428 名前:もっかい胸さわらしてもらえません?」[sage] 投稿日:2009/03/14(土) 14:45:02 ID:rmL6q9Ww
429 名前:もっかい胸さわらしてもらえません?」[sage] 投稿日:2009/03/14(土) 14:46:25 ID:rmL6q9Ww
430 名前:もっかい胸さわらしてもらえません?」[sage] 投稿日:2009/03/14(土) 14:47:15 ID:rmL6q9Ww
431 名前:もっかい胸さわらしてもらえません?」[sage] 投稿日:2009/03/14(土) 14:47:58 ID:rmL6q9Ww
432 名前:もっかい胸さわらしてもらえません?」[sage] 投稿日:2009/03/14(土) 14:49:25 ID:rmL6q9Ww

気づけばスコープを磨き、分解したストームレイダーを手入れしている姿を見かけた。

「手際良いものだな」
「へへ、綺麗にしてやらねぇとすぐにヘソ曲げちまうもんですから」

困ったもんだ、と訴えたげな言葉の響き。しかし歯を見せて笑う表情は輝いていたものだった。

「好きなんだな」
「相棒ですから。こいつに俺の弾丸を届けてもらうんです下手な手入れはできませんよ」

そんな風に話をする様子はいつも嬉しげで楽しげ。好きなのかと聞かずに分かる。
好きなんだ。
ただ、それが狙撃という行為なのかストームレイダーという狙撃銃なのかは、判別がつかなかった。

「言ってくれりゃ、その通りの場所に弾丸を届けますよ?」

組み立て終えたストームレイダーのスコープを覗きながら冗談めかして笑いかけてきたのもよく覚えている。
まるで子供のよう。素敵な破顔だとシグナムは思った。

だから次の日、妹を撃ってしまったヴァイスの泣き出しそうな顔も、良く覚えていた。

幸い、犯人の確保はできた。ヴァイスの妹についても、目が深刻な状態だが命に別条はない。
ただ、シグナムは見ていた。誤射した瞬間のヴァイスを。
外した事に愕然とした、ヴァイスをだ。

―――失敗した、もっと上だ

そして、その事に泣きだしてしまいそうなった顔。

事件が全て片づいた後に、シグナムはすぐにヴァイスを呼ぼうとしたが妹の事もある。一日だけ置いた。
日を跨ぎ、妹の病院に寄り、遅れて隊に出てきたヴァイスにシグナムが声をかけた。
その場にいた同僚は全員、慰めの言葉をかけるとしか思わなかっただろう。

しかし呼ばれたヴァイス自身は、この騎士がくれるのはそんなものではないと良く分かっていた。

「誤射した時、何を思った?」

だから包み隠す気はなかった。

「失敗した、もっと上だ……そう、思いました」

気づけば、シグナムの拳に倒されていた。鍛えているつもりでも、年季が違う。攻撃のモーションが見えなかった。
最初、熱いと感じた頬が数拍を置いて笑えるぐらい痛みだした。
だから笑った。

「なぜ笑う?」
「昨日からこうしてぶん殴られたかったところでしたから」
「そうか」
「すみません……っつーのは、違いますね、なんて言えばいいんだか…」

同僚に助け起こされながら、笑った。
ひとしきり笑った後、まるでこれまでの事が嘘だったかのように闊達で明るく、気の利くヴァイスがいた。
みんながヴァイスの内心を心配しながらも、いつもどおりの彼がいた。

その日から、ヴァイスがストームレイダーを手入している所を見た者はいない。



酒には強くも弱くもなかった。
飲まれるまでにストップをかけられるだけの自制も利いたし、ほんのりと酔った心地が好きだった。
自分の酒の限界を見た回数は両手に収まる程度である。それで線をきっちりと把握した。

だから明らかに自分の限界を超えて飲んだはずなのに、まだ頭のどこかが酔っていないのを自覚してヴァイスは驚く。
驚きながら、やはりその酔っていない部分は妹を撃った瞬間を繰り返し眺めている。
消えない。
眼をそらせない。
一時たりとも、誤射した記憶が焼き付いて離れない。
日常で、勤務で。それだけならまだしも、あれから夢を見る頻度が格段に増した。
全て、狙撃の夢だ。妹の目に着弾した瞬間に目が覚める。
眠っている時でさえきっと忘れられないのだろう。

いや、忘れてはいけない事だと深く理解している。しかし、少しの時もあの瞬間を頭から振り払えない。
瞼を閉じれば、すぐに誤射のあの場面が再生されてしまう。

入ったのはまったく知らない店ではなかった。ただ、常連というわけでもない。
店主の顔も覚えていないような店だ。
飲みすぎだよ、とか、もう閉店だよ、とかまるでドラマや漫画のようなお決まりのセリフがきちんと耳に残っている。
自分が誰だか分からなくなるほど酔えれば、片時でも脳裏から離れてくれると思った……という建前で自分を苛めた。
現実は酔っても酔っても目を背けられぬ誤射をしたと、自覚して後悔して、そして自分を恥じるだけに終わる。
そして酔いは自分に返ってきた。
酷く痛む頭で出勤すれば、通常よりも疲労が募る。
気遣ってくれる同僚には、明るく親切に応じた。
それで、あんな事をしでかしたのにもう立ち直ったとは薄情な兄だ、と思われたかもしれない。
それで、無理をしている、と見透かされたかもしれない。
しかし、撃った自分と撃たれた妹の事に同僚は関係がないのだ。振る舞いだけはいつもと変わらぬように努めた。
ストームレイダーの謝罪や配慮にさえ笑っておどけて見せたのだ。

「ヴァイス」

だから自分の肩を叩くシグナムへ、ヴァイスは笑顔を向ける。

「なんスか、姐さん」
「ずっと、見ているな……誤射の瞬間を」
「…お見通しっスか…」

笑顔が力ないものになっていくのを、ヴァイスは自分自身で感じた。
なんとももろい見栄だったものだ。

「姐さんが昔、何百年としんどかったのに比べりゃ、まだ俺ぁ軽い…」
「私が手にかけていたのは敵だった。だからお前が重傷だと言う事が分かる」
「はは、それでもこりゃ俺の心の問題スよ。自分でなんとかするしかねぇ」
「……私にもできる事はある」

シグナムがヴァイスの手を自分の胸に導いた。
柔らかなそれに触れて、電撃に打たれたようにヴァイスが退く。

「止めてください!」
「少しでもいい、忘れなくてもいい。あの瞬間を頭から離す時間を作れ」
「だからって…!」
「まだ酒だけだろう? そして、それで駄目だった」
「だからって……俺ぁ…」

うつむいて震えるヴァイスが、次に顔を上げれば泣きそうな苦笑だった。

「姐さんにゃ、殴ってもらっただけで十分の事、してもらったっスよ」
「ヴァイス、私は…」
「俺はそんな風にあんたを…!」

荒立ってしまった言葉の途中、ハッとなったヴァイスは逃げるように駆けていった。
すみません、と消えそうなほど小さな声だけ残したのをシグナムは耳にしている。
後は、追わなかった。
眉間に深いシワ刻んで、深く長く息を吐く。
それから通信を入れた。



弾丸が目に命中した所で目が覚める。
店の中だ。陣取っているのはカウンターの隅。ほんの少しだけ、夢を見ていた。
流石に、酒と付き合う時間が増えすぎた。根性で業務に支障は出さないが、夜の睡魔はいつもよりも強力だ。
ただ、眠るのも気が進まなかった。夢に見る。
夢に見ていない眠りでも、きっと心の片隅に誤射の記憶が突き刺さっているのだろう。

次いで思い出すのは、シグナムの胸の感触だった。
すぐに別の事を考えるのに苦労した。

多分、溺れる。
酒を飲みはするが、それで誤魔化せるほど妹を撃った悔恨は浅くないと心のどこかで気づいていた。
しかし柔らかな胸に抱きしめられると、多分それに溺れるだろう。

自分の犯した過ちについて、目をつむる事は出来る。
仕方がなかったと目をつむる者もいる。
ヴァイスは目をそらしてはいけないと、ただ妹の誤射を何度も思い返す。だから、溺れるものに触れてはいけないと考える。

「よ、一人かい?」

気さくな声がかかった。
ショートカットの美女だ。

「使い魔か」
「ぴんぽーん」

ぴょろりと尻尾が覗いた。

「ご主人様が飲むの控えててさ、一緒にどう?」
「一人がいいんだ」

心底疲れた声だった。そして本音だった。
職場でこそ、神経を削っていつもの笑顔を張り付けて自信を持ったよそおいでいるが、未だに立ち直れているはずがないのだ。
それでも無遠慮に女は横の席に座す。

「傷心中かい」
「…分かる?」
「結構長く生きてるからさ」
「そら、若づくりなこった」
「おー、生意気な若造だねぇ。いくつだよ」
「18」
「酒の味覚えたてでもうこんなに飲んでんのかい」
「ほっとけ」
「お姉さんはほっとけない性質なのさ」
「お姉さんですむ年齢なのか?」
「聞きだしたきゃ、もっと相手しな。淋しがり屋なんだよ」

人懐こく、悪戯っぽく笑う女を嫌と感じなかった。人好きのする闊達さなのだ。
ヴァイス自身、人と接する事を楽しいとも思える性格だったのも手伝って、この時間を楽めた。

ただ、それでも妹の顔がちらつかない時間はなかった。

「ヴァイス」
「ん?」
「名前だよ」
「あぁ。ロッテだよ。この店はじめて?」
「いいや」
「明日も来な、飲もうぜ」
「金ねぇよ」
「お姉さんが奢ってやるよ」
「いくつだよ」
「聞きだしたきゃ、明日も来な」

次の日も痛む頭で隊に出た。顔色も悪かったろうが、明朗さは絶対に失わない。
シグナムにも、いつもと変わらぬ応じ方を必死で演技した。動揺はあった。
憧れていた女性が、あんな迫り方をしてきたのだ。
抱く誘いがなかった事のように、シグナムも変わらぬ接し方をしてくれた。

夜はまた店で飲んだくれた。気づけば、ロッテが横にいた。
本当に、気づけばロッテがいたとしか言いようがなかった。

「よ」
「おう」

次の日も、その次の日もヴァイスはロッテと一緒に酒を飲んだ。
多分シグナムの指示だろうが、隊のシフトに夜が組み込まれる事がないわ、デスクワークのみをさせられるわで、結局何日もをロッテと一緒に飲んだ。

「はは、ひどい顔」

当然だが、そんな生活で大丈夫なはずがなかった。ある夜、ロッテに笑われる。
飲み続けた日々なのだ。この日はヴァイスも脳がとろけていた。やっと、酔いらしい酔いに辿りつけた夜だった。
それでもなお、朧にトリガーを引いた感触がよみがえって戸惑う。

「うるせぇよ」
「ね、毎日飲んでるんだろ?」
「あぁ」
「恋人にフラれた?」
「いいや」
「大金落っことした?」
「いいや」
「何か失くした?」

自嘲気味にヴァイスは笑った。

「そうかもな」
「物? それとも人?」
「やけに突っ込んでくるな」
「へっへっへっ、聞きにくい話を聞くなら酔っ払いに限るからね」
「酔ってねぇよ」
「酔ってるよ」
「酔ってねぇ」
「なら、酔っ払うまでつきあいな」

どんどん曖昧になっていく意識の中、コップに注がれる酒の重みを感じた。
飲み干す。
明滅する視界で、ロッテと話こそ続けていたが内容はさっぱり頭に残っていなかった。
多分、どうでもいい他愛もない話だ。
泥酔での時間の感覚はきっとアテにならないが、それでもいつもよりも長い時間をロッテと一緒に過ごしたとヴァイスは思う。

(明日は非番だ、いや、明後日か?)

もうそれも定かに思い出せなくなるほどだった。
ふわふわする気分で、立ち上がった。いや、立たされたのだろう。
歩いた。いや、歩かされたのだろう。夜風が冷たい。

ふと、冷たさがなくなった。
室内か、とほとんど眠ってしまった頭が意識したのと唇に柔らかな感触を得たのは同時だった。

「!?」
「おっと」

ロッテの抱擁と口づけを引き離しながら、みるみる目が醒めていく。
どこかのホテルの一室だ。ラブホテル等ではなく、割合高級なホテルだろう。

「ここは…」
「あたしの部屋」
「なんでだよ…」
「ひどい言い草だね、酔い潰れてるから運んでやったんじゃないの」
「そりゃ、感謝するが…しかし…」
「しかし?」
「な、なんでこんな事する……俺と一緒にいたの、これが目的だったのか?」
「んー、最初は話だけでいいと思ってたんだけどね、どうもつらそうだから、さ」

ベッドに腰掛け、ロッテが足をぷらぷら、尻尾もゆらゆら。

「つらそうなら、抱くのか?」
「そりゃ、ちょっとでもゆっくりできる時間になったげようと思うよ」
「……いらねぇ」
「傷心の兵隊には、春か薬か酒か賭博って相場が決まってるもんなのに」
「いら……兵隊?」
「自分で喋ったでしょーが。妹撃った局の狙撃手だって」

なんとも情けない気持ちで、ヴァイスが目を覆う。局員と言う事など声高に喋って良い事など少ない。
それを詳細不明な女相手に酔って明かしたのだから愚かしい。

そして何よりも、自分で自分のトラウマを言葉にしたのだ。酔った自分がうらめしい。

「馬鹿か俺は…」
「いいんじゃない、馬鹿になって」
「いいわけねぇだろ…撃ったんだぞ、妹を」
「撃って外した事を後悔した……から、後悔してるんだろう?」
「そこまで喋ったのかよ、俺は」

もう立つのさえ億劫だ。壁にもたれればずるずると床にへたり込んで頭を抱えた。
泣きそうなのは、こらえた。そこにロッテが隣に座って肩を寄せてくる。色の匂いは隠れ、想いやる気配がヴァイスに伝わる。

「腕に自信、無い方がおかしいよ」
「心が足りなけりゃ腕があっても仕方ねぇ、そう教えてくれる騎士がいたのに……俺はずっと、心のない腕を誇ってたんだ」
「今、そうして悔やむ心があるじゃないか」
「本当は! 俺がするのは悔やむ事じゃねぇんだ……!」

―――失敗した、もっと上だ
あの時、慮るべきは射撃の成否ではなく妹だ。
だのにまっさきに浮上したのは、ミスショットを犯した未熟を省みる思念。
その愚かしさをずっと、ヴァイスは恥じ続けていた。

ただひたすらに狙撃を磨き続けてきた。ただそれだけを鋭く研ぎ澄ましてきたのだ。
俺にはそれしかないから。
そう思ってきたからこそ、シグナムさえ認めてくれる腕を培えたのは事実だろう。
傍らの、背後の、血を分けた者を振り返らずに築き上げた技術だ。
そんな心を凍えさせた技術だったのだと自覚した今、もうストームレイダーの引き金に指をかけられない。

そして、もう妹の兄として振舞えない。

ここでヴァイスは妹にもストームレイダーにも心を閉ざす。
双方に俺は相応しくない。

いつの間にか、ヴァイスは泣いていた。情けなく、愚かしい自分がやるせない、許せない。

「俺が本当にする事は……妹の兄であり続けるか、それとも狙撃手としてあり続けるかだ……俺は、どっちも投げた」

うずくまる。
こわい。おそろしい。トリガーが引けない。妹も直視できない。
みんなは温かさをくれる。妹は大丈夫だと言ってくれる、ストームレイダーは優しい声をかけてくれる。
自分はそれをもらえる人間ではないのだ。

ただひとり、シグナムだけは拳をくれた。
それこそヴァイスが本当に必要であるはずのものだ。

「どっちにも、なれないの?」
「……無理だ」

妹の兄でありながら、狙撃手でもある。今のヴァイスには夢のような理想だった。
遠すぎる。

「無理じゃないさ。時間かけりゃ、届くよ」
「……届くかな」
「届くよ、まだ若いんだ。遠回りしたり、しんどかったりするけど、いつかきっと届く」

ヴァイスの涙は止まらない。
届く。とても素敵な響きだ。
届ける。この言葉をいつもストームレイダーの弾丸に込めていた。

「両立させちまえ」
「……させてぇよ。けど、俺じゃ……」

一層涙があふれてくる。
そんなヴァイスの肩をロッテが強く抱きしてくれた。

「今は、そうやって無理だと思っていていい。明日も、明後日も。でも時間はな、心の痛みを絶対に薄める。嫌でもだ。きっと、来年、再来年になれば今より楽になってる。その時でいいんだ、兄もやって狙撃もやるって気合入れてるのは。だからその時まで、ずっと耐えるんだ」
「しんどいな…」
「しんどいよ。けどな、休憩しても、いいんだぞ?」

豊かな胸が、押しつけられた。
しかしヴァイスは優しくそれを拒むのだった。

「妹を撃っておきながら、快感に浸る気分にはなれない?」
「当たり前だろう」
「休む事にも、耐えな」
「都合いい風にあんたを抱きたくないよ…」
「意地っぱり」

うずくまる格好を無理に開かれ、ロッテが抱きしめてくる。酒臭いが、柔らかい女性の匂いがヴァイスの鼻腔をくすぐった。
安らぐ心地だ。
だからすぐに引き離そうとした。自分は、痛み続けるべきだ。
しかし引き離せない。

「おい」
「しなくてもいいよ。このまま眠りな。この一夜だけ、悪い夢を見ないように」
「………すまねぇ」

まるで迷い子がやっと見つけた母にしがみつくように。
ヴァイスもロッテを抱きしめた。やわらかなまどろみはすぐにやってくる。
もう一度だけ、すまねぇ、と口にしたのかどうか分からぬまま、ヴァイスは泣きながら眠りに落ちた。

夢は、見た。内容は、覚えていない。
しかし、誤射を悔やんだ記憶ではなかったのは確かだった。



「姐さん」

結局、ロッテに包まれてから何かが変わったわけではなかった。
相変わらず妹の目を撃った記憶は苦く焼き付いたままで、一人の夜は頻繁に夢に見る。
ただ、それでも行く先を決められる気がした。

妹の兄である自分を、狙撃手である自分を取り戻す。まだ星のように遠い行く先だ。
それでも、いつかきっと。

「俺、運び屋んなろうと思います」
「運び屋…運輸部に移る気か?」
「はい、いろいろ考えたんですけど、今度は弾丸以外のもんを届けようかなぁ……って」
「そうか」
「それと、ロッテによろしく言っておいてください」
「……バレいたか」
「姐さんに、その…あ、あんな事された後、すぐに俺に近づいて、似たような事言うんです。そりゃ、気づきますよ。つっても、気づいたの、結局会わなくなってからなんスけど」

あれからロッテには会っていない。一緒に飲んだ日々がまるで幻だったかのようだ。
ただ、これでいいと思った。弱音を吐いて、みっともなく泣きじゃくるのを見せるのは接点のない者の方がありがたい。

「酒に酔っても結局、何を抱え込んでいるか喋らなかったと誉めていたぞ」
「げ!? じゃ、俺が酔って全部喋ったのって嘘かよ」
「私からすべて話してあったからな。また改めて会う機会を設けてやろう」
「いや、こう、また顔あわせんのも…」
「なんだ、お前を前向きにしてくれた女だぞ」
「そりゃ、有難い事とは思ってるんスけど…」
「まぁいい。運輸部への異動について、私のツテを使おう。お前は研修の準備と今のうちに勉強するだけしておけ」
「い゛!? そ、そこまでしてもらうわけにゃ…」
「新しい職場で早く自分を取り戻す事だ。あんな無理した笑顔で武装隊をうろつかれてもこっちが陰鬱になる」
「それなりに調子戻ってきてるんスけど…そんなに下手でした?」
「隊のほとんどが見てて痛々しかったと言っている。さ、仕事に戻るぞ。出ていくまでもう仕事に容赦はしてやらんからな」
「わぁってますよ。あ、そうだ、姐さん」

行こうとするシグナムにヴァイスが歯を見せて笑う。その表情は輝いていたものだった。
まるで子供のよう。素敵な破顔だとシグナムは思った。



その後、紅葉をほっぺに作ったヴァイスが仕事場でストームレイダーの手入れをしているのが確認されている。


著者:タピオカ

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