172 『指名先は幻惑の使い手 in ずっとクアットロのターン』 sage 2008/03/23(日) 20:04:48 ID:+8JpomMm
173 『指名先は幻惑の使い手 in ずっとクアットロのターン』 sage 2008/03/23(日) 20:05:37 ID:+8JpomMm
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198 『指名先は幻惑の使い手 in ずっとクアットロのターン』 sage 2008/03/23(日) 20:42:42 ID:+8JpomMm

「パパーご飯できたよ〜」

  ………つまり『心の病』と『人格』、そして『行動』を単純に重ねて考えるのは、根本的な問題を見誤らせてしまう場合が多く………

「ユーノパパ〜?」

  ………周囲から見て問題となる『行動』であっても、当人にとっては絶対的理由を持った、正当的な判断による『行動』で………

「ユーノパパ〜、ご飯できたよ〜!も〜、ヴィヴィオお部屋に入るからね!……あれ?ユーノパパお仕事?」
「あっ……うん。ゴメン、ヴィヴィオ!お仕事の本を読んでたんだ。すぐにリビングに行くよ」

 なのはとヴィヴィオが夕飯を作るためにキッチンにいる間に、軽く目を通すつもりだけだった。
 しかし、書かれている内容が、"あまりにも"思い当たる節が多過ぎたため、つい読み耽ってしまう。
 ユーノが読んでいた本は、時空管理局本局査察官のヴェロッサ・アコースから借りているものだ。
 交渉や思考捜査をするヴェロッサは、本局でも屈指の心理学の専門家でもある。
 (だからヴェロッサは、八神はやての夫としてやっていけてるのだ)
 その彼と今日の昼、局の廊下でバッタリ出会った時、ユーノは自分の部下の悩みを話したところ、問題に対する基本的な参考文献として貸してくれたのがその本だ。
 せめてなのはたちが居る間、それも部下との人間関係にというデリケートなことは持ち込むべきじゃなかったとユーノは反省する。
 無限書庫司書長ユーノ・スクライアと戦技教導官高町なのはが、久しぶりに一緒に過ごせる数少ない夕食の時なのだ。



 ここはクラナガン、否ミッドチルダでも最高のソープランド『ソープ・ナンバーズ』。
 今日も日常では味わえない快楽と安らぎを求め、多くの者が足を通う。
 おかげでVIP用ルームも大繁盛だ。
 ほんの微かに聞こえるリラックス感を高めるミュージック。
 そして、わずかに漂う天然高級芳香剤の甘い香……。
 観葉植物は置物でない本物。
 最小限に灯された桃色の反射型ライトの光が、優しくダブルベットに横になった男女を包み込む……。
 男の上にうつ伏せになった少女は戦闘機人ナンバーズNo.4のクアットロ。
 そして彼女を胸の上に乗せているのは、時空管理局本局無限書庫内で、いまや『変人』『異常者』の烙印を押された二十代後半の男。
 幼い頃家族全員を亡くすとか色々あったが、保険金やなんやらで貯金だけは有るおかげで、今や【ソープ・ナンバーズ】のゴールド会員メンバーズの一員だ。
 嗜好が偏るクアットロだけしか指名しないことと、全く"本番"をしないし、また望まないことから、「クア姉専用抱き枕」とか言われて、かなり奇特な人間と見られている……。
 オーナーや姉妹たちと関係が悪いわけではない。
 それどころか、ゴクたまに家族朝食会に誘われたり、九女からはからかわれたり、三女から徒手空戦のサンドバックになったりと格好の"標的"にされている。

 今回男から要求されたシチュエーションは『一番大切な人と一緒に出かける時に着るような可愛い服』を着るコスプレ・プレイ。
 恋人プレイと書くと、よくよく考えてみればなんとも哀しくなるシチュエーションだ。
 だけどイチャイチャして"本番"に入るわけでもなく、クアットロは今回も出会いがしらに男から抱擁されてベッドへ……。
 『せい一杯のおめかし』という課題を、見事クリアした服装のクアットロが、男の胸の上で抱きしめられた形で横になっている。
 このクアットロというメガネとツインテールがチャームポイントな戦闘機人の少女に会いに、毎週やってくるこの男。
 クアットロは抱かれたまま、ただ日々の愚痴とか世間話を話し続ける。
 もちろん服は脱がないでそのまま。
 皺になっちゃうけど、クリーニングすればいい。
 この男、初回はクアットロとシチュエーション抜きでとにかく中出ししまくっていたが、彼女たちが妊娠できないと知ってから……本当になにもしなくなった……。
 おかげで今日も、随分と戦闘機人の四女は話し込んでしまっている。
 会話をすることが目的でもあるから当然だが、いまはもうそれも慣れた。
 先週、この男と分かれた当日に、担当した変態プレイの不平不満の吐露から始まって、姉妹喧嘩などなど、かれこれ5時間強が過ぎ去っていた。
 クアットロは、その見事な容貌と、嗜虐的な性格ゆえ、陵辱やSMプレイのリクエストが非常に多い……。

「それでねぇ……ウザイから、その油臭い親父の尻に指突っ込んで……強制的に射精してやったのよねぇ……」
「そうか……」
「この一週間に来たの全員よ………もうほんと……私を指名する男って、なーんでみんな、あーなのかしらぁ……」

 彼女の言葉が途切れた所で、男の右手が少女のツインテールに分けた茶色の髪を優しく撫でてやる。
 左手は少女にキツクならない様、添えるだけの力しか入れていない。

「フフフ……んッ……」

 頭を撫でられると、子猫のように眼を細める戦闘機人の少女。
 ピクピクと振るわせる身体は、口から出るくすぐったさを堪えるような吐息を出すことで嫌いなわけじゃないことを示す。
 彼女の瞳……創造主のドクター・スカリエッティと同じ色の瞳が潤った感じになる。

「はあぁ……あんなやつらが…………世間知らずのディエッチちゃんたちを指名しないか……クアットロ………ほんのちょっぴり心配………」
「……ん……それなら教えてやればいいさ。ちゃんと段取りをつけてやってさ……みんなで勉強会でもしたらいい………」

 仕事とはいえ付き合い始めて、かれこれ20回を超える。
 この魔法も使えない男の吐息と鼓動をしばらく感じながら、頭を撫でられた後に、策略と情報戦に長けた少女が応じる。
 相談というより、ただの一方的な会話だ……。

「ドゥーエ姉さんは昔から管理局への工作とかで経験があって……いろいろ参考になったけど………こんなこと…………いままでやったことないもしィ……。ドクターの『天才的な閃き』も困るわぁ……」

 普段と全く違う、とてもゆっくりとした会話。
 いつもなら、自分の頭の回転の速さを見せびらかすようにまくし立てる、軽口の応酬がない。
 『幻惑の使い手』たる戦闘機人・クアットロは、この年長の男性に抱きしめられると、どことなく安らいでしまう。
 以前はそれを認めたくなくて、様々に無駄な反抗したものもいい思い出だ……といきたい所だが、彼女はそれを頑として認めない。
 これは仕事なのだ。
 羽振りが良くて、いつもプレゼントを姉妹全員の分持ってくる男を店に繋ぎとめるための『心理作戦』なのだッッ!!
 そう彼女は思っている……。

 クアットロは、男とするとりとめのない会話をするうちに、次第に自分の思考が、手のひらに落ちた雪のように融けていくのを感じる。
 眠気だ。
 特に激しいプレイをしたわけじゃないのに……。こればかりはクアットロにも理解できない。
 長姉ウーノは、たぶん完全に安心しきってるからだと分析する。
 曰く、「ドクターの胸でクアットロと同じ事をしたら眠くなった」そうだ。
 (ドクターを自由にして許されるのはウーノだけ)

 あ〜あ……今回も私が先に寝ちゃうのか〜……。
 ……そういえば、この男の寝顔って……私……一度も見たことないや……。
 睡魔に襲われながら暫し思うクアットロ。
 しかし、眠りに落ちる前に、これだけは欠かさないことが少女にある。

「ん……」
 
 クアットロは気だるさを引きながら、少しだけ身体を前進させる。
 確信的自信の有るプロポーションを形作る豊かな胸が、押し潰されたまま男のスーツの上を滑る。
 そうすると、ちょうど男の顔と少女の顔が同じ位置に来る。
 そして少女は男に優しく語る……。

「……はい、クアットロちゃんに、おやすみのキスし」

 ジリリリリリリッッ!!

 その時だった!
 甲高い電子音が聴覚に入り、高圧電流を流されたように少女の脳が覚醒する。
 目の前には、3日前に、件の男性が贈り物で姉妹(+旅の召喚士)全員に持ってきてくれた特大テディベアの顔があった。
 困ったことに、クアットロは、ぬいぐるみを抱き枕代わりにして、夢の中でも男に口付けをしようとしてしまったらしい。

「〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!」

 ソープをやる前、戦闘機人として暗躍していた頃なら絶対に出すことはなかった悲鳴(のようなもの)が、ナンバース姉妹の住居に響き渡る……。
 プライバシーを尊重してか、防音効果の有る個室だ。
 だが、何故かこういうクアットロの出す"効果音"は姉妹たちの耳に入ってしまう。
 お、枕を壁に投げつけたか。男に対する文句を叫びながらテディベアをポカポカ叩く音も"聞こえるような気が"する。

「うむ。今日も無駄に晴れて、いい日になりそうだな」
「そうだね〜」

 もう離床していたチンクとセインは、随分日が昇ったお日様を浴びながら洗顔をする。
 あとディードとオットーは朝までコース中でお休み中。
 そして次女トーレは、地上本部レンジャー部隊の両目義眼な陸士隊員相手に少佐プレイ(?)中。
 ついでにディエチは昨日から「鷹の眼」と呼ばれる片目義眼の凄腕スナイパーと一緒に狙撃プレイ(謎)だ。
 ( 【ソープ・ナンバーズ】は様々なニーズに応じてるのが売りだが、その詳細は『世界の法則』で永遠に書かれないかもしれない)

 話を戻そう。
 ソープという仕事の関係上、睡眠時間は休日でもない限り全員バラバラになるが、戦闘機人の特質を生かして短時間でも充分脳の睡眠が取れるようになっている。
 こーゆー睡眠の制御技術だけでも、ちょっとした特許。
 掃除・洗濯はガジェットがやってくれるから、ある意味、ナンバーズ姉妹全員にとっては戦闘機人として戦いの場に出るよりとっても良い生活かもしれない……。
 
「あらあら、おはようクアットロ」
「お、おはようございますウーノ姉さん……」

 週に一度の奇妙な『恋愛ごっこ』をするようになって以来、クアットロは自分より上の姉相手に『様』付けで呼ばなくなっていた。
 それが悪いということはない。
 むしろ変に軽さと甘ったるさを強調して喋っていた口調も大人しくなり、自然と会話する感じになっている。
 ……このことに気づいていないのは、狡猾・冷淡、高い作戦能力を自負するクアットロ自身だが。
 オーナーにして父たるジェイル・スカリエッティは、クアットロの変化を「全く新しい理論発見の切っ掛け」と言ってほくそ笑んでいる。

「うふふ。ほら、涙の痕が……」

 薄い紫のロングヘアーが陽光で映えた長女の、細く綺麗な指がクアットロの目元に触れる。
 カリカリとしたのがあった。
 今さっき、ちゃんと顔を洗ったはずなのに……しょうがない。

「はぁ、それではシャワー浴をびてきますわ」

 昨晩涙を流した記憶はクアットロにない。
 シャワールームに入り、熱めのシャワーを浴びて身体を目覚めさせる感じがして気持ちいい……。
 ようやく完全に起きたクアットロの脳が思索する。
 ……もし涙を流したとしたら……それは夢の中のあの男の胸の上でだ……。
 そうなると。

「後でハンニバルの身体が涙で汚れてないか見てあげないと……」
 
 大いなる知性と秘めたる残虐性を併せ秘めた存在。
 それが大きなクマさん人形にクアットロが名付けた名だ。
 少々安直かな過ぎたかな、と少女は後で思ったが、他の姉妹が各々の人形に名付けた名に比べればそん色ないと思ったので、そのままにした。
 アービター、マーカス、ジョンソン、チーフ、コルタナ、等々……これはこれで問題があるようなネーミングだが。

 ソープ・ナンバーズはシャワーにも金をかけているらしく、普通のシャワーも使えるが、天上や壁に設置した射出口からも温水が出るようになっている。
 全身くまなく浴びれて洗浄ができるようになっているのだ。
 なんとも羨ましい。
 某機動六課隊長が聞いたら、「その十分の一でええ!その予算つかわしてえぇぇ!!」と言うこと間違いなし。
 (ただし、店を利用している男どもの実態を知ったら、機動六課&聖王教会全戦力とナンバーズのガチバトルに発展し、
 【乙女の恨み】補正でナンバーズ側がとんでもなく不利になってしまう!!)

「全てを委ねるということの、安らぎ……ねぇ……」

 姉たちに言われた言葉を反芻したとたん、顔から火が出るような思いがして壁に握りこぶしを叩きつけるクアットロ……。
 悶え苦しむように、腹の底から怨嗟を含んだ言葉を絞り出す!

「クッソ、クソオ!!クッソォ!!うぐゥウウッッ……チクショウ……なんで、なんでこんなに、このクアットロから、あの男のために涙が出てくるのよ!!!」

 夢の情景を思い出した途端、涙腺が緩み、涙が溢れる事実。
 それゆえ一人憤慨するクアットロ。
 こんなみっともない姿、絶対に姉妹の誰にも知られたくはない!!
 温水と涙で濡れながら考える。
 そろそろ………本格的にあの男と関係を考え直すべきか?
 このままでは、絶対に自分が自分でなくなってしまう!
 電子で作る嘘と幻の技巧者にして偽りを操り人間を操る戦闘機人……それが自分、クアットロなのだ。

 私は戦闘機人……モノらしく見てほしかった……。
 お椀型の美しく整った豊かな胸。
 その丘の頂にある、誰が見ても可愛らしいピンク色の乳首。
 誰もが揉んでむしゃぶり、吸い付いた。……気持ちよかった。
 おヘソの滑らかなライン……。
 一切の無駄毛のないすべすべした全身……。
 シャワーを止めると、前髪からポタポタと雫がこぼれる。

「あ……。アイツに髪をほどいた私の姿……まだ、見せてないや……」



 時空管理局本局の廊下に有る一般用通信機。
 嫌な意味で知名度が上がった、例の男が、音声通話する。

『申し訳ないことだが、君の特別災害救助隊配属の申請は却下という形になってしまった。……君の努力は多くの者が知っている!
 私としても君の熱意は熟知している。……ただ、君のメンタル面の問題が完治したと証明できない以上……』
「ええ……暗所恐怖症と一部人格障害……確かに人の命を預かる所では致命的ですね。しかも魔法も使えないならなおさら……。
いえ、レジアスさんの尽力には本当に感謝しています。これは本当の気持ちです。本当です」
『すまん……』

 受話器を置いた男はその場でしばしたたんで思案する。
 また断られたか……。
 そろそろ今の職場も居心地が悪くなってきたから、なんとか希望職にもう一度アタックをかけてみたんだが……ハハッ。
 やっぱり無理だ。
 男が無限書庫からの転属を、直属の上司のユーノを通さずに済まそうと考えているのには理由がある。
 同じ部署の誰かとは言わないが、昔の経歴をいろいろと調べられている節があるからだ。

「まあ……仕方がないか。うん仕方がない」

 そう口ずさんで仕事に戻る。
 無限書庫に、自分のような難しい対人コミュニケーション持ちと『通院歴』がある男が今まで居られたのは、ひとえに人材不足だったから。
 だから最低限不足分の手足になれるよう、自分なりに努力もした。
 しかし魔法、特に検索魔法の一切が使えないことはとんでもないハンディキャップだ。
 管理世界とは、一見理想社会のようだが、魔法の使えない者には最低限の仕事量しかこなせない。いや、こなすことができないのだ。
 それだけ『魔法』がスバラシイチカラを秘めている証拠だ。
 何百万という蔵書から必要な書物を数秒で見つける司書長が顕著な例だ。
 事実、"有能"な人手が増えるにしたがって、男のチカラを必要とする者が減ってきている。

 志望先が潰れた。が、彼は別に深く落ち込んだりなんてしない。
 ただ、『また一つ選択肢が潰れた』……そんな気分だった。
 潰れる……潰れる……潰れる……潰れる……進路先が……家族が……親兄弟が眼前でゆっくり潰れる…………その後は、携帯電話の電池が切れて、真っ暗闇。

 気づいたらスクライア司書長に肩を叩かれて呼ばれていた。
 ビックリ……そのように取れる動作をする。
 無表情で動かれると相手が嫌がるのは学習済みだから。

「あああ!すみません。すみませんボーとしてました。朝の資料の置き場所ですよね?」

 早歩きで部署に戻る。
 司書事務室の一角がその男の牙城。
 整理や移動を求められる蔵書が引っ切り無しに積まれていく場所。
 どうも数分間くらい思考停止をしていたようだ。
 う〜ん、あれからもう十年も経つか。
 中古だけどなかなか使い勝手のいいイスに背を持たせて、男は一人ごちる。
 今はちょっと休憩中。インスタントコーヒーを飲む。
 ……やっぱりクアットロのお姉さんが出してもらったお茶の方が美味しいな。
 しかし、あの日の記憶が劣化せず、しかもある程度マモトな思考をしてることが、そもそも異常なのか?
 う〜ん。イヤ、やっぱ異常なんだろ。ウン。
 でなければ、事務職でさえも管理局中をたらいまわしにされるのには、それなりの理由なんだろう。

「あ〜!せめて少しでも魔法能力があればな〜!!早く戦闘機人になりたい」
 
 最後の台詞は冗談で思ってみても現実は何も変わらない。
 自虐的思考に、勝手に頬が歪みだす。
 頬に手を当て、「うん、やっぱり異常だな」と思った。
 彼の思考は帰結したのでさっさと仕事に戻る。

「はやくクアットロに会いたい……」

 大量の蔵書をただひたすら棚に戻す作業を繰り返しながら、男はボツリとつぶやく。
 男はクアットロという、戦闘機械で身体の大半を構成された美少女の全てを本気で愛している、と思う。
 最初の出会いは偶然だった。
 男がたまたま、ソープ・ナンバーズの前を通ったのが偶然だった
 その前を通り過ぎようとした時に、ジェイル・スカリエッティに声を掛けられたのも偶然だった。
 その時、たまたま仕事が空いていたのがクアットロだったのも、偶然だった。
 少女が魔法を否定した質量兵器の固まり……戦闘機人だったのも偶然だった……。
 少女を………本気で愛おしいと思ったのは偶然なのだろうか?

 たぶん、ひょっとしたら彼女じゃなくて、戦闘機人そのものに魅力的を感じているだろう。
 もし叶うなら、魔法を使えない身を捨て、自身も戦闘マシンになりたいという願望を男は確かに持っている。
 だからドクターに頼まれれば、職場の『無限書庫』から入手できる文献をいくらでも拝借もしてくる。
 ……それが彼の思い込みであり、毎週繰り返す彼女との会話も、彼が望んだシチュエーションとしてクアットロが演じているだけかもしれない。
 だが、それが今さらどうしたというのか。
 仮にそうなのなら、まあ、仕方がないと諦めれる。
 だからこそ男は、貯金を崩して【ソープ・ナンバーズ】に大金を支払っている。
 矛盾して危険な綱渡りのような思考だが、それも仕方がないと男は考える。
 諦めも、一つの道筋なのだから……。



「ふう……」

 不採用の報せをして、通信を終らせた後大きなため息を吐いた。
 恰幅良く、全身から威厳を漂わせる「平和の立役者」レジアス・ゲイズ中将だったが、その顔からは明らかに疲れが見えた。
 オーリスが気を利かせて、コーヒーではなくハーブティを差し出す。
 すまんな、と言って受け取る。

「あの人でしょうか?」
「そうだ。あいつだ。なんとか願いを叶えてやりたいと思ったのだがな……」

 ……あの不幸な災害で、心に深い傷を負ったあの男の一時身元引受人になったのが、当時地上で辣腕を振るっていたレジアスだった。
 男……当時少年だったが、その子が被災した管理局施設の耐震擬装に関わる巨大な汚職事件を解決するために、医療施設まで行き少年を見たのが身元引き受けの切っ掛けだった。
 決定的な決意をさせたのが、その子の目の前で保険金受け取りを巡って親族が醜い言い争をしていたからだ。
 しかしなんという事か……マスメディアは、『被害にあった不幸な子を保護し、世の不正を正す正義の管理局員』とこぞってレジアスをもてはやしたのだ。
 そのため、本来なら中程度の地震で全壊する事のない建築物の建築資金を横領した局員など、食い殺されて死亡した"1名"を除き軒並み立件逮捕。
 レジアスが現在、中将の地位にいるのも、その戦果が遠因にある。
 捕まえた者の中には、広域次元犯罪組織と関わるものまでいた。
 背もたれに大きく身を沈めたレジアスは、彼のために必要なら「海」や「教会」と交渉した。 
 しかし結果は……。

「ロストロギア等に関係なく、悲劇は襲ってくる……問題は、本来地震に耐えられるべき構造を持った管理局関連施設が、人的要因により想定震度の半分で『全壊』したことだ。
 ……それで心に傷を負ったアイツはどんな責任がある?
 世間は……誰もが、時と状況により「心の傷」を抱えるという事実を理解しておらんのか!?
 ……いや……このワシがそもそも、それを言えた義理か……」

 望む、望まないに関わらず……すでにレジアス自身が、あの災害を引き起こした横領者とほとんど同じ立場であった。



 食事を軽くとったクアットロは決意する。
 別れる前に男の住まいにでも侵入してやろうと……。
 そのためには是非とも、あいつの私生活を覗いて直接調べてみたい。
 私を幸せにするとか抜かし、現実に夢まで見せた男に対するどうしようもない敵愾心だ。
 しかし感情は理性を鈍らせる……こんな単純な基本原則をクアットロは忘れていた。
 ゆえに『恋は盲目』と世間で言われるのだ。
 そんなことを関係なくクアットロは思いこむ。
 何か捨てる切っ掛けがあるはず。絶対にあるはず!
 この世にウェンディたちが好んで読んでいる、少女コミックのような完璧な彼氏など存在しないのだ。
 特にゴミ箱の中とか調べれば(苦笑)
 人は皆不完全。要は幻滅しちゃえばいいのだ。
 この時、姉たちに相談しようとは一考しなかった。
 ドクターからは既に裁量権を得ている。この上で、"こんなこと"で姉に相談なんてできない。
 そんなことをしたら戦闘機人としての性能を疑われる。そんなの嫌だ。

 私情を消しさって、『恋人ごっこ』に徹っせられる"理由"がクアットロに欲しかったのだ。
 ルーテシアの転送魔法で移動。
 何重にも仕掛けた欺瞞工作で隠蔽した極秘のルートで本局に侵入。
 無限書庫すぐ近くにある、男の部屋に侵入するのは実に容易だった。
 「白銀の外套」シルバーケープで監視カメラのデータをリアルタイムで書き換えつつ、同時に全周囲の人間の行動をシステムを利用して把握。
 誰にも気づかれず。
 幻惑の使いの二つ名の面目如実である。
 扉の電子ロック解除。まだ部屋の主は書庫の最深部で仕事中。
 念のため、一定の距離まで人が近づいたら脱出できるよう警戒システムを構築。

「貴方の愛おしいクアットロが、おっじゃましま〜す♪」

 いつものように、あの甘ったるい語りで入り、灯りをつけた瞬間………クアットロは凍りついた。
 極彩色……。
 緑色と黄緑色に無理矢理塗りたくられた壁と天上。
 たぶん塗料はすべて有機蛍光塗料だ。
 眉を顰め、チッと口を鳴らす少女。

 分析や考察でなく、直感で彼が完全に病んでいると少女は思った……。

 机、棚、クローゼットにベッド、清掃道具。
 部屋の調度品はそれぐらいだった。仕事道具はたぶん、すべて無限書庫だろう。
 クローゼットには管理局の制服、トレーニングウェア、クアットロが着る様に指名したスーツや服数点……。
 棚にあった、クアットロが来店する時はつけるよう指名した高級銘柄の香水の入った容器だけが唯一、まともに思えた。
 弾力のない、ただ横になるためのベッド。
 壁や枕横に、非常用ライトやランプ、照明装置が何個も取り付けられてある。
 男性のサガを調べるためベッドの下を捜すが、"ホコリ"さえもなかった。
 戦闘機人のセンサーでよく見たら、ベッドの鉄枠、机、イス、ドアノブ確認できる所はすべて指紋も消されていた。
 毎日掃除をしているんだろう。それも自分の全存在を消したいほど徹底した……。
 クアットロは自分を偽るが、この男は己を消そうとする。
 本当に何もないのだ。
 そういえば、話をするときはいつもクアットロが喋り、男は聴いていた。
 求められもしなかったので、クアットロは男のことなど知ろうとはしなかった。
 そういえば生まれはどこの次元世界でどういうところだったんだろう?
 学校での成績は? 職場での交友関係は? 
 そういえば一度、ドクターが招いての朝食会で家族のことを言っていたような気がした。
 あらためて異常な部屋を探し回る。どこかで見落としているかもしれないと思ったからだ。

「……無い」

 普通ならあるはずだ。写真とか、家族との思い出とか、何かが。
 それが全く見当たらない。
 部屋にある本は全部、無限書庫の一般書籍貸し出し物。
 机の上にあった数冊の本の題名を見て、さらに険しい顔つきになる戦闘機人の少女。
 おそらく、今のクアットロの表情は姉妹どころかドクターも見たことのないだろう。
 『正しい男女交際の仕方』『会話マナー』『人付き合い・仕事編』
 一冊手に取り、パラパラとめくった後、そのままバサリと落とす。
 クアットロは無表情で呟く。

「フン、……こんなの読んでるんだったら私をデートぐらい誘いな……」

 そう言った瞬間になって、昔「一緒に外にでも行かないか」と彼から言われたことがあったのを思い出した。
 苦笑する……。非常に暗い笑みだ。

「誘いを断ったのは私だったわね……」

 だからそれ以来、あの男はデートのことを口にしなかった。
 引き出しを開ける。
 無限書庫の事務仕事に関することだけビッシリ書きこまれたメモ帖。
 そして日記帳を見つけた。
 初めて書かれた日付は、クアットロと会った日……。
 内容を全て読んだ少女は、ギリッと歯を食いしばった。
 元の場所にもどし、なるべく痕跡を残さないようにする。
 クアットロは焦るように歩く。
 早くこの部屋から逃げ出したかった。


 本局からソープ・ナンバーズへ一気に帰った。

「あ、ドクター」
「ククク……。さすがにあの変人への対処でお困りのようだな。そんな可愛い我が娘へ面白いプレゼントだ。
 さっきドゥーエから送られてきた、あの男に関するデータだ」

 姉は姉なりに、戦闘機人の妹のことを好きだといっている奇怪な人間のことが気がかりになって調べたのだろう。
 データディスクと一緒にドゥーエの手紙があった。
 「全ての判断は貴方に任せる」という一言だけだった。
 ナンバーズ存続に関わるような緊急性が無いという意味とクアットロは受け取ったが……

「先に聴かせて貰ったよ。中身は音声データだったが、どんなのかは聴いてからのお楽しみだな。
 そうそう、聴くときはクレグレも他の妹たちに聞かれないようにしたまえ。でなければ……私と一緒に清聴したウーノが怖いからねェ〜」

 時間的にみて、クアットロと入れ違いで届いたのだろう。
 これもあの男に関する異常な点だったが、本局のデーターベースからは当人に関する情報が、かなり"省略"させられていたのだ。
 幼少の頃の事故の状況、その後の治療経過などが『省かれ』ていた。
 メンタル関連の医療機関の世話になっていたという事実は載っていたが、それも具体的にはどんな治療を受けたのかは個人情報として記入はない。
 当然といえば当然だが……巧妙に『何か』あったことが隠されていた。
 そのことは、男がソープに入店した時点で調査されてドクターに得られていた。
 
 【ソープ・ナンバーズ】は色を使った巧妙なスキャンダル作成システムであり、情報収集装置でもある。
 男がレジアスと交友関係があったことも把握している。上手く使えばさらなる脅迫材料になれる一品だ。
 そしてクアットロが知らなかったのは、ドクターが教えなかったから。
 理由?
 たぶん実害が無いのを確信した上で、この男が愛娘たちとどう付き合うか、見てて面白かったからだろう。

 クアットロはさっそく自室に戻り、鍵をかけてから音声情報の再生をする。
 空間モニター上に「特定災害対策救援部隊 通信記録 第85881‐534号72分16秒」という表示が出る。

「ふ〜ん。記録日からすると、あいつの家族がみんな天に召された日ねぇ〜」

 再生開始。
 バックにサイレンやら混線した無線通信やらで、やたら雑音が酷い。

『……発見!生存者発見!!……ああ!……なんてことだぁぁッッ!!』
『クソ、ありたけの毛布……いや、水と消毒液だ!なんでもいい!あの子の身体をすぐに洗い流すんだッ!!』
『坊や、大丈夫か?おじさんたちの言葉、聞こえるか!?すぐに此処から出すから、あともう少しだけ待ってくれ』
『マスコミ連中を下がらせろ!絶対にあの子を映させるな!!』
『ヴッ……!』
『馬鹿ヤロー!此処で吐くな、遺体に混ざっちまう!!』
『新人連中を下がらせて、ココを封鎖しろ』
『畜生、バケツだ!ボディバックじゃない!!バケツをもってくるんだ!急げ!』
『各員、バリアジャケットを臭気遮断モード。腐敗臭濃度が危険値に達してます』
『治癒魔法続行中。ですが少年の体温、脈拍、脳波さらに低下。衰弱が酷いです!早く施設へ』
『無理だ!その前に腐った血肉を全て洗い落とさないと!それと医療班に緊急連絡……"胃の内部洗浄"の準備をさせろ。大至急だ!!』

「……あ〜らら。ご家族の皆様は、かなりひど〜い御姿になっちゃったみたいね〜」

 まるで他人事のように言うクアットロ。
 ピアノの演奏のようにキーボードを操作して、別の音声記録を流す。
 記名「第5回 カウンセリング・ボイスデータ」
 さっきの喧騒とはうって違って、二人だけの声が流れる。

『過去の経験、厳しい思い出を夢で見るというのは、特に珍しいことではありません……』
『……いえ……それなのですが……あの時の夢を見ても、もう辛くなくなってしまったんです』
『それは……どういったことか教えてもらってよろしいかな?』
『……先生、本当のことを言いますと、あの日の夢や思い出は、最初から辛くも悲しくもないんです……。目の前で家族が押し潰されたその時は……とにかく覚えています。
 悲鳴とか、どんな風に潰れたか。でも唯一の灯りだった携帯の電池がなくなって真っ暗になったほうが怖かったんです。
 ほんとに……何か、どんな小さなのでもいいから灯りを点けてないと、怖くて眠れないです。夢を見るより、そっちのが怖いんです……』
『う〜ん……そうですねぇ……人は時に、精神的ショックが強すぎますと、ごく稀に記憶と、それに対する認識に差が出てきてその結果……恐怖の対象の転換が起きる場合があります。
 夢に関しましては、もう少しお薬を続けて様子を診ましょう』
『あの……先生』
『はい、なんでしょうか?』
『ジブンは救出される五日間の間、ナニを食べて生き延びたんでしょうか?』

「……………」

 暫く能面のような無表情で考えたクアットロだったが、戦闘機人としての冷酷な思考は、救助時のやりとりとカウンセラーへの最後の台詞で、状況をある程度理解した。
 自分の右手人差し指をギリっと噛む。
 その後「テへ」と舌を出しながら、右手でペシッとおでこを叩いて、いかにも子供の悪戯がバレチャッタようなしぐさをする。
 実に可愛げのある表情だ。いや、メガネ効果で本当にカワイイ。

「あちゃ〜…やっちゃったのねぇ〜♪ 救出されるまでに空腹に耐え切れず……しちゃったみたいね〜♪ 
 んでぇ〜……私のゲロをそのまま飲み込みやがった原因が、ソレかよッッ!!」

 可愛げのある言葉で独り言を言っていたが、最後に語気を荒げる。
 …………あーー!ますます胸糞悪くなる男よねぇ!!
 最初の出会いでやらされたことを思い出し、胸の上をさするクアットロ。
 病気!病気!病気!!
 こんな奴、店の出入り禁止にした方がいいんじゃないの!?
 にしてはクアットロ自身、夢の中でも男に対し、思いっきり甘えてるが、そんなのは我知らず。思いやりもへったっくれもない思考をする。
 だが、男の背景がわかったところで、疑問が出てくる。
 ならば、どうしてあそこまで自分に対して優しくなるのか?
 死んだ家族へ対する代償行為?
 過去の恐怖によるリビドーの活性化……は違うわね〜。
 最初は滅茶苦茶に犯してくれたけど、二回目以降はストイック過ぎるにもホドがあるわ……ぜったいどっかで抜いて〜。
 そう思うとクアットロはメガネをギラリと輝かせ、笑い出す。
 整った口を三日月形にして、非常に陰湿な笑い声をだす。

「あの男の部屋に、やたら携帯ライトや非常灯があった訳が理解できたわ………そして、壁中に蛍光塗料をぬりたくってあったのも……。
 私のゲロを食えたのも……みんな何もかも…………フンッ!だからどうしたのよ?
 チッ、これだから生身の人間は………」

 家族を喰った?
 ハッ、生きるか死ぬかの非常事態だから当然じゃない!
 あ〜でも、ドゥーエ姉さんだったらどうしただろうか?
 私はどうなんだろう?
 姉さんが死んでたら食べられるかな?
 はい、結論。
 そんなの、その状況になってみないとクアットロちゃんには、わっかりませ〜ん。
 ……たぶん食べて生き延びようとするだろう……戦闘機人としての植えつけられた使命感がそれを肯定するからだ。
 じゃあ、そんなのが無い普通に生まれて育った人間の子供にとって、それはどれほどの苦痛になったんだろうか?
 シルバーケーブも外さず、戦闘スーツのままベッドに腰を下ろす。
 クマの人形をギュッと抱きしめる。

 ……クアットロは男の部屋で読んだ日記の内容を思い返す。

 「彼女の重みを感じながら寝ると目覚めがとても良かった」

 「最近になって気づいた。クアットロと一緒に寝ると昔の夢を見ない」

 「彼女の声や仕草を思い返すと、いてもたってもいられなくなる。だけど本には女性を大切にするように書かれてあった。同感だ。とにかく大切にしたいと思う」

 「困った。彼女と一緒に寝なくても昔の夢を見なくなる日が発生した。時には死んでいない家族や、クアットロやみんなのことを夢で見る。今まで無いことだ。
 なんらかの心理的変調だろうか?明日久しぶりに病院に行く」

 「センセイからとにかく日記をつけるように言われたので、クアットロと会った日付から書く」

 「お店でクアットロを待ってる間に、トーレさんとノーヴェさんから素手での手合わせをして欲しいと言われたので付き合った。
 5〜6回投げ飛ばしたり関節を外してねじ伏せたけど、私は50〜60回ぐらい殴り倒された気がする。
 やっぱり戦闘機人は羨ましいて言ったら笑われた」
 
 「試しに書庫で使われていない倉庫に入って明かりを消してみた。気づいたら本局医務室にいた。司書長たちが助けたと言われた。
 オレの叫び声が聴こえたらしい。う〜ん、こうなったら大体部署替えさせられるんだよな〜。
 どっか辺境の自然保護隊とかに入れられても、とくにどうということはないが、クアットロに会えなくなるのだけは困る」
 
 「昨日、勢いでオーナーに土下座してクアットロを欲しいと言ったのが、いまだに恥ずかしい」
 
 「最近仕事中、クアットロや姉妹にボクの送ったプレゼントを気に入ってもらえただろうかと考える。そのため作業効率低下が認められる。
  しかしコレに対して不快感はない。何故だ?」
 
 クアットロは流す涙で、ぬいぐるみの頭を濡らす。
 声を出さず、ただ涙が溢れてくる。
 なんでこんなに哀しくなるのかわからない。
 どうして戦闘機人である自分がこんなに人間なのか理解できない。
 しばらくして、ウーノが様子を見に来た。
 長姉は何も言わず、四女の抱きとめてあげた。
 ようやく声を出せてクアットロは泣けた。
 泣きはらし、眼が真っ赤になったクアットロはシャックリをあげながら姉に頼んだ。

「姉さん……わ、たし、私、もうこんな仕事したくないです。アイツ以外に私の身体触られたくない……」
「そうね。ドクターには私からも言っておくわ……といっても私とドクターの間は通信がオープンだからもう聞かれてるけど」
「……ドクターとウーノ姉さんのことが、ほんのちょっとだけキライになりました……」
「それでいいのよ、クアットロ。あの人は私だけのモノのだから。だから、あなたも誰かを自分のモノにして構わない。
いっそのこと、その人の全部奪っちゃいなさい。良いことも悪いことも全部まとめて……」
「はい。……あの、それと……」
「ルーテシアちゃんと、そのお母さんのことね?」
「……はい」

 この日、戦闘機人の少女クアットロは、女の子になった。



 五日後。
 入店した直後、速攻で部屋に案内された。
 扉を開けた瞬間、目に入ったのは、生まれたままの姿をした愛する少女の姿だった。
 下着だけでない。
 偽りの伊達メガネと、特徴的なツインテールにしていたゴムバンドも外していた。
 梳かれた髪はセミロングよりもかなり長く背に垂れる。
 表情はメガネがなくなったぶん、どこか女の子の『可愛さ』より、より繊細な『美しさ』をかもし出す。
 男がはじめて見る、クアットロの真実の姿。
 ややクセの有る前髪がツインテールのときと数少ない共通点ぐらいに思えてしまった。
 それぐらいクアットロの印象が変わってしまったのだ。

「……く、クアットロ?」
「はぁ〜い、あなたの大好きなクアットロちゃんで〜す♪ システム、ライトカット!」

 男に向け、慈母のような優しい微笑を浮かべ、あの甘ったるいボイスで応じた美少女クアットロが、全ての明かりを消す。
 突然の暗黒となったVIPルーム。

「――――――――――――――ッッッッッッッ!!」

 あまりの突然の出来事に、男は無様に叫んで腰を抜かす。
 赤外線暗視装置の機能を持った戦闘機人の瞳は、出口を求めて蠢く情けないていたらくの男に再び微笑む。
 
「逃げちゃだめ……」

 クアットロは男のもとに寄り、戦闘機人のパワーでグイっと顔を掴んで自分に向けさせる。

「ゲエ!ゲエェッ!!」
ビチャビチャ……
「パニック起こして逃げようなんて……そんな"譲歩"私はぜったいに認めない……」

 男は咳き込みながらゴボゴボと嘔吐するが、クアットロはそんな彼を見つめながら冷ややかに言い放った。
 クアットロの嗅覚に嘔吐臭が入り込み、眉を顰める。
 そして、眉を顰めたまま、次に少女は微笑んだ……。
 
「私はあなたと違ってゲロを食すようなお下品なことなんてしないから、これで我慢してねぇ〜」

 そう言うといつの間にか用意していたアルコール度数の高い果実酒を口に含む。

「……ん」

 男の顔を両手で固定し、その唇に重ねて流し込ませる。
 ゲホゲホとむせ返るのを知り目に、嘔吐物で汚れた男の衣服を破り捨てる。
 これである程度臭くなくなった。

「どお?暗いでしょ?怖いでしょ?嫌で仕方ないでしょ?でも……わかるわよね?私の声。本当は聴こえるんでしょう?」
「ヒイィィーー!いいい!?」
「貴方に真実の欺瞞を見せてあげる……嘘を本当にしてあげる……だから、あなたはもう私のモノ……」

 クアットロは立ち上がり、静かに唱えた。

「IS……シルバーカーテン」

 淡い緑色の円陣が少女の足元に浮かび上がる。
男の視覚に、地獄のような暗黒に一輪の花を咲かせた。
 彼が、彼女だけを見た。
 これからやるのは自分を幸せにして、哀しませた報復。
 一分一秒でも戦闘機人という自分を忘れさせた報い。
 この男の"全て"を奪い取って略奪する。
 少女は勝ち誇ったような笑みを浮かべ、この壊れた男の人生に止めを刺す、最後の呪文を唱える。

「来て……」
「あああ!クアットロ!!クアットロオオォォ!!!」

 男はまず唇を奪った。
 少女まず唇を奪われた。
 胸を強引に揉みしだけられながら、首筋を吸い舐められる。
 男の目の、いつも少女のことを思いやる光が消えた。
 あるのは恐怖によって増長せられた獣性。
 死の間際に、種を残そうとするのは生物の本能。
 壊れかけた男が、壊されて雄になった。
 押し倒されても「フフ……」と少女は微笑んだ。
 クアットロという戦闘兵器と融合させるために生み出された少女は、いまや雄を受け入れる……魔性の雌。
 恐怖で最大規模に膨れた股間のが、ズリュと前戯もなしに突っ込まれ、そのままクアットロの最奥へ。
 すでに愛液は分泌されていたため潤滑液の量は充分だったが、それでも久しぶりの男の剛直は、クアットロに擦り切れるような痛みを与えた。
 「ヒッ」と呻く。
 少女の奥の子宮口に到達したとたん、男の先端からそのままの勢いで噴出した。

「うッ!」
「あ、熱……」

 まず一回目。
 余韻も感じさせず、衰えない勃起がクアットロの膣内を動き出す。

「クアットロ!クアットロ!クアットロ!クアットロ!!クアットロォーー!」
「ふぁあッ!?あ、あん!あ、あッ、あッ、あッ!ああア!?」

 グラインドの回数もそこそこの男根が、少女の膣奥で、また子宮口に密着して再び放つ。
 ……新しい命の源を、命が育まれる少女の"ゆりかご"の中に。
 またそれが潤滑油となって動きを滑らかにし……。

 ジュッ、ジュッ、ジュッ、ジュッ、ジュッ……
「グウッ」
 ビュグッ
「ッッ!?くぅんッッ………」

 再度奥に衝き立てられた。
 子宮口にめり込んだ鈴口から直接、中に注がれる感覚がクアットロを襲う。
 三回目……。

「はぁッ!はぁッ!ハァッ!!」
「はッ……あっ。あっ、あんっ、やぁッ」
 ブジュ、ブシュゥ!
「んン〜〜〜ッ!」

 四回目……もっと欲しいの……。
 手足を彼の背と腰に回し、密着させる。
 ギュウッッ!!
 確かに身体の深奥で感じる熱さで、クアットロの金色の瞳が潤い、溢れ涙が伝う。
 その涙を、男は無意識で舐めとった。しょっぱくて……今まで味わったもののなかで一番美味しいと感じさせた……。
 残酷な嗜好を持ち、人間や妹たちでさえも駒の様に考えてきた少女が、嬉しさで泣き続ける。
 溢れ続ける涙を舐めきろうとする男は、再びクアットロの口を塞ぐ。

「んン……ッ」

 舌と舌が絡み合う。
 ちゅ……チュル……クチュ……。
 少女と口づけのため、しばし男の腰の動きが止まる。
 はじめは激しかった舌の動きも、やがてゆっくりとしたものになり……動きを止めてのキス。
 しばしそのまま。
 そうした後、ゆっくり唇を離すと、名残惜しむかのように銀色の糸がかかる。
 そのままの距離で互いの瞳を見つめあう。
 耳まで赤くなったクアットロの顔は、潤みきり細まった眼との相乗効果で男の脳髄にたまらない愛おしさを生じさせた。
 互いの鼓動が再び高まりだすのがわかった。
 堰を切ったのはクアットロの方から……。
 「あッ」キュゥ……。
 膣が収縮して、男のモノを一気に締め上げ吸引。

「グゥッ!?フヴヴウウゥゥッッ!!!」
 ドヴュ!ドビュ!!
「ンああああアアーーーーッッ!!」

 熱さで……奥に出された実感で、五度目達する少女。
 もう耐え切れなかったようにクアットロは眼を閉じ、男の身体にしがみついて叫んだ。

「ちょうだい!お願い!頂戴!!あなたの赤ちゃん頂戴―――!!ッッッ! うああああああああ!!!」

 苦しみを訴えない声で泣き叫んだ。
 目的のためなら手段を選ばない女……冷酷なナンバーズNo.4。
 それが子宮口をクチュクチュと擦られる快感と、子宮内に精液が注ぎ込まれる快感で、これまでにないオーガズムに浸る。
 自分にギュッっとしがみつくクアットロに応えようとする男は、実質15年も稼動していない少女の身体を持ち上げ対面座位に持ち上げる。

「ッんんーーー!」

 クアットロは歯を食いしばり、全体重が子宮口にかかるのを感じて達する。
 ソープ・ナンバーズが始まる前、彼女が余分な成分としてセッテたち後期組みから切り取ろうとした『部分』が、逆襲するかのようにクアットロを容赦なく襲う。
 いつかのように、男の首筋に噛み付く。しかし今度は、力をたてずに優しく。
 少女がこの男を自分のモノにした確かな証として刷り込むように歯型を入れよとする。
 しばらくそのままクアットロの望むようにさせるために動きを停止していたが、彼もクアットロに対する愛おしさを刻みたくて運動を再開。

「アッ!だあ、め、だめッ!やだ!あ、あ、あ、アッ、アンッ、ヤんッ!ヤダッ、怖い!怖いよぉ!!」

 大きく動くことは無いが、座位の動きは確実に子宮口に刺激を与える。
 容赦無きポルチオ感覚攻め。
 その快楽が怖かった。
 とても気持ちが良いが、自分が飛んでしまいそうで怖かった。
 彼と離れ離れになるのがヤダった。
 クアットロに初めて襲い掛かろうとする、真のオーガズム。
  ………クチュ、クチュ、クチュ、クチュ、チュ、チュゥ

「クアットロ……わかるか?……今、オレのモノが君の中で、キスしてるんだ」

 そう言って上半身を屈めて、クアットロの口を塞ぐ。
 お互いに正面を向かい合った対面座位のおかげで、クアットロとの身長差が埋まったことでできたキス。
 下半身でも男の鈴口と少女の子宮口がキスを繰り返す。
 それを"認識"したとき。クアットロの思考を占めていた恐怖感が解けた……。

「あ……」

 クアットロは体内の異常を察知した。
 くすぐられ続けていた子宮口が熱い。そして胎内全体がムズがゆさが生じる。
 クパァ……

「う、嘘……。子宮口が開いちゃった!開いちゃったよォ!!あ、あたしの体が……貴方の精液、欲しがってる……ッ!」

 ポロポロが涙が溢れる。
 欲しい。この人の精子が欲しい。そして赤ちゃんが欲しい……。
 戦闘機人であるがゆえに、決してかなわない思いがクアットロの心に溢れ出る。

「あっ、はあっ!はあっ!もっと、もっと、キスしてぇ!私のお腹の中で、キスしてぇっ!!」
「クアットロ…ッ!そろそろイクぞッ!!」

 涙と涎がクアットロの顔をつたい、ビクッ、ビクッと身体を震わせながら限界が押し寄せる。
 背中に流される少女の美しい茶色の髪が、身体の震えを表現した。

「わ、私もぉ……っ、私もイク……ッ、イッちゃいますぅ……っ!!」
 ドクッ
「あっう……!!」
 ゴプッ ビュッ 
「あっあああああっ!!んやぁああアアーーーッッ!!」

 眉を八の字に歪め、涙を流しながら瞼をギュっと閉じたクアットロの表情は、それだけで気持ち良さを感じさせた。
 強張りながらも、一気に全身を弛緩した少女が男に身を預ける。
 ゴクゴクと少女の子宮が精液を飲み込む代わりに、別の液を排出する。
 しかしそんなのお構い無しに男は、クアットロの身体を包み、優しく、ひたすら優しく髪を撫でてやる。
 柔らかいカーペットの上を、精液以外の、男女のありとあらゆる体液でシミを作ってしまった。
 ある種の自傷行為とも取れる鍛錬で傷だらけになった男の手が、クアットロの頬を撫でる。
 そうすると、これまでもそうだったように少女は無意識にゴツゴツとした手に平に「フフ……」と微笑んで頬ずりしてしまった。
 同時にIS発動停止。
 明かりが一切無い部屋は完璧な暗黒に包まれるが、男は発作を起こさなかった。
 いま繋がったままでいる少女をただ、ただ大切にしたい。
 そう思っていたから本人もそのことに気づかなかった……。



 いったい何の因果であろうか……。
 壊れたがゆえに愛に対する純粋性を持ってしまった狂気の男は、戦闘機人を女の子に戻してしまったとは……。

「ククク……ッあは!あははは!!ハハッハハハハハハハ!まったく!なんという奴だ!なんという展開だ!!
 あのクアットロに、あのクアットロに、だッ!! 戦闘機人であることを忘れさせるとはッッ!!」

 暫く続く天才の狂笑。
 あはははははははははははははははは!!
 天上を仰ぎ見、ようやくおさまる。

「あ〜〜、ゴホン………このいわゆる『超展開』というやつだが、どう思う騎士ゼスト君?」

 空間モニターで、愛娘とその恋人の、本来なら絶対に踏みにじってはいけない営みを覗き見していた狂科学者ジェイル・スカリエッティ。
 それがティー・テーブル向かいに座る屈強の男に問うた。
 ゼストと呼ばれた男は発する怒りで、空間が歪む。眼前にいる者を眼で殺す勢いの殺気……。
 すでに右手には長槍デバイスを展開し、全カートリッジロード済み。刃からジリジリと煙が立ち上る。
 この距離なら、いかなる障壁があろうと一撃で切り殺せるだろう。
 仮にも父親として絶対に犯してはならないことを、こいつは犯した!!

 しかしそうはしなかった。
 自分の左腕の裾を掴む、細い指がそれを押しとどめる。
 姉のあらえもない性交を目視してしまったナンバーズ五女、チンク。
 成長が止まった幼い身を、怒りと悔しさで涙を流しながら頬を真っ赤にし、この狂えた父親が仕掛けた精神的虐待に必死に耐えた。
 それができたのも愛しくそして頼もしき恋人、ゼストがいたから……。
 もし一瞬でもタガが外れたら、ゼストとチンクは、向かいの白衣を着た者を躊躇なく抹消したであろう……。
 両断した後、爆殺。
 心繋いだ二人が共闘すれば、ナンバーズの残り全員が束になってかなわない。
 ただ耐える理由は、一応の生みの親。そして、最善と思える『現状』を維持しているのがこの男、ソープ・ナンバーズのオーナーなのだから。

「今でも覚えている。あれはまさに生き地獄だった」

 ゼストが怒りを鎮めるがごとく言った。

「家族をガレキの隙間から引きずり出して食したのだろう。その子は血塗れだった。そして時期は夏季。全ての遺体の腐敗が進んでいた……
 生き延びれたあの、狭い空間の"中"を見たものは一生忘れる者はあるまい。
 救助隊からの要請で、『女性隊員を絶対に連れて来るな』と言われた意味が良くわかった……私も耐え切れず嘔吐したからな。
 それからだろう。我が友が犯罪の掃滅を信念をしたのは。
 あの子が一生背負う心の傷に比べれば、我らが苦はどうということもない……。
 貴様の研究成果とやらが、結果としてその子供の心を癒したのには憤慨せざるをえないがな……」

 紅茶を一飲み。

「そうだな……まずは、傷が癒されし男と良き妻になる少女とを繋げた、数奇な運命に感謝をしよう。それとついでに、トーレ殿の配慮に感謝を」

 言い終わった直後だった。
 ドクターもといオーナーがビクっと身を震えて後ろを振り返ると、蔓延の笑みで迎えるウーノの御姿……。
 掲げる手には真っ赤な消火器。チンクが真っ青になって思い出す。
 ああ、あれこそ姉妹最強、必勝の構え!
 一瞬後、激しく吹っ飛ぶドクター。
 
「紅茶……、御代わりいたしましょうか?」

 消火器をフルスィングで振って、ドクターの身体を壁にめり込ませた長姉ウーノが微笑みながら言ったのを、ゼスト冷や汗をかきながら丁重に辞退。
 チンクはゼストにしがみ付いて震えていた。
 おそらく、ウーノが夫、スカリエッティの手綱をしっかり握っている限り、これ以上事態が悪化するのは防げよう。
 問題と罪は山積みだが、不幸になる者は出したくない。
 それになにより、あの若きカップルに祝福すべきだろう。



 
 無限書庫最高責任者、司書長ユーノ・スクライアが眼前の男に辞令をだした。

「……自分に、無限書庫・副司書長と地上本部資料室統括官をやれ、と?」
「そう。気に入らなかったら辞退してもいいよ?」

 ユーノはメガネをきらめかせて言った。

「正統な理由なら言うよ?君の才能は無限書庫に向いている。あきらめず延々と同じ作業を繰り返すのは君ぐらいだよ。
 そして君という人間をずっと見させてもらったけど、君は理由が無い限り、不満は言わずに従う人間だ。
 だから、これはボク個人の命令でもあるんだけど、これを機に人付き合いとかイロイロ改善して欲しいと思う。
 あとはね、卑怯な言いかただけど、君には地上本部とのコネがある。
 今後、無限書庫は本局、地上本部問わず活用させられなくちゃならない。
 『情報』に、魔法能力なんて関係ないからね」

 恋人ができて、さらにその姉妹の世話までする必要が出来た男にとって、給料アップは願っても無いことだったので承諾した。
 
 
  《END》


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目次:指名先は幻惑の使い手
著者:224  ◆Nw9Ad1NFAI

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