最終更新:ID:GVokGtuvBA 2010年08月24日(火) 03:08:26履歴
448 :名無しさん@ビンキー:2010/01/23(土) 06:27:16 0
>>433です。書き終えたので、投下します
元ネタは暴君のゲニヨハと時悪のルガールですが、
キャラクターなどは、最近のスレも参考にしているので、
大分かけ離れてると思います。濡れ場はありません
不備があったらごめんなさい
!警告!
・これは架空の話です。
・MUGENストーリー動画『暴l君lのl嫁l探lし』と『時lをlかlけlるl悪l意』が元ネタですが、
両動画の本編とは全く関係ありません。
最近のスレの流れを参考にしているのが大部分です。
・通報しないように。貴方の胸に留めておこう!
・腐向けです。キャラクターは別物同然かもしれません。読んで頂ける場合は、ご了承を。
・エロシーンはありません。
出てくるキャラクター
ヨハン
凄く強いのにヘタレで有名。地味扱いされては、すぐ泣く。
ゲーニッツから逃げる日々。
でもやるときはやる。
ゲーニッツ
ヤンデレドS。ヨハンが大好き。いつも吹き荒んでいる。
ルガール
紳士で人望が厚いが、曲者ばかりに好かれ、心労が溜まって内臓系統がヤバい。
特に、ヨハンとゲーニッツの関係に悩まされている。
しかし、今回はG化しているせいか、黒服を着ていたりと、様子がおかしい。
???
見知らぬ少女。メイド姿で、赤い箒と腰の大きな赤いリボンと硬い表情が印象的。
以上
/
唸る機械音、やけに可愛らしい水のせせらぎ、鼻に突く、異臭。
ヨハンは、目を開かずには居られませんでした。
そして、目を見開き、再び閉じます。
ああ、何かの間違いだ。そう思わずには居られないのでしょう。
それもそうです。
ヨハンが今居るこの場所、悪趣味としか、呼びようがないのです。
天井までそびえる、エイリアンのような巨大な機械が数体、相当の威圧感を放ち存在しています。
壁には、一面、見ているだけで眩暈がするような装飾が施されており、
まるで、人骨を金属のように加工し、只管埋め込んでいるようにも見えます。
極めつけは部屋の中央の巨大な「水槽」です。
一般的な浴槽を二つ並べたぐらいの、円形の金属製の「水槽」で、
しかも、頭蓋骨らしき彫刻が施され、天井の機械よりも禍々しいのです。
もしくは、「鍋」にも見えます。
なにせ、そこに、なみなみと入っているのは、「赤い液体」です。
その液体が、水槽から、床の規則正しい溝に沿って流れており、
この部屋におおよそ不釣合いな、可愛らしいせせらぎを立てていました。
……しかし、ヨハンには、血液と血管にしか見えませんでした。
異臭の原因は、それなのでしょう。
そして、何よりの問題は、
ヨハンの体の自由が、利かないことでした。
巨大なマッサージチェアーの様な黒い椅子に、ヨハンは、拘束されているのです。
「今度こそ殺される」
ヨハンは、そう呟きました。
主語は抜けていますが、これを読んでいる方はお察しかと思われます。
――今度こそ、ゲーニッツに殺される。
つまり、自分自身をこのような状況に追い込んだのは、ゲーニッツだと、
ヨハンは、そう思っているのです。
拘束されているのは、両の二の腕、両手首、
両足の太腿と、足首、腰。
痛みは少なく、背もたれは幾分倒されており、着衣に乱れはありません。
多少の違和感があるものの、座り心地は良い方でした。
しかし、ヨハンは、どのような経緯でここに連れ込まれたのか、全く思い出せずにいます。
誰かに尋ねようとしても、この部屋に、ヨハン以外は、いないようです。
ヨハンは、一つ、深呼吸をしました。
次期に、ゲーニッツが戻ってくるだろう。
それまでに、色々考えておかなければならない。
なるべく、穏便に済ませる方法を……。
ゲーニッツから今まで散々、散々な目に合わされたせいでしょうか。
ヨハンは、取り乱すことなく、冷静に今後のことを考えています。
そしてもう一度、深呼吸をしました。
考えが、まとまったのかもしれません。
首を少し上げ、大きな窓を眺めました。
目が霞んでる訳ではないのに、明るいということ以外、
外の景色がよく分かりません。
まるで、この部屋が海の底に沈んでいるかのような、
そんな錯覚を、ヨハンは覚えました。
そして……。
自動扉が開くような音と共に、誰かが部屋に入ってきました。
「ゲーニッツ! ……じゃない」
ヨハンは、拍子抜けしました。
何故なら、傍に来たのは、ルガールだったからです。
と、言うことは、
「ルガール! 助けに来てくれたのか!」
ヨハンが嬉々としてそう言うと、
ルガールは、うっすらと笑うだけなのでした。
「ルガール?
G化、してるし、黒服……。
まさか、ゲーニッツと何かあったのか?」
ヨハンは、本当に心配しているようです。
ルガールは少し首をかしげ、やはりうっすらと笑ったまま、
「いいや。ゲーニッツとは、まだ会っていないよ」
と、答えました。
G化している理由は、教えてくれないようです。
ヨハンは疑念を持ちつつも、ルガールに、この拘束を解くように、お願いしました。
しかし、
「どうして君は、そのような事を私に頼むだろうね?
私がその拘束を解く理由は無い」
ルガールは、そう答えるのです。
ヨハンも愚かではありません。そこで気が付きました。
「まさか、ルガールが私を?」
「ご名答」
「何故!」
「そこも考えて欲しいかな、かな」
語尾を二回繰り返すと、ルガールは口元を歪め、
さっきとは打って変わって、陰鬱な笑みを浮かべました。
「G化して、暴走しているか? しっかりしろ!」
ヨハンは思わず、拘束されていることを忘れ、立ち上がりそうになりましたが、
拘束具が体に食い込み、どうすることもできません。
加えて、背中に、痛みを感じました。
「ああ、どうせなら、ゆっくり動いてくれ。
今、君の背中には……これと同じ物が二本刺さっている」
ルガールが、例のエイリアンのような機械から、太目のチューブを引張って、
ヨハンに見せてくれました。
先端には、金属製の鋭い、長さが2,3センチほどの太い針が付いています。
「余り痛みを感じないのは、麻酔を嗅がせたからだよ。
だが、無闇に動こうものなら、その体が傷つく。
やはり、大人しくした方が良いね」
一見、ルガールは紳士的に説明してくれていますが、
ヨハンにそのチューブを刺したのもまた、ルガールだと言うのです。
「どうして、こんなことを」
愕然とするヨハンを、ルガールは面白がりました。
「ハハッ、お決まりの質問だね?」
「質問に答えてくれ」
「君の、ブラックドラゴンの力を、我が物にしたいからだよ。
この装置でね」
さも当然。そう言っているかのようです。
「ルガール、君はこんなことをする奴じゃないだろう?」
「≪私≫は、こんなことをする奴だよ……?」
「いいか、ルガール、殺意の波動に飲まれてはいけない」
「君、よく喋るね? 口うるさい奴は、好きではないんだ」
ルガールはそう言うと、さらにヨハンに近づき、上半身を重ねてきました。
体重がかかり、ヨハンは背中に不快感を感じました。
ヨハンは、本当に、背中にチューブが刺さっているのだと、思いました。
ルガールはヨハンの耳元で囁きます。
「痛いか?」
「少し」
「怖いか?」
ヨハンは少し間を置き、答えました。
「いや」
ルガールは、すっと体を起こし、ヨハンを睨みました。
「こんな場所に連れ込まれて、
こんなことをされて、私が怖くないのか?
君は、いつもなら、すぐ泣いてしまうのに」
ヨハンは何も言わず、ルガールを見据えます。
「怖がって、泣いてくれないと、困るのだが。
本当に手荒な真似をしないと、駄目か?」
ルガールは赤く染まった手で、ヨハンの頭を撫で回し、
その長い前髪を、強めに掴みあげました。
しかし、ヨハンはうめき声一つ上げません。
ルガールは、すぐに手を離しました。
「……つまらん」
そう呟いた声には、憎しみが篭っているようでした。
「ルガール、確かに私は、ゲーニッツのことで、
君にたくさん迷惑をかけてしまっている。だから」
「だから、こんなことをされても仕方ない。
と、言い出すのではないだろうね?」
ヨハンの言葉を遮り、ルガールは言います。
ヨハンは、小さくうなずきました。
「ハハハハ! 自惚れ具合も度を越しているな!」
明らかに、馬鹿にしているようです。
しかし、ヨハンは泣こうとはせず、こう反論しました。
「私が、ゲーニッツから、逃げてばかりいる事が悪いのは、
本当に分かっているんだ」
「だが、君が何を言おうと、
ゲーニッツは変わらないと思うがね」
「……そうだな」
ヨハンは、辛そうに俯き、黙り込んでしまいました。
ルガールは、ヨハンに気付かれないように、小さくため息をつきました。
「ヨハンは、ゲーニッツの事を、どう思っている?」
「怖い」
即答でした。
ルガールは小さく数回頷き、再び、動けないヨハンに、上半身を摺り寄せ、顔を近づけます。
「では、私のことは?」
「頼りにしている。かけがえの無い友人だ」
「……それだけか?」
ヨハンの首筋にそっと、唇を当て、
「本当に、それだけか」と。
一瞬、≪まるでルガールが自分に甘えているような錯覚≫に陥りそうになりながら、
ヨハンは、禍々しい天井を眺め、周囲の面々を思い返しました。
「私は、ルガールを見習って、
もっと、しっかりしなければならないと思う。
君に、迷惑をかけないように」
「ふぅん。
……では、私が、君のブラックドラゴンの力だけではなく、
心も、体も、君の全てを我が物にしたいと言い出したら、
どうする?」
「どうするって……」
「私は、君を、むやみやたらに地味だと言って、無視したりしないし、
どこぞの牧師のように、暴力を振るったりもしない。
優しくしてあげよう。
君が、私と共に来ると頷けば、安寧を約束しよう」
ヨハンは再び、ルガールを見据えました。
彼の、赤い「両目」を。
「嘘だ」
直後、ヨハンは自分の放った言葉に驚きました。
半ば、無意識で言ってしまったようです。
「どうして嘘だと思うのかね?」
ルガールの問いかけに、ヨハンは慌てて言葉を紡ぎました。
「ルガールは、私を欲しいと、思っていない、から……」
「……ふ、ふ、ふっ。くくくくくくく、くすくすくすくす」
笑いをこらえているようです。
「ああ、ゲーニッツにあれ程迫られていれば、
他の誰かなんて、どうでもよくなると言うことか」
「そういう意味じゃ……!」
「さて……そろそろだろうか」
ルガールは体を起こし、立ち上がり、
部屋の入り口の方に視線を移しました。
そして、部屋の騒音に切り込むように、
廊下を走る足音が、聞こえてきたのです。
ルガールは、ヨハンの顔をもう一度見ます。
「予定とは違ったが、まあ、良い」
ルガールはすぐに視線を部屋の扉に戻し、
ヨハンもつられて、同じ場所を見ました。
扉が、開きます。
やはり、ゲーニッツでした。
ゲーニッツは冷徹な表情で、
物怖じすることなく、部屋に入ってきました。
「メイドのお嬢さんが教えてくれました。
貴方が、ヨハンをここに連れ込んだと」
「早かったね。ゲーニッツ。
後数秒遅れれば、ヨハンの首無し死体を見せてあげられたのに。
ああ、それとも、
私の性器で、ヨハンの尻の穴を激しく穿ち、
ヨハンが快感に悶え、私に溺れてる様を、
見せてあげるべきだったのかもしれないね?」
「おや、貴方にそのような趣味がありましたか」
「無理しなくていいのだよ。
私にヨハンを取られたと思って、
大慌てで来たのだろう?」
「貴方も、大分ご無理をなさっているようではありませんか。
マトモに扱えもしない殺意の波動を、開放して。
……黒服なのは、ご自身の葬儀を行うためですか」
「ふふ、ヨハンの葬儀だよ、ゲーニッツ」
恐ろしい会話で、不穏な空気が満ちていく中、
ヨハンは、ルガールとゲーニッツのやり取りを、訝しげに感じていました。
しかし、原因を探ろうとしても、まるで掴めません。
ヨハンが不安に思っているのを他所に、ルガールとゲーニッツの会話は続きます。
「ヨハンの葬儀、ですか。
では私が呼ばれて当然と言うわけですね?」
ルガールが暗にヨハンを殺す、と言っているようなものですが、
ゲーニッツは態度を崩しませんでした。
――しかし、
「ゲーニッツ」
「なんです?」
「ヨハンの唇、奪っちゃった」
ルガールは悪びれる様子も無く、
そして、自信たっぷりに、ゲーニッツに言い放ちました。
ヨハンには、はっきりと分かりました。
いいえ、誰が見ても、明らかでした。
ゲーニッツの表情が、怒りに染まっていったのです。
直後、部屋に響き渡ったのは、
ルガールの哄笑でした。
頭蓋が打ちのめされ、脳内が揺さぶられる、
不快な嗤い声でした。
もちろん、ヨハンは、そんな風に嗤うルガールを、見たことがありません。
「お黙りなさい」
場内に強烈な風が吹き荒れ、巨大な機械が軋み、
水槽の赤い水面が激しく波打ち、
垂れ下がっているチューブも、無残に切り刻まれていきました。
「ハハハハハハハッ!!!
これはいい、いいぞ!
あのゲーニッツが、私を軽蔑してばかりいたゲーニッツが、
怒り狂っている! この私にだッ!!
右目の事は、その表情で帳消しにしてやろう!!」
「右目……?」
ともすれば、自身をも刻もうとする風が渦巻く中、
ヨハンは、ルガールの右目が義眼でないことに気が付きました。
しかし、違和感は、そこだけではありません。
ゲーニッツがここに到着した時、ルガールは「早かったね」と言っていました。
ルガールがヨハンをどうにかする時間は、十分にあったはずなのに……。
そして、ヨハンは一つの結論に達しました。
「まさか、ルガールの狙いは、ゲーニッツなのか……」
確かに、ルガールとゲーニッツには、因縁があります。
しかし、ゲーニッツが、ルガールを目の上の瘤の様に思ってはいても、
ルガールが、積極的に、ゲーニッツを攻撃することは、決して無かったのです。
ヨハンは、今さら戦慄しました。
あのルガールは、「誰」なのだろう、と。
最中、ゲーニッツの風は益々吹き荒びます。
「もっと怒れ、ゲーニッツ。
私をここで殺さなければ、
私にヨハンを取られてしまうよ?」
一方のルガールは、その風をねじ伏せんと、オロチの力と殺意の波動を纏ながら、
ゲーニッツに飛び込みました。
「君の全てを傷付けたいんだ、ゲーニッツ。
精神の方は、長らく方法を見つけられずに居たが、
最近やっと知ったよ。
あのヨハンだ。
彼が君の手の届かぬ場所に行ってしまったら、
君は一体、どうなってしまうのだろう」
「喋りながらとは余裕ですね。
舌を噛み切ってしまっても知りませんよ」
「私が君に再び出会った時、
君はもう死んでいた。その死体もなんだかしれっとしていてね、
死体を陵辱しても満たされなかったよ。
だが、もっと快楽を得たい。傷付けさせてくれ」
「死姦とは、悪趣味ですね!」
常人ならあっという間に飲まれてしまう風にも、
ルガールは物怖じしません。
「いや、もっと素敵な事だよ、ゲーニッツ。
君の死体から血を全て抜き取って、
それを私の体内に取り込んだんだ。
ふ、ふ、くすくすくすっ、あははははは!!」
≪ゲーニッツは生きているのに、ゲーニッツの死体の話をしている≫
ルガールの発言が、まるで矛盾していることを、
今のゲーニッツに、指摘する余裕はありませんでした。
一方、すっかり蚊帳の外にされたヨハンは、もちろん気付いていました。
同時に、ゲーニッツが冷静さを欠いている事も、見逃しませんでした。
ヨハンは、ゲーニッツが常に冷静であることが、その強みだと知っています。
ルガールの力は決して侮れず、ましてや、今の彼は狂乱状態です。
このままでは、両者とも、命を落としかねません。
……しっかりしなければ。
私は弱くない。
こんな、拘束具ぐらい……!
穏便に、最小限に抑えようとするのが、このヨハンの気質です。
しかし、もう、形振り構っていられませんでした。
例え、背中のチューブが原因で後遺症が残ろうとも、
二人が死ぬよりはマシ。
そう、考えたのです。
腕にブラックドラゴンの黒炎を宿し、拘束具を破壊しようと試みますが、
ルガールが言っていた麻酔が原因でしょうか、
上手く行かず、背中の痛みが激しくなるばかりです。
さらに、ゲーニッツの風とルガールの波動の余波が、ヨハンのところにまで及び、
体力も気力も削られていきます。
「冗談じゃないぞ、二人とも……!」
響き渡るルガールの哄笑と、ゲーニッツの怒声。
本当なら、極自然な光景なのかもしれません。
それでも、ヨハンは、許せませんでした。
そして、彼が発したのは、
「メールト! 溶ーけーてーしーまーいそうぉおおおおお!」
……「狂乱しているのはお前」だと、指摘されても反論できない、
ヨハンの渾身の歌声でした。
しかし、それとともに、彼は全ての拘束具を破壊したのです。
ヨハンの怒号と共に腕から放たれたブラックドラゴンの波動は、
ルガールとゲーニッツを的確に捉えました。
しかし、二人とも即座に反応し、見事に防御されてしまったのです。
「邪魔しないでもらえますか、ヨハン」
ゲーニッツのサディスティックな視線が、ヨハンに突き刺さりました。
いつもならば、逃げようとするのですが、今は、違います。
一教団の教祖らしい風格と、先程のルガールに引けを取らない、暗澹とした笑みを浮かべ、
そして、半ば侮蔑を込め、このように言い放ったのです。
"――Goenitz, are you afraid?"
すると、風も、殺意も、オロチの力も、嘘のように静まりました。
ルガールは、瞼をしばたたかせながら、
幼子が不思議なものを見つけたときのような顔で、ヨハンを見つめていました。
一方、ゲーニッツも、やはりルガールと同じく不思議そうに見つめた後、
そっと、目を閉じ、
「ここですか?」
と、ヨハンを風で切り刻むことを試みました。
血肉が切られるような音がしました。
「何をするんだゲーニッツ!」
ヨハンは負けじと応戦しますが
「ヨハン、答えなさい。私が何を恐れると? ここにいる気が触れたルガールですか?
それとも、
あ な た の こ と で す か ?」
それを軽く上回るゲーニッツの威圧に耐えられず、小さい悲鳴を上げ、
萎縮してしまいました。
ゲーニッツはそれ見たことかとヨハンの頭を片手で難なく掴み、
「あのルガールの方がいいというのなら、お別れしましょうか。この世から」
「死にたくないです」
ヨハンは涙目になりながら、ゲーニッツに懇願したのでした。
ルガールは、そんな二人を、何とも言えない表情で眺めています。
「さて、ルガール、説明していただきましょうか。何故このようなことをしたのかを」
ヨハンとは打って変わって、ルガールは全く意に介していないようでした。
「説明する気分ではないね」
「では、私の気が済むまで、その穢れた体を切り刻ませてください」
「断る。興醒めだよ。結局君たちはいつも通りだ」
ルガールは、本当に詰まらなさそうに、肩を竦めました。
そんなルガールを見かねて、ヨハンが口を開きます。
「ルガール、本当に君は、私たちの知っている、ルガールなのか?」
ヨハンの質問に興味を示したのか、ルガールは再び、陰鬱な笑みを浮かべました。
「君たちの知っているルガールでなければ、私は何だ? 偽者か?」
「ヨハン、今のルガールは、殺意の波動に侵されているから、ああなっているんですよ」
確かに、ゲーニッツの言う通りなのかも知れませんが、
ヨハンは、釈然としませんでした。
陰鬱な笑みと、不愉快な嗤い声、
存在する真っ赤な右目、黒い服。
子どものような悪意のある態度……。
ヨハンが知っているルガールとは、真逆でした。
「いいじゃないか。≪私≫が誰かなんて。
それに、もうタイムリミットだ。行かなければならない」
「タイムリミット……?」
「ここに居られる時間が、終わるのだよ。
豪鬼、居るのだろう? 出てきたまえ」
ルガールが呼ぶと、ヨハンとゲーニッツの視界の端に、突如、
メイド姿の少女が現れました。
「ごう、き?」
これまた、ヨハンが知っている豪鬼とは全然違う、メイド姿の少女でした。
赤い箒と、腰の大きな赤いリボン、そして、硬い表情が印象的です。
「……あれ? この子、どこかで」
ヨハンが怪訝に思っている横で、ゲーニッツがその少女に挨拶しました。
「またお会いしましたね。まさか、貴方がルガールとグルだったとは」
「は?」
ヨハンが間の抜けた声を出すと、ゲーニッツが説明してくれました。
「ヨハンがここにいると教えてくれたのは、彼女です」
その刹那、ヨハンに欠けていた記憶が、堰を切ったように溢れ出しました。
「……思い出した。私も、その子にここに来るように言われたんだ。
ルガールとゲーニッツが喧嘩しているから、止めてくれと……」
少女は硬い表情を崩しませんでした。
強張っていると言うよりは、不機嫌そうだと言った方が正しいでしょう。
「目的はなんですか?」
少女は答えようとしません。
「だからね、もう答えている時間は無いのだよ」
「ルガール、貴方には聞いていません」
「ヨハンさんの背中は無事ですよ。
あれ、只のマッサージチェアを弄っただけなので、
チューブは刺さっていません」
少女は突如、チューブの件がハッタリだった事を説明し終えると、
それきり、喋ろうとしませんでした。
「……あ、ああ、うん。ありがとう。……待ってくれ、じゃあ、キスは?」
やはり少女は答えません。
途惑うヨハンが面白いのか、ルガールは小さく嗤っています。
「では、≪我ら≫はこの辺で失礼しよう。
君たちが知る、ルガールの体はお返しする」
「やはり偽者? ルガールは無事なのか?!」
「無事だし、……言っただろう、
≪私≫が誰かなんて、どうでもいいじゃないか、と……。
あ。ああ……」
ルガールは何かを思い出したのか、今までとは違った笑顔を浮かべました。
「そう言えばね、≪我ら≫を作った≪おかあさま≫は、
普段は祟り神と畏れられているが、
本来は、≪縁結び≫の神様らしいのだよ。
もしかしたら、それらしき御利益が、
君たちにもあるかもしれないね……?」
しかし、君たちは既に結ばれているので、やはり意味ないか。
その「ルガール」は、言いたいことを一方的に言い終えると、
「豪鬼」と呼んだメイドの少女と共に慇懃なお辞儀をし、
ルガールの体を残して、そこから、消えていったのでした。
ヨハンもゲーニッツも呆けていると、お辞儀の体制のままだったルガールが、
床に崩れ落ちてしまいました。
慌ててヨハンが駆け寄ると、ルガールの髪と肌の色は戻っており、
右目も、義眼に戻っていたのです。
「ルガール、大丈夫か!」
「ヨハン、……私は、何かしてしまったのか?
何か、体から抜け落ちたような感じがするんだ……」
ルガールは、大変疲弊しているようです。
「いや、大丈夫だ、なにも問題ない。」
ヨハンは、只管、無事であることをアピールしました。
ゲーニッツもゲーニッツで、別段、咎める事はありませんでした。
「ルガール、いつから記憶がなくなっているんだ?」
ルガールは右手で頭を抱え、しばし黙り込んだ後、
ゆっくりと口を開きました。
「君たちの仲が余りにも芳しくないから、
縁結びで有名な、雛見沢の古手神社にお参りに行ったんだ。
……それから、思い出せん」
それを聞いたヨハンは恐々と、ゲーニッツは複雑そうに、
互いを見つめ合ったのでした。
["Could you carry the karma?" is End]
>>433です。書き終えたので、投下します
元ネタは暴君のゲニヨハと時悪のルガールですが、
キャラクターなどは、最近のスレも参考にしているので、
大分かけ離れてると思います。濡れ場はありません
不備があったらごめんなさい
!警告!
・これは架空の話です。
・MUGENストーリー動画『暴l君lのl嫁l探lし』と『時lをlかlけlるl悪l意』が元ネタですが、
両動画の本編とは全く関係ありません。
最近のスレの流れを参考にしているのが大部分です。
・通報しないように。貴方の胸に留めておこう!
・腐向けです。キャラクターは別物同然かもしれません。読んで頂ける場合は、ご了承を。
・エロシーンはありません。
出てくるキャラクター
ヨハン
凄く強いのにヘタレで有名。地味扱いされては、すぐ泣く。
ゲーニッツから逃げる日々。
でもやるときはやる。
ゲーニッツ
ヤンデレドS。ヨハンが大好き。いつも吹き荒んでいる。
ルガール
紳士で人望が厚いが、曲者ばかりに好かれ、心労が溜まって内臓系統がヤバい。
特に、ヨハンとゲーニッツの関係に悩まされている。
しかし、今回はG化しているせいか、黒服を着ていたりと、様子がおかしい。
???
見知らぬ少女。メイド姿で、赤い箒と腰の大きな赤いリボンと硬い表情が印象的。
以上
/
唸る機械音、やけに可愛らしい水のせせらぎ、鼻に突く、異臭。
ヨハンは、目を開かずには居られませんでした。
そして、目を見開き、再び閉じます。
ああ、何かの間違いだ。そう思わずには居られないのでしょう。
それもそうです。
ヨハンが今居るこの場所、悪趣味としか、呼びようがないのです。
天井までそびえる、エイリアンのような巨大な機械が数体、相当の威圧感を放ち存在しています。
壁には、一面、見ているだけで眩暈がするような装飾が施されており、
まるで、人骨を金属のように加工し、只管埋め込んでいるようにも見えます。
極めつけは部屋の中央の巨大な「水槽」です。
一般的な浴槽を二つ並べたぐらいの、円形の金属製の「水槽」で、
しかも、頭蓋骨らしき彫刻が施され、天井の機械よりも禍々しいのです。
もしくは、「鍋」にも見えます。
なにせ、そこに、なみなみと入っているのは、「赤い液体」です。
その液体が、水槽から、床の規則正しい溝に沿って流れており、
この部屋におおよそ不釣合いな、可愛らしいせせらぎを立てていました。
……しかし、ヨハンには、血液と血管にしか見えませんでした。
異臭の原因は、それなのでしょう。
そして、何よりの問題は、
ヨハンの体の自由が、利かないことでした。
巨大なマッサージチェアーの様な黒い椅子に、ヨハンは、拘束されているのです。
「今度こそ殺される」
ヨハンは、そう呟きました。
主語は抜けていますが、これを読んでいる方はお察しかと思われます。
――今度こそ、ゲーニッツに殺される。
つまり、自分自身をこのような状況に追い込んだのは、ゲーニッツだと、
ヨハンは、そう思っているのです。
拘束されているのは、両の二の腕、両手首、
両足の太腿と、足首、腰。
痛みは少なく、背もたれは幾分倒されており、着衣に乱れはありません。
多少の違和感があるものの、座り心地は良い方でした。
しかし、ヨハンは、どのような経緯でここに連れ込まれたのか、全く思い出せずにいます。
誰かに尋ねようとしても、この部屋に、ヨハン以外は、いないようです。
ヨハンは、一つ、深呼吸をしました。
次期に、ゲーニッツが戻ってくるだろう。
それまでに、色々考えておかなければならない。
なるべく、穏便に済ませる方法を……。
ゲーニッツから今まで散々、散々な目に合わされたせいでしょうか。
ヨハンは、取り乱すことなく、冷静に今後のことを考えています。
そしてもう一度、深呼吸をしました。
考えが、まとまったのかもしれません。
首を少し上げ、大きな窓を眺めました。
目が霞んでる訳ではないのに、明るいということ以外、
外の景色がよく分かりません。
まるで、この部屋が海の底に沈んでいるかのような、
そんな錯覚を、ヨハンは覚えました。
そして……。
自動扉が開くような音と共に、誰かが部屋に入ってきました。
「ゲーニッツ! ……じゃない」
ヨハンは、拍子抜けしました。
何故なら、傍に来たのは、ルガールだったからです。
と、言うことは、
「ルガール! 助けに来てくれたのか!」
ヨハンが嬉々としてそう言うと、
ルガールは、うっすらと笑うだけなのでした。
「ルガール?
G化、してるし、黒服……。
まさか、ゲーニッツと何かあったのか?」
ヨハンは、本当に心配しているようです。
ルガールは少し首をかしげ、やはりうっすらと笑ったまま、
「いいや。ゲーニッツとは、まだ会っていないよ」
と、答えました。
G化している理由は、教えてくれないようです。
ヨハンは疑念を持ちつつも、ルガールに、この拘束を解くように、お願いしました。
しかし、
「どうして君は、そのような事を私に頼むだろうね?
私がその拘束を解く理由は無い」
ルガールは、そう答えるのです。
ヨハンも愚かではありません。そこで気が付きました。
「まさか、ルガールが私を?」
「ご名答」
「何故!」
「そこも考えて欲しいかな、かな」
語尾を二回繰り返すと、ルガールは口元を歪め、
さっきとは打って変わって、陰鬱な笑みを浮かべました。
「G化して、暴走しているか? しっかりしろ!」
ヨハンは思わず、拘束されていることを忘れ、立ち上がりそうになりましたが、
拘束具が体に食い込み、どうすることもできません。
加えて、背中に、痛みを感じました。
「ああ、どうせなら、ゆっくり動いてくれ。
今、君の背中には……これと同じ物が二本刺さっている」
ルガールが、例のエイリアンのような機械から、太目のチューブを引張って、
ヨハンに見せてくれました。
先端には、金属製の鋭い、長さが2,3センチほどの太い針が付いています。
「余り痛みを感じないのは、麻酔を嗅がせたからだよ。
だが、無闇に動こうものなら、その体が傷つく。
やはり、大人しくした方が良いね」
一見、ルガールは紳士的に説明してくれていますが、
ヨハンにそのチューブを刺したのもまた、ルガールだと言うのです。
「どうして、こんなことを」
愕然とするヨハンを、ルガールは面白がりました。
「ハハッ、お決まりの質問だね?」
「質問に答えてくれ」
「君の、ブラックドラゴンの力を、我が物にしたいからだよ。
この装置でね」
さも当然。そう言っているかのようです。
「ルガール、君はこんなことをする奴じゃないだろう?」
「≪私≫は、こんなことをする奴だよ……?」
「いいか、ルガール、殺意の波動に飲まれてはいけない」
「君、よく喋るね? 口うるさい奴は、好きではないんだ」
ルガールはそう言うと、さらにヨハンに近づき、上半身を重ねてきました。
体重がかかり、ヨハンは背中に不快感を感じました。
ヨハンは、本当に、背中にチューブが刺さっているのだと、思いました。
ルガールはヨハンの耳元で囁きます。
「痛いか?」
「少し」
「怖いか?」
ヨハンは少し間を置き、答えました。
「いや」
ルガールは、すっと体を起こし、ヨハンを睨みました。
「こんな場所に連れ込まれて、
こんなことをされて、私が怖くないのか?
君は、いつもなら、すぐ泣いてしまうのに」
ヨハンは何も言わず、ルガールを見据えます。
「怖がって、泣いてくれないと、困るのだが。
本当に手荒な真似をしないと、駄目か?」
ルガールは赤く染まった手で、ヨハンの頭を撫で回し、
その長い前髪を、強めに掴みあげました。
しかし、ヨハンはうめき声一つ上げません。
ルガールは、すぐに手を離しました。
「……つまらん」
そう呟いた声には、憎しみが篭っているようでした。
「ルガール、確かに私は、ゲーニッツのことで、
君にたくさん迷惑をかけてしまっている。だから」
「だから、こんなことをされても仕方ない。
と、言い出すのではないだろうね?」
ヨハンの言葉を遮り、ルガールは言います。
ヨハンは、小さくうなずきました。
「ハハハハ! 自惚れ具合も度を越しているな!」
明らかに、馬鹿にしているようです。
しかし、ヨハンは泣こうとはせず、こう反論しました。
「私が、ゲーニッツから、逃げてばかりいる事が悪いのは、
本当に分かっているんだ」
「だが、君が何を言おうと、
ゲーニッツは変わらないと思うがね」
「……そうだな」
ヨハンは、辛そうに俯き、黙り込んでしまいました。
ルガールは、ヨハンに気付かれないように、小さくため息をつきました。
「ヨハンは、ゲーニッツの事を、どう思っている?」
「怖い」
即答でした。
ルガールは小さく数回頷き、再び、動けないヨハンに、上半身を摺り寄せ、顔を近づけます。
「では、私のことは?」
「頼りにしている。かけがえの無い友人だ」
「……それだけか?」
ヨハンの首筋にそっと、唇を当て、
「本当に、それだけか」と。
一瞬、≪まるでルガールが自分に甘えているような錯覚≫に陥りそうになりながら、
ヨハンは、禍々しい天井を眺め、周囲の面々を思い返しました。
「私は、ルガールを見習って、
もっと、しっかりしなければならないと思う。
君に、迷惑をかけないように」
「ふぅん。
……では、私が、君のブラックドラゴンの力だけではなく、
心も、体も、君の全てを我が物にしたいと言い出したら、
どうする?」
「どうするって……」
「私は、君を、むやみやたらに地味だと言って、無視したりしないし、
どこぞの牧師のように、暴力を振るったりもしない。
優しくしてあげよう。
君が、私と共に来ると頷けば、安寧を約束しよう」
ヨハンは再び、ルガールを見据えました。
彼の、赤い「両目」を。
「嘘だ」
直後、ヨハンは自分の放った言葉に驚きました。
半ば、無意識で言ってしまったようです。
「どうして嘘だと思うのかね?」
ルガールの問いかけに、ヨハンは慌てて言葉を紡ぎました。
「ルガールは、私を欲しいと、思っていない、から……」
「……ふ、ふ、ふっ。くくくくくくく、くすくすくすくす」
笑いをこらえているようです。
「ああ、ゲーニッツにあれ程迫られていれば、
他の誰かなんて、どうでもよくなると言うことか」
「そういう意味じゃ……!」
「さて……そろそろだろうか」
ルガールは体を起こし、立ち上がり、
部屋の入り口の方に視線を移しました。
そして、部屋の騒音に切り込むように、
廊下を走る足音が、聞こえてきたのです。
ルガールは、ヨハンの顔をもう一度見ます。
「予定とは違ったが、まあ、良い」
ルガールはすぐに視線を部屋の扉に戻し、
ヨハンもつられて、同じ場所を見ました。
扉が、開きます。
やはり、ゲーニッツでした。
ゲーニッツは冷徹な表情で、
物怖じすることなく、部屋に入ってきました。
「メイドのお嬢さんが教えてくれました。
貴方が、ヨハンをここに連れ込んだと」
「早かったね。ゲーニッツ。
後数秒遅れれば、ヨハンの首無し死体を見せてあげられたのに。
ああ、それとも、
私の性器で、ヨハンの尻の穴を激しく穿ち、
ヨハンが快感に悶え、私に溺れてる様を、
見せてあげるべきだったのかもしれないね?」
「おや、貴方にそのような趣味がありましたか」
「無理しなくていいのだよ。
私にヨハンを取られたと思って、
大慌てで来たのだろう?」
「貴方も、大分ご無理をなさっているようではありませんか。
マトモに扱えもしない殺意の波動を、開放して。
……黒服なのは、ご自身の葬儀を行うためですか」
「ふふ、ヨハンの葬儀だよ、ゲーニッツ」
恐ろしい会話で、不穏な空気が満ちていく中、
ヨハンは、ルガールとゲーニッツのやり取りを、訝しげに感じていました。
しかし、原因を探ろうとしても、まるで掴めません。
ヨハンが不安に思っているのを他所に、ルガールとゲーニッツの会話は続きます。
「ヨハンの葬儀、ですか。
では私が呼ばれて当然と言うわけですね?」
ルガールが暗にヨハンを殺す、と言っているようなものですが、
ゲーニッツは態度を崩しませんでした。
――しかし、
「ゲーニッツ」
「なんです?」
「ヨハンの唇、奪っちゃった」
ルガールは悪びれる様子も無く、
そして、自信たっぷりに、ゲーニッツに言い放ちました。
ヨハンには、はっきりと分かりました。
いいえ、誰が見ても、明らかでした。
ゲーニッツの表情が、怒りに染まっていったのです。
直後、部屋に響き渡ったのは、
ルガールの哄笑でした。
頭蓋が打ちのめされ、脳内が揺さぶられる、
不快な嗤い声でした。
もちろん、ヨハンは、そんな風に嗤うルガールを、見たことがありません。
「お黙りなさい」
場内に強烈な風が吹き荒れ、巨大な機械が軋み、
水槽の赤い水面が激しく波打ち、
垂れ下がっているチューブも、無残に切り刻まれていきました。
「ハハハハハハハッ!!!
これはいい、いいぞ!
あのゲーニッツが、私を軽蔑してばかりいたゲーニッツが、
怒り狂っている! この私にだッ!!
右目の事は、その表情で帳消しにしてやろう!!」
「右目……?」
ともすれば、自身をも刻もうとする風が渦巻く中、
ヨハンは、ルガールの右目が義眼でないことに気が付きました。
しかし、違和感は、そこだけではありません。
ゲーニッツがここに到着した時、ルガールは「早かったね」と言っていました。
ルガールがヨハンをどうにかする時間は、十分にあったはずなのに……。
そして、ヨハンは一つの結論に達しました。
「まさか、ルガールの狙いは、ゲーニッツなのか……」
確かに、ルガールとゲーニッツには、因縁があります。
しかし、ゲーニッツが、ルガールを目の上の瘤の様に思ってはいても、
ルガールが、積極的に、ゲーニッツを攻撃することは、決して無かったのです。
ヨハンは、今さら戦慄しました。
あのルガールは、「誰」なのだろう、と。
最中、ゲーニッツの風は益々吹き荒びます。
「もっと怒れ、ゲーニッツ。
私をここで殺さなければ、
私にヨハンを取られてしまうよ?」
一方のルガールは、その風をねじ伏せんと、オロチの力と殺意の波動を纏ながら、
ゲーニッツに飛び込みました。
「君の全てを傷付けたいんだ、ゲーニッツ。
精神の方は、長らく方法を見つけられずに居たが、
最近やっと知ったよ。
あのヨハンだ。
彼が君の手の届かぬ場所に行ってしまったら、
君は一体、どうなってしまうのだろう」
「喋りながらとは余裕ですね。
舌を噛み切ってしまっても知りませんよ」
「私が君に再び出会った時、
君はもう死んでいた。その死体もなんだかしれっとしていてね、
死体を陵辱しても満たされなかったよ。
だが、もっと快楽を得たい。傷付けさせてくれ」
「死姦とは、悪趣味ですね!」
常人ならあっという間に飲まれてしまう風にも、
ルガールは物怖じしません。
「いや、もっと素敵な事だよ、ゲーニッツ。
君の死体から血を全て抜き取って、
それを私の体内に取り込んだんだ。
ふ、ふ、くすくすくすっ、あははははは!!」
≪ゲーニッツは生きているのに、ゲーニッツの死体の話をしている≫
ルガールの発言が、まるで矛盾していることを、
今のゲーニッツに、指摘する余裕はありませんでした。
一方、すっかり蚊帳の外にされたヨハンは、もちろん気付いていました。
同時に、ゲーニッツが冷静さを欠いている事も、見逃しませんでした。
ヨハンは、ゲーニッツが常に冷静であることが、その強みだと知っています。
ルガールの力は決して侮れず、ましてや、今の彼は狂乱状態です。
このままでは、両者とも、命を落としかねません。
……しっかりしなければ。
私は弱くない。
こんな、拘束具ぐらい……!
穏便に、最小限に抑えようとするのが、このヨハンの気質です。
しかし、もう、形振り構っていられませんでした。
例え、背中のチューブが原因で後遺症が残ろうとも、
二人が死ぬよりはマシ。
そう、考えたのです。
腕にブラックドラゴンの黒炎を宿し、拘束具を破壊しようと試みますが、
ルガールが言っていた麻酔が原因でしょうか、
上手く行かず、背中の痛みが激しくなるばかりです。
さらに、ゲーニッツの風とルガールの波動の余波が、ヨハンのところにまで及び、
体力も気力も削られていきます。
「冗談じゃないぞ、二人とも……!」
響き渡るルガールの哄笑と、ゲーニッツの怒声。
本当なら、極自然な光景なのかもしれません。
それでも、ヨハンは、許せませんでした。
そして、彼が発したのは、
「メールト! 溶ーけーてーしーまーいそうぉおおおおお!」
……「狂乱しているのはお前」だと、指摘されても反論できない、
ヨハンの渾身の歌声でした。
しかし、それとともに、彼は全ての拘束具を破壊したのです。
ヨハンの怒号と共に腕から放たれたブラックドラゴンの波動は、
ルガールとゲーニッツを的確に捉えました。
しかし、二人とも即座に反応し、見事に防御されてしまったのです。
「邪魔しないでもらえますか、ヨハン」
ゲーニッツのサディスティックな視線が、ヨハンに突き刺さりました。
いつもならば、逃げようとするのですが、今は、違います。
一教団の教祖らしい風格と、先程のルガールに引けを取らない、暗澹とした笑みを浮かべ、
そして、半ば侮蔑を込め、このように言い放ったのです。
"――Goenitz, are you afraid?"
すると、風も、殺意も、オロチの力も、嘘のように静まりました。
ルガールは、瞼をしばたたかせながら、
幼子が不思議なものを見つけたときのような顔で、ヨハンを見つめていました。
一方、ゲーニッツも、やはりルガールと同じく不思議そうに見つめた後、
そっと、目を閉じ、
「ここですか?」
と、ヨハンを風で切り刻むことを試みました。
血肉が切られるような音がしました。
「何をするんだゲーニッツ!」
ヨハンは負けじと応戦しますが
「ヨハン、答えなさい。私が何を恐れると? ここにいる気が触れたルガールですか?
それとも、
あ な た の こ と で す か ?」
それを軽く上回るゲーニッツの威圧に耐えられず、小さい悲鳴を上げ、
萎縮してしまいました。
ゲーニッツはそれ見たことかとヨハンの頭を片手で難なく掴み、
「あのルガールの方がいいというのなら、お別れしましょうか。この世から」
「死にたくないです」
ヨハンは涙目になりながら、ゲーニッツに懇願したのでした。
ルガールは、そんな二人を、何とも言えない表情で眺めています。
「さて、ルガール、説明していただきましょうか。何故このようなことをしたのかを」
ヨハンとは打って変わって、ルガールは全く意に介していないようでした。
「説明する気分ではないね」
「では、私の気が済むまで、その穢れた体を切り刻ませてください」
「断る。興醒めだよ。結局君たちはいつも通りだ」
ルガールは、本当に詰まらなさそうに、肩を竦めました。
そんなルガールを見かねて、ヨハンが口を開きます。
「ルガール、本当に君は、私たちの知っている、ルガールなのか?」
ヨハンの質問に興味を示したのか、ルガールは再び、陰鬱な笑みを浮かべました。
「君たちの知っているルガールでなければ、私は何だ? 偽者か?」
「ヨハン、今のルガールは、殺意の波動に侵されているから、ああなっているんですよ」
確かに、ゲーニッツの言う通りなのかも知れませんが、
ヨハンは、釈然としませんでした。
陰鬱な笑みと、不愉快な嗤い声、
存在する真っ赤な右目、黒い服。
子どものような悪意のある態度……。
ヨハンが知っているルガールとは、真逆でした。
「いいじゃないか。≪私≫が誰かなんて。
それに、もうタイムリミットだ。行かなければならない」
「タイムリミット……?」
「ここに居られる時間が、終わるのだよ。
豪鬼、居るのだろう? 出てきたまえ」
ルガールが呼ぶと、ヨハンとゲーニッツの視界の端に、突如、
メイド姿の少女が現れました。
「ごう、き?」
これまた、ヨハンが知っている豪鬼とは全然違う、メイド姿の少女でした。
赤い箒と、腰の大きな赤いリボン、そして、硬い表情が印象的です。
「……あれ? この子、どこかで」
ヨハンが怪訝に思っている横で、ゲーニッツがその少女に挨拶しました。
「またお会いしましたね。まさか、貴方がルガールとグルだったとは」
「は?」
ヨハンが間の抜けた声を出すと、ゲーニッツが説明してくれました。
「ヨハンがここにいると教えてくれたのは、彼女です」
その刹那、ヨハンに欠けていた記憶が、堰を切ったように溢れ出しました。
「……思い出した。私も、その子にここに来るように言われたんだ。
ルガールとゲーニッツが喧嘩しているから、止めてくれと……」
少女は硬い表情を崩しませんでした。
強張っていると言うよりは、不機嫌そうだと言った方が正しいでしょう。
「目的はなんですか?」
少女は答えようとしません。
「だからね、もう答えている時間は無いのだよ」
「ルガール、貴方には聞いていません」
「ヨハンさんの背中は無事ですよ。
あれ、只のマッサージチェアを弄っただけなので、
チューブは刺さっていません」
少女は突如、チューブの件がハッタリだった事を説明し終えると、
それきり、喋ろうとしませんでした。
「……あ、ああ、うん。ありがとう。……待ってくれ、じゃあ、キスは?」
やはり少女は答えません。
途惑うヨハンが面白いのか、ルガールは小さく嗤っています。
「では、≪我ら≫はこの辺で失礼しよう。
君たちが知る、ルガールの体はお返しする」
「やはり偽者? ルガールは無事なのか?!」
「無事だし、……言っただろう、
≪私≫が誰かなんて、どうでもいいじゃないか、と……。
あ。ああ……」
ルガールは何かを思い出したのか、今までとは違った笑顔を浮かべました。
「そう言えばね、≪我ら≫を作った≪おかあさま≫は、
普段は祟り神と畏れられているが、
本来は、≪縁結び≫の神様らしいのだよ。
もしかしたら、それらしき御利益が、
君たちにもあるかもしれないね……?」
しかし、君たちは既に結ばれているので、やはり意味ないか。
その「ルガール」は、言いたいことを一方的に言い終えると、
「豪鬼」と呼んだメイドの少女と共に慇懃なお辞儀をし、
ルガールの体を残して、そこから、消えていったのでした。
ヨハンもゲーニッツも呆けていると、お辞儀の体制のままだったルガールが、
床に崩れ落ちてしまいました。
慌ててヨハンが駆け寄ると、ルガールの髪と肌の色は戻っており、
右目も、義眼に戻っていたのです。
「ルガール、大丈夫か!」
「ヨハン、……私は、何かしてしまったのか?
何か、体から抜け落ちたような感じがするんだ……」
ルガールは、大変疲弊しているようです。
「いや、大丈夫だ、なにも問題ない。」
ヨハンは、只管、無事であることをアピールしました。
ゲーニッツもゲーニッツで、別段、咎める事はありませんでした。
「ルガール、いつから記憶がなくなっているんだ?」
ルガールは右手で頭を抱え、しばし黙り込んだ後、
ゆっくりと口を開きました。
「君たちの仲が余りにも芳しくないから、
縁結びで有名な、雛見沢の古手神社にお参りに行ったんだ。
……それから、思い出せん」
それを聞いたヨハンは恐々と、ゲーニッツは複雑そうに、
互いを見つめ合ったのでした。
["Could you carry the karma?" is End]
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