542 :名無しさん@ビンキー:2010/03/14(日) 04:19:18 0
流れを切ってしまってすみません
いつもいつも不憫なゲニヨハを書いていたせいで……
ラブラブなゲニヨハが……勝手に……

ゲニヨハのホワイトデー&告白話です
なんだか牧師が乙女なんだが、なに、気にすることはない

少しでも姐さん方の暇潰しになりますように……




 ※注意※

・暴l君lのl嫁l探lし及び鍋動画ベースです。元動画との関係は一切御座いません
・キャラ崩壊等の表現があるので、苦手な方はリターンプリーズ
・ゲニヨハです。少女漫画のようなゲニヨハです
・牧師様に乙女成分が加えられています(当社比)
・生温いですが性描写あり。苦手な方はご注意を
・色々おかしな部分があるかと思いますが、「何、気にすることはない」と思われる方のみどうぞ





【三月十四日】



二月、カレンダーを見るのが苦痛だった。三月に入ると、正視に耐えなかった。
温かい紅茶に口をつけながら、ゲーニッツは何とも言えない気持ちで目を伏せた。朝食を食べる前だというのに胃が痛い。
昨年の二月十四日、思い人への告白は果たしたものの、結果ははかばかしくなかった。
関係が深まるどころか、修復不可能なのではないかと思われるような、深い深い、底無しの溝をこしらえただけに終わった。
慈しみ育てていた薔薇の蕾を剪定してしまったような気分だ。
折角の紅茶の清々しい香りも、ダージリンの仄かな渋みも、少しも楽しむことが出来ない。
ゲーニッツは小さな溜息を吐き、面倒くさそうにスクランブルエッグに手を付けた。
昨年の三月十四日、思い人からの返事は無かった。擦れ違ったにも拘わらず、だ。挨拶も、怯えたような表情も、短い悲鳴も、ただの一言もなかった。
思い人はどこか思い詰めたような硬い顔をして、こちらを一瞥することもなく通り過ぎたのだった。それこそ風のように。
瞬間、胸が張り裂けそうになった。
苦しさと、悲しさと、身を切られるような辛さと狂おしいほどの愛憎が爆発的に膨張し、全てを破壊したい衝動に駆られた。
あの時、あの場所にいた人間全てが死ねば、きっと思い人も自分を見てくれただろう……。
それから、ヴァレンタインやそれに関連する行事を避けるようになった。何の反応も返ってこない、侘びしく物悲しい思いをしたくなかった。


何の味もしない卵の塊を洗面台で吐き捨てた後、ゲーニッツは青い祭祀服に袖を通した。冷たい布の感触が何故だか無性に心地良かった。
静かな朝だった。静かすぎる朝だった。レlアlスはいない。
彼女は、旅行先の温泉で親しくなった桃色の髪の少女と泊まりがけで遊びに行っているのだ。帰宅予定は明日十五日。
余程楽しみにしていたのだろう、出発の前日は幼い子どものように眠れなかったらしい。
目の下にうっすらと隈を浮かべながらも、彼女は「行ってきます」と元気よく出かけていった。太陽のようにきらきらと輝く笑顔が眩しくて、少しだけ目を細めて見送った。
取り留めのないことを考えながらブーツを履き、摺り切れた古い聖書を片手に家を出た。教会まで三十分程の道のりをゆっくりと歩く。
はあ、と白い息を吐きながらゲーニッツは思う。愚かしいと。ただひたすらに、直情的に、絶対的に、盲従に。
自分は何だ? 畏れ多くも地球意思であるオロチの思惟を受け継ぐ代行者だ。唾棄すべき人類に、憐憫の情など、恋慕の情など無価値に等しいではないか。愚の骨頂だ。
甚だ、愚かしい。
ふと思い出した聖書の一文を、自嘲気味に呟きながらゲーニッツは石畳の道を歩いた。
「背いたわたしの罪は御手に束ねられ軛とされ、わたしを圧する」
思い人への、切なる熱情。それは我が神への背信だ。嗚呼、愚かしい。
また別の一文が脳裏を過ぎる。
「求めなさい。そうすれば、与えられる。探しなさい。そうすれば、見つかる。門を叩きなさい。そうすれば、開かれる」
はて、どこで見た文章だろうか……。――……嗚呼、マタイによる福音書か。
「だれでも、求める者は受け、探す者は見つけ、門を叩く者には開かれる」
ゲーニッツは微かに笑った。嘲弄と自嘲が複雑怪奇に絡み合った、見る者の背筋を凍らせるような笑みだった。
戯言を、空論を、と苦々しく噛み締めながら、真鍮製の黒い門を潜り抜ける。
暦の上では春だというのに、真冬並みの寒さだった。煉瓦敷きの道にはうっすらと霜が降り、辺りを微かに白く染めていた。
薄い氷を踏みしめながら、何気なく椿の木立を見遣る。教会に庭にひっそりと咲く花は零れんばかりに花弁を広げ、艶やかにその美しさを誇り、清楚な色香を放っていた。
得も言われぬ赤色を眺めていると、一瞬だけ思い人の姿が心に浮かんだ。胸が、苦しい。苦しい。苦しい……。
逃げるように目を背け、玄関に視線を変えた。
目を、瞠る。
赤い髪、赤い服、白い肌、赤にも緑にも黒にも輝く、宝石のような瞳。
何故、門を潜った時に気が付かなかったのだろうか。地味だからだろうか。それとも、無意識のうちに避けていたのだろうか。まさか、そんな。
黒いコートに身を包んだ思い人――ヨハン・カスパールその人が、所在なさげに立っていた。否、立ちすくんでいた。
薄紫色の豪奢のコートも似合っているが、シンプルなデザインのアルスター・コートもよく似合っていた。
身体の美しい稜線を余すことなく見せつける服装に、ゲーニッツの胸は跳ね上がった。
きちんと留められたボタンを毟って、赤い服を引き千切って、白い首筋に噛み付きたかった。外面にはおくびにも出さないが。
低い階段の前で、足を止める。ヨハンは肩をびくりと震わせた。戸惑ったような顔で二、三秒視線を彷徨わせていたが、諦めたようにゲーニッツを正面から見据えた。
「……」
「……」
「……」
「……おはようございます」
先に口を開いたのはゲーニッツだった。
冷淡な笑みを浮かべると、ヨハンの顔が白を通り越して青くなった。困ったと言いたげに薄赤い唇が震えている様が、酷くいじらしかった。
だがそれ以上に、ヨハンが憎らしかった。抑えがたい怒りが沸き立った。滅茶苦茶に傷つけて遣りたかった。
「返事も出来ないんですか? それとも、私如きに挨拶する必要はないと?」
これだから教祖は、跪かれることに慣れた人間は、と冷ややかに吐き捨てると、ヨハンの目元にさあっと朱が差した。怒った訳ではない。泣きそうなのだ。
「……あ、あの……」
何か言おうと、言葉を紡ごうと必死に努力しているヨハンの横を摺り抜けて冷たいドアノブに手を掛け、ゲーニッツは無情に言い放った。
「邪魔です、消えなさい」
僅かな隙間からするりと滑り込ませ、乱暴に扉を閉めた。ばあああああん、という低い音が高い天井に反響して、耳障りな音が空気に溶け込んでいった。
振り返ることもしなかったと、ぼんやりとゲーニッツは思った。よろよろと覚束ない足取りで祭壇脇にある控え室に入り、崩れ落ちるように椅子に座り込んだ。
泣いただろうか、それとも呆れただろうか。怒っただろうか。悲しんだろうか。
青褪めた白い顔を思い出しながら、そろりと自らの下肢に手を伸ばす。布越しでも分かるほど、硬くなっていた。
「……っ、ふ」
あの頬がほんのり桜色に染まったら、薄い唇から吐き出される吐息が熱く湿っていたら、細かな震えが快楽によって引き出されたものだったら……。
「ヨ、ハン……」
もどかしい感覚が腰を舐めていく。ベルトを緩め直に触ると、とろりとした粘液が掌を覆った。嗚呼、何と浅ましい。
「……く、うっ、ふ……」
永遠に手に入らぬだろう宝物を欲望で汚しながら、ほんの少しだけ、泣いた。


          ※※※


正午の礼拝を終えて昼食を取ろうとした時、意外な客が訪れた。いつぞやの宴会で出会った楓だった。
「おや、貴方は……」
「お久しぶりです、ゲーニッツさん」
「本当にお久しぶりですね。――……それで? 今日はどのようなご用件で?」
こぢんまりとした聖堂の中で、長椅子に並んで腰掛けながらそう切り出すと、楓の顔から笑みが消えた。
あからさまに眉を顰め、どう言ったものかと思案に暮れているような面持ちだった。
「私は牧師ですから、守秘義務はきちんと負いますよ?」
冗談めかして言うと、楓は悲しそうに目を伏せた。ゲーニッツはそれを黙って見守った。暫くして、楓はぽつりと呟いた。
「ヨハンさん、を……」
「ヨハン、を……?」
予想外の名前に、ゲーニッツは反射的に身を強張らせた。それは緊張でもあったし、密やかな嫉妬でもあった。
他の人間がその名を口の端に乗せるのは、あまり良い気分ではない。ずっと、自分だけが甘やかに囁いていたいのに……。
「泣かせて、しまいました」
「……話が、見えないのですが」
懺悔のつもりなら神父を当たってくださいと言うと、「いえ、貴方に聞いて頂きたいんです」と楓は食い下がった。
正直、聞きたくなかった。自分以外の人間との遣り取りなど、妬ましさを感じるだけだ。それにもともと、牧師は神父と違って赦しの特権を持っていない。
見当違いも甚だしいが、楓の目は真剣だった。磨き上げられた薄刃のような、青みがかった黒い瞳がゲーニッツを離すまいと見詰めていた。
やれやれと胸中で溜息を吐きながら苦笑して見せた。
「そこまで仰るならば」
どうぞ、と手で促すと、楓は静かに語り始めた……。


昨夜遅くにヨハンさんから電話を貰ったんです。切羽詰まった調子で、「チョコレートの作り方を知らないか?」と。
ホワイトデーのお返しですか?
そう尋ねたら、困ったような、何処か幸せそうな声で「随分と遅くなってしまったんだがな」って仰るんです。
何でも、告白されたのは去年のことだったそうで……。きっと怒っているだろうなって。
でも、時間は掛かったけれどようやっと、好きだって気持ちに気付くことができて、告白の返事がしたくて、どうしようもなくて。
ホワイトデーに、チョコレートを作って渡そうと考えられたんだそうです。でもフェルナンデスさんや咲夜さんに訊くのは恥ずかしかったみたいで……。
それで、僕にお電話してくださったそうです。
ヨハンさんは、頑張ってました。
湯煎も、成形も、包装も、全部お一人でされました。不格好だって仰ってましたが、愛情がいっぱい詰まっているのが伝わってきました。
完成したのは殆ど朝方で、ヨハンさんはコートだけ羽織って、「返事をして、くる」と言って、僕の家を後にしました。
送ろうとしたんですが、「気持ちを落ち着けたいから」って、歩いて行かれたんです。
郊外にある教会に行くんだと、恥ずかしそうに、でも嬉しそうに仰ってました。
それから三時間くらい経って、電話が鳴りました。ヨハンさんでした。泣いていました。聞いているこっちまで悲しくなるような涙声でした。
「駄目だった」、「嫌われた」、「当然だろう私みたいな地味な人間を本心で愛している筈ないのに」って泣いていらっしゃいました。
一生懸命、僕は励ましたんです。でも、……。


そこで言葉を切って、楓は微かに笑った。それは寂しそうな、恨むような笑顔だった。
「僕がどんなに慰めたって意味なんかないのに。ただ徒に泣かせてしまいました」
自嘲めいた楓の言葉は、既にゲーニッツには届いていなかった。
世界にヒビが入って、ぐしゃぐしゃと歪に砕けていく。何も聞こえない。何も見えない。何も感じられない。何も要らない。
ヨハンがいれば、いい、のに。
胸が焼け付くように痛い。苦しい。言葉がでない。息が出来ない。苦しい。赤が見えない。綺麗な、綺麗な、優しい、赤が。
「フェルナンデスさんにお電話したら、まだ帰っていらっしゃらないようでした」
聞いていられなかった。耐え難かった。
俄に立ち上がり、ゲーニッツが転げるようにして外へ飛び出した。寒風が容赦なく肌を刺す。だが、それに構っている余裕はなかった。
何処へ行ったのだろう。何処にいるのだろう。外だろうか。それとも室内だろうか。何処にいる? 何処に、何処に……。
ただひたすら走り回った。思い当たる場所は全部回った。ルガールに電話すらもした。だが、見つからなかった。何処にもいなかった。
日が暮れていた。
途方に、暮れた。
ゲーニッツは膝から崩れ落ちそうだった。焦燥と自らに対する怒りと、真っ黒な絶望がひたひたと押し寄せる。
何処にいる? 何処に、いる?
ゲーニッツは聖堂の長椅子に腰を落とし、両手で顔を覆った。誰でもいい。どうか、思い人の居場所を教えて欲しい。
縋るように顔を上げると、大きなステンドグラスが目に入った。赤、緑、青、黄、白、紫……。様々な色の後ろに、影があった。
ゲーニッツは吸い寄せられるようにそちらへ歩み寄り、透明な硝子越しにそっと盗み見た。
息が詰まった。
探しあぐねていた最愛の人の、死人のように青白い顔色がそこにはあった。


          ※※※


「お砂糖、もう少し足しましょうか?」
「……」
「角砂糖、もう一つ入れますね」
「……」
「何か作りましょうか? お腹減ったでしょう?」
「……」
「ああ、何か摘めるものを……、アップフェルシュトゥルーデルでも切って、」
「結構」

囁くような、小さな声だった。それで十分だった。
「紅茶を頂戴したら、すぐ、帰る」
ぽたりぽたりと、血が零れるように呟くヨハンの姿は、悲愴なまでに痛々しかった。
頬は血の気が失せ、目は虚ろであらぬほうをぼんやりと見詰めていた。決して、ゲーニッツに視線を合わせなかった。
それでも良かった。ただ、同じ空間で、息を吸えることだけでも今のゲーニッツには幸せだった。
「……しかし、何か口にした方が」
「……いい。食べるもの持ってる、から」
そう言ってヨハンは、コートのポケットから小さな箱を取り出した。焦茶色の包装紙に、光沢のある青いリボンが、不器用に結ばれていた。
嗚呼、と胸が切なくなる。
小さな箱は、かなり歪んでいた。ポケットに長時間押し込んでいたせいだろう。
ヨハンは無言でリボンを解いた。次いで包装紙を剥ぎ取り、蓋を開けた。その瞬間、チョコレートの甘い香りが、空気に染みいった。
微かに香る洋酒の香り。小さな小さな、トリュフだった。
それを無造作に摘み上げて、ヨハンは口に放り込んだ。もぐもぐと口を動かして、ごくりと飲み干したその様は、処理と言うのが相応しいような食べ方だった。
「待ちなさい」
ゲーニッツは静かにヨハンの顔を見詰めた。ヨハンは一瞬だけ視線を彷徨わせたが、結局は足元に落ち着いた。
それを寂しく思いながら、ゲーニッツは言葉を続けた。
「そのチョコレートは、貴方が作ったと聞きました」
「……」
「私に、くださる為に」
「……」
「私にもください」
「……貴方の気持ちを、私にください」
「……ください、ねえ、ください」
「……」
「後生ですから」
「……」
「ヨハン……」
「もう、必要じゃない、から」
ヨハンはそう呟いた。もう、お前に渡すものではないから、渡す必要はない、と。
「断ります」
ゲーニッツの声は冷たかった。踏みしめられた雪のように黒く、硬く、強張っていた。
「貴方が私のために作ってくださったのだから、私が貰います。貴方の気持ちも、私が貰います。私だけのものです!」
半ば自棄になって、ゲーニッツは絶叫した。
「貴方は私ものです! 私だけが貴方の気持ちを受け取る資格があるんです! こんなに、こんなに……!」
涙が喉に張り付いて上手く喋れない。涙でヨハンの顔が見えないのが苦痛だった。子どものように袖で乱暴に拭いながら、叫び続けた。
「愛しています! 好きなんです! 貴方がいないと夜も明けないんです! 気が狂いそうなくらい愛しいんです!」
叫んで叫んで叫んで叫んで叫んで叫んで、泣き喚いた。
泣き過ぎて声が出なくなった。どうしようもなく居た堪らなくて、背を向けた。
不意に、冷たい手がそっとゲーニッツの肩に触れた。
弾かれたように振り返ると、涙で顔をぐしゃぐしゃにしたヨハンが、微かに笑っていた。


「嫌われたのだと、思った」
「……虫の居所が悪かっただけです」
「でも、本当に悲しかった」
「……すみません」
「……もう、いい。私も、自分の気持ちを伝えるのが遅かったんだからな」
ゲーニッツ宅の、自室のベッドに二人で腰掛けながら、つらつらと喋っていた。
あの後、驚くゲーニッツの手を引っ張ったのはヨハンだった。泣き顔ではあったが、何処か吹っ切れたような爽やかな顔をしていた。
歩いて三十分の距離を、ものの十五分で帰ってきた。
玄関のドアを閉めた途端、熱い唇が押しつけられてゲーニッツは面食らった。だがそれも束の間で、激しく舌を絡ませ、吸い上げた。
いつぞや触れた通り、ヨハンの唇は甘かった。
チョコレートの甘さやアルマニャックの芳醇なまろみとはまた異なる甘さは、神経を狂わす毒ではなかろうかと疑いたくなるほど甘かった。
ふ、と唇を離し、互いに忍び笑いを漏らす。まるで子どものようだった。
互いの手を取り合って寝室へ移動し、ゆったりと腰を据えたのが、一時間前の出来事だった。
「まだ、少し複雑だけど……私はお前が、ゲーニッツが好きだ」
「何です、少し複雑だというのは」
「だって、すぐ苛めてくるから……」
語尾に怯えが滲んだのを見て取り、ゲーニッツは深い溜息を吐いてヨハンを抱きすくめた。
驚くヨハンの耳元に唇を寄せ、そっと囁く。
「……貴方が、好きだから構いたくて仕方ないんです」
「……そっ、そんなっ!」
「今だって……」
上体をゆっくりと倒して、ヨハンの身体をベッドの上に縫いつける。目を瞬かせるヨハンの頬に手を添え、
「愛したくて仕方がないんです」
と口吻を落とした。


「ふ、んんっ! あ、ひゃ……ん! や、やぁ……ん!」
「っ、そんなに絞め詰めないでください。動けないでしょう?」
「だ、てぇ……あっ!」
「だって……なんです?」
「き……ぃ、すぎ……て」
「聞こえませんねぇ。もう少し大きな声で?」
「気持ちっ、良すぎ……る、からぁ……」


挿入の合間にそんな睦言を吐かれ、ゲーニッツは満面の笑みを浮かべた。腕の中の恋人が、愛しくてならない。
しなやかな身体を淡い桜色に染めて、目を真っ赤にさせながらほろほろと涙を零しながら身悶える姿は、息を呑むほど艶やかだ。
腰を前後に揺さぶりながら、隅々に唇を落とし、痕をつけていった。鎖骨、首筋、肩、顎、耳殻、胸、鳩尾……。
まだまだ足りなかったが、妖艶に乱れ狂うヨハンを愛することの方が大事だった。
反り返ったヨハンの性器を包み込むように擦り上げながら、容赦なく腰を打ち付ける。ぐちゅぐちゅと卑猥な音がベッドの軋みと重なって、悲鳴のように聞こえた。
嫌々するように顔を左右に振るヨハンが可愛らしくて、ゲーニッツは速度を上げた。もっと、自分に溺れた顔が見たかった。
目も眩むような快楽に翻弄されるヨハンの顔は何処か恍惚の色が滲んでいて、薄赤い瞳もとろりと蕩けていた。
砂糖菓子のように、可愛い人だと思った。もっと、もっと、甘ったるい顔にさせたかった。
「ほら、ここを突かれると気持ちいいでしょう?」
「ふあっ! んぅ……! は、あ! ああっ!」
「前立腺をね、こんな風に擦ったら、」
「――! や、ら、めぇ! もう、も、やっ、やああっ!」
「ほら……出してしまいなさいっ!」
一際奥を貫いた瞬間、ヨハンの身体が強張った。ひくり、ひくりと切なそうに震え、ぐったりと弛緩した。二人の腹の隙間を熱い精液がだらだらと伝い落ちていく。
ヨハンは恥ずかしそうに目を伏せながらも、満ち足りたような表情でゲーニッツの肩に顔を埋めていた。
腹の中に注ぎ込まれた感覚は異様としか言いようがなかったが、それでも気持ちよかったし、嬉しかった。
はあはあと肩で息をしながら、眼前の鎖骨にそっと唇を寄せた。
「ねえ……ヨハン」
荒く息を吐いていたゲーニッツが徐に口を開いた。
「美味しいですよ。貴方も、チョコレートも」


そう言って、小さなトリュフを口に含んで笑った。

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