[94] 或る執務官の手ぬぐい sage 2007/11/08(木) 03:04:44 ID:f9SghJL0
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[99] 或る執務官の手ぬぐい sage 2007/11/08(木) 03:07:55 ID:f9SghJL0


グワラゴワラガキィーン

花は菜の花、女はフェイト。
問答無用で初球から、フェイト大火山が噴火した。

スッポ抜けを葬らんされたディエチが、マウンド上で膝をついている。

ダイヤモンドをズンタタタ、管理局チームメンバーとハイタッチ。
当然のようにベースを踏み忘れて、ワンアウト。

「ナンバーズ……侮れない相手だ」
「いや、あたしはお前が侮れねぇよ」

次のバッターは、ヴィータだ。

「秘打! 白鳥のラケーテンハンマアァァァ!!」

ナンバーズ更生プログラムNO.89
嗚呼青春ストライクが絶賛実施中であったという。



『或る執務官の手ぬぐい』



その日、教導を終わらせた鉄槌の騎士が、
汗を流そうと管理局付きの共同浴場に入った折の事である。

えーと、ナンバーズの…チンクだっけか?

浴場には、先客が居た。

外見上はヴィータと、それほどの年齢差を感じさせない小さな身体。
背中に流れる銀髪は、真っ直ぐに腰まで伸びている。

かつて機動六課を苦しめたスカリエッティ一味のナンバーズ、
その中でも姉と慕われる隻眼の戦闘機人、チンクだった。

それが、ただならぬ決意で壁際のシャワーに向かい、
鏡を見つめながら気組を迸らせる。

手にはシャンプー、そして捧げ持つのはシャンプーハット。

「つまり、髪が洗えないのかよ!」

思わずツッコミを入れた。

「む…もと六課の」

なんとなく不機嫌そうな雰囲気で、振り向いて声を返す。

「……ペタだったか?」
「ヴィータだ! どこ見て言いやがったてめぇ!!」

ふ、と薄く笑う。
それは勝者の笑み。

「浴場で騒ぐな、見苦しい」

年長者の貫禄を漂わせた発言に、ヴィータの動きが止まる。

たかだか数年の稼働時間の、お…お子様のくせに!

……かといって、ここで騒げば自ら墓穴を掘るようなもの。

額に青筋が浮かんでいる自分を自覚しながら、
我慢我慢と心で叫んで、ヴィータはチンクの隣に腰掛けた。

だって湯船には身体を洗ってから、八神家の家訓である。

怒りに震える手で、無意味に黄色い洗面器にお湯を張りながら、

ふと、

隣でシャンプーを睨みつけた姿勢で固まっている戦闘機人の、
下のほうに視線をズラす。

「……はんっ」

とりあえず、鼻先で笑ってみた、それは痛撃。
チンクのこめかみに、ビキリと音をたてて青筋が浮かんだ。

静寂の中、湯煙が硝煙の如く棚引き、
滴る水音が葬送曲を奏ではじめる。

「お子ちゃまで良かったよな、病気の人に大人気だ」
「気に病むなよ、見せる相手が居ないのだから、無くても構うまい」

一触即発、弾薬庫の如き空気が浴場を支配する。

「"喋らねー" でくれますか? あたしの前でよぉ… "息" が臭ェーからな」
「…よほど "悪運[ハードラック]" と "踊[ダンス]"っちまいたいらしいな、貴様」

今まさに、お互いの拳が相手を捕らえようとしたその時に、
唐突に戦場の扉が開く、新たな入浴者が姿をあらわした。


「あれ、ヴィータとチンク…? も居たんだ」

そう、それは例えるならば、絶望の具現。

淫靡としか表現できないほどに強大な、しかし微塵も形を崩さぬ柔らかな双丘、
しなやかで張りのある肉体、括れた腰、水滴を弾く透けるような白い肌、

流した髪は光を纏い気品すら漂わせ、整った目鼻立ちには穏やかな慈愛を含み、
深く澄んだ丹瞳には一抹の儚さの、鋭い眼差しに人は強く魅了される。 

そしてなによりも、下腹に可愛らしく生え揃った、黄金色の草原。
可憐さと淫靡さの同衾する、ひとつの理想の完成形が、そこに在る。

フェイト・T・ハラオウン執務官であった。

「あ…ありえねぇ!」
「こいつ…本当に人間か!?」

ヴィータが頭を抱えて叫び、チンクに妹の生霊が乗り移る。

今までは、おっぱい魔人の影に隠れていたから気がつかなかった、
ヴィータは自分の迂闊さを深く呪った。

脱いだだけでこの威力、ディエチよ、これがお前の受けた絶望か、
チンクは揺り篭が墜ちたという事実を、ようやく受け止める事が出来た。

「あ、髪を洗えないんだ、手伝ってあげようか?」

「ヴィータとやら、ここは私が食い止める、先に湯船に行け!」
「馬鹿野郎、てめぇだけにいい格好させられるかよ!」

二人は光よりも早く団結した。

あんな柔らかそうなものに引っ付かれた日には、
なけなしのプライドがブラスター3で木っ端微塵だ。

「いいのだ、私は髪を洗わねばならぬ…せめて、おまえだけでも!!」
「チンク!チンクウゥゥゥゥ!!」

嗚呼、それはまさに連理の枝、比翼の鳥、傷つけあいながらも深く育まれた、
二人に生まれた尊い絆を、閃光の死神が今まさに刈り取らんと近づいてきて、

「あ、ヴィータもチンクちゃんもおるやないの」

さらに乱入者が現れた。

ヴィータが素早く下に眼を走らせる。

主と仰いでより今に至るまで、幾度と無く目にする事のあったその肢体は、
なんか今日は、ぽてーんとかいう感じの擬音が良く似合う。

具体的に言えば、作画クオリティが露骨に差別されていた。

チンクも素早く視線を移す、上に。

そう、それは例えるならば穏やかな凪の海、果てしなき絶望の荒野。

嗚呼それなのに、烈火の将、白い悪魔、そして金色という山脈に囲まれて、
その酷き宿命の只中にあってさえなお、この女性は笑顔を失わないのだ。

「はやてえぇぇぇ、フェイトが、フェイトがああぁぁぁぁ」
「八神捜査官、私は今まで貴女の事を…誤解していた!」

「な、なんやようわからんけど………物凄う腹立つのはなんでやー!!」

かくして浴場の惨劇は、夜天の主の手腕によって回避される。

「なんでやああぁぁぁぁ!!」

ナンバーズの姉妹以外には頑なであったチンクの心を溶かし、
自らの家族のように接する彼女の姿に、誰もが賞賛を惜しまなかった。

後に、某金髪執務官に常時拉致され続けている青きフカフカ狼に変わり、
チンクが八神はやてのもとで活躍する事になるのだが、それはもう別の話。



(余談:ちなみに3番は、微笑みシャマルの振り子打法なの)



「こらフェイトちゃん、湯船に手ぬぐいつけたらあかん!」
「あ、大丈夫大丈夫、ヴィジュアル用手ぬぐいだからコレ」

異次元日本手ぬぐいをベースにした、ヴィジュアル用手ぬぐい。

異次元太閤から、湯船漬け御免状を頂いているという老舗の一品。
湿して叩けば骨をも砕くという、お茶目な破壊力だ。

主な用途として、入浴時の女性が頬を拭いたりするのに使用される、

のだが現在は、空気を包み泡を出して遊ぶための玩具と成り果てていた。
ヴィータとチンクが、手ぬぐいをつついて喜んでいる。

「…ま、たまにはええか」

結局、チンクの髪はヴィータが洗ったという。

(終)


著者:33スレ263

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