474 名前:タピオカ[sage] 投稿日:2008/07/26(土) 06:02:26 ID:bXq6v3zk
475 名前:タピオカ[sage] 投稿日:2008/07/26(土) 06:03:38 ID:bXq6v3zk
476 名前:タピオカ[sage] 投稿日:2008/07/26(土) 06:05:17 ID:bXq6v3zk
477 名前:タピオカ[sage] 投稿日:2008/07/26(土) 06:06:22 ID:bXq6v3zk
478 名前:タピオカ[sage] 投稿日:2008/07/26(土) 06:06:56 ID:bXq6v3zk
479 名前:タピオカ[sage] 投稿日:2008/07/26(土) 06:07:42 ID:bXq6v3zk
480 名前:タピオカ[sage] 投稿日:2008/07/26(土) 06:08:54 ID:bXq6v3zk

「宴は永遠に」 スナックバー「時の庭園」編


「あら、チンク」
「相変わらず客がいないな」
「そんな店に来るモノ好きはいるわ」
「そうだな」
「子供はいいの?」
「お泊まり会だ」
「旦那はいいの?」
「………………………………………………………………………」
「注文は?」
「酔えるお酒」
「戦闘機人が生意気ね」
「あとおつまみに甘くてふわふわとろとろの卵焼き」
「もう酔ってるようね。今リニスがいないから出せないわ」
「リニスより料理上手いくせに」

スナックバー「時の庭園」
そんな看板がクラナガンの片隅にあったそうな。



「私の杖は、どこかしら?」

海上隔離施設に何一つ前触れなく現れたプレシア・テスタロッサはそう言った。
そんな妙齢の大魔導師の出現に、その場にいた全員が唖然とする他なかった。
知らない女性が良く分からん事を言っている。シンプルにみんなの考えを表すとこれだ。
だが、ただ一人だけは別の意味で驚く者がいた。
リニスである。
紆余曲折経てプレシアの杖により現世に再生果たし、なんだかんだあって海上隔離施設で働いていたのだ。

「プ、プレシア…生きていたのですか?」
「こっちのセリフよ」

それから二期以降の出演者置いてけぼりなやりとりが、しばしだけリニスとプレシアで交わされる事になる。

「今までどこで何をしていたのですか。公式には行方不明ですが、事実上死亡扱いだったんですよ」
「私の杖はどこか、聞いているのだけど?」
「私が持っています。しかし、質問に答えてくれない限り返しません」
「話すことなんてないわ」
「納得できません」
「納得させる必要もないわ」
「家族でしょう!!」

リニスの怒鳴り声に、プレシアが泣きそうな、淋しそうな、疲れたような瞳になったのを、その場にいたギンガは見ている。

「滑稽な理由…家族ですって?」
「的確かつ正確で、厳然たる真実です」
「どうやって生き返ったかは知らないけど、随分と知性が低下したようね」
「どうしてここにいるのか…それを私にしてもあなたにしても、お互い話し合う必要がありますね」
「ないわ」
「あります」
「なぜ、と聞けば「家族だから」と返ってくるのかしら?」
「はい」

堂々と誇らしげにリニスが笑った。
眩しいものでも見るようにプレシアがリニスに背を向ける。
逃げるようだ、とチンクは思った。痛がってるようにも見える。心が。

「ここにいても無意味なようね。もう杖はいいわ」

そして突如として現れた大魔導師は、やはり唐突に飛翔して去ってしまうのだった。

「あ、こら、待ちなさい! 杖を返してほしいんでしょう! ならキチンと私と話をしないさ! こら、プレシア!!」

そしてリニスもそれを追った。
そのまま音信不通となったリニスが帰ってくるのは2日後だ。
2日の間、プレシア・テスタロッサについてフェイトたちから十分に教えてもらったウェンディたちだが、無事の帰りに抱きついて安堵を表す。
しかしウェンディの背中をぽんぽんと叩きながらリニスはこう言うのだ。

「私もお尋ね者に加わりますね」

実に爽やかな一言だったという。

リニスが言うに、どうもプレシアはアルハザードと呼ばれる世界へたどり着けたようだった。
そこで死に至る病を治癒し、全盛期の魔力を取り戻し、ミッドチルダに戻る術も得たらしい。
本当にあったのか、と驚くリニスにしかしプレシアは、

「あったわ。でも、何もなかった」

と返した。
良く意味は分からなかった。問い返してもプレシアはだんまりを決める。
ただ一つ。
たった一人でミッドチルダへと舞い戻ったのを見れば、心から望んでいた最愛が戻らなかった事実は良く分かる。
リニスが粘ってどうにか情報を引き出す時、プレシアの口から零れる一言一言は亡者の発言のようだった。
その後プレシアを見失ったのだが、なんとなく…ただなんとなく、リニスは時の庭園跡地へと赴いた。
ここにいるなどと推測の目途などない。ただの、勘だ。

一つ、墓が建っていた。真新しく、備えられている花も新しい。
一目で誰の墓であり、誰が建てたかは分かった。リニスも野性の花を備えて、祈りをささげた。
その墓の前で日をまたげば、朝、花を手にプレシアはやってきた。
リニスを無視して新しい花を供えれば、プレシアが深い紫紺の瞳で墓をずっと、じっと眺め続ける。

「これから、どうするつもりですか?」

たっぷりの時間を置いてから、リニスが切り出した。
すぐにプレシアが逃げると思ったがゆっくりと唇を開いてくれた。

「どうするつもりもないわ」
「生存が確認された今、間違いなく局が逮捕に来ますよ」
「そうね」
「素直に捕まるつもりですか?」
「逃げるわ」
「逃げて、どうするのですか?」
「どうするつもりもないわ」
「まるで死人ですね」
「そうね」

実際に死んでるわけでもないし、餓死などで自らを殺してしまいそうな気配もなかった。
だが死んでいた。
本当にただ喰い、飲み、必要最低限な命をつなぐ行為しかしないのがリニスには悟れる。
生きる事しかしない生き方。プレシアが死ぬまでそんな生き方をするつもりなのは彼女の空虚さから感じ取れる。
死人だ。

「ずっとアリシアに花を供えるだけの余生にするつもりですか」
「そうね」
「ここに張れば、一発で逮捕できますね」
「そうね」

プレシアに掴みかかった。リニス自身で、頭の片隅で理性的ではないと思いながら、しかし頭に昇った熱を処理できずにいる。

「故人が返らないと認めたなら! そんな風に一歩進めたなら! 今度は自分を愛しみなさい!!」
「私は私が憎いわ」
「アリシアが悲しみますよ!」
「もうアリシアは悲しむ事も喜ぶ事も、何もできない。だから、私が悲しいのよ」
「絶対に納得しませんよ、そんな生き方!」
「あなたが納得しようがしまいが、どうでもいいわ」
「どうでもよくない!」
「家族だから、かしら?」
「そうです!」

そっと、プレシアがリニスの手をほどく。弱々しい力だった。
疲れた、悲しげな、淋しげな仕草だった。

「もう、やめて」

冷たく壁作ってリニスと会話していたプレシアから、か細く泣きだしてしまいそうな声が漏れる。
瞬く間に頭が冷えたリニスはもう何も言えない。
監視を含めて、その日は一緒に過ごした。
フェイトに会え、と言ったがその名を出した時、絶対にプレシアは返事をしなかった。
半日はフェイトについて話をして、どうにかプレシアにフェイトについての心中を吐かせようとしたが決して答えようとしなかった。
社会に顔出すつもりのないプレシアだが、それ以上にフェイトとアルフには顔を合わせるつもりがないのが見て取れる。
無責任やら臆病者やらと罵ってもプレシアは相手にしないので、結局そのまま日が変わってしまった。

そして次の日の朝、一緒にアリシアの墓に花を備えてる最中、

「働きなさい」

とリニスは命令した。

「嫌よ」

とプレシアは答えた。

「駄目です! 仙人みたいな暮らしするなんてそうはいきませんよ」
「……」
「そうですね…じゃあ話の都合上、スナックバーでも経営しなさい」
「……」
「私も一緒にやりますから、とりあえず社会復帰ですよ、プレシア」
「……」
「プレシア」
「要らぬお節介だわ」
「いいえ、必要なお節介です」
「そう」

と言うわけで、クラナガンの片隅に一軒のスナックバ−が開店する事になる。無許可で。闇スナックバーである。どんな社会復帰だ。
その小さな店の名は「時の庭園」といった。
時間を忘れて酒を楽しめる庭園…と言う意味ではなく、たんにプレシアが店名考えるのを面倒くさがっただけである。
こうしてリニスは犯罪者と共にスナックバーを経営する事になった。



「それで、女子生徒の何人かに…ゼストに恋心を抱いている者もいたりするのだ…」

もう何杯目だろうか。強いお酒飲みほして空になったグラスを片手に、チンクがカウンターにほっぺたぺにょんとしながら悩みを紡ぐ。
腕組んでと素っ気ない態度のプレシアだが話は聞いているらしい。

「子供にありがちね。勝手に失恋に至るでしょう」
「それでいいのだろうか?」
「良い悪いじゃないわ……そうね、強いて言うなら運が悪かっただけね、その女子生徒の」
「それからの恋愛に影響とかないだろうか?」
「子供の心身を強く鍛えてあげる為に私塾を開いたんじゃなかったかしら?」
「それはそうだが…こう言う事についてどう向き合えばいいか、そもそも私が助言できない」
「それで、ゼストはその恋心とやらを知ってる?」
「いや、さっぱりだ。あいつはこういう事に関しては鈍いようでな」
「見たまんまね」
「でも優しいんだ」
「ノロケなら聞く気はないわ」

いつの間にかプレシアもお酒飲みながらチンクを向き合ってた。
もう商いする姿勢ではない。もっとも、最初っから真面目に働くつもりはないのだが。
とはいえ、そもそも客が少なく誰も来ない日もしょっちゅうだ。
ナンバーズやら六課関係者などが飲みに来るので彼ら相手だともう普通に一緒に飲んでる。
ただし、フェイトが来るときだけは姿をくらまして絶対に会おうとしなかった。

「なぁ、フェイトお嬢様には会わないのか?」
「いい加減その質問止めてくれないかしら?」
「フェイトお嬢様は、会いたがっているんだ」
「私は会いたくないわ」
「子供をかわいく思わない母親は、いない」
「あの子は私の娘じゃないもの」
「無責任な臆病者」
「もうリニスから言われてるわ」
「いい加減にしないと力ずくでも会わせる事になる」
「酔ってるわね」
「酔ってない。母娘がこんな関係で……いいはずがないだろう」
「それも大人数から聞いたわ」
「絶対に、お前たちを会わせるぞ」
「…えらく執着するのね」
「フェイトお嬢様は、恩人だ」

カウンターに突っ伏してたチンクが顔真っ赤にして起き上がる。
きりりと凛々しく眉を吊り上げ、眠たそうな双眸でプレシアを射抜くのだ。
プレシアは無表情で、しかし何かしら孕んだ感情を隠そうとして目をそらした。

「……合わせる顔が、ないわ」

そう小さく呟いたのと、入口が開いたのはほぼ同時だった。
小さな店だ。ドアが開けばすぐに誰が入店したか視認できる。

「ドクター!?」
「おや、チンク。クックックッ、凄いじゃないか、プレシア。いつも客0人のこの店がその何百倍しても届かない人数の客を迎えるとはね」
「この店は犯罪者お断りよ」
「犯罪者同士仲良くしても損ではないと思わないかい?」
「また脱獄ですか」
「飲んだら帰るよ」

フー、と珍しく息切らせてチンクのとなりに陣取るスカリエッティへとお茶漬けが差し出される。
プレシアの第97管理外世界的な真意をよそに、それを涼しい顔でそれをすすりながら額の汗を拭った。

「随分と運動をしてるようですが、追われてるのですか?」
「ここの店のママの娘さんにね」

ピクリとプレシアの片眉が動いた。
スカリエッティのはめる指輪のようなデバイスが中空で円を描くと、チンクとプレシアの眼前にホログラムが浮き上がる。
カメラの映像だ。場所はスナックバー「時の庭園」の入口前。ドアを隔ててスカリエッティたちから10メートルと離れていない。
金髪赤眼の執務官がいた。ドアの周りをうろうろして、入ろうか、やっぱりやめようかと何度も何度もたたらを踏んでいる。
そわそわ、きょろきょろ、ゆらゆらとしてから、キッとドアを睨む。
いざ、入ってやる!
と意気込みの光が瞳に宿るが、やっぱり入れない。胸に手を当てて深呼吸。
硬い動作で一歩、足を踏み出そうとして、結局足踏みしただけに終わる。

「ここに逃げ込むと私を追ってる執務官殿は何故かその追撃速度が鈍ってねぇ。とても便利だ」
「プレ…」

シア、とチンクの言葉は続かない。リアルタイムの画像を見ているうちに、この店のママが消えていた。
プレシアを引っ掴んでドアの向こうに放り出そうとした意気がしおしおと消沈していく。

「クックックッ、逃げ脚が早い大魔導師だ」

いつの間にか先ほどまでプレシアがいた位置にスカリエッティが立ち、勝手に酒瓶を開けて飲み始めている。
計るような目でホログラムを眺め、そしてフェイトが入ってくる数秒前に店正面以外の出入り口から消えていった。
二拍を置いて、ドアが開く。
店に踏み込み、チンクしかいないのを確認してから、うつむいた。苦笑している。

「どっちにも逃げられちゃったか……」
「フェイトお嬢様……」

とぼとぼとした足取りでチンクの横に立ち、カウンターの向こう側、何もない宙空を淋しげにフェイトが見つめる。
そこにいた人を、渇望しながら。
やるせない思いでフェイトの横顔を見ていたチンクだが、その手を取る。

「飲みませんか?」
「私、まだ仕事中だよ」
「ちょっとした、休憩です」
「……そっか、休憩か」
「はい、休憩です」
「じゃあ、ちょっとだけ」

チンクに笑いかけるフェイトだが、淋しさが滲んでいて仕方がなかった。



「ちょっと話の一つ二つすればいいものを」

酒瓶に直接口つけるスカリエッティが降り立つのはスナックバー「時の庭園」の屋根上。
虚ろに座り込んだプレシアの背中に語りかける。

「私の存在なんて、今さらあの子には邪魔でしかないわ」
「そんなに度量の小さな子じゃないよ」
「知ってるわ」
「そんなに向き合えないものかね」
「私はあなたとは違う」
「酔っ払えば、同じようなものになれるかもしれないよ」

まだ半分以上残る瓶をスカリエッティが笑いながら差しだした。数秒だけ間が空いたがプレシアがそれを受け取る。

「無理よ」

飲みほしたが、酔えなかった。








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目次:「宴は永遠に」
著者:タピオカ

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