63 名前:婚儀[sage] 投稿日:2008/07/30(水) 20:20:07 ID:3ggDUKWo
65 名前:婚儀[sage] 投稿日:2008/07/30(水) 20:21:15 ID:3ggDUKWo
66 名前:婚儀[sage] 投稿日:2008/07/30(水) 20:22:05 ID:3ggDUKWo
67 名前:婚儀[sage] 投稿日:2008/07/30(水) 20:23:05 ID:3ggDUKWo
68 名前:婚儀[sage] 投稿日:2008/07/30(水) 20:24:20 ID:3ggDUKWo
69 名前:婚儀[sage] 投稿日:2008/07/30(水) 20:25:27 ID:3ggDUKWo
70 名前:婚儀[sage] 投稿日:2008/07/30(水) 20:26:22 ID:3ggDUKWo
71 名前:婚儀[sage] 投稿日:2008/07/30(水) 20:27:23 ID:3ggDUKWo
72 名前:婚儀[sage] 投稿日:2008/07/30(水) 20:29:24 ID:3ggDUKWo
73 名前:婚儀[sage] 投稿日:2008/07/30(水) 20:30:03 ID:3ggDUKWo
74 名前:婚儀[sage] 投稿日:2008/07/30(水) 20:31:20 ID:3ggDUKWo

 聖堂の中には、粛然とした空気が流れていた。
 かといって、重苦しいものではない。皆がかしこまり、しわぶき一つ立てないようにしながらも、祭壇
の手前に立った年若い二人の男女を優しく暖かい眼差しで見つめている。
 祭壇に立つカリムも、厳しさより優しさを込めた声で祝詞を口にする。

「新郎ラギン・カトーシャよ。あなたは妻にしたる女性、クララ・アムロートへの愛を誓いますか?」
「はい。誓います」

 がっしりとした長身の男性は、いかつい顔を緊張のせいで強張らせつつもしっかりと頷いた。

「新婦クララ・アムロートよ。あなたは夫にしたる男性、ラギン・カトーシャへの愛を誓い、同時に己が
姓をカトーシャへと変えたることを認めますか?」
「はい。愛を誓い、認めます」

 純白のドレスを身につけた女性も、頬を染めつつ頷く。

「よろしい。ならばここに、全知全能たる聖王の代行として認めましょう。たった今、二人の男女は伴侶
となり、久遠に渡って共に歩み続ける存在になったと」

 祭壇に乗せてあった指輪を、カリムは二人に差し出した。
 まず男性が白い宝石の輝く指輪を女性にはめて、女性は全く同じ意匠の指輪を男性にはめる。

「一生幸せにするよ、クララ」
「はい、あなた」

 愛の言葉を囁いて、男女が誓いの口づけを交わす。
 次の瞬間、聖堂が壊れんばかりの拍手が起きた。参加者全員が立ち上がって拍手を送り、最前列にいる
新婦の両親に至っては手を叩きながら顔をくしゃくしゃにして感涙にむせいでいた。
 新郎が新婦を横抱きに持ち上げ、歩き出す。
 夫になる男が妻を支えられるだけの力を持っているという証明のため、教会の出口までこうして運ぶの
が聖王教式結婚式の特徴の一つである。男性の体力低下という世情の従った形式変化により、昨今は並ん
で歩くだけでも良しとしているが、この新婦は立派な体格どおり女性一人の重みを苦にすることなく軽々
と持ち上げていた。
 止むことのない拍手の雨の中、幸せさを隠そうともせず顔に表して微笑んでいる二人に、カリムも笑み
と拍手をもって見送った。




「ありがとうございました」

 結婚式が終わり、新郎新婦が友人や職場の同僚達から取り囲まれ祝福を受けている中、新郎の両親が輪
から抜け出てカリムに挨拶をしに来た。

「わざわざカリム様に司祭役を務めてもらうなど恐れ多いことをしてもらい、本当にありがとうございま
した」
「息子達にとっては生涯最高の喜びとなるでしょう」

 大げさな礼の言葉を繰り返す夫婦は、カリムがもういいと止めるまで何度も何度も頭を下げてきた。

「それで、司祭様のお体はどうだったのでしょうか?」
「病院からの連絡だと、大事には至らなかったので数日安静にすれば治ると言っていました」

 元々この結婚式は別の司祭が行うはずのものだったが、今朝の準備中にその司祭が転んで腰を強打し立
ち上がれなくなった。運悪くその他の司祭が出払っており、代役を探して修道士が駆けずり回ってるのが
たまたまカリムの眼に止まり、事情を知ることにとなった。
 教会の責任者としての仕事はそれなりにあって正直なところ時間を空費するわけにはいかなかったのだ
が、結婚式をやり直すとなれば列席者の日程調整などで明日明後日というわけにはいかない。新郎新婦に
とって一生に一度であろう晴れの舞台がかなり延期というのは忍びなく、カリムは引き受けることにした
のだ。
 周囲も似たような思いだったのか、堅物のシャッハですら仕事を優先すべきだとは言わず、むしろ控え
めながらも結婚式を行ってもらえないかと進言してきたぐらいだ。

「実はあの司祭様には私達の結婚式もしてもらっておりまして」
「そうだったのですか」
「息子も同じ司祭様に式を挙げてもらえればと思って指名させてもらったのですが、まさか準備中にあの
ようなことになるなんて。申し訳ありませんでしたとお伝えください」
「ですからそんなお気になさらずに」

 しばし夫婦と雑談していたカリムだが、ふと後頭部に視線を感じて振り向いた。
 人の顔が見分けられるぐらいの距離にある回廊。そこに立った黒髪で管理局提督の制服を着た男性が、
じっとこちらを見ていた。カリムも見ていることに気づくと、軽く会釈してくる。

「お知り合いの方ですか?」

 カリムの視線を辿って、二人も男性の存在に気づく。

「ええ、大切な……友人です」

 彼と自分の関係を表現する時、一瞬言葉が詰まった。
 老夫婦に気づいた様子はなかったが、なんとなくやましさを覚えてカリムは顔を横に向ける。
 その先では、まだ誕生したばかりの夫婦が幸せに笑い合っていた。
 ほんの少し胸がきしりと痛み、カリムはさらに天空へと視線を逸らす。
 どこまでも澄み切った、結婚日和の空だった。



           婚儀



 深夜の聖王教会は静寂に満ちる。神に仕える敬虔な信者達は普段から無駄な喧騒を好まず、ましてや日
が落ちた後ともなれば自室で同僚と歓談する時ですら声をひそめて外に漏れないよう配慮する。
 だからカリムは手にした懐中電灯が照らす通路よりも、廊下に響く自分の靴音ばかりに気がいっていた。
一つの音しかしない状況というものは、嫌でも聴覚を数倍に高める。
 その音が、急に二重になった。
 音が聞こえてくるのは、前方の廊下を右に曲がった先。カリムが足を止めると、一テンポ遅れてもう一
つの足音も止まった。

「誰ですか?」
「僕ですけれど……騎士カリム、ですか?」

 疑問に対して疑問が返ってきた。続いてすぐに現れたのは、クロノだった。制服の上着を脱いでワイシャ
ツにズボン姿。風呂はまだ入ってないらしい。
 数ヶ月に一度、クロノは仕事で聖王教会を訪れるとそのまま泊まっていくことがあり、今日はその日だっ
た。

「僕は手洗いに行っていたのですが、そちらはこんな時間にどこへ?」
「夜回りです。本来は修道士の役目なのですが、時々私がやるのです」
「騎士カリム一人というのは、危なくないですか?」
「危ないですね」

 さらりとカリムは答える。

「攻撃魔法は使えますが、私は実戦なんてしたことありませんから。もし本当に不審者がいれば、あっと
いう間に人質になって足を引っ張るだけでしょう。まあ、今晩はそんな無様なことになりはしないでしょ
うが」
「どうしてそう分かるんです?」
「優秀なSランク魔導師の方が、同行してくれるからです」
「…………一緒に見回ってほしいと」
「はい」

 笑って頷くカリムに、クロノは少々渋い顔をした。

「お嫌でしたら無理にとは言いませんが、ご一緒していただけるなら終わった後に秘蔵の寝酒を出します
が」
「……アルコールはあまり嗜まないんですが」

 気乗り薄なことを言いつつも、カリムが歩き出すと肩をすくめてクロノも同じ方角へとついてきた。




「さっきの続きなのですが」

 カリムの一歩後ろを歩きながら、クロノが訪ねてくる。

「どうして無意味と分かっている見回りを、騎士カリムは続けるのですか?」
「気分転換です。一日中書類仕事ばかりしていることが多いので、軽く身体を動かせる仕事も時々やるこ
とにしているんですよ。提督もそういうことをしたりしませんか?」
「そうですね、僕も軽く戦闘訓練をしたりすることはあります」
「シャッハが色々言うので、あまり大掛かりな肉体労働はさせてもらえませんが。あとは、早朝の掃き掃
除や花壇の水やりぐらいでしょうか」

 この見回りにしたところで、夜間になれば教会の外回りには何重もの警報装置や結界が張られており、
不審者が入れば即座に警備担当の騎士へ連絡が入ることになっているし、内部も夕方に一度数人の修道士
が見回っているので、不審者がいる確立は天文学的に低い。
 深夜の見回りは不審者よりも、盗み食いやこっそり酒盛りをしているいたずら者を発見するのが主目的
と言ってもいい。
 小声で他愛ないことをしゃべっているうちに回廊の終点、最後の見回り場所である聖堂へと至る。
 大きさのせいでひどく重いようでいて実はそうでもない扉は、カリム一人の手でも容易く開く。油の指
しが足りていなかったらしく、ぎぃっと古びた音が響くのだけはどうにもならなかったが。
 聖堂の中は、暗闇が籠っている。昼間は快晴だったが夕方から雲が出てきており、星月は見えない。ス
テンドグラスから光は入ってこず、懐中電灯が無かったら椅子にけつまずいてもおかしくはない。
 いつもなら入り口から覗いて懐中電灯をぐるりと回すだけで終わりなのだが、今夜のカリムはちゃんと
中に入って椅子の間を一つ一つ照らしていく。
 理由は、不真面目な部分をクロノに見せたくないということが一つ。そして、夜の教会を二人っきりで
歩くという、恐らく今後二度と無い体験の時間を、ちょっとでも長く引き伸ばしたいという想い。

(どうせこの後は、部屋で二人一緒に色々やるのにね)

 酒に弱いというならワインぐらいにしてウィスキーは出さない方がいいかもしれない。酔いつぶれられ
でもしたら貴重な一夜がふいになると思案しているうち、祭壇へとたどり着く。

「昼間結婚式が行われていましたね。参加されていたようですが、知り合いの方だったのですか?」
「いえ、少々訳有りで司祭の代役を」

 祭壇に背中を預けて、カリムは軽く理由を説明する。クロノも礼拝席へ座ろうとはせず、三歩離れた位
置で立ったまま耳を傾けていた。

「こういう儀式を取り仕切ったのは久しぶりでした。最後にしたのはもう十年以上前でしょうか」

 昔を思い出し、カリムはくすりと笑った。

「何か面白い思い出でも?」
「いえ、十五歳の子供に結婚式を仕切られたカップルはずいぶんと複雑な心境だったのだろうなと思って」

 当時の自分は祝詞や手順をとにかく間違えないようにと必死で気づかなかったが、新郎新婦はいったい
どんな顔をしていたのだろう。色々と想像してみて、カリムはクロノを置いてきぼりにしてしばし微笑し
続けた。
 だがそんな笑みも、やがて一つのことに気づいて一気に強張る。

(…………私が結婚式を迎える日なんて、一生来ないのね)

 子供の頃から、この場所で何組もの夫婦が誕生していくのを目にしてきた。
 彼や彼女は数に大小はあれども親戚や友人から惜しみない祝福を受け、幸福な旅路の第一歩を踏み出し
ていく。
 それらを眼にし続けてきたカリムは当然のように、自分もいつか愛する人を見つけ、ああやって結婚す
るのだと信じて疑わなかった。
 なのに今ここにある現実の自分は、妻子ある男との禁断の愛に身を焦がしている。
 世間はもちろんロッサやシャッハですら、こんな関係は認めてくれないだろう。結婚など夢のまた夢だ。
 もしそうなる可能性があるとすれば、エイミィが病死か事故死してカリムが後妻に納まることぐらいだ
ろうが、世の中そうそううまくはいかないと分かっている。

(そんな都合のいい幸運、神が与えてくれるわけもないから)

 祭壇の背後に飾られた神像を、カリムは懐中電灯で照らして見上げる。
 いくら万能の神を模し精巧に作られようと、所詮は木製。瞳の入ってない眼は無機質で、感情など有り
はしない。
 なのにその眼が、カリムを責めているように思えた。
 眼だけでなく、今にもその口が開いて断罪の言葉が吐き出されそうな気がして、カリムは背後に向き直っ
た。
 正面には扉が、すぐ近くにはクロノがいる。なのに、暗闇のせいで薄ぼんやりとした影しか眼に捉えら
れない。気配もよく分からない。

「どうしたんですか?」

 いきなり黙り込んだカリムを不審に思ったのか、クロノが近づいてくる。もう手さえ届きそうな距離。
なのに、顔だけ見えない。
 焦燥感に駆られたカリムは、クロノの手を掴むとありったけの力で引き寄せた。
 不意を討たれたクロノの身体はあっけなくカリムの胸へと倒れこんだ。床に落ちた懐中電灯が、からん
と乾いた音を立てる。
 密着した身体からは、一日を過ごした男の匂いがした。

「…………騎士カリム?」
「クロノ提督、あなたは」

 あの人々と同じぐらい、私を愛してくれているのですか。
 唇だけ動かし音にならない言葉を形作ってから、カリムは自分から顔を近づけた。
 かちりと、歯がぶつかって小さく鳴る。戸惑いが伝わってくるが、カリムを押し離そうとはせずクロノ
はじっとしていた。
 口づけで頭に上った血が、邪な思考に染まったまま全身へと下りていく。
 純白の花嫁よりも、男を淫欲の道へ手を引く女の方が、自分にはふさわしい。その証拠に、自分が身に
着けている法衣は襟回り以外は、夜のように真っ黒だ。
 唇を離してからもしばしクロノの唇に舌を這わせてから、カリムは唇の端を吊り上げ意地悪げかつ淫卑
な笑みを作る。

「そろそろお代を払うべきだと思います」
「……何の?」
「こうして教会に泊まっていく分です。宿泊費と食事代。普通のホテルだと考えたらけっこうな額になる
んですよ? 対して、提督がしてくれたのは食事が二回に旅行が一回。少し不公平では?」
「そう言われればそうですが……あいにく今手持ちが無くて」
「現金よりも、私とあなたの仲なのですから身体で払ってもらった方が、お互い良いでしょう?」
「…………」

 沈黙から、クロノがかなり混乱していることが知れた。さっきまで普通の会話をしていた相手が、いき
なり淫婦の顔を見せ性交を迫ってきたらそうなるだろう。ましてやここは、聖なる祈りを神に捧げる場所。
このような会話をしているだけでも天罰が下りかねない。

「だ、誰かに見つかったら……」
「こんな時間に礼拝をする人なんかいません。夜回りも私以外はいませんし」

 返答しながら、カリムは徐々にしゃがんでいく。

「部屋に戻ってからでは」
「今、ここでしてもらいたいのです」

 恋人から伴侶へと関係が変わる場所で、自分とクロノの結びつきの大半を占める肉体関係を結ぶ。想像
しただけで、不道徳さにぞくりとした。
 指がジッパーを拾い、チチチと下げていく。
 クロノが本気で嫌がれば身体能力の差からカリムが止められるわけもなかったが、むしろ逆にクロノの
身体は動きを止めていく。

「……すいません」
「何を謝られるんですか?」
「あなたと僕の間で結婚の話など、無神経すぎました」

 そこに気づいたなら、わざわざ蒸し返さないでほしかった。

「……気にしていません。そういうことは、考えないようにしていますから」

 今日のようなことがなければ、だが。
 カリムは心無し手を早めて、クロノの性器をズボンから出した。
 待機状態でもそれなりの大きさだが、だらりと頼りなく垂れ下がっている。口に入れてしゃぶっても、
なかなかに大きくなりはしない。
 カリムと違って、クロノはこの場で行う性交に抵抗がある。そっちの方が常識的というものだが。
 それでも、舌で執拗なまでに舐め回し指で陰嚢を転がすうち、段々芯が入り始めた。兆候が出てきたと
ころで、カリムは膨らみに切り歯を軽く引っ掛けて攻めを先端だけに絞りこむ。

「ちゅ……る……。うふ……」

 ふと思いついて、カリムは肉棒を口から出すと手で包み込んだ。その上から、もう片方の手をかぶせる。
 出来た体勢は、本来なら神に拝むはずのもの。なのに敬うべき神に背を向けて、自分は醜悪な肉の塊に
手を合わせている。
 神を罵るどころではない罪悪に、カリムは恐れるどころか確実に身体を興奮させていった。
 クロノと関係を持つ毎に、カリムの信仰心は薄らいでいる。信徒達を束ねる役目にあるはずの女が男と
密通していても、天罰が下る気配は一向に無い。そんな非力なのかいい加減なのか分からない神を信じ続
けろというのが無理だった。
 だからもう神の教えを説く法話など、自分は生涯出来ないだろう。嘘くささで唇が火傷しかねない。
 組んだまま、カリムは手を前後する。ねちゃねちゃと、唾液の捏ねられる音がした。

「また大きくなりましたよ。興奮しています?」
「さあ……。どうも自分では、分かりません……から」
「だったら教えてあげます。私の手に入りきらないぐらい大きくなっていますよ。時々、びくびく震えて
いて、とても元気です」

 軽く言葉で攻めつつ、指の間から伸びている先端にもう一度口をつけた。口内に含める範囲はさっきま
でよりずっと少なくなったので、頭を強めに揺らしながら唇でしごく。
 手は指同士で擦り合わせるようにして、揉むとも擦るともつかない動き。傍からは激しく見えるだろう
が、どちらかといえば拙い。軽い生殺し状態。

「じゅる……んあ……」

 さらに欲情させようと、わざとらしい音を立てる。唇の端に泡が浮くのが、自分で分かった。

「くぁは……!」

 クロノは苦しそうに、それでもリクエストを口にすることはなく掠れ声を上げてただ耐えている。
 どこまで我慢するかとカリムはあの手この手で攻めてみたが、どれだけやってもクロノから言葉を引き
出せることは出来なかった。
 結局、先に我慢できなくなったのはカリムだった。苦味の薄い先走りだけでなく、もっと熱くて濃い液
体が欲しい。
 手を解いて、カリムは喉奥まで一気に飲み込んだ。一瞬、嘔吐感に喉が震えたが、すぐに喉は亀頭を受
け入れ、舌は熱心に幹へと絡みつく。
 口にあふれる肉の味に、カリムは陶酔しきった。股下が、どんどん濡れていく。
 愛液が膝まで達そうかという時になって、明確な言葉はないまま切っ先から粘液が迸った。

「ごふっ……!? ごほっ……。出しすぎ……ですよ」

 奇襲同然な上にちょうど咽頭に押しつけたところだったので、むせたカリムの口から一部が零れる。青
臭い匂いが、顔の周囲に充満した。
 唇から垂れた分を拭うことすらせず、カリムは立ち上がる。精液を飲んだぐらいで、火照った身体は収
まりはしない。
 礼拝席の上と、祭壇の前。どちらか少し迷って、より罰当たりな方を選んだ。
 カリムは後ろ手を祭壇につき、背中を反らして腰を前に出す。最後に、法衣の裾をそっとめくった。

「ほら、まだまだこれからですよ」

 水気を吸って重くなった下着は、口淫の間にちゃんと脱いでいた。やや足も開いているが、暗闇なので
クロノの眼に秘裂が見えているかは怪しい。
 クロノが近づき、密着する。少し腿の辺りで迷ってから、指が濡れそぼった場所に辿り着いた。
 指が谷間に沿って上下して、クロノの眼が細まった。

「これは、また……」

 ずいぶんと準備が出来てますねとでも言うかと思ったが、言葉は切られたまま続かない。
 どうにも今夜のクロノは控えめだ。やはり場所が場所だからだろうか。これだと、自分だけ盛り上がっ
ているカリムが馬鹿のようだ。
 軽く苛立ち、カリムとっとと直接的な行動に移ろうと、まだ露出したままの肉棒を握り、導いた。

「もう大丈夫ですから、早くしてください。…………ぐずぐずしていると、一晩ここから出しませんよ」
「それは困りますね」

 はぁとため息をついたクロノが、改めてカリムの細い腰に手を回す。軽く身体を持ち上げたかと思うと、
一息で貫かれた。

「んふぁああ!!」

 立ったまま、下から突き上げられる。騎乗位とは似て非なる角度で。
 ここにきてようやくクロノも本腰を入れたのか、身体を突き破らんばかりに叩きつけてくる。そのくせ、
しっかりとカリムが感じる点を亀頭は選んでいた。
 胎内の空洞は収縮することで、みっちりと肉棒を包みきっている。前後される度に、肉が削ぎ落とされ
るような快感があった。同時に、余裕も心から剥がれ落ちていく。

「ふぁ、は……ふぇあぁ! もっと、もっと!」
「これだけ強くしても、まだ足りないんですか……あなたは……!」
「はいっ、もっと、クロノ提督を、くださいっ!!」

 互いの性器が鳴らす粘着質の音が、石造りの聖堂に響く。
 足の長さが違うので、クロノの下半身の力だけでなく重力も抽迭運動に力を貸している。自然、感じる
快感もいつもの倍近かった。
 いきなり位置が変わって子宮口を突かれた時には、爪先まで痺れが走った。肘と膝が、がくがくと震え
て、砕けた。
 繋がったまま座り込みかけた時、腰の手に異常なまでの力が入る。

「えっ……?」

 驚いているうちに、突っ込まれたまま身体が回転させられ全身を快感が突っ切った。
 声も出せないほど感じたカリムの身体が、祭壇の上へと置かれる。法衣が腰の上まで捲り上げられると、
尻が強く掴まれ恥骨が叩かれる。
 祭壇に手をついての後背位は、クロノの力が喉元まで衝撃になって到達する。
 だらしなく涎を零し喘いだ拍子に、首が自然に横を向いた。必然的に、聖王像が闇に慣れきった眼に入
る。
 自分達を祝ってくれるはずもない神の顔など、見たくも無い。見たい顔はただ一つ。

「顔を……提督の顔を、見せてくださいっ……!!」

 正常位に戻りはせず、胸に手を回してカリムの身体を持ち上げることでクロノは答えた。首を捻れば、
何とかクロノの表情が見える。

「あ、あぁん…………クロノ、提督……」

 前後運動が少し落ち着いた時、カリムは上体をねじってクロノの顔に触れた。
 少し癖のある黒髪を、通った鼻筋を、固めの頬を、何度も口づけた唇を、指で覚えこむようになぞって
いく。
 クロノも同じようにカリムの胸を撫でて、乳腺の柔らかさを感じている。
 一時だけ静かな時間が流れ、また二人の口から嬌声が上がり出す。
 二人の間で湿り気を帯びた空気はいくら吸っても足りず、犬のように呼吸を荒げて空気を求め、即座に
喘ぎに変えて吐き出した。

「いっぱい……注いで、ください!!…………ふぁああ!!」

 願いを口にしてから秒の間もなく、激しい衝撃が胎内を襲った。
 爆ぜた精液は、その放出の強さで子宮を膨張させ女の快楽と安息を同時に与える。
 ここがどこかも、自分と彼の関係がどんなだかも、己の名前すら忘れて、カリムは叫んだ。

「クロノ、クロノ提督っっ!!」




 激情が過ぎ去れば、後には空虚しか残らない。
 罪悪感や背徳感がない交ぜとなり、胸に索漠とした夜気が吹き去っていく。終わった後は、いつだって
こうだった。またとんでもなく馬鹿なことをしたと、嫌というほど認識させられる。

「…………別にあなたと是非とも結婚したいというわけではないのですよ」

 クロノにも聖王像にも背を向けて身づくろいをしながら、カリムは小声で言った。

「提督がご自分から家族と別れない限りは、こうして時々抱いてもらって……時々優しくしてもらえれば
それでけっこうですから」

 口調は平静を保ちながらも、カリムは内心自分で自分を嘲笑していた。
 結婚する積極的な方法は、たしかに考えていない。しかし希望の一つとして心の裏側に、はびこってい
るのもまた事実。
 もし本当にクロノが妻子を捨ててカリムを選ぶという奇跡が起きたなら、自分は心の底から大喜びする
だろう。きっと、こうして影に隠れてこそこそ逢引をした日々をきれいさっぱり忘却するぐらいに。

(昔は、もう少し冷めていられたのだけれど)

 いつ終わっても平気だとうそぶけたのは過去のこと。こんな関係がだらだらと続くにつれて、もっと確
かな形が欲しいと渇望していた。自然なことだが、自分達には良くない変化。
 軽く頭を振って、カリムが望みを心から追い払っていた時だった。

「……だったら」

 クロノの気配が、すぐ背後まで近づく。

「今すぐ、優しくしましょうか」

 腰と背中に手が回されたかと思うと、カリムの身体は軽々と抱き上げられた。驚く暇も無く、体が横向
きにされクロノの腕の間にすっぽりと収まる。
 聖堂で行うこの体勢。本当なら、将来を誓い合った男女しか行わないはずの、優しい抱擁。

「あ、あの、その……」
「…………出る所まですが」

 突然のことに、舌が空回りして上手くしゃべれない。
 何度も口をぱくぱくさせ二度深呼吸して、ようやくカリムは言葉を出せた。

「外までだけではなく、部屋まで…………このままで、お願いできます……か」
「……今度こそ、誰かに見られてしまいますよ」
「明日、足に包帯でも巻いておきます。転んだと言って。…………始めたんですから、最後まで優しくし
てください」

 頬を真っ赤にしながら告げた願いに、クロノは無言で頷いてくれた。相変わらず暗くてよく見えないが、
彼の顔も赤くなっていることだろう。

(…………本当に、見計らったようにこんなことをされるから…………私がいつまで経ってもあなたを愛
するのを止められないんですよ、提督)

 人にも神にも認められない関係だが、今この瞬間だけはそんなことを忘れて、彼の胸に身を委ねきりた
かった。
 部屋に帰るまでの数分間、カリムの手はずっとクロノの服を握り締めていた。



          終わり


著者:サイヒ

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