※この作品は「タナバタドタバタ」をエンゼル視点で描いた物です。先にそちらを読む事を推奨します。



○月×日 AM5:03

「うー眠い………」

ふっと油断すると飛びそうな意識を、目蓋をこする事でつなげとめる。
現在の時刻は5時。
いつもならまだぐっすり…とはいかない事も多いけど、寝ている時間だ。

なのに何故起きていたのかというと。
昨晩、ユウキから聞いた「七夕」という行事の話。
それをキャプテンと二人きりで行う為に、私は徹夜でそれに必要な笹竹について調べていたという訳だ。

「ま、その甲斐はあったけどね」 コポコポ

眠気覚ましのコーヒーを入れながら、ニヤリと笑う。
地形、気候、島の形等を諸々調べた結果、もう殆ど目の前に迫っているあの島には
笹竹が沢山茂っている事は間違いない。
どこにでもある植物じゃないのに、よくこんな都合良い島があったものだ。
ひょっとしたら、これも運命なのかもしれない。
オリヒメとヒコボシがアタシの恋を応援してくれているんだ。
ならばその期待には応えなくてはなるまい。

今日は絶対に人生で最高の一日にする!
そう強い決意を固めて、アタシはゴクリとコーヒーを飲むのだった。





○月×日 PM3:41

「ふふん、そんなにこの笹竹が欲しいんだ?
 だったら、勝負しようよ。この立派なのを賭けて。一騎討ちだ!」

…どうしてこんな事になっているのか。
そりゃあ確かに、折角キャプテンと二人きりなんだから、すぐに見つかるルートを避けて
別ルートから探しに行ったのはアタシだ。
でも、それにしたってここまで見つからないのは異常…とは思っていた。
いや、厳密には見つけてはいたんだけど、それは既にばっさりと真っ二つどころか真っ五つ位に斬られたものばかり。
切り口とかを見るに、どうも最近斬られた様だからおかしいとは思っていた。

これまでにあった色々なトラブルによる疲れや、見つからない事への焦りがピークに来ている時に出会ったのが
目の前にいる海賊の姫だ。
話を聞くと、昨日からこの島に居たらしく、この島で手に入れた刀がかなりの名刀で
その試し斬りに丁度良い、と笹竹を斬り漁っていたらしい。
ホント迷惑な娘だよ。

「やれやれ、今日はツイてないと思っていたが、極めつけだな…」

キャプテンが疲れ顔でぼやく。全く同感だね。

「アタシとしてはラッキーだけどねぇ。いつかの借りは返させて貰うよっ」

ギラリ、と海賊の姫が刃をこちらに向けて来る。
幸い、今回も単独行動をしている様で、周りに仲間は居ないから逃げる事は出来なくは無いけど…

「キャプテン、アタシが戦ろうか?」

ノコギリとスパナを構えて、キャプテンにそう提案する。
逃げる事は出来ても、ここで笹竹を逃したらこれから手に入れる事が出来るか分からない。
探索スタートした所から、ちょっと逆方向に行ったトコに群生林があるのは多分間違い無いけど
この分だとそこもまだ残っているかは怪しいトコだ。

と、いう理屈としての理由もあるけど、実の所は単純にムカついているから、だ。
ここまで苦労させられた事の怒りもあるけど、それはこの際まぁいい。
そのお陰で合法的にキャプテンと長く一緒に居れたと言えなくも無い訳だし。

本命の理由は、嫉妬、だ。
初めて会った時から、馴れ馴れしくベタベタとキャプテンに絡んで来て…!
アタシがその感じになるまで、どれ程苦労したと思っているのだ。
そ、それに。いっつもそんな肌を露出した、せくしーな格好してキャプテンを誘惑して…!
ちょ、ちょっとスタイルが良いからって…それを武器にするのはズルい。

そして、これは女の勘なんだけど。
この人もきっとキャプテンに惹かれている。
数多くいるライバルの中でも強力な一人だ。
今は立場とか、たまにしか会わないとかいう事で、表面化はしていないけど
一度その気になったら、一気に襲ってくる可能性がある。

そうなる前に、ここで一度叩いておく必要がある。
キャプテンの事を一番好きなのはアタシだと、戦いを通じて分からせる。
キャプテンの貞操はアタシが守るんだ!

ポン

そんな諸々の感情を込めて力を溜めていると、アタシの頭にポンとキャプテンの大きな手が乗せられた。

「無理するな、エンゼル。オレに任せろ」

一歩前に出ながら、力強い一言。
ずきゅーん。
カッコ良い………。

「で、でも、キャプテンだって疲れてるでしょ?回復薬とかもアタシに譲ってくれてたし…」

「確かに出来る事ならやりたくは無い。この化け物が相手だしな。
だが、海の男が一騎討ちを挑まれて逃げる訳にもいかない」

「た、確かにアタシじゃ、この悪魔に勝てる可能性は低いかもしれないけど…。
 そ、そうだ二人で戦おうよ!それならこのゴリラにだって勝てるよ!」

「いや、それは出来ないよ。いくらこの体力バカが相手とはいえ、二対一はアンフェアだ。
 …それに、昔から言うだろ?山で笹狩りをするのは、男の仕事だ」

「………分かったよ。じゃあアタシは川で洗濯だネ。
 汚れた服は後で洗ってあげるから、存分に戦ってキャプテン!デザートに桃も用意しとくよ!」

「おぉ!俺は絶対にこの鬼を倒して、生きて帰るぞ!」


「……………うん、アンタ達二人共、殺されたいんだね」 ドドドドドドドドドド


何故かドス黒いオーラを背負った海賊の姫が突進して来て、勝負が幕を開けた。
頑張れーキャプテン!!!





○月×日 PM5:48

大分辺りも薄暗くなって来た。
でも、アタシの心は明るかった。
胸に抱えるのは、一本の笹竹。
キャプテンがアタシの為に勝ち取ってくれた笹竹だ。
…まぁ厳密に勝ち取った、と言えるかは微妙なトコだけど、結果としては同じ事だ。
血と汗を流して得たプレゼント。どんな高級品より嬉しい。

「でもちょっと寂しいかもな。一本だけだと」

今アタシ達は船へと戻る最中だった。
流石にこれ以上暗くなると危ないし、アタシもキャプテンも体力は限界が近いしね。
船に戻ったら、晩ご飯を食べてその後は…ふふふ。

「ううん。私の部屋に飾っておくんだし、一本でも十分だよ。キャプテンが頑張って勝ち取った竹だしね。
 キャプテン。船に戻ったら一緒にタンザクを作ろうね」

元々、他のクルー(特に女の子達)にバレない様に、多く持ってくるつもりは無かったしね。
まぁ船の材料に使うとでも言えば大丈夫と思うけど、ジュンやミーナあたりは勘が良いから油断は禁物だ。

「あぁ。色紙はもう用意してあるしな。吊るす為の紐も準備済みだ」

「さっすがキャプテン!
 ……ねぇ、キャプテンはタンザクにどんな願い事を書こうと思ってるの?」

表面上は話の流れの、軽い感じでの質問。
でもアタシの心臓の鼓動はかなり早まっていた。
も、もし「エンゼルとずっと二人で生きて行く事かな」とか言われたらどうし――

「俺?そうだな、やっぱりカリムーの宝の発見かな」

ですよねー。知ってた。

「神頼みをする訳じゃないが、手助け位はしてくれるとありがた…って、何かエンゼル怒ってないか?」

「べっつにー。何でも無いよー」

ま、ここでそんな事言ってくれる人なら、アタシも苦労してないよね。
全く、これだから朴念仁は。
何でこんな人がモテるんだろう。………ってアタシが言っても説得力無いか。

「そういうエンゼルはどうなんだよ?」

「え?ア、アタシ?」

しまった。この質問が返って来る事は予想するべきだったね。どんだけ余裕無かったんだアタシ。

「あぁ、デネブとベガに何を願うんだ?」

「そ、その質問はズルいよ。先にキャプテンが言ったんだからアタシが馬鹿みたいじゃん」

「?何言ってるんだ?むしろ聞いたんだから、答えるのが筋ってものだろう」

「そ、それはそうだけどさ。…………予定とは違うけど今もう言っちゃう?いやでも(ボソボソ)」

う、うーん。どうしよう?
ムードとしてはそんなに悪くは無い。
ベストな展開は「俺の願いはエンゼルと〜」→「えへへ偶然だね私も同じ〜」だけど
それは高望みが過ぎるというものだ。
今、想いを告げるのは、話の流れとしては自然………だと思う。

「ん、悪い、後半が聞き取れなかった。何だって?」

「…キャプテン。私の願い、聞いても笑わない?」

でも、まだ勇気が出ない。最後の一押しが足りない。
元々その為に、七夕の力を利用しようと思ったんだから。

「当たり前だろ。俺が人の夢を笑う様な奴に見えるか?」

「…ううん。そうだよね。ゴメンね、変な事聞いて」

間を埋める為だけの、意味の無い質問だった。
キャプテンの事だ。真剣にぶつかれば茶化さずに真剣に受け止めてくれるに決まってる。
でも、結果は分からない。困らせてしまうだけかもしれない。
今の距離感すらも、失ってしまうかもしれない。
結局アタシは――不安なのだ。この想いが何をもたらしてしまうのかが。

やっぱり駄目だ。
ここは笑って、綺麗な服が欲しいとでも言って適当にごまかしておこ


「エンゼルの願いが何かは知らないけど、俺に出来る事なら何とかしてやるぞ?
 他ならぬエンゼルの為だしな」



―――――――っ。
そう考えて、口を歪ませた瞬間、キャプテンがそんな事を言いだした。

それを聞いた瞬間、心臓をわし掴みにされた様な衝撃が走る。
我ながら単純だ。
キャプテンの事だ。多分、そんなに考えての発言では無く、軽く口から出ただけだろう。
頭ではそれは分かっている。
けれど、体が熱くなっていくのが止められない。思考停止。オーバーヒート。
頭の中でぐるぐるキャプテンの言葉が回る。

今、何かキャプテンが喋っているのを耳には入ってたけど、頭には入っていなかった。
あーやばい、何も考えられな―――!?

「……はっ!…!?ふぇっ!?はわわわわ!?な、何してるのキャキャキャプププ!!」

真っ白だった視界に、キャプテンの顔が入って来た。
近い。凄く近い。以前に一大決心してキャプテンの上に乗った時より近い。
少し顔を傾けるだけでキス出来そうな距離だった。
ぼふっと顔から湯気が出る。はわわわわわ。

「い、いや。エンゼルがぽーっとしてるから、熱でもあるのかと。
 というか本当に大丈夫か?辛かったら、俺が船までおぶろうか?」

「はぁっはぁっ………いや、うん。大丈夫、何でもない。も、問題無い」

胸を抑え、どうにか荒い息を整える。いつの間にか笹竹はキャプテンが持ってくれた様だ。

「そうは見えないが…」

「そ、そんな事よりキャプテン!さっきのって本当!?」

「さ、さっきの?」

「アタシの願いを叶えてくれるって話!」

勢いに任せて、キャプテンにぐいっと迫る。
な、何をしてるんだアタシは?何か暴走してるぞ?まさか本当に虫にでも噛まれた?

「あ、あぁ。あくまで俺に出来る範囲の事だぞ?」

「うん、それでいいの。アタシの願いは、この広い世界でたった一人。
 キャプテンにしか叶えられない事だから…」

いやでも、このムードは悪くない。
さっきキャプテンの言葉が、アタシに勇気を与えてくれたんだ。
これは、暴走だけど、暴走でも良いや。
アタシのずっと走りたかった道、言いたかった言葉を発してるんだから。

「コナミさん。アタシのお願い、叶えてくれる?」

キャプテンの事を、名前で呼ぶ。
コンキスタ号のクルーとしてではなく、一人の女として一人の男に想いを告げるんだから。

コナミさんは、真面目な顔でコクリと頷いてくれた。
予想通り、真剣に受け止めてくれた。
その事が無性に嬉しい。

「じゃ、じゃあ言うよ。んっんんっ…コホン。
 アタシ、エンゼルのたった一つの願いは、コナミさんとむすばれる事です。好きです、コナミさん」

――――言えた。バッチリだ。ムードも満点、小説の中のアタシの告白に負けない位だ。

「コナミさん、アタシの想い届いたかな?返事、聞かせて欲しいな」

コナミさんの顔を見るのが恥ずかしくて、俯いたまま尋ねる。
返事を聞くのは怖い。でも、聞きたい。
聞きたくないけど、聞きたい。

もうさっきまでの暴走状態というか、無敵感は解けている。
ロマンチックに言うのなら、コナミさんの言葉の魔法が解けたという感じだ。
でも大丈夫。逃げたりしない。ちゃんと受け止められるよ。

パン!

え?音がした方を見ると、コナミさんが自分の頭を横から両手で叩いていた。
え?何だろこれ?バラポルト式の返事なのかな?
だとしたらイエスなのノーなの?

「済まないエンゼル!その話は後で船でするから、今は急いで船に戻るぞ!」

アタシが混乱してると、キャプテンは焦り顔でそう言って駆けだした。

「えっあっうん。そ、そうだね!大事な事だもんね。考える時間は必要だよね。」

アタシも慌てて後を追う。
ま、まぁ確かに、その場の勢いに流されて返事するのは良くないからね。
勢いで言っちゃったアタシが言うのもなんだけど。
…というか、何かアタシ無意識に何かから目を逸らしてる様な気がするのは気のせいなんだろうか…?



アタシの一世一代の告白が、謎の大砲の音にかき消されて、空振りに終わっていた事に気付いたのは
それから10分程後になっての事だった。
絶対その犯人ボコボコにする………。





○月×日 PM6:12

「…………………………」 ダラダラダラ

何だろうこの状況は。帰りたい。怖いよー。
豆柴をぶっ飛ばしたすぐ後に、ミーナとカズちゃんがアタシの所に来て
ちょっと直して欲しい所があると言われて、奥の船室に連れて来られた。

そこに居たのは、レンちゃんとハルカちゃん。
部屋に入った瞬間、ガチャリと鍵を閉められて。何か4人に周りを囲われた。
その時には大体自分の状況を悟った(というか船で七夕祭りやってた時に嫌な予感はしてたけど)
そして自主的に正座をして、今に至る。

そんな私に、正面に立っているレンちゃんが話しかける。
表面上はいつもの穏やかな優しい顔だ。…表面上は。

「…エンゼルさん。別に足を崩してもらって大丈夫ですよ?」 ゴゴゴゴゴ

「いえ、させて下さい」ダラダラダラ

「何故ですか?という事は私達に対して何かやましい事があると?」

「…………………」

「どうして黙ってるんですか?聞こえませんでした?人の話、聞いてないんですか?
 それとも私なんかからの質問には答えられない、答えたくないって事ですか?」

「…ご、ごめんなさい」

「ごめんなさいとかではなくて。何ですか?私の訊き方が悪いんですか?私のせいなんですか?
 それとも、私に対して何か後ろめたいと思う気持ちがあるから正座して、謝ってるんですか?
申し訳無いと思う事をエンゼルさんはしたんですか?申し訳無いと思う事をエンゼルさんは考えてるんですか?」

怖い怖い怖い怖い怖い。
レンちゃんには心の奥に闇というか、怖い所がありそうとは思ってたけど
まさかここまでとは…。
下を向くアタシの視界の端には、レンちゃんの手が写っているんだけど…手がグーだ。
凄く力が入ってるのが見ただけで分かる。

もう泣きそうです。体中から冷や汗がダラダラ出ています。恐怖で。
恐竜と一騎討ちする時もここまでは怖くなかったです。
30分前まであんなに幸せだったのに、どうしてこうなった…。

「ハイ、ドッキリーーーーー!!!!!」><○

「もうーレンったら迫真の演技なんやからー。エンゼルはんめっちゃビビってはるで〜」

「え?」

「そうですよ〜横に居た私まで泣きそうになっちゃいましたよー」

そんな私に横の二人が空気を読んだのか、助け船を出してくれた。
いや、それを聞いても「もービックリしたよー☆」とはならないよ。
だって「え?」って言ったし「え?」って。

「そ、そうだ!さっきジュンさんが時間が出来たら調理室に手伝いに来て欲しいって言ってたの忘れてました!
 レンさん、一緒に行きましょう!」

「……分かりました。それではエンゼルさん、また後で」

バタンッ

それを察したのか、ハルカちゃんがレンちゃんを連れ出してくれた。流石実は空気読める子だ。
た、助かった…。

「……いやまァ、レンも本気で怒ってる訳では無いと思いますヨ?エンゼル」

「ち、ちぃっと思い込みが激しい子やからな、気にせん方が良いで」

残った二人が何か気を使ってくれる。泣きそうだ。
この二人もキャプテンの事が好きなんだろうに。というか女性陣は大なり小なり全員だけど。
ちなみに私の見立てでは、想いが強い順に
私、レンちゃん、カズちゃん、ジュン、ミーナ、ハルカちゃん、ヒヨリさんってトコだと思う。
ジュンはちょっとまだ未知数だけど。

「まぁ、キャプテンとの付き合いが一番長いエンゼルのアタックでしたからネ。
 内心穏やかではなかったんでしょう」

それはよく分かる。きっと私も逆の立場だったらとても冷静でいられなかっただろう。
私達、というか女性クルーの皆は、暗黙の了解として、全員がキャプテンの事を好きだという事を知っている。
ギスギスしたく無いから、休戦協定というか、暗黙のルールみたいなものがあるのも事実ではある。
私がした事は、それを逸脱した行為。
その事は、どうしようも無く事実である。

「………ま、別にウチ達が文句を言える立場じゃないんやけどな。
 昨晩のエンゼルとキャプテンの会話を盗み聞きしてたのも事実やし。スマンかった」

「あぁやっぱりそうだったんだ。ううん、皆に隠してたアタシも悪いからおあいこだよ。
 それに今日のキャプテンとの探索は、邪魔しないでくれたんだし」

「気持ちは痛い位分かりますからネ。レンはかなり葛藤してたみたいですが、結局我慢したようでス」

………ホント、今改めて思うと悪い事しちゃったなぁ。
だからこそバレない様にこっそりと…と思ってたとこもあるけど、それこそ詭弁だよね。

「ち、ちなみにエンゼル。今日はそのー………どうやったん?」

「え?う、うーん…。どうって言われても…」

何とも答え辛い質問だ。
キャプテンはあの通りの朴念仁だから、アタシの事を女としてどう思ってるかは分からない。
今日の事から、大事に思ってくれてる事は分かったけど…。

「ま、まぁ、色々あったよ。トラブル続きで大変だった」

仕方ないので、アハハとそんな風に誤魔化す。
カズちゃんの期待した答えは返せないけど、その答えはアタシが知りたい位なんだから仕方無い。

「さ、さよか…お疲れ様やったなぁ」

カズちゃんも詳しく聞いて来る事はなく、あははと二人して気まずい笑いを漏らす。

「さテ、エンゼル。
 さっきカズーイも言いましたが、私達は別に怒っている訳では無いです。
 恋愛事は先手必勝奇襲上等とも言いますシ。夜にキャプテンに偶然を装って迫るとかは皆やってますしね」

「!」

カズちゃんがビクリと体を震わせる。自分はバレてないと思ってたのだろうか。

「キャプテンと二人でイベントをやろうとしたのは、少しズルい気もしますが
 まぁ結果的に、全員が知る事となったので不問としましょウ。盗み聞きしてた負い目もありますしね」

つらつらとミーナがアタシの罪状を述べて行く。
でも、この感じなら許してくれそうだ。ふー一時はどうなる事かと思ったけど
何とか五体無事に済みそうだ。

「ですガ」

アタシがそんな風に安心したのも束の間、ミーナの声色が変わる。

「それではエンゼルの気が済まないと思うので、お仕置きはさせてもらいますね」

ニッコリ、と笑ってミーナが迫って来る。
な、何か手がわきわきと動いているんだけど…。目はピキーンって感じに怪しく光ってるし!

「な、何をするつもりなの…?ぜ、全然アタシは許してくれるならそれで良いんだけど…」

身の危険を感じて、ワリと駄目な発言をしながら後ずさる。
今迄正座してたから急には立ち上がれず、尻餅をついた様な形でずりずりと後ろへ下がる。

「またまた〜こういうのは罰を受けちゃった方が、罪悪感に苛まれずに済んでお得ですヨ?
 いわばこれはエンゼルの為のお仕置きなのですはぁはぁ」

そんな息を荒くして、欲望に塗れた目で言われても説得力は皆無だ。

「た、助けてカズちゃん!」

「…………………スマン、エンゼル」 ギュッ

!?

「え、な、何?ロ、ロープ?」

カズちゃんに助けを求めるも、さっきまでの場所にカズちゃんは居らず
いつの間にかアタシは背後を取られて、後ろ手に縛られてしまった。

「フフフ、エンゼル。カズーイを責めてはいけませんよ?
貴方が悪い訳では無いとは分かっていても、単純に羨ましいという嫉妬の炎が燃えるのは仕方無いですよネ?」

「そ、そんなぁ………」

「……………………」

カズちゃんに視線を向けるも、合わせてくれずにバツの悪そうな顔をするだけだった。
何か弱みでも握られているのだろうか。

「それにカズーイも、こういう事に興味津津なオトシゴロですからネ♪
 私は私で、エンゼルのその10代前半にしか見えない肌やスタイルを、ずっと触れてみたいと思ってましたシ」

「い、いや…」 トン

壁に背中が付く。もう逃げ場は無い。

「優しくしますから、心配しないで下さイ!」 バッ!

「ひゃあああああああああああ!」

「お祭り中です。大きな声出しても誰にも聞こえやしませんヨはぁはぁ」 むにゅむにゅ

「んぁっ!やっやめっっっひゃっんんんん!」

「う、うわぁ……。やっぱ堅いんはウチだけなんか…?」





○月×日PM8:42

秘技、章変えリセット。
何もされてないよ?大丈夫、アタシはキレイな体です。
…………………ぐすん。
ノーカウントノーカウントノーカウント。女の子だからノーカウント。
切り替えろアタシ!

…コホン。
今アタシは自分の部屋に戻っている。
目の前には、部屋に合わせたサイズに加工した笹竹。
飾り付けはあえてしない事にした。
ごちゃごちゃ付けて笹に負担をかけるのも嫌だし、短冊だけでも十分輝いて見えるハズだしね。

そう、短冊、だ。
今、アタシの手には短冊がある。
ミーナから、二人が部屋から出る時に貰ったものだ。ちょっと濡れてるけど気にしない。

使い慣れたペンも机の上にあるし、吊るす為の糸もある。
すぐにでも、笹竹に吊るす事は出来る状態だ。
後は、書く事を決めるだけ。

「…うーん、どうしたものかなぁ」

もう20分位考え続けている。
当初の予定、というか作戦ではアタシの部屋にキャプテンを呼んで
お酒でも飲みながら、二人で短冊を書く。
そして、タイミングを見計らって、キャプテンに短冊を見せてアタシの想いを伝える。
決め台詞は「織姫と彦星はこのお願い、叶えてくれるかな?」だ。

短冊を、ラブレターとして使うという訳だ。なかなかロマンチックだと自分では思う。

けど………本当にそれで良いんだろうか?
キャプテンの願いは、カリムーの宝を見つける事。
分かってた事だけど、それが一番なんだろう。

一族の、お父さんの、悲願。それを叶える事に頭がいっぱいなんだと思う。
そんなキャプテンに想いを伝えて、良いのだろうか?
負担を与え…自分で負担とか言っちゃうのも悲しいけど、困らせたくは無い。

それにレンちゃんの事、他の女の子達の事もある。
もしもあの時、豆芝の邪魔が入らなかったとして、あの時の告白が届いていたとして、OKを貰えたとして。
皆は、どう思うだろう?
おめでとうと笑うだろうか、ちくしょうと憤るだろうか、何でなのと悲しむだろうか。

出し抜かれたとか抜け駆けとか、思われてしまうだろうか。
キャプテンは好きでもない子と、告白されたから付き合う、なんて事はしないと思う。
だけど、後少し時間があれば、気持ちが変わったりとか、傾いたりとかいう事はあるだろう。
アタシは女の子達の中で、一番キャプテンと付き合いが長い。
そういう意味では負けても仕方無いと思えるのかもしれない。
でも、もっと時間があればアタシの事をもっと好きにさせる事が、出来ないとは思わない。
だって、アタシは多分これから、キャプテンの事をもっと好きになるんだと思うから。

恋人がいても、奥さんがいてもそんな事は関係無い。
奪っちゃえば良いっていう意見もあるけど
キャプテンは多分、一度はっきりした関係の人が出来たら、他の娘の事は見てくれないだろう。
順番の問題とか、そんなロマンの無い事は言いたくないけど、それは事実だ。

キャプテン………レンちゃん、カズちゃん、ジュン、ミーナ、ハルカちゃん、ヒヨリさん。
好き、嫌い。友情、愛情。船の空気。職場、結婚、出産。etcetc……………。


「あーーーー!!!もう、分っかんない!!!」


思考が堂々巡りのオーバーヒートを展開しだして、アタシは叫んだ。

「すーーーーっはーーーーーっ」

頭を冷やす為に、一度大きく深呼吸する。
そして、もう一度頭の中を整理し始める。テーマは、アタシにとって大事な事。

まずは、キャプテンの事。
そして、仲間達の事。

「………………………分かった」

熟考の末、一つの答えが出た。
アタシは、今が楽しいんだ。

キャプテンとモッチーとカンドリーとハーシバルとエドさんとハイバラさんとウズキさんとアンドウさんと
レンちゃんとカズちゃんとミーナとジュンとハルカちゃんとヒヨリさんと水夫の皆と。

コンキスタ号の皆と色んな所へ旅する今が、楽しいし、大事だ。
だからそれを変えてしまうのが怖くて、悩んでいる。
ずっと皆一緒って訳にはいかない、いつかは皆自分の道を歩き出すだろう。
だからこそ、今を大事にしていたいんだ。

「ふぅ、何だかスッキリしたね。靄が晴れた気分だよ」 ポスン

ベッドに仰向けに倒れ込む。
ランプの灯を見ながら、次の段階、じゃあどうするかを考える。
その結論は、すぐに出た。

カリムーの宝の発見。
アタシがコンキスタ号に乗る事を決めた原点であり、キャプテンの目標。
とりあえずは、それが終わるまでは今の関係を続けよう。
いつになるかは分からないけど、キャプテンならいつかきっと成し遂げる。
それまではこのドタバタ生活を続けるのも悪くないよね。

「よっと!」

反動をつけて、立ちあがる。よし、大分力が入るようになってきた。
色々考えてる内にもう結構な時間になってるし、アタシも少しはお祭りに参加しないとね。
キャプテンと話したい事もあるしさ。

ガチャ 「…っと忘れてた」

ドアノブに手をかけた所で、短冊の事を思い出す。
危ない危ない、願いの有効期限がいつまでかは知らないけど、多分日をまたいだら駄目だろうからね。

短冊を机に置いて、ペンを取る。
もう誰にも見せる気は無い、笹の奥の方にこっそりと吊るす、秘密の短冊にするつもりだけど
宇宙の二人にだけは応援して欲しいな、と思いながら。
願い事は『コナミさんと結ばれますように』シンプルな恋文だ。

「………そうだ!」

書き終わった短冊に『<』を入れて付け加える。
『コナミさんと』の後に付け加えられた言葉は

『コナミさんの事を宇宙で一番好きな人が』

これなら順番とか、色んな事を考えて悩む事は無い。
アタシより相応しい人がいるんじゃ?なんて事を思う必要は無い。
正々堂々、真剣勝負だ。

「負ける気はないけどネ!」

誰にともなく、胸を反らせながらそう言って、アタシは七夕の星空を楽しみに駆けていくのだった。








おまけ

○月×日 PM7:51

「いや〜気持ち良かったですネ。色々と予想以上でしたよエンゼルは」 ツヤツヤ

「ホ、ホンマにあの状態で放っといて大丈夫なんでっか?なんかこう…溶けてましたけど」

「若いんですから大丈夫ですヨ。で、どうでした?カズーイ。勉強になりましタ?」

「いや…ちょっとウチにはまだ色々と高度過ぎて…」カァァ

「もーそんな顔を赤くして。耳年増のくせに可愛いですネ」ニヤニヤ

「だ、誰が耳年増でっか…」

「学術書をエッチな目で見てはいけないですヨ?何か折り目ついてましたし」

「ひ、人の本勝手に見んといて下さい!」

「…テキトーに言っただけなんですけどネ。…図星だったようですが」 ニタニタ

「!?う、うぅ………」

「でも、難しい問題ですよネ」

「え?あ、あぁキャプテンの事でっか?」

「エンゼルを応援したい気持ちもありますガ、それはレンに対しても同じです。
 どちらも本気だけに、諦めさせる事も出来ないですからねぇ」

「………あの、ウチは?」

「カズーイは私と同じでキャプテンの体が目当てなんでしょウ?」

「ブフォッ!!!な、何を言ってるんでっか!?」

「え?だって短冊に、キャプテンとアホほど子供作りたいって。いやー積極的ですネ。肉食系というかもう肉食獣でス」

「そういう意味とちゃいます!ウチは幸せな家庭を作り…というかミーナはんはそれで良いんでっか?」

「そうですネ。私はキャプテンの事も好きですが、それと同じ位皆の事も好きですかラ。性的な意味だけで無く」

「だけで無くて。…何かウチ、自分の身が心配になりますわ」

「カズーイは別ですから心配しなくても良いですヨ」

「何で別なん!?堅いから!?堅いからですのん!?」


「まぁ冗談は置いておいテ。
 三人目の妻というのが不満で、海に出た私ではありますけど。
 キャプテンとなら、皆となら何番目でも良いかな、と思っているんですヨ」

「…結構な問題発言やと思うんですけど」

「勿論、レンなんかは特に夢見る少女ですから、簡単には受け入れてくれない事は分かってまス。
 それでなければいつでも夜這いをかけにいくんですけどネ。
 あ、カズーイ心配しなくても、その時はちゃんと仲間に入れてあげますヨ」

「そんな心配してまへん!
 …というか、ウチをそっちの仲間みたいに話すのやめて欲しいんですけど」

「いやいやカズーイは素質あると思いますヨ?女の子がエッチなのは良い事でス。
 私の考えるハーレム計画の、メンバー入り難易度☆1つですネ」

「…何かそれヒヨリさんも考えてそうでんな」

「ポイントはジュンですねーイオリお嬢様を上手くけしかければガードを崩す事は出来そうですけど。
 あぁいうタイプを屈服させるのはとても楽しそうでス。じゅるり」

「はぁ……いつか本当にやりそうで怖いですわ。キャプテン逃げてー吸いつくされんでー」

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