29 名前: ◆K17zrcUAbw [sage] 投稿日:2008/09/22(月) 20:32:51 ID:qSMKBBbp
30 名前: ◆K17zrcUAbw [sage] 投稿日:2008/09/22(月) 20:34:13 ID:qSMKBBbp
31 名前: ◆K17zrcUAbw [sage] 投稿日:2008/09/22(月) 20:35:33 ID:qSMKBBbp
32 名前: ◆K17zrcUAbw [sage] 投稿日:2008/09/22(月) 20:36:44 ID:qSMKBBbp
33 名前: ◆K17zrcUAbw [sage] 投稿日:2008/09/22(月) 20:39:21 ID:qSMKBBbp
34 名前: ◆K17zrcUAbw [sage] 投稿日:2008/09/22(月) 20:40:13 ID:qSMKBBbp

JS事件解決から三年の月日が立った。
依然ナンバーズは海上更生施設において毎日更生プログラムをこなしている。
退屈だとか窮屈だと言うものはおらず、彼女達は彼女達なりに日々を楽しんでいた。
この日もプログラムを終えた姉妹達が次々に教室を出ていく。
『今日はもう終わりか…』
壁にかかった時計を見て一息つくチンク。
今日の分の講習を丁寧にノートに纏め上げていたせいでいつの間にか教室に誰もいない。
声を掛けられなかった事に少し寂しさを覚えながら教室を後にする。
ふと窓の外を見ると日が落ちかけているのが目に入った。
『……あれから一年か…』
夕日を見つめながら物思いにふける。
そう、一年前のあの日もちょうどこんな夕日を見ていた。だが、一人ではない。
姉妹達と見た訳でもない。
チンクは少し胸が痛むのを感じた。
(アイツは……今)
一緒に夕日を見た一人の男の顔が浮かんでくる。
ほんの少しだけ一緒に過ごしたあの時間。
それは彼女にとって忘れられない日々。
涙が静かに頬を伝う。
(できる事なら……もう一度…)
それは叶わぬ願い。
だが、それでも彼女は心から願う。
(もう一度…二人でこの夕日を見たい……)

さかのぼる事一年前。
海上更生施設に設置された屋外グラウンド。
綺麗に芝生が敷き詰められたこの広いグラウンドの隅っこにチンクはいた。
手すりに体を預けただ海を見つめている。
背後からは楽しそうに騒ぐ姉妹達の声が聞こえてくる。
チンクはたまに転がってくるボールを蹴り返すくらいで別段何かする訳でもなかった。
ただ、何となく海が見たかったのだ。
(……これが正しい事なのか…?)
ふと疑問を持つ。
スカリエッティについて破壊活動をしていた時よりも今の方が充実した生活を送れている。
チンク自身それに不満はなかった。
しかし、どうにも納得の出来ない部分もある。
彼女達は戦闘機人、人間ではない。
更生プログラムを終えたところで社会は自分達を受け入れてくれるのか?
確かに同じ機人であるスバルやギンガはうまく生活している。
しかしそれは小さい時からただの人として過ごしていたからだ。
だが自分達は違う。
始めから戦う事だけを目的に作り出された機人。


果たしてそんな自分達に戦う以外の生きる道などあるのか。
チンクはいつもより荒く波打つ海面を見て溜め息をついた。
『今さら考えても仕方ないな……』
それが自分の選んだ道なのだ。
自分が変われるかは自分次第、あとはなすがままに生きていくだけ。
チンクは少し伸びをした。
(あまり考え込むものではないな…)
後を振り返り妹達を見る。
サッカーボールを蹴りながら楽しそうに遊んでいる。
本当に楽しそうに笑顔を見せながら。
(今はこうしているだけで幸せなんだ…あれこれ考える必要はない)
転がってきたボールを手に取り妹達の方を向く。
『チンク姉ー!!ボール!!』
『待て、姉も参加しよう』
ボールを地面に置いて、蹴る体勢を取る。
そして、勢いよくボールを蹴り上げた。
『あべっ!!チンク姉強すぎッス!!』
ボールは勢いよくウェンディに直撃し、宙を舞う。
鼻血を垂らしたウェンディを放っておきながらボールに食らい付くノーヴェ。
高く飛び上がりボールを蹴ろうとしたその時だった。
『もらった!!…わぁっ!!』
突如強烈な突風が姉妹達に吹き付けた。
勢いよく吹き付ける風にノーヴェは海へ叩き落とされる。
『ノーヴェ!?』
チンク達がノーヴェの落ちた地点を見下ろす。
ノーヴェは必死に足掻きながら何とか施設の外壁にしがみついている。
しかし荒々しく打ちつける波がノーヴェの体力を奪っていく。
リミッターをかけられて身体能力は並の人間程度より少し高いくらい、当然ISも使えない。
ついにノーヴェが波にさらわれる。
ゆっくり救助を待つ訳にもいかない。
チンクはすぐさま海へ飛び込んだ。
『ノーヴェ待ってろ、今行く!!』
波をかき分けノーヴェの元へ泳ぐチンク。
溺れかけていたノーヴェを引き上げ、投げられた浮輪にしがみつかせる。
『はぁ……はぁ……ありがと、チンク姉…』
『礼など後だ……引き上げて貰うぞ』
合図と共にゆっくりと引き上げる二人。
しかし、そこに再び突風が吹き荒れる。
『な……うわっ!!』
『チンク姉!?』
チンクが風に揺られた浮輪から手を放してしまう。
海に放り出され必死にもがくチンク。
しかし、ノーヴェを助けて体力が殆どない状態で泳げるわけもなくどんどん沖へ流されていく。


『チンク姉!!』
『やめろ、お前達まで流されるぞ!!』
引き上げられたノーヴェが再び海へ飛び込もうとするのをゲンヤが引き止める。
ギンガが他の姉妹達を施設内へ戻す中、ノーヴェはゲンヤの腕の中でただチンクの消えた海に叫び続けた。
それから数時間、チンクは未だに発見されず遂に捜索は打ち切られた。
海の荒れ具合が酷い上、天候まで悪くなり捜索などとてもできる状態ではなかった。
管理局はチンクにMIAの仮処分をした。
『MIA……なんなんスか…それ』
『………事実上の死亡宣告よ』
ギンガに説明を受けた姉妹達が目を見開く。
死亡宣告…それが信じられなかった。
ゲンヤが付け加えて説明をする。
『まだ仮処分だ……どっかで生きてりゃ処分は取り消し……だが、一か月で見つからなければ…』
そこまで言って言葉を止める。
一か月、それがチンク捜索に与えられたタイムリミット。
『上に掛け合って明日からのプログラムをチンク捜索に切り換えてもらいました……今日はもう休みなさい』
『そんな……チンク姉…あたしだ……あたしのせいだ…』
事実を聞かされノーヴェが涙を流す。
『あたしが海に落ちなければチンク姉はっ…!!』
『ノーヴェ……』
大声で泣きながら自分を責めるノーヴェにかける言葉が見つからない。
ギンガがそっとノーヴェを抱き締めてやる。
『大丈夫…きっと生きているわ』
『うっ……ぅ…チンク姉…チンク姉ぇ……』
部屋にはただ、ノーヴェの泣く声が響き渡った。

(暗い…私は死ぬのか……?)
日も沈んだ暗い海の中を漂うチンク。
体力は既になく、指一本も動かせない。
既に自分が浮いているのか沈んでいるのかの感覚もない。
(ノーヴェは……助かったな…)
波間に消える寸前に見た光景。
引き上げられたノーヴェが何かを叫んでいたようだったがよくは聞こえなかった。
(きっと……私の名を呼んだのだろうな…)
大切な妹達の事を思い浮かべる。
戦闘機人として生み出され、破壊の限りを尽くしてきた。
しかし、今は更生プログラムを受けて普通の生活を送っている。
そしていつか施設を出て、普通に生活し、普通に働き、いつかは恋もするだろう。
そんな生活が訪れるのはいつになるかわからない。


けど、大切な自慢の妹達はきっと生きていける。
チンクは静かに祈る。
どうか、大切な妹達に幸せを与えてやってくれ。
そして、チンクの意識は途切れた。

(暖かい……)
チンクは体を覆う温もりに気付いた。
しかし、力が入らず体は動かせない。
チンクは自分は死んだのだと思った。
(死ぬというのは暖かいものなのか…?)
しばらくその温もりを感じていると、不意に唇に柔らかい感触がした。
ゆっくり、息が吹き込まれてくる。
体を駆け巡る感覚、肺に到達した空気。
すると、何かが込み上げてくる。
『ぐ……ごぼっ……げほ…げほっ!…はぁ…はぁ…』
不快感に襲われて口から何かを吐き出す。
潮の味がする。
そして、自分が生きている事に気付いた。
まだ体に力は入らないが、意識はしっかりしている。
『お、生きてたか』
視界に飛び込んだ男の影。
チンクは咄嗟に飛び退こうとするが、うまく力が入らずによろめいてしまう。
倒れそうになったチンクを男が支える。
『まだ動くなよ。お前、この島に漂着したんだからな』
『漂着……だと?』
どうやらあのまま海を流されたチンクはこの島に打ち上げられていたようだ。
それをこの男が発見、救出したという。
『しっかし、人工呼吸もやってみるもんだな……ほんとに生き返るなんて』
『人工呼吸……?』
ああ、あの感触は人工呼吸の時の……そこまで考えてチンクの思考は停止した。
生まれて数年、キスなどしたことはない。
つまり目の前の男はチンクのファーストキスを奪っていたのだ。
しかし、それはチンクを助けるための行為。
それを踏まえると責める事は出来なかった。
(ま、まぁ…人工呼吸はカウントには入らんだろう…)
更生プログラムを受けるうちにギンガから保健の授業を受けるのが楽しみになっていたチンクはこういう行為がどういう意味なのかをよく理解している。
そして次第に貞操感も覚えていった。
『取り敢えず家に案内するよ』
男はそう言ってチンクを抱え上げる。
『……軽いな』
『小さくて悪かったな』
『いや…そういう意味じゃ…』
抱き抱えられたチンクが男を睨み付ける。
そんなチンクにお構いなしで男は自宅へと向かった。


森をしばらく歩いていると、次第に集落のようなものが見えた。
広場では子供達が遊んでいた。
『あ、ラルフお兄ちゃん!!』
『その人だれー?』
子供達がラルフと呼ばれた男の元に集まってくる。
どうやらラルフはこの子供達の世話をしているようだ。
『おう。海で拾ってきたんだ』
『人を物のように扱うなっ!!』
『まぁまぁ…リリー!!』
チンクをなだめながら誰かの名を叫ぶ。
すると一件の家から一人の少女が顔を出した。
背格好はチンクと殆ど同じで、ブルーグレーに輝くショートヘアを揺らしている。
目には包帯がグルグル巻きにされている。
『どうしたの?』
『服貸してくれ、打ち上げられてた奴がいる』
『うん、わかった』
スッと中に引っ込むリリー。
ラルフはチンクを抱えたまま家に入る。
中ではゴソゴソと棚をあさるリリーの姿。
『これと……これ…』
どうやら目が見えないようで手探りで服を探している。
リリーがまだ服を探しているのを確認してチンクを降ろした。
『よし、脱げ』
『なっ、なんだと!?』
『んな海水でベトベトの服なんてすぐにあらわねぇといけないだろ…ついでにシャワー浴びろ』
そう言ってチンクの服に手をかけるラルフ。
力が入らず抵抗出来ないチンクはなすがまま下着まで脱がされてしまう。
『じゃ、リリー。後は頼むぜ』
『わかった』
服を抱えて外に出るラルフを見つめるチンク。
その目は恨めしい目であった。
『あの男…こんな辱めを……』
全裸で放置されたチンクにリリーが話しかけてくる。
『シャワー浴びなきゃベトベトだよ…あっちに浴室があるから、これタオルと着替え』
『あ……あぁ、すまない』
リリーから着替えを受け取りシャワーを浴びに向かうチンク。
ゆっくりと立ち上がり、浴室へと向かう。
するとリリーが何かに反応した。
『待って……』
『どうした?』
『あなた……人間?』
チンクは身構える。
目は見えていないはず、だがリリーはチンクの違和感に気付く。
しかしリリーはチンクのいるであろう方向に首を向ける。
『身構えなくていいよ…怖くなんてない』
『……どうしてわかった』
『私、目は見えないけど耳はいいの。あなたの体から機械の音がしたから』
人間は五感のどれかが欠けているとそれを補うように別の感覚が発達してくると言う。


リリーは目が見えないかわりに聴覚が異常発達し、ほんの少しの音を拾う事ができるようになっていた。
チンクはふぅ、と息をつく。
『お前の言うとおり…私は人間ではない』
『そう……でもここじゃ誰もそんな事気にしないわ……みんな訳ありだから』
『訳あり…?』
リリーの意味ありげな発言に首をかしげる。
しかしリリーはチンクをせかす。
『早くシャワー浴びて。誰かが来ちゃうかも』
『む!そうだった』
自分が全裸であることを思い出したチンクは急いで浴室に入る。
その背中を見えぬ目で見つめるリリー。
この日からチンクの奇妙な生活が始まるのであった。



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目次:チンクの奇妙な生活〜あなたがくれた少しの優しさ〜
著者:◆K17zrcUAbw

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