702 名前:我は役に立たぬ盾 [sage] 投稿日:2012/01/26(木) 21:46:45 ID:Kt2Gug32 [2/14]
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 若々しい緑が映える木立、快晴の空に輝く太陽、さわやかな初夏の風。このような状況でデートをする恋人がいたら、さぞ良い一日になることだろう。ザフィーラが歩きながらそんなことを考えていると、隣を歩いていたヴィヴィオがいきなりこちらを向いた。

 「まるでデートみたいだね」

 一瞬、心でも読まれたのかとひやひやしたが、ヴィヴィオにはそれ以上他意はないようで、また目の前に有る「自分たちの目的」に顔を戻した。
 特にこの少女に対し、特別な感情を抱いているわけではないが、それでも二人きりの状況で、それもあのようなことを考えていた時にあのようなことを言われると、さすがに取り乱してしまう。普段の姿ではなく、大人モードになっているのも原因の一つだろうか。

 (そもそも、なぜあのようなことが思い浮かんだのか)

 やはり、最近男性との付き合いを始めたシグナムに影響されたのだろう。別にはっきりと口に出すわけではないが、身体から恋する乙女のオーラがにじみ出てきている。八神家のメンバーも、それぞれなんとなしに影響を受けているようだが、さっきのもその一つだろう。そのようなことを益体もなしに思い浮かべた。

 「あまり行楽気分ではな。今からすることはちゃんと分かっているのだろう」

 「わ、分かってるよ〜。わたしたちの目的は遺跡の調査。だいじょーぶ!」

 かなり軽めな返答に、やはり一抹の不安を抱きながら、この仕事を受けてからずっと抱いていた疑問を口にする。

 「そもそも、なぜ派遣されたのが二人だけなのだ」

 あまり危険を感じられなかった場所なのだとしても、遺跡調査にはかなりの人員が必要となるだろう。見習いのヴィヴィオと、そのような仕事には門外漢である自分の二人だけで、本当に完遂することができるのだろうか。

 「みんな自分で抱えている仕事だけで手いっぱいだったし、しょうがないよ」

 当たり前のようにヴィヴィオが答える。
 もしそんな理由で、二人だけの派遣になったとすれば、無限書庫の人員はどれほど不足しているのか。そもそも見習いならば、先輩の司書に付いて行くのが正しいのではないだろうか。
 自分のそんな疑問が顔に出ていたのだろう。ヴィヴィオは不思議そうにこちらを眺めた。

 「あれ?聞いてないの、ザフィーラ。これから行く遺跡は、もう調査し終わったところだよ。取りこぼしがないかを確認するための二次調査だから、見習いの仕事にはちょうど良いだろうってユーノ司書長が…」

 そう言えば、この話を受けた時にユーノ・スクライアがなにか言っていた気がする。ちょうど、主はやてが帰ってこれないという連絡が来て、シャマルが台所に立とうとしていた時だったので(なぜだか最近、シャマルが料理を作ろうとする時が多い)、あまり注意して聞いていなかった。

 (なるほど、それならば納得がいく)

 自分に護衛の依頼が来たのは、念のためということなのだ。いくら事前にトラップの類が外されているとしても、やはりヴィヴィオ一人では心もとない。その点、自分はかなり身軽に動ける身であるし、自分で言うのもなんであるが、勘が鋭い方だ。たいていのことには対応ができる。そのあたりを見込まれての起用なのだろう。

 「それならば安心だな。存分に遺跡を学んでくると良い」

 「うん!ザフィーラがいれば、なにがあっても安心だしね♪」

 無邪気な子供のような笑みを浮かべる(実際、中身はまだ子供だが)ヴィヴィオを見て、軽くため息をつきながらたしなめる。

 「危ないところには余り近づくな。まだお前は見習いなのだ。わざわざ虎穴に入らなければならぬ理由はない」

 好奇心にはやるヴィヴィオにくぎを刺したつもりだったが、それがその少女には不満だったらしい。むっとした表情になった。

 「はーい。分かってまーすよー」

 明らかに分かっていなさそうな少女を見ながら、いざという時にはこの身を呈する覚悟を固め、遺跡の中につき従って行った。

 遺跡の中は、事前に調査されていると言われていた通りに、特に目に留まるようなものは見受けられなかった。
 隣の少女は若干不満げにしている。事情は聞いていたものの、まだ自分にもやることはあると期待していたのだろう。目を皿のようにして、なにか好奇心を満たすものはないかと探索している。

 (まあ、今回は遺跡の空気に慣れさせるというところか)

 はなから依頼した本人も、この遺跡になにか残っているとは考えていないに違いない。十分に事前調査を行ったうえで、安全であると確信した場所に派遣したのだ。
 そう考えると、横にいる司書見習いの姿もひどく微笑ましく映る。

 (そう言えば、何となく以前のヴィータに似ているな)

 頑張ろうという気持ちがはやり、若干空回り気味になってしまうところなどそっくりである。
 何よりこの少女には若さがある。若さは、時に前へ進むための力強い原動力になるが、ともすると、わきが見えていないという状態に陥れる罠にもなりうる。
 ヴィヴィオがかなりの実力をつけていることは分かっている。すでにガジェットくらいなら、自分の助けなしでも、何とかすることができる程度の実力はあるだろう。それでも、自分やユーノ・スクライアのような一歩引いて、周囲を眺めるような人物がサポートする必要はあるのだ。

 (高町は少し、その意味では頼りないからな)

 あの人物は、むしろヴィヴィオと一緒になって突進していくだろう。

 (もう一人の母親の方なら、もう少し抑えるだろうがな)



 しばらく進んでいると、ふとすぐ近くの壁に違和感を覚えた。
 魔力反応ではなかった。それならばヴィヴィオも感じ取れるだろう。
 これはそのようなものではなく、獣としての勘に訴えかけるものだった。
 先の調査で気付かれなかったのもそのせいだろう。魔力の痕跡は全くと言ってよいほど残っていなかった。これでは、どれほど凄腕の魔術師がいたとしても見付けることはできなかっただろう。

 (なんだ?この近くは嫌な予感がする)

 立ち止まって、その違和感の正体を探ろうとしていると、自分の様子に気がついたらしいヴィヴィオが近づいてきた。

 「どーしたの、ザフィーラ。なにか見つけた?」

 「…いや、なんでもない。先に進もう」

 これ以上ヴィヴィオを近づけないように、そう返答するが、一呼吸遅かったらしい。ヴィヴィオは自分の見つめていた部分に触れてしまっていた。

 「え?」

 その瞬間、目の前の壁が崩落した。

 「なに!?」

 その先には、どこかへつながっているであろう通路が口をあけていた。

 「うっわ〜!!やったよ、ザフィーラ!新しい場所を発見しちゃった」

 先ほどまでの不機嫌はどこへやら、興奮気味に跳ねまわっている。
 しかし、ザフィーラとしては手放しで喜ぶことはできなかった。

 (なぜ、前回の調査では発見できなかった。触れただけで反応するのであれば、いくら魔力反応がなかったとしても気付きそうなものだが)

 だが、現にこうして壁が崩れ、新たな道が目の前に現れている。

 (反応する場所が恐ろしく狭かったのか、それとも、この先にいるなにかによって招かれているのか。いずれにせよ、調査は次の機会にするべきだ)

 先ほどの違和感はすでに警戒心にまで高まっている。
 この先にはなにか良くないものがいる。
 ならば、ここは司書長に報告をして、彼らに任せるべきだ。
 そう考えて良なりに目を向けて見ると、ヴィヴィオの目は、好奇心と探求欲に満ち溢れていた。司書としては正しい姿であり、好ましく思うものの、護衛としては放っておくわけにもいかない。
 結局のところ、まだヴィヴィオは幼い子供なのだから。

 「一度帰って、ユーノ・スクライアに報告しに行こう」

 そう言うと、案の定、ヴィヴィオは猛反対をした。

 「なんで!?せっかく見つけたのに!?もしかしたら、また道がふさがっちゃうかもしれないし、わたしたちでも調査できるよ!」

 「わたしたちだけでは対応できない事態が起きるかもしれん。ロストロギアの恐ろしさは、見習いであったとしても良く知っているだろう」

 理を持って説得しようとするが、ますます意固地にさせてしまったらしく、自分の話を決して聞こうとはしなかった。

 「わたしだって、強くなったもん!なにかあったとしても、自分を守ることぐらいできるよ!…もういい!ザフィーラが行かないなら、わたし一人だって……」

 その瞬間、ヴィヴィオの死角からなにかが飛んでくるのが見えた。

 「っ!!待て、ヴィヴィオ!」

 警告をした時にはもう遅かった。ヴィヴィオは避けられる体勢ではなく、障壁を張る余裕もない。自分にできたことは、ヴィヴィオに体当たりをし、そのなにかへの身代わりになることぐらいだった。

 「ザフィーラ大丈夫?」

 そう問いかけるヴィヴィオの手には、先ほど飛んできたモノが握られていた。
 バランスを崩した状態で成したことだとするのなら、末恐ろしいことだ。

 「いきなり体当たりしてくるから、驚いちゃったよ」

 そう言って、さらに奥に一人で進んでいく。

 「待てっ、一人では…」

 そう引き留めるが、ヴィヴィオは笑いながら振り向いた。

 「大丈夫だよ、さっきも見たでしょ。もうザフィーラよりもわたしの方が強いんだから」

 そう言われて、分かりましたと引ける性分でもない。
 ヴィヴィオの後ろを、調査の邪魔をしないように、付いていく。
 しばらくすると、見る物も無くなったらしく、こちらに近づいてきた。

 「残っていたのは、これだけだったみたい」

 最初に捕獲した宝石のようなものを見せる。

 「なにかのロストロギアか?」

 尋ねてみるが、返答はいまいちはっきりしなかった。

 「まだわたしじゃわからないよ。ユーノ司書長に聞いてみないと」

 「それもそうだな。それではこの辺で帰るとしよう」

 何事もなくてよかったと安堵しながら、帰りを促すと

 「うん!」

 ヴィヴィオは満面の笑みでうなずいた後、最後にこう付け加えた。

 「でも、結局ザフィーラ必要なかったね。こんなところまできてもらったのにごめんね」

 「最近は、日常の中で生きていることが多いだろう。勘も鈍ったのではないか」

 八神家に帰ったあとで、今日の出来事を相談してみると、シグナムからばっさりと切り落とされた。

 「しっかし、ヴィヴィオに負けるなんて情けないな〜。守護獣とは思えないぜ」

 ヴィータはにやにや笑いながらちゃかしてくる。

 「まあ、しょうがないわよ。最近はわたしたちもあまり危険なことはなかったんだから」

 シャマルは少々外れた部分でフォローをしようとする。

 さすがに主たちには相談できなかったので、仲間たちなら良いだろうと思ったが、せめてシグナムだけにしておくべきであったかも知れない。
 若干の後悔とともに、いまだに頻繁に戦闘を繰り広げている仲間たちの助言に耳を傾ける。
 その途中、ヴィータが再びこちらをおちょくるように言った。

 「いま、ヴォルケンリッターで一番弱いのってザフィーラなんじゃねーのー」

 「そうねえ、わたしにも旅の鏡っていう秘密兵器もあるし」

 「堕ちたな、ザフィーラ」

 他のものも、ヴィータに悪意はないことを理解しているので、おちょくりに乗っかってくる。
 真面目に相談していたことがばからしくなり、なにも言わずに部屋を出た。

 そう、その時はまだ悪意は、微塵も見られなかった。



 その後も、警護の仕事はまわってきたが、もう自分が必要とされることは無かった。
 みなそれぞれ、自分の身は自分で守りきることができた。
 なんとなしに、八神家から自分の居場所が無くなっていることを感じた。
 シグナムも、ヴィータもそれぞれ自分の部下を育てることに、時には緊急体制になり、強敵と戦うことに楽しみを感じているようだった。
 シャマルも医務室で、存分にその手腕をふるっている。
 主はやてや、リインフォースに至っては、わざわざ口にするまでもない。

 自分だけが、特にすることもなく日々を過ごしていた。

 八神家の、そして旧知の者たちの目が、「役立たず」とさげすんだものになって来ていることが理解できた。

 しだいに自分が枯れていっていることに気がつく。

 そして、わたしは――――――

 気がつくと暗闇の中にいた。

 (ここはどこだ)

 周囲を探ろうとしていると、いきなり頭に声が入って来た。

 (こんにちは、ザフィーラくん)

 自分の近くに、生物の気配は無い。
 おそらくは念話の類だろう。

 (夢は楽しんでくれたかな)

 (夢?)

 さきほどまでの光景のことだろう。あれはどうやらこの声の主が見せていた幻であったようだ。

 (なんのつもりだ)

 そう威嚇しつつ返答すると、その声の主は、困ったものだとでも言うように返してきた。

 (おいおい、あまり怖い顔をしないでくれよ。君を傷つけようというのではない。わたしは君と取引がしたいだけなのだよ)

 信用などできるわけがない。
 初めから取引を持ちかけて来る人物は、なにか本音を隠していることが多い。
 そう考え、警戒の度合いをさらに高めて行くが、声はかまわずに続けていく。

 (さっきまでの夢、覚えているだろう。あれはただの幻ではないよ。君の周囲の人間が思っていることを具体化したものだ。夢の通りではなかったとしても、おおむね結果は変わらないだろう)

 先ほどまでの夢。
 その内容を思い返す。盾としての自分が必要されない未来。
 あれが自分の未来であるということか。

 (わたしは、この遺跡から脱出したいのだ。それには君の体が必要となる。もちろん只でとは言わないさ。この遺跡には、魔力反応では探れない罠が山のように設置されている。わたしの意思一つで、いつでも発動可能だ。君にその罠の発動権をあたえてやろう)

 向こうの意図が分からない。
 発動権を与えてどうしようというのか。

 (意味が分からないと云う顔をしているね。要するに、君が発動させて、君が守るのさ。そうすれば、君と一緒にいた子も尊敬の念を新たにするだろう。二度と君を軽んじることは無いだろうさ)

 (八百長をしろということか)

 (生真面目に考えるなよ。別に、彼女を傷つけようというのじゃない。ただ脅かしてやれば良いだけだ。それに、この遺跡には、わたしが隠したロストロギアがまだ残っている。彼女だけでは足りないというのであれば、そちらの発動権も与えてやるが、どうするかね?)

 おそらく、このロストロギアの作成者は、自分の意思をそちらに移したのだろう。
 そして、他にも自分の作ったものを自分に譲渡しようということらしい
 要するに、そのロストロギアを使い、管理局を襲えということだ。そして、わたしが見事に撃退をするあらすじをなぞれと。

 (悪い話ではないだろう?わたしもいい加減外に出たいのだ。君にこれだけ譲歩してやっているのは、わたしの望みがそれだけ真剣だからなのだよ)

 このまま、漫然と役立たずとして生きていくのか。

 (君は、頑丈な盾として称賛されるだろう)

 守護獣としての栄誉を望むか。

 その二択をせまられている。

 (君は盾だろう。ならば、盾となることを望むのに、不都合などあるものか)

 そう、自分は盾なのだ。
 だから、盾として生きる。
 そのためには、何を犠牲にしても。
 そのために自分は生きているのだから。

 だから自分の返答は決まっている。

 わたしは、何の迷いもなくその声に答えた。

















 (断る)

 一片の迷いもない。
 ただ己の信念に従って、そう答えた。

 声は、しばらくの間、わたしが言った言葉を理解できなかったらしい。
 沈黙が無い間続いた。
 そして慌てたように、声を送りこんでくる。

 (何故!何故だ!!君は盾だろう。私の提案は、君の生き方を肯定しようとしているものだ!何故、君自身が肯定しない!)



 (それは、貴様が盾という意味を履き違えているからだ)

 そう、この声は、初めから間違えている。

 声は言った。
 尊敬の念を受けると。
 また言った。
 盾としての栄誉を受けられると。

 そこが違う。この者は、前提の時点で間違えているのだ。

 (盾とは、栄誉を得るものではない)

 盾として栄誉を得るということは、とりもなおさず、「守るべき主人が危険に陥る」ということなのだから。

 (盾とは、役立たずであるべきなのだ)

 矛は違う。矛は時によって、先に相手を攻撃することができる。
 だが、盾は相手に攻撃されなければ、使われることは無いのだ。

 (役立たずであることこそ、盾にとって最も喜びとすることでなければならない)

 己の主人が危険にさらされることを喜ぶものがどこにいるというのか。

 (まして、自ら危険の中に誘い込むなど、論ずるまでもない)

 (……………………っ!!)

 語るべきことは語った。
 黙り込んでしまった声に、決別を告げる。

 (失せろ、下郎!貴様の望み、叶えてやっても良かったのかも知れんが、貴様からは悪意しか感じられん。早々に、この身体から出ていけ)

 (いやだ、いやだ、いやだぁぁぁぁぁぁぁ………)

 声は次第に小さくなって消えていった。

 そして―――――――

 「―――ラ!ザ――ラ!ザフィーラ!」

 耳元で、少女の声が聞こえる。
 目を覚ますと、ヴィヴィオが顔をくしゃくしゃにして、自分を抱き上げていた。

 「ヴィヴィ…オか」

 その少女の呼び声に答えてやる。

 「ザフィーラ、目を覚ましたの!?よ、よかったぁぁ」

 自分が意識を取り戻したことを知ると、ヴィヴィオは、顔を安堵で緩ませて笑顔になり、それでも泣き続けるという、名状しがたい表情になった。

 「心配をかけたな。護衛として恥ずかしい限りだ」

 「そ、そんなことないよ。悪いのはわたしだもん。ザフィーラは全然悪くないよ」

 己の失態を詫びると、ヴィヴィオは慌てて悪いのは自分であると主張し続けた。

 「いや、意識を失っているうちにヴィヴィオに危険がせまっていたら、どうしようもなかった。護衛としてついてきた以上、そのような状態にさせてしまったことは、失態以外の何物でもない」

 ヴィヴィオはまだ納得していないようだったが、わたしが意見を翻すことは無いと理解したのだろう。もうそれ以上は何も言ってこなかった。
 そして、わたしの体から、小さな宝石のようなものをつまみ上げる。

 「これのせいなのかな?」

 「ヴィヴィオ、ロストロギアを不用意につかむな」

 警戒心の全く感じられない触りかたに、警告をする。

 「ごめんなさーい。……んしょっ、これでいいかな」

 相変わらずの軽い返答の後、ロストロギアに一応の封印をほどこす。

 「これを持って帰って、あとはまた本職の者たちに任せるべきだろう」

 「そうだね、もう帰ろう」

 今度こそ帰るぞ、ということを言外に含めて声をかけると、意外なことに、今度は素直に従った。

 「やけに素直だな」

 「うん、だってもうザフィーラに危ない目に有ってほしくないから」

 「普通は逆だろう」

 自分がザフィーラを守る、とでも言わんばかりのヴィヴィオの目を見て、軽くツッコミを入れるが、返答は真剣なものだった。

 「だって、ザフィーラはわたしの大切な人だもん。守護獣とかそんなの関係無いよ」

 そう答えたヴィヴィオの顔は、今が大人モードであるかどうかの問題ではなく、やけに大人びて見えた。

 「………って、違う、そうじゃないの。いや、違わないんだけど、なんて言うか、そういう意味じゃないって言うか。そういう告白は、もっとちゃんとした時に言いたいっていうか……」

 そうかと思えば、いきなり真っ赤になって騒ぎ出した。
 次第に声も小さくなっていき、考え事をしていたせいもあり、最後の方は聞き取ることができなかった。
 とにかく、わたしはヴィヴィオにとって大切な人たちのカテゴリーに属しているらしい。

 (ああ、そうだな)

 やはり、あの声の主は勘違いをしていた。
 確かに、ヴィヴィオはわたしに守られることを良しとはしないだろう。主はやても、ヴォルケンリッターの面々も、リインフォースも、皆、わたしに守られるよりも、わたしを守ろうとすることを望むに違いない。
 だが、それはわたしを軽んじているということではないのだ。
 大切だから、傷ついてほしくない。
 ただそれだけなのだ。

 (あれには、それが理解できなかったのだな)

 もし、自分の見た夢の通りの結果になろうとも、かけらも後悔はしないだろう。
 だが、そうならないと確信している。

 なぜなら――

 ――きっと彼らの思いは、自分と同じものだと信じているから。



 まだ隣で何かしら弁解し続けているヴィヴィオを横目で見ながら、ザフィーラは静かに歩いていく。
 役に立たない盾としての矜持を抱きながら。


著者:111スレ614

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