第三十七景 封じ手 << 物語 >> 第三十九景 土壇場
ご武運を。決戦の日、岩本家を出た源之助を、戻ってきた門弟たちが出迎えた。三重のみがこれに笑顔で答えた。仇討場の一町手前より人垣が出来ており、その中に源之助に声をかける兄がいた。しかし、一瞥どころか眉一つ動かさず、弟は素通りした。藤木源之助は士の家に生まれたる者、貧農の三男である源之助は、とうの昔に縊れ死んでいるのだ。
先に仇討場にいた清玄といく、源之助らがついたときにその服装を確認していた。鎖は着込んでおらず大小のみ。
仇討場に入ったのは源之助と三重、牛股、大坪の四名。対面に清玄の姿を見つけた三重の頬は高潮し、唇はわずかに震えた。懐剣を強く握り締めたのは手の震えを隠すためか。町人や百姓にとってこれほどの見世物があろうか。士と士が、どちらかが死ぬまで戦うのだ。さらに多くの武芸者たちも、この仇討を見るために集まっていた。濃尾無償虎眼流の秘剣が、白日の下に晒されるかもしれないと。馬回役に警護された見分席には、掛川藩の重臣が座した。検校、柳沢頼母、孕石備前守。その背後の偉丈夫は備前守の三男雪千代。備前守が尾張国より雪千代を呼び戻したのは、藤木源之助という士を見せるために他ならない。準備が整い、太鼓の音が仇討場に響く。源之助と清玄が見分席の前に出て一礼、重臣が家康公御遺言百箇条を読み互いに承知したといった。
そのまま両者相手を見て、静かに太刀を抜いた。源之助の左手は小刀に添えられた。あの下段封じの秘策である。清玄の剣はゆっくりと地面を目指し、地表近くでぴんと跳ね上がった。上段、それは予想してなかった構えだった。
先に仇討場にいた清玄といく、源之助らがついたときにその服装を確認していた。鎖は着込んでおらず大小のみ。
仇討場に入ったのは源之助と三重、牛股、大坪の四名。対面に清玄の姿を見つけた三重の頬は高潮し、唇はわずかに震えた。懐剣を強く握り締めたのは手の震えを隠すためか。町人や百姓にとってこれほどの見世物があろうか。士と士が、どちらかが死ぬまで戦うのだ。さらに多くの武芸者たちも、この仇討を見るために集まっていた。濃尾無償虎眼流の秘剣が、白日の下に晒されるかもしれないと。馬回役に警護された見分席には、掛川藩の重臣が座した。検校、柳沢頼母、孕石備前守。その背後の偉丈夫は備前守の三男雪千代。備前守が尾張国より雪千代を呼び戻したのは、藤木源之助という士を見せるために他ならない。準備が整い、太鼓の音が仇討場に響く。源之助と清玄が見分席の前に出て一礼、重臣が家康公御遺言百箇条を読み互いに承知したといった。
そのまま両者相手を見て、静かに太刀を抜いた。源之助の左手は小刀に添えられた。あの下段封じの秘策である。清玄の剣はゆっくりと地面を目指し、地表近くでぴんと跳ね上がった。上段、それは予想してなかった構えだった。