パズズ六話

仮面ライダーパズズ 06 海棲博士


 1話よりずっと舞台になっている市街から南下した地点の、海に面した沿岸。その地下にも、ジェノムの
拠点が存在していた。
 この拠点は、ジェノム誕生の遠因となったかつての謎の組織の研究施設跡から発見されるテクノロジーを
分析し、利用出来るかどうか研究するための場であり、総合的な科学知識に長けたジェノムメンバーの
一人のリーダー格が、この研究所を統括していた。
 名を『イカロケン』という。普段は先天的改造人間ではなく通常の人間の姿をしており、白髪に長い白髭の
老人だが、背筋はまだ曲がっておらずかくしゃくとしており、常に白衣を着ている。見た目にも判りやすく、
組織内では『海棲博士』の通称で通っている。ビーネットの右手の毒針発射機能を強化改造したのも
この老人で、同じように必要に応じての強化改造を他のメンバーにも行っている。
 そのイカロケンの研究所に、デスコピオが訪れていた。デスコピオも人間体、黒スーツの男の姿で。
 デスコピオはジェノム内でのリーダー格でカリスマもあるが、組織を仕切っているのは彼一人ではない。
イカロケンもリーダー格の一人であり、他にも戦闘力だけでなく統率力の優れた数名のメンバーが各々
各部署を仕切り、又、問題が起きた際には集まって解決法を検討するというシステムによって、
一部の部署が暴走したりするのを防いでいる。
 今回デスコピオがイカロケンの下に来たのもそういう理由で、ここ暫くジェノムの活動を妨害してくる
仮面ライダーパズズへの対抗策がないかを相談するためであった。
「メガレオンとスパイデルには引き続き研究施設跡の調査をさせているが、仮面ライダーと呼ばれる
存在への有効な対抗策については一向に見つからない状況だ」
「そうじゃろうな。見つかっとったら過去の組織もとっくに仮面ライダーとやらを倒して世界征服に
成功しとるじゃろうて」
 イカロケンもデスコピオ同様泰然としている。
「お前さんが来る前にも、ビーネットの奴が来て色々ごねおったぞ」
「やはりか」
 前回共同作戦を行っていたアクロソバットがパズズに倒され、自身もテロリスト達と共に撤退せざるを
得なくなったビーネットはいらついていた。一刻も早く報復したいのだが、デスコピオは用心のために
早まった真似はするなと釘を刺し、当面機を窺って潜伏する方針となったテロリスト達の護衛を
引き続き行えと指示された。それでも不満は収まらず、ビーネットはこっそりイカロケンの所に来て
パズズを倒せるほどの更なる強化改造を施してくれと要請したが、イカロケンもデスコピオの慎重策には
賛同しており、説き伏せて帰らせた。最後にデスコピオの名を出すと、ビーネットも渋々従った。
「何が起こるか判らん戦局において一点突破だけの強化策は危険ということが中々判らんらしい。あやつだけに
限ったことではないがのう」
「それに、ジェノムの活動は一箇所だけで行われているわけではない。仮面ライダーが一点二点の作戦を
妨害したからといって、いきなり組織の屋台骨が傾くということはない。ライダー対策だけに固執するのも危険だ。
日々の活動は活動でこなさなければならん」
「じゃのう」
「だが、確かに何時までも放っておいていい問題でもない。ライダーだけが不安材料というだけではない。
ビーネット以外にも血気にはやりやすいメンバーは少なからずいる。腰の引けた態度を取り続けるばかりでは、
いずれ辛抱が効かずに突出する者が出かねん。それこそがメンバー同士の不和を招き、屋台骨を傾かせる危険性がある」
「うむ」
 イカロケンはデスコピオの懸念を受け、策を講じることにした。
 地下、メトロチャンバーでジェノムの動向を観測していた三崎理香の得た情報により、緑川一平はストリーム
(スポーツバイク形態)を駆って海岸へ向かった。
 曇り空の下、ストリームを止めて降り、人気のない海岸をうろつく一平。
「理香の奴は、アリント共がこの辺りにこそこそ出入りしていたらしいと言ってたが・・・」
 ジェノムのアジトがあるかもしれないと見て、怪しげな辺りを見回る。
 高い絶壁に囲まれた、波が打ち寄せる足場の悪い磯辺りまで来たとき。
 一平は、何かが迫るのを、目で見る前に感じた。飛びのいて切り立った岩の上に降り立つ。
 さっきまでいた場所を、一平より一回り大きいものが高速回転しながら飛んで通過し、崖にぶつかって岩を砕いた。
物体はそのまま水辺に落ちて飛沫を上げ、やがて、もそもそと起き上がる。
 巨大なヒトデ。
 五本の触足のうち二本で器用に直立し、後三本が腕と頭の位置に来て、一平に向けて人のように構えを取っている。
少々間抜けな図にも見えるが、侮るのは危険だと一平は警戒。
「ジェノムの改造人間か!」
 一平も受けて、構えを取って変身。腰周りにベルトが実体化し、タイフーンエンジンが回転してエネルギー
フィールドを張って身を守り、その中でパズズに変わった時点でフィールドが解除される。
 変身を終えたパズズが、ヒトデの怪物と対峙していたとき。
 もう一体の伏兵が、不意を突いた。
 海中から無数の触手が伸び、パズズの体に後ろから巻き付いて動きを封じる。
「何!?」
 パズズは踏ん張って抵抗するが、次第に海に引きずりこまれていく。
 海中には、これも巨体の改造人間がいた。そのまんまイソギンチャクの体の下から、人間の足が二本生えて立っているだけ。
「ライダーをおびき寄せるための餌としてブラフの情報を巻き、実際に来たのはいいが」
 隠しカメラで戦況を捕捉し、イカロケンの研究室でモニターしているデスコピオ。
 尚、一平=パズズが調査していた付近には、壊されても痛手でない程度に安普請の、ダミーのアジトも用意してある。
デスコピオ達がいる場所が本物。
「奴が変身する前に攻撃すれば、より大きなダメージを与えられたのではないのか?」
 イカロケンに尋ねるデスコピオ。
「意図してか?」
「仮面ライダーはわしら先天的改造人間と違い、元々は普通の人間が後から外科手術を受けて造られた
ものらしいな。グランゲラのような後天的改造人間に相当する」
「そう聞いているが、それが?」
「お前さんも知っての通り、わしらは『かつての組織』の技術を各方面で実験的に取り入れているが、まだ未知の部分が多く、
使いこなせてはおらん。特に後天的改造人間については、殆どが知能の低いけだものそのものになってしまうという点で
大きく遅れを取っておる」
 ちなみに、雑役用の後天的改造人間を造るための素体となる人間を、ジェノムが何処から調達しているかというと、
ホームレスや外国人不法侵入者等で行き倒れて死に立てか死に掛けになった者を腐らないうちに密かに回収して
使用している。戦闘員アリント等もほぼこのケースである。
「しかし、あの仮面ライダーは後天的改造人間でありながら人としてのまともな自我を保ち、しかも戦闘性能においても
ジェノムメンバーの中堅クラスをも凌駕するものがある。わしはその仮面ライダーに、サンプルとして大いに興味がある」
「・・・イカロケン、目的は判っているだろうな? 我々の活動を邪魔する仮面ライダーパズズの排除・・・」
「判っておるよ。只、奴のデータを取れるだけ取るのは奴への対策、その後のジェノムの活動において役立てる意味でも
決して無駄ではあるまい」
「程々にしておけよ」
 様子を見ることにするデスコピオだが、いい気分ではない。
 そもそも、ある日突然人でなくなったことで裏の世界に身をやつさざるを得なくなった先天的改造人間である。
わが身の問題ではないといっても、他の者が改造人間にされることにいい感情を覚えない者もいる。只、イカロケンに
ついては、そうした感情よりも研究欲の方が優先しているということである。

 イカロケンのデータ収集という狙いにより、下級の後天的改造人間・イソガインはパズズを海中に引き込んで
尚も攻撃を続ける。しかし、イソガインにもグランゲラ同様高度な判断力はない。指示が入らない限り、己の食欲に素直に
従い、無数の触手の根元の巨大な口でパズズを飲み込んで単に消化する気である。イカロケンにしても、このままパズズが
ろくな反撃も出来ないようであればそのまま食わせるつもりである。
 そして、最初はもがいていたパズズだが、やがて、その手足から力が抜けた。そのまま飲まれていく。

 静かな小波を立てる海面。
 だが、その静寂は突如破られた。
 一帯の海面から激しい電撃が迸る。
 暫く続いた放電が収まり、煮えた魚が次々浮いてくる。
 続いて、イソガインの焼け焦げた破片が大量に浮いてくる。
 最後に、全身から湯気とスパークを放つパズズが海から立ち上がった。
 途中で下手に抵抗して力を消耗するのをやめ、自らイソガインの体内に飲み込まれ、内部で消化される前に
エレクトロトラップを発動して電撃でイソガインを倒したのである。
 水を滴らせて立っているパズズは、続いて、まだ残っているヒトデの怪物を睨む。
(俺がイソギンチャクと戦ってる間、こいつは何もせずに傍観していた・・・アクロソバットのときのように、
又消耗した俺に追い討ちを掛けるつもりか・・・?)
 来るなら来い、まだまだやれるぜと身構える。
 だが、ヒトデは挑んでくることはせずに後方に跳び、飛沫を上げて海に飛び込む。
 そのまま海は静まり返り、攻撃が来る気配はなくなった。
「・・・逃げた・・・?」

「ご苦労じゃったな」
「何と言うことはありません、イカロケン博士」
 デスコピオと共にアジト内で待っていたイカロケンの前に帰還したヒトデの怪物が、丁寧な言葉を発して答えた。
 五本の触足のうち、真上に伸びた頭に当たる部分の表皮が縦に裂け、臓物のような質感の、目鼻と口のある顔が現れた。
その目には、高い記録・分析性能を持つカメラと計測器が仕込まれている。
 水中の戦闘状況までも透視し、間近でパズズの戦いを観測していたのだ。
「取り合えず取れた戦闘データを元に、仮面ライダーパズズに対抗するための強化改造をお前に施す。
矢面に立ってもらうぞ、カイセイ」
「お任せ下さい」
 ジェノムメンバー・カイセイは、下位の後天的改造人間ではなく、先天的改造人間の中堅であった。

 続く。




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2007年03月27日(火) 19:47:19 Modified by neppu_rider




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