パズズ三話


 某所、改造人間シンジケート・ジェノムの拠点。
 前回、リーダー格の改造指揮官・デスコピオに、突然現れてジェノムの組織活動を妨害し始めた謎の
改造人間について調査せよとの指令を受けた二人の改造諜報員・メガレオンとスパイデルが、早速情報を
持ち帰ってきた。
デスコピオ「早いな」
スパイデル「えへへ〜」
メガレオン「といっても、奴の正体については依然不明のままだが、関連があるのではないかと思しき情報を
見つけてきた」
デスコピオ「ほう」


仮面ライダーパズズ 03 ライダー伝説


 ジェノムの構成員がほぼ全員改造人間であり、世界の大半を占める普通の人間の社会の中で自分達の身を
守るために秘密裏に活動していることは前回述べた。だが、普通の人々に排斥されることを恐れるなら、
何故わざわざ改造人間などをやっているのか? 自虐趣味か? そうではない。
 彼らは大別して二種の改造人間に分かれる。まず、元は普通の人間で、組織に入ってから改造処置を受けた者。
だが、このタイプの比率は組織全体の中では少ない。そもそも一般に組織の秘密が漏れると面倒だからである。
では、残る一つは何か?
 大半の、生まれた時から改造人間だった者達である。
 この世に生まれる前に母親の胎内にいる状態でどうやって改造できるのかという疑問が当然出てくるが、
それをなしえた者がいたのである。
 その何者かによって、後にジェノムメンバーとなる者達の親の更に前の代、或いはもっと前の段階で、
後の子孫に改造体としての特性が発現するよう、遺伝子レベルで処置が施されていた。彼らの親もその辺は
知らされていなかった。
 生まれてから、徐々に人外の能力を発揮したり、明らかに人間でない形質が体に現れたりした者達は、
体裁の悪さゆえに周囲の目から隠されたり、虐げられたり追い出されたり、最悪の場合殺されたりした。
その時点でかなりの数が淘汰されたが、それでも生き残った者は、同じ立場の者を見つけて次第に集まり、
過酷な境遇から身を守って生き延びるために力をあわせていった。その集まりが現在のジェノムの
母体となった。
 裏の世界に身を隠しながらもどうにか日々の生活を安定させた彼らは、次に、何故自分達がこのように
生まれてきたのか、各々の能力を駆使して情報を探り始めた。その末に、某所にてとっくの昔に遺棄された
研究施設の跡を見つけ、残されていた資料群を調べ、それにより、漸く自分らの誕生の経緯を知った。
しかし、何のために自分達が生み出されたのかという理由については、詳細な部分は未だに判っていない。
只、僅かな記録文ではあったが、その記載内容でおおよその予測はついた。
 研究施設を作り、使っていた連中は、彼らの持っていた優れた科学力を駆使し、世界を支配しようとしていた。
 何のために支配しようとしたのかは不明。だが、改造人間としての特殊な力を持った自分達が、その計画の
ための尖兵として使われる予定だったということは判った。
 だが、ジェノム一同は、彼らを生み出した者の意図に只従うことはしなかった。それはそうだろう。
理由も判らないことのために勝手に生み出され、辛い思いをして生き延びてきたのだ。恨みこそすれ、
よい感情を持つことはまあない。自分達の能力を使って収入を得て日々を生き延びていくので
精一杯である。中には表で暮らしている普通の人間への憎悪とか、本質的に持っている歪んだ心とかを
以って悪意で動いている者も多々いるが、全体ではない。一部の者達の悪意が過剰に暴走しないよう
抑え、最低限の裏仕事を行うことで現在のジェノムの活動は成り立っている。
 前置きが長くなったが、メガレオンとスパイデルが調査に向かったのは、彼らの生み出される
原因となった研究施設跡だった。忌まわしい場であることはさておき、資料的価値があるということで
ジェノムメンバーは研究のためにしばしば施設跡に出入りしている。残された技術を利用できないか
試している、技術方面に特化したメンバーも存在する。
 メガレオンとスパイデルは、改造戦闘員アリント達も借り出して大勢で記録資料を漁った結果、
ある記録を発見した。
 かつて施設を所持していた者達の世界征服のための活動に対抗し、ずっと阻止し続けてきた改造人間が
存在したのだという。
 元々この研究施設の技術によって生み出されながら、どうした経緯か主人達の意志に逆らって脱走し、
ほぼ単独でゲリラ的に出没し、次々と世界征服計画を妨害、阻止してきたのだという。
 まさに、今ジェノムの活動を妨害している謎の相手そのものではないか。
 その謎の相手の異常な高スペックも気になるが、更に調べた結果、かつて同じ事をしていた改造人間の
ベースとなった生物の素体が、バッタであったという点まで同じである。
スパイデル「じゃ、今私達の邪魔をしているのはその改造人間・・・?」
メガレオン「いや、かなり昔の記録だし、そのまま当人と決め付けるのも早計だが・・・」
 尚、伝説とまでされていたらしいかつてのその改造人間の通り名が、二人の目に妙に焼きついた。
『仮面ライダー』と。
 
 一方。
「何故・・・何故貴様は我々の邪魔をする!?」
 ジェノムメンバー・ビーネットは憤って叫んだ。
 彼女(ハチの特性を備えた女性改造人間)は、ジェノムの通常活動として依頼を受けて非合法活動に協力していた。
依頼者は政府の執政内容に不満があるらしいテロ団体で、彼らの爆破テロに手を貸す予定だった。一般人が
巻き込まれる公算が高い計画だったが、テロ団体の一同によればやむを得ない犠牲らしい。ビーネットも依頼者の意向に
口を出すつもりはないので、その辺については敢えて何も言わなかった。
 だが、決行期日、彼らのアジトを、問題のバッタ男が急襲してきた。
 バッタの男はテロ団体のアジトに何時の間にか潜入しており、ビーネットを相手にする前に、テロリスト達の
不意を突いて全て倒した。改造人間でない普通の人間相手なら造作も無い。しかも、殺傷せずに全て気絶させ、
最悪でも骨折レベルの軽症で済ませている。
 そして、一人残ったビーネットと、アジトのビルの屋上で対峙したバッタ男は、
「手前の胸に聞いてみろ」
「何だと・・・?」
「手前、何をしようとしてやがった? ここのテロリスト共と一緒に爆破テロをやろうとしてたんだろうが。
関係ない奴らも巻き込むこと前提で。まともな神経してる奴がそんなことを見逃すわけねえだろうが」
 もっともな話であるが、ビーネットは更に憤った。
「知ったような口を聞くな! 我々ジェノムは人ならぬ異形の改造人間として、表の世界の陰で只生き延びるために
泥水すすり草を食ってきたのだ! 卑しい汚れ仕事でもこなして日々の糧を得なければ生きていけないのだ!
貴様も改造人間らしいが、それならば判るはずだ!」
「判らん」
 バッタ男はにべもない。
「どんな弱い立場も悲惨な境遇も、だからと言って他の関係ない奴にその悲しみや苦痛を擦り付けていい理由には
絶対にならん」
「綺麗事をぬかすな!」
 バッタ男はその叫びに間髪入れず返した。

「手前らに、綺麗事を現実に出来るだけの度量がねえだけだろうが」

 ビーネットは切れた。
 憤りに任せ、背中の翅を大きく広げて羽音を立てて飛び、バッタ男に突進。右腕が膨れ上がり、黄色と黒の縞模様の
ハチの腹部に変形し、その先端から長く鋭い針を伸ばして突き立てようとする。
 バッタ男はビーネットが激するのを見越しており、跳躍して攻撃を交わす。二撃目三撃目も軽く交わす。
「おのれ!!」
 ビーネットは更に激して攻撃を続けるが、怒りで動きが大振りになり、スタミナを無駄に消耗する。
その隙を突かれ、逆に拳の連打を食らう。
 大きく仰け反ったところでバッタ男は高くジャンプし、例の必殺キックの照準をビーネットに定め、急降下。

 だが、キックは命中せず、既にビーネットのいない屋上のコンクリートの床を砕いた。
 そのままの勢いで床を破って直ぐ下のフロアに着地したバッタ男は、何が起こったのかと見回し、
破れた天井の真上の空に、間一髪でビーネットを抱えて空に救い上げた別の改造人間を見出した。
手のような長い指の足でビーネットを掴んでぶら下げ、既にバッタ男の攻撃の届く範囲の外に滞空し、
両腕の下の大きな皮膜の翼を羽ばたかせている、コウモリそのものの異形。

「アクロソバット!?」
「冷静になれ、ビーネット。あのバッタ男には迂闊に手を出すなとデスコピオに言われたろう」
 コウモリのジェノムメンバー・アクロソバットはビーネットを諌める。
「しかし・・・奴のほざいたことを私は許せんのだ! 一矢報いねばおさまらん!」
「ならば尚のこと冷静になって機会を待て。確実に奴をしとめたいのなら」
 アクロソバットは、ぎりぎりのタイミングでビーネットを救い出すまで陰で静観し、バッタ男の言動や
動向を観察していたのである。
 高所からバッタ男に声を掛ける。
「お前は我らジェノムを潰すなどとのたまったそうだが、何のためにだ? 我らと戦うことで何か
お前に益することでもあるのか? 誰かに頼まれたのか?」
 ジャンプしても一息ではアクロソバットまで届かないと悟ったバッタ男は、言葉で答える。
「別に益することなんかねえよ。手前らのやってることは見てて気分が悪い。普通に暮らしてる連中にも
迷惑だ。だから邪魔してやる。それだけの話さ」
「ほう・・・何の得もないのにか? いわば正義の味方というわけか。結構だな」
「正義かどうかは俺も判らん」
 バッタ男は、正直な心中を吐露した。
「判らんが、とにかく手前らの企みは止める。止め続けてやる」
 暫く睨み合いが続いた後。
「判った。今日のところは退こう。だが、ジェノムに楯突いた事をお前は必ず後悔する事になるぞ」
 ビーネットを連れ、アクロソバットは去る。その寸前、
「一応聞いておく。お前の名は?」
「・・・・・・」
「散々大言壮語を吐いておいて、匿名等という腰の引けた真似はするまいな」
「・・・それもそうか」
 謎の改造人間はファイティングポーズで構え、大声で名乗った。

「仮面ライダー・パズズ!!
 手前らジェノムを食い尽くす、風の魔王よ!!」

 拠点に帰還したアクロソバットとビーネットから事態を知らされたデスコピオ達は、謎の改造人間が
やはり『仮面ライダー』であったことを認識することになる。
 それ以外の詳細はまだ判らず、これからまだまだ調べねばならないのだが。

 続く。






小説トップへ
2007年03月13日(火) 22:14:27 Modified by neppu_rider




スマートフォン版で見る