333 名前:■ ユーノ・スクライア逝ってよし! ■ ◆6W0if5Z1HY [sage] 投稿日:2008/07/04(金) 04:37:24 ID:c78i259e
334 名前:■ ユーノ・スクライア逝ってよし! ■ ◆6W0if5Z1HY [sage] 投稿日:2008/07/04(金) 04:38:13 ID:c78i259e
335 名前:■ ユーノ・スクライア逝ってよし! ■ ◆6W0if5Z1HY [sage] 投稿日:2008/07/04(金) 04:39:44 ID:c78i259e
336 名前:■ ユーノ・スクライア逝ってよし! ■ ◆6W0if5Z1HY [sage] 投稿日:2008/07/04(金) 04:40:43 ID:c78i259e
337 名前:■ ユーノ・スクライア逝ってよし! ■ ◆6W0if5Z1HY [sage] 投稿日:2008/07/04(金) 04:41:27 ID:c78i259e
338 名前:■ ユーノ・スクライア逝ってよし! ■ ◆6W0if5Z1HY [sage] 投稿日:2008/07/04(金) 04:42:13 ID:c78i259e
339 名前:■ ユーノ・スクライア逝ってよし! ■ ◆6W0if5Z1HY [sage] 投稿日:2008/07/04(金) 04:43:08 ID:c78i259e
340 名前:■ ユーノ・スクライア逝ってよし! ■ ◆6W0if5Z1HY [sage] 投稿日:2008/07/04(金) 04:44:22 ID:c78i259e
342 名前:■ ユーノ・スクライア逝ってよし! ■ ◆6W0if5Z1HY [sage] 投稿日:2008/07/04(金) 04:48:31 ID:c78i259e
343 名前:■ ユーノ・スクライア逝ってよし! ■ ◆6W0if5Z1HY [sage] 投稿日:2008/07/04(金) 04:49:09 ID:c78i259e
345 名前:■ ユーノ・スクライア逝ってよし! ■ ◆6W0if5Z1HY [sage] 投稿日:2008/07/04(金) 04:50:11 ID:c78i259e
346 名前:■ ユーノ・スクライア逝ってよし! ■ ◆6W0if5Z1HY [sage] 投稿日:2008/07/04(金) 04:50:55 ID:c78i259e
347 名前:■ ユーノ・スクライア逝ってよし! ■ ◆6W0if5Z1HY [sage] 投稿日:2008/07/04(金) 04:51:39 ID:c78i259e
349 名前:■ ユーノ・スクライア逝ってよし! ■ ◆6W0if5Z1HY [sage] 投稿日:2008/07/04(金) 04:54:17 ID:c78i259e

 次の日。フェイトは朝からなのはの部屋を訪れた。
昨日のなのはの様子からして、ユーノとの間に何かがあったことは間違いない。気になった。
なのはとユーノを二人っきりにしてしまったのは自分であるし、その際に何かがあったのなら、
自分にも原因の一端がないとは言い切れないからだ。このあたり、生真面目なフェイトらしい考え方ではある。

 部屋の呼び鈴を鳴らすと、瞼を重そうにしたなのはが現れた。

「あ、フェイトちゃん……」
「おはようなのは、朝からごめんね。ちょっといい?」

 正直、今はあまり人に会いたくない。一人にしてほしいとなのはは思う。
だが、昨晩嘘をついてまでフェイトを追い返してしまったという負い目もあり、断れなかった。
仕方なくフェイトを部屋に上げる。昨日、フェイトに食べてもらうはずだったお菓子とお茶を出した。

「なのは、ありがとう。美味しそうだね」
「うん……」

 フェイトが何か話しかけても、なのはは心ここに在らず、という感じである。
その様子に、やっぱり昨晩ユーノとの間に何かがあったのだといよいよ確信を深めるフェイト。
一段落したところで、フェイトは単刀直入に話を切り出した。

「ねえなのは」
「ん、なに?」
「昨日、ユーノと何があったの?」

 昨日は、何かあったのか、なかったのかという、YES・NOクエスチョンだった。
だから、なのはにNOの答えで逃げられてしまった。
そういうわけで今日は、何かがあったというYESを前提にして、フェイトは質問したわけだ。

「えっ?!」

 フェイトの言葉を聞いた途端、それまで右から左だったなのはが、ようやくまともな反応を見せた。
数秒ほど何も言えずに目を泳がせた後、やっとのことで出てきた声は掠れていた。

「……えっと、その……どういう、意味?」
「そのまんまだよ。昨日の夜、ユーノと何かあったんでしょ?」
「や、やだなフェイトちゃん……別に、何もなかったけど……」

 親友のあまりにもバレバレなその嘘に、フェイトは、ふうっ……と大きくため息を一つつく。

「なのはは、嘘が下手だね」


「……っ」

 逃げられない。なのはは咄嗟にそう悟った。フェイトは、自分が嘘をついているのを確信している。

「ねえ、何があったの?」
「…………」
「なのは、今何か悩んでるよね?私、なのはが心配なだけなんだ」
「…………」
「私にも話せないこと?」

 ここまで言われてしまうと、いよいよ黙秘を続けることなどできない。
観念したなのはは、誰にも言わないで、という条件付で、フェイトに全てを話した。
ユーノに押し倒されたこと、力ずくで押し付けられてキスをされたこと、「やめて」と叫んでもやめてもらえなかったこと。
そして――それでも何故かユーノのことが嫌いになれないということ。

 フェイトはなのはの話を黙って聞いていたが、心の中では大変に驚愕していた。
あの温厚で大人しいユーノが、ここまでやるとは思っていなかったからだ。
ユーノの行為は、女性の人格を踏み躙る最低最悪の行為だ。フェイトはユーノに対して強い怒りを覚えた。

 だが、一通りユーノに対して憤慨し終えたところで、フェイトはそれだけでは済まないと感じた。
5年前、自分がユーノの告白を邪魔しなければ、こんなことにはならなかったかもしれない、と。
昨晩、自分が余計な気を利かせたりしなければ、こんなことにはならなかったかもしれない、と。
フェイトは少なからず、自分にも責任があると思った。

「フェイトちゃん……わたし、どうしたらいいんだろ……」

 いつもの明るいなのはらしくない沈んだその声。親友のこんな深刻な表情など、見たことがなかった。
改めてユーノへの怒りがふつふつと湧いてくるフェイト。
自分にも責任はある。何より、なのはの力になってあげたい。そう思った途端、フェイトの心は決まった。

「私、ユーノのところに行ってくるよ。なのはは待ってて」


 ユーノの住居には、なのはと一緒に数回行ったことがあった。
ユーノは時空管理局の無限書庫で仕事をしているが、管理局員であるなのはやフェイトとは違い、
立場はあくまで「民間協力者」である。
だから管理局の宿舎ではなく、自分で部屋を借りて暮らしていた(管理局からの家賃補助はあるらしい)。

 フェイトが呼び鈴を鳴らすと、これまたなのは同様、重そうな目をしたユーノがのっそりと扉を開ける。
もっさりしたユーノの姿を目にした途端、フェイトは怒りでユーノを叩きのめしたい衝動に襲われた。
それでも懸命に自分を抑え、努めて冷静にフェイトは振舞った。

「おはようユーノ。ちょっと話があるんだけど、あがるよ」

 なるべく今の感情を表に出さないようにしたつもりだが、少々声が尖っていたかもしれない。
ユーノの重そうな目が動揺したのをフェイトは見逃さなかった。

「あ、あ、その……ちょっと散らかっているから、少し待って」
「いいよ。私、そんなの気にしないから」

 半ば強引に、ユーノの部屋に押し入るフェイト。いつもと違うフェイトの様子に、ユーノは本能的に恐怖する。
もしかしして、昨日のことがバレたんじゃないか……と。
とりあえずリビングまで続く廊下をフェイトと歩きながら、ユーノは震える声で言った。

「お茶、入れるよ。ちょっと待ってて……」
「ううん、いらない。だって――」


「なのはのところで、飲んできたから」



 その瞬間、ユーノの身体がビクッと震え、足が止まった。廊下の温度が数℃、下がったような気がした。
背後から無言のプレッシャーを醸し出すフェイトに、ユーノは蛇に睨まれた蛙の如く、立ったまま固まってしまった。

 先に沈黙に耐えられなくなったのは、ユーノだった。
ゆっくりと後ろを振り返り、乾いた口から、やっとのことで言葉を紡ぎ出す。

「……フェイト、もしかして――」

 ばしっ

「ッッッ!!」

 ユーノの頬に、強烈な衝撃が走った。フェイトに平手打ちを食らったのだとわかるまで、時間はかからなかった。
ジーンという痛みとともに、みるみる赤みを増していくユーノの頬。
フェイトに、なのはとのことがバレたということを、ユーノは知った。


「どうして叩かれたかは、わかるよね?」
「……ごめん……」
「謝る相手が、違うんじゃないの?」

 フェイトのその言葉に、ユーノは何も言えなかった。先ほどまでのような、重い重い沈黙が再び流れる。
しばらくして、これ以上こうしていても無駄だと思ったフェイトは、ゆっくりと口を開いた。

「……で、ユーノはどうしたいの?」

 5年前に告白を邪魔してしまったという負い目もある。
昨日、目の前の淫獣となのはを二人っきりにさせてしまったという自分の失敗(?)もある。
さらに、なのはを襲ってしまったユーノの気持ちも、少しはわからないでもない。
なにせ、ユーノがなのはのことを好いているというのはフェイトから見てもバレバレ、丸わかりなのに、
当のなのはは全く気が付いていない。周りで見ているこっちの方がもどかしい。
もちろん、告白する勇気のないユーノが悪いといえば悪いのだが、なのはも少しは気付いてあげてもいいと思う。
ユーノが爆発してしまったというのも、ほんの少し、本当にほんの少しだけ、フェイトにはわかる気がした。

 だからフェイトは、ユーノに対して最後の救助ブイを投げた。
このチャンスをユーノがモノにできるかどうかは全くの彼次第ではあるが、
もしダメなら、所詮ユーノの器はその程度とフェイトは思うことにした。

 ユーノはしばらくの間、一言も発せずに黙っていたが、やがてぽつりぽつりと喋り出した。

「……なのはに、謝りたい……」
「…………」
「なのはに会って、謝りたいんだ……」
「…………」

 フェイトはあえて冷たく、しばらく無言を貫いた。
それはユーノにとっては紛れもない恐怖で――ユーノの顔がみるみる歪んでいく。
そんなフェイトに対し、恥も外聞も全て捨てて、ユーノは縋るかのように必死で訴えかけた。

「お願いだフェイト!もう一度、なのはに会いたいんだ!頼む、頼むよ!」

 まるで、身体の奥底から全てを振り絞るような魂の叫び。
だが、ユーノの悲痛な懇願を耳にしても、フェイトは黙ったままだった。

 なのはに話を聞いたとき、彼女は「あんなことされたのに、何故かユーノ君が嫌いになれない」と言っていた。
レイプ未遂をされても、なのははユーノのことをまだ信じているのだ。
そんな純真ななのはに、この淫獣は牙を剥いて襲い掛かった。
だから、この最低の男には、それなりの「おしおき」を加えなくてはいけない。
救助ブイは投げてやったものの、それに無条件で掴まらせてやる気は毛頭なかった。

「そうやってうまいこと言って、また、なのはに酷いことするんでしょ?」
「……っ!ち、違う!僕は本当に、なのはに謝りたいんだ!」
「あんなことしておいて、よくそんなことが言えるね。ユーノってホント、最低だね」
「……ッ」


 フェイトの容赦ない言葉に、ユーノの顔が屈辱で紅潮する。
だが、親友を傷つけた最低の男には、このくらい言ってやらないと気が済まなかった。
散々ユーノを罵倒した後、ようやくフェイトはユーノを救助ブイに掴まらせてやった。

「……いいよ。なのはに、伝えてあげる」

 うなだれていたユーノが一転、まるで神でも見たかのような、感謝を込めた眼差しで見つめてくる。

「フェイト……ありがとう……」
「でも、会うかどうかを決めるのはなのはだから」

 フェイトは最後まで、冷徹さを貫いた。

「最後にこれだけは言っとくね、ユーノ」
「…………」
「今度なのはを傷つけるようなことしたら、絶対許さないから」

 ピシャリとそれだけ言い終えると、フェイトはユーノの部屋を出て行く。
フェイトの凄んだその声に、ユーノは何も言うことができなかった。



 なのはの部屋に戻ったフェイトは、全てをなのはに話した。ユーノが、もう一度なのはに会いたいと言っていること。
ユーノはなのはに、謝りたいと必死で訴えていたこと。

「なのは。どうしよっか?」

 フェイトとしては、これで自分のやるべきことはやったと思った。あとは、なのはとユーノ、本人たち次第だ。
なのははしばらく迷っているようだったが、やがて意を決したかのように言葉を発した。

「……会う。会うよ。わたしももう一度、ユーノ君と話がしたい……」
「……なのはがそれでいいなら、私はいいけど……大丈夫?」
「うん」

 フェイトの問いかけに、なのははコクリと頷いた。正直言って、フェイトはなのはがユーノと会うのは心配である。
だが、当の本人のなのはにこう言われてしまっては、フェイトとしてはこれ以上は何も言えない。

「私も、一緒に行こうか?」

 せめてと思い、フェイトは一緒に行くことを申し出た。
なのはに対して再びユーノが何かをやらかすということは考えにくかったが、それでも物事には万が一ということがある。
だが、なのははゆっくりと、しかし確固たる意志を持って静かに首を振った。

「もう一回……もう一回だけ、ユーノ君を信じてみる……それに……」
「それに?」


「わたしも、ユーノ君に謝らなきゃいけないかもしれないから……」


「……なのは……?」


 ユーノは不安に苛まれたまま家を出て、フェイトから伝えられた場所に向かった。
なのはがもう一度会ってくれるということをフェイトから聞いたときは、やったと思うと同時に、
言いようのない恐怖に襲われたことも事実だ。しかし、自分から言い出した以上、逃げるわけにはいかない。

 約束の時間の30分も前に、ユーノは約束の場所に着いた。
万が一遅れたら洒落にならないし、自分を落ち着けるための時間も欲しかったからだ。
なのはを待つ間、ユーノはこれまでの人生で一番の恐怖と戦い続けた。

 やがて――なのはがやって来た。

 なのはは、来てくれた。あんなに酷いことをしてしまったのに、もしかしたら、また同じ目に遭うかもしれないのに。
さらに驚いたことに、なのはは一人でやって来た。ユーノはてっきり、フェイトと一緒に来るものだと思っていた。
驚いたと同時に、ユーノは改めて決心を固める。

 もう絶対に、なのはを傷つけるようなことはしない――と。

 まだ少し怖いのか、なのははユーノから少し距離を置いたところで立ち止まった。
ユーノが顔を上げると、なのはは慌てて顔を背ける。その表情にはやはり、どこか怯えがあった。
なのはも覚悟を決めてここにやって来たつもりだったが、いざユーノを目の前にすると、身体が強張るのを押さえられない。

「なのは……」
「……っ」

 ユーノの声に、なのはの身体がビクッと震える。声を掛けただけで怖がらせてしまうなんて……。
だがこれも、全て自分のせいだとユーノは自分に言い聞かせる。
少々の沈黙の後、意を決したユーノは勢いよく頭を下げて叫んだ。

「ごめんなのは!本当にごめん!」
「…………」
「許してもらおうなんて思ってないけど……本当にごめん!!」
「…………」

 なのはは俯いたまま、黙っていた。ユーノの言葉に、何も反応を見せなかった。
だが、ユーノはそのまま言葉を続ける。それが今のユーノのやるべきことだったから。

「僕はその……あの時、なのはのことを考えないで、自分のことしか考えられなくて……」
「…………」
「なのはの言う通り、僕は最低の人間だよ……」
「…………」

 なのはに謝りながら、ユーノは再度、自分のやってしまった罪の大きさを噛み締める。
浅ましい欲望に負け、人間として最も卑怯で最低な行為をしてしまった。
拒絶するなのはに無理矢理自分を押し付け、彼女を力ずくで自分のものにしようとした。
その結果、なのはを酷く傷つけてしまったのだ。
これだけのことをして、許してもらおうとか、ましてや好きだなんて言う資格はないと、ユーノは自認した。

「……僕の言ったことは全部忘れて……」
「…………」
「僕みたいな最低な人間に、なのはのことを好きだなんていう資格はないから……」
「…………」
「本当に、ごめん……」

 ユーノとしては、言いたいことはこれで全て終わりだ。あとは、なのはがどうするかである。
だが、なのはは相変わらず俯いたままで、一言も発しようとはしない。


(やっぱり、ダメだったか……)

 許してもらえるどころか、謝罪の言葉をまともに聞いてもらえるかどうかもあやしいとはユーノも思っていた。
だが、実際になのはの無反応の様子を目にすると、ショックだった。

(でも、これも全部……僕の自業自得なんだよな……)

 もう、これ以上ここにいても無駄だと、ユーノは重い足を引きずって家への道を歩き出そうとした。

――だが、その時だった。なのはの口が、ようやく開いた。

「ユーノ君、待って……!」

 突然後ろから投げかけられたなのはの言葉に、ユーノは弾かれるように後ろを振り返る。
なのははまだ顔を背けたままだったが、それでもユーノに向かって喋り出した。

「その……わたしも、ユーノ君に謝らなきゃいけないかも……」
「……へ……?」

 なのはの言葉の意味が一瞬わからず、頭の中で数秒ほど反芻した後、ユーノは狐につままれたような顔になった。
なのはに酷いことをしたのは自分であって、それなのになぜ、彼女が自分に謝る必要があるのだろうか。


 フェイトがユーノの部屋に行っている間、なのははベッドに寝転がりながら一人考えていた。

「…………」

 昨日は、あんなことをしたユーノに対する怒りや悲しみが心中のほとんどを占めていた。
だが、時間が経って落ち着くと、心の中にあるのは怒りや悲しみだけではないことに気が付いた。
なにより、あんな酷いことをされてもユーノのことを何故か嫌いになれない自分がいる。

(あんなことされたのに……わたし、どうしてユーノ君が嫌いになれないんだろ……)

 形はどうあれ、男の子から面と向かって「好きだ!」なんて言われたのは生まれて初めてだった。
なのはは、ユーノとのこれまでをぼんやりと思い返してみる。

 ユーノは昔から、本当に優しかった。
自分が魔法の力に目覚めてから初めて直面した大事件、『プレシア・テスタロッサ事件』でも、
その後に起こった『闇の書事件』でも、ユーノはいろいろと自分を気遣い、後ろからサポートしてくれた。
そして何より、瀕死の重傷を負い、もう歩くことすらできないかもしれないと言われて心が折れそうになった自分を、
ユーノは本当に一生懸命、献身的に支えてくれた。
彼がいなかったら、今の自分はまず間違いなく存在していない。

 そこまで考えてみて、なのははハッと気が付いた。

 自分の中におけるユーノの存在とか、そんなこと、今まで意識したこともなかった。
自分の周りに空気があるように、彼がいるのが当たり前、ましてや彼がいなくなるとか一度も考えたことがなくて。
灯台下暗し、身近な存在すぎて、逆に彼のことが見えていなかった。
それは、いつも自分を支えてきてくれたユーノに対しては、この上なく残酷な態度だったかもしれない。
昨晩のユーノの叫びが頭の中で蘇る。

『好きだっ!好きなんだ、なのはあぁっ!』
『好きなんだ、なのはのこと。好きで好きでたまらないんだ!』
『なのはのこと、好きで好きで仕方がないんだ!』

 もしかしたら、ユーノは苛立っていたのかもしれない。
自分はユーノを見ているようで、結局は全然彼のことを見ていなかった、となのはは思う。
ユーノは、もっと僕を見てほしい、僕はここにいるんだと、そう訴えたかったのではないだろうか。

 一度ユーノの存在を明確に意識しだすと、なのはは心の中で彼の存在が一気に大きくなっていくのを感じた。

「ユーノ君がいてくれるの、当たり前だと思ってた……」
「なのは……?」

 ユーノの話を黙ったまま聞いていたなのはだったが、実は内心ホッとしていた。
フェイトの前では「もう一度ユーノ君を信じてみる」とは言ったものの、正直言って怖くなかったといえば嘘になる。
また、酷いことをされたらどうしよう、と。
だが、誠心誠意謝ってきたユーノを見て、なのはも自分の気持ちを素直に言う気になったのだ。

「ユーノ君がいつも優しいのも、当たり前だと思ってた……」
「…………」
「ホントは全然、当たり前なんかじゃないのに……」

 これは一体……? と訝しげな顔をするユーノに、なのはは続ける。

 闘いの時はいつも後ろから支えてくれて、背中が温かかったこと。
大怪我をして辛くて苦しかった時に、いつも傍にいてくれて本当に心強かったこと。
いつもいつでもどんな日も優しくしてくれて、嬉しかったこと……。

 ユーノに対する今までのそういう気持ちを、なのはは連ねた。

「なのにわたし、いつの間にかそういう気持ちを忘れちゃってたのかもしれない……」
「…………」
「ユーノ君が近すぎて、ユーノ君の存在を見失っちゃってた、きっと……」
「…………」
「だからその……昨日のことは、そんな自分への罰が当たったと思っとく……」

 風向きが思わぬ方向に変わっていくのにユーノは驚き、恐る恐る問い掛けてみる。

「なのは……許してくれるって、こと……?」

 ユーノの言葉に、なのははゆっくりと頷く。ユーノは、全身から力が抜けていくのを感じた。

「……なのは、本当にごめん……ありがとう……」
「ん、よかった……いつもの優しいユーノ君に戻ってくれたんだね……」

 まだ少しお互いの態度はぎこちなかったが、とりあえずはホッとした空気が流れる。
ゆっくりと歩み寄り、どちらからともなく手を握る。
そして――今こそ改めてなのはに自分の気持ちをキチンと伝える時だろうとユーノは思った。
決心したユーノは、一度大きく深呼吸をしてから、ゆっくりと口を開く。


 


「僕、なのはのことが、好きだ。なのはとずっと一緒にいたい……」





 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 一年が経った。

 あの謝罪の後、ユーノに告白され、付き合ってほしいと言われた時は、なのはは正直どうしようか迷った。
確かにユーノには好意を抱いていたが、それは「男性としての好意」とは程遠いものだった。
言ってみれば「友達としての好意」である。
だが、ユーノの真摯な態度もあり、結局彼の熱意と想いに押し切られる形で付き合うことを受け入れた。

 ユーノと付き合い始めて半年も経った頃、なのはは自分の心境の変化に気が付いた。

(わたし、ユーノ君のこと、好きになってる……?)

 今までは、ユーノのことを「友達」として見てきた。
付き合うようになってからは、ユーノを「男性」「恋人」として見るようになった。
すると、今まで「優しい」という彼の長所が、自分の「女性」の部分を強く惹きつけるようになったことに気が付いた。

 ユーノと一緒にいると、彼が傍にいてくれると、安心する。
恋人として彼と話していると、今まで感じたことのない感情が自分の中に入ってくるのを感じる。
逆に、彼がいなくなってしまうと心がきゅっとなって淋しい感じがする。
彼が自分以外の女の子――例えば、親友であるフェイト――と一緒にいるのを見ると、そわそわしてしまう。

 一般的に、女性に対して「どういう男が好き?」と尋ねると、「イケメン」やら「かっこいい」やら「金持ち」やら、
そういう回答が返ってくることが多かったりする。
だがしかし、なんだかんだで女性というものは「優しい」男に魅かれるものらしい。
ユーノは本当に、自分を優しくいたわってくれるのだ。それも、いやらしい下心とか、そういった感じはない。
ただただ純粋に、自分のことを好きでいて優しくしてくれる感じである。

――その日も、ユーノとなのはは午後からデートをした。
適当にミッドチルダの街や公園を歩き、喫茶店に入ってお茶をしながらたわいもない世間話や雑談に興じた。
喫茶店を出て再び適当に時間を潰し、お腹が空く時間帯になったら、夜景の眺められる高級レストラン……ではなく、
そこらへんの店に入ってご飯を食べた。
正直言って、おままごとみたいなデートではあったが、それでも二人は十分楽しめた。

 ご飯を終えたユーノとなのはは今、並んでミッドチルダの街を歩いていた。
別に目的地があるわけではない。なんとなく歩いているだけだ。
ちなみに――自動車の走る道路の歩道を二人で並んで歩く時は、ユーノが必ず車道側を歩く。
ユーノに言わせると、「車が突っ込んできても、僕がなのはの盾になれるから」だそうだ。
最初、なのははそれを聞いて思わず吹き出しそうになったが、そういうところに気を配るユーノの優しさに、
心が温かくなった。

「なのは、明日は休み?」
「うん、わたしは明後日からお仕事。もう一箇所くらい、どこか寄る?それとも、もう帰ろっか?」
「…………」
「……ユーノ君?」

 急に思いつめたような表情で黙り込んでしまったユーノを見て、なのはの声が不安そうになった。
しばらくの間、ユーノは黙り込み、無言のまま二人は10mほどは歩いただろうか。

「ねえ、どうしたの?」

 先に沈黙に耐えられなくなったなのはが、もう一度ユーノに声を掛ける。
それが引き金になったのか、意を決したかのようにユーノが口を開いた。

「それなら……ホテルでも、行こうか……」


 ユーノも人間であり、男である以上、なのはを「オスの目」で見てしまうことは当然ある。
今まで彼女を散々『夜のおかず』にしてきたし、それが高じて1年前の『未遂』事件もあった。

 だが、なのはと付き合うようになってから、ユーノは不思議となのはを「オスの目」で見ることが減った。
例の未遂事件の後、「なのはを傷つけるようなことは二度としない」と心に強く誓ったからか。
また、実際になのはと付き合い始めたことにより、彼女に対する「飢え」が薄まった影響もあるのだろう。
とにかく、ただ純粋に「なのはとずっと一緒にいたい・彼女を守りたい」と思うようになった。

 それでもやっぱり――ユーノは男だ。大好きななのはをぎゅっと抱き締めて身体にたくさん触れてみたい。
もっと言えば、『してみたい』。そういう衝動に駆られることが時々あった。

「えっ、ホテルって、なんで?それなら家に帰……あっ……!」

 怪訝そうな表情で疑問を口にしたなのはが、途中でユーノの言葉の真意に気付いて赤面した。
要するに――ユーノは自分とセックスをしたいと言っているわけだ。

 なのはだって、もう子供ではない。いつかは『そういうこと』になるだろうと漠然とは考えていた。
だが実際、それに直面してしまった今、どういう反応を返したらよいか、咄嗟には思い浮かばなかった。

「…………」
「…………」

 二人の足が、ふと止まった。
さっきまで楽しく会話をしていた雰囲気はどこへやら、一転して二人の間には気まずい沈黙が流れた。

「ご、ごめんなのは。冗談だよ、気にしないで……」

 気まずい空気をなんとか払拭しようと、あ…ははは…と不自然で乾いた笑いを上げながらユーノは歩き出そうとする。
ユーノ君の変態!というなのはの罵りとともに、平手打ちの一つでも飛んでくるかと思ったが、
幸いにもそれがなかったことに、彼は内心安堵した――その直後だった。
なのはがユーノの腕を捉え、顔を伏せながら蚊の泣くような小さな声で呟いたのは。

「……いいよ」
「……へ?」
「ユーノ君とだったら、いい……」

 頬を赤く染めてユーノを見上げてくるなのはの表情は、いつもより数段女の子らしく見えた。


――今、なのははユーノの部屋のシャワー室でお湯を浴びている真っ最中である。

 結論を言えば、結局ユーノの部屋で『する』ことになった。
諸々の理由で――例えば、なのははそこそこ有名人だからとかホテルはマズイ――この場所ですることにした。

 なのはは一つ、条件を出した。避妊はしてほしい、ということだ。理由は二つある。
一つ目は、単純に今妊娠してしまうのはまずいからだ。
なのはは今、管理局でバリバリに働いている最中。時空管理局も、彼女の力を大いに必要としている。
そんな彼女を妊娠でもさせてしまったら、まずなのは本人の人生計画が狂うだろうし、迷惑がかかる。
管理局の方だって、今なのはに「産休」やら「育休」を切り出されたら困惑するだろう。

 二つ目は、親――特に母親――に昔から教え込まれて築き上げられた価値観のため。
結婚する前に子供を作るのはよろしくない、という親の考えとその意味を、なのははキチンと頭に置いていた。

 そういうわけで、ユーノはなのはがシャワーを浴びている最中、引き出しの中をゴソゴソと引っ掻き回していた。

(本当に、これでよかったんだろうか……)

 先にシャワーを浴び、トランクス一丁の格好で引き出しの中を漁りながら自問自答するユーノ。
もちろん、なのはと『できる』のは嬉しい。
だが、いざ『OK』を出されると、なのはのような自分には勿体無い女性を自分が汚してしまってもいいのだろうか、
という気持ちも同時に湧き上がってきたのも事実だ。

「あった……」

 1年ほど前、とある悪友がからかい半分で、ニヤニヤしながらユーノにコンドームを渡してくれた。
いらないよ、と言ったのだが、持っておいて損するものじゃないから、という理由で半ば強引に受け取らされた。
まあ、使うことはないだろうと部屋の引き出しの奥に封印してあったと思ったが、やっぱりあった。
まさか、役に立つ日が来るなんてね……と自嘲気味に笑いながら、箱を破って中身を取り出しておく。

「ふう……」

 ユーノは一つ大きなため息をつくと、どっかりとベッドに腰掛けた。
どうしても、先ほどから感じているモヤモヤを払拭できない。本当に、なのはとしてしまっていいのだろうか。
何回考えてみても思考は纏まらず、まるでケージの中でホイールをくるくる回しているハツカネズミのようだ。

 そうして逡巡を繰り返しているうちに、寝室の扉ががちゃりと開いてなのはが入ってきた。
お風呂上りのその姿に、ユーノの心臓がドクンと高鳴る。
いつもサイドポニーに纏めている髪の毛をおろしている姿を見ると、随分と違う印象を持った。
なのはは身体にバスタオルではなくて、布団のシーツを巻いていた。
ユーノの部屋には身体を覆い隠せるような大きいバスタオルは置いてなかったので、
なのははクローゼットからシーツを引っ張り出して脱衣所に持っていったのだ。

「…………」


 なのはは無言でユーノの隣まで来ると、ベッドにちょこんと腰掛けた。
やはり、緊張した面持ちだった。当然だろう。今から「する」ことは初めてのことなのだから。
ユーノにも、なのはが緊張しているのがよくわかった。
こんな時は男である自分が何とかしなくては、と思うのだが、如何せんまだユーノは人生経験が乏しい。
口から出たのは、先ほどから感じている疑問だった。

「なのは……」
「ん……」
「……本当に、いいの?」
「え?」
「その……本当に僕でいいの?」

 どうして、この期に及んでこんなことを言うのだろうか、となのはの表情が不安げになった。
そもそも、「しよう」と言い出したのはユーノの方ではないか。

「ユーノ君は……わたしのこと、好きじゃないの?」
「すっ好きだよ、もちろん!……でも……」

 ユーノは慌ててフォローを入れた。やはり、こんなこと言うべきではなかったか、とも思った。
だが――今感じていることをきちんと伝えないまま行為に及ぶのは無理な気がした。
一度息を大きく吐き、気持ちを落ち着けてから再び口を開く。

「……なのはのこと、大事にしたいんだ」
「…………」
「さっきはその……場の勢いでついつい言っちゃったけど……」
「…………」
「これって大事なことだと思うからさ……勢いとかでやっちゃいけないと思うんだ……」
「…………」

 ユーノの言葉を、なのはは黙って聞いていた。

「もし、なのはが本当は嫌だったら……今からでも遅くない。嫌だって言ってくれれば……」

 心の中に抱いていた思いを喋りながら、一方でユーノは、自分は何を馬鹿なことを言っているのだとも思う。
なのはとエッチできる絶好のチャンスを得たというのに、なんでわざわざそれをフイにするようなことを言うのか。
だが、どうしても「本当はなのはは嫌がってないだろうか、無理に自分に付き合ってくれているだけではないか」
という疑問が最後には出てきてしまい、男の欲望に徹しきれない。

 ユーノのそういう気持ちは、なのはにも敏感に伝わったようだ。
なのはは、ちょっと困ったな……というような表情をしばらく浮かべていたが、やがて――

「っ!なのは……」

 ユーノの隣にちょこんと腰掛けていたなのはが、ユーノにゆっくりともたれかかった。

「わたしは――本当に、嫌じゃない。……ううん、ユーノ君とその……したい。嘘じゃないよ」

 なのはは本当に嘘をついてなどいない。正直な気持ちを、今述べた。
こういうシチュエーションになったら、男によっては本能丸出し、女に有無を言わさずむしゃぶりつくだろう。
女性側の都合など考えず、ただただ男の欲望を押し付ける――あの時のユーノのように――獣も少なくないはず。
だが、ユーノは自分が本当に嫌がっていないか、もっと言えば、自分の気持ちをキチンと尊重しようとしてくれる。
なのはは改めて認識した。自分は、ユーノのこういうところに魅かれたのだと。

「……わかった。ありがとう、なのは」

 ユーノは覚悟を決めた。迷ったままなのはを抱いても気持ちよくないだろうし、第一なのはにも失礼だ。
自分にもたれかかってくるなのはの身体に手を回し、ぎゅっと抱き締めた。



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目次:■ ユーノ・スクライア逝ってよし! ■
著者:ぬるぽ ◆6W0if5Z1HY

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