやる男だ。
あまりにも理不尽だと反発したくもあったが、それよりは自分の命が惜しかった。
しかし──自分の命も惜しいし、いい加減寒くなってきたのでベッドにも入りたいが。
それでも、ゲーニッツと同じベッドで寝るというのは抵抗があった。
この危険な男の傍でぐっすり眠れるほど、ヨハンの神経は太くはない。
いつ暴力を振るわれるか、眠りに落ちた後で何かされるのではないか。そんな風にびくびくしながら夜を過ごすのはいくら何でも御免だった。

どちらの地獄がまだマシか。そんな不毛なことを、真剣に考える。
そうしたヨハンの葛藤を察したのかは分からないが、ゲーニッツはふうと溜息を吐き、こう付け加えた。

「まあ、今はとにかくさっさと寝たいので、貴方が大人しく従ってくださるなら、別に痛いことはしませんよ」
「……ほ、本当に何もしないんだな……?」
「疑り深いですねえ。睡眠時間を削ってまで貴方を虐める程、私も暇じゃありませんよ」

目を擦りながらそう呟くゲーニッツの様子は、成る程、確かに眠たそうだった。言葉通り、何にも優先して睡眠欲を満たしたいだけなのかもしれない。
そうは思ってもやはり踏ん切りがつかず、ヨハンはすぐには動けない。
するとゲーニッツの目がすっと細くなり、シーツの中に隠れていた手が持ち上がった。その動作が何を意味するのか、嫌という程知っている。
ヨハンは涙目になりながら、急いで自身のベッドへ滑り込んだ。

「ああもう、分かったよ! 一緒に寝ればいいんだろ、ううっ……」
「それでいいのですよ」

半ば自棄になりつつ、ゲーニッツの隣に横たわる。寝台は十分に広く、頑丈な作りをしているので、大の男が二人で寝転んでも狭苦しくはない。
だがゲーニッツがど真ん中に陣取っている関係もあって、どれだけ距離を離そうとしても、肩と肩が触れる程度の接触は許してしまう。
僅かに触れ合った場所から感じる体温を妙に意識してしまい、どうにも居心地が悪かった。

緊張に身を固くしたまま、ヨハンは眠気が訪れるのをじっと待った。しかし当然ながら、こんな状況で易々と眠れる筈もない。
時間だけがゆっくりと過ぎていく。
その間、ゲーニッツが何か仕掛けてくるような気配はなかった。いつ虐められるだろうかと警戒していたこちらが拍子抜けするほどの大人しさである。
恐る恐る薄目で彼の姿を伺っても、ただ静かに目を閉じているだけで、何ら不審な点は見当たらなかった。

(……本当に、何もする気はない、のか……?)

そうしたゲーニッツの様子に、あの言葉は嘘ではなかったのかもしれないと、少しずつ警戒心が緩んでくる。
同時に思考が余裕を取り戻して、ヨハンはふと、ゲーニッツが言っていたことを思い出していた。

──寒いのは苦手なんです。

あのゲーニッツに苦手なものがあるというのが、ヨハンにとっては意外なことだった。
もちろん、冷静に考えてみれば、別段おかしなことではない。
いくら彼が人外の者とはいえ、斬られたり焼かれたり凍らされたりすれば、普通にダメージを受ける。
その理屈でいけば、急激な温度変化も、彼にとってそれなりに辛いものになるのだろうと、理解はできるのだが……。

ただ、今夜のゲーニッツの、いつもとは違う態度を思い返す限り。
どうも彼にとって寒さとは特に辛い──分かりやすく言うなら『弱点』の範疇に含めるべきものなのではないかと、そう思えてならなかった。

(ゲーニッツにも苦手なものがあるんだな……)

再度、ちらりとゲーニッツを盗み見る。相変わらず彼は大人しく寝ているようだ。
ただ二人が横になってから、それほど時間は経っていないから、まだ寝付いてはいないだろう。

少し迷った後、ヨハンはベッドの中でごそりと身を捩り、巻き付けていたコートを脱いだ。
その端を掴んで、ゲーニッツの肩に被せる。
瞬間、うっすらと開いたゲーニッツの目と目が合って、ひやりと心臓を掴まれるような感覚を味わった。

「……何してるんです」
「……いや、そのままじゃ寒いだろうと思って」

正直に答えると、ゲーニッツは眠そうな目を瞬かせ、妙に平坦な声で、そうですか、とだけ呟いた。
ヨハンのくせに生意気です、などと詰られるのではないかと身構えていたヨハンにとっては、意外であると共に、有り難いことであったが。
ゲーニッツは素直にコートを手繰り寄せると、またすぐに目を閉じてしまった。
ヨハンはまだしばらくどきどきしていたが、彼が何もしてこないのを悟って、ゆっくりと体をシーツに沈めた。
毛布というには小さなコートを分け合うようにして、ゲーニッツの傍で身を丸める。
もう寒さは感じなかった。少し前までヨハンを悩ませていたゲーニッツへの怯えも、不思議と消え去っている。
奇妙なほどゆったりとした気持ちだった。
目を閉じれば、自然と睡魔がやってくる。
明日になったら、自分用の予備の毛布を買いに行こう。ついでにゲーニッツの分も買っておこうか。
そんなことを考えている内に、彼の思考は徐々に眠りへと引き込まれていった。













「う、んっ……」

下腹部に奇妙な違和感を覚え、ヨハンは身を震わせた。

殆ど寝ぼけたままの意識で、その違和感の正体を探ろうとする。
だが眠りの淵へと戻りたがる体の欲求に引きずられるように、思考は遅々としてまともに働かない。
確かなのは、その感覚が決して不快なものではないということだった。むしろ心地よく、ずっと浸っていたいような気さえする。

「あ…、ぅ…ぁ……」

重く沈んだ体を、緩やかな熱が駆け巡っている。押し出されるようにして零れた吐息には、甘く濡れた、微かな嬌声が混じっていた。
これは、誰の声だろうと、ぼんやりとした頭で考える。そうしている間にも気持ちの良い感覚が波のように打ち寄せてきて、また、ひくりと体が震えた。

「ふ……、く……!?」

何かが身動きする気配がして、次の瞬間、湿った息の漏れる唇を生暖かいもので塞がれた。
ぬるりと滑ったものが口内に侵入してきて、こちらの舌を絡め取る。
そのあまりにも生々しい感触に、思考を覆っていた眠気の靄がざっと音を立てて引いていった。

驚愕のままに、目を見開く。視界はまだぼやけていたが、それでも目の前にある顔を見間違えたりはしない。
追い詰められたかのような鋭さを持った青い瞳が、こちらを見つめている。その視線の強さに、どくりと心臓が強く脈打った。

「ん、むっ……う…」

差し入れられた舌が蠢くたびに、くちゅ、と頭の中に嫌らしい水音が響く。
驚きのあまり強張ったままの舌を吸われ、貪られて、やっと鮮明さを取り戻した筈の思考が、また甘く濁っていった。
かろうじて働いた理性が、このままではいけない、とヨハンを突き動かす。
藻掻くように手を伸ばし、のしかかってくる体を押し返そうと試みる──だが腕にうまく力が入らない。
一体いつの間にか、体は水を吸ったように熱く重くなっていて、伸ばした手も相手にしがみつくのが精一杯だった。

やがて気が済んだのが、ゆっくりと唇が離れていく。はぁ、と苦しげな吐息を零しながら、ヨハンは潤んだ目で、自分にのし掛かる男を睨み付けた。

「ゲー、ニッツ……! お前、…何、して、」

仄かな灯りを背に、ゲーニッツの暗い笑みが浮かんでいる。
そのただならぬ気迫に、今更ながら彼が本気であることを悟り、ヨハンは言葉を失った。

「……ようやく起きたんですか。ずっと寝たままだったらどうしようかと思っていたところですよ」

掠れた声で囁きながら、ゲーニッツは枕元に散ったヨハンの髪を掻き分け、露わになった耳を鼻先でくすぐる。
熱い息を耳朶に感じ、ヨハンは弱々しく身を震わせた。必死に顔を背けて、ゲーニッツから逃れようとする。
だが組み敷かれた体はまともに動かず、ただシーツが擦れる音だけが部屋に響いた。

「ああ、先ほどの質問ですが。……何をしているのか、なんて、ねぇ。見れば分かるでしょう?」
「ひっ…や、やめ、ッ……!」

低く笑う声が首筋をかすめ、耳を舐められる。ぞわりと背筋がざわつき、ヨハンの口から裏返った悲鳴が漏れた。
更にゲーニッツの掌が、はだけられた夜着の前を割って、中へ忍び込んでくる。
熱ばんだ肌を、それ以上に熱い掌でじっとりとまさぐられると、刺激に敏感になった体は容易く反応を示した。
感覚が、ゲーニッツの手を、指を、追いかけてしまう。胸肌に触れられ、首筋を吸われて。それだけで抵抗の意志が急速に萎えていった。

(こんな……)

何故自分がこんな酷い目に遭わなくてはならないのか、とヨハンは喉奥で小さく呻いた。
突然目が覚めてみれば、ゲーニッツに襲われていて。当然、こちらは混乱し何が何だか分からない状態なのに、ゲーニッツは全く構いもしない。
眠っている間に好きなようにされていたらしい体は、簡単にゲーニッツに翻弄されて──心だけが置き去りにされて、どうすればいいのか分からない。

「…く、…う、……ぁあっ…」
「……やはり、意識があった方が楽しめますね」

既に下肢は完全に露わにされていて、剥き出しの脚の間に、屹立した己のものが揺れていた。
すっかり熱を持ったそれは、ゲーニッツが身動きするたびに擦れ、刺激されて、否応なしに快楽を感じてしまう。
こんなのは嫌だ、と思う一方で、体はもどかしさを感じていた。
もっと強い快感が欲しいと疼き、ヨハンの思考を狂わせていく。
そうして苦しみ喘ぐヨハンの様を、ゲーニッツはいかにも愉しそうに見遣っている。
そんな彼の態度に、これまでの無体な仕打ちへの怒りと悔しさが一気に蘇り、ヨハンはぎり、と奥歯を噛み締めた。

「……こ、の…ひとでなし…っ…!」
「失礼な言い草ですねえ」

体感に流されようとしている理性の、最後の力を振り絞り、この酷薄な男を詰る。
それまで上機嫌でヨハンの体を弄んでいたゲーニッツは、掛けられた言葉に、いかにも心外だとばかりに笑ってみせた。
自分の行いを何とも思っていないその有様に、酷い、という感情が溢れ出し、ヨハンの眦から落ちていく。

「…ッ…だって、そうじゃないか…! この、うそつき…!」
「嘘つき?」

ゲーニッツは小首を傾げ、からかうように、互いの腹の間で固くなっているヨハンのものを掴み上げた。
瞬間、ひ、と細く鋭い声が零れ、ヨハンの腰が跳ね上がる。
ただ触れられただけでここまで過敏な反応を示してしまい、頬にかっと血が昇った。
──こんな堪え性のない体になってしまったのも、総てゲーニッツのせいだ。
半ば八つ当たりじみた恨みも込めて、ヨハンはゲーニッツの肩を強く握り締めた。

「…な、何もしないって、言ったくせに…!」

涙目になりつつも、ヨハンは懸命に言い募る。
そうだ、ゲーニッツは確かに言っていた。何もしないと。
ゲーニッツが自分を虐めるのはいつものことだ。既に半分、諦め掛けている。だが何もしないと安心させておいて、眠っている間に騙し討ちを仕掛けてくるのは、あまりにも酷すぎる。
これではその言葉を信用して安眠していた自分が、馬鹿のようではないか。

「ああ……あれですか」

だがゲーニッツの反応は、ヨハンの期待したものとは全く違った。
今更そのことを思い出したように呑気にそう呟くと、今度は逆に、とても意地の悪い笑みを浮かべ、物わかりの悪い子供を諭す口調で、こう囁いた。

「別に、嘘なんて吐いていませんよ。よく思い出してみなさい。私は、何もしない、とは言っていません」
「……え…?」

思いも寄らぬ指摘に、ヨハンは呆然と目を見開いた。思考の止まった頭の中を、眠る前のやり取りが走馬燈のように駆け巡っていく。
──貴方が大人しく従ってくださるなら、別に痛いことはしませんよ。
記憶の中のゲーニッツの声が蘇る。
確かに、彼の言う通りだった。彼は痛いことはしないと約束しただけで、何もしないとは言っていない。──だが。

「だから、痛くはしていないでしょう? ほら──」
「なっ…、そ、そんな…っ…う、ぁあっ……!」

愉快そうに笑いながら、ゲーニッツは手にしたヨハンのものを軽く扱きあげる。
既に濡れている先端を容赦なく嬲られ、耐えきれるはずもなくヨハンは悲鳴を上げた。
本当は、そんな詭弁が通るものか、と怒鳴りつけたかったのに、口を開けば聞き苦しい声ばかりが溢れて、もう止められそうにない。口元を手で覆い声を殺そうとしても、殆どが無駄に終わった。
ゲーニッツは話は終わり、とばかりに毛布の中に潜って、ヨハンの両脚の間に顔を埋めた。
微かに汗ばんだ内腿に吸い付かれ、そんな些細な刺激にさえ悦を感じてしまう。
ゲーニッツはしばしの間、肌の感触を楽しむように際どい場所を愛撫していたが、先を強請るように揺れる腰の動きに気付くと、小さく笑い、
己の唾液で湿らせた指を、奥の窄まりへと忍ばせてきた。

「ぅ、う……んっ……」

久しぶりに拓かれたその場所は頑なに異物を拒んで、容易には受け入れない。
ゲーニッツは焦ることなく、ゆっくりと狭い秘肉を割って、深い場所まで指を挿し入れてきた。
その長く節ばった形を体の奥深くに感じて、ヨハンは苦しげに眉根を寄せる。
指は緊張に強張る内壁を宥めるように撫でて、奥が濡れていく感覚に腰が小さく戦いた。
それはゲーニッツにしては奇妙なほど、執拗で丁寧なやり口だった。
理由は分かっている。痛くはしないという約束を、守っているつもりなのだろう。
だがそれ故にヨハンは追い詰められていた。怒りとも自虐ともつかぬ感情が、行き場を失って胸に渦巻いている。
ヨハンには分からなかったのだ。苦痛がないことを喜べばいいのか、こんな行為を快楽と感じる自分を浅ましく思うべきなのか。
卑劣な手段で自分を陥れたゲーニッツを恨めばいいのか、用意された抜け道を見抜けなかった己の愚かさに呆れればいいのか。

「…ぁ……はっ…、…ぁう……」

惑う心とは裏腹に、体は嫌になるほど貪欲になっていく。
繰り返される抜き挿しの中で、徐々に綻んでいく内部。
数を増やした指が、ずるりと音を立てながら弱い場所を擦り上げて、滲むような快感が体中に広がっていった。
張り詰めた前が、際限なく先走りを垂れ流しているのが自分でも分かる。
もう指では足りないと訴える欲を抑えきれない。
そんな猥らがましい衝動を自覚し、ヨハンは涙の膜で歪んだ視界を閉じた。

「…な、んで……こんな……」

意図せず零れた言葉に、一瞬、ゲーニッツが動きを止める。
その間に、彼が何を察し、何を思ったのかは分からない。

「……貴方がいけないのですよ。あんなにも無防備な様を見せるから」

ブランケットの中で、彼が何事か呟いた気もしたが、ヨハンには聞き取れなかった。ずるりと指が引き抜かれる瞬間の性感に耐えるだけで精一杯だった。
ゲーニッツはそれ以上は何も語ることはなく、十分に解れたそこに、己のものをあてがった。
熱く固いものを押し当てられ、ヨハンは反射的に目を見開く。
すぐ傍に、ゲーニッツの横顔が見えた。だが彼の表情を伺う前に、ずっ、と重い衝撃が下肢を襲い、打ち込まれた楔の熱さにヨハンの意識は真っ白に染まった。

「…ひっ…──ぁああ…ッ…!」
「…はっ……」

自然と逃げを打つ腰をゲーニッツの手が強く掴み、更に奥を切り開かれる。
凄まじい圧迫感に背筋が撓り、放り出された脚が引きつった。
やがてその総てが収まると、忘れていた呼吸が舞い戻り、二人分の熱い息が混じり合う。
吐息だけではない。密着した肌も、腰を掴む手も、体の奥深い場所で脈を打つゲーニッツのものも、すべてが、眩暈がする程に熱かった。
しばしの間、荒い呼吸音だけが響く。だが息が整いきるのを待たずして、ゆっくりとゲーニッツが動き出した。
指で散々刺激され、過敏になった粘膜を、熱く猛ったものが無遠慮に押し潰していく。
引き抜かれ、また突き上げられて、衝撃を伴った快感が、腰から脳天まで走り抜けていった。
たまらず反り返った喉元に、ゲーニッツの唇が落とされる。彼は震えるその感触を愉しむように舌を這わせつつ、気紛れに腰を動かした。

「ん、く……ぁ、あ、あっ……」
「…ねぇ、ヨハン」
「あっ……」

そっと名を呼ばれ、ヨハンは虚ろな視線をゲーニッツに向けた。
情欲に濡れた青い目が、薄闇の中で煌めく。
その光に吸いこまれそうになる前に、ゲーニッツはヨハンの横顔に口付け、耳元で静かに唇を開いた。

「……寒いのが、全部悪いんですよ。ねぇ。……それでいいじゃないですか」

乱れた吐息に混じって、微かに掠れた声が、ヨハンの脳裏に滑り込む。熱で澱んだ思考に、何故かその言葉はするりと理解された。

──そうだ、全部、寒いのが悪い。
──こんなにも寒いから、目が覚めて、ゲーニッツも眠れなくて、一緒に寝ていたら、こんなことになってしまった。
──こうしてまぐわっているのも、体が溶けそうなほどに熱いのも。そうしていないと凍えてしまうからだ。

だからこれは、仕方のないこと。そう、何かから逃げるように結論づけて、ヨハンは己の思考に蓋をした。
その言葉をより深く飲み干そうとするかのように、腕を伸ばしゲーニッツに縋り付いて、唇を合わせる。
唐突なヨハンの求めにゲーニッツは小さく目を見開いたが、すぐに舌で、唇で、温い接合に応じた。
後はただ、再開された律動に流されるがまま、悦楽を貪り合った。
ゲーニッツの熱を追いかけ、強請るように腰を揺らして、埋められる充足感を求める。
ずっ、と音が立ちそうなほど深々と犯され、滑った粘膜を掻き回されて、その圧倒的なまでに蹂躙に、恍惚の息が溢れた。

「はぁっ…あ、ふ……ぁあ…っ…!」

体中を、痺れるような甘い快感が駆け巡っている。狂おしい程の熱に燻られ、もう何も考えられない。
己の限界が近いのを悟り、ヨハンは強くゲーニッツにしがみついた。
無言の訴えを理解したのか、ゲーニッツも動きを早めてくる。
達するための乱暴な揺さぶりにも感じてしまって、息も絶え絶えに身を震わせた。
どくどくと跳ね上がる鼓動がひどく五月蠅く、息苦しい。
助けを求めるようにゲーニッツの名を呼ぶと、張り詰めた前に触れられ、電流のような快感が身を焼いた。
根元から音を立てて扱かれ、同時に深く突き上げられて、為す術もなく、ヨハンは頂点に押し上げられた。

「…ぁ、あぁッ…──!」
「……ッ、く…」

びくびくと全身が痙攣するのにあわせて、そそり勃ったものの先端から精が吐き出される。
意識が真っ白に蕩けていくような絶頂感の中、体の奥に熱い体液が吐き出されたのを感じた。
その感触に奇妙な満足感を覚えて、ヨハンはずるりと体を弛緩させる。
ゲーニッツの背に回していた腕からも力が抜けて、皺になったシーツの上にぱたりと落ちた。

快楽の余韻と、どっと押し寄せてきた疲労で霞みゆく意識の中、ヨハンは思う。
結局、最後までゲーニッツは、自身の主張する約束の内容を守りきった。
彼との行為に、恐怖や痛みが伴わないのは珍しいことだ。
加えて、この状況。真夜中、柔らかく暖かなベッドの上で、密やかに、熱を分け合うようにして行われた情交。これは、まるで……。

(……まるで、普通の恋人同士みたいだ)

正気の時ならば、まさか、と一笑に付すであろう思いが、朦朧とした頭に浮かび上がる。
だがそれは、引き込まれるようにして微睡みに溶けていく意識の中であっという間に霧散した。
最後の最後、眠りに落ちる寸前に、ずっとこうならいいのに、と、小さな願望が生まれた気もしたが──それは眩むような夢に紛れ、
泡沫となって無意識の底へ消えていった。









翌朝。朝食のために集まったダイニングにて、毛布の買い足しを強硬に主張するヨハンの姿が見られたとか。
そんな彼の様子を、ゲーニッツが生暖かい目で見守っている。
たとえ毛布が足りていようが、ヨハンのベッドに潜り込むことは出来るんですがねえ、と
内心で笑う彼の考えをヨハンが察せなかったのは、ある意味では幸せなことだったのかもしれない。
そうして不可解な態度を見せる二人を、ルガールが複雑そうな目で見つめていた。
朝方、ヨハンの部屋から二人で連れ立って出てきた瞬間をうっかり目撃してしまったルガールが、
二人の間に漂う奇妙な空気に何を思ったのかは定かではない。


そして。
眠る時、何かに抱きつく悪癖があるとヨハンが指摘されるのは、更にずっと後のことになる。






【終】














書き終わった後で、ひょうがはあくまで高速移動の技であって
壁抜けが可能な類のモノじゃぁないような気がしてきたが
そこは牧師の愛故にということで。

やっぱり愛だよね!

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