「―――昨日の雨のせいで今日はやけにじめったいわね」
魔王城が生い茂った木々の間から遠くうかがうことができる鬱蒼とした森、魔物たちの本拠地魔王城が近いこともあってか
上級クラスの悪魔や魔物がはびこる王国随一の危険地帯である。そんな誰も足を踏みいれなさそうな森の最深部へと、
茶色地のフードを海のように深い青髪を隠すくらいに深く纏い、その中には湿気と暑さのせいか
汗でうすい新緑のローブが肉つきの良いスレンダーな体のラインにすこし沿ってはりついている
彼女―――カミキ・ユイは臆することもなく進んでいく。
「まあそのおかげでだいぶ材料がそろったからいいんだけどね・・・」
そう独り言をぽつりとおとした彼女の視線は右手に握られていたバスケットの中を毒々しい色で埋め尽くしたキノコに向けられていた。
魔王の恩恵かまたはその地盤ゆえか森一帯には魔力を帯びた化けキノコが自生している。
こうしたものは魔法使いにとっては薬草の代役としての傷薬や儀式発動のためのマジックアイテムの原料として重宝される。
調合によっては一山を一掃できるほどの魔砲を展開することも可能なほどである。もっとも食用には適しないものがほとんどであるが・・・。
「これだけキノコがあれば、しばらくアトリエにひきこもっても大丈夫そうね・・・」
昨夜の雨によりキノコたちが急成長したおかげで、本来なら材料の大量調達に喜ぶべきはずの彼女は
セリフとは裏腹につまらなそうにつぶやき、その表情はどこか退屈そうで、そして寂しそうであった――



魔女はその職業上あまり外に出ず、なるべく浮世の人間との交流を断ち、住みかで研究に没頭することが真っ当な魔女の道であるとされている。
他者との交流はせいぜい金銭による毒や呪いの解除かその逆の対象にかけるよう依頼される程度しかおこなわない。
ルクハイドの魔女を祖母に持つユイも小さい頃から魔女としてそう生きていくように教えられた一人であった・・・一年前、彼と出会うまでは――
野球人形消失騒動で動いていた勇者の誘いから、ユイは勇者ご一行の一人として冒険に出ることになった。はじめは契約金8000Gとほんの少しの退屈しのぎのために
かるく了承したのだったが、冒険はユイに予想以上のさまざまな経験をもたらした。家の中の研究だけでは得られないわくわく感と緊張感、
仲間たちとの出会いと別れ、たちはだかる危険や苦難とそれを仲間たちと乗り越えたこと、旅の途中で出会った町の人々との交流、
ダンジョンで見つけたお宝や貴重なマジックアイテム、魔導師イルとの邂逅と対決、そして勇者との出会いと彼の存在・・・
冒険によってユイの生活や価値観は一変したといって過言はないだろう。私はなんで今までこんな退屈な日々を過ごしてきたのだろう?
地味に呪いをかけ続けるのが正しい魔女の生き方?そんなのいまじゃ時代遅れだし冒険と比べたら死ぬほど退屈なもの。たしかにおばあ様の言うとおり、
危険と隣り合わせの冒険をしていたらロクな死に方をしないかもしれない、でも彼がそばにいてくれたら
そんな不安なんてないんだから、彼が守ってくれる・・・そう・・・彼さえいてくれたら―――
そう思い始めた矢先、楽しかった冒険は黒幕カメーダとガンダーゴーレムとの戦いで幕を下ろすことになった。
無事野球大会を終えた後、それまで苦楽を共にしてきた仲間たちと、そして勇者である彼と別れた彼女はもとの平穏な生活へ戻っていったのである。
命の危険はないが地味で退屈でそして人の温もりのない魔女の家へ――



木々の茂みや奥の暗闇から無数の視線を感じる。その視線の主たちはこの森に棲むゴブリンであった。
だがしばらく周りを一瞥しただけで、ユイはなんでもないといったふうにまた森の奥へと自身の住居兼アトリエへと再び歩みはじめた。
冒険での魔物たちとの戦いによってユイは魔法使いとしての才能を開花させ、また初めのころにイルに指摘された実戦経験の不足も、
冒険での命のやり取りの積み重ねにより魔力や気を読み取るだけで相手の力量をはかり知れるほどになっていた。
一方のゴブリンたちもユイからでる魔力を感じ取って迂闊に手を出せば無事では済まないと悟っているのか、ただ彼女を遠巻きに眺めるだけであった。
それほどまでにユイはこの1年で一人前の魔女・冒険者として成長を遂げ、一人旅をしても支障はなかった。
しかし彼女はあれ以来一度も冒険には出かけておらず、退屈であると感じているはずの魔法の研究を続けている。
たしかに何度か思いついたように旅をしようと家を出てみたことはある、
しかしそのどれもが数日はおろか数時間もしないうちに急に興味が失せて気が付いたころには家路についてしまっている。
今の生活に退屈を感じているはずなのに、はじめての冒険にあったような高揚感というか、好奇心というか何かが足りない。
そして彼女が一番恐れたのはそうした冒険もどきをやった日の夜に必ず襲ってくる、
体の真ん中にぽっかりと穴が空いたような寒気のする孤独感と脱力感。
これがもう二度と味わうまいと彼女をさらに内へと引きこもらせていくという
悪循環を生んでいった。そして現在の生活に至る。


「さて、問題はこの材料を使ってなんの研究しよっかなあ・・・」誰に聞かせるでもなくそう呟きながらユイはうつむいたままさびしく笑った。
最近しばしば考えて込んでしまうことがある、誰のために自分は魔法研究をやっているのだろうか?
困っている人々のため?自分のため?それとも魔女の一族のため?
そしてどうして楽しいと思っていた旅ができなくなってしまったのだろう?
戦う魔物が弱すぎるから?特に欲しいものは家にそろっているから?損得勘定から?
いろいろ頭の中でぐるぐるまわって結局答えは出ない、いや、本当は答えなんてとっくに出ているはず、
すでにわかりきっていること。ただ単に認めたくないだけ、それを認めてしまえばあの大嫌いなどうしようもない寒気が襲ってくるから。

人気者の彼は今日も誰かのためどこか遠くを旅しているのだろう、風のうわさでは海の向こう側へ渡ったとか・・・
人の温もりがほしい、それもあの人の温もりが・・・、けれどあのひとは私の目の前には現れてくれな―――

「おっかしいなあ・・・ユイさん留守にしてるのかなあ?困ったな」

ふと懐かしい声を聞き顔を上げた彼女の視界にみえたのは、自分の家の前でうろうろしている、そこにいないはずの人物の後ろ姿だった。
この世界観には明らかに浮いている紅白のコントラストにしたユニフォームと野球帽、背中にはみてくれは
安物みたいだが幾多の魔物どもを葬り去ってきた長身の剣を背負い、肩には長く使われたのであろう
継ぎはぎだらけの鞄をぶら下げたその青年こそ、おそらくもう会えないだろうと諦めてはいた、
しかしこの世で一番逢いたい、そして触れたいと願う人物であった。
その彼が数歩歩けば手に届く目の前にいた。



「人の家のまわりにうろちょろするなんて不審人物極まりないわね」
できるだけ平静を装って後ろ手を組んで彼に話しかける
「・・・なんだ君か、びっくりさせないでおくれよ。そんな怖い顔して」
ゆらり、と振り向いた彼は気配を消して近づいたユイに吃驚したのか少し顔をこわばらせながらの笑顔を彼女に向けた。
「・・・久しぶりね、何か月振りかしらね最後に会ったのは」
彼の笑顔に応えてユイも微笑みで返す。
「あれからだいぶ経つからねえ、大変だったねあの時は」いかにも感慨深げに彼は言葉を返した。
「そうねえ・・・イルのおかげで魔王所の地下にテレポートで飛ばされて、
悪魔たちの生贄のために磔にされそうになった時は、どうなるかと思ったわ。君が助けてくれたからいいけど」
あの時を思い出すかのようにユイはどこか遠くを見る目で彼に語りかけた。

「はは、そんなこともあったねえ。あの時の俺、最高にクールでメロメロになったろう?」
「もうっ、少しほめたらすぐこれなんだから」
軽く溜息を吐きながらユイは元気そうな彼を見て苦笑の表情をみせた。
「で、なにか用事かしら勇者様?」
そう尋ねると笑顔から一転して彼は眉をひそめ神妙な面持ちでユイに語りかけた。
「・・・ああ、実はまた厄介な事件に巻き込まれてしまってね、それも王宮がらみでさ。
外国まで行くかなり過酷な冒険になりそうなんだ。正直俺一人で役が務まるかどうか・・・だからまた君の力を借りたくてね」
「なるほどね・・・わかったわ、まあ立ち話もなんだし、よかったら家の中でお茶でもどう?」
「お、そうかい?じゃあお言葉に甘えてそうさせてもらっちゃおうかな!?」
そういうと先ほどの深刻そうな顔とは打って変わってまた陽気な笑顔に戻っていた。
「じゃあ先に入ってて。鍵は開けっ放しにしてたから」  「はいはい」
彼をうんうんうなずくと、すぐに家のドアに向かおうと彼女に背を向けた。
「ああ、それとね――」 「うん?なんだい?」


今のあなた、最高に間抜けで幻滅だわ。本物の彼とは大違いね」
「え?なにを『――サマーレッド タイプオブノーレッジ』
淡々と詠唱が終わるや否や彼に差し向けられた彼女の手のひらからゴウッと辺りを焼き尽くすような豪熱の火球が現れたかと思えば、
その大きな赤黒い塊は瞬きも許されない間に彼のもとへ向かい、そして呑みこんだ。
「――――ッギ、グギャアアアアアッ―――」
「魔女の魂を獲るのならもう少しうまくやりなさいな、悪魔さん」
業火に包まれながら地べたにごろごろとのたうち回り、声にならないような苦悶の叫び声を出し続けるそれは、
見る見るうちに蝙蝠のような翼や長く伸びきった鋭い爪など本来の姿を現しはじめたが、
断末魔が絶え動かなくなるややがてふわっと煙になって消えた、あたりには焦げ臭いにおいを残して。

幻覚を見させられている・・・?彼が目の前にいる状況を見てユイが初めに至った思考は、
今にも抱きつきたいはずの人物の存在の否定であった。
この森には人間の魂を狙う悪魔も多く棲みついている。その悪魔たちに呆けていた自分は騙されているのではないか?
油断していたら寝首を狩られるこの森では十分にありえることではある。だからユイはゆっくりと、
その合間にもしものため背中にまわした手で魔法陣の印を切りながら、自分の住居を眺めている人物に近付いて行った。
極度の警戒心と緊張感と大きな期待感と衝動を秘めて―――

本当に彼かどうかを確かめるのは簡単だった、こちらからの何気ない事実確認にちゃんと答えられるかどうかを見ればいい。
磔の私を救いだしたことなんて真っ赤なウソ、実際に磔になりそうだったのはヤマダ君で私はイルと成り行きで
共闘して彼をサポートしていたのだから。この時の出来事をわたしたちは忘れているわけがないはずだ、
なぜならあの時、イルが彼に悪党にならないかと誘った後、彼は私に―――

「・・・ま、普通に考えたらこんな虫のいい話なんてないもんね」
先程まで彼に化けていた悪魔だった煙を横目にユイはさらりと流した。
そしてなにごともなかったかのように家の中へ消えていった。



「・・・なんだか体がだるいわね」
あれから何時間たったのだろう、アトリエにこもったユイは自身の体調に違和感を覚え始めていた。おそらく森の急激な空気の変化で風邪をひきかけているのだろう。
そう分析したユイは風邪薬を入れているはずの棚の引き出しを開けてみたのだった、が
「・・・こういう時に薬を切らすなんて今日はとことんついてないわ」
あいにく調合された薬は底をついていた。今日収穫したものを含めた材料を使って一から作るのもできないことはないが、
それでは完成するまでにだいぶ時間がかかってしまう。作っている間にさらに悪化してしまったら元も子もない。
「しょうがない、今日はここで切り上げてもう寝よ・・・」
倦怠感を感じながら、ユイは食事もとらずにいつもより早い眠りに就いた。

―――なんだかふわふわ浮いている感じがする・・・何も見当たらない、ただ無音で暗闇が漂っているだけ。
夢か現か、はたまたその境界か。時間の流れを感じないそんな不思議な空間のなかをひたすら漂うことが一年前からある。
ここへさ迷うのは決まって冒険もどきをした後の夜で、そしてそれは必ずどんなおぞましい魔物よりも恐れているアレが来ることも意味していた。

――しまった、という言葉が頭の中に廻った瞬間、二度と味わいたくない寒気の波が襲いかかってきた。
それも外からだけでなく自身の体の芯からもでているようで、みるみるうちにユイから体の熱を奪わっていく。
久しぶりに受ける感覚に思わずたえられず体を抱きしめるようにうずくまってしまうが、そんなことは気休めにもならず、
部屋のスミでガタガタふるえて命ごいをする心の準備を行うがごとく耐えることしか術がない。

おかしいなあ・・・今日も遠出しなかったのに、どうしてきちゃったかな・・・
魔法も使えない誰も助けてくれないこの空間に来ないよう家にひきこもるという後ろ向きな努力で避けていたのに、
今回はこれまで以上の勢いでユイに襲いかかっている。
ユイは何故こうなったのか、寒さで薄れかけていく意識の中今日の出来事を整理していた。



・・・死んだとしても悪魔か、やることはえげつないわね・・・
やはり原因はあの悪魔がよりにもよって彼になりすまして自分に近づいてきたことにありそうだ。
大方罠だろうという疑心の下にたしかにあった、本当は彼であってほしいという願望と期待感、
しかし大きな期待は外れたときその反動の失望も大きいということ、そして今回は後者に転んでしまった。
どうやら認めざるをえないだろう、冒険がつまらなくなってしまった理由を。
冒険のきっかけは突然現れた彼が声をかけたから。
今まで冒険が楽しかったのは、たまにドジを踏む彼が場を和ませてくれたから。
危険な目にあっても乗り越えたのは、いざという時彼が守ってくれたから。
魔法使いとして一人前になれたのは、彼と一緒に切磋琢磨してきたから。
今まで魔女でなく人としていられたのは、彼の温もりが心地よかったから。

彼のいない冒険なんて、たまご抜きのたまごサンドみたいなものなんだから・・・

そしてついに認めてしまった、その彼は自分の手が届かないところにいること、自分が今孤独であるということも。

―――ああ、そうか。自分にとって彼の存在は偉大だったんだ・・・。
たった数カ月しか冒険したことのないはずなのに、
そんなに勇者といった感じじゃないのに、
そんな浮世の男女の仲でもなかったのに不思議なものね・・・

・・・ああもう、あたし、どうしてこんなに弱くなったかなぁ・・――

長い間考えていた問いの答えを認めだした途端から、孤独という寒気の波がさらに容赦なく彼女を蝕んでいく。
このままでは完全に自分のありとあらゆる熱を奪われてしまうだろう。
ああこんなことになるだろうと思っていたから認めたくなかったんだ。
彼に会いたい触れたい求めたいのに、今彼がどこにいるかもわからない。
人の温もりのないこの家で私はいつも独りなのだ、ソウ、イツモヒトリ・・・



「・・・はあっ、んぅ・・・ぁん」
無意識のうちに、ふと肩を抱いていた右手を自分の秘所へと伸ばしていた、
少しでも熱を出して体温を維持するためか、
はたまた今まで気づいていなかった鬱積した思いのたけを自分を慰めるかたちでぶつけるためか―――

くちゅり・・・くちゅ、くちゅっ・・・ぬちゃぁ・・・

この空間ではおろか普段でさえも自分を慰めたことがあまりないユイであるが、
何度か指を絡ましていくうちに、やがて純朴な乙女の蜜壺から
半透明でほんのりと粘りのある愛蜜がとめどなく溢れ始めてきた。

「はんぅ・・・はぁ、ああっ、うん・・・あっ、だ、だめぇ、乱暴にしちゃあっ」
無我夢中で現実から逃れようとユイは自らの業を想い人との秘め事と重ね合わせていた。
男にしては少し長めな彼の指がまるで別の生き物のように動いて彼女の蜜壺をかき乱していく、
迫ってくる快楽に堕ちないよう必死に抵抗しようとするが、後ろから彼のもう一方の鍛えられた腕でがっしりと抑えられてしまう。
やめさせるどころか彼のすこしきつめの愛撫はさらに激しさを増していく・・・

――ちょっと指を入れただけなのにこんなに濡らしちゃって――ユイさんはとんだ変態さんなんだね――

「へ、変態じゃ・・・ああん!・・・な、ないもん!・・・の指が、あっ、いやらしいところ、ばっかり・・・ひゃぁんっ、つくんだもん!」
瑞々しい唇の奥から漏れだしてしまう喘ぎを抑えながら、ユイは余裕の笑みを浮かべる彼に精一杯反論しようとするが、彼の容赦のない愛撫になかなか言葉が続かない。

――おいおい、ユイさん、あまりにも敏感すぎるでしょう?
こんなんじゃ俺のバットを入れる前に3回ぐらいイッちゃうんじゃない?――


「ひゃぇ!?ば、バットって・・・ああん・・・どういう、ああっ!い、いみよぉ!?」
彼のあからさまな隠語に反応して、ユイのほんのりと赤みを帯びた桃肌のほほは完熟トマトのようにさらに真っ赤になる。

――お?指の締め付けがきつくなった・・・やっぱりユイさんはいやらしい娘だね――

「!?・・・ふあっ、ひゃう、ん・・・んぅ・・・し、仕方ないじゃない!いつもいつもあなたに会いたくてさびしかったんだから!」
ついに今まで内に秘めていた想いを悶えながらも彼に必死に伝えようとする

――そうだったのか・・・それは悪いことをしたね、お詫びとしてなんだけどそんないやらしくて正直者のユイさんには少しご褒美をあげよう―――

そういうや、彼はこれまで彼女の秘所を愛撫してきた指をさらにもう一本添えて彼女の蜜壺めがけて一気に突っ込んだ。

くちゃあ、ぬちゃぬちゃ、くちゅくちゅくちゅっちゅっぅ

「ふぁああっあん!?ら、らめぇ、そんなにぃ、ああん、はげしくぅしないでぇ!おかしくなっちゃうぅよお!?」
さらにいやらしい愛液の大きな水音とともにユイの少女ゆえの色っぽい喘ぎが
それとあわさってある種のハーモニーを奏でている。
もはや頭の中には快楽に耐えようという考えは消え去り、ただ堕ちていこうという思考が支配していた。
「いやあっ、あっ、ああん!・・・あ、ねえ、なにか、ふぁ、きそう、なのぉ!」

――いいよ、我慢しないで   イッていいんだよ?―――


彼はそういうと彼女の最深部へと指を突き入れた。頭のなかが真っ白になり、一瞬ユイの身体がのけぞったかに思うと、
やがて小刻みに震えて糸が切れた人形のように俯き力の抜けた彼女はやがて眠るように眼を瞑った・・・
しばらくの間心地よい倦怠感が彼女を包み込んでいた、
まぶたを閉じ行為の余韻に浸っている彼女の表情はどこか幸せそうなものだった・・・

そうだいつまでも余韻に浸ってちゃいけない、もう二度と離れないよう自分の想いを彼に伝えなきゃ―――

「ねえ、お願いがあるの。あたしも冒険へつれ―――」

彼の顔を見ようとまぶたを開いて視界に映ったのは、自分の愛液まみれの右手だった。
その事実が彼女を無情に現実へと戻す。

そうだった、彼はここにはいないんだ――

今まではすべて自分の妄想・・・よりにもよって彼を慰み者として使ってしまった。
そう悟った刹那、今まで快楽で忘れかけていた孤独と脱力の寒波が再び彼女を侵食しはじめた。
先ほどまでの秘め事で得た熱が一気になかったかのように奪われていく・・・
ユイは自己嫌悪と孤独感の中うずくまることしかできなくなっており、
その瞳にはどんな苦しい時でも負けずに輝きを放っていた光が失われていた・・・

・・・ああ、やっぱり一人は嫌だ、いやだ、イヤダ、ダレカココカラタスケテ ――


ド ゴ オ ッ

彼女の心が今まさに折れそうになったその時、どこからか、けたたましい落下音が轟いた。
すると今まで暗闇だった空間の一筋の白い線が見えたかと思うと、
やがて白い線は幅を瞬く間に広げていき、空間は光で包みこまれることとなった。


どこからか懐かしい声がしたような、そんな気がした  
ユイの意識はそこで途切れた―――

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