[313]224  ◆Nw9Ad1NFAI <sage>2007/07/18(水) 04:51:09 ID:/bkkDt3U
[314]224  ◆Nw9Ad1NFAI <sage>2007/07/18(水) 04:59:51 ID:/bkkDt3U
[315]224  ◆Nw9Ad1NFAI <sage>2007/07/18(水) 05:05:27 ID:/bkkDt3U
[316]224  ◆Nw9Ad1NFAI <sage>2007/07/18(水) 05:06:46 ID:/bkkDt3U
[317]224  ◆Nw9Ad1NFAI <sage>2007/07/18(水) 05:08:24 ID:/bkkDt3U
[318]224  ◆Nw9Ad1NFAI <sage>2007/07/18(水) 05:11:05 ID:/bkkDt3U
[319]224  ◆Nw9Ad1NFAI <sage>2007/07/18(水) 05:29:26 ID:/bkkDt3U


 市街の商業区まで車を走らせる。
 その間助手席のアルフが、ザフィーラとの出会いから始まった付き合いの話をエリオとキャロに聞かせてあげた。
 俗に言う『闇の魔導書事件』。
 しかしそのおかげでアルフはザフィーラという運命の人と出会ったのだ。

「それでね、ザフィーラはあたしの懇親のパンチを受けたんだけど、それでも立ち上がる姿を見て、そのとき、こう胸がキュンっとしちゃたのよ」
 
アルフの話がヒートアップする。

「ああ拳と拳で"語る"ってこのことを言うのね、な〜んて夜一人ベッドのなかでザフィーラのことを思い出してね。
ああこれがまさに『フラグが立ったァッ!』ってやつねって。枕を抱きしめて次はどんな風にバリアブレイクぶちかまそうか乙女心にドキドキしちゃったわ〜」
「す、すごかったんですねアルフさんとザフィーラさんの出会いと戦いって」

 エリオが困った感じで笑い返しながら言った。
 キャロもエリオ合わせるように笑う。

「初めての出会い……か」

 そう呟いてキャロの顔がボッと赤くなった。
 キャロとエリオの出会いの始めてはエスカレータで転びそうになったキャロを助けてくれたエリオの姿。自分を護ってくれる運命の人。
 初めての告白とキスの影響で、どんどんエリオのことを考えてしまい、頭を振り払うキャロ。
 ふと見るとザフィーラが運転に集中しつつも車内ミラーを動かしているのに気がついた。調整にしては変だなと思ったので聞いてみた。

「うむ。二台後ろの車が、どうも追尾している感じがするんでな」
「え!?」

 エリオとキャロが同時に驚く。
 まさか、例のレリックが関係する犯罪組織が狙っているのか!?

「カマをかけてみるか……。目的地まで少し遠回りして、少々複雑な道で行く。アルフ」
「もうやってるよ。さっきから張ってる魔力探知はなにも引っ掛からないわね」
「そうか、それじゃアルフの視力でどんなやつか見えないか?」
「ん〜〜二人とも知ってる人じゃないね。黒のロングの女性に茶髪の若者……て、ウワァッ運転中なのにキス!だ・い・た・ん♪…………ねぇザフィーラ」
「運転中のキスは禁止!」
「ええ〜〜」
  
 この時代、自動車のほとんどはオート機能が搭載されているが、原則運転手は不測の事態に備えハンドルを持つように義務付けられている。
 また、オート機能そのものを嫌う人も少なくはない。
 交差点の信号機でザフィーラ達の車が停まる。
 ザフィーラが怪しいと睨んだ白のスポーツカーは、交差点手前の曲がり道に入り自分達とは別の方向へ行ってしまった。



「あ、あぶなかった〜」
 
 二人とも同じセリフを言って、同じように息をついた。
 車は道路のサイドに寄せて止まっている。
 白のスポーツカーでエリオ達の追跡をしていたのはティアナとヴァイス。
 スポーツカーは事前にシャマル先生が機動一課から借りていた。
 車体に異世界語で四文字の食料品店の名前がついているが、その世界出身でないティアナもヴァイスも、その言葉が意味する事を知らない。
 はやてが見ても、どうして速さを競うスポーツカーに豆腐屋さんの名前が書いてあるのか不思議に思ったそうだ。
 当然そのことはティアナもヴァイスも知らない……。今乗ってる車が機動一課の借り物だと知ったら、ヴァイスは本気で乗るのを断っただろう。
 ただ二人とも、この車自体やけにロートルなシステムだが、弄繰り回してコーナリングにおけるトップスピードの確保に涙ぐましい努力を傾けていたということはよ〜くわかった。
 あと、狭い。
 なお念のため、変装はティアナの幻術魔法じゃなくカラースプレーと伊達メガネの即席変装で即座にバレないようにはした。
 ティアナは髪止めを外し、いつもはツインテールの髪をラフに流している。
 さらに念を入れて、車内キスを見せ付けることで相手に無害だと思わせることに「成功」した。
 これはザフィーラの私物の車に盗聴器を仕込ませていたから、勘繰られた事がわかったのだ。
 盗聴器は非魔術の電子型で出力を抑える事で発見を困難なサイズまで縮小している。
 その代わり中継器が必要となるのだが、それがティアナ達の役割。一定の距離まで近づければいいのだ。
 もっともキスにはティアナが猛反発したが、勤務後(作戦終了後)は好きなものを奢ってやるということで交渉は成立した。軽いキスのはずが、互いに舌を絡ませるディープなものになってしまったが。
 当然だが管制室にも一部始終モニターされているが、尾行がバレるよりはマシ。二人の関係はもうシャマル先生に通じて六課中に筒抜けになってたし。
 なによりこんなおもろい見世物はない!と、いうのはヴァイスの弁。

「しっかし、途中何回か別の道に入ったりしたんだけどな〜。それで怪しいと思われたのは、ザフィーラさんが機動一課で研修を受けてたって言うのは、あれマジだったか……」
「ヴァイス陸曹。その機動一課って、ひょっとしてあの古代遺物管理部精鋭中の精鋭“First Striker"の?」
「そ、開設当初は全管理局員の憧れ、世界をロストロギア犯罪から護る最前線部隊とか言われた誇り高き部隊だったんだが……なぁ。
おまえの知っての通り最近あまり良い噂がない部署だ。"First Striker"……その名はもう過去のもんだよ」

 言葉を止め、ヴァイスは夕焼けに染まるビル群を遠くに眺める。
 正直、機動一課なんて自分にとってあまり良い思いではない所だ。連中のだれ一人として会いたくないし、話したくもない。
 ヴァイスは、組織に己の存在意義を見出してしまった傷だらけの親友のことを思い出す。
 ただロストロギアを悪用する犯罪者が許せなくって、それだけで管理局魔導師を目指すために必死に努力した男。
 どんなに努力しても、どんなに己の体を鍛え上げても、魔法の才能が低いという理由だけで進路を決められて……ヤバすぎる融合デバイスの被検体に志願したあげく……。
 一瞬でそこまで思い出したヴァイスは、苦い記憶を意識的に封印する。止めよう。俺はあいつを今更どうこう言えない。
 ティアナのほうに向き、微笑んで言った。

「それじゃ、お嬢様。目的地まで送迎いたします」


 いくつか遠回りをしてから、ようやくデパートに到着した。
 大型地下駐車場に車を止める。
 到着したときは夜6時を少し過ぎたころ。
 エリオとキャロが選んだのは、食料品と衣料品にもっとも力を入れているデパートである。
 別世界の食材が集まる地下の超大型総合食品売り場は、丸一日かけても飽きる事はない。
 鮮度がよいことに加え、オーダがあればその場で生け作りをやる豪快な展示調理を行ってくれることでも有名だ。
 人ごみを掻き分けて到着した大型デパートの地下食品売り場は盛況を極めていた。
 通路の空中に浮かんでいる表示板には、様々な商品の特売広告が写し出されている。
 それからうかがい知るに、どうも今日はバーゲンセールで、しかもちょうどタイムサービスに突入したらしい。
 周りの人盛りはエリオとキャロより遙に背の高い大人の人、人、人。

 以前来た時とは全く様子が違っていると二人が思った。
 あの時はお昼をやや過ぎた時間で人が少なく、そのおかげでデパートの食品売り場というものを見て回る事ができた。
 あんまり目にかけることの少ない調理前の珍しい食材があるのを見て楽しんだ。
 様々な世界の、様々な野菜や果物。
 生きている貝や、生簀に入って動く魚。
 注文に合わせて自由にスライスされる肉の塊。
 いろいろな世界から集められた調味料が、巨大な棚をギッシリと埋め尽くした調味料コーナー。
 お肉のコーナーでソウセージやウィンナーの所に来たら、突然業務員のおばさんから声を掛けられた。
 お味見用として焼かれていた一口サイズのウィンナーの切り身をエリオとキャロに分けてくれた。
 急な事だったんでどう対応していいか困ってしまった二人を見たおばちゃんは恰幅の良い体を揺らしながら笑顔で言った。

「タダよ、タダ。味見してみて美味しくって気に入ったら買って頂戴」

 普段食べない新鮮な味で美味しかったと伝えると、おばちゃんは笑いながら言った。

「このウィンナーはあたしの生まれの第六世界産だから早めに来ないと売り切れちゃうかもね。美味しいウィンナーがあることを、お父さんとお母さんに教えてやってね」
 屈託の無い笑顔だった。

 二人が生ものをお土産で買えないと察してくれたのだ。
 その後、食料品売り場の外れに建っていたクレープの屋台で軽めにオヤツを食べた。
 もし二人の姿を見続けている者がいたならば、さしずめ学校の休みを利用して社会見学でもしてきたんだろうと思われるであろう。
 それだけほのぼのとした光景だった。


 その記憶がまったくあてにならない。
 人の流れが激しいエレベータから降りる直前、いつかのデートの時みたいにエリオはキャロの手を握る。
 ギュッと握り返すキャロの手の感触が、エリオは自分が守らなくっちゃと固く思った。
 しかし、どうにもならないこともある。
 大量の買い物袋をもった中年の女性が通りかかり、エリオが道をゆづろうと動きを変えた瞬間、過って握っていた手をはなしてしまったのだ。

「……エリオ!」「キャロ!」

 場所はちょうど人の流れがクロスする場所だった。
 あっという間にキャロの姿が人影に隠れる。
 エリオが慌てても、この状況ではどうにもならない。
 背の高い大人にとって、この人口密集率では足元に近い子供の存在などまず気付かない。
 一瞬、ストラーダを起動してじゃまな人間を全て吹き飛ばしてしまおうかと頭によぎったが、スグにそれを振り払う。
 人ごみを掻き分けようと手を伸ばしたそのとき、その手を握られた。
 節くれたち、ゴツゴツとした感じが判る、大きな褐色の手だった。
 手の持ち主が言った。

「モンディアル。ル・ルシエはアルフと一緒にいる」

 近すぎるため、見上げる事でようやく手の持ち主の顔を見れた。
 白髪に毅然とした表情は、なんの焦りも無い。

「大丈夫だ……私が見えるすぐ側にいる」

 表情を変えず冷静に言うザフィーラ姿を見て、エリオとにかく安心した。



「ここで立ち止まるのもまずい。ひとまず壁際に行くぞ」

言われるままザフィーラに引かれるエリオ。
ザフィーラに握られた手を通じて、その力強さを感じる。
ザフィーラの広く、背筋が盛り上がった背は、エリオが今まで見て来た人たちと明らかに違った"何か"を感じさせた。
やがて人ごみを抜け出したところに、アルフと手を繋いだキャロを発見する。
壁際に来てようやく四人が集まる。

「キャロ、その……ごめん」
「いいよエリオ。あのとき荷物を沢山持ってて大変そうだったおばさんの道を譲ってあげようとしたの私、判ったから」

 守ろうって決めた自分の不甲斐なさに落ち込むエリオを励ますキャロ。
そのやり取りを横目で見ながらアルフが言った。

「しっかし、この人ごみはちょっとキツイわね。材料買うのにこれじゃ遭難しそう。まったく夏と冬の有明じゃあるまいし」
「……お前、まだアレに参加してるのか?」
「えっ。…………いや〜タダの付き添いだよ。付き添い。ほらアリサ達だけじゃ不安じゃないか!断じてコス広場で獣耳キャラなんかしてないから!て言うか、ザフィーラと一緒じゃなきゃ写真なんて絶対に撮らせないんだからッッ!!」
「……………………………………………………………………………………それなら問題ない。モンディアル、ル・ルシエ両名を抱えて視野が取れるようにする。いいか?」

 ザフィーラがライトニング分隊の二人に話しかける。
 幼い二人にはアルフとザフィーラの写真うんぬんは何の事だかまったくもってサッパリわからなかったが、とにかく盾の守護獣の無言のプレッシャーが怖いのはよ〜くわかった。
 ザフィーラの申し出にエリオが少し顔を赤くし答えた。

「ザフィーラさん!その……だ、大丈夫です。念話も使えますし、マップもありますから迷子になっる事はないです。それに、その……ボクたち子供じゃないですから」

 さっきみたいな無様な失敗はしないと思うと同時に、あまり子供扱いしないでほしいとエリオは思った。

「あのね、エリオ。さっきも試したんだけど、ここ念話が使えないみたい」
「え?」




 キャロからの指摘で、念話相手をキャロにむけて送ったが、反応がない。
さっきは焦るあまり念話は使っていなかったことにエリオが気付いて、また騎士失格と思ってしまった。
 念話が使えない疑問に答えるようにアルフが言った、

「ん〜。時々あるのよのね〜。一定の場所に念話する人が多すぎると、かえって思念同士で輻輳起こしちゃって念和が通じなくなっちゃうの。
ま、こういうところでは文明の利器、携帯の出番!って言いたい所なんだけど、これも電波状態が悪くて不通の表示が出てるわ」
「やはり私が二人を担ごう。安全性を考えると、バラバラになってしまうよりも、そのほうが良い」

 アルフの言葉に合わせ、有無を言わさぬようにザフィーラが言い切る。
 なんか無理矢理その案を押し通らせられた感じがしたが、最年少の二人組みは「お願いします」と言ってしまった。
しかしその後にキャロがあることを付け加えた。
「ザフィーラさん、わたし達の事、名前で呼んでいいですから」

 

「うわ〜、高い。大人になったみたい」

 キャロが感嘆をあげた。さっきまでの背の高い大人に囲まれる抑圧感が嘘のようだった。

「ザフィーラさん、あの、やっぱり重くないですか?ボクだけでも降りたほうが……」

エリオが涼しい顔のザフィーラが答える。
どうも恥ずかしくてしかたがない。

「問題ない。私はこれぐらいなら平気だ。鍛えている」
今エリオたちはザフィーラの腕で、抱えられるように持ち上げらせられている。
右手にキャロ、左手にエリオである。
周りが見渡せて、ようやく適切な案内が出来るようになった。
やはり見晴らしが良い。長身のザフィーラより少し上に目線があるからだ。
自分が不甲斐ない感じがして、やはり恥ずかしくなってしまうエリオ。

「エリオもキャロも、お父さんにダッコされてるみたいでちょっと恥ずかしいかい?」

 食材を物色し、カートに次々放り込んでいたアルフが、エリオの顔を見て面白そうに言った。
人ごみのなか、傍目で見たらこの四人は家族のように見られるだろう。
髪の色が四人とも全く違うのと、親が獣耳と尻尾を生やしているのを除けばだが。

「ち、違います!でも……ザフィーラさんはクロノさんみたいにシッカリした大人だと思います!」



 父親という言葉で連想したのは一時期(それも提督仕事で滅多に帰宅できない)ともに過ごしたクロノ・ハラオウンだった。
 キャロは頬を染めて何も言えない。もうずっと昔に暮していた故郷と家族のことを思い出す。
 二人は思った。もしお父さんが出来るのなら、それはザフィーラさんのような頼りになれる人だったらいいなと。

「ンフフ〜。ザフィーラはどう?この子達のパパになってみたくない?」
「私はどう思われようと別に構わないが、それはテスタロッサ・ハラオウン執務官の夫になるということだぞ?」
「ちょっと!なに考えてんのよ!あたしがエリオとキャロのママになるって言ったのよ!!」

 ザフィーラの言葉でむくれっつらになり急に怒り出すアルフ。
 しかし後半のセリフがキャロとエリオを仰天させる。
 キャロが困惑した声で言う。
 
「あの〜アルフさん?」
「キャロは……どう?こんなパパとママじゃ……いや?」
「えええっと……」

 さっきの怒ったような顔を瞬間的にチェンジし、潤んだ瞳で懇願するようにキャロに言う。
 正直どう答えればいいか、ちょっと困るキャロ。
 アルフもザフィーラも大人の姿で見るのは今日が初めてなのだ。掴みきれない。
 しかもアルフは保護者であり母親同然のフェイトの使い魔。キャロは一緒に遊園地とかに行ったりする元気なお姉さんだと感じていた。
 それはエリオも同じであった。
 母親のイメージがリンディとフェイトで固まっているのだ……が。

(エイミィさんがいたーーー!!!)

 フェイトの義理の兄の妻で二字の母。会うたびに我が子のように接してくれる優しくて明るい人。
 そのエイミィと、買い物をするアルフの姿が……ダブル。
 気づいてはいけないような事を気付いてしまったような気がして、変な汗が流れる二人。
 フェイトはこの話を知ってるのか不安になる。
 ザフィーラが硬直する二人を知ってか知らずか感情を込めない言葉で話す。

「アルフ、子羊の背肉がバーゲンらしいぞ。それと……流れの中で立ち止まるな」
「ムッ!ちょっと並んでくるから、先に調味料のコーナーで待ってて。はい、この紙に書いてあるスパイス捜しておいてね!」
 
 メモをキャロに渡して主婦でにぎわう肉類のコーナーの列に加わるアルフ。
 なんというバイタリティに溢れた姿だろうかと、感心してしまう子供達であった。




 人ごみを掻き分けて調味料のコーナーまでたどり着く。
 流石にここは人が少なくて助かった。
 メモに書いてあるオリーブオイルや乾燥パセリ、香辛料数点を探す三人。
 何に使うか全く分からない調味料と思わしき物が幾つもある。
 まだエリオとキャロはザフィーラに担がれ一緒になっている。
 ややしてザフィーラが二人に語りかける。

「さっきの話だが……」
「はいッ!」
「気にするな。アルフの言ったことは……アレはいわゆる癇癪みたいなものだ。ハラオウン夫妻の子供の世話をしてからマスマス酷くなってきてはいるがな……」

 何も答えられない二人。
 なんて答えればいいかわからない。
 周りの喧騒が一気に静まる感じがする。
 静かに話すザフィーラの声が重くのしかかるような気がした。

「今のままで問題があるというわけではあるまい。なければそれで良い。モンディアル…いや、エリオとキャロよ。無理に選択をせず二人が望む道を進めばいい。
 それにおまえ達はまだ若い。学ぶことが多い身だ。これから起きる事全てから学べばいい。良いことも辛いことも、全てだ。
 しかし今居る場所では、学ぶ間にも『選択肢』が起きる。
 これから私が言う言葉は参考程度にしろ。
 いいか、六課を辞める事を頭に入れろ。戦いを避ける選択肢を考えろ。母を思うのなら、別に六課に居る必要はない」

 ザフィーラの言葉は衝撃的だった。
 まるで自分達のことを完全に否定されたような気がした。
 エリオとキャロが目を見開きザフィーラの顔を見つめる。
 ザフィーラは正面の棚を見据え、その顔はまさに能面だった。
 エリオが震えながら言った。

「それは戦いから逃げろ、と言うことですか?」
「逃げるのではない、本来ならおまえ達、若い者が関わるべきことではないのだ。
 ……自分の年を考えた事があるか?まだ10歳だぞ。普通なら学び舎に通い、親の愛を受けるだけでいい。
 いかにミッドチルダが実力主義とはいえ早すぎると私は思う。
 六課に身を置き、戦いを学び、戦場に出るなら、いつか間違いなく"自分と仲間の命を賭ける"選択肢にぶつかる。
 六課を守る身として矛盾しているように言うが、そのような危険な選択肢を子供に選ばせたくない。
 高町教導官。我が主、八神部隊長。おまえ達の母、テスタロッサ・ハラオウン執務官。
 この三人のようになれると思い込むな!!
 三人とも、すべて全て薄氷の上で、偶然が重なりあった結果生き残ったに過ぎん。
 三人が辿った道、教えることが間違ってるとは思わん。が、しかし完全に正しいわけではない!
 戦に出ずとも他の道はいくらでもあるはずだ。
 まさか戦闘だけしか出来ないというわけではあるまい。
 今ならまだ間に合う。一時の感情で人生の全てを決めるな。
 別の可能性を探る努力を怠らないでくれ、と私は言いたいのだ。
 私はそのことを、機動一課の悪魔どもから学んだ」

 エリオとキャロが聞きたくない話だった。
 それは自分達が一番良く知っている、と思っている。
 同じような事を六課入隊前にフェイトから何度も聞かされた。
 本当にそれで良いのかと。
 ザフィーラの言う事で引っ掛かるのが一つあった。
 キャロが重い口を開く。
 この話題から逃げたかった。

「機動一課って」
「まて。アルフが来た。この話はアルフがいないときに」

 ガラガラとカートを引く音。
 音の方へ向くと、満悦の笑みを浮かべたアルフが大量の荷物を載せたカートを押してやってきた。

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目次:エリキャロ
著者:224  ◆Nw9Ad1NFAI

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