339 名前:しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92 [sage] 投稿日:2008/05/23(金) 00:42:51 ID:Sg8InHjc
340 名前:しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92 [sage] 投稿日:2008/05/23(金) 00:43:46 ID:Sg8InHjc
341 名前:しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92 [sage] 投稿日:2008/05/23(金) 00:44:31 ID:Sg8InHjc
342 名前:しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92 [sage] 投稿日:2008/05/23(金) 00:45:00 ID:Sg8InHjc
343 名前:しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92 [sage] 投稿日:2008/05/23(金) 00:45:34 ID:Sg8InHjc
344 名前:しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92 [sage] 投稿日:2008/05/23(金) 00:47:28 ID:Sg8InHjc
345 名前:しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92 [sage] 投稿日:2008/05/23(金) 00:48:00 ID:Sg8InHjc
346 名前:しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92 [sage] 投稿日:2008/05/23(金) 00:49:07 ID:Sg8InHjc
347 名前:しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92 [sage] 投稿日:2008/05/23(金) 00:49:42 ID:Sg8InHjc
348 名前:しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92 [sage] 投稿日:2008/05/23(金) 00:50:25 ID:Sg8InHjc
349 名前:しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92 [sage] 投稿日:2008/05/23(金) 00:50:53 ID:Sg8InHjc
350 名前:しんじるものはだれですか? ◆265XGj4R92 [sage] 投稿日:2008/05/23(金) 00:51:47 ID:Sg8InHjc


 大好きや。
 好きやった。
 本当に、本当に信じていた。
 この心に嘘は無い。
 ただ一緒に居られればそれでええ。
 大切な人。
 例え私が憎しみの対象だったとしても。
 嫌われていても。
 それでも、それでも構わへん。

 私はあなたに救われたから。

 いつか貴方は私を殺す。
 いつか貴方は私を燃やすのだろう。
 壊して、壊されて、私はどこにいくんやろうか。
 それでも。
 それでも。
 私は――



 しんじるものはだれですか?




 雨が降っていた。
 ザーザーと涙のように雨が振っていた。
 空はどんよりと曇って、太陽なんて見えやしない。
 クラナガンは今日も雨に濡れていた。
 涙に溺れているようだった。
 質量兵器廃止から百年近く、環境に優しい魔法文化と自然に優しいテクノロジーを主流にしたクラナガンの雨は第97管理外世界の雨よりも汚れていない。
 雨は飲める。美味いと感じてしまうほど。
 けれど、地面に溜まる水を飲もうとは思わない。
 足を動かすたびにバシャリと水が撥ねる。
 不快な感触に、歩くものはそれを踏み潰す。
 降り注ぐ雨を傘で弾いて、落ちた雨を踏み躙る。
 まるで雨を認めないと、誰かが流す涙を許さないと錯覚しそうな光景。
 そんな光景を描き出す一人の青年が居た。
 雨に濡れた黒衣、烏の濡れ羽のような黒髪、風を伴い顔に打ち付けた雨水を涙のように流しながら、表情を変えない青年。
 彼は歩く。
 雨に濡れながら、表情を変えずにただ歩く。
 冷たさなど感じないと。
 この程度の不快はどうでもいいと。
 そう告げるような歩みで、彼は目的地へと足を運んだ。

「あ」

 雨の音に混じって声が響いた。
 青年の声ではない。若いけれど、はっきりとした女性の声。
 少女と呼ぶに相応しい声。

「クロノ、君」

 少女の声が青年の名を呼んだ。
 黒衣の青年――クロノ・ハラオウンの名前を呼ぶ。

「はやてか」

 クロノが声に気付き、目を向ける。
 そこには建物の屋根の下、折り畳んだ傘を手に持ち、色気のない黄色い雨合羽を着た茶髪の少女の姿があった。
 八神はやて。
 それが彼女の名前。



「雨合羽?」

 少しだけクロノが目を丸くし、その態度にはやては少しだけ俯いて、両の手の人差し指同士を突き合わせた。

「いやなぁ、本当なら傘だけにしようと思ったんやけど、雨凄いやろ? 今日お気に入りの服着てたから、濡らしたくないなー思て……」

 恥ずかしそうに俯くはやての頭に、不意に手が載せられた。

「え?」

 顔が一瞬にして赤くなっていくが分かる。
 それだけの魔力をクロノの手は持っていた。

「僕としてはいいと思う――子供っぽくて」

 プチ。
 さらに赤くなるはやての顔。
 しかし、その原因は紛れもなく恥ずかしさなんかではなく、怒りだった。

「こ、子供扱いするなー!!」

 うきーと怒るはやて。
 その姿は間違いなく子供そのものである。

「はいはい、分かりました。大人なはやて様」

「馬鹿にしとるね?! いや、間違いなく馬鹿にしとる!!」

「……そうだが?」

「開き直りよった?!」

 それは年の離れた兄妹のようなじゃれあい。
 見ているものが微笑むような会話。



 
「まあいいか」

「よくな――」

 頬を膨らませて手を振り上げようとしたはやての前に、手が差し出された。
 え? と目を丸くするはやてが見たのは、地味な色合いの傘を差して、雨に濡れながら差し出されたクロノの手。

「そろそろ行こう」

 そっけなく、照れてもなく、ただ自然に言われた言葉。
 それにはやてはボンと爆発したかのように赤面して――

「う、うん」

 俯きながらその手を取る。
 ゆっくりと小さな手が、いつの間にか大きくなった少年の手を掴んだ。
 雨に濡れて湿った二人の指が絡まる。

「それじゃいこうか。早く行かないと折角のオフが潰れてしまう」

「そ、そやね」

 二人は歩き出す。
 兄妹のように。
 友達のように。

 ――恋人同士のように。




 
 クロノ・ハラオウンと八神はやては親しい。
 二人の関係者であれば誰でも知っていることだった。
 五年ほど前に発生した事件、通称【闇の書】事件。
 その時から知り合った二人だった。
 幾つかの事件や揉め事はあったものの、現在では義理の妹であるフェイトも認めるほどに兄妹のように仲がいい二人。
 その関係がどこまで深いものなのか、知っているものは――少ない。

 雨は止まらない。
 まだ昼間のはずなのに、分厚い雲に覆われて薄暗い空があった。

「いいものが買えたな」

 薄暗い空の下で傘を差しながら、クロノが呟いた。

「そやね」

 黄色い雨合羽を着て、はやては両手で防水用の袋に入れた買い物袋を胸に抱きしめていた。
 小さな袋。
 けれど、それは大切な相手への贈り物だった。

「きっとこれならリインも喜んでくれるやね」

「それなら僕も付き合った甲斐があるな」

 やれやれといった表情で肩を竦めるクロノ。

「む? それじゃあ、リインのためじゃなかったら買い物に付き合ってくれないん?」

 プクっと頬を膨らませて見上げるはやてに、クロノは薄く笑って。

「当たり前じゃないか?」

 さらりとそう告げる。

「クロノ君の馬鹿たれー!」

「はいはい」

 ブンブンと片手で袋を押さえながら殴りかかってくるはやての頭を、昔と比べてずっと長身になった背と手を生かして押さえつける。
 すると伸ばされた手は体に届かず、空を切るばかり。
 コントのような二人の男女の様子に周りを歩く人々が苦笑する。


 
「く、この背丈お化けめ! 縮めぇ!」

「なんだ、その横暴な命令は?」

「昔のクロノ君やったら手を伸ばせばどつけたのに、くー!」

「それに僕は怒っていいのか?」

 諦めずに顔を真っ赤にするはやての態度に、クロノは肩を竦めてさてどうするかと考えた瞬間だった。
 視界の端っこで光が差した。
 大きなライト。
 そして、それが付けられた巨大な車体。

「あ」

 バシャリという湿った音がした。
 地味な色合いの傘が咄嗟に護ったのは持ち手の体。
 横に立っていた黄色い雨合羽の少女は許容範囲外。
 つまり、ものの見事に被ったわけで。

「うきゃー! なんでクロノ君、庇ってくれへんのや!」

 唯一露出したはやての顔は泥水を浴びていた。
 袋はポリ袋でしっかりと包んでいたから無事だったものの、本人の被害はそれなりに酷かった。

「いや、咄嗟だったからな」

「うぅ、乙女の顔が汚された」

「大げさな……」

 未だにシクシクと泣いた振りをするはやてに、クロノはため息を付きながらハンカチを取り出した。

「ほへ?」

「ほら、動くな」

 ハンカチで頬を拭い、目元を拭ったあと、ゴシゴシとはやての顔を拭う。
 痛い、痛いという泣き言はあるが無視。
 
「ほら、拭えたぞ」

「うぅ、少しヒリヒリするわ」

「気にするな」

「気にするわー!」

 ぷんすかと怒るはやてに肩を竦めながらも、クロノは汚れたハンカチを折り畳んで仕舞おうとして――その手を掴むものが居た。


 
「私が洗うわ、貸しぃ」

「いや、これは僕が」

「私が汚したんや。洗って返すわ」

 ハンカチを奪い取り、はやてがそれを仕舞おうとした時だった。
 不意にはやてがクロノの顔を見上げる。

「あ、クロノ君。泥水撥ね取るよ?」

「え?」

「取ったるわ」

 そう告げて、はやてが手を伸ばす。
 それはクロノが持っていた傘の縁。咄嗟に腰を屈めるクロノと自分の顔を覆い隠すように傘が降りて――

 唇が重なった。

 一瞬のカーテン。
 二人以外には見えない影の向こうで、濡れた少女の唇と濡れた青年の唇が重なる。
 口付けの音は雨音に消えて、響かない。
 唾液を啜る音は雨の音に消えて、届かない。

「へへへ」

 唇が離れる。
 頭が離れる。
 残ったのは赤面したはやての顔。
 呆れたクロノの顔。

「積極的というか、場所を考えないのか?」

「ぶー。折角の乙女のチッスやのに、その態度はなんやねん?」

「はいはい。まったく――」

 呆れた顔でポンとはやての頭を撫でながら、クロノは囁くように告げた。

【少し時間はあるか?】

 それは念話。
 心に響く声。

「え?」

【ちょっとだけ火が付いた】

 ニッコリと、どこか悪魔を思わせる笑みをクロノは浮かべた。



 
 雨が降っていた。
 止みそうにない雨が降っていた。
 雲は空を覆い、雨は大地を覆っていた。
 濡れて、満たして、流して、何もかも消えてしまいそうだった。

「あかんよ、クロノく――んっ」

 唇が重なり合う。
 雨に濡れた唇が、冷たさが互いの熱で溶け合って交じり合う。
 唾液が、互いに伸びた舌で絡まりあう。
 いやらしい、粘着質な音は雨音で消えていた。
 場所は路地裏。
 人の目が届かない暗闇。
 雨だけが届く領域。
 その中で二人は重なっていた。
 雨合羽の少女を抱きしめる、黒衣の青年の姿があった。

「ん、はぁ……濡れてまうよ? クロノ君」

「なに、もうずぶ濡れだ」

 傘など意味のない強風の雨に黒衣は既に濡れていた。
 少しの雨などもはや関係がなかった。
 雨に濡れて冷たい手が雨合羽の隙間から、はやての髪を撫でた。
 さらさらとした髪質。女性の髪はゴワゴワとした男の髪と違って、とても触り心地がよかった。
 そのまま手を下に伸ばし、首に触れる。

「つめたっ!」

「あ、すまない」

「ええよ、暖めたる」

 首筋に触れたクロノの手をゆっくりとはやての手が握り締める。
 温かくて、柔らかい手。
 お互いが溶け合ってしまいそうな感覚。
 ゆっくりと握り締めて、その手が温まったのを確認すると、はやてはおもむろに前を止めていた雨合羽のボタンを数個外した。


「触ってええよ」


 
 少女自身が露にした衣服の隙間。
 腰からたくし上げて、垣間見えたヘソ。
 そこからクロノは手をあてがい、その中へと手を滑り込ませた。

「ひゃうっ」

 自分じゃない誰かの手の感触に、はやては声を洩らす。
 雨に濡れて、けれども温かく、そして優しい感触を伴った手の動きはまるで舐められたかのような錯覚を覚えた。
 クロノがはやてを弄る。
 クロノがはやてを抱きしめる。
 クロノがはやてを貪る。
 その全てが彼女にとって幸福であり、快楽の絶頂だった。
 降り注ぎ、顔に当たる雨はもはや冷たくなどなかった。
 降り注ぎ、地面で跳ねる雨音は心地よかった。
 湿った空気が、目の前の青年と口付けしているかのように心地よかった。

「興奮してるのか?」

「しなかったら、不感、症、やろ」

 愛しい男性に抱きしめられて、貪られて嬉しくない女なんて居ない。
 ブラの下からまだまだちっさいおっぱいをいじられて、抓られて、揉まれて快感じゃないはずがない。
 ずっとずっと貪っていたいクロノの唾液を、熱い空気を呑み込んで、悶えないはずがない。
 冷たい雨が心地いい。
 表面だけで冷まされて、閉じこめられた熱が体の内側で燃え上がるのが分かった。
 熱い、熱い、熱い。
 溶けてしまいそうな、けれども溶け合いたい、そんな錯覚。
 もっと。
 もっと欲しい。
 もっと愛し合いたい。
 そんな欲望が膨れ上がって、はやてがあえぎ声を洩らした瞬間だった。


「――ここら辺にしておこうか」


 世界でもっとも残酷な言葉を聞いた気がした。


 
 サッと抜かれる手。
 離される口付け。
 なんという残酷。

「うぇええええ?!」

「な、なんだ!?」

 突然はやてが上げた奇声に、ビクッと震えるクロノ。

「な、なんだ? やない! この火照ってしもうた体どうすればええの?!」

「いや、しかし、このまま本番にいくわけにもいかないだろう? 風邪を引くぞ」

「ぬー! なら最初からするなー!」

 男には分からないのだろうか。
 食べられる、そう思った瞬間に目の前からサッと奪われたようなもどかしさ。
 なんという生き地獄。
 こいつは黒っぽい外見と同じく悪魔に違いない。

「しかし、そろそろ帰らないと怪しまれるぞ?」

「うっ」

 家で帰りを待つヴォルケンリッターたちにはただの買い物だと伝えている。
 それが必要以上に遅くなれば心配するだろうし、下手をすると探しに来る。

 そして、なによりも――クロノとの関係をはやてはまだヴォルケンリッターたちに伝えてなかった。

 多分伝えたらクロノがやられる。殺害的な意味でだ。
 比喩表現無しで、斬殺されて、撲殺されて、臓物をぶちまけさせられるに違いない。
 クロノ自身はあまり気にしてなかったが、リアル過ぎるビジョンにはやて自身が一番危惧を抱いていた。

「しゃ、しゃーない」

 ええもん。後で自分で慰めるから。
 うちはまだまだ子供なんや。くすんと嘆く。

「まあそんなに怒らないでくれ」

「う、元凶が偉そうな口を――」

 目を鋭くして、クロノを睨もうとした瞬間だった。

「好きだ」

 その一言と共に口付けが交わされたのは。


 
 先ほどまでのいやらしい口付けではない。
 ただのキス。
 唇が一瞬触れ合って、離れるだけの啄ばむようなキス。
 けれど、それは今までのどんなキスよりも痺れるような味だった。

「それじゃ、行こうか」

 荷物を持ち直し、はやての雨合羽を直し、傘を拾って歩き出すクロノ。
 その背を呆然とした目つきで見ながら、はやては告げた。


「反則や。その言葉は」


 唇をなぞりながら、はやては静かに呟いた。
 後に残るはただの雨音だけだった。



 
 愉快。
 愉快。
 ああ、ああ、楽しいな。
 苦しめよう。
 苦しめよう。
 今は幸せであれ。
 今は幸福であれ。
 叩き潰されるために。

 ただ幸せでいろ。

 その瞬間まで――


 僕に抱かれていろ。





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目次:しんじるものはだれですか?
著者:詞ツツリ ◆265XGj4R92

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