[176] 君に届けたいただ一つの想い sage 2008/02/11(月) 11:55:39 ID:SGPCMACA
[177] 君に届けたいただ一つの想い sage 2008/02/11(月) 11:56:29 ID:SGPCMACA
[178] 246 sage 2008/02/11(月) 11:57:21 ID:SGPCMACA
[179] 君に届けたいただ一つの想い sage 2008/02/11(月) 11:58:05 ID:SGPCMACA
[180] 君に届けたいただ一つの想い sage 2008/02/11(月) 11:59:12 ID:SGPCMACA
[181] 君に届けたいただ一つの想い sage 2008/02/11(月) 11:59:56 ID:SGPCMACA
[182] 君に届けたいただ一つの想い sage 2008/02/11(月) 12:00:39 ID:SGPCMACA
[183] 君に届けたいただ一つの想い sage 2008/02/11(月) 12:01:25 ID:SGPCMACA
[184] 君に届けたいただ一つの想い sage 2008/02/11(月) 12:04:27 ID:SGPCMACA

 改めて思う。彼女達は、本当に強くなった。

「バルディッシュ……!」

 苦楽を共にしたデバイスの名を小さく叫び、フェイトがザンバーの刃を横薙ぎにする。目の前の敵は愛槍で
それを受け、やはり耐え切れずに後退する。だがそれだけだ。すぐさま体勢を立て直し、魔力を送り続ける
パートナーの召喚師の力を以って、再びバーニアを噴射した。
 その反対側には、空を駆けるもう一人の敵。雄たけびを上げ、右手に装着したデバイスが相棒の声に火花を
散らす。
 その一撃なら、フェイトの防御など簡単に打ち砕いてしまうだろう。
 だが、それで終わるほど甘くない。金髪を眼前に迫った拳の風圧で踊らせつつ、寸前のところで避けたフェ
イトがその力の反動と共に彼女の胴体へ容赦なくザンバーの刃を走らせる。
 躊躇う必要はありはしない。彼女はなのはを傷つけようとする敵なのだ。そう、いい訳ではなく心から。
 フェイトの放った一撃は、容易く彼女の胴体を二つに分かち、その生命もろとも断ち切った。

「――――っ!?」

 だが、それを許すほどその幻術使いは易くない。舌打ちと共にフェイトが眼前にいる幻影から距離をとる。
その瞬間、たった今までフェイトがいた場所を橙色の砲撃が走りぬけ、彼女のマントに焦げ目を残す。
 睨む視線の先には地面に肩膝をつき、両の手にデバイスを握る三人目。地上から、正確にフェイトのいた位
置を捉えたその砲撃は、否応無く桜色の砲撃を連想させた。
 ありえない。これをあんな貧弱な砲撃と比べてしまうなど失礼なこと。
 苛立ちを魔力に込め、フェイトが周囲にフォトンスフィアを生成させた。

「ファイア」

 トリガーキーを紡ぎ放たれた雷の槍は敵の横を通りすぎ、その後ろ、風景の一部だった民家へと飛んでい
く。まだ避難は完了していない。日が落ちかけている夕暮れ時。中にはきっと、談笑する家族がいるに違いない。
 それを破壊しようとするフェイトの放ったランサーは、その場にいる全員を硬直させる。一番近くで銃を構
えていた彼女がフェイトに背を向け、ランサーに照準を合わせた。
 その大きすぎる隙に、フェイトの口端が自然と上がる。彼女との距離はやや大きい。だが、自分ならばその距
離を埋められる。愛しいなのはの敵の首を一つ、地面へと転がせられる。
 だから動いた。迫っていた槍騎士の攻撃を潜り抜け一直線に。
 そして、それを止めるたのが轟く怒声。

「馬鹿っ、テスタロッサだけ見てろ! 周りはあたしが護るから気にすんな!」

 上空で民家へ近づくランサーを確認した鉄槌の騎士が、同じ数だけの鉛玉に魔力を込めた。
 ランサーを相殺され、魔力の爆発に視界を悪くさせながらもフェイトは止まらない。怒鳴られ、こちらに視
線を戻した彼女を嘲笑い、ザンバーを上段から振り下ろす。
 それと同時、主に操られ飛翔する白竜が炎弾を吐き出した。それを避け敵を仕留めそこなったフェイトが上
空へと飛翔する。追いかけるように放たれる射撃魔法と炎弾を切り裂いて、荒れに荒れた呼吸で辺りを見渡した。

「いない……!?」

 四人と一匹は確認した。だがもう一人、あの蒼髪の敵が見当たらない。相変わらず攻撃は留まらない。それを
避けながらフェイトが見つけたのは、探していた最後の一人。そして、その目の前にいる大切な人。

「な、なのは……さん……?」

 敵が、彼女の目の前で戸惑っている。
 乱れた服から覗くのは、普段よりも紅くなった彼女の肌。そして、陶酔しながらドロドロになった指へ舌を這
わせているその表情はそれよりも紅い。
 スバルの登場に目を見開いている半裸の彼女に、普段に無い寒気を感じ、怯えたように一歩後ずさった彼女
がそれを見た。

「見るなああああぁぁぁぁぁぁっ――――!!!」

 ――――永遠があるとは思わない。ただ、長く続くと思っていたソレが壊れるのは、思いのほか早かった。
 必死に繋ぎとめようと両手で幸せを支えていれば普通よりもなお。
 当然だろう。
 両手で支えようとしていたら、彼女の手は繋げない――――。
 それを知りながら、彼女は無言で見ていることしか出来なかった。


魔法少女リリカルなのはStrikerS
―君に届けたいただ一つの想い―
(11)


「くぅっ、こ、この――――アイゼン!」

 スバルの眼前に迫っていた光刃を寸前のところで受け止め、ヴィータが表情を苦渋に歪ませる。グラーフア
イゼンに噛み付いたバルディッシュは、デバイス諸共ヴィータが斬ろうと刃の出力を上昇させた。
 それを受け止めているグラーフアイゼンが主の呼び声に応え、内蔵されたカートリッジを破裂させる。それは、
文字通りヴィータの魔力を爆発させた一撃だった。フェイトが防ぐことは叶わない。
 宙で大きく吹き飛ばされ、だがフェイトは止まらない。体勢を立て直し、なのはの元へ再度高速で突進した。
 それを止めようと、エリオがバーニアを吹かせて近づいていた。速度を上げることでそれをやり過ごし、
フェイトが見たのは橙色の射撃と炎弾の弾幕だ。
 幻術を織り交ぜているのだろう。その数は初発にして無数。
 だが当たらない。紙一重で避け、目の前の炎弾を切り裂き、フェイトが身体を捻りハーケンセイバーを弾幕
に向けた。
 前方に放たれる金色の刃が次々と攻撃を切り裂いていく。それによって生まれた僅かな隙間。それがなのは
への道になる。

「フェイトさん! お願いですから止まってください!」

 フリードリヒに乗り、キャロが叫んでいた。それを無視してフェイトが睨むのはなのはへの道を阻む最後の
一人。
 上空から突進しようとするフェイトをキッと睨み、スバルが拳を握り締める。じっと待ち力を込めての一撃
だ。速度に任せたフェイトの斬撃に決して引けを取らぬ威力を持っている。
 それを証明するかのように、剣と拳が拮抗を保った。

「どけええええぇぇぇぇっ――――!!!」

 だがその拮抗を破るが如く、フェイトが叫ぶ。カートリッジを破裂させ、魔力を爆発させ、感情を沸騰させ
た一撃だ。スバルではまだ耐え切れない。

「ぐっ……!?」
「スバル、大丈夫!?」

 吹き飛ばされ立ち上がるスバルを支えながら、ティアナがフェイトにダガーを突きつける。僅かでも動かせば
容易にフェイトを切り裂ける距離だ。いくらフェイトの速度でもそれは避けられない。
 それを真っ直ぐ見ながらフェイトが嗤う。彼女同様、片手をなのはの腰にまわしながらバルディッシュをテ
ィアナのわき腹にちらつかせ、そっとティアナの耳に息を吹きかけた。

「どっちが早いか試してみようか?」

 ティアナの手が僅かに揺れた。注視していなければ確認できないほどの同様だ。事実ティアナ自身気付いて
はいない。
 ――――だが、その隙が命取り。
 ティアナのバリアジャケットをバルディッシュが切り裂いた。

「ティアナ避けろ!」
「――――っ!」

 怒声とも言えるヴィータの声に、ティアナが咄嗟にフェイトから距離を取る。それとほぼ同時。降り注ぐ八
つの誘導弾が、フェイトへ向けて放たれていた。
 確認し、フェイトがなのはの腰にまわした手に力を込める。魔力を使わずともなのはを持ち上げることは容
易だ。それほどまでに、以前よりも痩せている。
 そしてこの魔力を使用している状態で、なのは一人抱えたところでその機動は衰えない。

「この馬鹿! やられるところだったんだぞ!?」
「す、すいません!」

 地上すれすれで飛行するヴィータが、ティアナを通り過ぎる直前叫んでいた。その蒼色の瞳が睨むのは、逃
走するフェイトとなのは――――いや違う。ヴィータが睨んでいるのは風に揺れる金色のみだ。
 フェイトを追うヴィータに倣い、スバルがウイングロードを駆け抜ける。背負われたティアナはスバルの肩
越し、翻っているフェイトのマントに照準を合わせていた。
 その上空では、フリードリヒの手綱を握るキャロと、その肩に手を乗せバランスを取っているエリオの姿。
 横目でそれを確認したフェイトが、自分を呼ぶ彼女に笑みを向けた。

「大丈夫、なのはの事は私が護るから」
「私も戦ったほうがいいの?」
「いらない。私一人で十分だよ」

 そんな事はさせられない。なのはが戦うと言う事は、即ちなのはに負担をかける事と直結だ。いつでもそうだ。
彼女の魔法は、誰かに想いを届ける代わりに自分を傷つけるものだったから。
 でももうそんな必要はない。自分がその相手なら、彼女の想いは痛いほどに届いている。故にフェイトは首
を振り、ヴィータ達を振り切ろうと速度を上げた。
 この時間だ。まだ外には大勢の人間がいる。現に空を飛ぶ彼女達を見上げている群集は無数。フェイトはそ
れに構わない。
 ヴィータ達には、それを気にする余裕は無かった。
 ここで捕まえる。もうすぐ六課の稼動期間が終わるのだ。その先に待つのはなのはとフェイトへの武装隊の
投入だ。
 考えただけでも震えてしまう。
 普通の武装隊で叶うはずもないのだ。あるのはきっと、フェイトのよる一方的な惨劇だ。血の海でバルディッ
シュを振るい、それを眺めながらなのはが満面の笑みで笑うのだ。
 そんな悪趣味な光景を現実にさせるつもりは毛頭ない。ヴィータだけじゃない。スバル達も同じだった。
 だから迷わない。多少の怪我など気にしてはいられない。全力でフェイト達を叩き潰して止めるだけ。

「ティア、ここから狙える?」
「当然! あんた私を舐めてるの!?」

 なのはに教えてもらったのだ。フェイトとの距離は50メートルも離れていない。この距離で外したらなの
はに怒られてしまうだろう。
 そう考えて、彼女は笑う。
 なのははもう叱ってくれないだろう。自分達が間違えても、以前のように怒ってくれない。代わりに、バル
ディッシュでさっきのように切り裂かれるだけだ。

「スバル、揺らすんじゃないわよ」
「おーけー! もうちょっと近づくよ!」

 スバルがマッハキャリバーの名を呼んだ。相棒の声に応えたデバイスが更に速度を増し、フェイトとの距離
を近づける。
 当たられるではなく当たる。そう確信した瞬間、ティアナはトリガーを引いていた。

「フェイトちゃん、ティアナが撃ってきたよ?」
「うん、大丈夫」

 後方を確認していたなのはがフェイトの首に手を回しながら、ぼんやりと言った。まるで緊迫していないそ
の声はフェイトへの信頼の証だ。
 無論その信頼には応えよう。
 フェイトが高度を上げて迫っていた弾丸を避け、やや減速した。

「ちっ! うろちょろと……!」

 速度を落としたことでフェイトを通り過ぎたヴィータが舌打ちを放つ。高度を上げ続けるフェイトを追い、
彼女が見たのは小さな騎士と召喚師。
 スバルの後方。上空を飛んでいた彼らがすばやく反応し、フェイトへ攻撃の準備を始めていた。

「エリオ君、いける!?」
「任せて! キャロ、バックアップお願い!」

 大きく頷いたキャロが腕を交差させる。エリオへと付与するブーストは速度上昇と防御力上昇の二つ。これ
なら、何も気にせずエリオはフェイトへと飛んでいけるだろう。
 エリオが上空にストラーダを構えた。キャロに小さく頷いた後、フリードリヒの背中から飛び降り、バーニ
アを噴射する。
 その速度はフォワード陣最速だ。いや、キャロのサポートがある今フェイトやシグナムに次ぐ速さを誇るだ
ろう。
 それを示すが如く、エリオがフェイトへと近づいていく。フェイトがなのはを気遣っている今、この騎士の
速度は最速だった。
 彼の誠実さを表すような愚直なまでの直進だ。

「なのは、ちょっと揺れるからね」
「うん」

 それをフェイトが片手でバルディッシュを一閃させることで退けた。吹き飛ばされたエリオが地面へと落ち
ていく。
 このまま落ちちゃえばいいのに。そうなのはが呟いて。
 彼女はエリオを受け止めるキャロに、ため息をつきながら視線を送っていた。

「ぼうっとしてんじゃねぇよ!」

 その視線が、その声にハッとなる。見上げれば自分達の上空、ヴィータがグラーフアイゼンを上段から振り
下ろしながらこちらへ一直線に突っ込んでいた。
 フェイトもヴィータの一撃は片手ではやり過ごすことは出来ない。そう判断し、なのはがフェイトの首にま
わした腕に力を込め目を瞑る。
 大丈夫、とフェイトが小さく呟いた。
 フェイトが片手を振るい、周囲にフォトンスフィアを展開させる。トリガーキーと同時放たれた雷の槍に、
ヴィータ思わず目を見開いた。
 その隙だ。フェイトが鉄槌を避け、後方で爆発が起こるのを確認しながら飛翔する。
 その前方。今度はスバル達の攻撃だった。後ろからはフォトンランサーを掻い潜ったヴィータが、雄たけびを
上げながらラケーテンのバーニアを噴射している。
 ヴィータを相手にしている余裕はない。そのままスバルへ突っ込もうとフェイトが加速した。

「フェイトちゃん駄目……!」
「――――っ!」

 その声に咄嗟に反応した。
 身体を捻り、違う方向からの射撃魔法を避け相手を睨む。
 突っ込もうとしていたスバルとティアナの幻影は、フェイトの横を通り過ぎると同時消えていた。

「甘くみんなよ……なのはが育てたんだからなぁ!」

 ヴィータの追撃は、なのはが叫ぶより早かった。
 ヴィータの突進になのはが悲鳴を上げながら地面に落ちていく。バリアジャケットを装着しても間に合わない。
 フェイトが決めたのは、なのはを抱きかかえそのまま地面を堕ちること。

「ぐぅっ……!」

 フェイトが苦悶の声をあげながら地面に背中を打ちつけ蹲った。フェイトに護られ無傷だったなのはがフェイ
トの名を叫ぶ中、フェイトは応えずになのはを抱きかかえ、放たれた追撃に背中を向けた。
 悲鳴を上げる暇も無かった。フェイトが奥歯を噛み閉めた直後、肉の焼ける音と避ける音が聞え、意識が闇の
中に沈んでいく。

「なのはっ、逃げて……!」
「で、でも……」
「逃げてって言ってるでしょ!」

 フェイトがなのはに向けた、初めての命令だった。なのはがどう受け取っていたかは知らないが、フェイト
にとっては初めての事。
 それになのはが逆らえるはずも無く。僅かな苦慮の後黙って転送魔法を起動させた。

「終わりだな。全部話してもらうからな」

 地に降りたヴィータが後方にスバルを待機させながら、蹲っているフェイトにグラーフアイゼンを突きつけた。
 フェイトがそれを睨み、バルディッシュを支えに立ち上がる。

「私は、どうなったっていい……」

 なのはに背中を向け、バルディッシュを構え静かに呟く。

「でも、なのはには指一本触れさせない」

 傷ついて尚、その意思は砕けてはいなかった。


* * *


 フェイトの身体が宙を舞う。地面に打ち付けられたフェイトへ向かうのは、ヴィータの放つ誘導弾。避ける
事無くそれを受け、それでも彼女は抵抗を続けた。
 避けることはしない。まだなのはは後ろで目を瞑り、転送の準備を始めているのだ。避けてしまったら、な
のはを巻き込んでしまうだろう。
 とにかく、なのはだけでも逃がさないといけない。全てはそれからだ。その後は、なのはを捕まえようとす
る敵を討ち滅ぼすだけ。ここはじっと耐え、なのはが逃げるサポートをすることが最優先。

「ふぇ、フェイトちゃん……」
「だ、大丈夫。なのははそのままでいて」

 地面を転がったとき頭をぶつけたのか、ふら付いて落ち着かなかった。片目を塞いだ流血を拭い、フェイトが
地面に血の混じった唾を吐く。
 まだいける。バルディッシュは砕かれていない。剣が砕かれてない以上、立ち止まることは必要ない。
 バルディッシュを握る手に力を込め、フェイトが跳んだ。狙いはヴィータだ。スバル達を相手にする余裕は
今はない。この戦い、ヴィータがいる内はこちらの劣勢は動かない。

「ちっ、まだやるのかよ……」

 苛立ちを露にしたヴィータがグラーフアイゼンを振るう。バルディッシュでそれを受け止め、フェイトが
ヴィータの小さな体躯を弾き飛ばす。
 そのすぐ後、ヴィータに向けフォトンランサーが放たれた。容赦なく徹底的に。ヴィータ達の持っている意
思はフェイトも同じ事。
 二度となのはに近づかぬよう。そんな事を考えないよう、徹底的にだ。
 ランサーを掻い潜り、ヴィータがフェイトの鉄槌の一撃を放つ。受け止めたフェイトを待つのは、ティアナの
弾丸だ。
 フェイトに直撃する直前、なのはの姿が消えた。フェイトがそれを確認し、口端を吊り上げる。もう防ぐ必
要などありはしない。ここからは、自分の戦い方で彼女を護ることが出来るから。
 とは言っても彼女の身体は既に満身創痍。一番の武器であるスピードも、格段に衰えているだろう。
 ――――だが、それでも。
 なのはがいないこの場、彼女はどんなものよりも速かった。

「っ……や、やば……!」

 ティアナの攻撃を避け、フェイトがヴィータを吹き飛ばす。バランスを立て直そうとするヴィータよりも早く、
フェイトはバルディッシュを一閃させていた。
 これで終わりだ。ヴィータに速度でなす術は無い。彼女はその戦い方から間違いがちだが、ヴォルケンリッ
ターの中では攻防一体のバランスを保つタイプだ。破壊力こそ六課一とはいえ、速度で勝る筈がない。
 故にフェイトとの相性はそれほど良くはない。負けはしないが、その防御能力から防ぐことをしないフェイト
が相手ではその破壊力を十分に発揮できないからだ。
 彼女の戦い方は八年前まで、あの砲撃魔道師の強固な防御を打ち砕くことだけを考えていたものだったから。

「ヴィータ隊長……!」

 ヴィータでは今の攻撃は防げない。ならば防ぐのはそれ以外の者。
 バルディッシュを受け止めたのはこの場で誰よりも早く駆けつけた、エリオのストラーダだった。

「悪い、油断した」

 立ち上がったヴィータが自分を護った赤毛の少年に、僅かに笑みを見せる。JS事件の前ならば今の攻撃は防
げなかっただろう。それが防げるまでになったことに喜びを隠せないでいた。

「お前ら、まだいけるな?」
「はい!」

 多少なりともダメージを追っているものの、フェイトほどじゃない。まだ戦える。なのはの教導はそういう
ものだった。傷つかないことを第一に考えた基礎を固める教導だ。苦戦を強いるとき一番活躍できるのは彼女
達のようなストライカーだ。エースと呼ばれるものじゃない。

「お前ら何でもいいからあいつを止めろ。とどめはあたしだ」

 フェイトをここで捕まえる。それからなのはの相手をすればいい。恐らく、フェイトのときよりもなのはを
止めるのは簡単だろう。
 そう考えての判断だ。確実に終わらせる為のもの。全て終わらせる。元には戻らないだろうが、それでも出
来る限りこの壊れた物を直したかった。
 それは皆も同様だろう。その意思が、フェイトに対抗していた。
 尚もヴィータに攻撃しようとするフェイトにスバルとエリオが向かい、ティアナがサポートする。フェイト
の攻撃が止まればヴィータの一撃だ。

「――――いえ、ヴィータ隊長はなのはさんとところに行ってください。ここは私達が戦います」

 それを止めたのがキャロの小さな、だが迷いのない澄んだ声だ。
 その少女は真っ直ぐにフェイトを見つめ、自分達だけで戦うと言っていた。

「ヴィータ隊長、行ってください! 私達は大丈夫です!」

 反論する必要がない。
 未だヴィータへと向かうフェイトへ体当たりし、馬乗りになって暴れる四肢を押さえ込んだスバルが、些かも
迷いのない瞳でヴィータへ訴えた。
 何とも頼もしい言葉だろう。ヴィータの顔に自然と笑みが浮かぶのは当然の事。
 即断の後、ヴィータが言うは自分の戦線離脱。そして、彼女達の力でフェイトをとめる事。

「どけ……!」

 だが彼女はそれを許さない。スバルを殴り飛ばして退け、鬼気迫る表情でヴィータへバルディッシュを振
るった。放たれた数え切れぬほどの雷の槍に、ヴィータが転送魔法を起動させようとして歯噛みする。グラー
フアイゼンを構え、全て叩き潰すと決め。

「行ってください!」

 それを、キャロの普段にない凛とした声が阻んでいた。
 ヴィータの前に立ち、キャロがプロテクションを展開させる。激突した金色の槍の威力に苦渋を浮かべ、玉の
ような汗を浮かべながら、それでも尚両手を突き出しプロテクションへ魔力を送り続けた。
 プラズマランサーが消滅しても変わらない。キャロへ叫びながらバルディッシュを振り下ろそうとするフェ
イトを見つめ、目を瞑る。
 それと同時、槍を持った彼女の騎士が寸前に迫った兇刃を防いでいた。

「ぐっ……す、ストラーダ! 耐えて!」

 ストラーダのフレームが軋んでいる。フェイトの攻撃はストラーダを断ち、エリオを両断しても尚余りある
もの。このまま耐えては負けは必須。
 だが耐えた。フェイトを真っ直ぐ睨み、キャロの魔力を使ってフェイトの攻撃を耐え続けた。
 ――――そして。

「ファントムブレイザー」

 小さく呟いた後放たれた砲撃が、フェイトを直撃した。

「――――っ!!?」

 意識が根こそぎ吹っ飛ばされたかのような衝撃だ。悲鳴にならない悲鳴をあげ、フェイトが大地へと堕ちて
いく。
 涙が浮かぶ瞳が見つめるはただ一点。

「や、やめっ――――行かないでっ! なのはをそっとしてあげて! お願いだから……!」
「悪いけどさ、出来ねぇよ。ちゃんとやったことは責任取らなきゃいけねぇだろ?」

 ヴィータの姿がゆっくりと消えていく。
 ゆっくりと、涙で滲んで消えていく。

「あ……」

 地面に身体を打ちつけたことも忘れ、ただ呆然と見ていた。
 目の前が真っ暗になったことも気付かず、震え続ける拳を握り涙を流して。

「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ――――!!!」

 感情に任せたフェイトの慟哭が、空高く響き渡った。


* * *


 最初は、本当に雲の上の人だった。追いかけようにも姿が見えず、どこへ向かっていいかも分からない。
そんな、途方も無くただ憧れるしか出来ない人だった。
 それが機動六課へ入隊してから少し変わる。相変わらず雲の上に彼女はいたけれど、そこから手を差し伸べ
てくれていた。そこへたどり着く為に彼女は力を注いでくれていた。
 今その手に触れることが出来るだろうか。そう彼女――――スバル・ナカジマは憧れる存在と同じ場所にいる
彼女を見つめ、自問する。
 答えはさほど悩まずに浮かんでいた。
 同じ場所には立てないだろう。未だ彼女は雲の上。そして自分は地に脚をつけたままだ。
 しかしそれでも、ただ一つこの拳に込めた想いだけは届いている。そんな気がした。

「フェイトさんもう止めましょう? ヴィータさんだってなのはさんを傷つけようとしてるわけじゃ――――」
「スバル言っても無駄よ。ちゃんと止めるって言ったんだから私達で止めるわよ」

 呆然と彼女はヴィータのいた場所を見つめ、何かを悔いるように唇を噛んでいた。先ほどの激情も溢れる涙が
流してしまったのだろう。今はただ、震えているだけだった。
 フェイトを倒すなら今だ。相手がどういう状態かなど気に出来ない。気にする余裕は自分達にはない。

「エリオ、行くよ。ティア、キャロバックアップお願い」

 フェイトが自失している今が最大の好機なのだ。そう、いい訳のように何度も内心で呟き、スバルが拳を固
めた。
 エリオも同様腰を落とし、ストラーダを構えている。スバルとエリオ。二人の突破力ならばフェイトの防御力
は容易いこと。避けないのなら、この一撃で終わるだろう。
 それが分かっているだろうに、フェイトは何もしなかった。
 スバルの額から汗が流れる。突きつけた拳は震え、迷いがないとは言えなかった。

「行くよ」

 それを振り払うようにスバルが走った。全力全開。魔力をありったけ込めた拳だ。痛みを感じる暇は与えない。
エリオも同様。雄たけびを上げながらフェイトへ突進し、ストラーダを振り上げた。

「――――」

 フェイトの口が僅かに動く。こちらには聞えないほどの声量で紡がれたそれが何であるかは分からない。だ
がティアナが咄嗟にクロスミラージュの照準を合わせフェイトを真っ直ぐに見た。
 ――――見ていたけれど、何が起きたかは分からなかった。

「っ……ストラーダ!」

 エリオが叫ぶ。フェイトのいた場所を通り過ぎ、しかし手ごたえが無かったことに驚愕して。
 振り返り見たのは、一対の剣。

「あっ、ぐぅ……!?」

 そして、フェイトの足元で蹲り痛みに顔をしかめているスバルの姿だ。

「ねぇ、スバル……? スバルはそうやって、なのはを傷つけようとするんだね?」
「ち、ちがいま――――」
「うるさい黙れ」
「――――!!?」

 何かが砕ける音がした。
 見ればフェイトがスバルの右腕を踏み潰し、捻るように力を込めていた。
 ガキン、とスバルのボディを砕く音がする程の力だ。魔力が込められているのは言うまでもない。
 
「あっ、ああっ……や、やめてっ……やめてください……やめて――――」

 それだけで砕かれてしまったのだろう。
 スバルが泣き叫び頭を振りながらフェイトの脚を振り払おうと力を込めていた。人工皮膚から覗く機械部
分は火花を上げ、歪な稼動音を発している。
 それに不快感を露にしたフェイトが、バルディッシュを突きつけた。
 ――――そして。

「い、いやぁ……たすけ、助けてください……たすけ、て――――いやっ、やだっ、やだやだやだやだや
だぁ――――あああああぁぁぁぁぁっっっ――――!!?」
「ひとりめ」

 ゆっくりと、スバルの身体にライオットの刃が食い込んだ。



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目次:君に届けたいただ一つの想い
著者:246

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