590 名前:ヴィにゅう [sage] 投稿日:2011/07/01(金) 22:32:52 ID:UE3Ki4V6 [2/7]
591 名前:ヴィにゅう [sage] 投稿日:2011/07/01(金) 22:33:23 ID:UE3Ki4V6 [3/7]
592 名前:ヴィにゅう [sage] 投稿日:2011/07/01(金) 22:34:12 ID:UE3Ki4V6 [4/7]
593 名前:ヴィにゅう [sage] 投稿日:2011/07/01(金) 22:35:15 ID:UE3Ki4V6 [5/7]
594 名前:ヴィにゅう [sage] 投稿日:2011/07/01(金) 22:35:50 ID:UE3Ki4V6 [6/7]

「ヴィータちゃん、ヴィータちゃん、起きて……」
「ん……んん、あちぃ……」

シャマルに揺り起こされたヴィータが、まず感じたのはこの国特有の不快な、じめじめとした暑さだった。
寝汗で張り付いたパジャマを、パタパタと仰いで体に新鮮な空気を送りながら、一緒のベッドに寝ていたはずの人影を探す。

「ん〜〜〜はやては?」
「もう、ヴィータちゃん、はやてちゃんは学校に行っちゃったわよ。昨日言ってたじゃない、今日は日直で早く行かないと行けないって」

まだ、寝ぼけているのね、そう言いたそうに見下ろしてくるシャマルの視線を受け、まだ三割くらいしか覚醒していない頭を必死に働かせ、ヴィータは昨晩のはやてとの会話を思い出す。

「んーー、放課後は本局によってくるから、帰りは少し遅くなるんだっけか… …じゃあ、私もその前に帰って先にお風呂に入っておかないと……」

そう、今日の予定を組み上げると、覚醒を早めるために、汗で張り付いた髪の毛を振り払うように頭をプルプルと振る。

「思い出した? じゃあ、朝ごはんはもう出来ているから、ヴィータちゃんも、『変身』して、着替えたら早く降りて来てね。学校遅刻しちゃうわよ」
「……ん」

他の家族を起こしに行くためか、部屋を出て行くシャマルの背中を見送ってから、視線を壁にかけられている服に移す。真っ白なワイシャツとブリーツスカート。聖祥学園中等部の制服がそこにあった。

「はあ……しゃあねぇな」

制服をじっと見つめた後、ため息をついて立ち上がり、デバイスに送られてきている今日の変身プログラムに目を通す。

「しかし、本当に、毎日更新する必要があるのかね……シャマルやエイミィが 面白がってやっているだけのような気がするけれど」

海鳴にいる以上、変身魔法を使うのはいたしかたがないこと、そう理解していても、どうも玩具にされているような気がしてならない。そう、ヴィータは考える。はやてが中学校を卒業するまで海鳴に住むと決めたのだから自分たちも、それに従うのは当然だ。だが、そのためには大きな問題が一つあった。当時九歳だったはやてが中学校を卒業するまで六年。六年という月日は、肉体年齢が八歳に設定されているヴィータには長すぎた。六年間まったく成長しない八歳児。そんなものを噂話が大好きなご近所様が見逃すはずがない。故に誤魔化すために提案されたのが変身魔法の使用であった。肉体年齢が成年に達し、後は化粧や髪型でごまかしがきくシャマルやシグナム、そもそも人型にならないザフィーラと違い、ヴィータにはそれしか方法がなかったのだ。ヴィータとしても、友人であるじーさまやばーさまたちにいつまでも成長しないと余計な心配をかけたくもなかったため、しかたがなしにその提案を受け入れたのだが、それがまさかこんなことにつながるとは思っても見なかったのである。

「ああー、めんどくせー」

今日一日に起こるであろう面倒なことを思い浮かべながら、変身魔法を使い、 十三歳と八十二日に設定された肉体へと成長する。
そう、今のヴィータの設定は十三歳。十三歳とは中学校一年生に相当する。当然、学校に行かなければならない。行かなければ、引きこもりだの、不良娘だのあらぬ噂が立ちかねない。ただでさえ、すでに八神家にはニートがいると噂が立っているのだ、これ以上はやてに迷惑がかかるような、噂を広めることを 、ご近所の暇な奥様同盟に加入しているシャマルが承諾するわけがなく、また、はやてもヴィータが学校に通うことに賛成したため、ヴィータはしぶしぶ通っているのだった。

「ああーーーーー、めんどくせ!」

確かにヴィータの設定年齢は八歳であり、子供っぽいところもあるが、夜天の騎士としてすでに数百年以上過ごしているのだ、いまさら、子供に混じって、 学校に通うことは、めんどくさいこと以外のなにものでもなかった。
そして、めんどくさいことはもう一つあった。

「う……また大きくしたのか……めんどくせー」

変身が完了した肉体のとある部分に下着を装着しようとしたヴィータが呟きをもらす。きつくなっていたのだ。下着はつい最近新調したばかりだというのに、もうつけているのが辛いほどきつくなっている。

「……本当にこの成長プログラムあっているのかよ……」

きつくて、つけていられない下着を見つめる。そのカップはすでにはやてがつけているものより二段階ほど大きい。十三歳という年齢から考えるとありえない。
ミッドの法律で、犯罪防止のため、変身魔法は自分自身以外の人型になることは禁止されている。故に、今のこの肉体は正しくヴィータが成長した場合の姿であるはずだが、このありえない成長に、プログラムを組んだエイミィや、データを提供しているシャマルを疑ってしまう。

「はあ……」

ため息をつきながら、姿見に自らの裸体を移す。
背はあまり大きくなっていない。クラスで整列した場合、何とか腰に手を当てないですむといったレベルだ。顔つきもあまり変わっていない。少し大人っぽくなってはいるが、そこまで大きな変化はない。腕や足もほっそりしているし、お腹にも余計な肉はついていない。だから、余計に目立つのだ。

「ありえねーー」

ヴィータは自らの肉体についている余計な贅肉に手を当てる。どう考えても、この肉体にこれがついているのはありえない。こういったものは、背が高くモデル体型であるフェイトあたりについているのが普通だ。ヴィータの一部を除いた幼児体型についているのはおかしすぎる。
普通に考えればありえない成長。だが、この成長プログラムは正しいらしいのだ。ヴィータの訴えを受けて調べてくれたクロノが、あの堅物のクロノが太鼓判を押したのだから。

「ありえねー。絶対邪魔だよこれ……」

そう呟きながら、ぽよんぽよんと贅肉をもてあそんでいると、

「ヴィータちゃん、何やっているの? 遅刻するわよ」

シャマルから声がかかる。

「あーー分かった今行く……どうするかな」

返事をした後、ヴィータは手に持ったままの贅肉につけるプロテクターに視線を下ろす。
また大きくなった、贅肉をこれに押し込めるのはきつい。さらに付け加えるのならば、今日は暑くなりそうであった。

「……つけなくてもいいか」

ヴィータは一人頷くと、急いで制服に着替え始めた。

ヴィータは十三歳という年齢にしては大人びている。数百年、騎士としていろ いろんな経験をつんできたのだから当然である。はやてなどは、そのせいでヴィータがクラスに馴染めないのではないか? と心配したものだが、実際にはそうならなかった。

「ヴィータちゃん、これお願い」
「おう、まかせとけ」
「ヴぃーたん、これはどうしたらいい?」
「ヴぃーたんと呼ぶな! そこはほら……」

管理局でも新人教育を受け持っているヴィータはその面倒見のよさから、クラ スメイトに慕われていた。休み時間のたびに彼女の周りには男女を問わず人だかりが出来る。その中の一人、ヴィータの背後に立っていた男子が突然、大きな声を出した。

「あ!」
「ん、どうかしたか?」
「い、いや、なんでもないよヴぃーたん」
「だから、ヴぃーたんと呼ぶな、と……まあ、そろそろ準備しないと次の授業 が始まるぞ」

男子生徒の反応を訝しく思いはしたものの、次の授業の準備を始めた。
そして、このときから、ヴィータは粘りつくような視線を感じ始めたのだった 。



聖祥学園中等部には、VOKCという秘密クラブがあった。その秘密クラブに緊急連絡が回覧される。ノートの切れ端に走り書きされたそれには、こう書かれていた。

『ヴぃーたん、今日はノーブラ』

と。

緊急連絡を受けた、VOKCのメンバーは驚愕し、視線をヴィータの一部分に向けると、なにやら頷いて各自行動を開始した。
ヴィータの後ろの席のもは、何も引っ掛かりがないワイシャツの背中を透視するように見つめ、また、ヴィータの斜め前に座るものは、わざとらしく消しゴムを落とし、彼女に拾ってもらう。そして、あるものは体育の時間に摩訶不思議な揺れかたをする胸部に視線を奪われ、派手に転倒し、保健室送りとなった 。
このように、VOKCのメンバーは各自、今夜のおかずを調達していたが、とある猛者が取った行動により、それらはすべて塗り替えられる。
猛者は昼休みの後にやってくる掃除の時間に現れた。



「めんどくせーー」

最近口癖になりつつある言葉を口にしながら、ヴィータは学校の中庭に散らばったごみを箒で掃き集めていた。

「あちいし……早く終わらせよう」

昼過ぎ、日差しはさらに強くなり、遮るものが何もない中庭で、掃除をしていたヴィータは汗だくになっていた。夏服のワイシャツはよく汗を吸い込むが、そのぶん肌に張り付いて気持ちが悪い。自分では見えないが、背中にべったりと張り付いているのが分かる。

「お前ら、早く終わらせるぞ!」

耐え切れなくなったヴィータが、持ち前のリーダーシップを発揮して、指揮を執り、掃除を速く終わらせようとする。指揮された同級生たちは、スムーズに掃除を終わらせて、いつもより早く、最後の仕上げまでたどり着いた。
夏以外には、おこなわれないもの、水撒きである。撒かれた水は蒸発し、熱を奪い涼を呼ぶ。
撒けばすぐに涼しくなるというわけではないが、水が撒かれていくと、気持ち的に涼しくなったような気がして、ヴィータが気を緩めていると、それが起こったのだった。
水を撒くためにホースを持ちながらじゃれあっていた、男子生徒が手をすべらせる。ホースから吐き出された水はきれいな弧を描き、気を緩めていたヴィータに直撃する。

「あ、ヴぃーたん、ごめん!」

すぐに男子生徒は、いや男子生徒たちはホースを手放し、ヴィータのもとに駆け寄ってくる。

「お、おまえら……」
「本当にごめん!」

ヴィータが怒りを爆発させるよりもはやく、男子生徒たちは頭を下げる。そして、いつまでも頭をあげようとしない。
その神妙な態度に、ヴィータは毒気を抜かれて、怒れなくなってしまう。

「まあ、いい。今度から気をつけろよ」

仕方がないので、ヴィータは許しの言葉を与えるが、男子生徒たちはヴィータの胸の辺りまで下げられた頭をあげようとしない。

「もう、いいから」

再度、頭を上げるように促すヴィータ。彼女は気がついていなかった。
白い服は透けるのだ。よく水分を吸い込む夏服は張り付くのだ。透けて張り付く。このことに気がついていなかったヴィータは周りにいた女子生徒が気がついて声をかけるまで、白いワイシャツより白い肌を、大きくも形がよい胸部を 、そしてその先端を彩っている桜色を視姦される羽目になったのである。

「おまえら〜〜〜!!!」

「くそ、散々な目にあった」

すでに、日が沈み始めたころ、ヴィータは家の道を急ぎながらも悪態をついていた。学校では掃除の後も、男子生徒の悪戯に頭を悩ませられて、ストレスがたまったヴィータは、今日は管理局の仕事も入っていないことから、よく顔を出している老人会に顔を出した。学校であったことの不満を聞いてもらおうと 考えたのだ。家に帰って家族に聞いてもらえばいいかもしれないが、ヴィータとて家族にも、いや家族にこそ話せないものというものがある。特にこの手の 話題ははやての耳に入れるのは厳禁だ。故に、話してもはやての耳に入る可能性が少ない老人会で不満をぶちまけたわけだが、ここでもヴィータは失念していた。
じーさまたちは、枯れてるとはいえど、男だということを。
いくら、自分から振った話題だとは言え、枯れたじーさまたちでなければ、セクハラで訴えられそうなジョークに晒され続けていた、ヴィータはついに限界に達してしまった。爆発したストレスを解消するために、予定になかったゲートボールの試合を始めてしまう。

「もう、こんな時間だよ、急がないと」

帰宅予定時刻はとっくに過ぎてしまっている。ゲートボールも負けで終わってしまったため、家路を急ぐヴィータの足音は不満をぶつけるように大きく響いていた。
そして、その足音が新たな紳士を呼んでしまう。

「っと!」

物陰から抱きつこうとヴィータに飛び掛ってきた人影をかわし、その足を払う 。

「ヴぃーたん、はぁはぁ」
「またお前か!」

ヴィータはその紳士を知っていた。名前は志賀一(しがはじめ、一は、はじめ であって決して、ーではない)ヴィータが中学生になり、胸部が急成長しだし てから、週に一回はこうやって、ヴィータに襲い掛かってくる紳士だ。『おっぱいが、俺を呼ぶんだ』とわけが分からないことをいっている。
名前なども分かっているのだから、警察に突き出せばいいのかもしれないが、 偽造の戸籍で暮らしているヴィータとしてはあんまりことを大きくして痛い腹 を探られたくないし、この程度の紳士にヴィータがどうこうされることもあるわけがないので、襲われるたびに、大怪我をさせないようにぶちのめして追い返すということを繰り返していた。

「本当にこりねぇな……」

はいつくばった、し賀一をヴィータは踏みつける。だが、彼女は気がついていなかった。大怪我をさせないように、手加減されたその攻撃は御褒美にしかなっていないことを。そして、なめていた。紳士の眼力を。

「はぁ、はぁ、はち……じゅ…………のでぃ……また、大きくなったね、ヴぃーたん」
「うるさい黙れ」

紳士の眼力はそれだけでは終わらない。踏みつけられているために、覗くことが出来る白い布。紳士の眼力はその奥にある、うっすらと生え始めたものや、 それに彩られている亀裂、その奥の機能すら透視する。

「はぁ、はぁ……お赤飯は……まだ、なんだね……」
「うるさい、黙れ」
「逝くぅ……」

ヴィータが足に力をこめると、しが一は気を失う。
ヴィータはしがーにまるで汚物を見るかのような視線を送る。

「あ、やべ」

しばらく、その汚物をどう処理するか、燃やしたほうがいいのではないだろうか、など悩んでいると、完全に日が暮れていることに気がついた。

「はやてが帰ってくる前に、帰らないと……」

ヴィータは、家に向かって必死の形相を浮かべて駆け出す。はやてが帰ってくる前に、お風呂を済ませと置かなければならない。今の時間を考えるとそれは難しいかもしれないが、最低でも先に帰って、『変身』をといて着替えを済ませておかなければならない。そうしなければ……

「ただいま!! はやては!?」
「お帰り、ヴィータちゃん」

出迎えてくれたシャマルに、重要なことをたずねる。
そして、その答えは

「ヴィータお帰り、まっとったで」

居間から、顔を出した当人によって返される。

「は、はやて……」
「どうしたん? ヴィータ、そんな顔をして」
「いや、なんでもない……よ」

様子がおかしいヴィータをやさしく、はやては抱きしめる。

「そうか? なんか、最近避けられているような気がしてな」
「そんなことない、私がはやてを避けるなんてない!」
「そうかぁ? ならええんやけど……んーーヴィータ随分汗かいとるね、ご飯の前にお風呂にしようか」

はやては、そういって、シャマルにお風呂を沸かすように言付ける。

「久々に一緒にはいろうな、ヴィータ」
「いや、いいよ、はやて、後で一人ではいるから」
「何を遠慮してるんや、それとも嫌か?」

泣きそうな表情を浮かべ、ヴィータにたずねてくるはやて、ヴィータにそれに あがらう術などあるはずがない。

「……んなことないよ」
「そうか、安心したわ」

ヴィータが頷くと、はやては表情を一変させて、笑みを浮かべ、ヴィータの胸部を凝視する。

「どれだけ成長しとるか、今から楽しみやわ」
「……お手柔らかに」

――はやてはこれさえなければ完璧なのに……

ヴィータは心の中で泣きながら覚悟を決める。
体は少女、心はオヤジの、はやてとお風呂に入ることを。





そして、ヴィータがはやてと共にお風呂に入り、念入りに体の一部を洗われている頃、シャマルは楽しそうに鼻歌を歌いながら、あるデータの修正をしていた 。

「ふんふんふん、と、はやてちゃんのおかげで、ヴィータちゃんまた成長しちゃうわね」

この修正されたデータのおかげで、ヴィータは近いうちにフェイトすら越えることになるのであった。


著者:塵芥にも劣る空気未満SS作家

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