447 名前:いってらっしゃいの定点観測(1/4)[sage] 投稿日:2008/07/25(金) 23:45:01 ID:5yjl2K8l
448 名前:いってらっしゃいの定点観測(2/4)[sage] 投稿日:2008/07/25(金) 23:46:58 ID:5yjl2K8l
449 名前:いってらっしゃいの定点観測(3/4)[sage] 投稿日:2008/07/25(金) 23:49:14 ID:5yjl2K8l
450 名前:いってらっしゃいの定点観測(4/4)[sage] 投稿日:2008/07/25(金) 23:52:12 ID:5yjl2K8l

私が今世話になっている家の朝は、あわただしい。両親ともに共働きであるためだ。

「ママ〜遅刻しちゃうよ〜!!私一人でいっちゃうからね〜!!」

「ちょっと待って〜!」

元気よく、奥の部屋へ叫ぶのはこの家の一人娘。私のマスターである。

年端もいかぬ子供であるが、両親(特に母上殿)の教育と彼女自身が生まれ持った思慮深さによって非常に利発である。

そしてマスターは私のところへかけよってきて、ソファにいた私に話しかける。
優しげだが凛とした印象的なオッドアイで私見つめてこう言った。

「おはよう、聞いてよ〜。今日ね初めての参観日なの。でもママったら寝坊しちゃったんだよ。
子供の頃から早起きだったのに、珍しいよね〜」

参観日・・・そうか!母上殿がマスターの成長ぶりをとくと見る日か・・・私も是非立ち会いたいところだが
何せ一人では動けない身である。

しかし、父上殿はどうされたのか?


そう思っていると、父上殿が降りてきた。

父上殿はきれいな金髪を長く伸ばしており、女性と間違われてしまう容貌であった。これで女装をしたら色々な意味で
すごくなりそうだというのが私、他大多数の意見であろう。



「おはよう・・・かな?」
「パパ、かな?ってもうすっかり朝だよ!」

窓から入る朝日が非常にまぶしい。父上殿が母上殿と結婚する前、父上殿を初対面にしたマスターは私の後ろに隠れて、緊張していた。
しかし今ではすっかり父上殿に激しいツッコミを入れるほどである。


マスターが成長していく日々をみつめるのは、レイジングハート殿と同じく、私の楽しみだ。


父上殿はそんな娘に対して怒りもせずに眼鏡を服のスソで吹いて謝った。
「ごめんごめん、今朝までずっと書斎で本にうずもれていたからさ」

父上殿には相変わらず時間と言う感覚が無いのだろうか?と疑いたくなる。

そして唐突に父上殿はこう言った。

「今日だね。参観日」

「パパ・・・覚えていてくれたの!?」
「うん、今日が楽しみで、論文を完成させたいと頑張ったから。ママも同じだよ」

「えっ?」

「今日休みをとるために、ずっと寝ずに仕事をこなしていたんだよ。昨日も帰って、僕と話をしている途中ですぐに寝てしまってね。
あんなに熟睡しているママを久しぶりに見たよ」

「そうだったんだ・・・」

「お待たせ!」
そうして奥の部屋から出てきた。母上殿は少し化粧をしており、普段から美人だが、今日はいつも以上の輝き。スターライトブレイカーである。


そうして降りてきた母上殿をマスターは小さな腕を頑張ってまわして抱きしめた。

「ママ・・・ありがとう。今日のために頑張ってたんだね」
マスターにいきなり抱きつかれて驚いていた母上殿であったが、優しい眼でマスターを見て言った。

「私も、ヴィヴィオがいたから今日のために頑張れたんだ。つらいときも仕事を疲れてやめたくなったときも、ヴィヴィオがいてくれたから
頑張れたんだよ。私のほうこそ、ありがとう」

そうして母上殿はマスターをやさしくハグした。

このような感動的なほのぼのしたシーンに私は弱い。涙腺があれば私は号泣していたであろう。


実はこの優しい家族は血がつながっていない。というのもマスターは孤児であり、二人がマスターを引き取り育てているのだ。

母上殿は、マスターが孤児であったときに、私と彼女を引き合わせた。

「一人孤独なこの子が、少しでも悲しさを忘れられるように」
それが母上殿が私とマスターを引き合わせた理由であった。


なんという優しい家族、優しいつながりであろうか。

そしてそんな優しい家族に私は命を救われた事がある。


あれは夏の終わりのことであった。空を多い尽くす炎と煙。

何が起こったのかわからない・・・ただ私の顔はむごたらしく焼け、手を失い、耳もよく聞こえず、目も見えない。

そう、私は死の淵にいた。


そんな場合、私は存在を消滅させられるはずであった。私の存在などその程度だったからだ。
私もそうなるであろう運命を受け入れるはずであった。


あわただしい雑踏の中で、母上殿が近づいてくるのが、混濁した意識の中でわかった。
どうせ私は無視されるであろう。


そう思って、私はあきらめの気持ちとともに意識が深い闇の中に落ちていった。これが死というものであろうか?
深い闇の中でかすかに声が聞こえた。


「修・・・?無理・・すよ・・!」

「お願・・・ます!!直・・て・・・やって・・・」

「母・・の私からも・・・お願いしま・・」

「しか・・こんなにボ・・ボロ。新し・・もの・・それを買って・・」

「イ・・・ヤ・・」

「ヴィヴィオ?」

「お・・嬢さ・・ん?」

「イヤ・・だ・・・このコ・・私の・・・大事な・・大事な」

「大事な家族なの!!」

その瞬間、私は闇の中から、拾い上げられ暖かい光に包まれていくのを感じた。

気がついたら、私は生きていた。母上殿とマスターが捨てられるべき私の命を救ってくれたのだ。
未だに体のいたるところに傷跡や手術跡が残る私であるが、マスターはかまわず私を変わらず好きでいてくれた。


「あの〜、二人ともそろそろ・・・」
父上殿の呼びかけに抱き合っていた二人は時計を見る。

「「ああ〜!!」」
母上殿とマスターは顔を見合わせた、乗る予定であったレールウェイの時間をかなりオーバーしていた。

母上殿は父上殿に言った。

「もう!何で教えてくれないの!
「いや〜、どうにも呼びかけられる雰囲気じゃなくて」
「こういうときは雰囲気を壊してでも呼び戻してくれなきゃ!!」

父上殿、確かにKYを遵守した行動であったが、ここは私も母上殿と同意見である。

「ごめんごめん。でも大丈夫だよ。先週、家からの転送魔法の許可がやっと降りたんだ」
「えっ?本当なの?」

私も驚いた。ミッドチルダのような魔法文明の発達した次元世界は魔法の行使は、特にクラナガンのような
特別行政区では管理局法で厳しく制限されているからだ。

「うん、でも一応管理局の情報管理部門に出入りする以上、緊急時にいつでも呼び出しに応じれるようにってね」

「今日遅れたら、聖王陛下が悲しくなって何をするかわからない。ということは次元世界にとっては十分に緊急事態なわけだ」
「もう〜、悲しいくらいで私何もしないもん」


マスターはそう言ってふくれ面を見せた。反面母上殿は目を輝かせた。
「さっすが、ユーノくん!」


「さぁ二人とも表に出て」
「は〜い」

そうして表に出ると、父上殿の周りに巨大な魔方陣が展開された。
「あっ、ちょっと待っててね」

するとマスターはそう言って、私のところへ近づうなりぎゅぅ〜と抱きしめてこう言った。
「行ってくるね。お留守番よろしく〜♪」

久しぶりのこの『ぎゅぅ〜』の感触は感無量であった。そして私はマスターに眼で伝えた。

「(いってらっしゃい!ヴィヴィオ!)」

気づいてくれたのか、転送魔法で消える直前、マスターは満面の笑みで私に微笑みかけてくれた。

end


著者:44-256

このページへのコメント

ええ話や〜(号泣)。

0
Posted by 海坊主 2012年06月20日(水) 01:00:23 返信

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