138 名前:鏡の中の狂宴 第7話(終) 1/20 [sage] 投稿日:2011/05/08(日) 19:15:06 ID:mESb92yc [3/23]
139 名前:鏡の中の狂宴 第7話(終) 2/20 [sage] 投稿日:2011/05/08(日) 19:16:10 ID:mESb92yc [4/23]
140 名前:鏡の中の狂宴 第7話(終) 3/20 [sage] 投稿日:2011/05/08(日) 19:16:52 ID:mESb92yc [5/23]
141 名前:鏡の中の狂宴 第7話(終) 4/20 [sage] 投稿日:2011/05/08(日) 19:18:10 ID:mESb92yc [6/23]
142 名前:鏡の中の狂宴 第7話(終) 5/20 [sage] 投稿日:2011/05/08(日) 19:19:00 ID:mESb92yc [7/23]
143 名前:鏡の中の狂宴 第7話(終) 6/20 [sage] 投稿日:2011/05/08(日) 19:20:06 ID:mESb92yc [8/23]
144 名前:鏡の中の狂宴 第7話(終) 7/20 [sage] 投稿日:2011/05/08(日) 19:21:16 ID:mESb92yc [9/23]
145 名前:鏡の中の狂宴 第7話(終) 8/20 [sage] 投稿日:2011/05/08(日) 19:21:57 ID:mESb92yc [10/23]
146 名前:鏡の中の狂宴 第7話(終) 9/20 [sage] 投稿日:2011/05/08(日) 19:23:08 ID:mESb92yc [11/23]
147 名前:鏡の中の狂宴 第7話(終) 10/20 [sage] 投稿日:2011/05/08(日) 19:25:23 ID:mESb92yc [12/23]
148 名前:鏡の中の狂宴 第7話(終) 11/20 [sage] 投稿日:2011/05/08(日) 19:27:33 ID:mESb92yc [13/23]
149 名前:鏡の中の狂宴 第7話(終) 12/20 [sage] 投稿日:2011/05/08(日) 19:28:23 ID:mESb92yc [14/23]
150 名前:鏡の中の狂宴 第7話(終) 13/20 [sage] 投稿日:2011/05/08(日) 19:29:17 ID:mESb92yc [15/23]
151 名前:鏡の中の狂宴 第7話(終) 14/20 [sage] 投稿日:2011/05/08(日) 19:29:49 ID:mESb92yc [16/23]
152 名前:鏡の中の狂宴 第7話(終) 15/20 [sage] 投稿日:2011/05/08(日) 19:31:47 ID:mESb92yc [17/23]
153 名前:鏡の中の狂宴 第7話(終) 16/20 [sage] 投稿日:2011/05/08(日) 19:34:06 ID:mESb92yc [18/23]
154 名前:鏡の中の狂宴 第7話(終) 17/20 [sage] 投稿日:2011/05/08(日) 19:35:20 ID:mESb92yc [19/23]
155 名前:鏡の中の狂宴 第7話(終) 18/20 [sage] 投稿日:2011/05/08(日) 19:36:11 ID:mESb92yc [20/23]
156 名前:鏡の中の狂宴 第7話(終) 19/20 [sage] 投稿日:2011/05/08(日) 19:37:31 ID:mESb92yc [21/23]
157 名前:鏡の中の狂宴 第7話(終) 20/20 [sage] 投稿日:2011/05/08(日) 19:39:16 ID:mESb92yc [22/23]

──私は、ユーディットにさえなれなかった──

男の肩に担がれている、昏睡の少女。
その横を側近が固め、全員が満足した表情を浮かべていた。
「我々は、元々が反ハラオウン同盟だった。それが、どうだ? 何が目的で何が手段なのか、もう分かりやしない。
いや、いや、全ては予定調和だ。まずはヴィヴィオを籠絡し、次に高町。そしてハラオウンだ。
個人的な感想を言わせてもらうならば、高町さえ消えてくれれば満足だがね……ククク、ハハハハハ!!」
「カルマー教導官、善は急ぎましょう。そろそろ、高町なのはが来ます」
「おっと、そうだったな。では演出のために一仕事しようか。寄り道するぞ、メアリー」
横で端末を弄りながら、いつもの無表情でメアリーが報告する。
手袋を嵌めた手が高速に動き、数字や文字がどんどん書きこまれていく。
時刻は既に夜、雨が降っている上に道路環境も良くない。森の中にある研究所は、目印もなく極めて人目につきにくい場所だった。
……が、それを全て打ち破るだけの速度で彼女が向かっているのも事実である。
「それにしても、あんなに直接的な文面でよかったのですか?」
「ああ、構わん。求めているのは高町が絶望に染まる姿だ。ハラオウンは、その高町を使えば一発で堕ちるさ。まぁ、見ていろ」
途中、カルマーは地下へのエレベーターを通り過ぎ、警備室に行った。
そこで警備員から大量の鍵が通っている輪を貰い、じゃらじゃらと音を立てながら回した。
それをメアリーに渡すと、今度こそ真っ暗な地下へと降りていく。
当然、彼らは全員が同志であり、一種の運命共同体だった。
そして着いたのは、倉庫のように埃っぽい部屋。
荷物が雑多に置いてあるだけの殺風景な部屋はしかし、今日のために用意されたも同然の部屋だった。
三面は普通の壁だが、最後の一面だけは強化ガラスが全体に張っており、端に小さくドアがある。
ドアの向こう側は小部屋になっており、そこからこちら側を眺められるようになっていた。
小部屋に直接入れるドアが、ガラス越しに見える。これからの『ショー』には、最もお誂え向きの空間だ。
「よし、メアリー。入り口で高町を丁重にお出迎えしろ。準備をする──ぬかるなよ」
「はい」
意識を失っているヴィヴィオを床に寝転がすと、側に転がっていたダンボールの中から一つを選び、開封した。
中から出てきたのは、まっさらな新品の制服。それから下着一式。
ザンクトヒルデ初等部のそれをシラーロスに渡すと、彼は手近にあったパイプ椅子を引き寄せて座った。
「何年、辛酸を舐め続けた? あの女に、どれだけ苦しめられた? 今日で全てが終る……長かったぞ、高町なのは。
同盟諸君のためにも、まずはお前の娘からだ」
忍び笑いを漏らしたカルマーは、側近の二人がヴィヴィオの病院着を剥ぎとり、制服に着せ替えていくのをゆっくりと眺めていた。


「そ、そんな……どういうこと!?」
なのはが運動音痴な身体を必死に動かして走り続けている間、サーサーと雨が降っていた。
最寄りのバス停から、歩いて30分。気が遠くなる程の道を、真っ暗な中どこまでも走り続けていた。
謹慎が解けていない今、頼れる愛機のレイジングハートは本局のどこかに安置されていた。
「あっ!」
ぬかるみに足を取られ、重心が身体の前へと抜けていった。
泥だらけになった服を拭うこともせず、歯を食いしばって立ち上がり、また走り出す。
そしてようやく着いた研究所には、入り口にぽつんと誰かが立っていた。

「ようこそ。私はメアリー・オーヴィル、カルマー教導官の元で技官をしています。
その様子ですと、先程のメールをご覧になったようですね」
激しく息を吐き、雨と泥に汚れた身体は、とてもエース・オブ・エースだとは思えない姿だった。
返事もできないくらいに疲弊していたなのはは、荒い呼吸の中で頷いた。

そう、誰が『午前零時より、高町ヴィヴィオの公開レイプショーを始めます。助けたければ以下の場所までお越し下さい』
と書かれて、来ない者がいるだろうか。

メールは時を待たずして自動削除された。ありとあらゆる手段を用いて秘密裏に通報しようとしたが、
場所も時間も人名も内容も、魔力によるロックがかかっていて他人へ伝えることができなかった。
管理局はもちろんのこと、フェイトやはやて、ユーノといった友人にすら、
何かを言おうと思った瞬間に謎のノイズに覆われてしまった。
誰かにロックを解除してもらう頃には、とっくにヴィヴィオが餌食になっている──そう考えたなのはは、
罠だと分かっていても単身研究所まで乗り込んでいくしかなかった。
「カルマー教導官はゲームを所望しています。こちらへどうぞ」
「ま……待って!」
ようやく走り着いた場所でさえも、メアリーはなのはを無視して、建物の中へと歩き始めた。
なのはは乱れた息でその後を追いかけるも、その速度はどこまでもじれったかった。
山の中にこんな施設があったのかと驚くほど、高水準の技術で作られた建物と研究。
しかし、そんなものを見る余裕すらなく、一つの部屋に連れてこられた。
そこでは……

「マ、ママ!?」
「ヴィヴィオ!!」
数ヶ月の間離れ離れになっていた、愛娘がいた。精気がなく青白い顔に、終始怯えたようなさまよう視線。
焦点を合わせきれずに光を消してしまった瞳は、なのはをまっすぐ見てはいなかった。
そして、紅と翠の視線は、疑惑に満ち溢れていった。
「──本当にママなの? ママも、私を虐めに来たんじゃないの?」
「えっ……? どういうこと、わたしはなのはだよ、ママだよ! ママがそんなことする訳ないじゃない!」
信じていいのか、よく分かっていない表情。
ほんの少し前までは、家に帰ってくるなり胸に飛び込んでくれていたのに……この差は一体なんなんだろう。
「我々が施した『再教育』の成果です。とても素直な、凄くいい子になりましたよ」
「バカ言わないで! あんなに怯えちゃってるじゃない……ヴィヴィオ! 今助けるからね!!」
なのはの目の前にあるのは、強化ガラスでできた扉。
透明な硬さはなのはの手足を受け付けることはなく、鍵がなければ開けられそうにもなかった。
歯ぎしりの音だけが、虚しく響く。
「……ゲーム、って何?」
敵対心を剥き出しにして、メアリーに向き直る。彼女は腰に据え付けていた鍵束を取り出すと、なのはに突きつけた。
ジャラリと嫌な金属音が立ち、目は輪に通された無数の鍵に集中していく。
「これらは全て同じ型の鍵ですが、そこにあるガラスの扉を開けられる鍵は一本しかありません。
それは今、この手の中にあります。百本の中から、正解を見つければ貴女の勝ちです。頑張って下さい。
制限時間は五分。それが過ぎたら、ヴィヴィオには『素直に』なってもらいます。では、始め」
そう言うなり、メアリーは腕に嵌めた時計のボタンを押した。

脈を打つ地獄のカウントダウン。なのはは最悪の未来を回避するために、適当に鍵を一つ握って扉に駆け寄った。
その後ろでは、メアリーが完全なポーカーフェイスのまま時計を見続けていた。

ヴィヴィオが目覚めた瞬間、ずっとずっと夢の中で見続けていた姿が目の前に現れた。
でも、あの『高町なのは』も、裏切っているのかもしれない。アインハルトのように……
そう思うと、疑念の何もかもが心の中で渦巻き、どちらが正しいのか分からなくなる。
頭にはもうずっと霞と靄が深く立ち込めていて、考えようとすると全てが白の中に埋もれてしまうのだった。
だから、人の言うことを聞く方が楽だった。自分で考えられないから、誰かが考えてくれないと指一本たりとも動かしたくない。
一瞬だけ顔を上げて立ち上がりかけても、心の中にいる何者かが邪魔してへたらせてしまう。
『本物』だという確信が持てないから、絶対に自分を裏切らない存在であるとはっきり分からないから、怖くて怖くて仕方がない。
両肩を抱いて、ヴィヴィオは震えだした。こんなところにいたくない。もう何もしたくない。
檻の中にいて、剥き出しにされた肥大クリトリスを扱かれながら、精液を飲み続けていた方がいい。
安寧に帰して欲しい。何一つ考えなくていい場所に、帰して欲しい。

物言わず、動かない床だけを見つめていると、頭上から声がかかった。
「君はずっと見ているといい。無力であることが、いかに人間を萎えさせるのかを、自分自身の目で確かめてくれ」
時計の針がカチコチと音を立てる幻聴を聞いた。それは、この部屋にはないもの。
どこから聞こえてくるのか、それを考えようとしても、脳内に広がる霞に遮られてしまう。
目の前には、必死の形相で鍵束を抱え、一つ一つ合わせては次の鍵に移る女性の姿があった。
その表情はまさしく修羅のようで、ヴィヴィオは彼女もまた自身に危害を加える存在なのではないかと、
四つん這いのまま後ずさった。
「あれは凄く時間がかかるからねぇ。提案があるんだけど、そこにいる二人のどっちかをフェラでイかせられたら、
僕も君に鍵を渡してあげるよ。そうすれば、ママとまた会えるかもしれないよ」
ニコニコ笑って、カルマーが鍵を取り出す。それをもう一度ポケットにしまうと、パチンと指を鳴らした。
それはガラスのこちら側で宣言された、新たなカウントダウン。
失われたはずの直感が、残り時間を告げてくれた。それは、短いと呼ぶにも短すぎる、涙の欠片すらない寸刻であった。
どこに力が残っていたのか、それとも隠れていただけなのか、飛びつくように男へと縋りついた。
経験上、シラーロスはこういう時に耐え切ることができると知っていた。
限られた時間しかないのならば、この名も知らぬ──或いは忘れた──男であれば、何とかなるかもしれない。
全ては賭けだが、勝つにはこれしかない。
常時震えたまま止まらない手でファスナーを下ろし、肉棒を取り出す。
腐臭にも似たきつい臭いが鼻を突いたが、それも日常の一部。
躊躇いもなくくわえ、ストロークを始めると、背後で悲鳴が上がった。
「ヴィヴィオっ……! 何やってるの!? そんなことしなくてもいいんだよ、ママが助けてあげるから!!」
ガチャガチャガチャガチャと、鍵同士がぶつかり合う金属音が、やたら甲高く部屋の中に響いていた。
いや、単に耳障りなだけなのか。
「んむっ、じゅぷっ、ぐちゅ、じゅぽっ、ちゅぷ、んちゅっ、んむぅぅぅ……」
余った皮を舌で剥き上げて、恥垢まで全部舐め取ってストロークを繰り返す。
既に一分以上が経っているのだろうが、見上げた彼の顔はまだまだ涼しい顔をしていた。
唇に力を込めて、顎が痛くなるほど深くまで怒張を飲み込んで抽送を繰り返していたが、時間は無情にも過ぎていく。
「残り、150」
カウント数が、ちょうど半分を告げた。今までにも増して速いスピードで男の肉棒に奉仕し、射精を促す。
しかし、彼は余裕綽々といった顔でヴィヴィオの頭を押さえると、もっと早くしろと言わんばかりに頭をガクガク揺らされた。
軽い脳震盪で舌が鈍り、ますます勝利から遠ざかっていった。
一瞬、女性の顔が上向き、ヴィヴィオの目を捉えた。
その瞬間、ハッと何かに気付いたらしい彼女がふわりと笑い、そして静かに頷いた。
「ヴィヴィオ、今すぐ助けてあげるからね。今までずっと、ヴィヴィオがこんなことになってるなんて気付かなくて……
本当にごめんなさい! ママを許して!」
堰を切ったように涙を流しながら、尚も鍵を差し込んでは回そうとし、何かに取り憑かれたまま同じ作業を繰り返す。
残りカウントが100を割った頃、ヴィヴィオはようやく一つの可能性に思い至った。

「ママ……なのはママ、なの? ホントにホントの、あの優しくて強いなのはママなの?」
「そうだよ! 嘘じゃない、わたしがヴィヴィオに優しくしなかったことなんて、一度もなかったでしょう!?
だから、信じて! 必ず助け出すから!!」
よかった。アインハルトは賤しくて醜い裏切り者だったけど、母親だけは……高町なのはだけは、永遠に傍にいてくれる。
助けてくれる。この牢獄から、自由な鳥になってどこまでも飛んでいける──そう、思った時だった。
ヴィヴィオの目にバイザーが嵌められて、視界が暗くなった。カルマーがボタンを押すと、黒が少し赤くなる。
「いやはや、お涙頂戴な展開は好きじゃあないんだけどねぇ。まずは、ヴィヴィオはこれを付けてもらうよ。
大丈夫、ママが助けに来たらすぐに外してあげるからね」
刻一刻と、メアリーがカウントを刻む度に、赤は次第にそのきつさを増していった。
まるで、テレビの画面が、赤以外の色を映さなくなってしまっているかのような、現実離れした空間だった。
娑婆へ出る鍵を放棄してしまう程に、その色はヴィヴィオを責め立てた。
舌の動きは途中で止まり、万物が混沌に染まっていく。
「い、いやぁっ……助けて、助けてママっ、目が、目が変になる……おかしくなっちゃうよぉっ!」
頭をどれだけ振っても、赤は消えない。赤はやがて朱、そして紅へと変わり、ヴィヴィオの目は血の池に叩き込まれた。
まだ、カウントは残っている。これ以上紅くなったら……もう、発狂してしまう。
「30、29、28、27……」
誰かの淡々とした声が耳に届いたが、ヴィヴィオはもう我慢できなかった。
何でもいいから、早くゼロになって欲しい。早くこの莫迦げたゲームが終って欲しい。
助けてくれるなら一瞬でも早く、そうでないのなら、さっさとカウントをなくして何もかもを仕舞いにしてくれと泣き叫んだ。
目を瞑っても、頭を床に打ちつけても、ただ淡々と真っ赤な景色が眼前に広がっているだけだった。
「あっ……あぁっ……いやぁぁぁぁぁぁっ!!」
カウント終了の合図を受けた時、ヴィヴィオにはそれがまったく聞こえていなかった。
紅以外何も見えなくなった世界で、ひたすらに許しを乞うていた。
「助けて欲しかったのかい? でも、残念ながら君のママは無能なようだった。
やっぱり、君を裏切るだけの存在だったんだよ。今、それを分からせてあげるよ」
ヴィヴィオには、カルマーの言葉を理解できなかった。聞き取ることもできない。
ただ、ピッとスイッチの入る無機質な音だけが耳に入ってきた。

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
世界が真逆になった。
意味もなく、法則もなく、目に映る世界が極端にうねり、周り、捻れていく。
紅一色だった時間は終り、赤、橙、黄、緑、青、紫、藍、白、黒が激しく明滅し、色彩感覚も平衡感覚も消し去っていく。
耳には高周波と低周波が同時に響き、そのリズムさえも滅茶苦茶で、ヴィヴィオは床に倒れ込んだ。
その瞬間から、全身に激痛が走る。
足の指から頭のてっぺんまで、全ての筋肉が攣ってしまったようだった。
皮膚という皮膚に針が刺される。心臓に杭が打たれる。鼓膜が破れ、眼球を潰される。
焼かれ、斬りつけられ、引き裂かれ、打ち据えられ、刺し貫かれた。
鼻からは薬品の臭気が滑り込み、粘膜を溶かされる激痛に転げ回った。
だが、指先が空気を切る度、そして背中が床に触れる度に、
「見えるか、高町? これは決してバーチャルな痛みではない。
脳ではなく神経系の刺激で発生する、本物の痛覚だ。放っておけば狂死するぞ。
後五分だけくれてやる。それまでに鍵が見つけられなければ、ゲームエンドだ。
20カウントごとにこの娘の苦しみは増していくぞ。精々、恨まれないようにするんだな」
「どうして……どうしてカルマー、こんなことをするの! わたし達は一緒に管理局のために……
世界のために頑張ってきたじゃない! ヴィヴィオを返してくれるなら、わたしが『それ』をやるから!
だから、もう止めてぇ!」
「断る。どうせ俺はあそこじゃ居場所を失っているからな。その絶望に打ちひしがれた顔を見るためだけに、
俺は何年も、妄執を追い求めていたんだからな……今更こんな僥倖、手放せるものか。
メアリー、カウントダウンだ。いい加減、このゲームにも飽きた」

誰が何を言っているのか、それは苦しみから開放してくれるのか、はたまたその逆か。
ヴィヴィオは汗腺という汗腺から脂汗を吹き出し、地獄の終りを儚く思い浮かべた。
平穏の影は、瞬く間に色が踊り狂うフラッシュの中へ消え去った。

なのはは、カルマーを一目見た時から、おおよその流れを察した。
教導官という地位、一つの夢を勝ち取ったなのはは、その後前任者であった彼が辺境の時空に派遣されたことまでは知っていた。
提督クラスの上官には気に入られていたみたいだし、辺境開拓としての任務もあったから、
後は彼がそこを気に入るかどうかの問題だった……と思う。
流石に人事まではなのはの与り知らぬところではあるが、リンディやレティの後押しがあったことは反論しがたい事実だろう。
カルマーはそれに反感を覚えたに違いない。
「わたしが悪かったの……? ねぇ、どうして? わたしが悪いのなら、ヴィヴィオにそんなことさせないで、
わたしをどうにかすればよかったじゃない! どうして、罪もないヴィヴィオにそんな酷いことをさせるの……」
震える手つきで鍵がぶつかり合、音を立てた。
もう鍵束は一周するはずなのに、正解の鍵はまだ見つからない。
逆方向に鍵を辿ればよかったなどと、普段の精神なら絶対にしないであろう後悔に身を包まれていた。
「俺は、お前の絶望が見たいだけだ。お前をどれだけいたぶったところで、どうせ悲鳴一つ上げはすまい。
それに、お前は曲がったことが出来ない奴だからな。筋の通らない話で謝る真似もしないだろう?」
カルマーは、恐らく本当のことを言っていない。嘘はないが、大切なことを一つも喋っていない、そんな口調だった。
だが、時間は極限まで迫っていた。今、余計なことを考えている猶予は一刻たりともない。
ヴィヴィオの悲鳴と絶叫はその激しさを異常なほどに尖らせていく。心が掻き乱されて、上手く集中することができない。
「残り四分」
メアリーの声で、なのはは異変を覚えた。さっきよりも、明らかにカウントが早い。
手を休めることなく、そのことについて問い正すと、あまりにもそっけない答えが返って来た。
「何のことだ? 気にしている暇があったら、さっさと鍵を見つけ出したらどうだ」
時計を見るためにポケットへ手を伸ばしている時間すら惜しい。
眼の奥がチカチカする痛みに耐えながら、残り少なくなっていく時間をヴィヴィオのためだけに使い尽くそうとした。
「残り三分」
……おかしい。明らかに一周したはずなのに、答えの鍵がない。
もう一度やり直そうか、それとも今度は逆方向に試していくか。
一瞬の迷いは心に空白を生じさせ、緊迫した時間を浪費してしまう結果となった。
「残り二分」
チラリと、カルマーの顔を見た。余裕を見せた顔の裏には、捻じ曲がった憎悪しか感じ取ることができない。
あの余裕は、絶対に勝つと確信している顔だった。まさか、ハメられたのか?
「本当に、この中に答えの鍵はあるの!?」
「俺はルールを二度も説明しない」
今度もそっけなさすぎる、投げやりな答え方。よし、一分だ。一分だけ考えよう。
絶対に、彼の嘘を見破るヒントがどこかに隠されているはずだ。
「残り一分……59、58、57」
カルマーは、最初から今に到るまでドアの向こう側にいた。小細工は出来ないはずだ。
鍵が本当にこの中にあるとしても、すり替えたり抜き取ったりは出来ない。
では、このトリックはどこにある? 何故カルマーは『絶対に負けない』と考えている?
答えは一つ。この鍵束に正解がないのだ。
なのはは鍵束を目の前まで持ち上げて、素早く数え始めた。
レジの小銭とは比べ物にならないほど難しかったが、全力で目を使い、視力の限り数え続けた。
「15、14、13、12……」
鍵束には──99本しかなかった!
となると、メアリーしか犯人はいない。だとしたら、どこに隠し持っている?
運動音痴なことくらいは自覚している。魔力も使えないこの状況下では、完全に一発勝負だ。
メアリーの言葉を思い出せ。彼女は何と言っていた?

『それは今、この手の中にあります』
……鍵は今もメアリーが持っている! 渡された鍵は、残らず全て外れ!!
「5、4、3」
なのはは横にいたメアリーの胸倉へ向けて手を伸ばした。端末を持っていたのだから、きっと手は胸の辺りだ。
全体重をかけて前のめりにぶつかって行こうとしたが、指先は空を切った。
「2」
顔を上げる。つい今しがたまで隣にいたはずのメアリーは、いつの間にか壁際近くまで移動していた。
次の一歩を踏み出すが、足に力が入らない。
「1」
高町なのはは、一生で一番、自分自身に呪いをかけた。
フェイトやすずか、エリオのような足があったのなら、今、どれだけ幸せだったのだろう……
メアリーの唇が動いたが、もはや止める手段など残ってはいなかった。
「0」

……そして、ゲームは終った。
今まで、大事な勝負には絶対に負けなかったなのはが、人生の岐路で、無様に敗北した。
「う、嘘……でしょう……」
手のひらに出した鍵を、メアリーはメタルシュレッダーに投げ込んだ。
それは余りにも遅い放物線を描いて、跳びかかって捕まえられそうだったが、身体の動きは鍵よりも遥かに遅かった。
ガリガリと絶望の音を立てて、鍵は粉々に砕け散るのを、間延びして追いつかない目で見ている他はなかった。
「そういえば伝え忘れていましたね。私、学生時代は演劇部でした。あなたの部下ほどではありませんが、
錯乱した人間を相手に気配を誤魔化す程度のことは朝飯前ですよ」
部下、とは誰を指しているのか、真っ白になった頭では分からなかった。
今更のように、ぷらぷらと天井から吊り下がったマイクを見つけたが、全ては手遅れだった。
両手を突いてヴィヴィオを振り向くと、少女は幼い身には辛すぎる拷問を受けて身体を痙攣させ、身悶えていた。
「いやああああああぁぁぁぁっ! あぁっ……ぎゃあああああああああああぁぁぁっ!!」
「ヴィヴィオ! ヴィヴィオっ! もう止めてぇ! やるならわたしにしてえええええぇぇぇぇっ!!」
バイザーの向こう側で、ヴィヴィオがどんな景色を見ているのかは分からない。
だけど、命に代えてさえも、その苦しみを肩代わりしたいと願った。
「なに、案ずるな高町。お前も近いうちに地獄を見ることになるだろう。その日を楽しみに待っておけ」
そう言って、カルマーは無防備になっていたヴィヴィオの脇腹を蹴った。
この世のものとは思えない残酷な悲鳴を上げて、床をのたうち回る少女。
彼がバイザーのスイッチを切り、頭を掴んで持ち上げた時には、ヴィヴィオは生死の境目を彷徨っているとしか思えなかった。
疲れ果て、息をするのも辛いほどの痛み。
実際にあのバイザーを被ってみなければ、想像することも不可能な拷問が繰り広げられているのだ。
口の端が切れて、鉄の味が舌から鼻に抜ける。思い切り手を振り上げて、透明な壁を叩いたが、指が腫れただけで終った。
「ヴィヴィオ。君は今、何を望んでいるのかな? 一つだけ、願いを叶えてあげるよ。
でも、世の中はギブ・アンド・テイクだ。そうだろう? ヴィヴィオが僕達の望むことをしてくれたら、
絶対に約束を守ると誓うよ」
無慈悲にも、カルマーはバイザーのスイッチを再び入れた。
断末魔の叫びが情け容赦なくなのはの耳を打って、思わず両耳を押さえてうずくまってしまいたい衝動に駆られた。
胸が潰されんばかりに締めつけられ、何度となく壁を叩く。
努力は永遠に虚しく、手と腕の痛みは酷くなる一方だった。
もしも魔法が使えたら……スターライトブレイカーでこんな壁、豆腐よりも簡単に撃ち抜いてみせるのに。
何一つやることができない絶望に、なのはは口を開いたが、意思に反して言葉は出てこなかった。
次に聞く言葉は分かっている。場にいる全員の表情と、ヴィヴィオの様子から、それは簡単に思いつけた。
「ダメだよ、ヴィヴィオっ……そんなこと……どんなことがあっても、それだけは……!」
最後の叫びも、無駄だった。
痙攣するヴィヴィオの口から出てきたのは、人生で一度だって聞きたくもない、呪詛だった。

「何でもするから助けてええええええええええええええぇぇぇぇぇっ!
私のこと犯してもいいからあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!
レイプでも中出しでも何でもしていいからああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

打ちつけられた拳が、そのままずるずると重力に従って落ちていった。
その場に膝を突き、声にならない叫びを漏らした。
それでも、そんな絶望でも、なのはは母の強さで涙を流さなかった。
最後の希望は潰えていない。祈りも願いの塊になって、奇跡を念じた。
他にすることといえば、拳ではなく全体重をかけた体当たりくらいのものだった。
手を伸ばせばすぐに届きそうな距離なのに、触れることさえ叶わない。
どうして、こんなに世界は非情なのか……
なのはは土下座をして額を床に擦りつけ、懇願した。
「娘だけは助けて! わたしはどうなってもいいから……犯すなら、殺すならわたしだけにして下さいっ……!」
祈りが通じたのか、カルマーはなのはを一瞥した。そして、フンと鼻で笑うと、懐に手を突っ込み、小壜を取り出す。
中身は青い液体だった。粘性を帯びていて、手になじませて広げると、指の間に糸が張った。
いくらなのはでも、大人になればそれが何なのか分かる。
唖然と見ている中で、彼は小壜をしまうと、ジッパーを降ろした。
──最後の希望が、泥にまみれた瞬間だった。

ヴィヴィオが絶死の苦痛からようやく解放された時、目の前には母親の姿が見えた。
バイザーも外されて、薄暗かった視界が急に明るくなり、軽く目をしばたく。
背後の靴音に振り向くと、悪魔の顔が見えた。靄を突っ切って脳裏に刺さった言葉が蘇る……
『犯してもいいから。レイプでも中出しでも何でもしていいから』
全身の筋肉が悲鳴を上げている。這っていこうとしてでさえ、肘も膝も言うことを聞かない。
誰かの手が伸びてきて無様に床へ押さえつけられ、目線だけで顔を追う。
「マ……ママっ! 助けてっ、アインハルトさんも敵なの! もう……私にはママしかいないの! 助けてっ……いやぁぁっ!」
痛みに耐えて後ろを振り向くと、謎のトランクが二つ、運び込まれていた。
中に何が入っているのかを想像しただけで震え上がり、涙目になってなのはの顔を見つめた。
いつの間にか、部屋の中には沢山の男達がやってきて、次々とヴィヴィオの身体を拘束していく。
手首、頭、両足。最後に腰をカルマーに押さえられ、全く身動きが取れなくなっていた。
「ああ、高町。こっちのドアはカードキー式だったんだが、どうやら昨日から壊れてしまったようでね。すっかり忘れていたよ、ハハハ」
ローションの垂れる指先がスカートをめくり、ショーツの中に潜り込んできて、肥大淫核をぬめる手で握られた。
長い間に調教し尽くされ、いつ何時でも強制発情させられるようになってしまった身体は、
どんなに頭が嫌がっても性感に反応してしまう。
勃起したクリトリスがパンパンに膨らみ、下着の上からでもその影がはっきりと見えた。
ショーツをずらされ、愛液の染み出してきた淫唇を空気に晒されると、カルマーの熱い怒張が宛てがわれた。
「そんな……こ、来ないで……約束が違うよ……!」
それは、反射的に出てきた一言だった。約束とは何だったのか、もう思い出すことなどできない。
多分、今この状況が起きないはずの約束だったはずだ。
しかし、ヴィヴィオが叫ぶと、青年は事もなげに言った。
「約束か、懐かしいね。でも、もう何もかもお終いだよ。バイバイ、可愛いお姫様」
「嘘……い、いや、私の『初めて』……なのに……きゃあああああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!」
茶色のスカートが虚しく揺れ、カーディガンが白く染められる。
勝手に期待したヴィヴィオが悪いんだよ、と冷笑を浮かべると、青年はそのいきり立つ怒張をヴィヴィオの秘唇へと突き立てた。
「がっ……くはっ……あぁっ……」
「ヴィヴィオぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

脳天の中心まで貫く激痛がヴィヴィオを支配した。肺にあった空気が残らず吐き出され、思わず咳き込む。
さっきまで受けていた拷問の痛みが嘘みたいに痛い。死ぬ、死ぬ、死ぬ!!
息を次ぐ暇もなく、ずぷりともう一撃。
「あっ……ああっ……」
「どう、ヴィヴィオちゃん。皆より一足先に大人になれた気分は? いや、むしろ一足遅いのかな」
声にならない悲鳴を上げ、身を捩って逃げようとする。だが、身体はおろか指を動かすのがやっと。
その指も、先の拷問で動かす度に筋肉と骨が限界を訴えた。
「痛いっ……痛いようっ……ママっ、ママぁ……!!」
小さな膣を抉られ、情け容赦のない抽送で突き上げられる。
見上げれば、なのはの顔は涙に濡れ、見たくもない表情へと変わっていた。
「はぐっ、えぐっ、ぐすっ……」
涙が溢れてきた。
痛みに耐えきれない涙と、純潔を散らされた涙。いつ終るか分からない凌辱への、不安と絶望。
薄笑いを浮かべていた男たちも、次々におぞましい狂宴に参加していく。
「ほら、ヴィヴィオ、こっちもしゃぶるんだよ」
一人の男が肉棒を取り出し、ヴィヴィオの頬に擦り付ける。
無抵抗なウサギへと牙を突き立てる男達は、悪鬼そのものだった。
透明な壁を一つ隔てただけで、すぐ隣にいるはずのなのは。
それが今、遠くて遠くて、どこにいるかも分からない程向こう側の存在になっていた。
見えるはずのない空が崩れ落ち、あるはずのない心が踏みにじられた。
「や、やぁっ」
「大人しく、しろ!」
髪を振り乱して抵抗するが、効果は全くなかった。金髪をがしりと掴まされ、肉槍を口の中深くに挿入される。
喉の奥まで臭気が入ってきて、ありとあらゆる場所が犯される。
「んぶぅっ!」
臭い、苦い、息ができない。声なんて出せなくて、ただ音が喉からひゅるひゅると出るだけだった。
口いっぱいに膨らんだどちょうを飲み込むと、髪を引く暴力は収まった……が。
「んんっ……!」
男のペニスが頬の粘膜を擦り、舌に絡めてきてとろりとした液体を垂らしてくる。
嘔吐感さえ覚えるが、どうしようもないほど勃起した肉棒が口内を蹂躙していて、抵抗できない。
息苦しさに噛み切ろうと一瞬考えたが、後々に待っている苦痛に満ちた暴力を想像すると、どうしても実行に踏み切れなかった。
肌も内蔵も筋肉も粘膜も削られる。痛くて熱くて耐えられない。
肉と肉が打ち合わせられる虚しい音を聞きながら、せめてこの生き地獄が早く終らないものかと願った。
しかし、腕が少しだけ自由になったと思いきや、そこに握られるのは今にも破裂しそうな肉棒。
何人いるのかも数えきれない。何周すれば終るのかも分からない。
制服は乱れに乱れ、何のために着ていたのかも分からなくなった。
「そろそろ出すよ、ヴィヴィオ。君の膣中に、赤ちゃんの素を沢山注いであげるからね」
「んっ……んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんーっ!!」
口の中でどろどろの白濁が踊り出す。
生臭くて苦しくて息ができないのに、飲まなければ何が待っているか分からない。
一縷の望みをかけて精液を飲み干すと、激しい挿入で次はカエルが潰れたような悲鳴が漏れた。
死に物狂いで痛む腰を振り、肉棒を引き抜こうとするが、所詮は無駄な足掻きだった。
中だけは……もう、生理だって来てるのに、中に出されたら……
嫌だ、嫌だ、こんな男の赤ちゃんなんて産みたくない。助けて、助けて! 助けて!!
彼は嬉しそうに尻をぺちぺちと叩いてくると、ニタリと湿った笑いを浮かべて言った。
「そっかそっか、そんなに中出しされるのが嬉しいんだ。さっきあんなに叫んでたもんね。
よしよし、一番嫌いな男からの膣内射精を──プレゼントだ」
「い……いやぁっ、赤ちゃんなんていやぁ……あっ、あぁぁっ……あああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!」
「止めてぇっ……ヴィヴィオに酷いことしないでえええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

何もかもが空しかった。なのはの絶叫すら、耳障りなだけだった。
どろどろの液体が胎の中に流し込まれる熱さで、ヴィヴィオは最後の悲鳴を上げた。
喉が枯れて、ゴホゴホ咽る。見たこともない程大量の涙がぼろぼろと床に零れて、今まで入っていた力が抜けた。
「ふふっ、『初めて』のセックス、凄く気持ちよかったよ。この世のものとは思えないくらいだ。
僕は一旦席を外すけど、皆に可愛がってもらうんだよ」
そう言って、彼は肉棒を引き抜くと、部屋を後にした。続いて入ってきたのは、恐らくこの施設にいると思われる人間のほぼ全員。
男も、そして女も、思い思いの格好と道具で、少女に迫ってくる。
「ママ……助けて、ママぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ヴィヴィオ! ごめんなさい、ヴィヴィオ……すぐ助けるから!!」
「あそこには行けませんよ。今しがた、隔壁を下ろしてロックをかけましたから」
意味のある努力なのか、それとも自己満足を得たいだけなのか、なのはは壁を叩き続けている。
ゴンゴンうるさい音と、悲鳴、それから罵声と命令を交互に聞きながら、
ヴィヴィオは数えきれないくらいの精液を飲み、膣内射精を受け、真新しい制服をべとべとに汚された。
無理やり握らされた怒張はその太さも硬さも長さもバラバラで、場にいた全員分を身体で覚えさせられた。
肉体の凌辱、精神の略奪は、終らない軌跡を描いて無限に続く。
口が留守になる度に、あらん限りの力で救いを求めたが、どれだけの時間が経とうとも、なのははやって来なかった。
「えぐっ……ひくっ、もう、やだよぉ……やめ、やめてぇ……」
泣き疲れて気絶しても、次の一人が挿入すると意識が引き戻され、また絶望の中で幼い膣に精液が満たされる。
数えるのも嫌になるくらい、ありとあらゆる理由で中出しされた。
「この前さ、魔術施設管理者試験落ちちまったんだよ、ほら三種の」
「へぇ」
「だから皆で中出しリレー三周な、慰めてくれよ」
「ぎゃはははは! バッカでぇ!」
口々に笑いながら、「上司に怒られたから」中出し、「通販がまだ届かないから」中出し、「今日も一日頑張ったから」中出し……
胃の内容物が逆流しそうな地獄の苦しみと、男達の肉棒が粘膜を削る地獄の苦しみで、ヴィヴィオは何度となく気絶した。
だが、それもすぐに、スカートの裏側では、勃起した肥大クリトリスを扱かれて目覚めさせられる。
痛みのあまり萎え切っていた女根だが、少しずつ勃起して膨張してきていることに、ヴィヴィオは気づいていた。
苦痛と快楽が交互に来るようになって、神経が焼き切れる。
肉棒と化してしまった淫核は服の影でなのはには見えず、それ故に何が起きているのか、分かっていないようだった。
「ひゃぅっ……いじめ、ないでぇ……ひゃぁぁっ……くぅぅっ……!」
少しずつ性感を覚えてしまっていることに、なのは以外の誰もが理解してしまったらしかった。
自分の欲望を満たすことよりも、ヴィヴィオを絶頂させることに皆の意識が集中し始めた。
快楽の毒が脳髄を冒し尽くし、性感帯という性感帯が攻撃される。
次第に甘い声になってきた染み出してくるのを、いつまでも認めない訳にはいかなかった。
嫌だ、止めて、戻れなくなるから、挿れないで、突かないで、出さないで、握らないで、握らせないで、咥えさせないで、扱かないで……
「あぁっ、そこいじっちゃダメぇ……クリトリスやだぁ……」
頃合いと見たのか、尻でも激しい抽送が始まる。
今まで支えていた空が崩れ落ちる。身体が勝手に愉悦の海へと一歩ずつ進み、足元を濡らしていった。
ただ、その道が果たして溺れ死ぬだけの道なのかどうか、ヴィヴィオには分からなかった。
もしかして、どこか別の場所に連れていってくれるのかもしれない。
頭を覆う靄は白からピンクに変わり、さっきまでの脂汗とは打って変わって淫香を帯びた汗を垂らし始めた。
口の端からは、精液と一緒に多量の唾液がダラダラと出てきて、差し出された肉棒を当然のごとく舐め始める。
「んちゅっ、じゅぷっ……くちゅくちゅ、んむぅっ……」
意識が犯される。目も鼻も口も耳も手も足も前も後ろもクリトリスまで。
疼きが脳を熔かしていく。熱さが指先まで届き、堕ちるがままに堕ちていく。
「んんっ、んんん……んーっ!!」
もう、ローションなんて要らなかった。流れ出した子種汁で勃起した肥大淫核を後ろから擦られて、ヴィヴィオは絶頂した。
痛みはとうに麻痺したのか気づけば消えていて、後に残るのは乱れ歪んだ余韻だけだった。
そして、皆の興味がクリトリスへと移り始める。
「じゃあ俺の誕生日五日だから五回クリイキな」
「ゲーム形式ってのはどうだ、先にお前がイったら負け、先にこいつのクリがイったら罰として中出しだ」
「ハハッ、結局どっちも同じじゃねーか!」

勝手に作られたルールで、ヴィヴィオは着実に負けを重ねていた。
敏感になりすぎた淫核は意思に反して敏感に過ぎ、扱かれたら幾ばくも持たずに意識も膣内も白濁に覆われた。
なのはが泣いている中、喘ぎ狂っている時に、カルマーは涼しい顔で戻ってきた。
そして、部屋の中に立ち込めている精臭に少しだけ顔をしかめると、彼はおもむろにトランクの鍵を取り出した。
「そうそう、いいモノを見せてあげるよ。今のヴィヴィオにはご褒美かもしれないけどね」
後ろに置いてあったままの二つを、そのままヴィヴィオの目の前に持ってくる。
中に何が入っているのか、気にも止めていなかったが、彼は鍵を挿し込み、分厚い革の扉を開けた。
そこには、虚ろな目で手足をだらんと伸ばした少女が入っていた。
「孕みます……赤ちゃん作るから……いっぱい作るから……もう、乱暴しないでぇ……」
全身くまなく白に染められていて、まるで精液風呂に浸かってきたのかと思ったくらいだ。
こぽり、と泡を立てて、蜜壺から白濁が溢れ出す。目は真っ昏で、何かを映している様子はなかった。
見て分かるくらい、すっかり前も後ろも開ききっていた。一体何を突っ込まれたらあんなになるんだろう。
豚以下の未来しか待っていないのは明白だった。よかった、あそこまでガバガバじゃなくて。
続いて、もう一つのトランクを開ける。
「許して下さい……許して下さい……許して下さい……許して下さい……許して下さい……許して下さい……許して下さい……」
今度はダルマだった。目隠しをされてはいるが、果たしてそこに目玉が収まっているのかまでは分からない。
しかも、よく見れば、舌こそそのままだが、口から歯が全部抜かれていた。フェラする時に痛くしないためだろう。
それに、歯茎だけというのも、新しい感触でイイのかもしれない。
許してと何度呟いても、失った四肢は戻ってこないのに、なんて無駄な努力をしているのだろう。
まじまじと二人の顔を交互に見ているうちに、ふと、二人に話しかけた。
「リオ……コロナ……?」
トランクの中に詰められていたのは、かつての親友達。
もう、どれくらい会っていなかったのだろう。名前が口を突いて出るまでに、随分と時間がかかった。
思い出したのではなく、つい癖で呟いてしまったような呼び方だった。
「許して下さい……許して下さい……許して下さい……」
「お願いします、中に出して……私……私……」
泣いていたなのははが、一瞬その動きを止めた。見る間に顔が青ざめていく。
カルマーは押し殺した笑いを堪えながら、くるりと二つのトランクを回した。
なのはの呼吸が止まった。喉がひくひくして、目は限界まで見開かれる。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁっ!!」
そのまま、ぱたりと気絶してしまった。一体何しに来たのか、これでは分からない。
くるりと向き直ったカルマーは、呆けた顔で見上げているヴィヴィオへ向かって、こともなげに言った。
「もう忘れちゃったかな? 『ここにいるのは君だけじゃない』って言っただろう、誰のことだと思っていたのかな?
お友達と一緒に処女喪失できてよかったね、ヴィヴィオ。おめでとう」
カルマーの台詞に続いて、男達が次々と下卑た笑いを浮かべ、『おめでとう』を述べた。
それは、まだ幼い少女に送られる、罵倒と祝福だった。
「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」「おめでとう」
……ああ、祝福してくれている。ここまで汚れているのに、喜んでくれている。
ヴィヴィオは、知らぬうちに、絶望の裏側で嬉しさがこみ上げてきたことに気がついた。
男達が楽しんで、この身体に白濁を浴びせ、注いでいくのは、実は幸せなことなのではないだろうか。
カルマーが戻ってきて、ヴィヴィオの前に板状の物を持ってくる。
それは、とてもキラキラしたものだった。左が翠、右が紅。髪は金色、口の端には精液。
「どうだい、自分の顔は。そんなに蕩けて、そこまでクリトリスを弄くられて気持ち善がるなんて、
この僕でも今まで見たことがないなあ?」
自分の顔? そんなもの、見える訳がない。カルマーはからかっているに違いなかった。
それにしても、誰なんだろう。人の真似っ子ばかりして、嫌な娘。
「誰?」
だから、声に出してカルマーに聞いた。すると、彼はとても納得する答えを返してくれた。
今までの万物万象に説明をつけてくれる、素晴らしい答えだった。

「これは『君』じゃない。鏡の向こうにいる、もう一人の君さ。鏡はね、向こう側の世界を映し出すものさ。
つまり……全ては、鏡の中の狂宴なんだよ」
──世界の向こう側で繰り広げられる、愚にも付かない乱痴気騒ぎ──
そういうことなのか、これは。叫んでいる自分は、ただ鏡の中で喚いているだけなのか。
世界のこっち側とあっち側。どこが境目なのか分からなくなる。
戸惑いと、かすかな不安と、大いなる迷いが、こちら側で静かに手を振っていた。
でも、向こう側は、はちきれんばかりの笑顔で手招きをしていた。
フラフラと、オッドアイの少女に歩み寄っていく。右目は燃え盛る紅、左目は透き通る翠。
近づいてみると、その両目はとても綺麗だった。彼女が手を伸ばすと、当然とばかりに身体を突き抜け、心を掴む。
スゥ……と迷いが解けて、少女と共に答えを紡ぎ出す。
犯して。不快にさせて。溺れさせて。光を遮って。時を止めて。許さないで。忘れさせて。
心に触れたい……嘘と欲望と傷と夢と……憎しみの果てに……

救いはない。
全てを悟った。

あぁ……楽園が見える……鏡の奥で、少女が笑いかけている……
湿り気を帯びた声。藪の中に潜む、蜜の吐息。
その闇が、割れて傷ついた心の襞を押し広げるようにして隙間に入り込んでくる。
『モット、キモチイイコトシヨウ? ダレカモワカラナイオトコノヒトトタクサンセックススルノ、アナタハダイスキデショウ?
ジブンニスナオニナロウ? ウソヲツイチャイケナイッテ、オソワッタデショウ?
サア、ココロヲヒライテ、トキハナッテ。アナタハモウニドト、モドレナインダカラ。
ニクタイナンテ、ウツシヨノソクバクデシカナインダヨ? カクリヨノコトワリニミヲユダネテ、ワタシトイッショニナロウ?』
頭の中に流れこんでくるメッセージは、どこか浮世離れていた。
カルマーが隣で喋っている言葉も、抵抗なく頭の中にスッと入ってくる。
「まったく、君も親友に似て薄情な子だね。自分が助かることしか考えていないんだから。
罰として、あの二人にも仲良く孕んでもらおうね」
これから愉しいゲームをする子供みたいだ。ヴィヴィオは疲れ果てた身体を捻って、彼の顔を見た。
彼は、自らの手が汚濁の液体に汚れるのを厭わず、ヴィヴィオの肩に手を置いた。
「今までの自分を捨てるんだよ、ヴィヴィオ。そうすれば、楽になれる。もう、苦しい思いは嫌だろう」
耳元で囁かれる、蜜よりも甘い誘惑。
どちらのドアを開ければいいのだろうか。鏡のドアか、苦しみにまみれた娑婆のドアか。
受け入れれば、楽になれる。何度も同じことを繰り返され、ヴィヴィオはぽつりと答えた。
なのはは泣いているばかりで、声が震えて何を言っているのかさっぱりだった。
「はい……」
今はもう、唇など欲しくない。今望むのは、完璧なお別れ。

──サヨウナラ、ワタシ。ハジメマシテ、ワタシ。

「はは、は……」
ヴィヴィオは歪んだ薄笑いを浮かべて、それをそのまま顔に貼り付けた。
二度と剥がれない表情は虚ろで、感情という感情が精液と一緒に身体の外へと流れ出していった。
外界で起きていることが何であっても、本当に心の底からどうでもよくなった。
今までと、スイッチの落ち方が違う──そう思ったことさえ、一瞬だった。
透明なドアの向こう側で、女性が叫んでいる。今となっては、どうしてそんなことをしているのか、分からなくなった。
汚れきって、穢れきって、今更助けてくれたって仕方がない。
殺して欲しいとすら、思わなかった。
もう、あの場所へは戻れない。あの日に帰ることも出来ない。鈍い痛みも、鋭い痛みも感じない。
根っこが腐り、上の幹までも倒れ、壊れる音が聞こえた。
頭の中をぐるぐる駆け巡る、鏡の向こうにいる少女の声に、耳を澄ます。
『彼女』もまた、祝福の鐘を鳴らしてくれているようだった。ありがとう、教えてくれて。
心の水面で泡のように浮かんでくる、様々な顔。その面影は、同じく泡のように音を立てて消えていく。
目の前で精液まみれになって輪姦されている少女二人が、むしろ幸せに見えた。
穴という穴を塞がれて、精液を注ぎ込まれるのは、女として至上の悦びなのだ。
だから、怯える必要はない。そう、言おうとしたが。

「はは……ははっ、ひゃひゃひゃ……あひゃひゃ……」
舌が紡いだのは壊れた笑い声だけだった。
そのまま、ヴィヴィオはゆっくりと目を閉じた。
それはまるで、産湯に漬かっているかのような、安らぎの中でたゆたっているような……そう、全てを受け入れた眠りだった。
「ダメ、ヴィヴィオ、カルマーの言うことなんて聞いちゃダメ! ほら、ヴィヴィオ! わたしは……ヴィヴィオのためになら死ねるよ!
それだけ、ヴィヴィオを愛してるの! 大好きなの!! だから、ママの言うことを聞いて! お願い、戻ってきて!!」
なのはが最後に叫んだ言葉は、右の耳から左の耳に抜けた。
どこからか奪ったナイフで腕を切り裂いて、血が吹き出しているのも見えたが、誰が誰をなのかは霞みゆく意識では分からない。
ただ、美しいとしか思わなかった。

目が覚めた時、少女はどこか知らないベッドに寝かせられていた。
起き上がって、周りを見る。部屋に窓はなく、ドアには鍵がかかっている。
冷蔵庫があったので開けてみると、少々の食料が入っていたのでそれを食べた。
部屋の中を探検すると、クローゼットの中に様々な服があった。
看護服、メイド服、チャイナ、体操着、水着が数種類、スーツ、どこかの学校や組織と思われる制服が沢山。
買った人間は随分ここまで集めたものだと感心しながら、少女は自分の格好を見た。
ブラジャーは着けていない。胸も膨らんでいないのだから当然だが。
ショーツはレース生地だった。特殊仕様らしく、肥大化された女根が穴を通して前に垂れている。
そして、その上に着ているのが、透けた無色のドレスだ。
おとぎ話の中でお姫様が着ているようなものを、淫らしく透明にしたようなものだ。
「おはよう、ヴィヴィオ。よく眠れたかい?」
鍵が開いて、男が中に入ってきた。部屋の中には元々一人だったから、用事があるとしたら自分だけに違いない。
ぱたぱたと歩み寄ってみると、男はカルマーだった。他には誰も連れてきてはいない。
「実にいい絵が撮れたよ。これからは僕と君の趣味でしか映像は撮らない」
そう言って、彼は頭を撫でてくれた。どうやら褒められたらしく、少女はきゃっきゃと喜ぶ。
この部屋の感想を聞かれて、「とってもいい部屋です」と答えた。でも、二つばかり疑問が残る。
「ここはどこなの? そして──私は誰?」
それを聞いて、カルマーはニッと笑った。何がそんなにおかしいんだろう。
先刻から自分の名前を思い出せなくて、記憶喪失であることは自覚しているのだが。
「ここは風俗。男の人達と沢山セックスするところだよ。そして君はレイナ。この店で一番の稼ぎ頭になる性奴隷の女の子さ」
優しくて柔らかな笑み。彼が信用に足る人物であることを如実に示していた。
私の名前はレイナ、私の名前はレイナ。うん、覚えた。今度こそ忘れないようにしなくちゃ。
「カルマーさん、それで私は……」
「ノンノン、これから僕のことを『カルマー様』と呼ぶんだ。質問はそれからだよ、いいね」
「はぁい!」
カルマー様、カルマー様。ちゃんと覚えよう。そうしないと、またご飯が食べられなくなるかも……
この男に逆らってはダメ。でも、言うことを聞けば、気持ちいいご褒美を沢山くれる。だから、大好き。
セックスだけをし続けて過ごすなんて、素敵。一生懸命頑張ろう。
「カルマー様、私は何をすればいいですか?」
「ちょっとした魔法を受けてもらうよ。何、痛くも痒くもないさ。この店でやっていくためのおまじないだよ」
そう言って、一人の魔法使いを呼び寄せた。身体を包む装飾を見る限り、古代ベルカ式の魔術師らしい。
カルマーは数歩離れて、少女の下へと案内した。
彼が呪文を唱え始めると、足元に小さな魔法陣が展開された。節くれだった指が唇に触れて、小さな光が弾ける。
その後、魔術師はドレスをたくし上げてクリトリスに触れ、同じように呪文を唱えた。
緑がかった蛍光が女芯を包み、またすぐに消える。

「これでいいのか?」
「ああ、構わない。報酬は応接室で渡そう。それじゃレイナ、頑張るんだよ」
結局彼は、どんな呪文をかけていったのかが不明のままになってしまった。
だが、それはすぐに判明した。
最初に来た客がレイナの身体を愛撫して、辛抱たまらんといった様子で唇を求めてきた時のことだった。
魔力による障壁が働いて、彼の唇は寸前で止まった。
男のでっぷりした腹で遮られたのかと最初は思ったくらいだったが、真下を見てもそんなことはなかった。
「なるほど、『上の口にキスはできません』ってのはそういうことか……ま、これだけの上物なら仕方ないな。
フェラくらいはできるんだろう、ほら咥えるんだ」
差し出された肉棒を、躊躇なく舐める。キスが出来なくなる魔法、確かに「おまじない」だ。
触れることも許されない境界線、「キスさえしたことのない幼い少女のフェラチオ」なんてここでしか拝めまい。
射精された精液を言わぬ間に飲み込んで、男には褒められた。
その日は、バックから突かれてクリトリスを扱かれ、男が射精するまでの間に中と外で二回イった。
「うん、君はとてもよかったよ。その乱れっぷりもいい。また来るからね」
「あ、ありがとうございまふぅ……」
もう一つのおまじないが効力を発揮したのは、数日経ってからだった。
女性が来てレイナを押し倒し、騎上位になって勃起した肥大クリトリスを挿入しようとしていた時だった。
「ん、そういうことだったのね。『今しばらく、クリトリスは挿入できません。時期が来るまでお待ち下さい』
なんて……せっかく楽しみにしてたのに。まぁいいわ。ディルドーはあるんでしょう?」
静々と取りに行った仕草が幸いしてか、嫌われずには済んだ。
何度も何度もしつこく最奥を叩かれて、普段男達にそうしているようにクリトリスをフェラされて、
頭が真っ白になるまでイかされ続けた。
次の日から、「クリチンポのレイナ」という二つ名で界隈でも有名になり始め、一目見ようとあちこちから客が来るようになった。
レイナはその誰もに必死に奉仕して、いつしか常連客を形作っていった。

数週間が経過して、ようやくここの暮らしにも慣れてきた。
ここが具体的にどこかも分からないし、窓もないから時間も時計と、客が来たことを示すベル頼みだ。
確かなことは、時空管理局が近いということ。不良じみた連中や、嫁に飽きたと思われる中年が主だった相手だった。
一歩だって外に出してはくれないけど、歩合制だが給料は入るようになった。
しかも、三食チップ付き。
たった一つを残して、給料で何を買ったところで誰にも咎められることもないから、通販で欲しい物を貪るように買った。
お菓子、ジュース、マンガ、酒、タバコ、化粧品、バイブ、ホール。
それから、客の話についていけるように、新聞や雑誌も。やんごとなき身分の者や、
理知的な少女が好きな時は相手に乗り、そうでない時は相槌だけを打つ。
でも、頭には常時霞がかかったままだ。うっすらと記憶力が戻ってきたものの、今日覚えた話は明日には消えてしまう。
だから、自分の知っている話だけを喋らせるように、まずは会話力が向上した。
時空管理局の局員がよく利用するだけあって、その筋の情報も大量に入ってきた。
行為の後、ベッドの中で頭を撫でられたりしている最中に、
「ね、お兄ちゃんはどんなお仕事をしてるの?」なんて聞くと、面白いように喋ってくれる。
彼らとの会話で、よく使うことになる制服が「ザンクトヒルデ」という学校のものだと知った。
最近、その学校で何人かが一度に行方不明になったらしい。レイナと同じように、どこかで働いているのだろうと思った。
機密情報が飯の種だと理解してからは、ありとあらゆる手段を講じてリピーターを掻き集めた。
そうすると、ますます客が集まってカルマーに褒められた。
百万の仮面を使いこなせるようになった頃には、どれが一番自分らしいのかをちょっぴり考えてみた。
客足の途絶える早朝になってから、酒かジュースを飲みながらベッドに寝転んでマンガをだらだら読んでいる自分が、
一番それらしいかなと思ってみたりもした。

寝て起きれば、シーツを取り替え、身支度を整え、部屋を片付けて、客が来るのをじっと待つ。
年中無休の仕事だが、至れり尽くせりだ。ここは、地上の楽園といってもいい。
仕事そのものだって、毎日がセックス漬け。こんなに愉悦の滅びぬ仕事は、他には一つもあるまい。
どんな苛烈なSMでも感じられる身体にしてくれたカルマーには、感謝の念が尽きない。
ぞろぞろと集団でやってきて全ての穴を埋められ、手でも足でも肉棒に奉仕するのが、途方もなく愉しい。
だがそんなある日、いい加減一時休業しなくてはいけなくなってしまった。
それは、買って咎められる唯一のもののせいだった。
休業が開けるとすぐ、レイナはカルマーに頼んでかつての常連客に特別サービスを振舞うことになった。補填は自腹。
そうしてでも、一度に沢山の男達から抱かれ、口と言わず膣中と言わず菊門と言わずどぷどぷ注ぎ込んで欲しかったのだ。
レイナはその日を一日中入退場自由の輪姦パーティーにして、目は虚ろなままに怒張を受け入れ続けていた。
無色透明なレースのドレスを風になびかせ、淫靡に腰を振って踊る。
「ふぁっ……ふみゃぁぁ……」
妙齢の女性にも似た、枯れた喘ぎは、その年の少女にはある訳もない性的魅力を含んでいた。
抗いがたい快楽に脳まで溶かされているのか。届かないはずのどこかへ必死の叫びを漏らしているのか。
どっちでも、大して問題ではなかった。目の前で屹立する肉棒に奉仕することだけが、レイナのやるべきことだった。
全員が二周して満足した頃になって、ようやくレイナも小腹を満たした。
まだまだ元気な一本に手を伸ばすと、彼は苦笑しながら「また明日来るよ」と言ってシャワーを浴びに行ってしまった。
その後、カルマーが来て、貞操帯を嵌めるように言われた。
一週間、仕事は休みになるという。それから、人が来るから丁重にもてなすようにと命令された。
作為を感じたが、特に気に止めることではないと思い直し、言う通りに従った。
同じだけの給料が入ってくるなら、何も気にすることはないのだ。
貞操帯に足を通し、肥大した女根を穴の中へ入れようとしたが、入り口が小さくて中々入っていかない。
レイナはクリトリスを握りしめて上下に扱き、充血して硬く勃起したところで、改めて貞操帯へ秘芯を挿入した。
「ひゃぁっ! な、何これぇ……」
これはもう、貞操帯という名のオナホールだ。
中には魔法界の触手みたいなものがびっしりと入っていて、媚薬の混じったローションが残りの空間を埋めている。
「一週間我慢するんだよ。その時初めて来たお客さんに、そのクリトリスでバックから思い切り突いてあげるんだ」
「ひゃ、ひゃいぃ……」
多分、今までの調子から考えて、この貞操帯で淫核絶頂することは不可能だろう。
かといって、膣中には何も刺激が与えられず、効果ゴムの上から愛撫したところで意味もなさそうだった。
「じゃあ、ヴィヴィオ、期待しているね」
「わ、わかりまひた、カルマーさまぁ……」
早くも蕩け始めて愛液を零す中、ぱちんと鍵が閉められた。
毎日がセックス三昧の中、蜜壺もクリトリスも弄ってもらえないのは、たった一週間とはいえ拷問にも等しかった。
ヴィヴィオはただひたすら耐えながら、貞操帯の外れる日を心待ちにした。

「いいかい、今日来るお客さんは結構なドMだ。最初は戸惑っているかもしれないけど、あまり気にしてはいけないよ。
いよいよこいつの出番だよ、きっちり善がらせてあげるんだ」
「あんっ! もう、カルマー様ったらぁ」
今日は、待ちに待った貞操帯の外される日だ。外す前に、絶対に自分ではイかないこと、客の身体を使いなさいと宣誓させられた。
使いなさい、ということは、これから来る人物はマゾヒストなのだろうか。
ここにはサディストがほとんどだったから、新しい客層を開拓したいというカルマーの意向なのかもしれない。
いつもと違って、どこかのホテルに目隠しで移された。グッズは豊富に揃っているし、理由は知らないがここがお望みなのだろう。
簡単な呪文と共に、蛍光が浮かんで消えた。クリトリスを挿入してはいけない防壁の呪文が破れたのだ。
「例のアレはお帰りの際に渡すよ。それまでは預かっておくから安心してね」
「はぁい」
彼が出ていって幾許かも待たないうちに、息せき切ってドアが開けられ、女性が部屋に飛び込んできた。
聞いたことがなかった声なので、一見さんなんだろう。
「ヴィヴィオっ!」

彼女は肩を掴んできて、うわ言のように何がしか呟いているが、話が繋がっていなくて意味が分からない。
まずレイナは、今しがた入ってきた「女性」を見る。
栗色の髪がバラバラにまとめられていなくて、管理局の制服を着ている。バッヂを見る限り、立場はそこそこ上みたいだ。
上客。しかもドMと来た。クリトリスが疼き、今にも挿入してしまいたい欲望にかられる。
たまに女も来るし、集団でアフターファイブの暇潰しみたいに来る者もいる。いつもと変わらない日常だ。
それにしてもキレイな人だ、とレイナは思った。
そうしようと思えば、どんな人間とでもセックスできそうなのに、わざわざ来るなんて物好きもいるものだ。
とはいえ、小さい子が好きならそれも致し方あるまい。子供相手の娼館なんて、管理局の灯台下以外ではそうそう拝めまい。
だが、今日の来客はちょっと変だった。他の客にはギラつく欲望の視線があるのに、彼女にはそれがない。
今日は何をしに来たのだろう。管理局の人間直々にガサ入れとも考えにくいのだが。
「ヴィヴィオ、わたしだよ? 分からないの!?」
たまに、風変わりな客がいる。部屋に入るところからイメージプレイに走る者だ。
そんなことをされても、こちらとしては対応が分からなくて困ってしまう。
だから、至極落ち着いて、両手にかけられた手を降ろした。
「おねーさん、どうしてそんなに慌ててるの? 私は『あなた』のことが分からないの、ごめんなさい」

女性の顔が固まった。そして、崩れ落ちた。這うようにレイナまで寄ってきて、その頬を撫でる。
彼女は泣いていた。でも、なんで泣いているのか、さっぱり分からなかった。
娼婦一人に感激するほど、ウブな人なのだろうか。
それなら、リピーターになってもらうためにも、精一杯ご奉仕しよう。それとも、責められる方がお好みなのか。
「ヴィヴィオ、ママだよ? なのは。高町なのは。あなたは高町ヴィヴィオ、わたしの娘なんだよ?」
「なのは」が何かを言っている。でも、意味がわからない。
「……なのはさんも、私とえっちなことがしたいんでしょう? そうでないなら、お話は一度カルマーさんに通して下さいね」
客だとしたら、女性客なんて別に珍しくもない。いつものことだ。
"レイナ"はレースの下着をはだけると、扇情的な格好を作って問いかけた。
「なのはさん、今日はどんなプレイをお望みでしょうか? 純愛? レイプ? なのはさんの歳だと、近親相姦とかですかね?」
入り口で見かけただろうが、改めて店名と名前を名乗って簡単な説明を始めた。
店の名前に聞き覚えがあるのか、びくりと首を振っていた。
そのまま目を見開いて固まってしまったが、これも風俗初体験の人間ならありうる反応だ。
通っていた学校、務めていた会社、馴染みの地理。頭の中にある固有名詞が被ると、人は連想せずにはいられないものだから。
「料金はそこのテーブルに表が──って、どうしたんですか?」
構わず説明を続けようとして、レイナは一度言葉を切った。
彼女は笑っていた。何かが壊れた笑いだった。
瞳孔が開ききって、涙が一筋だけ流れる、一番認めたくないことを認めてしまった笑い方。
いつかどこかで、レイナも同じような笑みを浮かべたこともあったような気がする。
でも、そんなことは忘れた。今ある安寧を、二度と手放したくはない。
思い出してしまったら、安らぎの日々が逃げてしまう。ここから一歩だって、歩き出す必要はないのだ。
『うるさい』と、鏡の向こうに入れ替わったもう一人の少女を一蹴する。そういえば、彼女の名前は何というのだろう。
「ねえ、なのはさん。私は、もう全部手遅れなんだぁ。だって、私は、私は……」

タダノ、オニンギョウナノ。
オトコノヒトヤオンナノヒトニナグサミモノニサレル、オニンギョウナノ。
ネ、ワタシハヨゴレチャッタンダヨ。モウ、ナニモカモドウデモイインダ。
ソンナコトヨリオネーサン、ワタシトイッショニタノシモウ?
キット、ウウン、ゼッタイ、ヨロコバセテアゲルカラ。

なのはは心臓発作でも起こしたかのようにぴたりと止まった。
今更怖くなってきたのだろうか。でも、せっかくの上客を逃すつもりはない。
カルマーのお膳立てとなれば、きっと後々いいことがあるはずなのだから。
「なのはさんも、『これ』のことを聞いて来たんでしょ? 他の子にはないから、私のちょっとした自慢なんですよ」

媚薬にどっぷりと浸かって、触手でイかせられないまま一週間も放置されたクリトリスは、
既にビンビンに勃起して刺激を待ち望んでいた。
根元を押さえて、持ち上げる。男だったら我慢汁がダラダラ溢れてくる頃だ。
小さな悲鳴を上げたなのはは、そのまま肩から手を離してうずくまった。何も知らずに来たならば当然の反応か。
でも、これですぐにイきまくることになるのだから、楽しみに待っていて欲しいと思った。
逸る心を押さえて、レイナは最初に聞くべきことを聞いた。
「あ、そうでした。なのはさんのこと、何て呼んだらいいですか? 呼び捨て? 『なのはちゃん』? 『なのは先生』? 『なのは先輩』?
『なのは君』? 後は、役職でお呼びしましょうか。それとも──私はなのはさんの娘っていう設定なんですよね。
じゃあ『なのはママ』かな。それとも単に『ママ』って呼びましょうか?」
「何言ってるの……わたしは、本物のママだよ……ね、ヴィヴィオ、また『なのはママ』って言ってよ……」
これは重症だ。いつか襲おうと思っていた『ヴィヴィオ』なる女の子を事故か病気かで亡くして、
フラフラ歩いていたら、街角に似たような顔を見つけて、思わず入ってしまった。そんなところか。
何にせよ、このままでは拉致が開かない。レイナは一回りも二回りも大きななのはの身体を抱いて、
もつれ込むようにベッドへと倒れた。汗の匂いが、ふわりと漂う。
「『なのはママ』……大好きだよ」
得てしてこういうパターンは、シャワーも浴びずに行為に至ることが多い。
今日は週末だったはずだから、結構長い間楽しめるだろう。むしろそうでないと、勃起して苦しいくらいの淫核が耐えられない。
キスは出来ないから、代りにぷちぷちと制服のボタンを外して、首筋を舐めた。服の上から胸を揉むのも忘れない。
スカートの奥にはまだ手を入れないで、太ももをさわさわと撫でた。すると、頭上から怒気を含んだ哀願の声。
「やっ、止めなさいヴィヴィオ! そんな変なことすると、ママ怒るよ!」
おやおや、レイプ系がお好みだったとは。人は見かけによらないものだ。最初のセリフは失敗だったみたいだ。
驚きは一瞬で心の中にしまい、下にいた身体を反転させて馬乗りになる。
浅く身体を沈めて、背中に手を回す。ブラのホックを外して遠くに投げ捨てると、豊満な二つの膨らみに顔をうずめた。
「そんなこと言って、なのはママもこういうことしたかったんでしょ? ほら、乳首だって勃ってきたよ」
「ヴィヴィオが変なことするからだよ! もう止めて一緒に……ひゃぁっ!?」
こういうのは、黙らせた方が燃えるもの。大きくなってきた乳首を軽く噛んで、胸を思い切り揉みしだく。
ショーツの上から軽く押してみると、予想通り少し濡れていた。
素股で媚薬を塗りこんでやれば、誰でも一発で完全に発情するだろう。
この一週間、絶頂に至れない快感と苦痛で何度も発狂したが、その度にカルマーは鎮静剤を打ってくれて助かった。
でも、目覚めたら目覚めたで迷惑をかけっぱなしだったけど。
レイナはもう待ちきれなくて下着を降ろした。狼が獲物を食らうように迫ってくる男達の気持ちは、今なら分かる。
暴れて脱がせづらいなのはの下着を無理やり押さえつけて脱がせ、部屋の隅にぽんと投げる。
体つきは悪くないのに、妙に運動音痴らしかった。
「ね、なのはママ。私ね、まだ誰ともキスしたことないんだよ。カルマー様がわざわざ私のために取っておいてくれてるの。
でもね、男の人のおちんちんを舐めるのも、女の人のおまんことかクリトリスとかを舐めるのも上手いんだぁ。
なのはママは、いつまで耐えられるかな?」
言うなり、レイナはなのはの秘唇にむしゃぶりついた。小さく悲鳴が上がり、自由な手で顔を覆う。
横目で見れば、脚が突っ張ってびくびく痙攣しているのが分かる。
なのはは目を濁らせながら喘ぎ、ありえない快感に悶えていた。
「おかしいよ、こんなの……ヴィヴィオ、元の優しいヴィヴィオに戻ってよぉ……」
「おかしくなんてないよ。なのはママだって、セックスがどれだけ気持ちいいか知ってるでしょ?」
今まで、数百数千の男根をしゃぶってきた唇と舌と喉。レイナは一心不乱になって剥き出しの真珠を舐め回した。
根元をほじって、先端を弄ぶ。唇で食んで、強く扱く。
ぴちゃぴちゃと大きな音を立てて吸い上げると、なのはは人の頭よりもシーツを掴むことへ夢中になっていた。
さて、とレイナは体勢を変える。心臓に合わせて脈を打つ、自慢の陰核を挿入する時がやってきた。
「さ、行くよなのはママ。カルマー様がずっと取っておいてくれた私のクリトリス童貞、どうぞ貰ってね」

挿れる方に回ったことはないが、今まで何百回とやられているのだから、感覚は手に取るように分かる。
なんだかんだと言って、秘部はしっとりと濡れていた。既に充分だったが、媚薬で軽く擦ってやれば万事良しだろう。
なのはが引きつった笑いと共に懇願するが、それが真意ではないとレイナは確信していた。
「嘘だよね、ヴィヴィオ? 今ならママ、許してあげるから。だから、もう止めなさい。ね?」
その表情がまたそそる。確かになのはにはマゾヒスティックな魅力が備わっているようだ。
ありとあらゆる男や女達に慰み物にされてきたレイナではあったが、この女はそれ以上にか弱い。
今まで、カルマーのようないい相手に出会えなかったのだろう。
レイナは何度も念じた。無理やり犯せ、無理やり犯せ、無理やり犯せ。
その方が、この女だって気持ちいいに決まっている。カルマーの言うことに間違いはない。
──ドMなんだから、何をしたって大丈夫。多分ね。
即効性の強い媚薬をぐちゃぐちゃと塗りたくって、潤滑油にする。
もういいかなと思った時には、とっくに淫核は限界を突破していた。カルマーの言葉が蘇る。
『絶対に自分ではイかないこと、客の身体を使いなさい』
脳裏にいる彼が喋った頃にはもう、レイナの肉棒はなのはの膣中を犯し、貫いていた。
「んぎあぁぁぁぁぁっ……いやぁぁぁぁぁぁぁっ……!!」
悲鳴。何事が起きたのかと足元を見てみると、ぽたぽたとシーツに血が垂れていた。
何度目かでも、痛いものは痛いし出る血は出てくると聞いたことがあるが、それにしてもおかしい。
しばらくうんうん考えて、ようやく合点がいった。
「なのはママ、処女だったの? ごちそうさまです。ヴィヴィオ──私、養子だったんだね」
「はぐっ……ひぅっ……くふっ……!」
大人になってから時季を逃すと、処女であることが恥ずかしくなって、そのまま重荷になって完全に婚期を逃すことがあるという。
多分、なのはもそんな一人なんだろうなと思った。でも、まだ若く見えるのに、もったいない。
レイナは何も言わずに肉棒を引き抜き、貞操帯のホールに残っていた媚薬で肥大クリトリスをコーティングし直した。
これなら、挿せば一発で飛ぶだろう。もう一度、今度は心持ちゆっくりと挿入する。
抽送を繰り返す中で、なのはの膣中は血と愛液に濡れてきた。
これが快感によるものなのか、身体の反射によるものなのか、判断はしかねた。
だから、なるべく沢山感じてくれるように、レイナはなのはの秘部に手を伸ばした。
湿りを使って手にたっぷりと粘液をまぶすと、指先で優しくクリトリスの包皮を剥いた。
「ひゃぅんっ!」
「あ、やっぱりなのはさんもお豆が好きですか。気持ちいいですよねえ、だって、女の人にしかないところだから。
快楽だけを求めて何も忘れられる、たった一つの場所だから。特権だから」
「あっ……ひゃぁっ……くうぅっ……」
これが名器というものなのか、締めつけが半端ない。中の襞もうねっていて、奥まで挿すと急激に狭くなる。
硬く大きくなったレイナの淫核には、まさにぴったりのサイズだった。
なのはのクリトリスを弄りながら胸を揉み、出し入れを繰り返していると、心の中でざわつくものがあった。
「ん……」
胸の底で、何かが騒ぐ。失った記憶が暴れている。だけど、そんな危ない物、今更取り出す気にはならなかった。
忘れていたということは、忘れておいた方がいいということだ。
愛していたものを汚し穢す影が見え隠れして、レイナは心の瞼をそっと閉じた。
しかし、それでも心は何かをこじ開けてきて、赤子のように啜り泣く声を聞かせた。
ガラスのように透き通った、無限に続く永遠の合わせ鏡がレイナの前に立つ。
だが、鏡の中で取り替えっこしたものを、今更差し出すことはなかった。
『消えて。もう、あなたなんか要らないから』
鏡を蹴り破る。それで、無限の合わせ鏡は真後ろの一枚だけになった。
それも鋭く爪先で叩くと、今度こそ邪魔者はいなくなった。
我に変えると、なのはが媚薬のせいなのかレイナの性戯が功を奏したのか、性感を覚え始めていたようだった。
そうなれば、一気にラストスパートだ。
正常位でなのはの小粒なクリトリスを弄りながら、ますます肉棒で膣壁を抉るスピードを上げていく。
「ヴィヴィオっ……もうっ、やめてぇ……」
「ヤです。ほら、もうすぐイくんでしょ? 私の前でそのはしたない顔、いっぱい見せて下さい」

きゅんきゅん締まってくる。もうそろそろ限界だ。
レイナはストロークを長くして、なるべく自分自身を焦らした。が、それもすぐに耐え難い快感になって襲ってくる。
どうあっても、挿入している限り絶頂は避けられそうになかった。
「止めてヴィヴィオっ……わたし、おかしくなる……変になる……いやああああああああぁぁぁぁ……」
なのはもそろそろイきそうだ。破瓜の血よりも愛液で濡れぼそったその秘部へ、レイナは思いきり肉棒を挿した。
淫核が最奥に当たった瞬間、なのはは小さくも確実に絶頂した。
それで肉棒が締めつけられ、レイナのクリトリスも限界を遥かに突破した。
「イくよっ、なのはママっ! ひゃうっ、みゅぅ、みゃああああああああぁぁぁぁぁっ!!」
瞬間、脳天を駆け巡る衝撃が襲ってきた。今までどんな手段を使っても得ることの出来なかった快感が、バチバチと火花を散らす。
クスリに手を出すなんてとんでもない。これだけで充分すぎる、使ったら最後心臓が止まってしまう。
レイナは、泣きながら絶頂するなのはの脚を押さえ、いつまでも淫核絶頂の余韻に浸っていた。

結局、閉店時間ギリギリまでレイナはなのはの膣中を楽しみ続けた。
ようやくクリトリスが萎える頃、なのはは激しいセックスで体力を使い果たしたのか、ぐったりと倒れていた。
動き出しそうにもなかったので、カルマーに連絡する。
すると、「好きにさせておきなさい。その間、お前は両方の世話でもしているといい」という答えが返ってきたので、そうすることにした。
次の開店時間を知らせるベルが鳴ったが、レイナはそのまま放置していた。
客に吸わせられるうち、すっかり癖になってしまったタバコに手を伸ばす。
このところ、為替の影響で安くなっている。あまりバカにできない金額の出費だから、ありがたいことだった。
丸一日経ってから起き上がったなのはは、端末を弄り出して連絡を取っていた。
その相手は、もちろん知らない人。漏れ出てくる会話を聞きながら、ぷかぷかと紫煙で輪っかを作る。
「あ、フェイトちゃん? 大事な話があるの」
『なのは? ちょうどよかった、私も大事な話があるんだ。今、どこにいる? 私、そっちに向かうよ』
「場所は言えないけど、ヴィヴィオのところ」
『えっ……』
「呼び出したの。でも、駄目だった……わたし、この仕事辞めようと思うんだ。実家に帰って、一休みして、それから翠屋を継ぐの。
ごめんね、急な話で。わたし、もう管理局にはいられないから」
『……奇遇だね、なのは。私も、たった今辞表を出してきたところだよ。理由は、多分、なのはと同じ。
これからのことは考えていないけど、あちこちを旅しようと思うんだ。落ち着いたら、連絡するよ』
「うん。フェイトちゃんも、アレ見たの?」
『やっぱりなのはもか……ごめん、私、しばらくは仕事なんてできそうにないんだ。今は、誰とも会いたくない……』
何を見たかは大体想像がつく。ここで暮らすようになる前の映像が収められた調教記録だ。
カルマーに言っても見せてくれはしなかったが、どの道大した興味はなかった。
今よりも未熟で、快楽を知らなくて、技術もたどたどしかった頃の話。
視聴者にはよくても、本人にとっては見ても小っ恥ずかしいだけなのだから。
「奇遇だね、フェイトちゃん。わたしも同じだよ。フェイトちゃんに会っちゃったら、その時は……一緒に飛び降りちゃうかも」
『やっ、止めてよそんな冗談! いくら私でも怒るからね!』
「ははは、今はまだ大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
『気にしないで、私もカリカリしてたみたい。ところでなのは、ユーノのことはどうするの? 好きだったんじゃないの?』
「ユーノ君、かぁ。もうダメ。わたし、ユーノ君を迎え入れてあげられない。わたしの身体、汚れちゃったから……」
『なのは、ヴィヴィオと何があったの?』
「ううん。こればっかりは、フェイトちゃんにも言えないよ……ひうっ」
『私達、一体どこで間違えたのかな』
「分からない、分からないよ……」
通話が終った頃合いを見計らってか、カルマーがやって来て、布に包まれた温かいものを受け取った。
まったく手筈通り、しかも完璧なタイミング。どこかにカメラがあるとはいえ、彼には感服するばかりだった。
いつ手にしても、妙にこそばゆいような感覚がレイナを安らがせてくれる。
「お見せするだけでいいんですか?」
「ああ。おっとレイナ、そろそろ夕食の時間だからね」
「はいっ」
何のための演出なのかは分からないが、とにもかくにもカルマーの言うことに従った。
部屋の中に戻ると、なのはが肩を震わせながら布を指差していた。
彼女は白い表情で固まっていた。別に爆弾や細菌でもあるまいし、騒ぐことではないのに。
「な……何……いや、誰なの……その子……?」

腕に抱いているのは、一人の乳飲み子。無邪気な顔で両手を空で振り、乳を欲しがっていた。
レイナはニッコリ笑って、金髪碧眼の女の子を抱きかかえ、なのはにしかと見せた。
カルマーが唯一購入を許可しなかった物品は、避妊具類だけだった。
「この子ですか?  マルガレータっていいます。私の娘です。私に似て、きっと素敵な性奴隷になりますよ」
奴隷という言葉に、マイナスの意味は特に持ち合わせていなかった。
むしろ、安全な環境下で淫蕩三昧の生活を送れるのだから、多分世界で一番幸せな人種だろう。
ようやく膨らみの気配を見せ始めた乳房に、彼女の口をそっと近づける。
母親のおっぱいを美味しそうに飲み始めたレイナの姿を見て、なのはは顔を真っ青にした。
授乳しているだけなのに変な人だと、レイナは不思議に思った。
なのはは泣き続けて、そのままの顔で部屋を飛び出していった。
特にオプションもつけられなかったから、払うものもなし、レイナはそのまま見送った。
丁寧なお辞儀と、笑顔と、期待の言葉も忘れない。
「ありがとうございました。次いらした時もよろしくお願いしますね!」

その後、ヴィヴィオとなのはの情事が媒体に記録されて時空世界の裏側を駆け巡った。
いつ録画されたものかは分からないが、隠し撮りにしても結構上手く出来ている。
タイトルは『実録! 戦技教導官の処女喪失レイプ 〜クリチ○ポの娘と近親相姦〜』。
出来上がったパッケージの裏を見てみると、真実に相当近い、裏を返せば相当ショッキングな文章が書き連ねてあった。
『クリ○リスをチ○ポ並に肥大化された娘が、調教の果てに自我を失った。
まだ幼い少女ながら性欲を抑えきれず、我慢できなくなって養母に襲いかかる!
相手は現役の戦技教導官N.T! 娘にレイプされる母親が次第に感じてきて善がり狂う、奇跡の一作!』
ただ一つ違うのは、結局『ヴィヴィオ』がなのはの娘なのであって、レイナではないということ。
タイトルからキャプションから作りから何だか安っぽいが、それが却って話が拡散しすぎるのを防いでいるのだろう。
しかも、その筋の人間にはなのはが誰か分かるらしい。本物らしいという風評があっちこっちで聞こえてきた。
カルマーには「ついでに宣伝しなさい」という命令が下っていたから、客という客にデビュー作もろとも宣伝した。
枕元で「お兄ちゃん……買ってくれると嬉しいな?」とか「パパ、買ってぇ」とか言えば、一本では飽きたらず何本も買ってくれた。
よくまあゴシップ誌にスッパ抜かれなかったものだと感心が絶えない。
販売元が情報統制もできるのだから、当たり前と言えば当たり前か。

そして、なのはは販売開始直後から行方不明になった。岬の崖っぷちに彼女のデバイスが置いてあっただけらしい。
それには永久凍結処理がなされていたから、自殺だという結論に至ってその話は終った。
このことをカルマーに報告すると、勢い勇んで部屋を後にし、その数日後、再び管理局に復帰することになった。
役職は、教導官のための教導官だった。詳しい名称は知らない。
一方、旅に出ていたフェイトとかいう女は地元の精神病院で空ばかり見ているという。
レイナの映像を見て発狂したのか、それとも二人がまぐわっている映像を見て発狂したのか、そこまでは定かではない。
いずれも、遊びに来た客からの情報だ。
特になのはは常連になりそうな客だっただけに、恐らくもう二度と来なくなってしまったのは悲しい限り。
フェイトに至っては、どうせ会ったこともない人間だったし、関係のない話だった。
「処女のまま死んじゃったんだったら、ちょっぴり悲しいね。おちんちんって、こんなに美味しくて気持ちいいのに」
ニコッと、営業ではない、心からの笑みを浮かべて愛おしそうに肉棒を舐める。
何もかも忘れさせてくれる、世界でたった一つの魔法。命さえ生み出すことのできる、素晴らくて素敵な魔法。
幼い少女の母乳プレイとあっては、その筋のマニアが沢山来てくれて、大いに繁盛した。
未だ誰にもキスを許していない唇をそっと亀頭に寄せ、キスをする。
二人目の子供は男女どっちがいいかな、とぼんやり考えながら過ごす日々が続いた。
また別の日には、「元」機動六課とかいう組織がこの娼館を潰そうと立ち上がったらしい。実に余計なお世話だ。
こんな安息の地を奪おうなんて許せないと、早速馴染みの上級幹部に伝えて失職、投獄させた。
スピード判決で、内乱の咎で全員終身刑だった。死刑のないこの地が、少々恨めしかった。
憂さが晴れた少女は、大いに仕事に励んだ。

そして今日も、営業時間を告げる鐘の音が鳴り響くと、少女は選択されたランジェリーを身に包む。
今日も訪れた常連客に向けて、無色の透き通ったドレスをひらめかせ、淫靡慇懃に頭を下げた。
「いらっしゃいませ、ソープ『ミドリヤ』にようこそ」
幼い少年少女が相手をする、時空管理局公認の非合法高級風俗店。
その店名と同じ場所がどこにあったのか、そしてそれは誰の居場所だったのか、
レイナ──ヴィヴィオとも呼ばれた少女──は二度と思い出さない。

──空に浮かぶ雲から、私の魂を呼ぶ声が聞こえる。
だから、あなたは私に、耳に聞こえるもの、全てをくれるの?
だけどもう、星も月も何もかもを、私は見ることも、気にかけることさえないでしょう──


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目次:鏡の中の狂宴
著者:Foolish Form ◆UEcU7qAhfM?

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