360 名前:最強の敵は意外な場所にいた 1 ◆6BmcNJgox2 [sage] 投稿日:2010/07/24(土) 13:37:07 ID:/QDY2JRg [2/12]
362 名前:最強の敵は意外な場所にいた 2 ◆6BmcNJgox2 [sage] 投稿日:2010/07/24(土) 13:51:14 ID:/QDY2JRg [4/12]
363 名前:最強の敵は意外な場所にいた 3 ◆6BmcNJgox2 [sage] 投稿日:2010/07/24(土) 13:52:45 ID:/QDY2JRg [5/12]
364 名前:最強の敵は意外な場所にいた 4 ◆6BmcNJgox2 [sage] 投稿日:2010/07/24(土) 13:54:46 ID:/QDY2JRg [6/12]
365 名前:最強の敵は意外な場所にいた 5 ◆6BmcNJgox2 [sage] 投稿日:2010/07/24(土) 13:56:28 ID:/QDY2JRg [7/12]
366 名前:最強の敵は意外な場所にいた 6 ◆6BmcNJgox2 [sage] 投稿日:2010/07/24(土) 13:57:54 ID:/QDY2JRg [8/12]
367 名前:最強の敵は意外な場所にいた 7 ◆6BmcNJgox2 [sage] 投稿日:2010/07/24(土) 13:59:21 ID:/QDY2JRg [9/12]
368 名前:最強の敵は意外な場所にいた 8 ◆6BmcNJgox2 [sage] 投稿日:2010/07/24(土) 14:00:30 ID:/QDY2JRg [10/12]
369 名前:最強の敵は意外な場所にいた 9 ◆6BmcNJgox2 [sage] 投稿日:2010/07/24(土) 14:01:55 ID:/QDY2JRg [11/12]
390 名前:最強の敵は意外な場所にいた 10 ◆6BmcNJgox2 [sage] 投稿日:2010/07/25(日) 12:42:16 ID:83U/Tk6I [2/12]
391 名前:最強の敵は意外な場所にいた 11 ◆6BmcNJgox2 [sage] 投稿日:2010/07/25(日) 12:44:40 ID:83U/Tk6I [3/12]
392 名前:最強の敵は意外な場所にいた 12 ◆6BmcNJgox2 [sage] 投稿日:2010/07/25(日) 12:46:23 ID:83U/Tk6I [4/12]
393 名前:最強の敵は意外な場所にいた 13 ◆6BmcNJgox2 [sage] 投稿日:2010/07/25(日) 12:48:14 ID:83U/Tk6I [5/12]
394 名前:最強の敵は意外な場所にいた 14 ◆6BmcNJgox2 [sage] 投稿日:2010/07/25(日) 12:50:01 ID:83U/Tk6I [6/12]
395 名前:最強の敵は意外な場所にいた 15 ◆6BmcNJgox2 [sage] 投稿日:2010/07/25(日) 12:52:02 ID:83U/Tk6I [7/12]
396 名前:最強の敵は意外な場所にいた 16 ◆6BmcNJgox2 [sage] 投稿日:2010/07/25(日) 12:54:24 ID:83U/Tk6I [8/12]
397 名前:最強の敵は意外な場所にいた 17 ◆6BmcNJgox2 [sage] 投稿日:2010/07/25(日) 12:57:46 ID:83U/Tk6I [9/12]
398 名前:最強の敵は意外な場所にいた 18 ◆6BmcNJgox2 [sage] 投稿日:2010/07/25(日) 12:59:56 ID:83U/Tk6I [10/12]

 後にJS事件等と称される一連の事件はそれは凄惨な物だった。何しろしょっぱなから
エース・オブ・エースと呼ばれた高町なのはが作戦中に行方不明になってしまうと言う凄まじい事態。
 確かに時空管理局としての仕事柄、作戦中に戦死したり行方不明になってしまう事は珍しい事では無く
これが名無しの局員だったのならさほど大した騒ぎにはならなかったんだろうが、やはり高町なのはが
行方不明になってしまったというのは大した騒ぎにならないはずが無い。戦力的にはもちろんの事、
エース・オブ・エースが作戦中に生死も行方も分からなくなると言う事態は皆の士気を大きく低下させていた。

 管理局執務官であり、高町なのはの親友でもあるフェイト=T=ハラオウンは特にそれが顕著だった。
なのはの事が心配。でも執務官としての仕事を全うしなきゃいけない。でもやっぱりなのはの事探しに行きたい。
そう言った葛藤が彼女を挙動不審にさせ、結局何をするにしても中途半端になってしまうと言う有様だった。

 こうして一連の事件は上手く解決の糸口が見付けられぬまま数ヶ月も経過してしまうのだが、
ここに来て意外な展開が起こってしまう。ジェイル=スカリエッティの一派に所属する
戦闘機人ナンバーズの一人、クアットロが突然単身白旗抱えて管理局に投降して来ると言う
まさにこんなはずじゃない事が発生していたのである。

 もうあんな男には付いていけない。一体何があったのかは分からないが、とにかくジェイル=スカリエッティと
柄を分けて単身投降して来たクアットロのもたらした情報によって管理局は後にJS事件と称させる事件を
無事解決させる事が出来たのだった。しかし、クアットロと言えば戦闘機人の中でもジェイル=スカリエッティと
最も気の合う存在と言われていたはず。その違和感に関して、スカリエッティはそんなクアットロからも
見放される程の外道だったのだろうと誰もが考え、このまま事は収束して行くかに見えたが…

「なのはー! 私はジェイル=スカリエッティを逮捕して敵を取ったよぉぉぉぉ!!」

 最終作戦終了後、フェイトは天に向かって叫んでいた。なのはが行方不明になって早数ヶ月。
未だなのはの行方は分からない現状、流石のフェイトも作戦中に戦死してしまったのだと認識し、
天国にいると思うなのはに対して報告する様に叫んでいたのだが………

「ジェイル=スカリエッティのアジトの奥にて高町なのは一等空尉を発見! 無事保護しました!
恐らく捕虜になっていたと思われます!」
「あらら!!」

 名も知らぬモブ局員の意外すぎる報告を聞いて思わずフェイトぶっ倒れてしまった。
とは言え、なのはが生きていたと言う事はフェイトにとって涙が出る程にまで嬉しい事。
大急ぎで保護されたらしいなのはに会いに行こうとしたフェイトであったが、なのはがいる部屋の
ドアの前でシャマルに止められてしまった。

「フェイトちゃん待って?」
「シャマルさんどうしたんですか?」

 一刻も早くなのはに会いたいフェイトなのだが、シャマルは真剣な面持ちで立ち塞がり行かせてくれない。
そして彼女は真剣な目でフェイトを見つめ言った。

「フェイトちゃん。なのはちゃんと会いたいのなら覚悟して頂戴。何故ならこのドアの向こうには
フェイトちゃんにとってこの上なく残酷な現実が待ち構えているのだから。」
「残酷な現実!? まさか…スカリエッティに捕まっている間になのは…何かの実験台にされたのでは…。」

 フェイトは思わず真っ青になった。ジェイル=スカリエッティならばやりそうな事。
人間を改造して機械を埋め込んだり等が出来るのだから、捕らえたなのはを何かの実験や
改造に使っていても不思議では無いとフェイトは考えていたのだが、シャマルは若干苦笑いしていた。

「実験台…か…。いっそ改造でもされていた方が諦めが付いてまだマシだったのかもね…。」
「改造されてた方がマシ…? どういう事ですか?」

 フェイトは意味が分からなかった。フェイトの考える最悪の展開をさらに超える恐ろしい事態に
なっていると言うのか? フェイトは恐る恐るドアノブを掴み、開いた。

「あ! フェイトちゃん! 今まで迷惑かけてごめんなさい!」
「え…………。」

 フェイトは別の意味で絶句した。そこにはとても長い間スカリエッティのアジト内で捕虜に
なっていたとは思えない程五体満足で元気してる高町なのはの姿があったのだから。
無論改造は愚か乱暴をされた形跡すら無い。これは一体どうした事か? フェイトには
意味が理解出来なかったが、なのはが無事である事に越した事は無い。

「よかった…なのは……………んん!!」

 なのはに近付こうとしたのも束の間。フェイトは思わず何かに気付いて渋い顔で立ち止まった。
フェイトの嗅覚がある匂いを感知したのだ。そう。それはフェイトの最も嫌いなスカリエッティの匂いだ!
なのはの全身にスカリエッティの匂いが染み付いていたのだ! とは言え…なのはは長い間スカリエッティの
アジトに囚われていたのだから、スカリエッティの匂いが付いてしまっていても何ら不思議な事は無い…の…だが…

「んんん!?」

 フェイトはまたも渋い顔。そして彼女の視線がなのはの左手に向けられる。良く見ると、なのはの
左手の薬指に綺麗な指輪がはめられているでは無いか。無論フェイトの知るなのはは左手の薬指に
指輪をはめていない。これは一体どうした事か!?

「なのは…そ…その指輪は…?」
「え? ああ…これなんだけど……。」

 左手の薬指にはめられた指輪に関してフェイトに問われたなのはは、直後にフェイトに対して頭を下げていた。

「ごめんなさいフェイトちゃん。『高町なのは』はもう死んじゃったの。」
「何を言ってるの? なのはは現に元気してるじゃない。」

 いくら高町なのはが死んだと言われても、それを言う本人が元気に生きているなのはなのだから
説得力の欠片も無い。しかし、なのははこう続けていた。

「それでももう『高町なのは』はもうこの世には存在しないんだよ。」
「いや、だからなのはは現に今私の目の前に…。」
「そういう意味じゃなくてね……。」

 なのはの伝えたい意味をフェイトが理解してくれていないと判断したのか、なのはは真剣な表情で
フェイトの目を見つめ言った。

「『高町なのは』はもう死んだんだよ。今ここにいる私はジェイル=スカリエッティの妻
『なのは=スカリエッティ』…と言う事になっているの。」
「え…うえぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 ただでさえそんなに広くない部屋中にフェイトの叫び声が響き渡った。無理も無い。
まさかなのはがジェイル=スカリエッティの妻にされていたなんてお釈迦様でも予想出来ない。

「いや〜…なんて言うか…捕まった後でジェイルに気に入られてそのまま結婚させられちゃって〜。
ごめんねフェイトちゃん。」
「な……なのは…じょ…冗談だよね……ね……。」
「冗談じゃないんだよ。もう役所にも届けられて戸籍の上でもちゃんとなのは=スカリエッティにされちゃったし。」
「え…うえぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 またも広くない部屋中にフェイトの叫び声が響き、なのはも思わず耳を塞ぐ程だったのだが、その直後だった。

「オギャー!! オギャー!!」
「え!?」

 突然何処からか赤子の泣き声が響いた。そして良く見てみると、部屋の隅にベビーベッドが置かれ、
そこに寝かされた赤子が大きな声で泣き叫んでいたでは無いか。

「フェイトちゃん大声出しすぎ! この子が泣き出しちゃったじゃない!」
「え…? え…?」

 二度も大声を出したフェイトを注意し、赤子をあやしに行ったなのはにフェイトは開いた口が塞がらない。

「あの…なのはさん…? 貴女…捕まってた間にベビーシッターのアルバイトでも始めたのでしょうか?」

 と思わず敬語で質問してしまうフェイトだったのだが、なのははやや申し訳無さそうに答えた。

「残念だけどこの子私の子供なんだ〜。結婚させられるだけじゃなく赤ちゃんまで産まされちゃってさ〜。」
「うぇぇぇぇぇ…………。」
「フェイトちゃん!?」

 何と言う事だろう。なのははジェイルの妻にされてしまうのみならず、子供まで産まされていた。
良く見ればその赤子は紫色の頭髪に金色の瞳。例え事前に説明を受けていなかったろうが、
どう見てもジェイルの息子ですありがとうございました。これはフェイトにとって世界の終焉にも
等しく、フェイト思わず目眩を起こして気を失い倒れてしまっていたとさ。


 気を失った後、フェイトは恐ろしい夢を見てしまう。それは白衣に身を包んだスカリエッティと
バリアジャケットに身を包んだなのはがベッドの上で重なり合いくんぐもくれつすると言う、俗にいう
着衣SEXと呼ばれる行為をやっている光景だった。

「はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!」
「あん! あん! あん! あっ! あぁっ!」

 スカリエッティのお世辞にも鍛えられているとは言い難いその身体の何処にそんな力があるのだろう?
物凄い速度でなのはを突き上げるピストン運動になのはも喘ぎよがり狂っていた。そして……

「凄いよジェイル! フェイトちゃんより速〜い!」

 何がフェイトより速いのかは正直謎だが、フェイトにとってそのセリフは自分に対する死刑宣告も同然だった。

「うあああああ!!」

 フェイトは次の瞬間、目から大量の涙を吹き上がらせながら飛び起きていた。

「あ……夢………。」 

 人は誰しも夢を見ている間はそれを夢とは認識出来ない。故に目を覚まして初めてそれを夢だと
認識し、フェイトはほっと胸を撫で下ろしていた。

「は〜…夢か〜。そうだよね。なのはがスカリエッティと結婚させられて子供まで産まされるなんて
現実的にあり得ないもんね。」
「ゴメンねフェイトちゃん現実的じゃなくて。でも現実は小説より奇なりって言葉もあってね。」
「あ…。」

 フェイトは硬直した。自分の直ぐ隣にいたなのはの左手の薬指にはスカちゃん印の指輪がはめられていたし、
部屋の隅のベビーベッドにはどう見てもジェイル=スカリエッティjrですありがとうございましたな赤ん坊が
すやすやと眠っていた。

「夢…じゃないの…? これ…現実…なの?」
「うん。」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッッッ」

 無情にも正直に頷くなのはにフェイトは愕然とするしか無かった。確かに先に見たなのはとスカリエッティが
くんぐもくれつする夢は真剣にフェイトが見た夢だとしても、なのはがスカリエッティの嫁にされて子供まで産まされた
と言うのは紛れも無い現実だったのだから。恐らくフェイトで無くてもビビる。私もビビる。

「まあとにかく元気出してよフェイトちゃん!」
「一番の被害者のはずなのに何他人事みたいに…なのははあんな事されて悔しくないの!?」

 そうだ。スカリエッティの嫁にされて子供を産まされたのはなのはであり、なのはが一番の被害者のはずなのに
彼女はあたかもそれを不満には思ってない様に明るく、むしろフェイトが悔やみ悲しむと言う逆転現象が
起こっていたのだが、そこでなのはも一応は手を左右に振って答えた。

「いやいや、私だってあんな事されたのは悔しいし悲しいよ。何度枕を涙で濡らした事か…
彼等の捕虜にされた日も泣いたし、無理矢理結婚させられた日の夜も泣いたし、初めて抱かれた日の夜も泣いたよ。
ジャイアント馬場とアントニオ猪木が力道山の下で練習生やってた時、汗で床に水溜りが出来る位
ヒンズースクワットさせられたって話が梶原一騎の本に載ってたけど、それと同じ位の量の涙流したよ私は。」
「例え方が微妙すぎるって言うか笑顔でさらりと言われても説得力が無い!!」

 なのはも一応悲しんでるには悲しんでいたのだろうが、今の彼女自身がとても明るく話し
振舞う為に全然悲しく感じないし、フェイトの言う通り説得も無かった。

「なのはどうしてそんなに明るいの? どうしてそんなに笑えるの? あんな男と無理矢理結婚させられて
子供まで産まされて悔しくないの? 私を心配させまいと無理してるの?」
「だって何時までも悲しんでいられないじゃない。悲しんだ所で全てが無かった事になるわけじゃないんだから。
それに私がこうなっちゃったのは、彼等に捕まって皆に迷惑をかけちゃった私にも非があるんだしね。
なら何時までも悲しむ事よりも、この後どうするか考えなくちゃ。」
「………………………。」

 フェイトが考えているよりも遥かになのはは強かった。不屈のエース・オブ・エースと呼ばれた彼女だが、
確かに彼女は不屈だった。実力的な意味では無く、精神的な意味でである。無理矢理敵に囚われた上に
憎いはずの相手の妻にされて子供まで産まされると言う状況に陥ったなら普通もっと自暴自棄になって
良いはずなのになのははこんなにも明るい。もっとも、時間の経過から考えて最初の頃は本当に自暴自棄に
なってて、それを克服した後が今のなのはと言う可能性も捨て切れないが。とにかくなのはは
今の自分の状況を悔やみ悲しみ、人から哀れんでもらう事よりも、今後自分がどうするかの方を
見つめ考えていた。開き直ったとも言うが…。

「じゃ…じゃあ…後で貴女の旦那さんとっちめときたいので、具体的にどんな事を
されたのか教えていただけないでしょうか? なのは=スカリエッティさん?」
「それは構わないけど、そんな嫌味みたいに言わなくても良いじゃない?
後とっちめるのは構わないけど、あまりやりすぎないでね。下手をすればフェイトちゃんの方が
臭いご飯を食べなきゃならない事になっちゃうんだからね。」

 なのはがあんまりにも精神的に逞し過ぎて、思わず嫌味を言ってしまうフェイトであったが、
これからなのはがどういう事をされたのかについてフェイトは聞く事にした。

「捕虜にされた初日、一応精密検査とかされたね。その結果に応じた実験や改造に私を使うんじゃないかって
思ってたんだけど意外や意外、何故か今の旦那が直々に私の所にやって来て口説き始めて来たの。
その時の口説き文句がまた傑作でね。『検査の結果、君の卵子と私の精子は極めて相性が良い事が分かった。
故に君は今日から私の子供を産む機械だ。』とか真顔で言い出すの。まあ彼は科学者だからね。何をするにしても、
例えそれがただの名目であろうとも科学的根拠っぽいのが欲しかったんだろうね。その後私は捕虜から一転して
彼の妻にされてしまったでござるの巻。」
「その話聞いてるだけで凄い腹が立ってくるんだけど…。」

 冷静に考えれば壮絶な話のはずなのに、なのはが妙に明るく話す為に悲壮感が無い。
それ故にフェイトも若干怒りが浮かんでいたのだが、これもまだまだ序の口。
これからなのはの話す体験談はフェイトにとって真剣に殺意が沸いて来る恐る物だったのだから。

「式が終わったその日の夜に早速彼に抱かれちゃったんだけどね…やっぱりあの状況下では仕方なかった
とは言え彼に無理矢理初めて奪われるって言うのは嫌な感じだったね。オッパイもいっぱい揉まれたし。
乳首もグリグリ弄られたり吸われたりして凄く嫌だった。でも悲しいかな。女の性って言うのかな?
悔しい…でも感じちゃう…ビクンビクンって感じで…。」
「へ〜…なのは…感じちゃったんだ…。スカリエッティに抱かれて…。」
「フェイトちゃんそんな怖い顔しないでよ。だってあの状況じゃどう考えても仕方ないじゃない。」

 まるでスカリエッティのみならずなのはに対しても殺意を抱いていると言わんばかりに
凄まじい顔をするフェイトに流石のなのはも慌ててしまった。

「切れてないですよ。切れてないですよ。仮に切れていたとしても、それはなのはを無理矢理手篭めにした
スカリエッティに対してであって、なのはに対してはそんな事は全然無いからね。」
「でもやっぱり怖い顔してるってフェイトちゃん。」
「だから切れてないって言ってるでしょ! 例えなのはがスカリエッティに女にされてベッドの上で
何度もよがり狂わされたとしても、それはスカリエッティが悪いんであってなのはは全然悪くない!」
「やっぱりフェイトちゃん…怖い…。」

 やはりフェイトは怒っていた。なのはが話をすればする程フェイトの顔は険しくなり
スカリエッティのみならずなのはに対しても怒りを向けていると思われても仕方の無い程だった。
これにはなのはも若干怖気付いてしまうのだが、それでも話を続けた。

「あの日から私は何度も彼に抱かれたね。毎晩毎晩やらされたよ。」
「スカリエッティに…毎晩…抱かれた…。」ブチ
「もう…くんぐもくれつってね。」
「なのはとスカリエッティがくんぐもくれつ…。」ブチブチ
「彼もなんだかんだ言ってストレス溜まっていたしね。それに彼みたいに長い間潜伏したりしてると
ストレス以外にも色々溜まったりするだろうし、娯楽だって実質私とのSEX位の物なんだろうし。」
「なのはとスカリエッティのSEXが…娯楽…。」ブチブチブチ

 フェイトの顔がまた険しくなった。確かにフェイトもなのはを怖がらせない様に
必死に平静になろうとするのだが、それでもやっぱり今のフェイトの顔は怖い。

「いやいや、私だって必死に抵抗したんだよ。妊娠しない様になけなしの魔力を使って
子宮内に防御魔法を展開して精液をシャットアウトしたりしてたんだよ。
でも…伊達に彼はドクターって言われて無かったね。彼、最初から私の肢体は全て知り尽くしてるって
言わんばかりに私の弱い所を的確に刺激したりするの。多分彼は医学的な知識を活かした
攻めをしてたんだと思う。医者は人の殺し方も知ってるって言う言葉があるけど、
人のよがり狂わせ方も知ってるって事なんだろうね。その上毎晩毎晩彼に抱かれて
よがり狂わされてたりしたら…どんなに頭で嫌がってても気持ち良くなって…。
そんなこんなでジェイルの愛撫に感じたりしたせいなのか、知らず知らずの内に
子宮の防御が甘くなっちゃったのかな? 思い切り突破されて…それで生まれたのがこの子ってわけ。
本当に私の卵子とジェイルの精子が極めて相性が良かったのかは実際の所分からないけど。」
「だから楽しそうに話さないで!」

 ベビーベッドから赤子を抱き上げながら説明するなのはの様に、やはりフェイトには殺意と怒りが浮かぶ。
フェイトの大好きななのはがよりによってスカリエッティに子供産まされたと言う事実は言うまでも無く、
その最大の被害者たるなのはが、その時の壮絶なはずの体験を明るく説明する様がフェイトの怒りを
増幅させていた。

「そう言えば一つ不可解な事があってね。」
「不可解?」
「彼、科学者タイプであって大した魔法は使えないはずなんだけど、一つだけ凄い魔法が使えたの。」
「え!? 初耳だよそれ!」

 スカリエッティが凄い魔法を使えたと言うのはフェイトにとっても初耳である。
一体如何なる魔法が使えると言うのだろうか?

「さっきも言った事だけど、私も一応抵抗はしたんだよ。でも結果的にこの子産んじゃう事になって…
何でだと思う? ジェイルは私を屈服させられる程の凄い魔法が使えたの。」
「だから…だからどんな魔法なの!?」
「うん。私が抵抗したり口答えしたりすると、私の口を塞ぐ様に彼が私の唇奪うの。」
「く…唇を…!? それは噂に聞くディープキスでございまするか? これは酷い!
私だってなのはとやった事無いのに!」

 ショックの余り自分の唇に指を当て、口調が可笑しくなるフェイトであったが、
スカリエッティがなのはの唇を奪うと一体どんな事が起こると言うのだろうか?

「ジェイルに唇奪われた後、さらにジェイルの舌が私の口の中に伸びて舌同士絡め合わされたの。」
「なのはとスカリエッティの舌が…絡め合わされた……?」
「うん。私の舌とジェイルの舌がレロレロペチャペチャって…凄い絡み様なの。
で、そうやってジェイルと舌を絡ませていると次第に全身の力が抜けて……
頭の中も真っ白になって……抵抗出来なくなっちゃって……。これはもう魔法だよね。」
「多分…魔法違う…。」

 スカリエッティとの情事を思い出して若干顔を赤くするなのはに対し、フェイトは気まずい顔になっていた。
とは言え、やはりこの事実はフェイトにとって非常に辛い事実だった。

「ああそう言えば、私個人的な主観かもしれないけど、皆お世辞にもあまり良い物食べて無かったね。
食糧不足で餓えてたとかそんな意味じゃなくて、科学的な〜とか言ってとにかく栄養さえ取れれば良い
みたいな感じのが多かったし。だから私、見るに見かねて手料理作っちゃった。そしたらもう物凄い反響。
その日以来皆からお母さんとかお母ちゃんとかお母様とか言われて慕われる様になっちゃったね。
ナンバーズの子達ってジェイルの因子を受け継いでるって言うのも何人かいたし、
私もそのジェイルの妻にされちゃった以上は、少なくとも戸籍上はあの子達の母になっちゃうんだろうから
このまま皆のお母さんになっても良いかな〜って思ったりもしたよ。でも…冷静に良く考えてみたら
私って何やってるんだろう…元々管理局の人間なのに………って思って……それが一番悲しかったかな。」
「えぇぇぇぇ…………それが一番悲しいの……?」

 普通に考えるなら無理矢理結婚させられただの、無理矢理抱かれただのの方が悲しい事のはずだが、
普通に良い話系の中の一幕がなのはにとって一番悲しい事だったと言う事実にフェイトの表情は暗くなった。

「でもでも良く考えても見てよ。ジェイルと結婚させられたり、その後抱かれたりした事は
あの状況ではどうあっても避けられない事だからむしろ仕方が無いって諦めが付くじゃない。
ジェイルに捕まっちゃった上にそのまま何度もくんずほぐれつしちゃった私にも非があるんだし。」
「そ…それはそうだけど…さ…。」
「だから、元々私は管理局の人間なのにジェイルやナンバーズのあの子達と打ち解けてしまって
それに喜びを感じてしまった事の方がよっぽど悲しい事だとは思わない? 皆を裏切る様な物なんだし。」
「そ…そう言われれば…そうだね…。」

 なのはの巧みな話術(かどうかは別として)にフェイトも納得せざるを得ない。
しかしなのはの話はまだまだ続くのだ。

「けど、一人だけ私に対して反抗的な子がいたのよ。名前だけ言っても分からないかもしれないけど、
クアットロって言う眼鏡の子がいてね。この子だけは私に懐いてくれなかったね。でも私が
ジェイルに結婚させれそうになった時に最後まで反対してたのも彼女だから、私としては助かってたんだよ。
けど、私の方がジェイルを誘惑して奪っちゃったって思ったんだろうね。私の方を逆恨みし始めて…。
それで何度も暗殺されかけたね。私が妊娠した時もお腹を蹴られそうになったし。勿論その度に
他の子に止められて、ジェイルからも叱られて。それで次第に孤立してって…。最後は一人でどこかに
行っちゃった……。他の子が言うにはジェイルと一番気が合ってたのは彼女って話だから、ジェイルの事が
好きだからこそ私の事が気に入らなかったんだろうね…。そう思うと何だか悪い事しちゃった気分…。」
「そうか…クアットロが一人投降して来た事件の背景にはそんな事実が…。」

 ここに来て初めてクアットロが一人投降して来て、管理局にスカリエッティ一味に関しての
情報を流した不可解な事実に関しての真相が明らかになった。故にフェイトも納得していたのだが…

「でもなのはを暗殺しようとしたり、中身はスカリエッティの子であるとは言えお腹を蹴ろうとした事は
許せない! 後でスカリエッティ共々とっちめておかなきゃ!」
「はははは…。とっちめるのは構わないけど、やりすぎない様にしてね。下手にやりすぎて殺しちゃったら今度は
フェイトちゃんが臭いご飯を食べなきゃいけなくなっちゃうよ。」

 スカリエッティに対してのみならずクアットロに対してもまた怒りを溜めるフェイトに
なのはも若干苦笑い気味だったが、この後になのはの言った言葉が流れを変える。

「個人的に一番許せない事は新婚旅行に連れてってくれなかった事だね。」
「ええ!? 新婚旅行!?」
「だって考えても見てよ! 私、無理矢理結婚させられたんだよ! なら私に対してその位の
対価を支払うのが道理って物じゃない!?」
「そ…それは…そうかもしれないけど…。」

 真剣な面持ちで論ずるなのはに対し、フェイトは複雑な気分だった。新婚旅行に連れてって貰えなかった位で
嘆くなよと思う一方で、無理矢理結婚させられたのだからその位してもらっても良いとも思う。
その二つの気持ちによる葛藤が起こっており、どう反応して良いのか分からなかった。

「だから聖王のゆりかごを見せられて、管理局に勝ったらこれで新婚世界旅行に連れてってやるって
言われた時は嬉しかったよ。でも結果はこの有様。聖王のゆりかごは沈んだし、ジェイルも牢の中。
残されたのは私がこの身で産んだ赤ちゃんだけ! 悲しいな〜この世知辛い世の中!」
「…………………………。」

 なのはも一応は悲しみ悔やんでる部分もあると言う事が分かったが、その理由が何とも微妙であったし、
表現方法もお芝居のお涙頂戴シーンの様でどうもフェイトにとって同情出来る所か苦笑いしか出来なかった。

 こうしてなのはの話は終わり、その後でなのはは管理局からある選択を迫られる事になった。
その選択とは、なのはの今後に関してである。スカリエッティの姓を返上して高町に戻り、
スカリエッティとの間に生した子供も手放すか、なのは=スカリエッティとしてその子と共に生きるかの
いずれかである。

 前者ならばブランクを考慮しての再訓練の結果次第ではあるが、一応は教導隊への復帰が出来る。
しかし後者の場合はアルピーノ親子の様に辺境世界で管理局の監視の下に暮らさねばならない。
そこを考えれば普通なら前者の方を選ぶはずだが、なのなは違った。

「ごめんねフェイトちゃん。私はこの子と共に生きるよ。」
「な…なのは!?」

 我が子に乳をあげながら静かに答えるなのはに対し、フェイトは思わず戸惑っていた。

「何故!? その子はスカリエッティに産まされたんだよ! 結婚だって無理矢理なんだし…。」
「私…前にも言ったよね。私自身にも責任があるんだって…。確かにジェイルがやった事は
許されない事だと思うよ。でも、そんな彼に捕まって結婚させられて、この子まで産まされた
と言う事に関しては私に非がある。いや…もう産まされたと言う表現では不適切だね。
私はジェイルに子供を産まされたんじゃない。私がジェイルの子を産んじゃったの。
でもこの子は悪くない。この子はナンバーズの子達の中に入れられてたって言う
ジェイルのクローンとは違う。紛れも無い私とジェイルの子供。この子を犠牲にしてまで
助かろうとは思わないよ。だから私は私自身に対する戒めと罰も兼ねて…この子もスカリエッティの姓も捨てない。
高町なのはとしてでは無く…ジェイル=スカリエッティの妻、なのは=スカリエッティとして生きる。」
「なのは……。」

 我が子を抱き、迷いも何も無いと言わんばかりの表情で主張するなのはに対しフェイトはやるせなかった。
なのはに子供を産ませたのはフェイトにとっての仇敵スカリエッティなのだ。だからこそ管理局教導官として
では無くスカリエッティの姓を背負って生きる事を選んだなのはには共感が出来なかった。

「で…でも……でも……その赤ちゃん……スカリエッティが……一体何をしているか………。」
「フェイトちゃんまだ変な勘違いしてるみたいだけど、私、さっきも言ったけどね。
この子は私の子供なんだよ。別にジェイルに変な処置をされてるワケじゃない。
クローンでも何でも無い。普通に私とジェイルがくんぐもくれつして、普通に生まれた普通の子供なの。」
「で…でも…スカリエッティって……生命操作とか好きだし………。」

 少なくともフェイト個人の知るスカリエッティは生命操作の研究を好んで行っていた。
クローンは勿論、戦闘機人、人造魔導師等。それにナンバーズの体内にはそれぞれに
己のクローン体を仕込んでいたと言うし、今更普通に子供を産ませる必要なんてあるのか?
実は何かが仕掛けられているのでは無いのか? と心配になっていたのだがなのははそこを否定していた。

「確かにこの子はパパに似て目付きも悪いから勘違いされても仕方ないかな。でもこの子は
私の子でもあるんだよ。ジェイルの血も引いてるけど、もう半分は私の血も引いてる。
この子は悪い子じゃない。いや、私がそんな子にはさせない。私が立派に育てて見せるから。」
「なのは…。」

 その時のなのはの表情は真剣だった。本気でジェイルとの間に産んだ我が子を
育てるつもりなのだろう。例えそれで今まで自分が築いて来た物を全て無駄にしたとしても…

 そしてなのはは荷物をまとめ、乳母車に乗せた我が子と共に管理局の定める辺境世界の住居行きの
次元船へ向かおうとしていたのだが、そこをまだ諦め切れないフェイトが止めていた。

「やめてなのは! 考え直して! やっぱり行っちゃダメだよぉぉ!」
「フェイトちゃん………。」

 フェイトの目から涙がボロボロと溢れていた。なのはがスカリエッティの子を産んでしまった事だけでも
フェイトにとって辛い事なのだ。その上なのはは今後もスカリエッティの妻と言う事実を背負って
その子供を育てて行くと言う。フェイトにとってなりふり構わずになのはを止めようとしても
おかしい話では無い事であった。しかし…

「フェイトちゃん…エリオやキャロ、その他沢山の身寄りの無い子供達を保護して世話して来た
フェイトちゃんなら理解してくれるって思ってたのにな…。」
「な…のは…。」
「それともフェイトちゃんがエリオやキャロやその他の身寄りの無い子供達を助けたりして来たのは
周りに自分を善人に見せたい為の見せ掛けだったって言うの!?」
「!!」

 そう言われるとフェイトは辛かった。確かにフェイトは今までエリオやキャロを筆頭として
身寄りの無くなった子供達を保護したり世話したりして来た。そんなフェイトならば今のなのはの
行動を理解してくれると信じていたなのはにとって、フェイトの取った行動は逆に信じられなかったのだろう。

「あと、いくらジェイルの事が憎いからって、変な行動に出ちゃダメだよ。あれでも一応は私の夫なんだし、
下手をしたらフェイトちゃんが臭いご飯を食べる事になってしまうかもしれないんだよ。そんなの私は嫌だよ。」

 そしてなのはは再び次元船へ歩き始める。

「さようならフェイトちゃん…。私は信じてるよ…。フェイトちゃんが何時の日か…私の取った行動を理解してくれる事を…。」
「あ…待って…待ってなのは………。」

 こうしてなのはは次元船に乗り、ミッドを去って行った。フェイトはそのなのはを乗せた次元船を
呆然と見送り続ける事しか出来なかった。

「なのはの…馬鹿………。なのはの馬鹿ぁぁぁぁぁぁ!!」


「なのはの馬鹿…私よりスカリエッティなんかに産まされた子供の方が大事って言うの…? グスッ……。」

 なのはがミッドを去って以降、フェイトは魂が抜けてしまったかの様に元気が無くなってしまっていた。
しかし、そんな彼女を一変させる事件が起こる。それは何気無く見た新聞の記事にあった。

「あぁ…また親による子供の児童虐待殺害事件か……。最近こういうの多いよね……って…………。」

 新聞に書かれていた記事。それは親が子供を虐待死させる事件を報じた物だった。今までなら
ただ悲しい事で終わっていたであろうが、今のフェイトは少し違った。

 時空管理局員と言う仕事柄、色んな事件の報告が行われている。フェイトはそれを改めて調べて見たのだが、
親が子供を虐待したり、その結果殺してしまうと言う事件の多い事多い事。フェイトが今まで保護して来た
子供達もそう言う親から虐待をされていた身の上の子供も沢山いたし、フェイト自身もまたかつてプレシアから
虐待を受けていた。

 確かに我が子を厳しく仕付けると言う事は何処の家にでもあるだろう。特に武門の家ともなれば
子供が幼い内から厳しい鍛錬を積ませたりと言う事もあるに違いない。しかし、それも我が子を
立派な人間にする事が目的であり、ただ子供を痛め付ける事を目的とした虐待とは一緒くたに語れない。

「親が子供を虐待する事件がこんなに……………。なのは…………。」

 フェイトが次に思い出したのはなのはの事。ジェイルと無理矢理に結婚させられ、子供を産まされた事実から
逃げずに受け入れたなのはの行動。親が子供を虐待死させる事件の数々を思い知った今のフェイトには
何となくなのはがあの時取った行動の意味が少しではあるが理解出来る様な気がした。

 いてもたってもいられなくなったフェイトは、機を見てなのはの住むとされる世界へ向かっていた。
そしてなのはとジェイルに産まされた子供が住んでるとされる家へ飛び込む様に駆けていた。

「なのは!」
「フェイトちゃん…どうしたの…? また私をこの子から引き離そうとするの?」

 なのはは我が子を抱きフェイトを睨んでいたのだが、フェイトは頭を下げていた。

「なのはごめんなさい! 私が…私が間違っていたよ!」
「え…?」

 フェイトはなのはに話した、ミッドやその他管理世界の彼方此方で起こっている親が子供を虐待死させる事件の数々を。
そしてなのはの取った行動がどれだけ立派で勇気のある物だったのかを。

「確かに…そういう事は最近多いよね。悲しい事だけど。私も多分この子を厳しく仕付ける事はあると思うけど
だからと言って虐待になる様な事にならないように注意しなきゃ…。」
「うん…。だから今のなのはを見て私も安心した。」
「あ〜。まさかフェイトちゃん…私もまたこの子を虐待する様な親になってるって思った〜?」
「そ…そんな事は無いよ! って言うと嘘になるかも…。だってスカリエッティの子供だし…。」

 フェイトはやはりなのはの子供がジェイルに産まされた子と言う事実を根に持ち続けている様だった。
しかし、なのはは構わずに笑っていた。

「フェイトちゃんがそう思うのも仕方ないかもね。でも私は別に無理をしてるわけじゃないんだよ。
これでも私はこの子との生活を楽しんでるんだから。」
「た…楽しんでる…?」
「ああ…楽しんでるって言うより、もう慣れちゃったから別に皆が考えてる程苦には思ってないって言うのが正しいかな?」
「そう…なの…?」

 今までも色々無理しがちだったなのはであるから、フェイトに心配かけまいと無理をしているのでは無いかと
疑ってはいたが、なのはの笑顔は絶えず、我が子の頭を優しく撫でていた。

「この子だってフェイトちゃんが考えてる程悪い子じゃないんだよ。顔はパパに似て悪っぽいけど、
私の子供でもあるんだよ。」
「そ…そうだよね……スカリエッティの子だけど…なのはの子供でもあるんだよね…。」

 確かにその子はスカリエッティに産まされた身であるが、受け継いでいるのはスカリエッティの遺伝子だけじゃない。
なのはの物もまた同時に受け継いでいる。そう考えると、フェイトの中でその赤子に対する憎しみが薄れ、
だんだんと可愛らしく思えて来ていた。そしてフェイトはその子を抱こうとゆっくりと手を伸ばしていたのだが…

「バブッ!」
「痛っ!」

 何と言う事であろうか、なのはに抱かれている時は素直にしていたと言うのに、フェイトが手を近付けた途端に
自分の手…それも指先の爪を立ててフェイトの手を引っ掻いて来ていたでは無いか。確かに赤子の力だから
大した事は出来ないにしても、それでも地味に痛い物は痛かった。

「ハハハ…。フェイトちゃん嫌われちゃったね。まあこの子にとって見ればパパの仇なんだから仕方ないよね。」
「なのは…どっちの味方なの?」

 フェイトが思い切り赤子に拒絶されてしまっていた事になのはは軽く笑っており、フェイトは
そのなのはの行動に疑問を持ってしまっていた。

「なのは…もしかして…スカリエッティの事…そんなに嫌って無いのでは…。」

 フェイトは嫌な予感を感じた。確かに無理矢理に結婚させられたと言っても、その後に情が移ってしまって…
と言う事もまたあり得るのでは無いかと考えたのだ。赤子に手を引っかかれたフェイトを笑うと言う行動が
フェイトにそれを予感させていた。そして彼女の問いに対し、なのはは少し悲しげな微笑を見せていた。

「確かに…私を無理矢理こんな目にあわせたジェイルなんて許せない〜なんて言うと嘘になる部分もあるかもね。
ジェイルがした事は決して許される事では無いにしても、彼によってもたらされたも同然の今と言う状況に
私が大して苦に思わず、むしろ楽しんでる時点で…私も多分彼の事そんなに嫌いじゃないのかもね…。
フェイトちゃんには悪いとは思うけど。」
「いや…別に良い悪いの問題じゃないよ。誰を好きになろうと個人の自由だもんね…。私個人的には辛いけど…。」
「って言うか慣れると結構面白い人だったよジェイルは。」
「……………。」

 フェイトの嫌な予感が当たった。流石にラブラブと言う事は無いにしても、なのははなのはで
ジェイルとの暮らしを苦に思わない程度には情が移ってしまっていたのは確実であり、
だからこそ戸籍上は夫のままになっているジェイルと引き離された今の状況に寂しさを感じるのは
仕方の無い事なのかもしれない。そしてなのはには『親友』や『友達』と呼べる存在はいても
『恋人』と呼べる存在はいなかった為、ジェイルを好きになってしまったとしてもそれ自体は悪い事では無い。
決してNTRなんかにはならない。そもそも最初からなのはにはそういう相手はいなかったのだから。
なのはに対し親友以上の感情を抱いていたフェイト個人にとっては非常に辛い事ではあるが…。

「いずれにしても私はジェイルと籍を入れて、子供まで産んでしまった以上その責任は果たして行くつもりだよ。
皆には申し訳無いと思うけど………。」
「なのは…………。」

 今のフェイトならなのはの気持ちが痛い程に分かった。なのはは自分の子供をあっさり見捨てる様な
無責任な母親にはなりたくなかったのだ。確かに未だ管理局においてはなのはの復帰を求める声は大きい。
しかし、なのはにはジェイルの子を産んでしまったと言う大きな責任がある。自分の都合の為に
我が子を犠牲にする様な事はやりたくなかったのだった。

「だから…私はジェイルと離婚するつもりも『高町』に戻るつもりも無いよ。これからも私は
『スカリエッティ』を背負って生きて行く。これも皆には申し訳ない事だと思うけど…。」
「………………。」

 なのはが今後もジェイルの妻として生きて行く事はフェイトにとって辛い事ではあるが、
フェイトはこれ以上とやかく言う事は無かった。むしろ今はフェイトがなのはの考えを
理解してあげる努力をする事が大切だと考えていたのだ。

「ごめんね…久し振りに私達が再会したのにこんな寂しい話ばかりになっちゃって…。」
「いやいや、そんな事無いよ。私だってこれからも時間があればなのはに合いに行くし、楽しい話も出来るはずだよ。」

 と、何だか寂しい話が続いていたので話題を変えようとした時だった。赤子が粘土をこねて何かを作っているのが見えたのである。

「何か作っているね?」
「パパに似たのかな? この子ってまだ小さいのに随分と手先が器用なの。あ、出来上がったみたいだよ。」

 赤子は粘土で何か人形の様な物を作った様であり、それをフェイトに見せ付けていた。
しかもそれは何とフェイトそっくりでは無いか。

「ふぇ〜ふぇ〜。」
「まあ凄い。ほら見てよ。この子、粘土でフェイトちゃんを作ったんだよ。何だかんだ言って
この子もフェイトちゃんの事そんなに嫌って無いんじゃない?」
「は…はは………。」

 まだ赤子だと言うのに真剣にフェイトそっくりな人形を粘土で作って見せた赤子に若干恐ろしい物を
感じながらも、無邪気に笑う赤子にフェイトも笑顔になろうとした…その時だった。

「ふぇ〜ふぇ〜。」

 突然赤子は何処からか串の様な物を取り出し、それを粘土製フェイト人形の左胸、人間で言う所の心臓部に突き刺した。
するとどうだろうか。フェイトは突然左胸に強烈な激痛を感じたのである。

「うっ!!」
「どうしたの!? フェイトちゃん!」

 左胸を押さえ、思わず床に倒れ込むフェイトに駆け寄るなのは。しかし、赤子はそれに構わず
串で粘土製フェイト人形の左胸の部分を笑いながら何度も突き刺し続けている。

「うぁぁぁぁ!! うぇぇぇぇ!!」
「フェイトちゃん! しっかりして! フェイトちゃん!」

 左胸を押さえ床の上をのた打ち回るフェイトになのははどうして良いか分からない。見るからに
左胸に強烈な激痛を訴えている事は分かるが、見た所左胸に外傷の類があるわけでも無く、
どうすれば良いか分からなかった。

「ふぇ〜ふぇ〜。」
「ぐぇぇぇ!!」

 今度は赤子が粘土製フェイト人形の脚の部分を引き千切った。するとどうだろう。それと同じ様に
フェイトの脚もまたまるで引き千切られた様な激痛を感じたのである。別に本当に千切れてしまったわけでは無く
脚にこれと言った変化も傷も無いが、痛みだけは引き千切られた様な感覚だった。

「ぐあ! ぐあ! ぐあぁぁぁ!」
「フェイトちゃん! フェイトちゃんしっかりして!」

 今度は脚に手をやり、のた打ち回るフェイトになのはは大慌て。しかし、それに構う事無く
赤子は粘土製フェイト人形の彼方此方に串を刺したり引き千切ったりして行った。その度に
フェイトは激痛を感じ、のたうち回って行く。まるでフェイトと粘土製フェイト人形がシンクロしているかの様であった。

「フェイトちゃん! どうして! どうしてそんなに苦しむの!? 何があったの!?」
「あれっ! あれっ! あれっ! あの粘土人形!」

 フェイトは激痛を堪えながらある方向を指差す。そこにはもはや原型を留めない程にまで
グシャグシャにされてしまっていた粘土製フェイト人形があった。

「この子の作った粘土の人形がどうかしたの?」
「まだ分からないの!? あれと…あれが傷付けられた箇所と同じ箇所が痛むんだよ!!」

 フェイトは必死の形相で訴えた。一体何をされたのかは分からない。だが、粘土製フェイト人形の
破損箇所と同じ部分がフェイト自身にも激痛として影響している以上、それが関係しているのは確実。
しかし、なのはの表情は少し呆れていた。

「ええ〜? 何それ〜。呪いの藁人形じゃあるまいし、そんな人形を傷付けるだけで特定の相手を痛がらせる
魔法なんて聞いた事が無いよ。そんな魔法が本当にあったら今頃それを使った殺人が各地で横行してるよね。」
「でっでも! でも! 私は…現にぃぃぃ!!」

 フェイトは必死に激痛を堪えながら、赤子の作った粘土製フェイト人形が関係している事を
訴えようとするのだが、なのははまるで信じようとしない。確かにこんな呪いの藁人形の様な事が
出来る魔法は存在しないからと言う事もあるのだが。

「それにね、この子はまだ赤ちゃんなんだよ。魔法なんて使えるはずが無いじゃない。
ね〜。良い子だからそんな事しないもんね〜。」
「きゃっきゃっきゃっ。」

 なのはが赤子を優しく抱き上げると、赤子は無邪気な笑顔で笑う。しかし、フェイトに対しては
まるでムシケラを見る様に見下した凶悪な表情を見せるのだった。

「けっ!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッッッッッッッ」

 なのはに抱かれながらも、父であるジェイル=スカリエッティを思わせる不敵な表情でフェイトを見下ろす
赤子の姿にフェイトは恐ろしい物を感じていた。

「コイツ……将来……私にとって最強の敵になるのかも…………。」

 なのはに優しく抱き抱えられている赤子をなのはに気付かれない様にフェイトは睨んでいた。
しかし今目の前になのはがいる以上、赤子には手を出せない。それがフェイトにとって一番辛い事だった。

 フェイト=T=ハラオウンは確かにジェイル=スカリエッティを倒し、逮捕した。
だが、そのジェイルがフェイトの親友なのはに産ませた子供が、後々フェイトにとって
最強の敵として立ち塞がろうとしている……………のかもしれない。

 願わくば、なのはの血が緩和剤として上手く作用してくれる事を祈るばかりである。


 まだ終わりじゃないぞい。もうちょっとだけ続くんじゃ。


 なのはと一度別れたフェイトは次に軌道拘置所へ向かっていた。今度はなのはの戸籍上の夫となっている
ジェイルと話をする為だ。と言っても、当初は話に応じてはくれないと心配していたのだが、
彼は意外な言葉を口にしていたのだった。

「しょ…正直…私もあの時どうしてああいう行動を取ったのか今でも分からないんだよ…。」
「え? 分からない?」

 実に申し訳なさそうな気落ちした表情で話すジェイルの言葉にフェイトは首を傾げた。

「考えても見たまえ。私は科学者だよ。科学が恋人。科学に童貞を捧げ、科学と結婚した男…のはずだったんだ。」
「そ…その例え方はちょっと………。」
「なのは君だって最初は真剣に人体実験に使おうと思っていたんだ。彼女を原形留めない程にまで改造して
異形の怪物みたいにして送り込んだら管理局はどう思うかな? なんてほくそ笑っていた時期が私にもあったんだ。
けれど……いざ彼女を目の前にすると…………………。」

 ジェイルは若干頬を赤くし、黙り込んでしまった。確かにジェイルならばなのはを改造やら人体実験に
使おうとしたりするだろうと言う事はフェイトにも理解が出来る。だからこそ、ならば何故実際にそうせずに
籍を入れる様な事をしたのかを問いたかったのだが…僅かな沈黙の後でジェイルは語り始めた。

「私はいてもたってもいられなくなった。彼女を改造や人体実験に使う事が勿体無く思えて来たんだ。
何故なのかは私も分からない。しかし、そうさせる不思議な魅力と言う物が彼女にはあったんだ。
なのは君と正式に結婚した後の生活は私とした事が…不覚にも楽しかったよ。なのは君の作る手料理は
美味しかったし、夜になればベッドの上でくんぐもくれつってね…………。彼女の存在が我等の士気を
高めていたのは事実だよ。クアットロは機嫌が良くなかった様だが………。」
「…………………。」

 よっぽど楽しかったのだろう、鼻の下を伸ばして話す彼らしからぬ行動はフェイトにとって
意外な物であったが、同時に腹立たしい物もあった。

「笑わせるだろう? アンリミテッドデザイアのコードネームで呼ばれたこの私も所詮は雄に過ぎなかった…。
しかし、こうしてなのは君と引き離された今の私ならば分かる。私は楽しくてもなのは君本人は
辛い思いをしたんじゃないかと…。無理も無い。元々好きでも何でも無かった私と無理矢理結婚させられ
何度もベッドの上でくんぐもくれつさせられ…子供まで産まされてしまったのだからな。
なのは君だって別に好きな相手とかいたんだろうに…私のせいでそれも全て台無しになって……。
私が彼女に多大な迷惑をかけ、人生を滅茶苦茶にしてしまった事は疑いようの無い事実だ。
だから私は人生を懸けてなのは君に対する償いをして行きたいと思う………。」
「スカリエッティ…。」

 フェイトは少し嬉しかった。なのはを取られてしまった事は確かに悔しい。しかし、ジェイルもまた
己のしてしまった罪を認め、悔やむと言う人間らしい心を持っている事を知ったからである。

「ならば過去にやって来た数々の犯罪に関しても今ならば反省出来ているって言う事だね。」
「安心しろ。それは無いから。」
「え……………。」

 フェイトの言葉に対し真顔で答えるジェイルに、それまで積み重ねてきた良い話的雰囲気が
一気に台無しになってしまった。

「え!? でもなのはにあんな事をしてしまった事は認めてるんでしょ!?」
「そうだよ。先も言った通り、私はなのは君に対する償いを人生を懸けてして行くつもりだ。
しかし、それとこれとは話は別。君も良識ある大人ならば理解出来ないと言う事もあるまい?」
「(ぶっ殺してぇぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッッッッ)」

 フェイトは今程ジェイルに対し殺意が湧いた事は無かった。しかし、今のジェイルは
軌道拘置所に収監された身。言うなれば時空管理局における別の意味でのVIPであり、
下手に手を出そう物ならばフェイトの方が問題視されてしまうのは確実。故に手を出せない。

 フェイトにとって別の意味で辛い毎日が始まりそうな予感を彼女は感じ取っていた。

                  おしまい


著者:◆6BmcNJgox2

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