魔法少女リリカルなのは Step Bonus Stage

我ら海鳴魔法少女隊「リリカル・ストライカーズ」


[328]176 ◆iJ.78YNgfE <sage> 2006/12/31(日) 23:47:33 ID:ER+JYoHi
[329]176 ◆iJ.78YNgfE <sage> 2006/12/31(日) 23:48:07 ID:ER+JYoHi
[330]176 ◆iJ.78YNgfE <sage> 2006/12/31(日) 23:48:38 ID:ER+JYoHi
[331]176 ◆iJ.78YNgfE <sage> 2006/12/31(日) 23:49:11 ID:ER+JYoHi
[332]176 ◆iJ.78YNgfE <sage> 2006/12/31(日) 23:49:56 ID:ER+JYoHi
[333]176 ◆iJ.78YNgfE <sage> 2006/12/31(日) 23:51:42 ID:ER+JYoHi
[334]176 ◆iJ.78YNgfE <sage> 2006/12/31(日) 23:52:31 ID:ER+JYoHi
[335]176 ◆iJ.78YNgfE <sage> 2006/12/31(日) 23:53:08 ID:ER+JYoHi

 ――これは多分もう少し先にある平和になったとある夏の日のお話。

 ミーンミーン……。
 
 ジージー……。

 この夏の風物詩は毎年毎年なぜこんなにも律儀に暑さを盛り立てようとしているのか。
 そりゃあ6年か7年土の中にいれば鬱憤も溜まるだろう。それをぶつけようとしているのか、ぶつけるのに必死になって寿命1週間ならもっと有意義にこの夏を楽しめばいいのに。
 だからといって夏のビーチにセミがパラソル並べて寝転がられても――。
 その……すごくシュール。

「バリアジャケットって温度対策バッチリじゃなかったわけ〜?」

 ぐったりと、そりゃもう溶けてしまっているようにテーブルの上に突っ伏してアリサはかすれ声で呟いた。
 ちなみに彼女の脳裏では今度はセミがビーチバレーに勤しんでいる光景が映し出されている。
 なぜか人間並みに巨大でやけにリアルな姿なのが不気味というか――。
 やはり……シュール。

「ちゃんと術者を守るために標準装備されてるはずなんだけど……」

 額に汗の玉を浮かべてフェイトが申し訳なさそうに答える。
 テーブルに並べられたコップには翠屋特製のアイスティー。ユーノが気を利かせて転送魔法で――アリサに命令されたという前口上はあえて言わない――運んできたのだ。
 さすがマネージャー。
 けど悲しいかな。そのアイスティーは半分以上を残してそれはそれは綺麗に二層に分離していた。少女たちは別のもの夢中であった。

「なんていうか気分の問題かも」

 既に半身が無くなっているソーダアイスを頬張りながらなのはは苦笑い。ゴミ箱の中にはもう9本の木の棒が煩雑に積み重なっている。
 この部屋にいるのは五人。なのは、フェイト、アリサ、すずか、マネージャーもといユーノ。
 計算上なのはがこれを食べ終われば全員が二本、アイスを平らげたことになる。コンビニで買ってきた箱入りアイスはものの十五分で完売御礼だ。

「もう勉強って状態じゃないよね」

 純白のマントもジャケットも外して、珍しくアンダーのみで絨毯に正座するすずか。やはりお嬢様は礼儀作法に完璧だ。
 ひょんなことからバリアジャケットに耐熱耐寒と温度対策が成されているという話が持ち上がったことから、この灼熱地獄を克服するためバリアジャケットを着込んでいる四人。
 だがそれでもこの日本の夏はそんな魔法防御をあざ笑うように彼女たちに試練を与えた。
 ああ、科学の力はやはり大自然の前では無力に等しいのか。
 誰ともなくそんなことを思う。

「しょうがないよ……この次元もいろいろあったから」

 転がっていた長細い毛の塊が身動き一つせず弱々しく鳴いた。
 彼だけはジャケットではなく毛皮。十八番の変身魔法なのはいろいろ理由があるから。

「きっと魔法にもいろいろ影響が出てるんだよ……。ところで元の姿に」
「却下」
「うう……」

 少しでも人口密度を減らせば暑さだって和らぐだろう。提案したのはアリサであって、賛成したのは全員。
 フェレットに夏の暑さは大敵なんです。といっても中身は人間、そんな訴えも四人の前には無力。
 尻に敷かれる……最近はそんな暮らしにも慣れました。

「ごめんね、エアコン壊れちゃってて」
「なのはのせいじゃないんだから……気にしなくていいわよ」
「そうだよ、こういう体験も貴重だと思うよ」
「私は日本の夏って始めてだし」

 フェイトの国語力を高めるために夏休みを利用した勉強会。たまには趣向を変えてなのはの家で、ということになったまでは良かったのだが。
 急に機嫌を損ねたエアコンは風すら出さず壁にかかる白い箱。窓開ければ天然のエアコン――温風しか出ない。

「翠屋はお客でいっぱい……今更他の家にはいけないし……」

 他に冷房の効いたうってつけの場所は無いだろうか。
 生憎候補はどこにもない。まさか海やプールで勉強会は開けまい。それにまた裸体で戦う羽目になるのはごめん被りたい。
 特になのはに至っては……。あえて聞くな。

「ああもう! 今日は勉強終わり! こんな環境下じゃ九九だって覚えられないわよ!」

 まずアリサがさじを投げた。

「そうだね、アリサの言う通りだ。私も……限界」

 珍しくフェイトが脱落。ミッドチルダ出身にこの暑さは厳しいようだ。

「わたしも駄目かも」
「なのはちゃんに同じで」

 残りも連鎖的に脱落していった。

「…………」
 
 すでに物言わぬ小動物は脱落していたり。
 むしろ危険ではないか?

「ねぇ、アースラはどうかな?」

 そんな中、ふとフェイトが口を開いた。
 その発言に、三人の顔が彼女へ向けられる。聞きたい、ぜひ聞きたい、そんな彼女たちの意思を酌んでさらに続ける。

「でも私用で使うとやっぱり母さんや兄さんに怒られるかな……」

 ――日和見発言。
 どっちつかずの返答に彼女たちの首はがっくりと垂れた。
 だがただでは垂れない少女がこの中にはいた。
 四人の中でただ一人、暑さに熱暴走しかけた頭脳の回した一人の頭に飛びっきりのインスピレーションを閃かせたのだ。
 彼女は心中ほくそ笑んだ。これなら私用じゃない、立派な、アースラの協力者としての立派なお仕事だ。

「諦めるのはまだ早いわ……。フェイト、あなたの生み出してくれた希望は無駄にしない」

 リーダーとして、まとめ役として。アリサ・バニングスは今ここに宣言する。

「この暑さに……反逆してあげる」

 彼女の目には眩く、熱く、炎が渦巻いていた。
 それは夏の太陽を遥かに凌駕していた――。

 * * *

「プロモーション……?」 

 このアースラとはおそらくかなりかけ離れたフレーズにリンディは首をかしげた。
 手元のアイスティーの底には真っ白な地層が堆積している。そこまで入れるのか……誰もが突っ込みたかったけど今はそれどころでは無い。

「はい、ご存知の通りアタシたち四人プラス一人で今まで頑張ってきました。多分、これから先も何か事件があればお手伝いすることもあるんです」
「それで?」
「これからもチームとして一つ団結力を高めるための特訓をしたいんです。そのためには今回のプロモーション製作がとても重要なことなんです」

 さすが会社令嬢。交渉の仕方は様になっている。

「それでアースラの設備を借りたい……という訳かしら」

 話が分かる相手だ。と、アリサは内心ガッツポーズ。
 向こうだって提督なのだ。そのくらいすぐに察しがつくのだろう。

「ん〜、いいんじゃないかしら? 確かにみんな頑張ってきたんだし記念代わりにそういうのを作っても」
「駄目だ、魔法訓練ならまだしもそんな芸能活動じみたこと」

 淡々と、話は上手く進まなかった。
 そう、この堅物がいた。この仕事馬鹿の執務官が。
 クロノ・ハラオウンが。

「もしも緊急のことがあったとき誰が責任を取るんだ? 確かに君たちは今回の事件にコウ両者であり感謝すべき存在だがそれとこれとは――」

 くどくどくど……。小姑のごとくお説教が幕を開けた。
 こんなものを聞くためにアースラにわざわざ来たわけではないというのに。こんな耳の毒を聞かされてはせっかくキンキンに効いた冷房で涼んだからだがまた温まってしまいそうだ。
 すでに3℃、彼女たちの体感温度が上がった。

(フェイト……一思いにやっちゃいなさい)
(うん、全力でかかるね)

 そっちがそっちならこっちもリーサルウェポン投入。 

「あの、どうしても駄目かな……兄さん」
「フェイト……妹の頼みでも」
「お願い……お兄ちゃん」

 ぜんまいが切れた。
 突如クロノの動きが停止した。続いて紅潮する頬。

「い、いやだから……」
「記念ぐらい、いいよね?」

 キラキラと星でも出そうな潤んだ瞳で、クロノを見つめる無垢な少女。
 弱いのだ、その視線にクロノは。最大の弱点なのだ。
 すでに彼の中で何か大切なものが崩れた。

「しょ、しょうがないな。た、但しあまり長くは使うなよ……」

 心の中で全員がハイタッチを交わした。気分で言うならまさにそれ。

「ありがと……お兄ちゃん」

 とどめの一撃! こういうところは普段のフェイト同様、手は抜かない。
 クロノはクロノで

「ん……」

 真っ赤な顔で軽く手を上げた。
 これでしばらくアースラで涼める。アリサの一計は完膚なきにアースラを、クロノを屈服させたのである。

 * * *

 どこかの次元のどこかの平原。
 整然と、しかしある種の貫禄を漂わせて少女たちが杖を構えて佇んでいる。
 監督役のエイミィは通信音声最大で彼女たちに呼びかけた。

「はーい! じゃあみんな準備はいいかな?」
『バッチリです! エイミィさん!』

 モニターの中でなのははこの上なく上機嫌で

『綺麗取ってくださいね! 一応、アタシたちのデビュー作品ですから』
「はいはい」
 
 アリサはくるりとデバイスを片手で一回転

『え、えとエイミィ……つき合わせちゃってごめんなさい』
「いいのいいの! 細かいこと気にしない!」

 遠慮がちなフェイトの背中を押して

「じゃあ最高画質でお願いします」
『もち! 容量はたっぷりあるからね!』

 どんな注文にも答えて見せよう。
 コンソールを目まぐるしく叩きながらエイミィは暇な日常に振ってきた思わぬ娯楽にノリノリであった。

「えと……いいのかな僕が中央で」

 ずらりと並んだ少女たちの只中、ちょう真ん中に配置されたユーノは恐る恐る尋ねた。ちなみにちゃんとした人間形態。

「色合いよりもバランスなのよね。そりゃあもう一人魔法少女がいるなら別だけど」
「あっ、やっぱりそうか」

 つまり穴埋めですね。
 端に男が一人で決めてもそれはそれでなにか釣り合いが取れないし。

「大丈夫、かっこよく取ってくれるから、胸張ってユーノくん」
「なのは……」
「いつも頼りにさせてもらってるし」
「うん」

 これは役得なのだろう。
 思いを寄せる少女の一言にどうでもよくなった。

『では、みんなオッケー!?』

「「「「「はい!!」」」」」

 それではポチッとスイッチオン!!
 押されるエンターキー。流れ始めるBGM。
 一昔前の特撮を思わせるような、レトロチック音楽が鼓膜を震わせ、その中で少女たちが高らかに叫ぶ。

「気分はいつも全力全開! リリカルなのは!」

 どこまでも真っ直ぐで

「輝く心は不屈の証! ライトニングフェイト!」

 誰よりも気高き心を持って
 
「任務は全部一撃必殺! バーニングアリサ!」

 希望をかざす少女たち

「溢れる勇気で頑張ります! ノーブルすずか!」

 その名は――

(えっ!? 僕台詞なし!?)

「「「「魔法少女戦隊!! リリカル!!」」」」

 風を切る相棒は光放って

「「「「ストライカーズ!!!」」」」

 ズドォォォォォォォォォォォォン!!!!!

 五人の背後から爆炎が咆哮した。

「うわあああああ!!!」

 そして男が一人、爆炎に空を舞った。

「あっ、ユーノくんが!!」
「あれ、火薬の量間違えたしら……」

 ちなみに火薬とは名ばかり。本当はアリサの高圧縮魔力弾頭だ。

「やっぱり……僕ってこんな扱いなんだ」

 遥か地平線まで吹っ飛ぶ勢いで空を翔ける少年は思う。
 炎はすごく熱くて、涼みに来たことが嘘みたいだ。
 でも、四人の笑顔を見てるとやっぱりどうでもよくなって。これがいつまでも続けばいいと、素直に思った。

「じゃあエイミィさん、今のでお願いしますね」
『はいはーい! ばっちりいい絵が取れたし、永久保存版にするよ!』

 て、おい。

「艦長、どのくらい製造しましょうか?」
「そうねぇ、手始めに10000枚くらいかしら」

 何勝手にあなたちは話を進めているんですか。

「儲けは全部アースラ持ちで!」
「当然じゃない」

 もう、頭の中では次のイベントの計画案が進行中。
 目指せ、100万人コンサート!

「ユーノ……お前も大変だな」

 ただ一人、男は涙した。
 

 こうしてとある夏の日は笑顔と共に――。

目次:魔法少女リリカルなのは Step
著者:176

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