ＵＮＤＥＲＤＯＧＳ　第二十話編集する

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399 名前：ＵＮＤＥＲＤＯＧＳ　第二十話��[sage] 投稿日：2009/03/13(金) 23:45:56 ID:dtPt8ga2
400 名前：ＵＮＤＥＲＤＯＧＳ　第二十話��[sage] 投稿日：2009/03/13(金) 23:46:31 ID:dtPt8ga2
401 名前：ＵＮＤＥＲＤＯＧＳ　第二十話��[sage] 投稿日：2009/03/13(金) 23:47:17 ID:dtPt8ga2
402 名前：ＵＮＤＥＲＤＯＧＳ　第二十話��[sage] 投稿日：2009/03/13(金) 23:47:51 ID:dtPt8ga2
403 名前：ＵＮＤＥＲＤＯＧＳ　第二十話?[sage] 投稿日：2009/03/13(金) 23:48:39 ID:dtPt8ga2
404 名前：ＵＮＤＥＲＤＯＧＳ　第二十話��[sage] 投稿日：2009/03/13(金) 23:49:09 ID:dtPt8ga2
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406 名前：ＵＮＤＥＲＤＯＧＳ　第二十話?[sage] 投稿日：2009/03/13(金) 23:50:51 ID:dtPt8ga2
407 名前：ＵＮＤＥＲＤＯＧＳ　第二十話��[sage] 投稿日：2009/03/13(金) 23:52:10 ID:dtPt8ga2
408 名前：ＵＮＤＥＲＤＯＧＳ　第二十話��[sage] 投稿日：2009/03/13(金) 23:52:55 ID:dtPt8ga2
409 名前：ＵＮＤＥＲＤＯＧＳ　第二十話��[sage] 投稿日：2009/03/13(金) 23:53:30 ID:dtPt8ga2
410 名前：ＵＮＤＥＲＤＯＧＳ　第二十話��[sage] 投稿日：2009/03/13(金) 23:54:15 ID:dtPt8ga2
画面の向こうで真っ二つに割れた次元航行艦を見て、スカリエッティは嘲りのこもった微笑を漏らした。
音もなく砕け散ったのは、ゆりかごの護衛という名目でグリフィスが派遣した艦隊だ。
彼らはレジスタンスの反抗作戦が始まったと同時に備えられている砲塔をゆりかごへと向けたのだが、
砲が火を噴くよりも早く、ゆりかごの砲撃の餌食となったのだ。

「焦り過ぎだよ、グリフィス・ロウラン。うまく誤魔化していたつもりのようだが、
ああも露骨に動かれてはね。まあ、これも何かの縁だ。いい加減、秩序だった世界には飽き飽きしていてね、
管理局を破壊して独裁者を気取るのも悪くはない」

悪魔めいた笑みを浮かべ、スカリエッティは手元のパネルを操作する。
それは、今回のような事態に備えて用意しておいた秘策の１つ。
スカリエッティ製戦闘機人には例外なく組み込まれている特殊な装置を起動するためのスイッチだ。

「ウーノ、今日という日を境に世界は再び変革する。予てからの準備が徒労で終わらずに済みそうだよ」

「それは…………喜ばしいことです、ドクター」

「ああ、君にはこれからも世話になりそうだ。さしあたって、まずは跳躍攻撃のチャージを開始して欲しい。
それが終わったら、ゆりかごの操作を全てこちらに回して君は予定通りに頼む」

「………了解、しました」

ウーノの声は固かったが、この降って湧いた事態に夢中となっているスカリエッティはそれに気がつかなかった。
いや、それを言うならばこの思いすら彼には届いていないと、ウーノは胸中で自嘲する。
ジェイル・スカリエッティにとって、戦闘機人ウーノはあくまで有能な秘書でしかない。
彼は自分を信頼し、重宝し、利用し、成果には最大限の賛辞を送るかもしれないが、自分が求めているものは決して与えてくれない。
どれほど尽くそうと、愛そうと、この思いが報われることはない。
それでも良いと思っていた。
元より道具として生まれた身、見返りはなくとも最期まで尽くそうと心に決めていた。
だが、それは目の前にいるこの男に対しての思いだ。彼の命が終わり、予備として生み出される胎児に向けたものではない。
これから起こる戦いで、もしも彼が死亡することになれば、自分は彼ではない男に仕えねばならない。
その男に仕え、愛した男の名で呼び、愛した人の夢を自分の夢のように語る様を見届けねばならない。
己が産み落としたジェイル・スカリエッティによって、自分が愛したジェイル・スカリエッティが上書きされていく様子を見ねばならないのだ。

(それでも、ドクターが望むのなら……………………やっぱりいや…………できない。
この命も心もあなたのもの。私が仕えるジェイル・スカリエッティは、この世界でたった１人。
今、目の前にあなたこそが私の主。私は、あなたという存在を消させはしない）

強い決意のこもった眼差しで、ウーノはディスプレイに映るクラウディアを見据える。

(消させはしない。ドクターは………ジェイルは今ここで、生きているのだから………）


□


戦いは各地で起きていた。
争いと無縁だった街で、自然に覆われた辺境で、蒸し暑い砂漠で、青い海の上で。
数多の世界でレジスタンスと管理局の戦いは過熱し、誰も彼女達の変化に気づいた者はいなかった。
だが、変化は確実に起きていた。ゆりかごより送信された信号が、次元世界中に配備されている戦闘機人達に
秘められた回路を作動させ、凶悪な光を瞳へと宿らせたのだ。
それが意味することを両者が知ったのは、皮肉にも銃口を向けられた後であった。

『待て、命令が聞けないのか！』

『こちらには人質が、うぉ、うわぁぁぁぁっ！！』

悲鳴と爆音が響き、勢いよく会議室の扉が蹴り開けられる。
雪崩れ込んできたのは戦闘機人達だ。全員が手に武器を所持しており、感情のこもらない目が室内をぐるりと見回す。
それはまるで、獲物を求める狩人のようだった。

「戦闘機人！？　提督、停止命令を出せと私は言ったはずですが？」

「し、知らん。私はちゃんと全員に信号を送った…………はっ、そうか。スカリエッティだ。
スカリエッティが私達を助けを寄越したのだ。はははっ、レティ提督、これで形成逆転……………」

バインドで拘束されたまま、提督は脂ぎった顔で哄笑する。
直後、戦闘機人の１体が腕を一閃させ、ガンシューターを乱射する。
射出された直射弾の雨は、その全てが拘束されている提督達を狙って撃ち出されたものだった。

「な、なにぃ！？」

「くっ、ラウンドシールド！」

寸でで割り込んだ女性が防御魔法を展開し、直射弾から提督達を庇う。
それを見た戦闘機人達は一斉に得物を構えて襲いかかってくるが、女性の防御魔法を突破することはできず、
瞬く間にレティの部下によって鎮圧されてしまった。

「ふぅ………助かったわ、リンディ」

「まあ、これくらいわね」

優雅に微笑んだのは、レティの親友にしてクロノの母であるリンディだった。
彼女もまた、今回のクーデター計画に参加している反スカリエッティ派のメンバーだ。

「な、何故………我々が……………」

銃口を向けられたことが未だに信じられないのか、提督は尻餅をついたまま声を震わせていた。
その情けない姿にレティは殺意すら覚えたが、実行に移すことはなかった。
先ほどの戦闘で、スカリエッティが既に彼らを用済みと判断したことに気づいたからだ。

「彼は初めから、誰も信用していなかったということね」

「戦闘機人は各地で暴走を始めたそうよ。管理局もレジスタンスも関係なく攻撃を仕掛けているらしいわ」

現在、管理局の主力は戦闘機人が担っている。
その全てがこちらの制御下を離れたとなると、どのような被害がもたらされるのか想像することもできない。
場合によっては一般市民に被害が出る恐れもある。

「すぐに市民に避難命令を出して。それと動ける局員は全て動員して、レジスタンスと協力して事態の収拾に当たって。
もうこれは、クーデターどころの騒ぎじゃないわ。管理局システムそのものの崩壊の危機よ！」

「りょ、了解！」

部下の１人が敬礼して会議室を飛び出し、レティとリンディもこの場を部下に任せて事態の収拾へと向かう。
局内にはまだ暴れている戦闘機人がおり、まずはそれらを排除して指揮系統をまとめねばならない。
こうなってしまった以上、クロノ達の応援に艦隊を派遣することは不可能だ。
スカリエッティとの決着は、彼らの手に委ねるしかなかった。


□


ブリッジの誰もが絶望に言葉を失っていた。
跳躍攻撃を撃たせない。それがゆりかごに接近する唯一の方法であった。
だが、時間稼ぎを担うはずだった艦隊は壊滅、ゆりかごは跳躍攻撃のチャージを開始しており、
こちらからはそれを防ぐ手段はない。
完全に詰みであった。

「まさか、グリフィスが俺達を売ったんじゃ……………」

「まさか、いくら何でも…………」

「けど、あいつは出世のために……………」

「私語は慎め！」

一喝し、クロノは親指の爪を噛む。
だが、いくら考えても打開策は見つからず、観測手の不吉な宣告がブリッジに木霊した。

「艦長、ゆりかごの魔力反応が増大！　跳躍攻撃のチャージ完了まで、推定で後５分！」

「くっ………シールドを展開しつつ、最大船速で現宙域を離脱する。悔しいが、僕らの負けだ………」

「待って下さい…………提督、緊急回線で通信です。この信号は…………嘘…………」

通信をキャッチしたティアナが、ディスプレイに表示された文字を見て驚愕する。

「ティアナ、何があった？」

「は、はい………信号は……機動六課のものです。機動六課部隊長補佐、グリフィス・ロウランからです」

「なに！？」

ティアナがパネルを操作し、正面のメインモニターに映像を映し出す。
ブリッジ内が俄かに騒がしくなった。
グリフィスとは戦場で何度も相対し、お互いに辛酸を舐め合った敵同士だ。
同盟中とはいえ、彼らの心には複雑なものがあった。

「グリフィス…………」

『お久しぶりです、クロノ提督。どうやら、状況は最悪の展開を迎えているようだ』

「ああ。君の用意した艦隊は全滅、こちらに打つ手はない…………最悪の場合、ゆりかごの逃走もありえる」

『諦めるのはまだ早いですよ。過程が変わっただけで、作戦はまだ継続しています。
約束通り、僕があなた方をゆりかごまでエスコートします』

「グリフィス、何を…………」

そこで初めて、クロノはグリフィスが自分と同じく次元航行艦の椅子に座っていることに気づいた。

「グリフィス、まさか君は……………」

『僕は多くの命を殺めてしまった。これがその償いです』

「止めろ、グリフィス！」

立ち上がって叫ぶが、グリフィスは一方的に回線を切ってしまう。直後、通信を逆探知していたティアナが
発信源である次元航行艦の座標を割り出し、悲鳴にも似た報告がブリッジを戦慄させる。

「ゆりかごの照準、グリフィス艦に向けられた模様！ 予想砲撃時間まで、後２分！」

「ユーノ！」

「無理だ、転送も間に合わない！」

「最初から、犠牲になるつもりだったのか、グリフィス！」

ゆりかごとて万能ではない。人間が右目と左目を別々の方向に向けることができないように、
複数の座標を同時に攻撃することはできない。彼は最期から、ゆりかごの目を引きつける囮となるつもりだったのだ。

「ゆりかごより第一波の発射を確認、１５秒後にグリフィス艦へ着弾します。艦長、ご決断を！」

「クロノ！」

「くそっ、機関最大！ あいつが堕ちる前にゆりかごに食らいつく！」

「りょ、了解」

応答の声は震えていた。
誰もが理解していたのだ。グリフィス艦の撃沈が、既に決定事項であることを。


□


自分以外に誰もいないブリッジで、グリフィスは己の人生に幕が引かれる瞬間を待っていた。
既にゆりかごはこちらをロックオンしており、射程外に逃れることは不可能だ。
自分の命は、後１分強でこの次元の海に散らされることになる。
仲間の血路を開くために命を散らす、それは多くの人間を殺めたグリフィスという男にとって、
余りに美しすぎる末路であると、彼自身は思っていた。

「ふっ…………こんな僕を、八神部隊長は何て罵るかな？」

彼の胸の内にあるのは後悔の念ばかりだった。
３年前、もっと自分がしっかりしていれば八神はやてを死なせずに済んだかもしれない。
彼女を補佐する立場にいながら、何もできなかったことを悔やんでいるのだ。
だから、せめて彼女が誇りとしていた時空管理局の志だけは守りたいと、クロノの誘いを断って
管理局に残ったのだ。倫理を忘れ、暴走する組織の歯止め役となるために。
だが、一介の准陸尉にできることなどたかが知れていた。
戦闘機人や質量兵器の開発に待ったをかけることも、非人道的な作戦を棄却することもできず、
それどころか機動六課の出身だからという理由で左遷させられかける始末だった。
己の未熟さと無力さを思い知ったグリフィスは、その日から出世の鬼となった。
管理局で自らの意見を押し通すためには、どうしても権力が必要だったのだ。
そして、そのために戦闘機人や質量兵器を用いてかつての仲間と矛を交えなければならなかった。
グリフィスは裏切り者と罵られながらも出世の道を歩み、気付けば中将にまで上り詰めていた。
既に多くの部下が彼の下に付き、一声で艦隊を動かすこともできる権力がその手に握られている。
しかし、彼の心は自己の矛盾で悲鳴を上げていた。市民の安全と時空管理局の志を守るために管理局に残ったのに、
その尖兵として非人道的な作戦に従事する日々。誇りのために戦っているのか、出世のために戦っているのか、
彼にはもうわからなくなっていた。そして、決定的な破綻は一発の質量兵器がもたらしてくれた。
第５６管理世界の機人部隊を全滅させた質量兵器。
一瞬の内に１５００人もの命を奪った悪魔の兵器が残した爪跡を見て、グリフィスは自分があれほど忌み嫌っていた
上層部と同じ存在に堕ちてしまったと思ったのだ。
己の欲望のために禁忌を成す外道。それを自覚した瞬間から、グリフィスは死で以て奪ってきた命に償おうと決めていた。

「きっと、あなたのいるところには逝けないでしょうね。けれど、それでも僕は………………」

コンピューターが次元の歪みを感知し、アラートを告げる。
時間だ。
次元の壁を越えて飛来したレーザーはこちらのバリアを打ち破り、完膚無きまでにこの艦を破壊するだろう。
これで最初の１回を、スカリエッティは無駄にしたことになる。良い気味だと嘲りながら、グリフィスは静かに瞼を閉じた。
その時、ブリッジの扉が開いて何者かが脇をすり抜け、艦の操作パネルに指を走らせた。

「なっ！？」

「捕まって！」

直後、激しい揺れが艦を襲う。
コンピュータが艦の図面を画面に呼び出し、損害箇所を報告する。
夥しい量のエラーメッセージと塗り潰された赤いマークは、艦が致命的なダメージを受けていることを物語っていた。
だが、何十もの砲撃を受けたにも関わらず、艦は未だに航行を続けている。各部を燃え上がらせ、黒煙を噴き出しながらも、
艦はゆりかごを目指して次元の海をまっすぐに進み続けているのだ。

「まさか、避けたのか……………あれだけの砲撃の雨を……………」

「私だって、この３年間で何もしてこなかったわけじゃない」

静かだが凛と響く声に、グリフィスは己の耳を疑い、目の前の光景をすぐに受け入れることができなかった。
だが、現実はどこまでも残酷で、自分を追いかけて密航していた副官の存在が腕の中でどんどん大きくなっていく。

「ル、キノ……………」

「……！」

頬に鋭い痛みが走る。
引っ叩かれたのだと気づくのに、時間はかからなかった。

「馬鹿、死んでも何の償いにもならないって、どうして思わなかったの！？」

「ルキノ……………」

「あなたが手にかけてきた人に家族がいるように、あなた自身が死ねば悲しむ人がいるって、どうしてわからなかったの！？　
あなたが死んだら、あなたを憎んでいる人はいったい誰に恨み言を言えば良いの！？」

「それは…………けど……………」

「けどじゃない。でももダメ！　お願いだから生きて。生きて償う道を探して…………グリフィスならできるから。
できるって、信じているから……………だからお願い、私と一緒に帰って……………」

目に涙をこらえながら、ルキノはグリフィスの胸に顔を埋める。
遠くではコンピューターが跳躍攻撃の再チャージが始まったことを知らせていた。
艦のダメージ量を考えれば、次は直撃を免れることはできない。
決断は、この１０分間に下さねばならないようだ。

「僕は…………償えるのかな？」

「一緒に償おう。私はあなたの副官だから、最後まで一緒にいる。あなたと一緒に、あなたの罪を背負って生きる。
生きることが、きっと償う道になるよ」

「……………ありがとう」

腕の中の恋人を抱き締めながらも、グリフィスの胸の内は罪悪感でいっぱいだった。
この瞬間、自分は償うことよりも彼女と共に生きられることを喜んでいた。
まだ彼女と共にいられることが嬉しくて、みっともなく生にしがみ付いてしまった。
その胸の痛みすらも己を縛る罰なのだとしたら、自分が罪の意識から解放されることは二度とないだろう。
それでも生きたいと願うことが罪なのか、今のグリフィスにはわからなかった。


□


「転送ルームより報告、グリフィス・ロウランとルキノ・リリエの転送を完了！」

「ゆりかごからの第二射を確認、グリフィス艦の反応はロスト………第三射のチャージを確認、ロックオンされました！」

「構うな、突き進め！」

「了解、これより通常空間に出ます」

前方の空間が歪み、クラウディアはミッドチルダの宇宙へと顕現する。
正面モニターには前方で既に布陣を整えたゆりかごと迎撃用のガジェット?型の群れが映し出されていた。

「目標到達まで距離９０００」

「射程に捉え次第、鼻っ柱にレーザー砲を撃ち込んでやる。ガジェットは無視しろ！」

「了解、各砲塔は照準をゆりかごに…………」

「レーダーに反応！　二時、八時………距離１５００、質量兵器です！」

「なにっ！？」

驚愕した直後、クラウディアに激しい揺れが襲いかかった。
衝撃でもんどり打ち、ブリッジのあちこちで悲鳴が上がる。

「報告！」

「は、はい。損傷は軽微、しかしバリアの出力が８０％まで低下しました」

「新たな質量兵器の反応を確認。二時、六時、九時…………」

「�祁燭魏�造して大型質量兵器を搭載しているんだ。何発も受け続けたらこっちのバリアも保たない」

「それでもプラン変更はなしだ。�祁燭魴發鼠遒箸靴弔弔罎蠅�ごを目指す」

クロノの指示を受け、オペレーターの１人が待機状態であったクラウディアの戦闘システムを起動させる。
同時に各部に設けられたレーザー砲が質量兵器を発射しようとしている�祁燭魴發鼠遒箸掘�
搭載されていた質量兵器の火薬に引火して大爆発が起きる。オペレーターの中には艦船での戦闘が
未経験な者も多く、爆発でクラウディアが揺れる度に悲鳴を上げる者もいた。

「くっ………報告！」

「バリア出力、６５％まで低下。船体はまだ無事ですが、これ以上は耐えられません」

「ゆりかごのチャージを確認！　跳躍攻撃が来ます！」

「全てのエネルギーをバリアに回せ！　衝撃が来るぞ！」

叫ぶやいなや、全てのモニターが光で白く染まり、上下左右から夥しい量のレーザー砲が照射される。
間一髪でバリアの維持には成功したが、無茶をやらかしたせいで機関部は焼け落ちる寸前であり、
火災を知らせるマークが艦の図面のあちこちに表示されていた。更に、追い討ちをかけるように
砲手を担当していたティアナが悲鳴を上げる。

「先程の攻撃で、全ての火器管制システムがダウンしました。主砲副砲、共に使用できません」

「バリアは！？」

「出力は………６０％………いえ、７０％までいけます」

「ならばバリアを艦の前方に集中させろ。このままゆりかごに突貫する」

「クロノ、正気か！？」

「元よりこの艦は片道だけだ。このまま突き進む。各員、衝撃に備えろ！」

力強く告げられた宣告は、しかし死地へと赴く殉教者のそれではなかった。
クロノの瞳には、必ず生きて帰るという確固たる決意の光が込められていた。

「全速前進、クラウディア……突撃ぃっ！！」


□


ゆりかごの一斉射撃を受けてなお突撃を止めないクラウディアに、スカリエッティは驚嘆にも似た声を漏らした。

「艦をぶつけるつもりなのか。何とも、無茶なことを」

確かにあれほどの質量をぶつけられれば、普通の艦ならひとたまりもないだろう。
だが、ゆりかごは過去に類を見ない迎撃を前提とした艦であり、そもそもの用途が敵を内部に迎え入れて
白兵戦で殲滅するという代物である以上、その防御出力は既存の艦を遥かに上回っている。
手負いの獣が体当たりをしかけてきたところで、自滅するのが関の山だ。

「だが、それに乗るのも一興。いい加減、ゆりかごの頑強さを試したくてウズウズしていたんだ」

子どものような笑みを浮かべ、スカリエッティは迎撃に出した�祁燭魏爾�らせる。
モニターの向こうのクラウディアは肉眼で視認できるほど高密度なバリアを展開しており、
各部から黒い煙を上げながら黒い海を突き進んでいる。さながらそれは、夜を引き裂いて飛ぶ彗星のようだった。
その彗星を真正面から受け止め、ゆりかご全体が激しい揺れに襲われる。
研ぎ澄まされたクラウディアのバリアがゆりかごのバリアとぶつかり合い、漆黒の宇宙に魔力の火花が飛び散る。
クラウディアは懸命に炉心を燃え上がらせて突破を試みるが、ゆりかごのバリアは揺らぐことがない。
秒刻みで束ねられたバリアは削り取られていき、爆炎が銀の装甲を黒と赤に染めていく。

「ははっ、やはり徒労だったようだ。ご苦労、もう十分に堪能させてもらったよ」

勝利を確信したスカリエッティが哄笑し、クラウディアをバリアで押し潰さんとゆりかごを後退させる。
その瞬間、前触れもなくゆりかごを覆っていたバリアが消失し、クラウディアの艦首がゆりかごの
後部を押し上げてスカリエッティはバランスを崩した。

「ぬぉっ！？」

慌てて椅子の背もたれを掴んでバランスを取り、後付けしたコンピューターの自己診断プログラムを立ち上げる。
診断の結果はすぐに返ってきた。ゆりかごの機関部に供給されている魔力が減少し、バリアを維持できなくなったのだ。
だが、ゆりかごは自前の駆動炉以外にも２つの月から魔力の供給を受けており、魔力切れとは無縁のはずである。

「今日は聖王も乗船していて、駆動炉は正常に稼働しているはずだが？」

《月から供給されている魔力量が減少してます。恐らく、それが原因だと推測されますが》

「月周辺の映像を出してくれたまえ」

スカリエッティの命を受け、コンピューターは即座に２つの月周辺の映像をモニターに映し出す。
その内の１つに違和感を覚えたスカリエッティがパネルを操作して映像の一部を切り抜き、
拡大しながら画像を補正していくと、無数の瓦礫が月を覆い隠すように漂っている光景が露となった。

「これは…………」

《次元航行艦の残骸と推測されます》

「まさか……………」

映し出された残骸の映像に見覚えがあったスカリエッティは、記録しておいたいくつかの映像を呼び出して
２つの映像を比較してみた。そして、予想通りの結果に思わず唇の端を吊り上げ、自嘲するように呟く。

「護衛艦隊とグリフィス艦の残骸がさながら日食で月が太陽を隠すように月を覆い隠し、
ゆりかごへ照射されている魔力量が減ったというわけ。あの時、後退しなければゆりかごはクラウディアを
弾き返していた。ふふっ、私の欲望の敗北と言う訳か」

モニターを切り替えると、大勢の魔導師達がゆりかご内部へと雪崩れ込んでくる様が映し出される。
その中には、裏切り者のノーヴェ達やルーテシア、エリオ・モンディアルの姿もあった。

「３年前の……………いや、古代ベルカ時代の再現という訳か。面白い、君達がどこまで私を楽しませてくれるのか見ものだ」

迎撃のために全ての艦載機を起動させ、待機していたトーレ達にも出動を命じる。
追い詰められていながらも、スカリエッティの顔には未だ笑みが張り付いていた。


□


決死の覚悟でゆりかごへと乗り込んだクロノ達を待ち構えていたのは、無数のガジェットの群れであった。
艦内ということもあって飛行型の�況燭了僂聾�られなかったが、砲戦タイプの�祁燭篝楸畄燭劉厳燭�群れを成して
襲いかかってくる光景はまるで悪夢のようだ。それでもクロノ達は襲いかかるガジェットを蹴散らしながら
スカリエッティがいるであろうゆりかごの中枢に向けて進軍していく。

「提督、第２分隊から連絡です。転送ルームの制圧に成功」

「居住区画の制圧も完了です。現在、第４から第６分隊がゆりかご下部より艦首に向けて進軍中！」

「第７分隊をそっちに回せ！　最優先はスカリエッティの捕獲。頭を押さえればこの戦いは終わる！　
ザフィーラはディード達を連れて駆動炉の破壊に回ってくれ！」

「心得た」

「了解」

「………………」

ザフィーラ、ディード、オットー、セッテの４人が飛翔して通路の奥へと消える。
すかさずクロノは防御魔法を展開し、飛来する熱線とミサイルから４人を庇った。

(この衝撃、長くは保たない…………）

衰えの見えだした肉体に歯嚙みしつつ、クロノはリンカーコアを過熱させて弾幕を押し返し、
部下にガジェットの迎撃を指示する。
その時、耳に装着しておいた通信機が着信を告げた。ＡＭＦ下での通信手段として、
マリエル技師官に用意してもらったものだ。

『提督、ギャレットです。戦闘機人と遭遇しました』

「倒したのか？」

『はい。どうやら、戦闘タイプではなかったようです。ガジェットの群れを従えて襲いかかってきたのですが、
劣勢に陥るや質量兵器を手に特攻をしかけてきました。体は半分吹き飛んでいますが、
恐らくはウーノという戦闘機人に間違いはないかと』

「そいつは胎内にスカリエッティのクローンを仕込んでいる。遺体は全て回収しろ」

『了解………うん？　エリオ、どこに………ううわあぁぁっ！！』

「ギャレット？　どうした、ギャレット！？」

『くぅ………やられました、フェイト・ナンバーズです。奴らが来ました』

「大丈夫なのか！？」

『は、はい。まだ戦闘に支障はありません』

「そうか」

「提督、魔力反応が接近！　推定Ｓランク！」

「どうやら、こちらも来たようだ」

『幸運を祈ります』

「ああ、そっちもな」

通信を切り、ガジェットの群れを砲撃で焼き払う。
直後、炎を引き裂いて現われた黒衣の少女が手にした金色の刃を一閃させ、クロノへと迫る。
咄嗟にクロノはデュランダルでその刃を受け流し、反転しながらバックステップを踏む。
標的を失ったクローンフェイトはそのままバランスを崩して壁に激突するが、苦悶の表情は浮かべなかった。
それどころか、脱臼した肩のままデバイスを握り直し、執拗に斬りかかってくる。

(なるほど、確かにフェイトの動きと同じだ。だが、その肩では満足にデバイスも振るえない
ダメージを気にしないというのは、利点でもあり弱点でもある）

《Stinger Ray》

バックステップを踏みながら、立て続けに３発の魔力弾をクローンフェイトの腹部へと撃ち込む。
クローンとはいえ義妹と同じ姿の敵を撃つことを忍びなく思った上での攻撃だったが、
クローンフェイトは腹部の痛みなど意にも介さずに攻撃を続けてくる。
どうやら、生半可な痛みでは止まらないらしい。

「仕方がない」

《Hoop Bind》

横っ飛びに攻撃を回避しながら術式を展開し、同時発動した無数のバインドでクローンフェイトの四肢を拘束する。
さしものオーバーＳランク魔導師も、二重三重に施された拘束を解くのには時間がかかるようだ。

「悪いが、手加減抜きだ。生きててくれよ」

《Blaze Cannon》

残酷な宣告と共に、大出力の砲撃が至近距離からクローンフェイトの頭部を吹き飛ばした。
もちろん非殺傷設定だが、一歩間違えれば死に追いやりかねない方法だ。
ギリギリの出力調整は弛まぬ鍛錬を続けてきたクロノならではの熟練した技であった。

(今ので結構な魔力を消費してしまった。ここでの戦い、予想以上に消耗が激しい）

何とか呼吸を整えて魔力を生成するが、回復量は微々たるものだった。
諸事情でシャマルが手を放せない状態にあるため、回復も余り期待できない。
長期戦となればこちらが不利だ。

「提督、後ろ！」

「なっ………」

部下の声に振り返るが、遅かった。
いつの間に近づいていたのか、３人のクローンフェイトがデバイスを手に飛びかかってきていた。
既にその距離は致命的であり、クロノの機動力では離脱することは敵わない。
振り下ろされた金色の刃にクロノは引きつった笑みを零し、脳裏を駆け巡る走馬灯に己の終わりを自覚する。
瞬間、背後から伸びた幾本もの緑の鎖がクローンフェイトの体を縛り、虚空へと吊るし上げた。

「やれやれ、バインドは君の専売特許じゃなかったっけ？」

「ユーノ！？」

振り返ると、懐かしい装束に身を包んだユーノが眼鏡のズレを直しながら生意気な笑みを浮かべていた。
前線を離れて久しいというのに、彼のバインドは些かも衰えていなかった。
オーバーＳランク魔導師３人を縛り上げながらもまだ余力を残しており、片手で印を刻んでクロノに治癒魔法を施していく。

「さすがにフェイトのクローン３人が相手じゃ疲れるかい？」

「言ってろ。これから逆転するところだったんだ」

「余計なお世話だったかな？」

「まあ、礼は言っておくよ」

悪態の裏に感謝の念を潜ませながら、クロノは立ち上がる。
ほぼ同時にバインドブレイクしたクローンフェイトが態勢を立て直して斬りかかってくるが、
その時には既にクロノの準備は完了していた。

「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト！」

通路を埋め尽くす無数の魔力の刃を一身に受け、３人のクローンフェイトは動かなくなった。

「背中は任せてくれ。どんな攻撃だろうと受け切ってみせる」

「余り無茶はしないでくれ。君に死なれると目覚めが悪いからな。
まあ、僕が君の背中にいるんだ、万が一にもありえないが」

背中合わせに立ちながら、２人は再び現れたガジェットの群れとフェイト・ナンバーズを迎え撃つ。
圧倒的な戦力差でありながら、両者の心に不安の二文字は存在しなかった。
頼れる戦友の存在が心を覆う暗雲を吹き払っているのだ。そして、クロノ達は着実に進軍を進めていった。


□


背後から迫る夥しい量のガジェットを足止めしながら、ザフィーラはオットー達に向けて声を張り上げた。

「ここは私が抑える、先に行け！」

「ザフィーラ！？」

「くうぅっ………行けぇっ！　このままでは挟み討ちにあう。私がここを抑えている間に駆動炉を破壊しろ！」

「それだったらボクが。集団戦ならボクの方が有利だ」

オットーは叫ぶが、ザフィーラは静かに首を振った。

「癪だが、守護獣である私はゆりかご内では本来の力を発揮できん。この中で駆動炉のバリアを突破できるだけの
火力を持つのはお前なのだ、オットー。だからここには私が残る」

「ザフィーラ…………」

「頼む、我が友の無念………ヴィータの思いを我の代わりに果たしてくれ！」

「オットー！」

「オットー、急がなければ前からも来るぞ」

ザフィーラの悲痛な叫びと待ったなしの状況に、オットーは拳を握り締める。
そして、渾身のレイストームを前方に群がるガジェット達に向けて放ち、自分達の進むべき道を切り開いた。

「必ず戻る。だから、生きて………」

「盾の守護獣の名、伊達ではないさ」

力強い頷きを背に受け、オットーはライディンボードを抱え直して駆動炉に通じる通路を疾駆する。
ディードとセッテもその後に続き、獣の雄叫びと爆発音が広い天井に木霊した。
今は、彼の無事を信じるしかない。
３人はそのまま無言で幾つもの角を曲がり、立ち塞がる敵を切り捨てながら駆動炉を目指して突き進んだ。
そして、駆動炉のある部屋を目前にして感じ取った気配に歩みを止め、待ち構えていた三女と相対する。

「トーレ姉様」

「ここに来てくれたか。この私が防衛戦をすることになるとは、皮肉以外の何ものでもないと思っていたが、
お前達とやり合えるのならば悪くはない」

両腕のインパルスブレードを振動させながら、トーレは静かに３人の妹を睨みつける。

「裏切り者は殺すと言ったこと、覚えているな？」

「退いてください。今はあなたと戦っている暇はない」

「退くと思うか？」

「力づくでも通してもらいます」

「セッテ、オットー、手筈通りに」

「ああ」

「いくよ…………」

既に語り合う言葉を持たぬ両者は、それぞれの得物を手に向かい合う。
そして、互いの意地と誇りを賭けた二度目の死闘が開始された。


□


ヴィヴィオはなのはと共に、玉座の間で敵が来るのを待ち構えていた。
何か考えがあるのか、スカリエッティは侵入者の迎撃を命じなかった。
元よりスカリエッティに反抗的なヴィヴィオは彼の窮地を救おうなどという考えは起こさず、
世話役のディエチをさっさと迎撃に向かわせて自分は母と共に部屋に閉じこもっているのだ。
どのみち、彼らがゆりかごの制御キーである自分を放っておくはずがない。
ならば下手に動き回らずともやって来た目障りな害虫を駆除していくだけで良い。
どうせ自分達に勝てる者などいないのだから、それで全ては事足りる。

「そうだよね、ママ」

「……………………」

「ねえ、ママ。私の名前を呼んで。私だけの名前を………前みたいに、ちゃんと呼んで……………」

「……………き、た」

「えっ？」

レイジングハートを構えたなのはが、ゆっくりと虚空を見上げる。
首を捻ったヴィヴィオが母の視線を追いかけると、極小の羽根虫が１匹、壁に張り付いたままこちらを睨んでいた。
ルーテシアのインゼクトだ。それが意味することに気づいたヴィヴィオは即座に立ち上がるが、
それよりも雷光が駆け抜ける方が早かった。

「サンダァァァっレイジィッ！！」

「くうあぁぁっ！！」

床を走る電撃がヴィヴィオの両足を焼き、発動した聖王の鎧が虹色の光を放つ。
その隙に玉座の間へと滑りこんだエリオはデューゼンフォルムへと変形させたストラーダを一閃させ、
ヴィヴィオへと斬りかかる。

「紫電一閃！」

「この………調子に乗るな！」

電気と炎、２つの属性がぶつかり合って大気が爆ぜる。
更に虚空から紫紺の短剣が飛来し、弾き飛ばされたエリオを狙い撃とうとしていたなのはは
ディバインシューターで短剣を迎撃しながら宙を舞った。それによって生じた隙間に
ルーテシアとフリードは割り込み、エリオのもとへは行かせまいと両腕を広げる。

「エリオさん…………それにルーテシア。ふふっ、来てくれたんだ。嬉しいなぁ、これでママをあなた達から解放できる」

「過去の呪縛から解放されるのは君の方だ、ヴィヴィオ。僕達が君をスカリエッティから解放する。いくよ、キャロ！」

「……！？」

自分の言い間違いに気づかず、エリオはヴィヴィオに向けてストラーダを一閃させる。
彼の言葉にルーテシアも戸惑いを見せたが、すぐに襲いかかるなのはへと向き直った。
その違和感に気づいたヴィヴィオは、嗜虐的な笑みを浮かべて拳に魔力を集中させ、エリオのストラーダを受け止める。

「ああ、そういうことなんだ」

がら空きになった胴体に左手でジャブを打ち込み、エリオを悶絶させる。
ルーテシアの援護が間に合ったことで大したダメージは与えられなかったが、
それでも肺をやられたので呼吸が阻害され、魔力の生成が封じられるはずだ。
会話をする時間くらいは稼げる。

「ごほっ、がぁ……………」

「ねえ、たった今、面白いことに気づいたんだけど良い？」

「な、何を…………」

「エリオさんってさあ、そこの女のことが嫌いでしょう。それも、殺してやりたいくらい」

「なっ………」

「止めて！」

ルーテシアが短剣を投擲するが、なのはのシューターによって全て撃ち落とされてしまう。
その隙にヴィヴィオはエリオの耳元まで顔を近付かせると、彼の心の奥底に封じられているであろう
感情を揺さぶる言葉を囁いた。

「だって、あの娘はキャロさんを…………殺しちゃったんだもんね」

その瞬間、エリオは背筋を氷で貫かれたかのように言葉を失った。







　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ｔｏ　ｂｅ　ｃｏｎｔｉｎｕｅｄ

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著者：B・A
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