136 :実況しちゃダメ流浪の民@ピンキー:2011/06/04(土) 11:00:45.23 0
>134 乙です

流れと関係無いというか、去年のネタがようやく書き上がったので投稿
URL:ttp://www1.axfc.net/uploader/File/link.pl?dr=2433104491&file=File_63999.txt

タイトル: 前略、お母様
PASS: mugen
ネタ元&設定等: 8スレ目、DIOとザッパのお買い物
カップリング:DIOザパ
性描写の有無: 全年齢
内容注意: 片思い風味?かき氷シロップ並の甘さだよ!

純情片思いヤンデレ片思い鈍感片思い・・・片思いとはいいものだ





DIOとザッパの短いお話。







【あの夏の日僕は平穏な日常をこよなく愛する善良で非力な一般市民で、彼は非日常と嘘みたいな全てを塊にしたような人間ではない何かでした】




 雲ひとつ無い天は高く、日差しはまるで針の束のように皮膚を刺してゆく。命を燃やす蝉の声が雨のように降り頻り、それが本当の雨であったらとザッパは思った。
 普段ならば思わず伸びをしてしまうほどの陽気も、今はただ心に暗雲をもたらす要因でしかない。先ほどからザッパは気が気ではなかった。決して気温だけにではなく流れる汗を拭いチラリチラリと隣を伺うと、そんな彼の様子に業を煮やしたかDIOがついに溜息を漏らした。

「大丈夫だと言ったはずだろう」
「いや、で、でも…」

 DIOは吸血鬼である。十字架に追われようが、樫木の杭で心臓を貫かれようが死ぬことはないが、この世界に存在する多様な吸血鬼と同様日光は最大の弱点であるのだ。だが、この溶けるような天気の下で持っているものといえば華奢な日傘の一つ。これで心配するなというほうがおかしいだろう。

「直射日光――いや紫外線さえ浴びなければ…む、ザッパ!ここに入るぞ」
「へ?…あ、ああ、はい」

 当の本人はといえばザッパの心配も虚しく、先ほどから会話さえも途中放棄して目に付いた店へ入っては服や装飾品を物色するという行為を繰り返していた。勿論ザッパにしてみれば店内に居てもらった方が安心するのだが。本人がそう言う上に見たところ何の問題も無いのだから、成る程、やはりザッパの杞憂であったのかもしれない。

「早くこっちへ来い」

 お前のサイズが分からん。と眉を顰めたDIOに苦笑し、ザッパは店員に荷物を預けると着せ替えごっこ気分のDIOへ急いだ。
 性格も容姿もまるで違う二人ではあるが、なぜかことファッションに関してはこれ以上無い、というほどにウマが合う。更にDIOは自分だけでなくザッパに服を見立てることに楽しみを見出したのか、最近ではこうして彼を連れ回すことも少なくなかった。

「フフン、よく似合っているじゃあないか。まあ…このDIOが直々に選んでいるのだから当然のことだがな!」
「本当だ!素敵ですねぇ!」

 ザッパも質の良い服が手に入るのは嬉しい上、感謝するとDIOもまた得意げに喜んでくれるようなので何一つ不満は無い。彼らが店員の微妙な視線に気付くこともないが。



 ありがとうございました。という熱気の足りない声を背中に聞きながら、ザッパは荒い息を整えるように両手いっぱいにぶら下げた紙袋を握り直した。たかが布だが集まればやはり相応に重い。
 DIOは手伝う気など欠片もないのか、これから入る店をまた品定めしているらしかった。彼が他人の話を聞かないことなど最早いつもの事であるのでザッパが言うべきことは何も無い。どうせ言ったところで一笑に付されるのがオチだ。
 だらだらと汗が流れ落ちる。頭のてっぺんからじりじり焼かれる。袋の持ち手が肌に食い込んで、痛い。必死な彼を嘲笑うかのように蝉が囃し立て、いい加減にしろと叫びたくなる。
 なんで今日に限って出掛けようなんて、と顔を上げれば、丁度こちらを振り向いたDIOと目が合った。そこでふと気が付く。日のあるうちに共に出掛けるのは、これが初めてではなかったか。

「――ザッパ?」

 立ち止まったまま動かないザッパへ訝しげに掛けられた声へ、慌てて取り繕いヘラリと笑う。だが内心は平素にいられない。己のために、大敵ともいえる日の下へと出てきてくれたのだろうか。一度そう考えてしまうと、いつもの光景さえも全く違う意味のあるものに見えてしまうのだから、我ながら実に単純だと思った。暑さなど微塵も吹き飛んでしまったらしい。

「…ザッパ、私の話を聞いていなかったのか?」
「へ?」
「あれは何だ」

 そう言ってDIOが指したのは、どこにでもあるような一つの屋台。「氷」の一文字が風に揺らぎ、傍らに下げられた風鈴にぶつかって涼やかな音色を奏でていた。


 誂えられたような木陰のベンチに腰を下ろし、安っぽいプラスチックの容器から雪のように細かく削られた氷を掬い上げた。紅いシロップのかけられたそれは、不思議なことにDIOの手に渡った途端に別のものに見えてしまう。別のものというのは…まあ、とどのつまりは吸血鬼の主食だ。最後まで言わせないで欲しい。怖いから。

「なんだ、つまらんな…甘いだけか」
「いやいやいやシロップですから!」

 冗談だ、と。まるで冗談に聞こえないことを呟きながらDIOは笑った。普段の口の端を吊り上げるような皮肉のこもったものではない、フと零れた自然な笑み。それは氷が溶けるように一瞬の後に消えてしまったものの、ザッパの視線に杭を打つには十分すぎるものであった。

 その瞬間、あれほど喧しかった蝉の声は掻き消え、何も聞こえなくなる。否、何も耳に届かなくなった。
 独りだけの静寂の中、DIOが氷を崩す涼やかな音だけが響き、そして徐々に己の心臓の音が聞こえてくる。ドクンドクンと脈打つそれは蝉に代わって喧しい。聴覚の優れたDIOにはこの大きな鼓動が聞こえてしまうのではないかと、そう思うと体中を冷たい汗が伝った。
 
 崩した氷を、口に運ぶ。僅かに俯いて目を伏せる。その横顔に、目を奪われた。



「――…?」

 何も言葉を発しなくなったザッパを訝しんだのであろうか、DIOが顔を上げた。そうして微かに首を捻り、片眉を跳ね上げると、彼は声のトーンを落として口を開いた。
 …ああ、紅い。

「ザッパ、お前まさか風邪でもひいているんじゃあないだろうな?」
「…、…ぇ…」

 緊張に掠れて裏返った声が漏れる。それを耳聡く聞いたDIOはやはりな、と鼻を鳴らした。


「顔が真っ赤、だぞ」


 甘い声を発するたび、唇から白い牙が覘く。その奥にちらり、紅い、舌。
 どうにも直視していられなくなってザッパは頭を抱え己の膝に突っ伏す。隣から少し焦ったようなDIOの声が聞こえた気がしたが、最早それすら、彼の耳には届かなかった。




 前略 お母様
 どうやら僕は恋してしまったようなのです



(END)

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