184 :名無しさん@ビンキー:2010/03/05(金) 00:14:10 0
いつも沢山の萌えをありがとうございます。
スレに色々感化されつつ、バルジャギなSSが書けたので、投下させてください。
ジャギバルを狙うジャギ様が空回ったりラブラブしたりする話です。
エロ、師匠トキ要素ありで、激流に身を任せ同化したらこうなりました。



 
萌えが萌えを呼び、つい書いてしまったバルジャギSSです。
長い上にギャグになりきれてないギャグ風味。
下記の項目がNGな方は閲覧をご遠慮くださいませ。

・妄想、捏造、別人オンパレード
・ジャギバルを狙うジャギ様
・でも、ジャギ様が一級フラグ折り職人
・師匠トキ(トキ師匠?)要素
・男性同士の性的行為(バルジャギのみ)
・トキがオトメン
・普通にジャギ様とバルさんが同棲してる


すべておkな方はスクロールをどうぞ。















【1000の祈り(5スレ的な意味で)】





シーツに頬を擦り付け、ジャギは荒い呼吸を繰り返していた。
脈打つ欲望から放たれた熱が重い、腹の中を満たす熱に筆舌し難い居心地の悪さを覚えた。
その居心地の悪さを何とか払拭しようと身体を捩ったが、ゴリ、と性腺を押しつぶされて喉の奥から掠れた悲鳴が漏れるだけに終わる。
上から押さえつけるようにして組み敷いているバルバトスの汗が、剥き出しの胸板へ落ちる。
過敏になった身体はそれだけの刺激すらも快楽に変えて背筋が粟立ち、内側の肉が痙攣した。
バルバトスは貪欲に締め付けてくる反応を笑う。
燃えるほどギラついた瞳でジャギを視姦しながら、殊更緩慢な動作で腰を引いた。

「ぅぐ…ッ…、あ…」

ズリズリ、と生々しい音を体内に響かせながら長大な楔が内壁を詰り、ジャギは呻き声を漏らす。
緩んだ秘所から注がれた白濁が逆流し、後孔を伝いシーツを濡らした。
それでも後孔の肉は繰り返された摩擦に熟れて、唇を突き出すようにバルバトスの熱に追いすがる。
頼りなく震える脚を捕らえられると、今度は大きく足を広げられた。
筋肉が引き攣り、だるい足はもがくことすら出来ずにバルバトスの肩に担がれる。
腰が僅かに浮き上がると、今度は獣のように鋭い犬歯が首筋に食い込んできた。
折り畳まれる身体が痛い、深くまで穿ってくる奥底から焼ける。
脳裏で閃光が走りまわり、その度に意識を失いそうになった。
しかし、意識がフワ、と浮き上がると即座に突き上げられて覚醒させられた。
どんな荒々しい刺激であっても、全てを愉悦に変換してしまうジャギは快楽と屈辱に涙を浮かべた。

「―――…ちくしょぅ…」

悪態すら呼吸に阻まれて力を帯びず、ひたすらに弱弱しい。
バルバトスは涙と熱に灼けた目元へあやすように唇を寄せる。
常の貪るような荒々しい口付けとは違い、精神まで侵食するように酷く穏やかで、思考を霞ませる。
捕食的で暴力的なキスに慣れたジャギにとって、触れ合うだけのキスは羞恥心を掻き立てられて苦手だった。
そんなことは百も承知なのか、バルバトスは悪態を吐いた唇を優しく塞いでくる。
心の裡まで見透かされ、バルバトスに慣らされているジャギはせめてもの反抗の証として唇に歯を立てた。
ギリ、と強く噛みつき、僅かに皮膚を噛み切る。バルバトスの血は熱く、獣のような味がした。

「―――――ふ…、ぅ…ァ…ッ」

バルバトスは自らの血を舌で嬲ると、そのまま口付けを深めジャギの口腔へと注いでいく。
お互いの舌の上に血の味が広がり、絡ませるたびに新たな血が注がれた。
高まったまま、息すら整っていないのに深い口付けを与えられ、ジャギの視界が歪み、像が崩れていく。
苦しい呼吸を訴えるようにバルバトスの肩へと爪を立てるが、一瞥を向けただけで黙殺された。
皮膚に食い込むほど強く爪を立てたのに、屈強な身体はびくともしない。うっすらと血で爪を汚しただけだった。
己の無力を感じ取り、肩に掛けた手が力を失いシーツへと落ちると、重なった唇はようやく離れた。

「は…ァ…はッ…く…はぁッ」

肩で息を繰り返すジャギを低く笑うと、バルバトスは見せ付けるように舌で唇の傷を抉って見せた。
必死に息を整えていたジャギはうっかりその動作を見てしまい、身体の中心を電流が駆け抜ける。
身体中の血が中心に集まり、今にも爆ぜてしまいそうだった。
文字通り恐ろしいほどの色香を放つ凶悪な恋人は血に濡れた唇を弧に歪ませて口を開いた。

「………煽ったのは、お前だ」

反論を許さない強さでの宣言の後、ジャギは再びベッドへと縫いとめられた。



***



「――――――っちくしょぉおおおおッ!!」

日の光差し込む寝室にジャギの絶叫が響く。
すっぽりとシーツに包まり頭を抱えているため声は少しくぐもっていた。
それでなくても昨夜散々啼かされた後遺症で喉がヒリヒリしているのだが、叫ばずには居られない。
朝っぱらから騒がしくすると、短気なバルバトスにワールドデストロイヤーを喰らう可能性が高いが、現在寝室にはジャギしかいない。
腰の立たないジャギを寝室に残し、朝食作りのためにキッチンに向かったのだ。
しかも寝室から出て行く際に、昨夜さんざん汚したシーツを回収し、清潔なものをジャギへと投げていった。
回収されたシーツはバルバトスの手によって洗濯機の中へと突っ込まれているはずである。
普段はジャギがしている事だが、酷くされた翌日は元凶であるバルバトスがしてくれる。
腑抜けた甘ったるさじゃねぇか。と突っ込みたい気持ちは山々だが、バルバトスなりの優しさだと思えば、恥ずかしさと悔しさと居た堪れなさでガロン単位のガソリンを燃やしたくなる。
ジャギは枕を拳でドスドスと殴りながら恨みがましい呻き声をあげた。

「今度こそ…今度こそはと思ってたのに……あの野郎…ッ!!」

叩かれた枕から羽毛が散り、僅かな風に煽られてシーツへと落ちる。
剥き出しの肩にもそれが落ち、まだ血膜の張っていない歯形に触れて熱が上がる。
羽毛の量を半分ほどに減らした辺りでジャギは暴れ疲れたように、羽毛が飛び出た枕へと顔を埋めた。
触り心地の良い布地に身体を預けると、傷が擦れて引き攣るような痛みを感じた。
その痛みはすでに慣れたもので、全身が疼くように痛むがジャギは眉の一つも動かさない。
白が血に汚されていくのを眼の端で捕らえながら、緩慢な仕草で瞼を閉じた。

骨も残さない勢いで自身を貪る男を、今度こそは味わえると思ったのに。

無音の呟きが寝室へと落ちる。
ぐしゃぐしゃと鼻先を枕に押し付けて、そのまま盛大な溜息を吐く。
痛む身体以上に忌まわしいのは、実現しない願望だ。

「―――くそぅ…」

瞼の裏は闇が広がるばかりの光景なはずなのに、その中でさえバルバトスを見つけて悪態をついた。
ジャギを組み敷いて、見下ろし、ギラギラと光る紫色の眼が欲を孕んで生々しい。
昨夜見たままのバルバトスの姿に、ジャギは苛立ちを募らせた。
どんなに傲慢な笑みを浮かべていようが、ジャギの身に刻印を刻み、流れた血を唇に付けていようが、端整な容姿は崩れない。
壮絶な色香を放ち、ジャギの全てを壊して喰いつくすバルバトスを見下ろしたい。
あの硬いくせに妙に細い腰を穿ち、低音が枯れるまで鳴かせてみたい。
不屈の精神を踏み躙りたいという欲が、ふつふつと沸き起こって、ジャギの中で確かな形を形成する。
お高く止まった傲慢な恋人を引き摺りおろして、思う存分に踏み躙って詰って貫きたい。

「ぐちゃぐちゃに犯してェ…」

不穏な願望が思わず口から零れる。
詰んでると言わざるをえないダイヤグラムと、自分よりも短気な性格のお陰でジャギの願望が実現したことは一度も無い。
いつも、今日こそは!と挑んで掛かるが、気がつくと力ずくで押さえつけられて、なし崩し的に雪崩れ込んでしまう。
バルバトスは一度エンジンが掛かるとブレーキが消滅してしまうようで、反論しようが抵抗しようが形勢逆転など夢のまた夢だ。
と、なれば、ジャギが逆転を許さない勢いで押し進め、さらにバルバトスの反撃を許さず、看破するしか方法はない。

「……無理だろ」

思わず呟いた言葉は予想以上に的を射ており、ジャギの額に青筋が浮く。
どうしても、あの傍若無人・唯我独尊・俺の後ろに立つんじゃねぇ!を地で行くバルバトスをどうにか出来るとは思えない。
北斗神拳に物を言わせて秘孔のひとつでも突けば勝機はあるが、いかんせん、秘孔を突く前に押し倒されている現状である。
仮に突けたとしても胴体を何枚剥がせるかと言うレベルだ。
とりあえずバルバトスが一指も動かせないような状況でなければ願望の成就は難しい。
無論、そんな都合の良い状況なんぞ未だかつて見たことはないが。

「―――……いや、待てよ…?」

唐突な閃きに、ジャギは枕に埋めていた顔を上げた。
一指も動かせない状況。何もなければ、そんな状況は起こりえない。
バルバトスは鬼のように――いや、鬼よりも――強いのだ。
当然、気配にも敏感で、バトルを仕掛けたときには背後を取ることすらままならない。

けれど、油断しているときなら、可能性は0ではない…はずだ。

ジャギは枕に顎を乗せ、窓から零れる陽光に眼を細める。
あの、獣のように気配に聡く、何者にも屈しないバルバトスが気を緩めるのはどんなときか。
眠っているときでさえ、ジャギの僅かな身じろぎ一つで何故か起きるような男だ。
寝込みを襲うのは寧ろリスクが高い。そこまで考えて、ジャギはふと気付く。
激しく交じり合い、体力と気力を奪われた今のジャギならば歯牙にもかけていないはずだ。
……元々、かけられていない気もするが。

「………」

ジャギは細めていた眼を更に眇めて、おもむろに寝台から起き上がる。
軋む身体を押さえつけながら、寝台の下に手を突っ込み手馴れた長い獲物を取り出した。
重さを確かめるように取り出した鉄パイプを何度も握りなおして確かめると、枕元に置いておいたメットを引き寄せる。
眼に物見せてやらぁ…と口の中で呟いて口元に笑みを刻み、覚束ない足取りで寝室を後にした。



***



ジャギがキッチンを覗くと、見慣れた長身が背中を向けていた。
長い青銀の髪を一つに纏め、器用にフライパンを揺すると狐色に焼けたオムレツが宙を舞う。
チラチラ見え隠れする項にジャギは喉を鳴らすが、鼻腔を擽る匂いに、空腹を訴える音が腹から漏れる。
その音が聞こえたのか、はたまた気配を察知していたのか、バルバトスが背を向けたまま鼻で笑った。

「起きたんならコーヒー淹れろ」

「………おぅ」

後ろ手に鈍色を放つ自前の鉄パイプを隠し、いつものように返事を返す。
何の警戒もされていない背中に向かい、足音を殺さず、普段と変わりなく近づく。
此処で感づかれたら振りかぶっている間に叩きのめされるのは眼に見えている。
事は慎重に進めなくてはならない。鉄パイプを握った手に力が篭る。
冷たかったはずの獲物は、ジャギの体温で温められ、まるで人肌のように手に馴染んだ。

「……………」

ジャギが温くなった鉄を握り締めると、獲物と肌が摩擦する微かな音がした。
常のバルバトスであれば、気付くだろうその音は、捻られた蛇口から流れる水音に掻き消される。
狙いは一つ、頚椎だ。全力で強打したら、半身不随。むしろ、高確率で命を落とす場所。
人体の急所の一つであるが、バルバトスなら大丈夫だろうという確信がジャギにはあった。
嫌な信頼関係だが、ジャギにはこれくらいしかもう手は残されていない。
かなり卑怯くさい不意打ちであるが、勝てばよかろうなのだ。を信条とするジャギに戸惑いは無かった。
寧ろ、バルバトスには普段から半死半生の思いをさせられているのだ。
やられたら百倍返しはこの世界の常識、ターン制ドンとこいだ。

(………今だッ!)

ジャギはギリギリまでバルバトスとの距離を削ると、短く息を吸い込み、鉄パイプを振りかぶる。
遠慮も何も無いジャギの渾身の一打がバルバトスの無防備な首裏を狙う。
陽光の満ちる虚空を切るように銀色の軌跡が弧を描き、正に光のような速さでもって無防備な首裏へ強襲を掛けた。

しかし、鉄パイプの一閃はバルバトスを打ちのめすことは無かった。

空を切る風の音に反応したバルバトスは振り向き様、鋭く切れるような紫の瞳を向けてきたのだ。
獰猛な野獣の眼差しが食い殺さんばかりの強さを以ってジャギを射抜く。
開いた口の中で鋭利な犬歯が鈍く光って見え、明らかにランクの違う威圧感がジャギの攻撃を鈍らせた。
ジャギより遅く始動したにも関わらず、バルバトスの反撃はジャギの攻撃より早かった。

「俺の背後に立つんじゃねぇえええ!!!」

バルバトスの絶叫が家中に響き渡り、獲物がせめてフライ返しなところがこいつなりの優しさかもしれねぇなぁ。と考えながら、ジャギは高々と宙に舞った。



***



「――――ったく…」

フライ返しでフローリングに沈められたジャギを見下ろし、バルバトスは息をついた。
何を考えていたかはしらないが、傍に転がるひしゃげた鉄パイプを見るに碌な事ではないだろう。
本調子ではない腰と体力を酷使して何をしているのか。
ジャギが自力で起き上がるのは暫く無理だろうと結論付けて、小さく息を吐き出す。
バルバトスは片手でオムレツの乗った皿とフォークを持ち、空いた片手でジャギを小脇に抱え、リビングへ移動した。
ぐたりと力の抜けたジャギをソファへと落とすと、蛙を踏み潰したような声が漏れた。

「ほら、さっさと喰え」

ソファに懐くジャギの鼻先にフォークを突き出して促す。
そうするとジャギは力の入らない腕を持ち上げ、鋭利な先端を眼前へと向けるそれを受け取った。
幾ら正当防衛とはいえ、朝から吹っ飛ばされた身はボロボロな上にガタガタだ。
それでも、さすがに寝転んだままでは食べ難い。と、いうか、バルバトスが珍しく作った朝食だ。
寝転んだままで手をつけるのは勿体ない…気がする。
鋼のように力強いバルバトスの腕に力を掛けて、何とか身体を起こすが、正直消耗しきった体力では座位を保つのも一苦労で、ソファに背に身体を預けると思わず溜息が零れた。
そのあからさまな溜息が聞こえていないはずはないだろうに、バルバトスはまるで気にした風でもなく手際よく朝食の準備を整えていく。
ジャギはもう一度深い息を吐くと、こんがり狐色に焼きあがったオムレツの皿を膝の上へと移動させた。

「先、喰うからな」

返答は無く、視線もむけずにバルバトスの片手が閃かされたのが返事代わりだった。
ものぐさな奴だ、と口の中で詰り、ジャギはふんわりと焼きあがったオムレツを口に運んだ。
余熱に温められてトロリと溶けたチーズが、半熟のオムレツと絶妙に合わさり、文句をつけようがない仕上がりだ。
ジャギ好みの味付けに、低下していたはずの機嫌が浮上してくる。
どんだけ単純なんだよと己自身を心中で嘲笑うが、正直不毛なことこの上ない。
しかし、気分も機嫌も上がってくるとつい視線を巡らせて鉄パイプの行方を確かめてしまう。
何度KOされようが、諦めきれないのは男の性だ。痛む首を捻ると運悪くバルバトスと視線がぶつかった。

「さっきから貴様は何を狙ってやがる、……どうせまた下らんことだろうが聞いてやる。吐け」

人のことは言えないが、高圧的過ぎる口調で促され、ジャギは小さく息を詰める。
バルバトスの向こう側にくの字に曲がった鉄パイプを見つけて更に冷や汗が滲む。

「それとも……、まさか貴様、この俺に言えぬようなことでも企んでいるのか?」

ザワ、と辺りに殺気が走り、空気が切り替わった。
短気の上にも短気を重ねた性格をしているバルバトスの血管がこめかみで揺れている。
ジャギは慌てて取り繕うように首を大きく振った。

「バ、バカ言うんじゃねぇよ! 俺が手前ェなんぞに隠し事するわけねぇだろ!」

「…………そうか」

隠し事など、まるでバルバトスに怯えているようではないか。
実際は悪巧みをしていたのだが、即座に否定すれば何故かバルバトスは視線をそむけてしまった。
青みがかった銀の髪が横顔に陰りを落として、腹が立つほど整った顔が際立つ。
黙っていれば、掛け値なしに男前の恋人を思わず凝視してしまう。

(そもそも、男の癖に下睫毛まであるなんて詐欺だろ。あー…)

「犯りてぇ……」

頭の中で思ったことがポロりと口からすべり出た。
ハッと気がついた時には後の祭り。今、手の中に武器はフォークしかないのだ。
血管をビキビキさせたバルバトスを予想してフォークで構えをとるが、意外にも当の本人は片眉を揺らしただけで「フン」と呟いただけだった。
予想外の反応にジャギの口がだらしなくポカンと開いた。

「何だ、その顔は」

常と変わりない低音に問われて、開きっぱなしの口を一度結ぶと、恐る恐る念願の希望を言葉に代えた。
こんな一世一代のチャンスは二度と巡ってこないだろう、これで多少でも絆されてくれればめっけものだ。

「バルバトス!」

「おぅ」

「ちょっと、犯らせろ!!」

「構わんぞ」

貯蔵してあるガソリン全てに火をつけたい。そして祝いの狼煙を上げるのだ。
思わずドラム缶を要塞のように並べそうになるが、喜びを押し殺して我慢する。
ここで機嫌を損ねられては元も子もない。
ジャギは食べかけの皿に急いでフォークを戻すと、ソファの背にへばりつくようにして身を起こす。
身体は石のように重く、傷は開きかけているが、そんなことはこの際どうでもいい。
執念のみで身体を起こして、親指を立ててクイクイと動かし、寝室に誘う。

「…………今からか?」

流石のバルバトスも呆れたような声を出して、不屈の精神と欲望を持つジャギに確かめる。
へっぴり腰で、ソファを支えに立つジャギは「おうともよ!」と声だけは元気に張り上げた。

「このジャギ様が貴様に生き地…じゃねぇ、天国を見せてやらぁ」

「そんなへろへろで笑わせてくれるじゃねぇか」

「うるせぇ! 男に二言はねぇんだろ……ぉおお!?」

口の悪いやり取りになりかけたところで、バルバトスの腕がジャギの腰に伸び、強引な力で抱き寄せられた。
骨が軋む音を体内で聞いたが、そのまま肩に担がれると妙に安定してしまう。

「なにしやがる! さっきから俺は荷物じゃねぇぞ!」

「一人で立てもしねぇ癖にゴチャゴチャ言うんじゃねぇ!!」

ジャギの声を圧倒する大声を出されて、肩が震える。
バルバトスは面倒くさそうにジャギを担いだまま、寝室に足を運んだ。
ジャギの身体を気遣い、運んでくれているのだと理解すると、ジャギはほんの少しだけ照れくさくなった。
まだ日も高いうちから寝室に逆戻りとは、爛れまくった生活だが、バルバトスが下になると言うのなら爛れざるを得ない。
これから繰り広げられるだろう天国を夢想すれば、少しの照れくささは大いなる下心へ摩り替わる。
フフフフ、と品のない含み笑いをメットの裏に隠すジャギは上機嫌だった。
ベチャとベッドの上に叩き落されても、腰の痛みに数回転げまわっただけで復帰してみせる。

「よぉし、そこに横になれ」

「先走りすぎて漏らすんじゃねぇぞ、小僧…」

「ほざきやがれぇ〜い! 俺様のテクでヒィヒィ言わせてやらぁ!」

余裕綽々といった風にジャギをからかってくるバルバトスへ悪態のやり取りをかえす。
その声に嬉々としたものが混じっているのがわかるのか、バルバトスも満更ではなさそうに見えた。
ベッドの端に腰を下ろしながら、自らの着衣に手を掛ける姿を見るとジャギの胸が早鐘を打つ。
ついに、ついに、この時が来たのだ。この日をどれだけ待ち望んでいたか分からない。
案外、話せば分かる奴だったのだ。

「………おい」

初心者だからまずは小手調べから入るべきだろう。
七段変形は最後のお楽しみにとっていこう。

「おい、なんだそれは」

ごそごそとベッドの下から取り出した怪しげな箱を漁るジャギに地を這うような声を掛ける。
その中に納まっているのは紫やら黒やら卑猥な色を持つグロテスクな玩具の数々。
腕ほどに太いものもあるかと思えば、三又に分かれているものもある。
使用方法までは想像つかないが、使用用途は初見のバルバトスにも理解できた。

「ああ? アンタはそこに寝そべって大人しくしてりゃあいいんだよ、極楽浄土に送ってやらぁ」

「…………フッ」

ウィンウィンと機械音を漏らす玩具の電池を確かめるジャギへ、穏やかな呼気を漏らす。
片手で顔面を鷲掴むように隠しながら、腹の底から込み上げてくる笑いが肩を震わせた。
明らかに不穏な空気を発するバルバトスに気がつきもせず、吟味して選んだアイテムを片手にジャギは喜色を隠さず振り返った。

「待たせたな、バルバト……」

「アイテムなぞ使ってんじゃねぇえええええ!!!!」

言葉が終わるより先に、本日二度目のオーバーキルがジャギを高くぶち飛ばした。
元々超バ火力ながら、メーター振り切った怒りにより塵も残さぬ勢いでHPが蒸発したのだった。



***



「って事があったんだよ!酷いと思わねぇか兄者!!」

「………」

止める暇もなく赤裸々な猥談を話しきった弟の前で、トキは机に突っ伏していた。
白磁の頬は羞恥に赤く染まり、耳をすり抜けていった言葉たちに居た堪れなさが加速する。
既に第二の勤務地へと転じつつあるトーナメント会場の医務室に、弟が突撃を掛けてきたと思ったらコレである。
休憩時間中なので、医務室に詰めているスタッフは出払っているのがせめてもの救いだった。
第三者がこの場にいて、更にこんな話を聞かれたら北斗神拳の威光は地に堕ちる。

「兄者?」

反応のないトキを訝しげるようにジャギが呼びかける。
熱で飽和する脳で思考は纏まらないながらも、トキは何とか重い頭を上げた。
その眦には朱が差し、熱に温められた額には薄っすらと汗が光る。
どう見ても平気ではない状態ながら、それでもトキは何とか口を開いた。

「……………お前は殺気が強すぎる……」

正直に言えば強いのは殺気ではなく下心であり、致命的に足りないのは配慮と慎みだが、それを言って聞くような弟なら苦労はしない。
もっと分かりやすく言葉を重ねれば、さすがに理解はするだろうが、それをするには荷が重い。
結果、にっちもさっちも行かなくなったトキは端的にジャギに非があると断じて返した。
無論、それなりに短気な弟は、その言葉にメットに隠された目元を吊り上げた。

「あんだよ、俺が悪いってのか!?」

「……手段が、褒められたものではないと言いたいのだ」

反射的に頷きそうになるのを堪え、正論を突きつけた。
一応自覚はあるのか、ジャギは一瞬言葉を詰め、肩をがっくりと落とす。

「まぁな…確かに道具が嫌いだってのは知ってたがよぉ……」

愉しむ為なんだから良いじゃねぇか、やら、初心者向けを出したのに、やらと、ブツブツと文句を零す。
トキとしては背後からの鉄パイプでの強襲を言ったつもりなのだが、ジャギはトキを赤面させた道具が不味かったのだと理解したらしい。
確かにそちらも突っ込みどころ満載すぎではある。
バルバトスに、一体どんな教育をしてきたと詰られても弁明の余地もない。
だが、しかし、耳に滑り込んでくるジャギの呟きはトキには些か刺激が強すぎた。
本音を言えば、声が出せなくなる秘孔の一つや二つを突きたくなるほどに心臓に悪いのだ。
或いはうっかり胡坐を掻きそうになる。寧ろ、今すぐにでも平和を取り戻すビームを打ちたいが、それでは悩んでいる弟に対し、あんまりだろうと息を吐き出して己を落ち着けた。

「………自分が嫌うものを知っている相手から、敢えてそれを出されたら気分を害しもするだろう?」

「そりゃ…そうだけどよぉ…」

「お前が照れて茶化したりせずに、彼と真剣に向き合えば良い。彼とてお前を好いているのだがら、お前が真実望めば受け入れてくれるだろう」

トキの言葉を聞きながら、ジャギはテーブルに顎を乗せた。
兄の言いたいことは分かるが、朝から二度もKOされた身としては簡単に飲み込めない。
考えなしだの無謀だの言われ続けているジャギとて、バルバトスを不愉快にさせる為に道具を取り出したのでない。
自覚は薄いが、バルバトスが死んだらジャギ自身も生きていないだろうと思える程度には惚れているのだ。
不愉快を感じさせ、怒気をぶつけられたいわけでは決してない。
根底にあるのはもっと簡単で最も重要なことだ。少なくとも、ジャギにとっては。
テーブルに顎を乗せ、両手を床へと垂らすという何とも行儀の悪い姿で、ジャギはポツリと呟く。

「けど、どうせ犯るなら気持ちいい方がいいじゃねぇか」

ガンッ、と、トキの額とテーブルがぶつかる小気味良い音が医務室に響く。
トキは、羞恥が過ぎてクラクラと酩酊する頭を両手で抱えた。
余りにもオープンなジャギの言葉に落ち着く暇さえ与えられず頬に熱が集まる。
発火するのではないかと思うくらいに顔が熱くなり、閉じた瞼の裏が白ばむ。
そんなトキの葛藤に気付かないのか、ジャギは視線のみをトキへと向け、首を捻って見せた。

「兄者だってそうだろ?」

さらりと吐かれた言葉に、トキは今度こそどんな反応も返せず額をテーブルへと擦りつけた。
白い髪が雲母のように長机の上に拡がる。
ジャギの返答を待つような視線を肌で感じるが、そう簡単に返せるような類の話題ではない。
トキにとっては土俵や畑が余りにも違いすぎる。

(………何処で育て方を間違った………)

過去の自分にまで叱責を飛ばしたトキは常にないほど混乱していた。
どんな言葉も声にならず、唇の形だけが開いたり閉じたり移り変わる。
独力だけで考えて分からないことに対して、他者の意見を聞くという行動自体は正しい。
誰かに頼るのは決して恥ずべきことではないとジャギに教えたのは間違いなくトキ自身だ。
それが、トキを此処まで追い詰めることになろうとは。
無音のまま頭を抱え、反応のないトキにジャギは眉間に皺を寄せた。
トキとて意中の相手が居て、更にジャギと同じく『下』の立場ならジャギの願望が理解できると思ったのだが、どうにも煮え切らない。
東方不敗の称号を持つトキの情人と、ジャギの連れ合いでは比べること自体が間違っているような気もしないではないが。

「痛いのよか、悦がる方がいいだろ?」

「…………」

苦痛よりも悦楽を。
兄弟の中で一番世俗に疎く、下世話な話から遠くにいるトキとて成人した男である。
その考えが全く理解できない訳ではないが、どうしても返答に間誤付いてしまう。
弟が何を求めているのかは分かる。自分の考えが正しいのかどうかを見極めたいだけだ。
そこにトキを困らせようだとか、恥ずかしがらせようだとかの含みは一切ないのだろう。
無論、含みが全くない言葉だとしても、即答できるかどうかは別問題である。

「……」

トキは白磁の肌を朱色に染めて眉間に皺を寄せた。
何か言おうと口を開くたびに戸惑うように唇をひき結び、そしてまた言葉を紡ごうと口を開く。
しかし、何度唇が移り変わろうと声が出ることはなく、トキの言葉を待っていたジャギは段々とまどろっこしさに苛立ちを募らせた。
余りにも奥手で煮え切らないトキに、兄弟一短気なジャギが身を乗り出してテーブルを掌で叩き、トキを追求する。

「兄者だって男だろ!? 偶には突っ込みてぇとか思うだろ!?」

「ジャギッ!!」

反射的に脳が沸騰するかのような感覚に耐え、トキは叱責の声を挙げる。
直接的すぎる表現に、心臓が早鐘のように鳴り響き、余りの羞恥にこめかみが痛んだ。
ジャギの奔放な性格は常より重々承知していたが、掛け替えのない連れ合いを得たことでその奔放さに更なる磨きがかかったようにも思える。

「もう少し恥じらいを持て! 大声で話すような内容ではなかろう!」

「兄者は犯りたくなったりしねぇのかよ! 惚れた相手だぜ!?」

思わず声を荒げたトキに、ブレーキの消失したジャギも更に声を荒げた。
ジャギとバルバトスの両者を知るトキが平静であれば、なんと似た者同士だと空笑いを上げるような状況だ。
無論、今のトキにそんな余裕はない。
売り言葉に買い言葉、全く自重しない弟に向かってトキも、そんなことっ!と意気込んで口を開く。

「私とて、………マスターとしたいに決まっている!」

「なにを騒いでおる」

その絶叫と共にガチャと音を立てて扉が開き、聞きなれた声が振ってくる。

「………………」

「………………」

「……………あ」

ジャギの間の抜けた声が医務室に響く、直前までの騒がしさはどこへやら。
扉を開いた東方不敗を認識すると同時に、その場の空気はピシッと音を立てて凍結した。
東方不敗は扉を開くと時を同じくして聞こえてきた、意外な言葉に驚きを隠せずにいた。
室内が騒いでいるというのは、廊下からでも微かに聞こえていた。
無論、内容までは聞き取れなかったが、大方負傷した誰ぞがスタッフに絡んでいるのだろうと当たりをつけて、仲裁するべく扉を開けたのだが、思わぬカウンターを喰らってしまった。
直前までの会話は分からないが、扉を開いた途端の言葉が示唆するところは、トキの赤い顔を見れば予想がついた。
常の冷静さを取り戻さねば、と思考することすら出来ない深度で言葉の意味を咀嚼する東方不敗に、トキは呆けた視線を投げる。
なぜ此処に東方不敗が居るのだろう、と、微妙に的の外れた疑問を浮かべるが、時間経過と共に今までジャギと何を話していたかを思い出し、全身を朱色に染め上げていく。
耳が痛むほどの空間凍結の中、いち早く復活して動いたのはジャギだった。

「あー…、じゃ、俺は帰るわ。邪魔して悪かったな」

軽く片手を挙げてトキに言うと、邪魔者退散とばかりにそのまま東方不敗の横をすり抜けていく。
丁寧にも扉を閉めて行った為、室内には硬直したままのトキと東方不敗だけが残された。
未だ、耳が拾った言葉の驚愕から立ち直れずにいる東方不敗は、萎縮するように顔を伏せるトキへと視線を投げた。
白髪が流れて無防備に晒される項が朱色に染まっており、居た堪れなさにか時折、肩が痙攣している。

「……お、……お茶でも如何ですか…?」

「……もらおうか」

まるで蚊の鳴くようなか細い、泣き出しそうな声を出され、とりあえずトキが落ち着くまで待つか。と、東方不敗は僅かに息を吐いた。
トキは逃げるように簡易キッチンへと引っ込むと、慌てた様子で茶の準備をし始める。
東方不敗以上に動揺しているのか、トキらしからず茶器同士の当る音が耳に届く。
均整の取れた肢体を縮こませ、白髪の間から覗く耳は遠目に見ても赤い。
告白紛いの言葉を聞かれたのが余ほど堪えたのだろうが、東方不敗にとっては笑みを誘うものでしかなかった。
トキの何時までも色事になれない気性が愛おしく、そんなトキが思わず吐いたのだろう本音が喜ばしい。
無論、肝心大事なところは東方不敗の耳に入っていないのだが。

「トキ」

東方不敗は背を向けるトキを呼んだ。
白のみで作られたかのように濁りのないトキに求められるほど、想いを寄せられている。
最初の衝撃が過ぎれば、それは酷く甘く胸に拡がり、頬が緩むほどの幸福が内側に満ちた。
喜色を混ぜた呼びかけにトキが振り返るのを待たず、唇を開く。

「今夜、空いておるか?」

あからさまな誘い文句をとばせば、返事より先に、薬缶と湯のみと急須とお盆が落ちる音が室内に響く。
トキは肩越しに振り返りつつ、ぶり返したように眦を赤く染め、何処か咎めるような色を瞳に乗せた。
けれど、酷く上機嫌な、それでいて穏やかな笑みを浮かべた東方不敗を認めると、気まずそうに視線を外す。
その場にしゃがみこみ、割れた茶器を片付ける音に混じって、小さく「はい」と呟く声が聞こえてきた。

「手伝おう」

「……お願いします」

東方不敗はトキの返答に一層笑みを深めると、トキの指先を傷つけないために片付けを買って出たのだった。



***



フラグの立ちまくってる医務室を後にして帰ってきたは良いが、どうにも不完全燃焼なままのジャギは疲れたように寝室に身を滑り込ませた。
一応、落ち着く前にベッドの周りを確認してみたが、ジャギが集めた玩具箱は箱ごと消えていた。
チッと忌々しげに舌打ちしてから、今朝の名残を残すベッドに腰を下ろす。シーツにはクシャクシャの皺が刻まれていた。
皺を指先で撫でてから、溜息を漏らすとベッドに仰向けて寝転んだ。
あの性的欲求の薄い次兄ですら、したいことはしたいと思うのだ。
一応普通の男である自分がバルバトスをどうこうしたいと考えていても何ら可笑しくはない。
寧ろ、バランスブレイカーな強ささえ考慮しなければ、ジャギが上であるほうがしっくりくるくらいじゃねぇか。と主観的な思考で自論を持ち上げる。
そもそも、途中まで上手くいきかけていたのに何故失敗してしまったのか。

「やっぱ、アイテムが癇に障ったのか…?」

吹っ飛ばされると同時に絶叫していた言葉を思い出し、瞳を眇める。
相談に寄った次兄の言葉を思い出しつつ、ジャギは無言で顎を引き、思案に暮れる。
考え直してみても、躓いた原因はそこしか思いつかない。と、なれば、やはり道具が問題だったのだろう。
しかし、やるなら病み付きになるほど悦がらせたいと思うのは仕方ない。
目的達成のためならどんな手段も使ってみせる。それは試合でも色恋でも変わらない。
しかし、今回ばかりは手段に致命的な欠陥があったようだ。

「とりあえず…話してみるか」

嫌がられてはいなかったことだし、アプローチの仕方さえ間違わなければあの褐色の肌はジャギのものだ。
言葉でのアプローチなど、ジャギにとっては苦手中の苦手分野。所謂、鬼門である。
今まで欲しいものがあれば全て奪ってきた。だからこそぶち当たった壁に、ベッドに沈んだまま盛大な息を吐く。

(苦手っつーか、柄じゃねぇ…)

否定的な感情が渦巻き、唸っていると、ガチャリと寝室の扉が開いた。
ジャギは身を起こすことなくその音を聞き、視線のみを扉へと向けた。
視線の先には思考を占拠していたバルバトスが居て、ジャギは口を開いた。

「……よぅ」

バルバトスからの反応はない。
怒りの気配はないが、機嫌が直ったわけではないらしいバルバトスに、ジャギは心中で溜息を吐いた。
ジャギは片手を挙げると、緩慢な動作でバルバトスを手招きした。

「……………」

この期に及んでまだ身体を求める気か、と言わんばかりに、バルバトスの眉間に皺が寄りかけた。
だが、ジャギの纏う空気は性的なものとかけ離れていて、いつもよりも何処か大人しい。
さすがに反省して、多少ではあろうが凹んでいるのだろうか。
バルバトスは僅かに肩を竦めると、起き上がる気配のないジャギへと近寄りベッドへと腰掛ける。
微かに軋む音がして、ベッドの端がバルバトスを受け止めた分、沈みこむ。
ジャギは眼の端に映した銀髪に手を伸ばし、指を絡ませ、そのまま緩く引っ張った。
その微かな引力に、バルバトスの眼が細まる。
珍しい反応がお気に召したのか、バルバトスは身を屈め、ジャギの顔を覗きこんだ。
顔の横に銀髪が流れ、視界が狭まり、バルバトスしか見えない。
ジャギは触り心地の良い髪に指を差し入れ、ぐっと力を込めた。
間近に迫る顔はやはり彫りの深い端整な顔立ちをしている。
そして、そのツラの下に隠れる、荒れ狂うような気性も手を出せば即座に飛び掛ってくる獣のようでジャギの胸を震わせる。
額がぶつかるほど顔を引き寄せると、視線をそらすことなくジャギは唇を開いた。

「アンタを抱きてぇ」

「……ふん、それで絆すつもりか?」

「アンタに抱かれるのも悪くねぇけどな、俺だって犯りてぇんだよ」

余裕すぎる返答に若干、不貞腐れるが、バルバトスの笑い声にヒュッと息を呑む。
その笑みが心底可笑しそうなものだったから、散々な目に合わされ続けているジャギは心臓を跳ねさせた。
紫色の瞳をじっと見つめていると、その色が確かに煌いた。

「俺だって男だ、か?聞き飽きたぞ」

「何度だって言うぜ?」

言っている内容はともかく、バルバトスの声自体は穏やかだった。
その穏やかさに触発されて、ジャギはゆっくりと口を開いた。
兄の言葉を借りるのであれば、真剣さがバルバトスに伝われば円滑に収まるはずだ。
正直、気恥ずかしさだけでうっかり死兆星が見えそうになるが此処が踏ん張り時だ。
ジャギは軽く息を吸い込み、目に力を込めた。

「バルバトス、アンタに惚れてんだ。アンタだから抱きたい」

睨みつけるかのような視線を受け、バルバトスは心地良さそうに喉を鳴らした。
なんという傲慢な野獣だと、ジャギは心中で毒づいた。

「……及第点ってとこか。良いぜ、喰いな」

「――――…え?…………は!?」

言われた言葉が理解できずに思わず身体を起こしかける。
しかし、バルバトスは起き上がろうとするジャギの肩を片手で制した。
その掌には常の荒々しさはなく、軽く押され、ジャギは戸惑いながらもベッドに後ろ手をつく。
中途半端な座位を保つジャギに目を細めて低く笑うと、そのままジャギの下肢へと顔を埋めた。
ジャギの太腿に手を添え、大きく開かせるとズボンの止め具を器用に外す。

「ちょ、アンタ何考えてんだッ!?」

「うるせぇ!!…犯りてぇならガタガタ抜かすな」

狼狽を露わにジャギは声を荒げ、陰茎を引き釣り出してくるバルバトスに非難する。
しかし、バルバトスはジャギの制止を無視し、現れた欲望の先端にキスを落としてきた。
僅かなリップノイズと柔らかい唇の感触に、ジャギの陰茎が微かに揺れて期待が下肢に集まる。
正直なジャギの反応に唇を緩ませると、バルバトスは何の躊躇もなく口腔へと招いた。

「うぁ…っ!」

生暖かく、柔らかい粘膜に包まれ、耐え切れず声が出る。嬌声と言うよりも驚きの割合が強い声だ。
バルバトスは動揺を露わにする様に、喉奥で笑いを殺し、口腔の熱を粘膜で擦り育てていく。
ねっとりと舌を絡め、括れに柔らかく歯列を宛がうと、苦味を伴う先走りが舌に乗る。
育った陰茎が呼吸を圧迫し、僅かに息が詰まるが、下から見上げるジャギも悪くない、と舌を閃かせる。
少しだけ喉が苦しくなったが、それでも口淫をやめる気にはなれず、逆にわざとらしく卑猥な水音を立てながらジャギ自身を高めていく。
血管の浮き出た陰茎を舌で嬲ってやれば、ピクピクと微動して口の中を先走りで濡らしてくる。

「く……ぅ…ッ」

常にない体勢と状況をようやく把握するとジャギの支配欲が擽られ、驚きは欲情へと変わっていく。
ベッドについていた片手を緩慢に持ち上げ、バルバトスの髪に差込み、頭皮を強く撫でる。
バルバトスは熱を咥えながら、視線だけをジャギへと向け、犬歯を軽く陰茎に立てた。
見たこともないような卑猥な光景と、痺れるような快感にジャギの欲望が頭を擡げる。

「……ハッ、…旨そうにしゃぶるじゃねぇか…ッ」

揶揄する言葉に、バルバトスは言葉なく目元を笑うように細めた。
獰猛な獣が、戯れに警戒を解いたような笑みを見せ付けて、先端を強く吸いたてたのだ。
ほんの気まぐれでしかない、作ったような無防備さは、下手に動けば即座に攻撃へと転じる。
いつ何時、喉笛を噛み切られるか分からない危うさを感じさせながらの奉仕は言い知れぬ高揚感と優越感をジャギに感じさせた。
バルバトスが口ですることなど滅多にない、と言うか今までなかった。
無理矢理ジャギの口に突っ込んでくることもあるが、それも数えるほどもない。
お互いを欲して転がれば、繋がる―――いや、貫いて食い破ることだけを求めてしまう。
だかこそ、今バルバトスがしている行為は明らかな挑発だった。或いは準備なのかもしれない。
バルバトスの口腔は粘液と先走りが混じりあい、ドロドロと溶けていて気持ち良い。
生き物のようにねっとりと絡みついてくる舌に根元から絞られて、メットの中に熱い息を吐く。
ジャギの胸板は忙しなく上下し、酸素不足の肺が息苦しさを齎した。
バルバトスの長い髪を引っつかみ、強めに引き寄せると腰を突き出してバルバトスの喉奥を貫いた。
小さな呻き声が聞こえ、ジャギの中にある嗜虐性が一気に張り詰める。
思わず、視線をバルバトスに向ければ、ジャギを抱いている時と同じ凶暴な色を瞳に乗せていた。
細い緊張の糸の上を歩いているような感覚に、ジャギの喉がゴクリと鳴る。

「アンタ…、なんて顔して、やがる、んだ……ッ」

息を詰めながら、凶悪性を隠そうともしないバルバトスに八つ当たりじみた声を出す。
視線の強さだけで貫かれるかと思うような危機感を持ってしまう。
ゾクゾクと背筋を恐怖とも違う刺激が駆け上り、ジャギは奥歯を噛み締める。

「貴様こそ…、どんな顔をしているか自覚がないようだな」

大きな舌で裏筋を舐めあげてから顔を起こしたバルバトスは鼻先で音を上げるジャギに低い声を投げた。
口の端から零れる透明な淫液を手背で拭う姿に、男らしい色気を感じてジャギは眩暈すら覚えた。
口の中に見え隠れする赤い舌はヌラヌラと光を弾き返している。

「顔なんて、見れるわけ……」

メットをしていると言う以前に、鏡を使わず自分の顔を確かめられるはずもない。
バルバトスから見てもメットと言う隔たりがあるので、顔など見られるわけもないのだが、バルバトスに中てられたジャギの精神は既に朦朧としていた。
視界がグラつくような淫気が部屋を包み、纏まらない思考は酩酊を繰り返す。
バルバトスはそんな状態ながらも、悪態をつこうとするジャギを笑い、顔を覆い隠すメットに手を掛けた。
瞬間的にジャギの肩が竦むように跳ね、強く瞼を閉じた気配が伝わってきた。
これからバルバトスを喰らおうと言うのに、怯えを見せるジャギに理性が揺らぐ音を聞いた。
そのまま一息にメットを引き剥がし、まどろっこしいコンプレックスを投げ捨てる。

「…………ッ」

光が瞼越しにジャギの目を灼き、喉の奥で呻き声が上がる。
非難と悪態が出そうになるが、上手く回らない口は案の定、バルバトスの唇に塞がれた。
唇を経由して苦味のある青臭い味が口腔に広がり、自分のものだと自覚すると気が滅入った。
しかし、バルバトスの舌が問答無用で絡んできて、角度を変えてこね回してくる。
濡れた熱い舌の動きは卑猥で、唾液が絡み合うたび翻弄されて、さらに脳裏が霞掛かった。

「……ぅ、…う…、…ぐ……ッ」

ネチネチと舌を嬲られ、息苦しいような衝動が奥から駆け上がってくる。
股間は高められて、今にもはち切れてしまいそうなほど硬くなっていた。
抵抗と言うより対抗するようにバルバトスの舌に歯を立てるが、逆に歯列の裏まで舐めあげられた。
反射的に喉を鳴らして、混ざり混ざった淫液を飲み込んでしまう。
喉に伝うのはジャギの味だ、バルバトスの口腔で温められて溶かされた生々しい味。

「ん……、ぐぅ…っ」

ビリッ、とこめかみに電気が走り、喉を伝うぬめりに下腹に溜まった熱が押し出される。
その途端、腹筋に痙攣が走り、お互いの腹に勢いよく生暖かいものが飛び散った。

「………あ?」

間抜けた声を出して、ジャギは自分が口付けだけで達してしまったことに気がついた。
今まで恍惚としていた脳がギアを切り替え、現実を突きつけられてフル回転を始める。

「ぁあああ!? な、ちょ…ッ、これは、違ぇッ!」

「……………」

幾らバルバトスに慣らされまくっているとは言え、まさかキスだけで吐精まで追い詰められるとは思わなかった。
今日は偶々、バルバトスの卑猥な姿に気分が盛り上がっていただけだと言い訳を口にしかけるが、それがきちんと音に変わる前に視界がぐるりと変わる。
取り繕おうとした瞬間、目の前の男に突き飛ばされるようにして押し倒されたのだ。
シーツの端が舞い上がり、ベッドが大きく軋む悲鳴を上げた。
見上げれば、凄みを有して睨みつけてくるバルバトスの顔が間近にあった。
余りの威圧感にザッと血の気が引いて喉元まで悲鳴が競りあがってくる。

「待て! 待ちやがれ! 今日は俺が……ぐあッ!?」

ジャギの制止など聞かず、バルバトスはジャギの鎖骨に噛み付いた。
甘噛みなどではなく皮膚を食い破らんとするほどの圧力を持っている。
鎖骨の真上をズブリ、と穿つ犬歯に堪えていた悲鳴が溢れ出た。

「ひぃ…っ、てめッ、話が違ぇだろぉ……が……ぁ」

溢れる鮮血を舐めとり、喉を鳴らしてジャギを貪る姿に力が抜けていく。
更に追い討ちのように五指を達したばかりの陰茎に絡められて、喘ぐように喉を反らした。
濡れた陰茎を鷲掴みにされるとグチュリ、と粘性の高い音が鼓膜を擽った。
呼吸が息苦しく、ぜぇぜぇと羅漢撃を撃った時のように喉仏が上下する。
肌がチリチリと熱いのはバルバトスが執拗に傷口を舐め拡げるせいだ。
素肌にうねる髪が流れて、冴え冴えとした色と肌から立ち上る熱の背反性に傾倒しそうになる。
バルバトスは鎖骨だけでなく、骨まで砕くように強く噛み付いてから、僅かに顔を起こして血に濡れた唇を弓形に撓らせた。
急所を握った手が上下に荒々しく扱き始めて、ジャギの腰がズクンと疼く。

「喰われるのも悪くねぇ……、だがな、今の貴様相手に足を開くほど紳士的じゃねぇぜ?」

「て……ッ!?」

カチンッと堪忍袋の尾が切れかける。力の入らない身体をちゃくちゃくと侵食していくバルバトスへ、せめて最後の力を振り絞り、怒りの絶叫を上げた。

「てめぇええええええ!!!」

バルバトスに開発されきったこの身体が憎い。
そう思いながらも、指先に、舌に、熱に逆らえず、ジャギは燃え盛るような愉悦の炎の中へ落ちていった。





***





清潔なシーツに、整理された診療台。
日差しを寄せるカーテンは風に揺られて室内に僅かな陰影を映し出す。
穏やかな昼下がりを演出する診察室で、小包を開けた部屋の主は声も出せずに立ち尽くしていた。

「………」

トキが切り盛りする診療所に、自分宛の小包が届いたのは昼前のこと。
午前の診察が終わったのを機に、それを開いたトキは開けなければ良かったと壮絶な大後悔の嵐に見舞われていた。
小包一杯に入っていたのは、大量の玩具。
それだけならば特に問題はない。そう、それが普通の玩具なら。
全体的にピンク色というか、怪しい色のそれらは、長かったり、疣がついていたり、折れていたり、三椏だったりと、とてもではないが子どもが遊ぶ類の玩具ではない。
トキには正直それがどういった方法で使われるものなのかは分からなかったが、用途は理解できる。
それぐらい卑猥な色と形をしていた。

「……………激流に身を任せ、同化……する…っ」

一度、弟諸共テーレッテーでお灸を据えなくてはならないようだ。
絶句と赤面を繰り返し、錯乱したトキは自分でも良く分からない叫び声を上げて、開いた小包の蓋を力任せに閉めた。



不燃ゴミで捨てていいものかと頭を悩ませるトキの元へ東方不敗が尋ねるまで、あと三秒。



<END>

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