421 名前:野狗 ◆NOC.S1z/i2 [sage] 投稿日:2010/11/08(月) 00:20:46 ID:0n0h/gUA [2/5]
422 名前:野狗 ◆NOC.S1z/i2 [sage] 投稿日:2010/11/08(月) 00:21:41 ID:0n0h/gUA [3/5]
423 名前:野狗 ◆NOC.S1z/i2 [sage] 投稿日:2010/11/08(月) 00:22:47 ID:0n0h/gUA [4/5]

 一足先に目を覚ますと、彼はまだ眠っている。よほど疲れているのだろう。
 だけど、疲れさせてしまったのはきっと私。だって、彼と会ったのは一週間ぶりだったから。
 仕事自体は嫌いじゃないけれど、彼とこうやって過ごす時間が削られるのはちょっと悔しい。
 うん。なのはママやフェイトママは、どうやって我慢してたんだろう。
 フェイトママなんて、仕事が立て込んでくると一週間どころか一ヶ月でも外泊になってしまうことがあるのに。
 私だったら我慢できない。一週間だってギリギリだ。
 映話なんかじゃ満足できない。
 こうやって、彼の匂い、彼の体温、彼の息遣い、全部を感じていないと気が狂ってしまうに違いない。
 私、高町ヴィヴィオは、彼がいないと駄目なのだ。小さな頃から。
 いや。
 今はもっと駄目かも知れない。彼がいないと、私は駄目駄目だ。
 悔しいけれど、そういうことなのだ。

「ん……」

 眠っている彼の、唇の横に軽く口づけ。
 唇にキスをすると、彼は目覚めてしまう。
 ううん。本当は、私が近くで身じろぎするだけで目覚めてしまうくらいの人なんだ。
 それくらいの達人。だけど、今は違う。
 お泊まりして一緒に眠るときは、私だけの可愛い人。

「起きたのか」

 だけどほら、やっぱり目覚めてる。

「エッチ」
「なんでだ」
「もっと早くから目覚めてたでしょ」
「……ああ」
「どうして寝たふりしてたの?」
「お前が二度寝するつもりなら、妨げるのも悪いと思ってな」
「嘘でしょ」
「おいおい」

 もう一度キス。今度はちゃんと唇に。
 彼はしっかり受け止めてくれる。おはようのキス。

「こうやって、キスされるの待ってたんでしょ。スケベ」
「そうかもしれないな」
「ま」

 なんて事を言うのだろう。この男は。
 こんな不意打ち。酷い話だ。
 私は真っ赤になっているに違いない。ああ。そうだ。彼はいつもこうなのだ。
 戦い方と全く一緒。ガードを固めて、思っても見ないときに不意打ちしてくる。
 まったく、困った人なのだ。

「ヴィヴィオのキスで起こされるのを待っていた」

 いつもと同じ真面目な顔で。
 私の目をじっと見て。
 何を言うかと思えば。
 私は言い返す。真っ赤な顔で。まるで照れ隠しのように。
 逆じゃないか。
 何処の世界に、姫のキスを待つ王子がいるか。王子のキスを待つのが姫の役目じゃないのか。
 私だって姫なんだ。聖王じゃなくて、姫なんだ。お姫様になりたいんだ。
 日によって交代で姫をやっていた、なのはママやフェイトママとは違うんだ。
 私だって。
 私だって。

「すまん」
「スマンじゃないよ」
「起こそうとはしたんだ」
「え」

 どういう事かな。
 だって、私は自分で目を覚まして……
 もしかして。

「寝顔が……その……」

 ここに及んで何を言い渋るんだ。認めてしまえ。
 はっきり言いなさい。それでもベルカの一員か。
 だけど、彼はきっと言えない。だから私が助け船。

「可愛かった?」

 小首を傾げて、拗ねるみたいに上目づかいで。
 あ。
 彼が少し狼狽してる。いつも冷静な彼にしては珍しい。
 これは効果有り。私は頭の中のメモに記入する。
 だけど私は忘れてた。彼は奇襲も上手いんだ。

「いや、可愛すぎた」

 馬鹿。
 大馬鹿。
 どうして、そんなことを真顔で。
 ベッドの中で二人、顔を付き合わせて。
 しかも寝起きの顔で。真正面から。
 人間の姿のままで。
 馬鹿。困るじゃない。
 私は困る。
 ほら、こんなに。

「おい、ヴィヴィオ」
「いいの。いいから」

 したくなっちゃう。
 抱きしめて、押し倒して。
 もうベッドの上だからこれ以上押し倒すのは難しいけれど、そこは工夫して。
 押しつけて、圧迫して。

「今日も休暇だもの」
「おい、俺は」
「いいの。はやてさんには私から連絡するから」
「待て。主になんと言うつもりだ」
「ザフィーラはヴィヴィオと一日中エッチするからお休みしますって、念話するの」
「それは勘弁してくれ」
「ごめん」
「だったら……」
「念話するの、じゃなくて、念話したの」
「あ」
「えへへ」

 うん。ここは可愛く笑って誤魔化そう。
 昨日の内からはやてさんにお願いして、彼の休暇は申請してあるのだ。
 横で聞いていたシグナムさんの頬がひきつっていたような気もするけれど。

 私は彼に、今日何度目かのキスをした。


著者:野狗 ◆NOC.S1z/i2

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