422 名前:7の1[] 投稿日:2008/11/15(土) 23:49:18 ID:gbKB4Z19
423 名前:7の1[] 投稿日:2008/11/15(土) 23:52:48 ID:gbKB4Z19
424 名前:7の1[] 投稿日:2008/11/15(土) 23:55:41 ID:gbKB4Z19
425 名前:7の1[] 投稿日:2008/11/15(土) 23:58:28 ID:gbKB4Z19
426 名前:7の1[] 投稿日:2008/11/16(日) 00:00:14 ID:gbKB4Z19

 管理局の制服の上によれよれの薄茶色のレインコートを羽織ったさえない中年男が、時空管理局の廊下を
所在なさげにふらふらと歩いていく。
前から歩いてくる男性局員は、その男を気にする風もなく無視して通り過ぎる。廊下の角でぶつかりそうになった
女性局員をひょいと避けながら失礼と頭を下げる男の挨拶は見事に無視される。
足早に通り過ぎていった女性局員を見て肩をすくめた男は、無限書庫の入り口に着くとセキュリティチェッカーに
無造作に手をかざした。
「ID確認 幹部評議会議員マテウス・バウアー卿、入室を許可します」
「ご苦労さん」
 バウアー卿と呼ばれた男は、習慣なのか単なる機械にすぎないセキュリティチェッカーに声を掛けると無限書庫
の扉が開いた。
 無限書庫の無重力空間を縦横に走る通路代わりの梁に腰掛け、目の前にモニターを展開しながら口述筆記を続ける
ユーノは、二本下の右に走る梁の上を危なっかしく歩く男を認めると作業を中断して声を掛けた。
「マテウスさん、ここですよ」
「やあ、ユーノ先生、そこでしたか。ちょ、ちょっと待ってください」
「無理することないですよ。今、行きますから」
 無情力空間に不慣れなのか、上手く飛び上がれずじたばたするのを見かねたユーノは、梁を器用に蹴ると無重力空間
を優雅に飛翔して男の前に降り立った。
「相変わらず見事ですな。さすが大空のエースオブエースの師匠だけのことはある」
「お世辞は結構です。それよりご用件は?」
自分の思い人のことにふれられたユーノは、素っ気ない口調で答えると胸ポケットから取り出した布で、はずした眼
鏡を拭きだした。
「相変わらず見事ですな。さすが大空のエースオブエースの師匠だけのことはある」
「お世辞は結構です。それよりご用件は?」
 自分の思い人のことにふれられたユーノは、素っ気ない口調で答えると胸ポケットから取り出した布で、はずした眼鏡を拭きだした。
「二つありましてね。一つは野暮用で、もう一つはご要望のありました例の件についての資料で・・・」
 レインコートのポケットからディスクの入ったケースを出して手のひらで弄ぶマテウスにユーノは鋭い視線を向けた。
「わかったんですか!」
 懸念していた件についての答えを得たユーノの声は、不安と希望がないまぜになったせいか、若干震えていた。
「ええ、聖王陵の書庫にある埃を被った本に載ってましたよ。ケースは全部で8件、完治率は4件ですから50%、
 まあそれほど分の悪い賭ではありませんね。それにしても、こんな資料、無限書庫にありそうなもんですがね?」
「第3管理世界始原ベルカの収集資料は、無限書庫にほとんどありません。いにしえの時空管理局ですら手を出せなかった世界ですよ
現在の時空管理局が収集できた資料も、聖王陵の許可を得て収集できた歴史書や口碑、伝承、詩歌 の類だけなんです」
 その資料があれば、ここまで悪化することもなかったんだとユーノは心の内で続けた。
「へぇぇ私が管理局に奉職して30年近くになりますが、資料請求の要請なんて一度もされませんでしたがね?
まあ、 私じゃ当てにならないと思われてたんでしょう」
 苦笑するマテウスの手のひらの上でくるくると回りだしたディスクを眼鏡を拭くのも忘れて食い入るように見つめていたユーノは、
にやにや笑いをうかべるマテウスに気づくと、あわてて眼鏡を掛けなおした。
「で、野暮用とはなんですか?バウアー卿」
「なに、たいしたことじゃありません。かねて要請していた評議員就任の件ですよ。お受けいただけますかね。
いや、 誤解なさらないでください。このディスクはお渡ししますよ。なにせエースオブエースの命がかかってますからね」
 手のひらで回していたディスクを一瞬でユーノの胸ポケットに転送させるとマテウスはこれだから、私は駄目なんですがね
とつぶやき、櫛の通ってない髪を右手でがりがりと引っかき回しはじめた。
「評議会入りですか?無限書庫の人員的にも僕が抜けると資料請求作業の遅滞率が30%を超えるんですよ。本局評議会
は無限書庫の機能不全を望んでるんですか」
「正確には32%強ですな。評議会の意としては、個人頼りの無限書庫という体制を改革したい。それには無限書庫の代表者が、
評議会入りして人員の要求や予算の増額に関して発言してくれたたほうが良いというわけです」
「で、無限書庫は評議会の飼い犬になれと・・・」
「聖王教会ーハラオウン閥と見なされるている現状よりはましでしょう」
 JS事件解決の裏の立役者と識者の評価が高いのに3人ほどの人員増なんて常識じゃ考えられませんがねと続けた
マテウスは、髪の毛を引っかき回していた右手でポケットから吸いかけのちびた葉巻を取り出すと指先に浮かべた炎
で火をつけた。
「ここは禁煙ですよ。やめてください」 
「煙は次元の狭間行きです。ご心配なく」
 葉巻から吹き出した煙を転送魔法で次元の狭間にはき出すマテウスを睨み返したユーノは、部下の職員たちの顔を
思い浮かべながら考え続けた。どの部下も寝食の時間を削り、過酷を通り越して拷問としか思えない無限書庫への資料
請求に答えている。それでも請求者たちから、資料に間違いがある、不足がある、要求した項目を満たしていないなど不満や
苦情が絶えない。 そのストレスが原因で管理局を退職したり、鬱を発症して長期療養を要する羽目になった職員たち。
人員さえいれば避けられた事例が何件あったことか
「しかし、ぼくが評議員になったら実務から遠ざかることになりますよ。それでもいいんですか。資料請求の遅滞率は」
「その点は、ご心配なく。かねてご要望のスタッフを当方で用意しておりますから」
「評議会推薦の?忠誠心だけじゃ無限書庫のスタッフは勤まりませんよ。能力と資質がいるんです。その点を理解できている
とは、今までの経緯からして思えませんがね」
 ハラオウン閥と見られているユーノが司書長を勤めている無限書庫の統制を目的として評議会より回された50名の人員が、
わずか1ヶ月後には、過労による病気やストレスによる鬱自殺(ユーノや他のスタッフの関与が疑われたが、
最終的には無実が証明されたが)などで2人しか残らなかった事実を思い返しながら言い返すユーノの口調は苦かった。
「ああ、評議会推薦スタッフの件ですか。ありゃ最高評議会の三無脳が文字通り無能だったことの証明ですな。いまじ ゃ文字通り
”脳なし”ですがね」
 後始末させられたものの身にもなってほしいもんですよと愚痴をこぼすマテウスの口調は皮肉げだった。
「今回のスタッフは、私の推薦ですよ。実力は折り紙付き、なにせ遺跡泥棒のプロフェッショナルで探索魔法にかけては、無限書庫
のスタッフも裸足で逃げ出す連中ですから」
「遺跡泥棒!?」
 いやな汗がユーノの背を伝って落ちる。
「ええ、聖王陵内の墳墓にあるロストロギア発掘を請け負った連中で、その道のプロですからね。捕獲するまで
ずいぶん手間が掛かりましたが、全員、無傷で収監していますよ」
 二本目の葉巻を取り出して火をつけながらマテウスは続けた。
「まだ本局には未通告でしてね。連中もあなたの元なら、喜んで働きたいと言ってるんです。いかがですか?まあ必要ないなら
本局に引き渡しますが、死刑は免れないでしょうねなにせ第一級ロストロギアに手を出したんですからね」
「・・・で、どんな人たちなんですか?こんな過酷な場所で働こうって奇特な人たちは」 
 平静を装うユーノだったが語尾がかすかにかすれていた。
「ご自分で面接されたらどうですかな。連中のプロフィールは、こちらのディスクに入ってます。面接日時が決まったら、ご連絡ください」
「今すぐできますか?こういうのは早いほうが良いでしょう。情報リークの件もありますし・・・」
「スカリエッティのNo2の件ですね。確かドゥーエっていう機械人形でしたっけ?」
「戦闘機人です!彼女たちは人間だ」
 海上施設での社会復帰プログラムの一環としてミッドチルダ史の講義を行ったユーノは戦闘機人と恐れられる彼女たちが、無知にして
無垢の人間であることを知っている数少ない一人だった。それだけにマテウスの皮肉な口調に我慢がならなかったのだ。
激した口調で反駁するユーノをまじまじと見返しすと
「それは失礼。なにせ戦闘機械みたいな連中しか知らないもんでしてね」
 と言い訳したマテウスは、では4時間後に如何ですかと提案した。
「結構です。午後の予定はキャンセルします。場所は、どこです?」
「本局の第7ドックに入港している時空航行艦デートリッヒに収容してます。デートリッヒが積んできた口碑を見学したいとユーノ博士が
申請してくだされば、堂々と彼らに会えますよ。なにせ口碑を発掘した連中ですから」
 じゃあ、これでと手を挙げたマテウスは、ユーノに背を向けると危なっかしい足取りで梁の上を歩きながら闇の中に消えていった。



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目次:再び鎖を手に
著者:7の1

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