627 :実況しちゃダメ流浪の民@ピンキー:2014/12/23(火) 02:44:12.79 0
自室の気温がマイナスですこんばんわ
>619>>620のお言葉に甘えて大遅刻どころじゃないハロウィン物をうpしてみました


URL:www1.axfc.net/u/3378163
タイトル:TRICK and TREAT
PASS: mugen
ネタ元&設定等: スレネタ及び有名処の動画複数
カップリング(登場キャラ): 【K/I/L/L×アーデルハイド】【軋間×内藤】【ブロントさん×汚い忍者】【K’×一方通行 +ソル】
性描写の有無:全年齢
内容注意:元々ハロウィンに新しい可能性を略で上げる予定だったものから×にできそうな4組のみ抽出
       その為微妙に話が繋がってたり繋がってなかったり複線回収し損ねたりしてますorz

       所謂受け側の人間が【女装】です

       【ブロントさん×汚い忍者】はちるちゃんネタ注意
       【K’×一方通行 +ソル】は原作ネタ(白翼&天使語、堕天使エロメイド)が出てきます


ハロウィン直前にHDD死んでPC買い換えたりしてた所為で、来年まで発酵させるかゴミ箱行きか悩んだんですが折角なので!
因みにどうしても×にならない(+とか&)3組を削ってあります(削ったのは【ロック+楓】【シェン+浪清】【狼牙+上条】)


TTF見返してたらうっかり【K/I/L/L×ユウキ】【幻十郎×庵】に目覚めそうです…相変わらずどマイナー一直線…



※あてんしょん※

・男性同士の恋愛的描写を含みます
・一部で暴/君、こ/ろ/う/ば、社/会/復/帰等の動画の設定を含んだり含まなかったり
・書き手は貧弱一般人につきブロント語が不自由です


【お品書き と 注意事項】
・K/I/L/L×アーデルハイド
 社/会/復/帰で運送中ス/ー/ラを落としたのが嫉妬によるものだったら…という友人の発言による乙女若
・軋間紅摩×内藤
 スレで『軋内とか想像できんwww』と言われたので新たな可能性を模索して失敗した気がしなくもない
・ブロントさん×汚い忍者
 ※ちるちゃん注意※ 2人の目の色に関して独自設定あり、汚忍が着てるのは一方通行(百合子ネタ)の例のアレ
・K’×一方通行 +ソル
 ※原作でのネタバレ?含※ 前回は回避しちゃったので今回こそレッツ修羅場…の筈がどこかで間違った系


・元々多CP詰め予定だったため、微妙に全部の話に関連性があります
・所謂受け側の人間は仮装という名の【女装】をしてます

・原作設定は理解した上で投げ捨てるもの


・上記で嫌な予感がした方はファイルを削除をオススメします





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TRICK and TREAT




【K/I/L/L×アーデルハイド】


棒付きの小さなキャンディを口に咥え、K/I/L/Lはのんびりと街を歩いていた。

「…しっかし、無駄な所に力入れてるよなあいつら…」

朝からネスツに呼び出され、怪しげな薬を飲まされた時は殺意を覚えたが、今日がハロウィンだと聞かされれて納得した。
あらゆる文化がごちゃ混ぜになったこの世界では、そういった季節行事を全力で楽しむのが流儀、らしい。

思わず尻に手を伸ばせば、ふさふさの毛に覆われた尻尾に触れる。
意志とは関係なく勝手に動く耳と尻尾は、まさに技術の無駄使いと呼ぶのに相応しい。
誰がどの獣になるかは不明らしいが、居合わせた面子を見た限りでは性格や気質が影響しているのだろう。
フ/リ/ズの羊耳やグ/リ/ッ/ツの兎耳は予想通りだったし、ア/ネ/ルとリ/ー/クが猫耳なのもそれらしい。
K/-/B/L/O/O/Dは猫耳よりもナマケモノじゃないのかと思ったが、K9999の兎耳を見たらどうでもよくなってしまった。淋しいと死ぬとかどんな冗談だ。
居合わせなかった他の”兄弟”には何が生えたのだろうか。ス/ー/ラの性格なら悪魔の角でも驚かない自信はあるが。

「………、」

想像の中でニヤリと笑う悪魔もといス/ー/ラの姿を無理矢理追い出すように頭を振った。
頭上の耳―――ちなみにK/I/L/Lは狼だ―――がへたりと折れてしまったのが自分でもわかる。
思わず項垂れた視線の先には、大量の菓子で膨らんだ安っぽい手提げ袋。
行く先々で渡された物を詰め込んだ物だが、これだけあれば最低限イベント参加の義務は果たした筈だ。
後は部屋に戻って、ゆっくりと菓子を食べながら過ごせば良い。

「…?」

賑やかな大通りから外れた、薄暗い住宅街へと続く道。
閑静な、というよりは寂れたという表現がピッタリなその場所に不釣合いな色を見つけて立ち止まる。

赤いフード付きのケープのような上着に赤いスカート、すらりと長い脚を覆う白いハイソックス。
背中を向けている為によく見えないが、両手に抱えた大きな荷物はバスケットか何かだろうか。
一瞬某強欲ハンターかと身構えるが、それにしては体格が良過ぎるような気がする。目の前の人物は恐らくK/I/L/Lと然程変わらない身長だ。
という事は、単なるハロウィンの仮装。そう結論付ければ警戒した自分が馬鹿らしく思えて、溜息を吐きながら赤い不審人物の方へと足を踏み出した。

「―――!?」

突然背後に迫った気配に驚いたのか、赤いフードに覆われた頭が勢いよく後ろを振り返る。
見開かれた赤い瞳と視線が合い、K/I/L/Lの口から咥えたままだったキャンディの棒がぽろりと落ちた。

「…アデル…?」

よく見知った青年の名前を呼べば、目の前の白い頬がかあっと赤くなる。

「…どうしたんだ、それ。俺と違って仮装必須じゃねぇだろ?」

「あ、ああ…。いや…これは巻き込まれたというか何というか…」

咄嗟に連想した通り、アーデルハイドが着ているのは一般的に記号化された『赤頭巾』の衣装に間違いない。
女性でも躊躇うような短い丈のスカートを気にしながら、アデルが困ったように笑みを浮かべた。

「その、君の所へ行くならこれを着ろと…。流石に似合わないと言ったんだが、無理矢理渡されてしまって。それで、」

「ん? いや、あんた美人だから似合ってはいるが…」

赤い頬がさらに赤くなり、形の良い唇がぱくぱくと金魚のように開閉する。
妹に似ている、という事は言い換えれば女顔と言える訳で。
恥らうように目を伏せる仕草が妙に艶めいて見えるのは、うっすら施された化粧の所為だろうか。

「―――ってか、今日は会社はいいのか?」

K/I/L/Lと違い、父親の会社を手伝っているアデルは基本多忙の身。
時々行う手合わせも仕事が終わった後の夕方か夜が多く、週末の早い時間に街で顔を合わせる事は珍しいと首を傾げた。

「え、あ、…すまない…迷惑だったかな」

「持つ。…別にそんな事言ってねぇだろ。時間あるなら寄ってくか?」

どこか歯切れの悪い物言いをするアデルの、”らしくない”様子が気になった。
掠め取ったバスケットは見た目に反して結構な重量で、揺らせば中でカチャカチャと乾いた音がする。
茶でも飲みながら落ち着いて話をしようと促せば、何故か微妙な表情でゆるゆると首を振られてしまう。

「…でも、彼女に悪いだろう? 元々それを渡すだけのつもりだったから―――」

「―――ちょっと待て。彼女って何の話だ?」

「え、…え?」

ぽかんと呆けた顔を見つめる自分も、きっと似たような顔をしているに違いない。

「…いつも一緒に居るのは彼女じゃないのか?」

恐る恐るといった風に尋ねられるが生憎とそんな相手は―――いた。一人だけ、結構な頻度で顔を合わせる少女が。
まさかもう一度悪魔の角が生えたス/ー/ラを幻視する羽目になるとは思わなかった。しかも衣装までそれらしくなっている。殴りたい。
そういえば何時ぞやの手合わせの際、K9999に追われるス/ー/ラと鉢合わせた記憶があるような、ないような。

「勘弁してくれ…」

一気に身体の力が抜け、思わずアデルの肩口に額を押し付けて溜息を吐いた。
触れた肩がびくりと強張るのがわかって、K/I/L/Lはアデルからは見えない位置で顔を顰める。
何か機嫌を損ねるような事をしただろうか、と記憶を辿ってみても心当たりはなく、原因がわからない事に苛立ちを覚えながら。

「でも、彼女は美人じゃないか。君とお似合いだと思うが」

「あれは…妹分、みたいなもんだ。そういう対象じゃねぇよ」

実際にはK/I/L/Lとス/ー/ラの関係は一般的な兄妹とは異なるが、要約してしまえばそれだけの事だ。
そしてそれはス/ー/ラに限った話ではなく、他のKシリーズに対しても同じなのだと付け足した。
厄介事を持ち込むのは決まってス/ー/ラかK/-/B/L/O/O/Dなのだけれど。

「そう、か…。違うのか…」

溜息混じりに呟かれた声音が、少しだけ弾んでいるような気がして。
ふと、意地悪してみてくなって、アデルの肩口に顔を埋めたままで低く笑い声を上げる。

「なぁ。あんたのそれ、ヤキモチか?」

悪戯のつもりだった。
きっと怒るだろうなとか、それで少し気が紛れれば良いとか、そんな軽い気持ちで口にした筈だった。

―――その筈だった、けれど。

「あー、うん、やばい。我慢できねぇかも」

「が、我慢って、お腹空いてるのか? 相変わらず燃費が良くないな」

「これ中身何だ?」

「え、あ、ああ、パンプキンパイとチキンスープと…。温めれば直食べられるが…本当に、どうしたんだ?」

バスケットが揺れる度に微かに聞こえるのは、どうやら陶器の擦れ合う音らしい。
開いた左手で手首を掴まれ、半ば引き摺られるように歩くアデルの顔はこれ以上ない程に真っ赤で。
声音だけでも取り繕えたのは流石だと関心するが、忙しなく動く視線の所為で色々と台無しな事には気付いているのだろうか。
そんな反応を悪くない、と考える頭の片隅で悪魔姿のス/ー/ラが笑った気がして、思わず苦笑を浮かべた。

「赤頭巾って」

「は?」

きっと、尻では狼の尻尾がぱたぱたと揺れているに違いない。
童話などロクに知らないが、バスケット片手に祖母の見舞いに向かった少女の話位は知っている。

「確か―――狼に、喰われちまうんだよな?」

繋いだ手を軽く引き寄せて。
呆気に取られるアデルの耳元に唇を寄せて、K/I/L/Lは楽しそうに囁いた。




☆ ★ ☆




【軋間紅摩×内藤】


ぱらぱらと頁を捲る紙擦れの音と、隣の部屋の柱時計が時を刻む音が耳朶を打つ。
ふと視線を上げれば、じっとこちらを見つめる青い瞳と目が合って、軋間は軽く溜息を吐いた。

「…退屈なら居間で待つか?」

「んーんwwwここでwwwおkwww」

「そうか」

「www」

畳に懐くように伏せたまま、へにゃりと笑う顔はひどく幼く見える。
何時もより目に見えて少ない草の量と発言数は、普段の内藤を知る人間が見たらきっと驚愕するレベルに違いない。

「まっくすwwwどしたの?www」

寝転がったまま、器用に頭だけを上げて小首を傾げる。
その動きに合わせて陽光を溶かしたような髪がさらりと揺れ―――頭上で同じ色の耳がぴくりと動いた。
一体何処で手に入れたのか、内藤が身に纏っているのは見慣れた白い鎧ではなく、女性物の白い着物。
金髪青眼の外見には不釣合いな筈のそれに違和感を感じないのは、頭と尻に生えた狐の耳と尾の所為だろうか。

「そうしていると本物の物の怪のようだな、と思っただけだ」

「ヒドスwww俺様www本w物wよ?www」

内藤が笑うのに合わせて艶やかな尾が揺れ動く。
元の世界に比べれば市街地寄りだが、軋間の庵は山というか森の中にある。
―――突然訪ねて来た相手が”これ”では、狐狸の類を疑うなという方が無理な話だ。
尤も、挨拶も早々に生い茂った草で、僅かに存在した幻想的な雰囲気は台無しとなったのだが。

「…茶にしよう」

書見台の本をぱたりと閉じる。
幾ら『お構いなく』と言われても、一応の客人を前に書に耽る程、軋間の社交性は低くはない。
きりの良い所まで読み終えた漢書を脇に退けて立ち上がろうとして、それよりも早く身体を起こした内藤に制される。

「俺様がやるからwwwまっくすはwww待っててwww」

きらきらと、宝石のように輝く青い瞳。
何時の間にか懐かれてしまった事に、そしてそれを当然のように受け入れている事に気が付いて軋間は思わず頭を振った。
自身の成り立ちを嘆くような趣味はないが、この綺麗な青と自分はあまりにも違い過ぎる。

「…まっくす?」

「………いや。任せても平気か?」

「うはwww巻かされたwww」

ふさふさの尾を犬のように振りながら台所へと向かう背中を見送って、殆ど無意識的に煙草盆を引き寄せた。
刻み煙草を煙管に詰めた所で我に返り、少しだけ思案して火を付ける。
内藤の前で吸った事はなかった筈だが、煙たがるようなら止めれば良い。
世界が違うとはいえ、まさか百年以上後の時代の人間が使っているとは思わなかった、と守矢に感心されたのは何時だったか。
相変わらず自室には最低限の物しかないが、居間は訪れる人間―――主に内藤とアテナだが―――が持ち込んだ物で大分カオスになっている。
元々人嫌いという訳ではないが、人を避けて生きてきた自分にしては、随分丸くなったと思う。

―――嗚呼、だからこんなにも感傷的になるのかもしれない。

そう脳内で結論付けて紫煙を吐き出したのと、からりと乾いた音を立てて襖が引かれるのとはほぼ同時。

「―――おwまwたwせwってwwwまっくすかっこよすぎwww」

小さな盆を抱えて入ってきた内藤が煙管に気付いて声を上げる。
受け取った盆の上には湯気の立つ二人分の湯飲みと、濃い黄金色の塊。

「これwww忍者と一緒にwww作ったwww」

促されるまま、少しだけ歪な小判型の、羊羹か練り切りのような見た目のそれに手を伸ばした。
名前に反して同郷人の中では一、二を争う常識人が監修ならば、少なくとも食べれないという事はないだろう。

「南瓜…餅…か?」

「ブロントが芋餅食べたいって言ったらwwwこうなったwww忍者ツンデレすぎwww修正されてwww」

けらけらと笑いながら内藤も手を伸ばし、齧り付く。
歯を立てれば程よい弾力と共に、野菜本来の優しい甘さが口に広がる。
砂糖やクリームたっぷりの洋菓子なら遠慮するが、こういう控え目な甘さは悪くはない。
それにしても、”この”内藤が手料理とはどういう風の吹き回しなのか、と首を捻り―――思い出す。

「そうか、今日は…万聖節の前夜、だったか?」

「俺の耳と尻尾wwwスルーされてたwwwヒドスwww」

「何かお前にやれるような甘味はあったか…」

「いらないwwwお菓子もらったらwwwイタズラできないwww」

予想外の即答に、顎に手を当てたまま軋間は一瞬言葉に詰まる。
口端に付いた餡をぺろりと舐めて笑う、その仕草が艶めいて見えた、なんて。

「―――うはwww雨www晴れてんのにwwwテラチートwww」

目を奪われていたのは恐らくほんの二、三秒。
唐突に耳元で上がった声音にびくりと肩を震わせた。
内藤が指差す先に視線を移せば、開け放たれた障子の向こう、秋晴れの空に降る天気雨。

「日照雨だな。山ではそう珍しくもないが、初めてか?」

「初w体w験wktkrwww」

青い瞳を一杯に見開いて、目に焼き付けるように凝視する様は、幼い子供のようで微笑ましい。
先刻、ほんの一瞬だけ見た表情は気の所為だったと嘯いて、軋間は煙管に手を伸ばす。

―――ない。

伸ばした指にあるべき物の感触がない事にぎょっとする。
茶を受け取る為に灰落しの縁に引っ掛けた事は覚えている。それなのに。
重量こそないが、黒檀と真鍮製の煙管は自然に転がり落ちる程軽くもない。

「内藤、お前―――、!?」

煙管の所在を知らないか、と続く筈だった言葉を思わず飲み込んだ。
霞む視界の中で白い指が器用に弄ぶのは見覚えのある黒と銀色。
慣れない煙草に咽る内藤の目尻には涙が滲んでいて、紫煙を吹き掛けられたのだと気が付いた。
そういえば盗賊の真似事も出来るのだと、以前に聞いたような覚えがある。

「まっくす顔兆怖いwww怒った?www」

軋間が無言なのは怒っているのではなくて―――どう反応すべきか、迷う。
内藤の行動は只の悪戯であって他意はない。そもそも異なる世界の、それも百年以上昔の俗習を知っている筈がない。
だから本当は、何事もなかったように流してしまうのが一番良いのだろうけれど。

瞬間的に、脳裏に浮かんだのは赤い髪の人斬りの姿。

あまり他人に興味がない軋間でも知っている、その男の大会用の略歴を思い出す。
確か、何度か内藤と同じ大会に出ていた筈だ。となれば、今後も相見える可能性は低くはないだろう。
―――もし、万が一、あの男に同じ事をしてしまったら。
想像してきりきりと痛むのが胃ではなく心臓だという事実に目を背け、軋間は自身を落ち着かせるように息を吐く。

「…それはあまり良い意味のある行為ではない。相手によってはお前が危険な目に遭うぞ」

「ちょwww俺様心配されてるwww」

「特に帯刀している人間は止めておけ。侍や幕末の連中と言えばわかるだろう?」

「うはwwwまっくすパパwww」

まさに軋間の心、内藤知らず。
気を使って直接的な表現を避けた所為で、逆に危機感が沸き難いのか。
いっそ何もかも赤裸々に告げてしまった方が伝わるのかもしれないが、内容が内容なだけに言葉に出すのは躊躇われる。

「お前な、人の忠告は―――」

「―――へーきへーきwww俺www知ってるからwww」

ぽかんと。
呆気に取られる軋間の眼前でくるくると回される、煙管。

『知っている』? 一体何を? ―――この状況で、その答えなどひとつしか在り得ない。

「こーま」

音だけなら少女のように高い声音が、少し舌足らず気味に名前を呼ぶ。

「………止んだか」

「へ?」

思わず逸らした視線の先、天気雨はとうに止んでいる。
釣られて庭先へと顔を向けた内藤の腕を掴めば、バランスを崩した身体が畳の上に投げ出された。

「まっくす不意だま使えるとかwww」

「日照雨には別の呼び名もあったな。知っているか?」

目元に手を伸ばせば本能的に瞼が閉じる。転がった煙管を拾い上げ、そっと紫煙を吹き掛けた。
直後、弾かれたように見開かれる瞳は晴天を思わせる澄んだ青。

「狐雨。狐の嫁入りとも言うそうだ」

軋間にはいっそ眩しくも見える金髪がふわりと揺れて、散った毛先に指を遊ばせる。
違うものだからこそ惹かれるのだと、今なら少しだけわかるような気がした。




☆ ★ ☆




【ブロントさん×汚い忍者】


「…む」

回したドアノブがガチャリと音を立てた。
開いている筈の鍵が掛かっている事にブロントは僅かに首を傾げ、自身が持つスペアキーを鍵穴に差し込む。

「かえったんだがー?」

帰宅を告げる声音に返事はない。
狭い玄関土間の隅には茶色いソレアと、その隣に黒い脚絆がきちんと揃えられているのだけれど。
寄り添うように並んだそれが面白くなくて、脱いだ靴を二足の間に無理矢理突っ込んだ。
何時もの白いレギンスではない、黒く爪先の尖ったショートブーツは脚絆に似ていている気がして、少しだけ満足する。

しんと静まり返ったリビング。
ソファの上の青い膝掛けに手を伸ばせば、その下から真っ白いぬいぐるみのような塊が現れた。

「おもえの主人はどこ消えたんですかねえ?」

摘み上げられても目を覚ます気配のないモーグリを暫く突いたり引っ張ったりするが、直に飽きて放り投げる。
ぽす、と主人である忍者の膝掛けの上に落ちて、『クポー』と気持ちよさそうに鳴き声を上るのに訳もなく苛立つ。
膝掛けを奪い取って、代わりに自分の上着―――仮装なのでマントだが―――を被せると、それをストールのように肩に掛けた。
ふわりと鼻腔を擽る匂いは柔軟剤だろうか。香水のような華やかさはないが、決して不快ではない。

そのままキッチンへと足を向ける。
ブロントが出掛ける時には大戦争状態だった筈のシンクは綺麗に片付けられていた。

戸棚から白いマグカップと、数秒悩んでからティーポットを出して湯を沸かす。
少し前に茶も淹れられないのか、と呆れられたのを思い出したからではないと声に出さずに言い訳しながら。
選んだ茶葉は馴染みのあるウィンダス産ではなく、安っぽい缶に入ったこの世界の得用品。
硝子製のティーポットに適当に放り込み、ぼんやりとコンロの火を眺めながら湯が沸くのを待つ。―――と。

ごり、と背中に押し当てられる硬い感触。
馴染んだ片手剣の柄―――ではなく、ペットボトルの蓋のような物で背骨をぐりぐりと刺激される。地味に痛い。

「背後ガラ空きじゃねーか」

「…ナイトの防御力はAだからよ毛生えバレバレの貧弱忍者に警戒する必要はにぃ」

「よし、今からでも刺すか」

「おいィ!?」

背中越しの応酬に、ふと感じた違和感。
何時もより低い位置から聞こえる声が、何時もより高い気がする。
不思議に思いながら振り向いた視線の先に立っていたのは、見慣れた見慣れない姿。

「つーかてめぇがキッチンに立つとか雨降りそうだからやめろ。洗濯物が乾かねぇ」

薄いピンク色の花飾りを付けたヒューム♀F8フェイス。
試合の度に目にする『ちるは』似の少女が身に纏うのは、白と青を基調としたセーラー服だ。

「吸血鬼か。いっそ包帯ぐるぐる巻きでミイラ男になっちまえよ、手伝ってやるぜ?」

「………汚いなさすが忍者きたない」

「汚いは褒め言葉だ。が、流石に話に脈略なさすぎんだろ」

手にしたケチャップの容器をカウンターに立てながら、忍者が僅かに眉を顰める。
何故か呆然と立ち尽くすブロントを見、コンロの上のケトルを見、テーブルの上に置かれたティーポットへと順に視線を移す。

「これ、サンドリアティーじゃねぇのか。だったらいいモン飲ませてやるから待ってろ」

ごそごそとストッカーを漁る音に我に返り、慌てて忍者に向き直ったブロントは、

「ちょとsyレならんしょ…」

喉の奥から搾り出すように呻いて、痛むこめかみに手を当てた。

コンロとストッカーの位置関係は丁度斜め前後。
忍者は床に近い一番下の段を物色するために、腰を屈めて上体を深く倒している。
―――ブロントの位置から忍者を見下ろせば、短いスカートの裾から白い太腿がチラ見えどころか、下着ギリギリまで丸出しの状態。

「? 何か言ったか?」

「おもえまさkその括弧で外出たのか」

「んー? ちょっと暴れるガキに呪縛の術と捕縄の術掛けて連行しに。あとついでに買い物と」

「おい、やめろ馬鹿誘拐は犯罪だぞGMコール級に手出したこkはくとかいりませn」

「違ぇよ! ―――って、どうしたんだ、すげー変な顔して。ああ元からか」

忍者は気にしていない、というよりも気付いていないのだろう。
女に化けているだけの男に、スカートの裾を押さえるような女性らしい所作を求める方が間違っているのだが。

「女って便利だなー、色々オマケしてくれたし。今度からこっちで買い物行こうかな」

少し子供っぽい笑い方は確かに汚い忍者のものなのに、それが少女の顔というだけで違和感が拭えない。
それよりも、耳に届いたばかりの言葉がブロントの神経を逆撫でて、ささくれた気分にさせられる。
『色々』という言葉から推測するに、商店街の方へ行ったのだろう。そこでも同じように無防備に脚を晒すような真似をしたのか。
”コレ”の中身が汚い忍者だと知らず鼻の下を伸ばす奴等は馬鹿だと思うが、隙だらけの忍者はもっと大馬鹿だ。

「なぁ、ホント変だぞ? そんなもん掛けて…まさか風邪引いたのか? 馬鹿の癖に?」

「黄金の鉄の塊でできたナイトが風ごとk負けると考える浅はかさは愚かしい
 ちうrは姿で忍者が配下いはトらんブル巻き込まれて絶望が鬼なるのは確定的に明らか俺はどちかというと大反対だな」

「………は?」

ブロントが羽織るように肩に掛けた、自分の膝掛けを掴もうと伸ばした手を逆に握り締められた。
呆気に取られて見上げた顔は、普段の無表情さに輪を掛けて硬く強張っている。

掴まれたままの手が痛いとか、中途半端な爪先立ちが辛いとか、言いたい事は山程あるのに、

「…電波拗らせたのか?」

どうにか音にできたのは、そんなどうでもいいような言葉で。

「謙虚で人柄も良いナイトが紙防御の忍者に自費を出したのだがここおrが醜い忍者はアワレにも理解できないみたいだった」

「いやいやいや意味わかんねぇ!?」

「俺はぜんえzん気にしてないが忍者が汚くにぃとか俺の寿命がストレスでマッハ今すg元に戻るべきそうすべき」

戸惑いと、僅かに羞恥を滲ませた栗色の大きな瞳が見開かれる。
見下ろすブロントの赤い瞳がすっと細められる気配に、忍者はこくりと息を飲み込んだ。
なまじ付き合いが長い所為で、相手が何を考えているのか手に取るようにわかる。わかってしまう。

「………、折角女になってんだから喜べよ」

「おもえ頭悪いなナイトn相応しいは誰か俺が知ってる」

「…馬鹿じゃねーの…?」

「それほどでもない」

「褒めてねぇから!」

ポン、と乾いた破裂音と共に忍者の姿が切り替わる。
愛らしいヒューム♀F8から勝気そうなヒューム♂F4の外見へ。
変化した状態で着替えたからか、汚い忍者の姿に戻っても服装はセーラー服のままで。
童顔気味の、少女にも見える顔にはあまり違和感がない仮装だと思うが、口に出したら天元突破されそうなので止めておく。

普段は汚い目線に隠された、宝石のように鮮やかな碧がブロントを映して揺れる。
本来ヴァナ・ディールの冒険者であれば、瞳の色は暗褐色か青。
けれどブロントと汚い忍者は違う。二人だけが、その『お約束』の外側に存在している。
―――自分と相手の二人だけが『特別』だという事実は、独占欲を満たすのには充分だ。

「ブロント、ちょっと、タンマ、」

うっすらと色付いた眦に指を伸ばせば、長い睫がふるりと震える。
そのまま口付けようと寄せた唇を、忍者の白い掌が塞いで押し退けようとするのに眉を顰めた。

「デレるながらツンの不利とかおもえ絶対忍者だろ」

「忍者だよ! …そうじゃねぇ、その、あれだ、…ヴぁーんさんが居るから…」

そわそわと背後を気にする忍者の様子に、浮上しかけていたブロントの気分が急降下する。
同郷人かつ同居人に焼餅を妬くのは筋違いだと、頭では理解しているのだけれど。
汚い忍者と踊り子の関係は傍目には舎弟を通り越して飼い主とペットにしか見えず、実際に下世話な噂話がある事も知っている身としては矢張り面白くはない。
ヴぁーんを敬愛しすぎている忍者は全力で否定しているが、その必死さが余計怪しいと別世界の新聞記者が息巻いていた―――それはともかく。
折角いい雰囲気になりかけていた所に水を差されたのだ、ブロントが不機嫌になるのも無理はないだろう。

「そbに居るのに居ないというか鬼なった忍者にナイトは深い悲しみに包まれた」

低い声音に忍者が弾かれたように振り返る。
ブロントは眉間にくっきりと皺を寄せたまま、押し付けられた右手を食んだ。
刀を持つ者特有の骨っぽい掌だが、それでも充分柔らかい皮膚に歯を立てて、

「―――痛ぇ!?」

口内に広がる鉄の匂いに、慌てて唇を離す。
母指球にぽつぽつと並んだちいさな点から滲む赤。歯型どころか、皮膚を貫通しているそれは紛れもない牙の痕。

「すいまえんでした;;」

「…そんな所まで再現してんのかよ」

仮装を提供してくれた吸血鬼の顔を思い出しながら、滲んだ赤に舌を這わせた。
意図せず傷付けてしまった事はナイトとして不本意であり、長いエルヴァーンの耳がへたりと力なく下がる。

「いや、俺も悪かった…から…」

ヒュームとは違って感情的に動く耳を見ながら、まるで叱られた大型犬のようだと考える思考が遠い。
怒りや呆れの感情は舌の熱と感触に溶かされ、代わりに込み上げてくる感情は只管に甘くて、切ない。

「…つーか、さ」

ずい、とブロントの眼前に左手指を差し出して。

「噛むなら、こっちだろ、普通…」

消え入りそうなか細い声でそう呟くのが精一杯。
横向く忍者の顔は耳まで真っ赤で、釣られてブロントも赤面するのだが、自分の事でいっぱいいっぱいな忍者が気付いていないのは幸い。

「跡もっともっとtねダル忍者はえろいとナイトは関心が鬼なった」

「べ、別にしてほしい訳じゃねーし! 掌だと家事する時に痛いだろ、だから…っ!」

「見事な詰んでえrだと関心はするがどこもおかしくはない」

ブロントがくつくつと笑う振動を指先に感じて、直後、ぷつりと皮膚に穴が開く音を聞く。
そっと横目で盗み見た筈がしっかり視線が合ってしまい、忍者は慌てて顔を俯かせた。

ぬるりと絡んだ熱が離れて、濡れた指先に触れる空気が冷たく感じる。

「…へへ、」

左手の薬指にぐるりと走る歪な赤。それを確かめるようになぞる忍者の顔がふにゃりと笑みの形に崩れた。
―――その泣き笑いのような、慈しむような表情があまりにもいじらしかったから。

「ぉわ!?」

ぐるんと反回転した視界に素っ頓狂な声が上がる。
忍者の視界を埋める青はブロントが羽織った膝掛けの色で、見慣れたサーコートの白ではない事に今更ながらに戸惑う。

「…えーっと、あの、ブロント…?」

「そんあ後で満足してる嫁にはナイトをおごってやってもいいんですがねえ?」

「へ? え? …はぁ!?」

下ろせと足をばたつかせてみるが、がっちりと俵抱きにされては身動きひとつ叶わない。
普段のズボラさが嘘のように、片手で素早く火の始末をする手際のよさに関心すれば良いのか、呆れれば良いのか。

「………ヴぁーんさんが起きるまで、だからな。今日皆でパーティーやるって言うし…」

「9回でいい」

「殺す気か、このエロヴァーン!」

腰に回された大きな掌をべちりと叩き、忍者は溜息を吐いて抵抗する意志を放棄する。
ほんの少し、自分も望んでいたのだけれど―――それは絶対に口に出してやらないと、心に硬く誓いながら。




☆ ★ ☆




【K’×一方通行 +ソル】


カチャカチャと微かに陶器のぶつかる音。
テレビ等の雑音のない居間は、平日昼間の住宅街な事もあって少しの音でもやけに響く。
テーブルの上に並べられた料理の皿と酒瓶をぐるりと見回して、

「―――どうしてこうなった…」

ソルは呻くように呟いた。

「…ンァ、なンか言ったかァ?」

ひどく間延びした、呂律の回らない声音にちらりと視線を投げる。
フローリングの床にぺたりと女の子座りで座る一方通行が身に纏うのは、露出度の高い白と黒のメイド服。

―――否、本当に”ソレ”をメイド服と表現して良いのかと迷う。

チューブトップの胸元を限界まで下げた黒いドレスは、胴と裾に透かしが入っていて、素肌の白がハッキリと見て取れた。
スカートの丈は恐ろしく短く、白い飾り襟でかろうじて肩は隠れているものの、腕の付け根は無防備に晒されている。
そして、身体の露出とは真逆に二の腕までを覆う白い手袋と、白いニーハイソックス。
一歩間違えればいかがわしい用途に使われそうなコスチュームなのは、誰の目にも明らかだった。

「………、」

だから、ソルの目の前に陣取ったK’が不機嫌なのはよくわかる。
もしもソルと一方通行が”そういう仲”であれば、こんな格好を見たら同じかそれ以上に苛立つだろう、というのも想像はできる。
できるのだが、これを着せたのはソルではない。殺意全開で睨まなくても良いだろう。

「なァに殺気立ってンのオマエ?」

きょとり、と瞬く赤い瞳は涙で潤み、白いインクのように真っ白い肌はうっすらと桜色に色付いている。
渋々といった表情でソルから視線を外したものの、K’の頭上では髪と同じ銀色の狼の耳が警戒するように動いていた。

「…幾ら何でも”コレ”に手ェ出す気はねぇよ」

「………流石に、予想外すぎんだろ…」

がくり、と項垂れる男二人を緩慢な動作で見上げて、一方通行は折れそうに細い首をこてんと傾げる。
普段は横一文字に引き結ばれているか、さもなくば悪意に満ちた笑みを浮かべるピンク色の唇は、先刻から柔らかい笑みの形に緩んだまま。
肉付きの薄い、骨張った両掌で包み込むようにして持つカップの中で黒い液体が揺れ、その度にふわりとアルコールの匂いが鼻腔を擽った。

「オマエら、酔っ払ってンのかァ? ダッセェの」

けらけらと笑う一方通行、という珍しいものを見下ろして、『それはお前だ!』と怒鳴りたくなるのをぐっと堪える。
そう、一方通行は―――完璧なまでに酔っていた。

「…アンタ一体何飲ませたんだよ…まさかヘンな薬とか、」

「テメェじゃあるまいし」

溜息を吐きながらテーブルの上のグラスに手を伸ばし、ソルは疲れた表情で肩を竦めた。

「イングリッシュ・コーヒーつって珈琲にジンを混ぜたモンだ。…ずっと能力使ってた所為で人一倍弱ぇんだろうな」

「あぁ…」

「坊や、あんま無茶して壊すんじゃねぇぞ? 普通の人間より脆いんだからな」

「っ、げほっ!」

ビールに口を付けたタイミングで掛けられた言葉に思わず咽た。
気道に入ったアルコールに喉を焼かれながら、くつくつと意地の悪い笑みを漏らすソルを睨みつける。

「しっかし何だってこんなモン着せたんだあいつらは…」

恨みがましい視線を受け止め、ジンの入ったグラスを傾けながら首を傾げた。
メイド服姿にロープのようなものでぐるぐる巻きにされた一方通行を見かけた時は、流石に夢でも見ているのかと思ったのだが。
その後紆余曲折を経て連れ帰り、K’を呼び出し、暴走寸前にまでブチ切れていたのを鎮めようと酒を飲ませ―――これが僅か一時間前の話。
結局何がどういう経緯でこうなったのか、肝心な話はサッパリだという事に今更ながらに気付く。

そしてそれは、ようやく咳の収まったK’も同じ。
一方通行からの電話に出てみれば相手が別の男で、尚且つ、『引取りに来い』などと言われた心中は察して余りある。

「天使だからじゃねェの?」

唐突に。ふわふわと夢見心地の声音が紡いだ単語に、呆気に取られ顔を見合わせた。
確かにアルビノを思わせる容姿に折れそうに細い体躯は人外の、幽霊や物の怪の類だと言われても違和感はないけれど。

「ンー、そォじゃねェよ。そォじゃなくて…」

ごそごそとメイド服の胸元の隠しポケットを探り、黒い携帯を取り出した。
―――因みにK’が勢い良く額をテーブルに打ち付けたのは、見下ろしていた角度的に色々と危険だったからだが、さておき。
カチカチと携帯を弄っていた指が目的の物を見つけたのか、ずい、と端末をテーブルの上へと乗せる。

覗き込んだ画面に映し出されているのは、一方通行と同じメイド服を着た長い黒髪の女性。
嫌々そうな表情や棒立ちの仕草から、プロのモデルではないだろう事は読み取れた。
豊満な胸は浅いチューブトップから零れ落ちそうで、画像だとわかっていても心配になる程だ。

「ドコ見てンだよばァか。…背中と頭、あンだろ?」

小さな画面を二人で覗き込んでいるが故に凝視してしまったのだが、揶揄するような言葉にK’は思わず顔を顰めた。
こちらを向いて真っ直ぐに立っているため背中を見る事は叶わないが、一方通行のドレスに比べて白色の部分が多い気がする。
長い黒髪を頭頂部でポニーテールにした頭の上には、

「…天使?」

「せェーかァい」

女性の頭上には金色の、オモチャのような輪っかがぷかりと浮かんでいた。
流石に本物の天使がこんないかがわしい姿をしている訳ではないだろうが。そうだと信じたい。
カチリとスイッチを切り替える音に顔を上げれば、一方通行の細い指が首元のチョーカーを押さえている。

「平気なのか?」

「ァー、まァ、ヘタすりゃ頭ブッ壊れるかもしンねェなァ」

殆ど泥酔状態で演算できるのか、と問えば物騒な返事が返ってくる。
ぎょっとしてソルに視線を向ければ、珍しく焦った様子で腰を浮かせるのが見えて、K’も慌ててソファに沈んだ身体を起こした。
自分より余程一方通行の能力に詳しい男がこうも取り乱すという事は、きっと、かなりマズイ事態なのだ。

「つってもまァ、とっくにイカレてンだし関係ねェか…っと」

引き止めようとする手をするりと抜け、ふらふらと覚束ない足取りで庭へと続くガラス戸を引き、そのまま庭に下りる。
手入れなどされていない庭はからからに乾いた砂の荒地のような有様で、白いソックスが汚れるのを赤い瞳が不思議そうに見下ろした。
科学で埋め尽くされた街には本物の自然などないに等しい。ましてや、一方通行はその街の序列第一位の『実験動物』だ。
こんな風に靴を脱いで砂に触れるなど、もしかしたら初めての経験かもしれない。

少しだけ、嬉しそうに笑って。
すう、と大きく息を吸い込んで目を閉じる。

「―――、ntrgu黒ybjip」

ノイズ。
罅割れた不協和音が薄い唇から零れ落ちた。
背中の皮膚を突き破るかのように噴出した黒が、まるで生き物のように庭をのた打ち回る。
見開かれた瞳の焦点は合っておらず、虚空を見つめるガラス玉のような赤に、駆け寄ろうとしたK’の足が思わず止まった。

「mkrx殺fwze嫌rctb」

がくん、と一方通行の膝が崩れ落ちる。
暴れ狂う闇色の奔流が徐々に弱くなり、ギリギリ翼と呼べる程度のサイズに落ち着く。それと同時に立ち竦んでいた足が床を蹴った。

「一方通行!」

近付いても良いのか、考えるより先に身体が動いた。
両膝を砂に着き、呆けたように虚空を凝視する一方通行の肩に触れる。触れられる事に安堵する。
相変わらず焦点の飛んでしまった赤い瞳がゆるゆるとK’を映し―――

「nbvgf白sewr」

―――ガラスが砕け散るような、高い音が一方通行の背中から鳴り響いた。

「………成程、確かに天使だなコレは」

砕けた黒い翼の下から現れたのは、純白の鳥のような翼。
頭上には薄い金色に輝く光輪が浮かび、笑みを浮かべた顔は真っ赤で―――真っ赤、で?
文字通りの”天使の微笑み”を浮かべていた顔が引き攣り、白い頬が朱に染まる。見慣れた何時もの表情だ。

「能力使った事で体内のアルコールが分解されたのか。どっからどこまで覚えてんだ?」

チョーカーのスイッチを元に戻す一方通行の指先が震えているのは、怒りかそれとも羞恥からか。

「っ、オマエ、絶対殺す…っ!」

遅れて庭に下りたソルが、一方通行の胴に腕を回して細い身体を抱え上げる。
K’とソルの身長は1センチ差だが、体重は9キロ違う。姫抱きならまだしも、片手で軽々と一方通行を抱える事はK’には難しい。

「坊やがしねぇなら俺がするぞ?」

脚、と付け足せば一方通行が逃げ場を求めて身を捩る。
真っ白いニーハイソックスは斑に汚れていて、このまま戻れば室内が砂塗れになる事は確実だろう。

―――そっと、伸ばした手でソックスに触れた。

びくりと強張った脚を両手で支えるようにして、少し悩んでから脱がせる事に決める。

「ば…っ、そンな、事、すンな…!」

単純に脱がせるだけなら爪先でも持って引っ張ればいい。そう焦る一方通行の反応にソルが堪えきれず声を上げて笑う。
ソルに抱え上げられ足は地面に届かず、K’に姫の如き丁寧さでソックスを脱がされる。これ以上の羞恥があるだろうか!

「アンタやっぱこっちのが可愛いな」

酔っ払っている時の無防備さも悪くはなかったけれど。
顎を蹴り上げようとした爪先を受け止めて、K’がニヤリと笑う。短いスカートから伸びる白い太腿に赤いグローブが触れる。

「…っ! こ、の、死ねェェェェ!」

一方通行の絶叫が、静かな住宅街に響き渡った。

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