658 名前:真冬☆無情 [sage] 投稿日:2012/01/22(日) 01:08:20 ID:Rksm.KFU [2/3]

真冬☆無情


 雪が降った、寒い、冬である。

「さむい」

「うう、さむい」

「ああ、さむい」

 女三人はまるで示し合わせたかのように言葉を漏らす。
 白い息も混じっていた。
 冬である。

「さむい」

「さむい」

「さむい」

 痴呆のように連呼する女、それぞれに名を八神はやて、ヴィータ、シグナムという。
 場所は海鳴、八神家、一階居間、こたつ。
 二人ほど欠けているのには理由があった。
 シャマルは医務官という職業柄の不幸で風邪を移され、二階の自室で寝込んでいた。
 ザフィーラは獣の本能のままに公園で雪と戯れていた。
 狼は良かった、このような時節すら楽しめるのだから。
 医務官は不幸であった、誰も看病してくれず枕を濡らしていた。
 だがそれにも理由はある。
 海鳴市内において発生した停電の影響で暖房機器が沈黙、誰もこたつより出なくなったのだ。
 つまりは薄情であった。
 気温より人の情が応える。
 冬である。

「なあ、ちょっとええ?」

「なんだよはやて」

「なんですか主」

「そろそろ魔法瓶のお茶がなくなりそうや……」

「……」

「……」

 白い息だけ残して三人が沈黙した。
 みかんと共にこたつの上に鎮座する湯のみと、魔法瓶には熱い日本茶が入っている。
 現状で唯一身体を暖めてくれる恵みの露であった。
 これを失うのは地獄と同義だというのに、それが切れ掛かっているという。

「なあ、私って八神家の家長やん?」

「はやてきたない」

「下劣です主」

「……じゃあどうするん残りのお茶」

「あたしって一番小さいじゃん?」

「なあヴィータ、私は守護騎士の長だな?」

「シグナムさっき私に言ったのはどの口なん?」

 そして三者は沈黙した。
 醜い私欲のぶつかり合い、これが本当にかつて仲睦まじかった八神家だろうか。
 気温も心も冷めていた。
 冬である。

「とりあえずお茶は公平に三等分でどうやろう」

「……異議なし」

「……同意」

 そうして僅かな、本当に僅かな量のお茶を湯のみに入れて飲む三人。
 言うまでもないがその程度ではちっとも暖かくならない。
 出来る事はただこたつに深く身を沈め、うーさむい、と言いながらがたがた震える事だけである。
 女三人寄れば姦しいと言うが、その場にうるさいほどの会話などなかった。
 あるのはただ無言と白い息。

「なあ」

 ふと、その沈黙をはやてが破った。

「なに?」

「なんでしょう」

「ザフィーラの毛皮って剥いだらあったかいんかなぁ」

 言葉と共にシグナムのレヴァンティンが顕現した。
 ぎらりと光のはただの刃光と呼ぶには禍々しすぎる、狂気であった。

「三人分には少し足りないかもしれませんが」

「その前に逃げられるかもしんねえよ?」

「そっかぁ」

 残念そうにうなだれるはやて。
 結構本気であった。

「あ、代わりに提案あんだけどさ」

「なんやヴィータ」

「シグナムの力で火出せばあったかくなんね?」

「それ結構名案やな。シグナムやれそう?」

「少し出力に加減が必要でしょうが、おそらく」

「よし! 頼んだぞシグナム!」

「頼んだよシグナム!」

 ぼっ、とレヴァンティンに火が点る。
 一気に気温は暖かくなった。
 いや、なり過ぎたと言うべきか。


 その時生まれた火焔は、見事に八神家の一階を消し炭にしたのだった。


 はやてとヴィータは炎で髪がちりちりになって、高○木ブーの雷○様状態になった。
 二階で寝ていたシャマルは思わず窓から脱出して転げ落ち、雪の上にダイブ、さらに風邪を悪化させて泣きを見た。
 シグナムは放火未遂で留置所でくさい飯を食う事になった。
 後で家に帰ってきたザフィーラは開口一番「こうなるんじゃないかと思っていた」と零したらしい。
 悲劇であった。
 冬である。


終幕


著者:ザ・シガー ◆PyXaJaL4hQ

このページへのコメント

馬鹿ばっかwwwwww

0
Posted by 倭武 2015年01月09日(金) 01:48:13 返信

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