448 :名無しさん@ビンキー:2010/01/23(土) 06:27:16 0
>>433です。書き終えたので、投下します
元ネタは暴君のゲニヨハと時悪のルガールですが、
キャラクターなどは、最近のスレも参考にしているので、
大分かけ離れてると思います。濡れ場はありません
不備があったらごめんなさい



!警告!

・これは架空の話です。

・MUGENストーリー動画『暴l君lのl嫁l探lし』と『時lをlかlけlるl悪l意』が元ネタですが、
両動画の本編とは全く関係ありません。
最近のスレの流れを参考にしているのが大部分です。

・通報しないように。貴方の胸に留めておこう!

・腐向けです。キャラクターは別物同然かもしれません。読んで頂ける場合は、ご了承を。

・エロシーンはありません。




出てくるキャラクター


ヨハン
 凄く強いのにヘタレで有名。地味扱いされては、すぐ泣く。
 ゲーニッツから逃げる日々。
 でもやるときはやる。

ゲーニッツ
 ヤンデレドS。ヨハンが大好き。いつも吹き荒んでいる。

ルガール
 紳士で人望が厚いが、曲者ばかりに好かれ、心労が溜まって内臓系統がヤバい。
 特に、ヨハンとゲーニッツの関係に悩まされている。
 しかし、今回はG化しているせいか、黒服を着ていたりと、様子がおかしい。

???
 見知らぬ少女。メイド姿で、赤い箒と腰の大きな赤いリボンと硬い表情が印象的。



以上







/







 唸る機械音、やけに可愛らしい水のせせらぎ、鼻に突く、異臭。

 ヨハンは、目を開かずには居られませんでした。
 そして、目を見開き、再び閉じます。
 ああ、何かの間違いだ。そう思わずには居られないのでしょう。

 それもそうです。

 ヨハンが今居るこの場所、悪趣味としか、呼びようがないのです。
 天井までそびえる、エイリアンのような巨大な機械が数体、相当の威圧感を放ち存在しています。

 壁には、一面、見ているだけで眩暈がするような装飾が施されており、
 まるで、人骨を金属のように加工し、只管埋め込んでいるようにも見えます。

 極めつけは部屋の中央の巨大な「水槽」です。
 一般的な浴槽を二つ並べたぐらいの、円形の金属製の「水槽」で、
 しかも、頭蓋骨らしき彫刻が施され、天井の機械よりも禍々しいのです。
 もしくは、「鍋」にも見えます。
 なにせ、そこに、なみなみと入っているのは、「赤い液体」です。
 その液体が、水槽から、床の規則正しい溝に沿って流れており、
 この部屋におおよそ不釣合いな、可愛らしいせせらぎを立てていました。
 ……しかし、ヨハンには、血液と血管にしか見えませんでした。
 異臭の原因は、それなのでしょう。

 そして、何よりの問題は、
 ヨハンの体の自由が、利かないことでした。

 巨大なマッサージチェアーの様な黒い椅子に、ヨハンは、拘束されているのです。


 「今度こそ殺される」


 ヨハンは、そう呟きました。


 主語は抜けていますが、これを読んでいる方はお察しかと思われます。
 ――今度こそ、ゲーニッツに殺される。
 つまり、自分自身をこのような状況に追い込んだのは、ゲーニッツだと、
 ヨハンは、そう思っているのです。

 拘束されているのは、両の二の腕、両手首、
 両足の太腿と、足首、腰。
 痛みは少なく、背もたれは幾分倒されており、着衣に乱れはありません。
 多少の違和感があるものの、座り心地は良い方でした。
 
 しかし、ヨハンは、どのような経緯でここに連れ込まれたのか、全く思い出せずにいます。
 
 誰かに尋ねようとしても、この部屋に、ヨハン以外は、いないようです。
 
 ヨハンは、一つ、深呼吸をしました。
 次期に、ゲーニッツが戻ってくるだろう。
 それまでに、色々考えておかなければならない。
 なるべく、穏便に済ませる方法を……。
 
 ゲーニッツから今まで散々、散々な目に合わされたせいでしょうか。
 ヨハンは、取り乱すことなく、冷静に今後のことを考えています。

 そしてもう一度、深呼吸をしました。
 考えが、まとまったのかもしれません。
 
 首を少し上げ、大きな窓を眺めました。
 目が霞んでる訳ではないのに、明るいということ以外、
 外の景色がよく分かりません。
 まるで、この部屋が海の底に沈んでいるかのような、
 そんな錯覚を、ヨハンは覚えました。
 
  
 そして……。
 
 
 自動扉が開くような音と共に、誰かが部屋に入ってきました。

 
 「ゲーニッツ! ……じゃない」 

 ヨハンは、拍子抜けしました。

 何故なら、傍に来たのは、ルガールだったからです。
 と、言うことは、

 「ルガール! 助けに来てくれたのか!」
 
 ヨハンが嬉々としてそう言うと、
 ルガールは、うっすらと笑うだけなのでした。
 
 「ルガール?
 G化、してるし、黒服……。
 まさか、ゲーニッツと何かあったのか?」

 ヨハンは、本当に心配しているようです。
 ルガールは少し首をかしげ、やはりうっすらと笑ったまま、

 「いいや。ゲーニッツとは、まだ会っていないよ」
 
 と、答えました。
 G化している理由は、教えてくれないようです。
 
 ヨハンは疑念を持ちつつも、ルガールに、この拘束を解くように、お願いしました。

 しかし、 
 
 「どうして君は、そのような事を私に頼むだろうね?
 私がその拘束を解く理由は無い」
 
 ルガールは、そう答えるのです。
 
 ヨハンも愚かではありません。そこで気が付きました。
 
 「まさか、ルガールが私を?」

 「ご名答」
 
 「何故!」
 
 「そこも考えて欲しいかな、かな」
 
 語尾を二回繰り返すと、ルガールは口元を歪め、
 さっきとは打って変わって、陰鬱な笑みを浮かべました。 
 
 「G化して、暴走しているか? しっかりしろ!」
 
 ヨハンは思わず、拘束されていることを忘れ、立ち上がりそうになりましたが、
 拘束具が体に食い込み、どうすることもできません。 
 加えて、背中に、痛みを感じました。 

 「ああ、どうせなら、ゆっくり動いてくれ。
 今、君の背中には……これと同じ物が二本刺さっている」
 
 ルガールが、例のエイリアンのような機械から、太目のチューブを引張って、
 ヨハンに見せてくれました。
 先端には、金属製の鋭い、長さが2,3センチほどの太い針が付いています。
 
 「余り痛みを感じないのは、麻酔を嗅がせたからだよ。
 だが、無闇に動こうものなら、その体が傷つく。
 やはり、大人しくした方が良いね」
 
 一見、ルガールは紳士的に説明してくれていますが、
 ヨハンにそのチューブを刺したのもまた、ルガールだと言うのです。
 
 「どうして、こんなことを」
 
 愕然とするヨハンを、ルガールは面白がりました。
 
 「ハハッ、お決まりの質問だね?」

 「質問に答えてくれ」
 
 「君の、ブラックドラゴンの力を、我が物にしたいからだよ。
 この装置でね」
 
 さも当然。そう言っているかのようです。
 
 「ルガール、君はこんなことをする奴じゃないだろう?」
 
 「≪私≫は、こんなことをする奴だよ……?」

 「いいか、ルガール、殺意の波動に飲まれてはいけない」
 
 「君、よく喋るね? 口うるさい奴は、好きではないんだ」
 
 ルガールはそう言うと、さらにヨハンに近づき、上半身を重ねてきました。
 体重がかかり、ヨハンは背中に不快感を感じました。
 ヨハンは、本当に、背中にチューブが刺さっているのだと、思いました。

 ルガールはヨハンの耳元で囁きます。
 
 「痛いか?」
 
 「少し」
 
 「怖いか?」

 ヨハンは少し間を置き、答えました。
 
 「いや」

 ルガールは、すっと体を起こし、ヨハンを睨みました。
 
  
 「こんな場所に連れ込まれて、
 こんなことをされて、私が怖くないのか?
 君は、いつもなら、すぐ泣いてしまうのに」
 
 ヨハンは何も言わず、ルガールを見据えます。
 
 「怖がって、泣いてくれないと、困るのだが。
 本当に手荒な真似をしないと、駄目か?」

 ルガールは赤く染まった手で、ヨハンの頭を撫で回し、
 その長い前髪を、強めに掴みあげました。
 しかし、ヨハンはうめき声一つ上げません。
 ルガールは、すぐに手を離しました。

 「……つまらん」
 
 そう呟いた声には、憎しみが篭っているようでした。
 
 「ルガール、確かに私は、ゲーニッツのことで、
 君にたくさん迷惑をかけてしまっている。だから」 

 「だから、こんなことをされても仕方ない。
 と、言い出すのではないだろうね?」 
 
 ヨハンの言葉を遮り、ルガールは言います。
 ヨハンは、小さくうなずきました。
 
 「ハハハハ! 自惚れ具合も度を越しているな!」
 
 
 明らかに、馬鹿にしているようです。
 しかし、ヨハンは泣こうとはせず、こう反論しました。
 
 
 「私が、ゲーニッツから、逃げてばかりいる事が悪いのは、
 本当に分かっているんだ」
 
 「だが、君が何を言おうと、
 ゲーニッツは変わらないと思うがね」
 
 「……そうだな」
 
 ヨハンは、辛そうに俯き、黙り込んでしまいました。
 ルガールは、ヨハンに気付かれないように、小さくため息をつきました。
 
 「ヨハンは、ゲーニッツの事を、どう思っている?」
 
 「怖い」 
 
 即答でした。
 ルガールは小さく数回頷き、再び、動けないヨハンに、上半身を摺り寄せ、顔を近づけます。
 
 「では、私のことは?」
 
 「頼りにしている。かけがえの無い友人だ」
 
 「……それだけか?」
 
 ヨハンの首筋にそっと、唇を当て、
 「本当に、それだけか」と。

 一瞬、≪まるでルガールが自分に甘えているような錯覚≫に陥りそうになりながら、 
 ヨハンは、禍々しい天井を眺め、周囲の面々を思い返しました。

 「私は、ルガールを見習って、
 もっと、しっかりしなければならないと思う。
 君に、迷惑をかけないように」
 
 「ふぅん。
 ……では、私が、君のブラックドラゴンの力だけではなく、
 心も、体も、君の全てを我が物にしたいと言い出したら、
 どうする?」
 
 「どうするって……」
 
 「私は、君を、むやみやたらに地味だと言って、無視したりしないし、
 どこぞの牧師のように、暴力を振るったりもしない。
 優しくしてあげよう。
 君が、私と共に来ると頷けば、安寧を約束しよう」
 
 ヨハンは再び、ルガールを見据えました。
 彼の、赤い「両目」を。
 
 
 
 
 
 「嘘だ」





 直後、ヨハンは自分の放った言葉に驚きました。
 半ば、無意識で言ってしまったようです。
 
 「どうして嘘だと思うのかね?」
 
 ルガールの問いかけに、ヨハンは慌てて言葉を紡ぎました。
 
 「ルガールは、私を欲しいと、思っていない、から……」
 
 「……ふ、ふ、ふっ。くくくくくくく、くすくすくすくす」
 
 笑いをこらえているようです。
 
 「ああ、ゲーニッツにあれ程迫られていれば、
 他の誰かなんて、どうでもよくなると言うことか」

 「そういう意味じゃ……!」
 
 「さて……そろそろだろうか」
 
 
 ルガールは体を起こし、立ち上がり、
 部屋の入り口の方に視線を移しました。
 そして、部屋の騒音に切り込むように、
 廊下を走る足音が、聞こえてきたのです。
 
 
 ルガールは、ヨハンの顔をもう一度見ます。

 
 「予定とは違ったが、まあ、良い」
 
 
 
 ルガールはすぐに視線を部屋の扉に戻し、
 ヨハンもつられて、同じ場所を見ました。
 
  
 扉が、開きます。
 
 
 やはり、ゲーニッツでした。
 
 
 ゲーニッツは冷徹な表情で、
 物怖じすることなく、部屋に入ってきました。
 
 「メイドのお嬢さんが教えてくれました。
 貴方が、ヨハンをここに連れ込んだと」
  
 「早かったね。ゲーニッツ。
 後数秒遅れれば、ヨハンの首無し死体を見せてあげられたのに。
 ああ、それとも、
 私の性器で、ヨハンの尻の穴を激しく穿ち、
 ヨハンが快感に悶え、私に溺れてる様を、
 見せてあげるべきだったのかもしれないね?」
 
 「おや、貴方にそのような趣味がありましたか」
 
 「無理しなくていいのだよ。
 私にヨハンを取られたと思って、
 大慌てで来たのだろう?」
   
 「貴方も、大分ご無理をなさっているようではありませんか。
 マトモに扱えもしない殺意の波動を、開放して。
 ……黒服なのは、ご自身の葬儀を行うためですか」
 
 「ふふ、ヨハンの葬儀だよ、ゲーニッツ」

 
 恐ろしい会話で、不穏な空気が満ちていく中、
 ヨハンは、ルガールとゲーニッツのやり取りを、訝しげに感じていました。
 しかし、原因を探ろうとしても、まるで掴めません。

 ヨハンが不安に思っているのを他所に、ルガールとゲーニッツの会話は続きます。


 「ヨハンの葬儀、ですか。
 では私が呼ばれて当然と言うわけですね?」

 ルガールが暗にヨハンを殺す、と言っているようなものですが、
 ゲーニッツは態度を崩しませんでした。


 ――しかし、


 「ゲーニッツ」
 
 「なんです?」
 
 「ヨハンの唇、奪っちゃった」
 
 ルガールは悪びれる様子も無く、
 そして、自信たっぷりに、ゲーニッツに言い放ちました。  
 
 
 ヨハンには、はっきりと分かりました。
 いいえ、誰が見ても、明らかでした。
 


 ゲーニッツの表情が、怒りに染まっていったのです。
 
 

 直後、部屋に響き渡ったのは、





 ルガールの哄笑でした。











 

 
 
 頭蓋が打ちのめされ、脳内が揺さぶられる、
 不快な嗤い声でした。
 
 もちろん、ヨハンは、そんな風に嗤うルガールを、見たことがありません。
 
 
 「お黙りなさい」


 場内に強烈な風が吹き荒れ、巨大な機械が軋み、
 水槽の赤い水面が激しく波打ち、
 垂れ下がっているチューブも、無残に切り刻まれていきました。

 
 「ハハハハハハハッ!!!
 これはいい、いいぞ!
 あのゲーニッツが、私を軽蔑してばかりいたゲーニッツが、
 怒り狂っている! この私にだッ!!
 右目の事は、その表情で帳消しにしてやろう!!」


 「右目……?」
 
 ともすれば、自身をも刻もうとする風が渦巻く中、
 ヨハンは、ルガールの右目が義眼でないことに気が付きました。
 
 しかし、違和感は、そこだけではありません。
 ゲーニッツがここに到着した時、ルガールは「早かったね」と言っていました。
 ルガールがヨハンをどうにかする時間は、十分にあったはずなのに……。
 

 そして、ヨハンは一つの結論に達しました。
 

 「まさか、ルガールの狙いは、ゲーニッツなのか……」
 
 
 確かに、ルガールとゲーニッツには、因縁があります。
 しかし、ゲーニッツが、ルガールを目の上の瘤の様に思ってはいても、
 ルガールが、積極的に、ゲーニッツを攻撃することは、決して無かったのです。

 
 ヨハンは、今さら戦慄しました。
 
 あのルガールは、「誰」なのだろう、と。

 
 
 最中、ゲーニッツの風は益々吹き荒びます。


 「もっと怒れ、ゲーニッツ。
 私をここで殺さなければ、
 私にヨハンを取られてしまうよ?」  

 
 一方のルガールは、その風をねじ伏せんと、オロチの力と殺意の波動を纏ながら、
 ゲーニッツに飛び込みました。
 
 
 
 「君の全てを傷付けたいんだ、ゲーニッツ。
 精神の方は、長らく方法を見つけられずに居たが、
 最近やっと知ったよ。
 あのヨハンだ。
 彼が君の手の届かぬ場所に行ってしまったら、
 君は一体、どうなってしまうのだろう」
 
 
 「喋りながらとは余裕ですね。
 舌を噛み切ってしまっても知りませんよ」 

 
 「私が君に再び出会った時、
 君はもう死んでいた。その死体もなんだかしれっとしていてね、
 死体を陵辱しても満たされなかったよ。
 だが、もっと快楽を得たい。傷付けさせてくれ」
 

 「死姦とは、悪趣味ですね!」


 常人ならあっという間に飲まれてしまう風にも、
 ルガールは物怖じしません。

 
 「いや、もっと素敵な事だよ、ゲーニッツ。
 
 君の死体から血を全て抜き取って、 
 それを私の体内に取り込んだんだ。
 ふ、ふ、くすくすくすっ、あははははは!!」
 
 
 ≪ゲーニッツは生きているのに、ゲーニッツの死体の話をしている≫
 ルガールの発言が、まるで矛盾していることを、
 今のゲーニッツに、指摘する余裕はありませんでした。
 
 一方、すっかり蚊帳の外にされたヨハンは、もちろん気付いていました。 
 同時に、ゲーニッツが冷静さを欠いている事も、見逃しませんでした。

 ヨハンは、ゲーニッツが常に冷静であることが、その強みだと知っています。
 ルガールの力は決して侮れず、ましてや、今の彼は狂乱状態です。
 このままでは、両者とも、命を落としかねません。


 ……しっかりしなければ。
 私は弱くない。
 こんな、拘束具ぐらい……!


 穏便に、最小限に抑えようとするのが、このヨハンの気質です。
 しかし、もう、形振り構っていられませんでした。
 例え、背中のチューブが原因で後遺症が残ろうとも、
 二人が死ぬよりはマシ。
 そう、考えたのです。
 
 
  
 腕にブラックドラゴンの黒炎を宿し、拘束具を破壊しようと試みますが、
 ルガールが言っていた麻酔が原因でしょうか、
 上手く行かず、背中の痛みが激しくなるばかりです。
 さらに、ゲーニッツの風とルガールの波動の余波が、ヨハンのところにまで及び、
 体力も気力も削られていきます。
 
 
 「冗談じゃないぞ、二人とも……!」
 
 
 響き渡るルガールの哄笑と、ゲーニッツの怒声。 
 本当なら、極自然な光景なのかもしれません。
 それでも、ヨハンは、許せませんでした。
 
 そして、彼が発したのは、
 
 
 「メールト! 溶ーけーてーしーまーいそうぉおおおおお!」


 ……「狂乱しているのはお前」だと、指摘されても反論できない、
 ヨハンの渾身の歌声でした。
 しかし、それとともに、彼は全ての拘束具を破壊したのです。 

 ヨハンの怒号と共に腕から放たれたブラックドラゴンの波動は、
 ルガールとゲーニッツを的確に捉えました。
 
 しかし、二人とも即座に反応し、見事に防御されてしまったのです。
 
 「邪魔しないでもらえますか、ヨハン」
 
 ゲーニッツのサディスティックな視線が、ヨハンに突き刺さりました。
 いつもならば、逃げようとするのですが、今は、違います。
 



 
 一教団の教祖らしい風格と、先程のルガールに引けを取らない、暗澹とした笑みを浮かべ、
 そして、半ば侮蔑を込め、このように言い放ったのです。 
 












 "――Goenitz, are you afraid?"










 
 すると、風も、殺意も、オロチの力も、嘘のように静まりました。

 ルガールは、瞼をしばたたかせながら、
 幼子が不思議なものを見つけたときのような顔で、ヨハンを見つめていました。
 
 一方、ゲーニッツも、やはりルガールと同じく不思議そうに見つめた後、
 そっと、目を閉じ、


 「ここですか?」


 と、ヨハンを風で切り刻むことを試みました。
 血肉が切られるような音がしました。
 
 
 「何をするんだゲーニッツ!」
 
 ヨハンは負けじと応戦しますが
 
 「ヨハン、答えなさい。私が何を恐れると? ここにいる気が触れたルガールですか?
 それとも、
 あ な た の こ と で す か ?」 

 それを軽く上回るゲーニッツの威圧に耐えられず、小さい悲鳴を上げ、
 萎縮してしまいました。
 
 ゲーニッツはそれ見たことかとヨハンの頭を片手で難なく掴み、
 「あのルガールの方がいいというのなら、お別れしましょうか。この世から」
 
 「死にたくないです」

 ヨハンは涙目になりながら、ゲーニッツに懇願したのでした。
 
 ルガールは、そんな二人を、何とも言えない表情で眺めています。
 
 
 「さて、ルガール、説明していただきましょうか。何故このようなことをしたのかを」
 
 ヨハンとは打って変わって、ルガールは全く意に介していないようでした。

 「説明する気分ではないね」
 
 「では、私の気が済むまで、その穢れた体を切り刻ませてください」
 
 「断る。興醒めだよ。結局君たちはいつも通りだ」

 ルガールは、本当に詰まらなさそうに、肩を竦めました。
 
 そんなルガールを見かねて、ヨハンが口を開きます。
 
 「ルガール、本当に君は、私たちの知っている、ルガールなのか?」
 
 ヨハンの質問に興味を示したのか、ルガールは再び、陰鬱な笑みを浮かべました。
 
 「君たちの知っているルガールでなければ、私は何だ? 偽者か?」

 「ヨハン、今のルガールは、殺意の波動に侵されているから、ああなっているんですよ」

 確かに、ゲーニッツの言う通りなのかも知れませんが、
 ヨハンは、釈然としませんでした。

 陰鬱な笑みと、不愉快な嗤い声、
 存在する真っ赤な右目、黒い服。
 子どものような悪意のある態度……。

 ヨハンが知っているルガールとは、真逆でした。
 
 「いいじゃないか。≪私≫が誰かなんて。
 それに、もうタイムリミットだ。行かなければならない」
 
 「タイムリミット……?」

 「ここに居られる時間が、終わるのだよ。
 豪鬼、居るのだろう? 出てきたまえ」
 
 
 ルガールが呼ぶと、ヨハンとゲーニッツの視界の端に、突如、
 メイド姿の少女が現れました。
 
  
 「ごう、き?」
 
 これまた、ヨハンが知っている豪鬼とは全然違う、メイド姿の少女でした。
 赤い箒と、腰の大きな赤いリボン、そして、硬い表情が印象的です。

 「……あれ? この子、どこかで」
 
 ヨハンが怪訝に思っている横で、ゲーニッツがその少女に挨拶しました。
 
 「またお会いしましたね。まさか、貴方がルガールとグルだったとは」 
 
 「は?」
 
 ヨハンが間の抜けた声を出すと、ゲーニッツが説明してくれました。
 
 「ヨハンがここにいると教えてくれたのは、彼女です」
 
 その刹那、ヨハンに欠けていた記憶が、堰を切ったように溢れ出しました。
 
 「……思い出した。私も、その子にここに来るように言われたんだ。
 ルガールとゲーニッツが喧嘩しているから、止めてくれと……」
 
 少女は硬い表情を崩しませんでした。
 強張っていると言うよりは、不機嫌そうだと言った方が正しいでしょう。
 
 「目的はなんですか?」
 
 少女は答えようとしません。

 「だからね、もう答えている時間は無いのだよ」
 
 「ルガール、貴方には聞いていません」
 
 「ヨハンさんの背中は無事ですよ。 
 あれ、只のマッサージチェアを弄っただけなので、
 チューブは刺さっていません」
 
 少女は突如、チューブの件がハッタリだった事を説明し終えると、
 それきり、喋ろうとしませんでした。
 
 「……あ、ああ、うん。ありがとう。……待ってくれ、じゃあ、キスは?」

 やはり少女は答えません。 
 途惑うヨハンが面白いのか、ルガールは小さく嗤っています。
 
 「では、≪我ら≫はこの辺で失礼しよう。
 君たちが知る、ルガールの体はお返しする」
 
 「やはり偽者? ルガールは無事なのか?!」
 
 「無事だし、……言っただろう、
 ≪私≫が誰かなんて、どうでもいいじゃないか、と……。
 あ。ああ……」
 
 ルガールは何かを思い出したのか、今までとは違った笑顔を浮かべました。
 
 「そう言えばね、≪我ら≫を作った≪おかあさま≫は、
 普段は祟り神と畏れられているが、
 本来は、≪縁結び≫の神様らしいのだよ。
 もしかしたら、それらしき御利益が、
 君たちにもあるかもしれないね……?」


 しかし、君たちは既に結ばれているので、やはり意味ないか。
 
 
 その「ルガール」は、言いたいことを一方的に言い終えると、
 「豪鬼」と呼んだメイドの少女と共に慇懃なお辞儀をし、
 ルガールの体を残して、そこから、消えていったのでした。
 
 
 
 ヨハンもゲーニッツも呆けていると、お辞儀の体制のままだったルガールが、
 床に崩れ落ちてしまいました。
 
 慌ててヨハンが駆け寄ると、ルガールの髪と肌の色は戻っており、
 右目も、義眼に戻っていたのです。
 
 「ルガール、大丈夫か!」
 
 「ヨハン、……私は、何かしてしまったのか?
 何か、体から抜け落ちたような感じがするんだ……」
 
 ルガールは、大変疲弊しているようです。
 
 「いや、大丈夫だ、なにも問題ない。」
 
 ヨハンは、只管、無事であることをアピールしました。
 ゲーニッツもゲーニッツで、別段、咎める事はありませんでした。


 「ルガール、いつから記憶がなくなっているんだ?」
 
 ルガールは右手で頭を抱え、しばし黙り込んだ後、
 ゆっくりと口を開きました。



 「君たちの仲が余りにも芳しくないから、
 縁結びで有名な、雛見沢の古手神社にお参りに行ったんだ。
 ……それから、思い出せん」



 それを聞いたヨハンは恐々と、ゲーニッツは複雑そうに、
 互いを見つめ合ったのでした。




["Could you carry the karma?" is End]

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Posted by xkxkiquth 2013年11月15日(金) 04:21:37 返信

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